自動車税改正と軽自動車

10/17に総務省の有識者検討会が消費増税に併せた自動車税の改革案をまとめ、その夕方から一斉にそれが報道されました。今回はそれらの報道のされ方が興味深かかったので、それの比較と、税制についての個人的な思いを八重樫尚史が書いていこうと思います。

今回の自動車税改革案の報道は、主要各紙では下のとおりです。

安価な車、燃費性能の高い車に減税を…提言
(読売新聞)

総務省、軽自動車増税の方針 メーカー「弱い者いじめ」
(朝日新聞)

消費税8%時、エコカー減税拡大 総務省が改革案
(日本経済新聞)

消費増税:自動車取得税の軽減、廃止 代替財源、「軽」に上乗せ案
(毎日新聞)

自動車税を見直しへ、燃費・環境性も加味、総務省の検討会が報告書
(産経新聞)

どれも同じ提言書を報じているものですが、見出しを比較するだけでも各紙の取り上げ方の違いが見て取れるかと思います。今回の自動車税の改正案の中身については、図表のある日経の紙面が解りやすいのでそれを参照して欲しいのですが、特に報道で大きなウェイトが置かれているのは、消費税が10%になった時における自動車税(軽自動車税)の取り扱いについてです。

特に色分けが明確なのが、朝日新聞と日経新聞で、朝日は軽自動車税が増税になることを中心に報じ、日経新聞はエコカーが減税になるとし、一見した所で正反対の報道となっています。

自動車関連税については、紙面にもありますが自動車所得税については消費増税に伴って軽減・廃止することは大筋で決定しており、今回の総務省案はそれに伴って自動車税制を変えようとするものになります。報道でも注目されているように特に大きなものは、毎年の負担となる自動車税(軽自動車税)の改正で、そこに取得税の廃止に伴う地方財源確保と、環境負荷低減の為のエコカー減税を適用しようした為に、こうした2つに別れた報道となりました。

特に軽自動車については、安価な自動車税がその人気を支えている部分があり、この増税に対して、軽自動車メーカーや軽自動車ユーザーからは大きな反発があるのは当然です。またTPPへの参加の際に、アメリカの自動車業界より軽自動車を「参入障壁」とした意見が出ており、これにも関係して自動車ニュースやネットニュース等では軽自動車つぶしと捉えられて報じられることが多いようです。

自動車税の簡略化の方向は賛成

さてここからは私の個人的な意見を書いていきますが、取得税の廃止とエコカー減税の自動車税への取り込みについては賛成です。特にエコカー減税ですが、殊に昨今は名前とは裏腹に環境に負荷の少ない自動車を普及させるというよりも、一時的な景気刺激策としての減税ツールとして使用されているとしか見做せないものとなっています。

本当にこれが環境政策と考えるのであれば、長期的な視野に立って自動車の排出ガス削減のロードマップと合わせての恒常的な普及促進案が必要です。そうした視点では、これを自動車税に融合させて、環境負荷(燃費)に併せて比重をつけるという案には基本的に賛成できます。

またEVやPHEVといった次世代自動車についても、エコカー減税と併せて国の補助金と地方の補助金等も含めて販売時の価格が煩雑なものとなってしまっており(昨年『プリウスPHV』の手続きで痛感しました)、これを簡素化して実際の負担価格を分かりやすくすることは必要だと考えています。

あくまで提言段階で具体的な額が示されていませんので、中身についての議論はできませんが、エコカー減税の拡充を自動車業界も求めており、また環境省も「エコカー減税終了でCO2排出量が増えるという試算」を出して側面支援をしており、これはすんなりと進んでいきそうです。(とはいえ、環境省のこの試算は非常に眉唾のものです。)

軽自動車の議論は国際競争力も含めて考えたい

一方で紛糾しそうなのが軽自動車税の取り扱いです。ここで自分の立場を明確にしておきますが、私は基本的には「軽自動車は廃止されるべき」という考え方を持っています。ただしそれは、軽が優遇されすぎているからという理由ではなく、勿論それが参入障壁となっているという理由でも無く、世界的な自動車の技術潮流でダウンサイジング化が進められている中で、日本独特の軽自動車規格にあわせた自動車を追求するより、その枠組を広げて小型車を公平な競争環境の中でしのぎを削って開発したほうが、将来のこの国の自動車メーカーが世界で競争していく際に有意義だと考えているからです。

特に欧州・アメリカ等ではダウンサイジングの中で小型車に排気量が1000cc以下のエンジンを搭載する例も増えてきました。日本の軽自動車メーカーも海外モデルについては、エンジンを800ccや1000ccに載せ替えて販売しており、こうしたエンジンを搭載したほうが技術的には整合性があり、日本でも軽自動車は大型化・重量化が進んでいる中で660ccという枠を取り払ったほうが、燃費や走行性能のバランスの優れた車両が製造されるのではないかと個人的には思っています。また日本の軽自動車にはそうした技術的な地力があるとも確信しています。

とはいえ軽増税で最も大きな意見としてみられる地方や低所得者の足という側面は見逃すことは出来ません。私もこれを一部で言われているように登録車並み、つまり4倍とするのは暴挙だと思っています。一方でエコカー減税という案が打ち出されているのですから、環境性能に優れた小型車(1トン未満1000cc未満)に対する減税を行うことによって、今の軽自動車と比較して負担増を可能な限り減らした形にすることが理想かと思っています。

とはいえこれは軽自動車という名前を残すのかといった事柄や、税収減等についてはあまり考慮に入れていませんので、現時点では難しいかとも考えています。しかし、軽自動車の処置も含む自動車税制については財務省、総務省、国土交通省、経済産業省、環境省等が入り混じっており、縦割り行政の中で抜本的な改善が進められてきませんでした。今回はそうしたものも含めて議論する格好の機会であり、与党・政権の政治力が試される場だとも思っています。

単なる至近な税制論議や景気政策ではなく、環境対応も含めた自動車産業のあり方も含めて、大きな展望の持てる改正になることを期待しています。