EV/PH(E)Vと充電ステーション

以前にもPHVの説明の時に書きましたが、ハイブリッド車は電気自動車の開発の歴史から生まれ、それの弱点を補う目的で開発が進められてきたクルマです。
プリウスの開発当時も、ハイブリッド自動車は自動車エンジニアの間ではHybrid Electric Vehicle(HEV)、おおざっぱに訳すと混合型電気自動車となるのですがこう省略して呼ぶのが通例でした。しかし当時、ハイブリッド車に先行して世に紹介されていた電気自動車によって、電気自動車(EV)という言葉には値段が高く、車重が重く、航続距離が短く、かつ充電が面倒なクルマとのネガティブなイメージが強く残っており、我々はハイブリッド車の発売にあたり、これを払拭する狙いも込めて、この通例に反してわれわれが勝手にEを外し、HVと呼ぶようにした経緯があります。
同時に、ハイブリッドプリウスの広報用キャラクターとして手塚治虫さんのアトムを使う許諾をいただき、アトムとお茶の水博士のキャラクターで“このクルマは電気自動車のような充電は必要ありません”との広報宣伝も行いました。「21世紀に間に合いました」とのキャッチコピーとともに、このCMを記憶されている方も少なくないかと思います。
「環境性能は高くても使い勝手は従来のクルマと同じで、充電する(プラグインする)必要がありません」というアピールが、当時はハイブリッド普及の第1歩と考えたわけです。いま話題になっているプラグインハイブリッド車PHVも従来はPlug-in Hybrid Electric Vehicle (PHEV)と呼ばれていたのですが、トヨタではこのながれからEをはずしPHVと呼び、例えば経産省が行っているプロジェクトが“eV・PHVタウン構想”と名付けられたように、日本ではPHVが正式名称としても通用しているようです。

「プラグイン」するということ

さて、こんな書き出しをしたのは、今日取り上げるのがEV/PHVに不可欠の充電設備、つまりは「プラグインすること」の現状だからです。EV/PHVの普及を図るためには、このプラグイン操作による外部電力充電を安全に、簡単に、便利に行う、安価な充電設備が必要なことは既に次世代自動車に関わる人には常識になっています。
今年の8月、通産省からEV・PHVタウン構想のプロジェクト進行状況をまとめたベストプラクティス集という資料が発行されました。(資料全体はこちらでダウンロードすることができます。)
その中22ページの「充電インフラ整備の考え方」というページでは、その初頭から「○EVやPHVの充電については自宅(自社)で安価な夜間電力を活用することが基本となるため、プライベート用の充電インフラを整備することが重要。」としており、これは4月に発表された、同じ経産省のレポート“次世代自動車戦略2010”の「インフラ整備戦略」から変わることない結論が取り上げられています。
このどちらのレポートもどちらかというとEV普及を想定して纏められており、民間ベースとして急速充電設備、装置も必要との追記もされていますが、私としては、この最重要として取り上げている自宅(自社)用の100V/200Vの汎用コンセントベースの、現在よりもさらに安全で安価な設備を普及させることは勿論、その上でITネットワークと接続することによって使用充電電力量、ガソリン消費量、CO2排出量を記録し、電池の診断やクルマの故障診断情報メンテナンス情報をクルマや自宅のPCに配信するのなどの今以上の利便性を提供し、お客様がそのメリットをより享受できるよう知恵を絞っていくことが必要だと考えています。

ストラスブールプロジェクトでの充電設備

私が現在関わっている、約100台のプラグインプリウスを使ったフランス・ストラスブールでのプロジェクトの充電設備の設置も、この経産省のまとめにある「自宅(自社)で安価な夜間電力を活用することを基本」と同じ考え方で、市役所や会社での使用と個人のクルマの使い方を想定し、プラグインハイブリッド車1台あたりで3台の個人住宅での低電力充電ステーションの設置と、1台の勤務場所での低電力充電ステーションを設置し、これ全体で30ユーロ/月の使用料としています。
大規模実証試験と謳っているのに使用料を徴収していることに驚かれるかもしれませんが、このプロジェクトの目的はクルマだけではなくその周辺環境も含めて参加者にPHVをビジネスとして提供することにあります。そのような環境を用意することによって、実際に商用化した際の日常のお客様の使い方を見極め、その走行パターン、実際の電力使用量、これによるガソリン消費削減の効果、CO2排出量削減ポテンシャルなど様々なデータ収集と分析を行い、実用に向けたお客様の注文や要望をとりまとめ、普及への課題を明らかにして行くことができるのです。

