フランスでのプリウスPHV

欧州でのプリウスPHVの最初のユーザーはモナコ大公

日本、アメリカにつづき、ヨーロッパでのプリウスPHVの発売が開始されたようです。
7月1日付けのWeb Newsで、ヨーロッパでのプリウスPHV最初のデリバリーとしてモナコのアルベールⅡ世大公へ納車されたとの記事がでていました。
http://www.inautonews.com/prince-albert-ii-of-monaco-gets-first-toyota-prius-plug-in-hybrid

アルベールⅡ世大公は確か、以前からプリウスを愛用しておられ、2005年4月にモナコで開催されたプラグイン自動車のフォーラムEVS22に参加したときにも宮殿前の駐車場にプリウスが駐車しておりアルベール殿下のクルマかもしれないと案内の方からお聞きした記憶があります。

モナコはヨーロッパアルプス山脈が地中海に至る丁度西の外れ、猫の額のような海岸沿いの港を中心に拓かれた港町です。海岸沿いから離れるとすぐ急坂が続き、その海岸沿いから急な斜面に市街地が造られています。F1モナコグランプリではこの市街地の公道をコースとしていますので、せまい海岸沿いのルート、トンネル、坂を駆け登り、タイトなコーナーを下るスリリングなコースをテレビでご覧になったかたも多いのではと思います。

また、ラリーの世界でも、このモナコを起点とするモンテカルロラリーが有名でしたが、これも海岸沿いから一気に掛けのような急坂を駆け上がりフランスプロバンスの大地からアルプル山麓のアップダウンを競うラリーと記憶しています。

少し、本題から脱線しますが、トヨタに入社してトランスミッションやデファレンシャルギアの設計をやっていた駆動設計に配属され、クラッチの設計担当をしていました。その時にトヨタとして当時のマークIIで始めてモンテカルロラリーに参加し、残念ながらデファレンシャルギアのトラブルでリタイアしたことがありました。

何日か後に、そのリタイアしたクルマのデファレンシャルギアが設計部隊に送られてきて、それを見ましたが、あの堅い合金鋼を使い念入りに熱処理をしたデファレンシャルギアがギアの歯形が無残にもむしられペラペラになっている状態にその使い方の過酷さを思い知らされたものでした。

実証試験のキッカケもモナコから

モナコだけではなく、コートダジュール海岸の都市部では、観光都市として環境保全に以前からも力を入れ、電気自動車のカーシェアなどにも力を入れています。F1やモンテカルロラリーのようなクルマの使い方は別としても、海岸から離れるとすぐに急坂が待ち受け、市内でこそ日本以上に厳しい速度制限があり取り締まりも厳しいですが、一歩市街地を離れるとその狭い急坂を結構なスピードで飛ばすクルマの使い方を考えると、電気自動車よりもプラグインハイブリッドが適していると思っていましたので、このアルベール大公の愛車をスタートとして、モナコ、コートダジュール各都市でプリウスPHVがあの素晴らしい景色になじんだ普通のクルマとして使われる姿を夢見ています。

写真Ⅰ

2005年4月 展望台からモナコ市街

なお、2005年4月のモナコEVS22への参加が、プリウスPHVのフランスでの実証試験スタートの切掛けでもありました。プリウスに注目し、そのプラグインハイブリッドを開発するつもりがあれば、共同パートナーとしてやりたいとトヨタにオファーをしていたフランス電力公社(EDF)との2回目のMeetingが、このEVS開催中のモナコで行われました。

このときのEDF電気自動車事業部長が、昨年のブログでレジョンドヌール勲章受勲パーティへの参加を取り上げましたが、その当人です。このモナコでの出会いが実り、アライアンスを発表し、その具体的な実証プロジェクトとしてスタートさせたのが、フランス政府の資金サポートも得て共同でスタートさせているストラスブールでの大規模実証試験です。

