パリモーターショー雑感

ウィーンのOPEC本部に行っていました

今週は、欧州出張で久しぶりのオーストリア・ウィーンでウィーンに本部がある世界の石油エネルギー供給に影響力を持つある組織の人たちと将来自動車エネルギー関係の意見交換会に参加、それを終えてパリに戻ってきたところです。

このように書けば、ピント来る人はピントくるとおもいますが、中東諸国や北アフリカ諸国、インドネシア、ベネズエラといった石油産出&輸出国が作った団体、石油輸出国機構(通称OPEC)の本部がおかれているのがオーストリア・ウィーンで、そのOPEC事務局の人たちとの意見交換会です。

このOPEC本部訪問は私にとって2回目で、前回は6年くらい前、OPEC本部の将来自動車エネルギー勉強会に講師とて呼ばれ、ハイブリッド技術を紹介、自動車エネルギーの将来議論に参加しました。その時には、OPECの人たちも中国やインドなどBRICS諸国の急激なモータリゼーション進展と既存オイルの生産低下で将来供給に不安を感じていたときで、石油需要の抑制に注目していた印象です。何人かのメンバーはそのときにお会いしたメンバーでしたが、6年前とは少し様子がかわり、シェールオイルからの新しい石油系資源の開発が進み、当分は安定供給が可能と言っていたことが印象的でした。

しかし、自国の経済成長維持、将来へ備えた産業構造変革への取り組みなど、OPEC主要国のオイルマネー依存度は高まっており原油価格のある程度の上昇は避けられないかもしれません。欧州のガソリン価格もユーロ安もあり、昨年、一昨年に比べさらに上昇、オーストリアではレギュラーガソリン価格が1リッター1.6ユーロぐらい、円換算では円高、ユーロ安もあって160円程度とあまり日本とかわりがない感じはしますが、以前は円/ユーロが130円〜160円と考えると、こちらのイメージではリッター200円越えくらいに上昇した感覚のようです。

盛況を見せるパリ・ショー

ウィーンからパリに戻り、この経済危機の真っただ中で開催されているパリ・自動車ショーを見学してきました。現在の欧州は、ギリシャに端を発した南欧諸国の財政危機がユーロ危機を招き、経済的にも危機的な状況にあり、自動車の売れ行きも急激に落ち込み、VWなど一部のドイツ勢をのぞき、工場閉鎖、人員整理と自動車産業も暗い話ばかりですが、どちらも平日の一般公開日での見学でしたが、2年前に比べても結構盛況でした。

午後には、フェラーリ、ポルシェといった今も若者の人気が高いスポーツ車メーカーの出品館では、通路が人で埋まるほどの混雑状況でした。広い会場で、東京モーターショーと比較しても、出品メーカーの数、出品車などはるかに大規模で、主要なメーカーブースを回るだけでも丸一日でも不十分なくらい、一度ざっと回り興味のあったクルマのコーナーをもう一度みるだけでたっぷり一日歩きまわり疲れ果ててしまいました。

さて今回のパリ・ショーですが、将来自動車の行方を占う意味でも、結構話題のクルマが多かった印象です。その中の最大のものは、欧州での最量販車であるVWの ゴルフのフル・モデルチェンジで、パリ市内にもDas AUTO(これが車だ!)という挑発的なキャッチコピーのポスターが至る所にはられていました。

ベンツとしてはエントリークラスであるAタイプのモデルチェンジが話題、ルノーはこれも小型車の中核クリオのモデルチェンジ、欧州事業の回復遅れに欧州危機の追ううちをかけられ苦しんでいるGMオペルからは小型エントリークラスのアダムが話題です。

