ダウンサイジング? ハイブリッド? 低燃費技術の特性について
コンシュマー・レポート誌の自動車評価
消費者視点での厳しい製品・サービス評価で有名な米国“コンシュマー・レポート”誌(CR誌)は、自動車についても独自の方法により乗り心地、性能、燃費などの性能指標から、安全性・信頼性・リセールバリューなどの評価を行い、そのランキング結果を発表しています。また、評価を行う車両も独自で販売店から購入しており、メーカーのサポートを一切受けない独自路線を貫いるのも特徴です。
このランキングは米国内での新車・中古車の販売に大きな影響を及ぼし、メーカーのエンジニアもこのコンシュマー・レポートの発表はいつも気にしており、自分の担当で悪い点数が付けられ、その指摘が心当たりのある部分だったりすると、次のリベンジに向かって改良作業を進めるバネとするものです。
毎年4月に発表する自動車の総合ランキングとは別に、発売された注目車についてはすぐに購入して、その注目ポイントを評価し購入を考えているユーザーにタイムリーな情報提供を行っています。
自動車のエコ性能・燃費性能に注目が集まるにつれ、CR誌では、新しく発売されるエコカーを独自に定めた燃費試験条件と実走行燃費パターンを使い、その結果と認証試験燃費(米国の場合は連邦環境保護局[EPA]ラベル燃費)との比較、さらにカタログの加速性能と実測の比較などを公表しています。
小排気量ターボ過給エンジンの燃費向上に疑問符?
そのCR誌ですが先日、従来エンジン車(通称コンベ車)の低燃費の定番で、従来よりも排気量の小さいエンジンにターボ・チャージャーやスーパー・チャージャーといった空気を圧縮して押し込む過給機をつけてエンジンに吸入させパワーアップを図り、排気量ダウンをカバーする小排気量過給エンジン、通称ダウンサイジング・エンジン車による燃費向上に疑問をなげかけたレポートを発表しました。
記事のタイトルは“Consumer Reports finds small turbo engines don’t deliver on fuel economy claims”、CR誌は小排気量ターボ過給エンジンが燃費向上をもたらさないことを見つけたとのタイトルです。今日のブログは、この低燃費の定番メニューダウンサイジングを取り上げてみます。
http://news.consumerreports.org/cars/2013/02/consumer-reports-finds-small-turbo-engines-dont-deliver-on-fuel-economy-claims.html
CR誌の取り上げるエコカーでは、どういうわけかこのところFord車が多く、昨年はFordの新型フルハイブリッド車Fusion Hybridを取り上げ、EPAラベル燃費とのギャップを指摘していました。今回のターゲットはこのFusionシリーズの3.5リッターV6エンジンの走りと2.0リッター4気筒エンジンの燃費の両立をうたう過給ダウンサイジング・バージョンです。
カタログに記載される公式燃費とユーザーの実走行燃費とのギャップ問題は、低燃費が車両としての重要な訴求ポイントとなるにつれて、各国、各地域でもたびたび話題になっています。しかし、ご存じのように燃費は気温、湿度、日射など大気環境条件、アップダウンの多い山間部、渋滞の多い大都市部、高速道路の使用頻度、加減速度の大きさと平均車速(走り屋度?)、エンジン起動からのキーオフまでの走行距離(トリップ距離)など走り方によっても大きくかわり、カタログ燃費は、各国、各地域がその排気のクリーン度と燃費を同時に公平に評価するために定めて物差しで、ユーザーの実走行燃費の代表値を算出する意図はありません。
しかし、アメリカだけは、排気、燃費の認証官庁、連邦環境保護局(EPA)が以前にユーザーに実走行では公表燃費が全く出せないとユーザー団体が訴訟を起こし、その訴訟を受けてEPAが公表燃費算出法をユーザー燃費の代表値に近づけるように修正し、それを時代に合わせて何度も見直し改訂を行っていますので、比較的ギャップは小さくなったとされていました。今回CR誌がとりあげたのも、CR誌自身が定めた実走行テスト結果とこのEPA公表燃費との比較で、Ford車のギャップが大きかったことからの問題提起です。