フランス電力公社(EDF)からオファーがあったとういこと以外に、このフランスをPHV実証試験と普及への重点拠点として注目した理由が、欧州内の電力自由化の流れのなかで、世界最大の電力会社として電力ビジネスを世界に拡大しているEDFと充電インフラなど標準化を推進するパートナーに加えて、ダントツ世界一の低CO2電力を実現している点です。フランスでプリウスPHVの実証試験をすると、自動車文化の先進地ヨーロッパで、その実際ユーザーによるクルマの使い方の中で、アメリカや日本では2050年でも達成が厳しい低CO2電力を今使いながら石油燃料の削減とともにCO2削減効果の検証を行うことができることに注目しました。

当時EDFがトヨタに声を掛けてきたのは、彼らが古くから取り組んできたバッテリEVのカーシェア事業、リース事業、さらにその充電器事業の拡大と、それによる電力の拡販をめざしてきたものの、その事業拡大の見通しがたたず、それに替わる可能性としてハイブリッドプリウスのプラグイン化PHVに可能性を感じたとの理由でした。民営化を進めようとしているものの今も政府の支配下にある超巨大企業であり、フランスとしての輸入石油削減、低カーボン化推進政策ともリンクした動きのようでした。

この低CO2電力の中身は原発と水力、この二つで95%近い発電を行っており、調整用の火力発電は5%程度、もうこれ以上減らせないと言っていました。以前ご紹介した潮力発電だけではなく、最近では風力発電、南仏での太陽光発電にも力を入れ始めていますが発電変動の大きな太陽光や風力の拡大は痛し痒し、その拡大のためにも火力を増やす必要があるとのこと、将来はエネルギー貯蔵としての電池研究にも力を入れています。

自動車の走行エネルギーとして、PHVは石油燃料の替わりにその全てを電力に置き換えるバッテリ電気自動車とは違いますが、ハイブリッドとして石油燃料の消費を大幅に減らし、さらにその残りを部分的に電力に置換えるPHVならば、日常の通勤、ショッピング、家族の送迎のほとんどは充電電力のEV走行を行い、彼らのライフスタイルとして長いバケーションにも家族そろったロングドライブに使う経済的な低CO2車として有望であり、都市部では日本同様、駐車場確保が困難、よほどの大金持ちでもなければ家族での複数台保有は困難な駐車事情からもPHVに魅力を感じたようです。この彼らの提案も、トヨタのプラグイン開発を加速させた要因の一つとなりました。

EDF*トヨタ、将来自動車としての普及にむけての課題の検証と実用性の実証を行うことで合意し、スタートさせたのがストラスブールでの大規模実証試験です。その最初の時期携わった私としては、世界トップの低燃費ハイブリッド車をプラグイン化し、電力Mixがどうあれ、将来世界中が目指さなければいけない脱化石燃料、低CO2電力を自動車用エネルギーとして使い、さらにその充電電力利用でもともと少ない石油燃料消費をさらに減らす将来ポテンシャルを見極めるにはフランスこそ最適との思いを強めました。

ストラスブールの結果から見るPHVのCO2削減効果

ストラスブールで行われた実証プロジェクト二周年を記念する今回のユーザー・ミーティングで、トヨタはそのユーザーにお願いし搭載したGPSデータ付のデーターロガーで計測したプラグインプリウスの充電頻度、EV走行比率、燃費削減効果、CO2削減効果を発表しました。このユーザ・ミィーティングの様子は今月初めにブログで紹介しましたが、その時の数値データがあったのでCO2削減効果について紹介したいと思います。

図1
図1はその時に報告があった代表ユーザー車両のEV走行比率とガソリン消費削減率です。
データーロガーを搭載させてもらった23台から、一番EV走行比率が大きかったA車、丁度真ん中のB車、一番少なかったB車をピックアップして紹介したデータです。A車は先日のブログでも紹介した、会社の駐車場での充電とそのクルマを使用しているスタッフの自宅の両方で充電し、さらにこまめに日中も充電をしながら市内トリップに使っていたクルマです。これに対しC車は、使用スタッフのご自宅が屋外の駐車場で充電ケーブルを使うにも屋外を長いケーブルを伸ばしてコンセントに接続しなければいけない条件で雨の日には汚れたケーブルで衣服が汚れてしまうとの苦情を昨年も聞かされていたユーザーのようでした。このユーザーは、さらにガソリン代は会社持ち、充電しても経済的メリットがないケースだったようです。このC車はほとんどがノーマルハイブリッドの使い方、これでも燃費の良い普通のクルマとしてお使いいただけたようです。これはこれでプラグインハイブリッドの特徴であり、長所です。当然ながら、日当たり充電頻度が高いほどEV走行比率が上がり、ガソリン消費の削減量が増えるとの報告でしたが、これをどのように高めるかが今後の課題です。平均的なB車のケースでガソリン消費の削減率は50%を超え、ハイブリッドの効果、プラグイン化の効果の大きさが実証されています。