写真1

写真2

写真3

さて、実際の使用風景ですが、写真1は、1台3カ所として設置した自宅用充電ステーション、写真2は自社駐車場に設置する充電ステーションです。この他に、実証試験用として、カードで電気料金の課金や使用状態の把握を行える、公共充電ステーション写真3を市役所や大学、公共駐車場などに、約18カ所設置して利用状況の検討を行っています。欧州ですので、供給電力は200Vですが、いずれの充電ステーションも低電力タイプであり、急速高出力充電ステーションは用意していません。

PHVと充電

EV/PHVの普及を図るためには、このプラグイン操作による外部電力充電を安全に、簡単に、便利に行う、安価な充電設備が必要です。“充電は必要ありません”から“充電するとお財布にも環境にも優しいクルマです”と言えるクルマにしていくためには、充電時の安全性確保は基本中の基本として、充電することによる経済的なメリットの拡大と、さらに充電設備と充電操作性の向上が不可欠です。この充電に関する諸条件は、私がPHVの推進が、PHVだけではなくEVも含めた次世代車の普及に欠かせないと思っている理由の一つとなります。
PHVの最大の特徴は、「ガソリンがある限りは、電池が充電されていなくとも普通のクルマと同じに走れます」ですが、経済メリットと環境メリットを拡大するためには、EVに比べると遙かに少ない容量の電池を使い、その充電電力をできるだけ走行に活用することがポイントです。さらに、個人用自動車としては、勤務先の駐車場にも低パワー用の充電ポイントがあると、勤務中の低パワー充電で帰宅時の走行にも外部電力を利用することができます。
最近ニュースでは、EV用の急速充電設備の話題が多くみうけられますが、PHVではいざという時にはエンジンで走りますから、電池切れの不安感解消のための、高価な急速充電ステーションの設置拡大は必要ありません。それよりも、ショッピングセンター、集合住宅の駐車場、そして勤務先の駐車場、さらには、ホテルなど、駐車中に簡単に充電できるステーションが広がっていくと、小さく、安価な電池を使っても外部電力エネルギーでの走行(EV走行)割合を増やしていくことができます。PHVであれば、今年の夏のような極暑の日の電力ピーク時には、充電カットされても普通に使うことができるのが特徴です。
“次世代自動車戦略2010”の中にあるとおり、いま優先させるべきは安価で安全なプライベート用の充電インフラを整備することです。私はハイブリッドが“充電が必要のない”電気を駆動に使用するクルマを世の中に紹介したように、PHVが“充電する”行為を世の中に紹介するのに貢献すると確信しています。

充電設備の課題

さてこのように充電ステーションについて述べてきましたが、私としては、今の充電インフラの状態では、100V/200Vであれ、広く個人のお客様に使っていただくには、価格、操作性、利便性ではまだまだ不十分なレベルです。欧米では、60%以上が路上駐車、固定の屋内駐車場を持っているのはほんのわずかです。
日本では路上駐車は許されていませんが、屋外駐車の台数は多く、またマンションなど集合住宅の充電ステーション設置など、EV/PHV普及にとっては課題が山積しています。また、公共充電ステーションでは、破損、電線などの盗難対策まで考えて置く必要があります。
今必要なのは、ムードに流されることなく、着実な普及拡大を図るとのスタンスから、お客様目線、実際のクルマの使い方をしっかり踏まえたクルマを開発していくことです。
かまびすしいEV普及議論の中で、日本だけではなく、欧州勢のなかでも今の高速充電よりもさらに高パワーな超高速充電の議論すら行われているとのことですが、これより先にもっと進んだプライベート充電インフラを開発していくことが重要と私は考えています。