昨年に、ヒュンダイ車のEPA申請燃費値詐称問題があり、EPAの公式燃費算定法どおりヒュンダイ車の燃費試験を行っても再現できず、ギャップが大きいとEPAに問題提起をしたのがFordと噂されていますので、Fordがよもやヒュンダイと同じ燃費詐称を行っているとは思えませんが、CR誌はこの噂もあり、Fusionの燃費に注目しているのかもしれません。
小排気量ターボ過給エンジンの特性とは
ここでは、不正な燃費詐称は技術的な議論の埒外として、低燃費のアプローチとしての小排気量過給ダウンサイジングについて取り上げてみたいと思います。表1にCR誌にとりあげたEPA公式燃費とCR誌の独自試験燃費の比較を示します。
公表燃費26マイル/ガロン(11.05キロ/リッター)に対し、CS実走行試験で22マイル/ガロン(9.35キロ/リッター)と4マイル/ガロンのギャップがあったとの指摘です。ちなみに、3.5LV6エンジン搭載のホンダ・アコードやトヨタ・カムリがEPA公表燃費25マイル/ガロン(10.63キロ/リッター)に対してCR試験結果26マイル/ガロン(11.05キロ/リッター)とCR試験結果のほうが良い燃費を示したのと比較しての論評となっています。
小排気量過給ダウンサイジング、エコラン、ハイブリッド化、CVTミッション、多段トランスミッション、可変動弁系、直噴などさまざまな低燃費技術がありますが、それぞれに特徴があり、評価する燃費走行モードによってその燃費効果が大きいか、小さいかの相性があることは事実です。
簡単な例ですが、エコランやハイブリッドのエンジン停止EV走行は、都市中心部の走行のように、信号停止、発進が頻繁にある、日本10-15モード、JC08モード、欧州モード、米国シティーモードで燃費改善効果が大きくでる手段です。
ダウンサイジングも、10-15モード、JC08、欧州モード、米国シティ-モードのように、比較的平均走行車速が低く、加速度も小さいおとなしい走行パターンで燃費向上を図る技術です。山間部での登降坂頻度の大きい走行、平均車速が高く、さらに加減速度の大きな走り屋に近いはしりでは、このダウンサイジングメリットが少なくなる可能性があり、CR誌の試験ではこのようなEPA公式燃費よりももっと走行パワーの大きな走り屋の走りをされた可能性が高いのではと想像しています。
実はハイブリッドの燃費改善にもこのダウンサイジングの考えは入っています。小排気量過給の変わりがアトキンソンサイクルエンジンと電池パワーブースト、パワーが必要なときは過給ではなく電池パワーアシストを行う考えです。
この小排気量過給ダウンサイジングや、アトキンソンサイクルエンジンと電池パワーアシストとCVTや7速、8速、9速といった多段変速機との組み合わせで、エンジン熱効率の高い運転域の使用頻度を増やし燃費改善を目指す狙いです。しかし、走行車速が高くなり、加減速度が高いアグレッシブな運転、山道の登坂など高い走行パワーが必要な運転頻度が多くなると、熱効率の悪い運転頻度が高くなり、ダウンサイジングではない通常エンジン車よりも燃費悪化を招いてしまうケースもあります。
カタログ数字ではなくリアルワールドでの性能向上を
オールマイティーの低燃費技術はありませんが、車両軽量化、空力改善、低燃費タイヤなどとの合わせ技で低燃費を競っているのが今のエコカーです。
もちろん、この公式燃費で燃費規制への適合度が判定され、税額、罰金などが決められる基準ですのでメーカーに取っても極めて重要なファクターですが、その燃費規制、環境規制の目的はあくまでもリアルワールドでの環境保全、資源保護、エネルギーセキュリティですから、ユーザーのリアルワールド燃費改善が最重要との視点は忘れてはなりません。
ダウンサイジング化だけではありませんが、最近の各社の低燃費アプローチは、ややもすると、カタログ燃費の改善に偏っているように感じてなりません。
カタログ燃費比較だけではなく、どのような燃費技術で、そのような部分の燃費改善をめざしているかなどにも注目する必要があります。また、さまざまな低燃費技術の組み合わせで排気のクリーン度が、これもクリーン度が評価される公式試験以外のパターンでどうなるかにも、これはユーザーには判りませんが自動車メーカーや環境当局はその悪化がないようにしっかり見極める必要があります。小排気量過給ダウンサイジング、さらにノック悪化を防ぐ直噴、今話題のPM2.5のレベルも気になるところです。
いずれにしても、われわれが目指すべきはリアルワールド(実走行)の低燃費、クリーン度が基本、さらに胸のすく走行性能、スムースなドラビリ、低騒音、さらに安心、安全に走れるクルマです。