図2

図2はこのクルマのCO2削減効果です。薄いオレンジの部分がガソリン消費でのCO2排出割合、黄色が充電電力のCO2排出割合です。これもフランス、A車のようにEV走行比率が56%と充電を多用しても、この充電電力によるCO2排出分は僅か、同クラスのガソリン車と比較して57%ものCO2削減を記録しています。平均的なB車も49%と大きな削減結果でした。ほぼノーマルハイブリッドとして使ったC車ではCO2削減比率でこそ日本で走っても同じ削減率ですが、フランスでの年間走行距離は日本の1.5倍、同じ1台当たりでも年間ガソリン消費の総量も平均走行速度が高いことも加味すると2倍近くなり大きな削減効果が得られている筈です。この実証データからハイブリッドの普及、さらにプラグイン化を進めることにより、個人の“自由な移動手段”であったクルマの未来に明るさを感ずることができました。これからのエンジン、ハイブリッドでの効率向上、電気自動車用のバッテリとして従来車レベルの実走行で500km程度の航続距離実現は到底不可能でも、電池体積を増やさなくともPHV用ならEV航続距離を50%程度伸ばすことは不可能ではないでしょうか? さらに安い一般電力充電コンセントが増え、仕事場での駐車場、ショッピング駐車場、宿泊ホテルの駐車場など出先での充電も簡単に行えるようになると、EV走行比率をもっと高めることも可能です。

厳しい日本の電気事情

しかしながら、日本では、自動車のプラグイン化にはアゲンストの風が吹き荒れています。想定できた自然災害を想定しない人災であった3.11フクシマで、日本でのプラグイン自動車シナリオは大きく崩れてしまいました。日本だけではなく、世界のポスト石油時代、低CO2 社会移行の動きに与えた3.11の影響は甚大です。

東京電力域内にある我が家の電力使用量は、昨年4月末からプラグインプリウスの充電を行っていますが、3.11以後の節電活動で、2010年の使用量を下回っています。しかし、電力料金は燃料調整費、さらには太陽光発電負担分でまだ公式な電力料金値上げ前でも大幅に上昇しています。さらに2009年ではkWh当たり418gであった発電CO2が停止した原発の代替として休止中だった古い石炭、石油発電の再開させたこともあり大幅に増加し、プラグイン化により一般電力を充電に使ってもほとんどCO2削減効果がなくなってしまっています。

もちろん、過去に信じ込まされていた原発安全神話が崩壊した今、従来体制での安易な原発再開は産業界の強い要請といえども許されることではありませんが、将来エネルギー政策議論では原発の安全確保の議論を重ねた上で、クルマ、電機製品、精密機械など“もの作り”が支えて発展してきた日本の、そのもの作りに不可欠な電力がこれ以上に高騰し、安定供給ができなくなれば日本がこの先立ちゆかなくなることもしっかりと議論して戴きたいと思います。クルマではハイブリッドマーケットで世界をリードしていますが、充電電力を使うプラグイン自動車では電力料金、CO2削減ポテンシャルでは地の利が失われてきています。このプラグインハイブリッド普及では、これからもフランスでの実証、ユーザーの反響に注目していきたいと思います。いよいよフランスでノーマルハイブリッドのヤリスハイブリッドの生産が始まりました。これが欧州ハイブリッド普及の起爆剤となり、さらにその先としてプラグインへの続くことを期待しています。
                

フランス工場生産のヤリスハイブリッド