制御系リコール多発

プリウス、フィットハイブリッド、その姉妹車ヴェゼルハイブリッドのパワートレーン制御系リコールの発表が相次いでいます。プリウスではアクセルペダル戻り不良による暴走問題と同時期におきたブレーキ効き不良を引き起こすABS制御系のリコールがまだ記憶に新しいところですが、またの大規模リコールとなってしまいました。フィット、ヴェゼルHVでは新開発7速 DCT(Dual Clutch Transmission)のクラッチ制御系不具合とのことで、昨年9月の販売開始から、この部分だけで3度目となるリコール発表です。

ハイブリッド以外の低燃費新技術リコール問題としては、VW、AUDI車が広く採用している7速DCTのクラッチ制御の不具合として、中国、日本で大規模なリコールを発表しています。タイプこそ違いますが、多段DCTクラッチ制御系不具合はフィット、ヴェゼルHVリコールと同じくクラッチ制御系の不具合です。

低燃費新技術ではありませんが、衝突防止自動ブレーキでも制御系リコールなど制御系不具合、リコールが発表されています。

また米国の様々な事業、商品の顧客満足度調査、コンサルティング会社J.D.パワー社が発表した2014年度の経年車信頼性調査レポート(2014 Vehicle Dependability Study)の中で、全体のスコアは15年ぶりとなる低いスコアを記録、その要因として、エンジンとトランスミッションの不具合が増加していることも要因と解説しています。

その中で、低燃費のためにおこなった4気筒ダウンサイジングエンジン車のスコアが低く、もたつき、加速不良、変速不良の指摘が増加しており、自動車メーカーは低燃費のためにこうした品質との妥協をしないように注意を払うべきと述べています。

J.D.POWERニュースリリースhttp://autos.jdpower.com/ratings/2014-Vehicle-Dependability-Study-Press-Release.htm

J.D.POWER社の信頼性調査レポートが指摘している、4気筒エンジン車の不具合では、リコール対象の不具合ばかりではなく、もたつき、加速不良、変速不良などドラビリ不具合の増加が指摘されていますが、これもその大部分は制御系の適合不良、制御ソフトの不具合と推察されます。低燃費技術としては、他に直噴、可変動弁系、弁停止、CVT、多段AT、多段DCT、アイドルストップ、回生など、いずれもコンピュータ制御とその適合が不可欠、自動低燃費運転をさせるために、ハイブリッドでなくとも信号仕掛けでクルマを走らせるアクセル・バイ・ワイヤ、ブレーキ・バイ・ワイヤ、ステア・バイ・ワイヤと制御系が果たす役割が急増し、さらにその適合作業で負われるようになってきていることも間違いありません。

リコールの多発には、以前に比べリコールとしての判定基準が厳しくなり、公表件数として増加していることもあるようですが、制御系が大規模化し開発段階での不具合摘出に抜けが多くない、また販売後の不具合についてもマーケットでの原因究明が難しくなりそのため対策スピードも遅れてしまい対象台数が拡大しているのではと推測しています。

私の現役時代にも適合不良、制御プログラムバグに起因する不具合は多く、適合の標準化、制御プログラムの構造化、標準化が何度も進められ、膨大なチェックリストが作られ、さらにエンジン、トランスミッション、ハイブリッド制御、モーター制御、電池制御といった機能別サブシステムごとにこれまたきめ細かいプログラム変更情報、仕様変更情報の連絡網がつくられ品質向上、不具合撲滅に取り組んでいました。

こうした取り組みは今でも、またトヨタだけではなく、各社とも進めており、不具合摘出、デバッギング用のツールも当時よりはもっともっと進化していると思いますが、それでも制御系不具合が多発しています。システム規模の拡大、その制御系の大規模化に、制御系ハード、ソフトの専門家が不足し、その人材育成が追いついていないことが不具合多発の背景にあるとの声も聞こえてきます。この意見も一理あるとは思いますが、ちょっと違う方向から不具合多発の背景にある懸念点に触れてみたいと思います。

この制御システ系、そのソフトウエア不具合は自動車だけではなく、飛行機、家電さらには鉄道、電力から銀行の電算システムにまで及んでいます。その不具合の拡大を招いているのは、制御システム、そのソフトウエアのジャンルを見えない、解らないと、理解する努力も近づくことすら敬遠してきた役員、マネージャー層にもあるように思います。トヨタだけとは思いませんが、解らないから制御系専門部署に任せっきりにし、そこはそこで手に負えなくなってから大手部品会社やアウトソーシング会社に丸投げとなり、制御がクルマ屋にとってブラックボックスとなっているのではと気になっています。

自動車会社の商品はクルマ、トヨタでは何度かこのブログで取り上げた車両主査制度が社長の代行役として商品機能、収益性からこうした信頼性品質など不具合の未然防止にいたるまで仕切って商品としてのクルマ開発を行ってきました。さらにその主査のクルマ作りを支えてきたのがエンジン、駆動、制動、シャシーといった専門機能部隊とは別にクルマ全体の商品性、走行機能、さらには信頼性、安全性を評価してきた、車両評価、走行評価スタッフ達です。車両主査自身が制御システムは解らないとして、専門部署に任せきりになり、車両主査からの制御系評価に対するフォロー、注文もないから車両評価のスタッフ達も見えない、解らないで評価の深入できない、やらないにこの問題の根があるのではと心配しています。制御系、そのソフトウエアが大規模、複雑になってきても、クルマの基本要素である『走る』『曲がる』『止まる』の安心、安全を、使用環境こそ世界では半端ではありませんが、クルマの、もちろん制御系の専門家でもない多くの人たちに提供する自動車メーカーの役割は20世紀の初めからこの21世紀の現在まで変わりはありません。

制御系の介在が多くなったとは言えクルマの走り、ドラビリ、さらには世界中のクルマの使い方、使われ方などの経験を駆使して、なにかしらわずかの車両挙動、反応、変化から適合不良、ソフトのバグなど制御システム不具合の兆候を検出できる高い能力を持った車両評価のプロ達は残っているはずです。

プリウスのハイブリッド開発では、制御システムやそのソフトウエア設計、さらに適合のエンジニア達が見つけ出せなかった不具合を見つけ出した車両評価のプロ達が活躍してくれました。その不具合兆候を見つけ出し、その再現方法を見つけ出せれば制御システムやソフト不具合の解決は簡単です。制御系の専門家、制御系適合のスタッフ達からは思いもよらない使い方、使われ方の中で見逃していた不具合が結構ありました。『走る』『曲がる』『止まる』に関わる異常挙動不具合は制御系にかかわらず即リコールですが、初代プリウスの開発では、制御システムの専門家達の不具合評価、デバッギング作業と並行してこうした車両評価のプロ達による意地悪に意地悪を重ねた評価、限界条件での評価を行うことによりマーケットに出してから不意打ちをくらった制御系不具合はおこさないですみました。それでも、ソフトウエアバグがゼロだった訳ではありません。何万台かの販売で、たった1台、それも1回だけのバグ不具合を発生させてしまい、人間がやる作業でバグゼロはこの規模になると実現はほぼ不可能、安全が確保できているならばマーケットで起こさないバグはバグではないと開き直っていました。リコール判断が厳しくなってきている現在、このような開き直りは見習って欲しくはありませんが、クルマ評価での意地悪試験、限界試験、ばらつき試験、その評価プロ達と制御システムスタッフとのデザインレビューによる未然防止の重要性も強調しておきたいと思います。