自動車とネットワーク
今回は、八重樫尚史の代打の回となります。
基本的に私が代打で書く回は、(私自身、自動車エンジニアではないので)自動車の技術的な事ではなく、カーシェアリング等の周辺分野について触れる際に登場する場合としており、今回はカー・テレマティクスと総称される、自動車搭載の情報機器についてとりとめなく書いていこうかと思います。
モバイル通信の拡大とクルマ
以前、私はこのブログで「自動車と通信(または自動車でネット)」という題でこうした話題について触れたことがあります。(2年前の記事で、一人称も文体も今と全く違うのが、自分でも苦笑ものですが)そこでは、自分のクルマにWimaxの親機を接続して通信していると書いていますが、今やスマートフォン本体のLTE回線とWimaxの回線速度とカバー範囲が同等レベルになったことから、Wimaxの車載使用は行なっていません。
さて、再びこのテレマティクスに触れようと、思い立ったのは、ここに来てこうした分野を取り上げる記事等が増えてきたからです。多くは、「「ナビの普及率が低く、日本と比べてテレマティクスで立ち遅れている」とされてきた海外の自動車メーカー等が、スマートフォンと連携する機能を付け、日本勢の専用カーナビを脅かし始めた、もしくは脅かすのではないか」と述べている記事となっています。これは、私も以前の記事でも同じ事を書いていますし、その考えは変わっていません。
ナビゲーションシステムが、その機能を中心としたものから、情報端末に搭載される1機能(アプリケーション)となることは抗うことの出来ない流れのように感じます。特に海外では指摘にもあるように、専用ナビの普及が遅かったことから、例えば調査会社J.D.パワーが今年1月に行ったアンケート調査でも、既に調査対象の自動車オーナーの47%がスマートフォンのナビを使用していると答え、前年調査の37%から10%の大きなアップをしており、またそうしたユーザーの46%がスマートフォンのナビがクルマの中央部に表示できるのであれば、次は専用のナビは購入しないと答えているなど、急激な変化の兆候が見えています。
そうした流れの中で注目されているのは、フォードが取り組む「AppLink」とi-Phoneの「Siri」等の音声認識システムへの対応です。フォードの「App Link」はナビゲーションシステムとスマートフォンの連携機能の仕様を公開し、サードパーティがその機能を使用しアプリを開発出来るようにするものです。またナビをボイスコントロールする機能は古くからありましたが、先ほどのJ.D.パワーのアンケートでもそれら機能には不満の声が多く、より高機能なスマートフォン側のボイスコントロール機能をそのままハンドルのボタンで使用できるようになってきています。これらは程度の差はあるものの、基本的にはスマートフォンとクルマ(ナビ)の連携機能を強化するという方向性は一致しています。
私個人も国内でのナビとスマートフォンの連携については不満を持っていて、現在もメイン機種として使用しているi-Phoneとナビ(G-BOOK)の通信での連携は出来ず(オーディオとハンズフリーの連携は可能)、一応サブ機種として所有しているandroid端末では可能なのですが、それをするためには今度はナビ側から接続機種の切り替えが必要で、しかもそうすると今度はi-Phone側ではハンズフリーで使用できなくなるなど、結局はG-BOOKは使用しないという判断に至っています。これはBlueToothの採用規格の問題で、i-PhoneにはG-BOOKアプリを用意しそちらを利用して欲しいとのことですが、正直言ってi-Phoneを操作するのであれば別の情報入手手段を使用します。
スマートフォンもナビも情報端末
このように、自動車と情報端末はどんどん接近してきていますが、私としてはこれを「スマートフォン」と「ナビ」といった製品ベースで考えることは、あまり意味のないことではないかと感がしています。勿論、現在その分野でビジネスしている企業にとっては非常に重要なのですが、ユーザーとして考える際や、これからの自動車の方向性を考えるといった場合は、それに固執すると本質を見失ってしまう可能性もあるように思っています。
