二代目プリウスで達成しようとしたもの
新型クラウンに付けられた「ハイブリッド・シナジー・ドライブ」バッジ
街を走っていても、新型クラウンを結構見かけるようになりました。前面グリルのデザインは好き嫌いがあるようですが、以前のおとなしい印象から強いインパクトを与えるチェンジを意識したことは伝わってくるように思います。このフロントデザインは別として、私は走りながらリアにも注目しています。リアはフロントほどの個性的なデザインをしているわけではありませんが、先月のブログで紹介したリアにある「ハイブリッド・シナジー・ドライブ」のバッジをどうしても目で追ってしまうのです。
レクサスのハイブリッドにはこのバッジがついていませんので、リアの車名バッジに『‘XXX’h』とハイブリッドのしるしである『h』がついているかどうかで見分ける必要があります。これはアメリカのレクサス販売が、「「ハイブリッド・シナジー・ドライブ」バッジを付けると、トヨタと同じハイブリッドだとのイメージがつくので嫌だ」と言って、われわれ開発側の提案を跳ね除けたからという裏話があります。とはいえその後、レクサスの販売店で「ハイブリッド・シナジー・ドライブ」バッジのついたクルマが欲しいと言われるお客様が結構おられると聞いて「さもありなん」とにんまりしたことを思い出します。
街を走る新型クラウンの多くにこの「ハイブリッド・シナジー・ドライブ」バッジがついており、前モデルに比べてハイブリッド車比率が格段に増加し、ハイブリッドが当たり前にクルマに成長してきたことを実感します。
号試白ナンバーでの一般道での試験・開発
3月の2代目プリウスから採用した「ハイブリッド・シナジー・ドライブ」バッジ採用の経緯でご紹介したように、二代目ハイブリッドプリウス開発の狙いは、グローバルコンパクトカーとして、我慢のエコカーから普通のファミリーカーへの進化でした。
新型車の発売に向けて、その本格的な生産開始を前に、クルマの最終組み立てを行うアセンブリーラインが完成後、その生産ラインを使って工程調整や作業員のトレーニングなど、クルマとしての最終的な不具合出しとその対策をおこなう量産トライを行います。トヨタ用語でこれを号口試作、略して号試と呼んでいます。殆どの場合。この号試時期に車両の最終認可が下り、この号試で作った車も新車届出をして正規の白ナンバーをつけ、一般道路を走り回ることができるようになります。
開発の最終段階のこの時期は、この白ナンバーが付けられた号試車を使い試作車の評価で見過ごしてしまった不具合や、最終量産部品であらたな不具合がないかの最終チェックに忙殺されます。開発担当、設計スタッフにとって、最後の忙しい時期がこの号試段階です。担当するシステムや部品に不具合があると、この改善作業を予め決められている量産開始日程までに間に合わせ、その対策確認作業を仮に徹夜をしてでもやり遂げることが求められます。
初代プリウスも、このハイブリッドシステムのビッグチェンジを行った二代目も、いろいろこの段階でのトラブルはありましたが、なんとか量産開始日程に間に合わせ、遅れなく新車発表イベント、販売店での新車販売イベント、新車デリバリーに漕ぎ着けることがでました。
なおこの号試前の開発段階では、前モデルや既販車を改造した試作車の改造申請をおこなった白ナンバー試作車か、試作車に仮ナンバーをつけてこっそりと夜中に走りにいく程度で、大っぴらに一般道を走り回るのは、この号試白ナンバー車からになります。私自身、初代も、二代目もこの号試白ナンバー車を借り出し、いろいろなところを走り回りました。
もちろん、様々な分野のクルマ評価のプロ達が、この段階でも日夜一般道、テストコースを走り回り、最終不具合チェックと、対策が必要な箇所を調べ回っていますので、評価のプロでもない私の出る幕は少ないのですが、開発リーダーとして手がけたクルマですので、評価のプロ達からの報告を自分でも確認したくなり出張の合間を見て、また週末になると時間がとれる限りはこうした白ナンバー車で走り回ること心がけ、またそれが楽しみでもありました。
二代目プリウスでは、新型車の発表を量産開始予定の2003年9月の半年近い前、4月のニューヨークモーターショーで行い、このタイミングで外形デザインも公表しましたので、通常のケースよりは早くこの正式モデルでの仮ナンバー運行試験を行っていましたが、白ナンバーでの運行はこの号試車からでした。
2代目プリウスでのTHS性能強化メニュー
以前も紹介したように、二代目プリウスはハイブリッドが次世代自動車のコアに成長させるためのホップ、ステップ、ジャンプのステップの飛躍をめざしたものでした。クルマの企画段階において、主なマーケットとして期待していたアメリカからの販売計画台数の提示は開発サイドとしてはがっくりするほど少なく、アメリカからも欧州からも我慢のエコカーでは勝負ができないとの声高の要求ばかりでした。スポーツカーを目指す訳ではありませんが、世界中の様々な走行環境を考慮に入れると初代のパワー不足は明か、グローバルカーとしてのステップジャンプを成功させるためにも、環境性能の進化と走行性能の進化は必要不可欠でした。