各社の展示の短感

写真1 7代目ゴルフ

写真1 7代目ゴルフ

VWの7代目ゴルフは全長、前幅が少し大きくなりましたが、外形デザインの印象は旧モデルとほとんど変わらず、そこで100キロもの軽量化を実現し、ガソリン・ディーゼルにかかわらず前モデルに4気筒直噴ターボ過給エンジンを搭載、1.4リッターTSIエンジンでは気筒停止機構を採用、2気筒停止やアイドルエンジン停止、ベルト駆動オルタネーターによる減速エネルギー回生を採用、車両軽量化と会わせて欧州燃費モードでリッター20.4kmとハイブリッド車に迫る燃費を達成しています。

VWの主力車として欧州CO2規制対応の戦略車の位置づけのフル・モデルチェンジ車ですが、写真にあるように、クルマとしての人気度、注目度はいまいち、午前中の比較的空いた時間帯とはいえ、このようにゆっくりと写真をとり、クルマに乗り込んでみられる状況でした。

写真2 ベンツ新Aクラス

写真2 ベンツ新Aクラス


これまでのベンツのAクラスは、 ベンツ唯一のFF車で乗員スペースを確保してコンパクトサイズにおさめるためずんぐりむっくりのデザインでしたが、これがまた大きく変身、中年以上のユーザのクルマから小金持の若者にターゲットを切り替えた小型エントリー車に生まれ変わりました。

これがどう転ぶのか、Cクラスとの棲み分け、またこのラインアップで将来の燃費規制にどう対応していくのか興味がますところです。

ベンツブースには「SLS AMG 」Electric Driveのエンブレムがついた4輪独立モータードライブの青いスーパースポーツ電気自動車が展示してあり、2013年発売、価格は4,000万以上ではとの噂がながれていました。

ベンツはまさかこのような電気自動車の販売でCO2規制乗り切りを考えている?と思いたくなるようなラインアップで、オーソドックスなダウンサイジング、過給以外にはこれと言った低燃費エンジンは目につきませんでした。

ルノーブースでは半分がTwizy、ZOE、Fluence、KangooEV といった電気自動車群の展示で占められており、隣の日産ブースでは電気自動車は2台のLEAFとTwizy派生の小型コミュータEV のみ、小型SUVジューク、若者が群がるスカイラインGT が売りだったようで、ルノーの本拠地のモーターショーとはいえ、日産開発の電気自動車技術の集大成としてルノー電気自動車群となっている印象で、ちょっと日本人として複雑な心境になりました。

写真3 ルノーブースのTwiZyなど電気自動車群の展示

写真3 ルノーブースのTwiZyなど電気自動車群の展示

ルノーブースのもう一つの目玉はクリオのモデルチェンジで、真っ赤な車体に統一したクルマを円形の丘に見立てた斜面に所狭しと並べていたのが印象的でした。スタイリィッシュなハッチバック車、しかし各社ともほとんど同じぐらいのサイズ、このようなエントリーモデルではデザインも似てくるのはしょうがない印象で、そのため車体の色とブースの照明で差別化をはかったとの印象でした。

写真4 ルノー・クリオ

写真4 ルノー・クリオ

このクラスの販売量を増やしていかないと、CO2規制対応が苦しくなり、各社ともこのクラスに力を注ごうとしている印象です。Opel AdamもこのクリオやVW Upと同じカテゴリー、大激戦区の印象です。それでも本年EU委員会で決まった2020年の95g_CO2/km(燃費24.4km/リッター)の達成は、このクラスのクルマといえども不十分、各社のラインアップをみてもどのように対応していくのさっぱり見えないモーターショーの印象でした。

欧州は環境のトレンドが一段落したのか?

