アメリカの燃費規制強化について 

先月に発表されたのは連邦によるCAFÉ規制

先月29日、アメリカのオバマ大統領は、ホワイトハウスで、2025年を最終目標年とする自動車の燃費規制改定について、この改定案に合意した自動車会社首脳、労働組合の代表者を集め、記者発表を行いました。
http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2011/07/29/remarks-president-fuel-efficiency-standards
(ホワイトハウスプレスリリース)

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(オバマ大統領会見映像)

1990年以来、乗用車ではCAFÉ(Corporate average fuel economy=メーカー別アメリカ販売車両の平均燃費値)27.5mpg(11.7km/L)に固定されていた規制値を2011年から2015年までに35.5mpg(15.1km/L)に向上させる改定が行われました。今回の発表は、その後の2016年から2025年までに、年率約5%ずつ強化し、2025年までに54.5mpg(23.2km/L)まで厳しくしようとの改定案です。2010年比では燃費値で約2倍、燃料消費としては半減という厳しいレベルです。前政権がやっと重い腰をあげ、2015 年までに35.5mpgまでの強化を決めましたが、グリーンニューディール政策を掲げるオバマ政権として打ち出した規制強化案です。

環境規制制定時には、担当官庁(この場合は連邦環境保護庁”EPA”と連邦運輸省道路交通安全局“NHTSA”)スタッフがルールメーキング案作成作業を進め、アセスメントStudyをU.S. Academy of Scienceなどに委託、Open hearingやそれを議論するWork shopを開催し、スタッフ案をつめていきます。その上で、今回のCAFÉ規制のように議会承認が必要な重要案件は、今回のように事前に自動車メーカーや労働組合との交渉を行い、調整を行った上で大統領提案として公表することになります。従来技術の延長では達成困難なレベルであり、ハイブリッドや車両の軽量化など、これを達成する燃費向上技術を採用することによる車両販価アップ、それによりクルマが売れなくない自動車関連雇用者の減少などが論点となり、今回の54.5mpgも,当初のスタッフ案の年率6%向上の2025年62 mpgから数週間前の発表56.2mpgに、さらにそこから小修正して決まった値です。

しかし、この規制はあくまでも乗用車の規制案、アメリカで大きなシェアを示す、フォードF150やトヨタ・タンドラのようなピックアップトラック、もとGMブランドとして売られていたハマーやキャデラック・エスエスカレード、トヨタ・セコイア、VW・トアレグなどスポーツ・ユーティリティ・ビークル(SUV)、さらにはホンダ・オデッセー、トヨタ・シエナなどミニバンは、この乗用車規制とは別の小型トラック(light duty truck:LDT)カテゴリーとされ、乗用車とは別のCAFÉ規制値として低い値となっています。

アメリカの燃費規制は、1973年の第4次中東戦争勃発後、OPEC諸国が先進国に対する石油禁輸発令による石油ショック(第1次石油ショック)が発生、石油供給のショートとその後の急激なガソリン価格高騰を招いたことから1978年に低燃費車へのシフトを狙いとして制定されました。当初は乗用車が対象でしたが、1979年からはLDT対象の2本立て規制となりました。当時のLDTとしては、農家などの小型作業トラックが主、個人用のSUVやミニバンは殆どなく、産業保護の面からも低い規制値のままとどめられ、乗用車が27.5mpgとなった1990年時点でも20.0mpg(8.5㎞/L)、以後すこしずつ強化されましたが1996年以降2004年まで20.7mpgの固定値にシールされていました。

CAFÉで使用する燃費値とEPAの燃費値は異なる

この2025年54.5mpgのCAFÉ規制強化の発表に対し、日本の一部の新聞では、現在のプリウスの連邦EPAの公表ラベル燃費(EPAが認証試験結果から公表し、販売店の展示車のフロントウインドウに表示が義務付けられているラベルに記載する燃費値)48mpg(20.4㎞/L)との対比で、プリウスでもクリアできない厳しい燃費規制と報道していますが、これは間違いです。同じEPAの認証試験結果から求めますが、燃費mpgの算定式がCAFÉとEPAラベル値では違い、CAFÉ規制54.2mpg(23.2km/L)はEPAラベル燃費では約41mpg
(約17.4km/L)程度となるようです。この41mpgは、23日に新車発表を行った新型カムリの、EPAラベル燃費34mpg(14.5km/L)から大幅に向上させたハイブリッドバーションの燃費と同等であり、ハイブリッド車の普及拡大を行えば達成できるレベルです。
http://pressroom.toyota.com/releases/2012+toyota+camry+global+reveal+remarks.htm
(トヨタアメリカ、カムリ燃費値)

