アメリカでのトヨタ車の電子制御問題に関して
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2010081100052
「急加速事故、大半は運転ミス=電子系統の欠陥判明せず-米運輸省」…時事通信
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20100811-OYT1T00397.htm?from=y24h
「トヨタ車、ペダル以外欠陥見つからず…中間報告」…読売新聞
先日、アメリカ運輸省がトヨタ自動車のクルマの急加速問題に関して、「現時点ではトヨタ車の電子制御システムに問題は見当たらない」とする中間報告を発表したというニュースが報道各社、新聞各社から報じられました。
私もトヨタ自動車のOBとして、フロアマットにひっかかる問題や戻りの不良の問題を端緒として、今回の報告の主題となった電子制御システムの欠陥疑惑に発展したことも、これが走行・停止というクルマの基本中の基本である安全・安心に関わる信頼性品質であることから、忸怩たる思いで推移を見守ってきました。
エンジニアとして最優先すべきは安全
第1世代のマイクロコンピュータエンジン制御からハイブリッドシステム開発に到るまで、私はエンジニアの矜持として安全・安心に関わる信頼性品質の確保が、何よりも優先されるべきと考えて携わってきました。こうした電子制御の道筋を作ってきた立場の一人として、今回の急加速問題が電子制御の不良であってはいけないし、そうであるはずがないと思っていました。ですので、今回の報道は最終結果ではない中間報告とはいえ、少しだけ胸をなで下ろすことができました。
しかし、最終的に電子制御の問題ではないとなっても、私には今回の問題はカー・エンジニアにとって重要な課題を提示しているものだと考えています。それは、この中間報告で主要因として挙げられている「運転操作ミス」の問題です。
今回の報道はAT車のシェアが高く、ブレーキとアクセルの2ペダルで操作するクルマに慣れているはずのアメリカでさえ、ブレーキペダルと思ってアクセルペダルを踏み間違えてしまう「運転操作ミス」がかなり発生していることを示していると思います。日本でも、報道されることがないために見過ごされがちですが、この種の事故は後を絶たないのが現状です。
ハイブリッドを開発する際にも、このような新機構のクルマでは、少しの挙動の変化でドライバーの精神状態が揺らぎやすく、少しの「操作ミス」でパニックを起こしてしまう可能性があるという視点で、ドライバーとクルマの間のマン・マシン(人間操作系-機械作動系)インタフェース、表示系、警告音の設計を進めました。
また、今回の調査で重要なデータとして使用されたイベントドライブレコーダ(EDR)も、トヨタ車で最初に全車搭載したクルマはプリウスでした。これはハイブリッドシステムを市場に投入するにあたって、もし不具合が発生したとしても、しっかりとした原因究明と、迅速な品質向上へのフィードバックを行うことが、全く新しい機構を持つクルマを皆様に受け入れてもらうために必要だと考え採用を決めたものです。今回の問題ではEDRがトヨタの主張を裏付けるものとして取り上げられましたが、お客様の操作ミスの証拠データを集めるのが目的ではなく、上記のようにそもそもお客様にご迷惑をおかけしない為に採用したものでしたので、このEDRの活躍について、私は非常に複雑な心境をいだいています。
クルマの制御のこれから
これまでの報道などでは、急加速問題と電子システムの欠陥を関連づけて議論されてきました。私見ですが、急加速問題が電子制御システムの問題まで拡大したのは、電子制御という複雑で擬似的な仕組みに対するアレルギーがこれを呼び水に噴出したものにも思えます。しかし、電子制御が貢献してきたのはハイブリッドを代表とする排ガスや燃費だけではなく、スリップやスピンの防止という安全の部分に対するものも非常に大きなものです。
もちろん電子システムの信頼性確保は最優先なのは間違いないことですが、「操作ミス」の存在などを含めてより安全なクルマを作るためには、私は電子システムをさらに追求していくことが大切だと考えています。何にも代えがたい安全のためには、人の勘違いや認識間違いなどすらもカバーし、操作リカバーや危険回避を行うような自動車側のアシストを、それこそ2ペダルなどの従来の常識すらも再考をするほど徹底的に追求していく必要があるのではないかとも私には思えてなりません。