日本の将来エネルギーシナリオについて

エネルギーの国民的議論が始まりました

昨年の東日本大震災とそれに伴う福島原発事故を踏まえ、日本としてのエネルギー・環境政策を定めていこうとの政府方針に則ったエネルギー・環境の国民的議論がスタートしました。

当然ながら、次世代自動車の行方もこの将来エネルギーシナリオ大きく関係し、またグローバルな問題である将来エネルギー・と環境への日本としての対応は、日本社会の盛衰を左右する大きな問題としてその議論の方向に注目しています。

「話そう“エネルギーと環境のみらい” 国家戦略」と名付けられた政府Webサイトに、昨年6月、当時の管首相のもとで設立された「エネルギー・環境会議」の設立主旨、会議での議論、さらにその会議での議論と閣議決定を踏まえて7月から各地で開催されている『エネルギー・環境の選択肢に関する意見聴取会』の説明資料、その時の映像などがアプロードされています。

いくつかの地区での意見聴取会で物議を醸した中電社員の意見陳述でなどがメディアで取り上げられていますが、昨日(8月1日)福島県民の意見を聴く会が開催され、8月4日の香川、福岡での意見聴取会で一連のヒアリングが終了する予定とのことです。

その後、8月12日締め切りのパブリックコメント、無作為抽出をした全国3,000人へのアンケート調査とその回答者の中から200人~300人を参加者として選び開催されるフォーラムの意見集約などを行い、これらを集約したうえで8月中旬には政府「エネルギー・環境会議」原案を作成する日程のようです。

政府「エネルギー・環境会議」としての提示は、2030年①原発ゼロシナリオ、②15、③20-25シナリオの三つで、それを巡っての議論です。

原発前提だった自動車電動化シナリオ

以前のブログにも述べましたが、ポスト石油、低カーボンを目指す自動車の革新を漕いできた当事者として、自動車電動化とそのエネルギーの一部を電気に置換えるシナリオが短中期の最有力シナリオと信じてきました。

そこで使う電力は、もちろん脱石炭、低カーボン電力が前提です。自動車屋にとってプラグイン電動自動車電池の充電に使う電力、さらにはクルマの製造、販売サービスなどLCA(Life Cycle Assessment)通じて、原発比率はどうあれ、低カーボンで安価な電力が期待値です。

この点からも、3.11以前は原発拡大による日中よりもさらに低カーボンとなる、安い深夜電力を充電に使い、石油燃料消費を減らし、クルマを走らせるランニングコストを下げ、プラグイン化による販価アップを吸収させていくシナリオに期待をしていました。

わたし自身も3.11以前は、日本の原発安全神話にあまり疑いを抱かず、次世代自動車の講演会では、中国の運転中、計画中の原発地図を示し、日本の原発災害を心配するよりも中国の原発安全に日本としても貢献すべきと言っていました。日本の原発安全が砂上の楼閣、いくら想定外の大震災、大津波といえども(やはり想定すべきとの議論があり、その対応検討も進められていた?それを黙殺してしまった人災!)ここまで脆弱であったことに驚くばかり、それの載せられた自分自身の認識の甘さにも恥じ入ります。

このあたりは5月10日のブログ「日本の電力事情とプラグイン自動車」に、“将来エネルギーメニューから原発を全く外してしまっては日本の将来エネルギーシナリオは描けない”と述べたスタンスから今も変りはありません。しかし、今回「エネルギー・環境会議」から提示されて三つのシナリオと、それが纏められた議論のプロセス、さらに意見聴取会の運営、マネージには大きな違和感があります。

「エネルギー・環境会議」の全ての議論、資料、それを纏めた議事録に目を通したわけではありませんが、このシナリオ議論の大前提、は福島事故の徹底的な原因究明とそれを踏まえた安全対策、その安全担保の仕組みを作り上げることができるかに懸かっています。

それが示されないまま、原発依存度議論は不毛です。この福島原発事故から、科学技術不信論、科学技術者不信論が巻き起こっていることも、分野こそ違いますが、その一員として悔しく、残念です。科学技術の問題ではなく、それをどう使うかを判断するこれも人間の問題です。

原発事故は科学的に検証を

つい最近発行された、大前研一氏が彼をリーダとする少人数の民間チームで行ったこの事故原因の検証プロジェクト「原発再稼働 最後の条件 - 『福島第一』事故検証プロジェクト 最終報告書」 (2012年7月30日第1刷発行 小学館)を見つけ、一気に読み切ってしまいました。

3.11 14時46分以降の福島第一、その比較として福島第二、姉川、東海第二でなにがおこり、その中で福島第一だけが何故あそこまでの大災害に至ったのか、科学技術者の端くれとして疑問を抱き、知りたいと思っていたプロセスを写真やイラスト使い、また時系列の事象を整理し解り訳す解説した本です。