計画初期段階ではエンジン排気量アップも候補にあげましたが、これにはトランスミッション幅を大幅に縮める必要があり、3代目プリウスで採用したモーター回転数を高回転化するリダクション方式が不可欠で、これにはTHSトランスミッションも1からの新設になってしまいます。コスト低減も大きな開発課題であり、提示された企画台数では設備投資もかさみ、役員からも生産サイドからも賛同が得られませんでした。
この中で行える出来る限りの出力アップをしようとして、エンジン燃費を悪化させない範囲でギリギリ高回転化を行い、さらに発電機の許容最高回転数を高め、フルパワーが使える実走行の車速域をできるかぎり低速域まで拡げるとのやり方で進めたのが二代目プリウスのハイブリッド開発でした。
図に示すように、初代(2000年マイナーチェンジ後)では、時速100キロ以上でなければ使えなかったエンジンと電池出力の合算のシステム最高出力が使える車速を約時速80キロまで低めに設定し、さらにモーター制御やインバータの改良で低中速出力を大幅に高めることができました。
加速で電池アシストパワーを使ってしまうと、再び電池のアシストパワーを使うにはエンジン充電を行う必要があります。この電池充電はエンジン発電で行うので、アシストパワーを使った状態での高速登坂など走行パワーが大きな状態での電池充電ではエンジンパワーにも余裕が必要です。このギリギリのレベルアップをめざしたのが2代目プリウスのハイブリッド開発でした。
アメリカと日本では「エコと走りの両立」を達成したと自負
白ナンバー号試車が使えるようになって、一般道路で早速確認したかったのがこのパワーでの走りです。丁度、号試後半のクルマに白ナンバー登録をして、それを最初の広報宣伝イベントのジャーナリスト試乗会に使うことになりました。そのクルマの事前チェックとすり合わせ運転を開発スタッフ有志が引き受けることになり、私は既に開発スタッフとしては一番の年寄りでしたが、早速手をあげてその一台を引き受けました。
うろ覚えですが8月の最終週に土日の二日を費やし、初代、二代目プリウスの夜間試乗コースだった奥三河山間部を走り回り、さらに名神・北陸道、その年に運用を開始した舞鶴若狭道路、中国自動車道路、さらに1号線の鈴鹿越えなど、日当たり500km、二日で約1,000kmのドライブでした。図1に示す、システムフルパワーを目一杯使う走りをやってみて、この様々な走行条件での試乗で、日本、アメリカの速度域・走り方なら、なんとか我慢のエコカーから言われないレベルと確認することができました。
しかしこれでも、速度無制限アウトバーンでの高速登坂で非力さを感ずるレベルであることは図1のシステム出力からも明かでした。アウトバーン走行でも、時速200キロ以上の連続走行はポルシェ、BMWといえども普通ではありません。しかし、最低限時速150キロから180キロへの追い越しを安心してやれるレベルは必要です。三代目プリウスでエンジン排気量を1.8リッタとし、前述のモーターリダクションタイプのハイブリッドトランスミッションを新設し、グローバルな次世代ファミリーカーを実現してくれました。
もちろん、このアウトバーンも、走行車速が高い欧州のカントリー路でも安全、安心してコーナリングトレースができるシャシー、タイヤ、ステアリング性能がこの走りを支えてくれるレベルに到達していることは言うまでもありません。今年は、欧州での欧州チューニング、欧州工場生産のTHSハイブリッド車を走らせ、そのレベルを確認することを現在計画中です。
ちなみに、この二代目白ナンバー号試車のすり合わせ走行での燃費も23キロ/台を記録し、「ハイブリッド・シナジー・ドライブ」のキャッチフレーズ、「エコと走りの高度な両立」を確認することができたことも、記憶に残る想い出です。
ハイブリッド競争時代が始まった
このブログを書いている最中に、トヨタハイブリッド車の累計販売台数500万台達成のニュースが飛びこんできました。16年目での大台突破です。感慨深いものがありますが、これでも世界の自動車保有台数のまだ1%にも到達していません。石油燃料消費の削減、自動車からのCO2排出削減に貢献していくには、次ぎの1,000万台、2,000万台突破を早める必要があります。このためには、エコ性能はもちろん、環境性能、走行性能、クルマとしての魅力を高めていく努力をさらに積み重ねていくことが必要です。
そろそろハイブリッド=トヨタの独壇場に強力なライバルも登場してきそうです。強力なライバル達と競い合い、お客様にクルマの魅力としてサプライズ感じていただける、次ぎのTHS/THSII、「ハイブリッド・シナジー・ドライブ」の進化を期待しています。