アンチ・ディーゼル?

コーディア・ブログを再開し、トヨタとプリウスハイブリッド車累計800万台突破と4代目プリウス発表を取り上げ、17年前、18年前の初代プリウスハイブリッド開発の修羅場に想いを馳せていた矢先、VWスキャンダルが明るみにでました。

このVWスキャンダルは、後ほど述べる私の、将来も夢が持てるクルマをめざし、取り組んできたクリーンエンジンエンジニアとって悪夢、信じがたく、許し難い事件でした。そのため、筆の勢いが止まらず、もう自動車ムラの一員ではありませんが、個別問題で同業他社を非難、攻撃しないとの身についたルールを破ってしまいました。

この心境は今も変わりません。VWが、さらに将来のディーゼルがどうなっていくのか注目しているところです。

また、このブログ「クリーンならぬ、ダーティー・ディーゼル その1、その2」、さらに2013年8月に書いたブログ「クリーン・ディーゼルは本当にクリーン?」*1をお読みいただいた方々から多くの反響をいただきました。またTVにも引っ張りだされてしまいました。

*1:  https://cordia.jp/?m=201308 2013年8月15日

このためか、私がガソリンハイブリッドに凝り固まった頑迷なアンチ・ディーゼル派などと言われているとの噂も聞こえています。

しかし、私自身は決してアンチ・ディーゼル派ではありません。以前のブログ「クリーン・ディーゼルは本当にクリーン?」の時は、今回のような世界自動車をリードしてきた欧州トップメーカーが、こんな悪質な詐欺事件を起こすとは夢にも思っていませんでした。

そのブログでは

・ガソリンよりも環境対応が遅れたディーゼル

・クリーン・ディーゼルはまだクリーン化の過渡期

との表現で、欧州、日本でのディーゼルとガソリン排気規制のダブルスタンダードを取り上げ、それほどクリーンではないのに欧州勢のプロパガンダに載せられた”クリーン”・ディーゼルとの表現に噛みつきました。この意味でのアンチクリーン”ディーゼルですが、アンチ・ディーゼルではありません。中型以上のトラック、大型バス、さらには産業車両、船舶などガソリンに置き換えることは困難、また用途が限定された宅配車、都市バスなど一部を除き、電気自動車への転換もさらに困難です。本当のクリーン化が急務、実態とは異なり言葉の上でクリーンを標榜することの付けが回ることの注意を喚起してきたのがこのブログの真意です。この時もアンチ・ディーゼル?とのコメントを頂きました。

今回の事件がアメリカで発覚した理由として、アメリカがいち早くディーゼルとガソリンをほぼ同一規制値レベルとしたこと、保証期間も厳しい規制であることが背景にあると報道されています。私はさらにエミッション・燃費の公式試験モード外、いわゆるオフモードでのエミッション急増が問題とし、1990年代の始めに公式モード外の急増に歯止めをかけるSFTP(Supplemental Federal Test Procedure: 追加連邦試験法)の導入が要因の一つと推測しています。(図1)

この制定では、米国連邦環境保護庁(EPA)、加州大気資源委員会(CARB)の要請で、当時のBig、さらにGMからの要請でトヨタも米国内での走行実態調査に計測装置を搭載した試験車を提供し、データー解析にも協力しました。当時トヨタのクリーンエンジン開発リーダーだった私も、米国スタッフの要請で支援し、ルールメーキング議論にも加わっていました。エンジン出力が非力な小型車には厳しい試験法ですので、これを含めて欧州基準の簡素なディーゼル後処理システムでクリアさせるのが困難で、こうした不正に走ったのではと推測しています。

1025ブログ 図

一部には、米国は特別厳しすぎる、ロスの光化学スモッグは特殊な例と解説するジャーナリスト、メディアもありますが、今回の事件が起こる前から大都市の大気環境悪化が問題となってきたことは、これまでのブログで述べたとおりです。

”Defeat Device”の不正行為と、オフモードエミッション増加の話しは別ですが、この事件が切っ掛けで結局オフモードに目を背け続けるわけにはいかなくなりました。新試験法の採用、さらに車載分析系(PEMS)による実走行エミッションテストの義務づけ、加えてオフモード試験法の追加などが議論されています。

従来システムのままで、この新試験法、オフモード試験をクリアさせることは困難になり、追加コスト増も免れません。実質的な規制強化であることは間違いありません。しかし、各国、各社とも同じ土俵でフェアに技術競争にチャレンジすることにより克服できると思います。

40年以上のクリーン&グリーン(低燃費)ガソリン開発を振り返っても、マスキー当時の触媒貴金属量は規制値がマスキーのさらに1/10にまで厳しくなった現在のシステムのほうが少なくなっていると思います。また、全てのエンジンが4バルブ、気筒別燃料噴射、マイコン制御化されましたが、自動車メーカー、部品メーカーの設計から生産、部品、材料まで血の滲むような努力を続け驚くようなコスト削減を実現し、販売価格を上げずにスタンダードシステムに発展させることができています。フェアな競争による技術進化が自動車の発展を支えてきたと、その開発競争の先頭を走ってきた一人として自負しています。確かに、ディーゼルはその燃焼原理からも、そのクリーン化はガソリンよりもハードルは高く、当初はコスト増を招いたとしても知恵の結集により克服できると信じます。

今こそ、世界のディーゼル屋が、燃焼、後処理システム部品、材料、制御、燃料技術分野との連携と競争により、クリーンガソリン・ハイブリッドと方を並べる正真正銘クリーン・ディーゼルへのチャレンジが必要です。このチャレンジには、電気アシストの活用、すなわちハイブリッド化も有望な手段と思います。もちろん、これも低コストのハードルは低くはありませんが、これまたチャレンジを期待します。

もちろん当事者である、VWはその正真正銘のクリーン・ディーゼルへの技術チェレンジをリードする義務があります。新体制の今後の取り組みとして「脱ディーゼル、電気自動車シフト」とのニュースが聞こえてきます。「脱ディーゼル」はあり得ません。VWこそ、復活のためにもクリーン・ディーゼルの開発に手を抜くことは許されないと思います。

もちろん、ガソリンハイブリッドもフェアな競争として、この新クリーンディーゼルと欧州での走り、高速燃費でもさらに高いレベルで競いあって欲しいものです。