昨年の6月に当時の原発事故処理担当首相補佐官「細野剛志氏」に提案し、情報へのアクセスだけを政府としてサポートしてくれることを申し入れ実施した調査レポートを読みやすく纏めたものです。

民間事故調、政府事故調、国会事故調、さらにはメディア各社の取材記、様々な学者、研究者からの出版物が読み切れないほど発表、出版されています。これらのすべてに目を通したわけではありませんが、メディアが取り上げた東電首脳*管首相とのバトルなどはどうでもよく、現象として何が起こり、どう対処し、どうなったのかの疑問に答えてくれる内容のものはこれまでありませんでした。

この本は、この疑問、知りたいと思っていたところの大部分に回答を与えてくれ、胸落ちさせてくれました。この事故原因分析とそれを踏まえた、原発再稼働へむけた安全対策上の提案も纏めてあり、またこのところの国論を二分する議論だった大飯原発再稼働についても、福島第一事故を踏まえた安全対策強化内容について触れています。

このプロジェクトチームの分析によると、ここに至った最大の要因は冷却機能を喪失してしまった全電源の喪失、たまたま空冷緊急ディーゼル発電機が生き残った福島第一5・6号炉、さらに福島第二、女川、東海第二もわずか生き残った電源系があり、そしてそれを繋ぎこむ冷却ポンプ、弁を作動させる電源盤が生き残ったかどうかの違いとのまとめでした。

原子炉プラントの設計技術と政府としての安全審査技術、また緊急時のオペレーション技術とそのマネージまで事象中心とした分析を踏まえ、この報告書もプラントとしての安全対策が不十分であった人災と断じています。この報告書のNews Release記者会見、大前研一氏の解説は以下のYouTubeで見ることができます。

大前研一氏はこの政府が過去に行ってきた安全指針、安全チェックの大きな誤りがあった点として、原発立地、原子炉プラント設計、そのオペレーションとマネージメント上、何よりも最優先とすべき安全に、統計確立論を持ち込んだことと断じています。

これには、私も全く同感で、さらに経済原理まで安全指針にもちだしていた過去のやり方は全て改める必要があると思います。このような一度シビアアクシデントが起きた時に、その影響が甚大なケースは科学技術者の常識として統計確立論はその判断に持ち込めないことは自明の理と信じてきました。

自然現象としてあり得る事象で、その安全対策は科学技術的にも叡智を結集させて行うことが当然です。その安全指針、レベルが定まったら、同じ水準をどう安く実現させるかは、その後のプロジェクトマネージャーとエンジニアの知恵の発揮処です。もし、その対策の結果、どうしても経済的に成り立たなければそのプロジェクトは成立しないとの結論がアセスメント結果となるはずです。

「科学技術立国」らしい科学的な未来図を

もちろん、この報告書の結論と再発防止策を読んで、シナリオ15%、シナリオ20-25%のサポートをしているわけではありません。その先は、原発安全監査の新しい体制、指針、その上での科学技術論にのっとった本当の専門家ベースで、まずは今の原発で東日本大震災を踏まえた再発防止指針により、活断層の有無など、再発防止策とその効果度合いのチェックを行うことが先決、さらにそのプロセスを透明、公正に公表し、さらに徹底した議論を重ね国民の理解を深めることが必要ではないでしょうか?

その上で、日本の復興、再生には、産業界として国際競争のできるレベルのエネルギー価格で、エネルギーの安定供給が得られることが必要条件であり、それが大きく崩れると日本製造業の海外脱出をさらに加速させてしまう懸念が大きいことも事実ですが、これよりも先に国民の安全、安心であることは自明です。

今回提示された三つのシナリオに自動車としてプラグインハイブリッド、電気自動車比率ものっていました。

どのシナリオも2030年での電気自動車比率を大きく想定していましたが、これもエネルギーシナリオ、電力シナリオ、さらに国際エネルギー事情に大きく影響し、またマーケット原理、技術進化の大きく影響することは明かであり、今のままでは絵に描いた餅、これも政官先行ではなく、科学技術立国としての専門家の叡智を集め、その具体化の人材育成とセットのシナリオでもっと深い議論を進めて欲しいものです。

いずれにせよ、将来自動車の電動化に対しては、福島原発事故は強いアゲンスト、自動車エネルギーの選択肢を失い、これこそ日本だけのガラパゴス、じり貧の日本自動車にしてはいけないと思います。また原発の安全技術、放射線汚染物処理技術にも何らかの解を見いだしていくのもこの事故を起した日本のそして原子力研究者、技術者の責務です。その活動の場だけは決して消しさらないことを願います。