今の景気悪化も影響しているのかもしれませんが、2年前はまだしも環境性能が全面に出ていましたが、今回はそれがあまり目立たなくなりデザイン、走りにふってた展示が多かったように感じます。

その中では、GMコーナーでカマロやコルベットをならべ、古いV8サウンドを聞かせ、結構観客をあつめていました。景気もわるい、エコばかりも鼻につき、飽きてきたのかも知れませんん。

写真5 GMブース カマロのV8サウンド視聴コーナー

写真5 GMブース カマロのV8サウンド視聴コーナー

今回の出張でも何人かのこちらの自動車関係者とも話をしましたが、若者のクルマ離れはさらに進行中で、EVカーシェアのAutolibだけではなく、時々クルマを使うカーシェア族も増加しているようですが、パリのような大都会でクルマを持とうとすると結構な出費となり、また駐車場さがしも大変、固定契約駐車場は高額とても持ちきれない状況、日本の大都市圏も同じ状況に思います。

大都会の脱自動車の方向は止めようがないのかもしれませんが、それ以外、またその大都市にユーザーも保有したくなるクルマの提案に期待したいところです。

日本車では、ひいき目もありますが、2年前に比べてもトヨタ/レクサスが元気な印象、あまりエコを表にださなくともハイブリッドの品揃えが増え、今回発表した英国生産のオーリスハイブリッドベースのスタイリッシュなステーションワゴン型ハイブリッドは好評のようでした。

ひとこと辛口を書くと、プリウスを含めた欧州ハイブリッド車群の室内回りがVWあたりに比べるとデンザイン、インパネの質感がいまいちでチープな印象、超円高の中で低コストに苦心していることは解りますが、コストダウンをお客様に意識させてはなりません。

VW 7代目ゴルフの価格表を見ていると、こ欧州市場で今の円/ユーロレートで現地生産としても日本車が価格として勝負をするのは厳しいことを痛感しました。やはり、環境技術、車両技術でサプライズ&感動を与えるなどの差別化につとめ、厳しいCO2規制も味方にして、その先頭でプレゼンスを示すことが必要に感じました。

決定的な次世代車はまだ表れていない

低燃費のアプローチとしては、VWを筆頭として過給ダウンサイジング、変速機の多段化、車両軽量化とオーソドックスなものが多く、ハイブリッド車はさらっとこれもあるよといった扱いでした。しかし、低燃費メニューではVW7代目ゴルフのメニューにもあるように、アイドルエンジンストップ、減速回生などハイブリッド化の定番メニューを採用し、変速機の多段化もある意味、燃費最適のCVT運転に近づける手段、さらにダウンサイジング過給エンジンも初代プリウスで目指したアトキンソンエンジン+電池モーターアシストと考え方は同じです。

さらに言うとハイブリッド化を筆頭にクルマの低燃費化はは大都市での発進停止が多く、平均車速が低い走行での改善効果が大きい技術であることは確かです。この15年のハイブリッドプリウスの燃費向上では、実走行燃費をいかに改善させ、カタログ燃費と実走行燃費のギャップを小さくするかが課題でした。

しかし、実走行燃費を改善していくとギャップは縮まらず、カタログ燃費も改善される繰り返しだったように思います。もちろん、モーター駆動電動エアコンや、排気熱回収によるヒーター性能の向上、マイルドに比べると大きなエネルギー容量電池の採用もエンジン停止走行の拡大とともに、実走行での高速からの大きな減速エネルギー回生が狙いでした。この取り組みの経験から推測すると、アイドルストップ、オルターネータ回生、変速機の多段化、過給ダウンサイジングもまだ公式燃費モードとしての燃費改善が主、実燃費がどれくらい向上するのかにはこれからも注目して行く必要があるように感じました。

いずれにしても、欧州でも何らかのハイブリッド化は必須、ハイブリッドとは謳わずにじわじわとハイブリッド技術を取り込み、電池の様子をみながら回生エネルギー量を増やし、さらにEV走行域を拡大し、次に外部充電のプラグインの道をたどる道が見えてきたと、その先頭を走ってきた一人として確信を深めました。しかし、環境性能とクルマの魅力を両立させる次世代自動車とのメッセージを感じたクルマを今回も見つけられなかったことが一方では残念です。

いろいろなクルマの印象を書いてみましたが、結局クルマはスタイルやスペック、見た印象だけではいいクルマかどうかは解りません。VWの7台目ゴルフも発売されてから、しっかり乗ってみてクルマとしての将来ポテンシャルを見極めてみたいと思います。