CAFÉ燃費とEPAラベル燃費の違いについて説明しましたが、これも何度かこのブログでも述べているように、試験法、計算方法の違う燃費値を、たとえば日本の10-15モードやJC08 燃費、さらにはEC公式燃費/CO2値をそのまま比較し、優劣を述べている記事やレポートを見かけますが、これも違う試験法、計算方法では比較するのは間違いです。
http://www.autoobserver.com/2011/06/white-house-floats-562-mpg-cafe-plan-for-2025.html
(燃費値の違いを説明している海外の記事)

メスが入り始めたLDTの燃費

乗用車は、1978年からのCAFÉ規制により、燃費競争が激化、このなかでBig3が急激に販売シェアを落とし、日本勢がシェア拡大を果たしました。1980年代後半から、Big3勢がLDTのCAFÉ規制が緩いことに目をつけたのかどうかはわかりませんが、乗用車に替わる個人用自動車としてSUV、ミニバンを発売、さらに作業用トラックの用途であったピックアップトラックも価格が安いこと、大排気量エンジンの搭載で走行性能に優れていることなどから若者を中心に個人用として、地方だけではなく都市部でも販売が伸び、販売台数的にはLDTクラスが乗用車クラスと拮抗する台数にまで拡大していきました。

連邦政府も、乗用車ではCAFÉ規制によりBig3勢の競争力低下を目の当たりにみて、LDTクラスの規制強化を行わず、また乗用車用途に近いSUVやミニバンのLDTカテゴリー化を認め続けてきました。この中で、Big3が販売の軸足を乗用車からこのLDTクラスに移し、大排気量の古いV8 エンジンを搭載したピックアップトラックやSUVの拡大により、燃費の良い新型エンジンへの切り替え、車両軽量化などをやらなくても、大きな収益を上げることができていました。1990年代に入り、日本勢もこのLDT車種を拡大しこのLDT CAFÉ値が違う恩恵を受けてきています。しかし、2006年ごろからの原油の高騰とガソリン価格の上昇により、LDT車両の販売に陰りが見え、2008年秋のリーマンショックでさらに車両販売が激減、とくにこのLDT車両の販売激減がGM, Chrysler倒産の要因になったと言われています。その後の景気低迷によるガソリン価格の大幅低下が、LDT車両の販売を回復させ、GM、Chrysler再建のフォローの風になったことは、また皮肉な巡り合わせです。

今回のCAFÉ改定でも、この乗用車とLDTのCAFÉ規制値2本立てはそのまま、LDTのCAFÉ規制強化では、Big3へのダメージを少なくする意図もあってか、乗用車が2016年から年率5%の規制強化に対し、LDTでは3.5%の規制強化と、ここでも差がつけられています。アメリカの国土は広大で、道路も広く、LDTクラスの大排気量V8エンジン搭載のピックアップトラックやSUVが似合っていることは確かですが、1990年代にアメリカの石油輸入量が激増したのもこのLDTシフトが要因、さらにCO2排出量の増加にも繋がっています。しかし、2007年からの石油高騰がこの販売激減を引き起こしたように、ドル安、原油高でアメリカのガソリン価格は上昇気味、CAFÉ規制の前に、LDT車のダウンサイジング、軽量化、ハイブリッド化による燃費向上は避けて通れないように思います。

このクラスはトレイラー牽引やオフロード走行性能も求められ、フルトルクでの長時間運転が苦手なモーター、インバータを使いこなす必要があるハイブリッドの技術ハードルは高く、先日発表したトヨタ*フォードのこのLDTクラスのハイブリッドシステム共同開発の発表は、技術的にも見通しがついてきたのでは、その成果に期待しています。