テレマティクスという言葉は、そもそもが移動体通信そのものを指し示すものであり、今、起っていることは、この概念が現実社会で実現されつつあるというという現象です。結局のところ、「スマートフォン」という、常時通信可能なハンドヘルドコンピューターを個人が所有する事が当然になった為、通信をこちら経由で行う事になったという事に過ぎず、何か概念の大きな変更があったと言うことではないような気がします。(携帯電話でも可能ではありましたが、通信環境がまだまだ貧弱かつ高価でした)
「スマートフォン」が「ナビ」を駆逐するというと、別のカテゴリーの製品が表れてこれまでの製品を追いやる構図に見えますが、そもそも今の「ナビ」は機能特化をさせているとはいえこれもコンピューター(情報端末)であり、あくまでコンピューター(情報端末)同士が、その有効性を同じ土俵で競っているということに過ぎません。これは、スマートフォンやタブレット端末の登場が、PCの販売を大きく落ち込ませたのと同じで、更に遡れば汎用性の高いPCの登場でワープロ等が衰退したといった、情報機器の中での淘汰のサイクルの一環でしかありません。
自動車側からやらなければならないこと
その中で自動車側は何をしなければならないのでしょうか?勿論、形としての「ナビ」を守ることではないでしょう。ただし流されるままで、スマートフォンを受動的に受け入れていくことには、懸念があります。
心配しているのはセキュリティの面と、運転中にドライバーの妨げをしてはいけないという安全面においてです。後者については、フォードの「AppLink」の開発者へのドキュメントでも丁寧に説明されている事で、基本的には音声を使用するアプリとして、動画や動きの激しい画面を使用しないようにとしています。運転中に視線をそらすのは非常に危険なので、極めて真っ当な考え方で、これはアメリカ政府のガイドラインに則ったもののようです。
このように事前に自動車での情報端末の使用方法については、知識の集積がある自動車会社側の方が事前に周知徹底させていくという時組みが必要となると思います。更に出来れば、フォードのように1社で取り組むのではなく、自動車会社が互いに協力しあってこうしたものをどのように入れるのが安全かを検討するのも重要と考えています。
この部分については単にガイドラインだけではなく、政法制も含めた議論が必要だとも考えています。というのも、多くのナビのテレビ機能は車速と連動して画面を消すという機能を持っていますが、そのラインを外して走行中でも視聴可能としているのが常態化しています。またメール等を運転中に確認しているのを見るのも、決して少なくないでしょう。こうしたことが放置されている中で、連携アプリの安全性だけを考えても意味はありません。(同乗者が見るという言い訳がまかり通っているようですが、スマートフォンが普及すれば、視界に入りやすい画面に移さず、同乗者はそちらを見れば良い訳ですし。)
またネットワークに接続されるということは、同時にセキュリティのリスクに曝されるということも意味します。自動車において重要なのは、そこで外部からどの程度のアクセスを自動車が許すのかという部分になります。いま、プラグイン車を中心に、外部から自分の車両の情報等を取得するアプリが使用されています、こうしたアプリでは解錠やエアコン制御をスマートフォンから使用する機能も存在します。ネットワークからの信号でそこまで出来るということは、悪意のあるプログラム等によって鍵を開けられシステムをスタートさせられる危険性が既にあるという事です。
勿論、自動車会社もセキュリティには可能な限りの対策を行うのでしょうが、セキュリティに絶対はありません。ユーザーのメリットの為に、どこまで外部からのアクセスを認め、そして最悪のケースを防ぐためにどこ以上は外部からアクセスできなくするのかを、自動車会社の側も自衛のためにも発信していく必要があると思います。
これまでのように自動車会社の提供するツールのみの場合はセキュリティの面では有利ですが、それをユーザーに満足してもらうことは難しく、また先ほど触れたようにメールの確認等をスマートフォンで行う事を防ぐためには、音声読上げ等と連携することによって安全を確保しながらユーザーの満足を満たす等、外部との連携はフォードのように必須になるでしょう。
本当にとりとめのない記事になってしまいましたが、自動車と通信は今後ますます融合していくことは間違いないことだと思います。今回は触れませんでしたが通信によって、車両情報(プローブ情報)を使用したデータの取り扱い等の可能性と問題もあります。今後も、こういった話題を見続けていこうと考えています。