電力の未来を考える

あの地震と津波から2週間ほどが経ちました。
原発の状況も一時期の危機的事態は脱したように思えます。
もちろん被災地での避難生活や救助活動はまだまだ続きますし、東北・東京電力管内での計画停電が解消される見込みは今のところ立ってはいません。
とはいえ、いつまでもその衝撃や悲しみに浸っていてはいけません。
今日は未来を見るためにも、今回の震災で露呈した電力供給の問題と、復興のためになにが必要なのか、僕なりの考えを書いていこうかと思います。

崩壊した電力への信頼

今回の震災被害による計画停電の実施は、日本における電力の安定供給に対する信頼を大きく損なわせるものでした。
それは単に計画停電の直接の原因である「地震とその後の津波によって発電所がダメージを受けて操業を停止せざるをえず、それにより供給電力が不足した」というだけにことに留るものではなく、原発事故による原子力発電所自体の安全性とその管理体制に対する信頼の崩壊によって、今後の日本の電力供給体制の抜本的見直しが必要になったということです。
なお、原子力発電を行っている諸外国では既に、今回の震災と事故を受け、再拡大の基調にあった原発政策を見直す機運が高まっているようです。
日本でも不足する電力を補うためであっても原発の再稼働は現実的ではなく、短期的には停止中の火力発電所を点検・再稼働を目指す形となるでしょう。

また計画停電はまた、日本の電力網の持つ欠点を浮き彫りにしました。
それは、日本の電力網は送る電気の『質』については非常に高い水準にあるものの、その柔軟性については遅れていたということです。

計画停電が発表されて、多くの方はこの高度情報化社会においてその基幹インフラである電力の停止が大きなブロック単位で行われることに驚いたことかと思います。例えば、計画停電の初期においては電車への電力供給も停止すると発表がありましたし(後に優先的に供給すると発表)、停電地域内では信号機も停止し、それに起因した交通事故が相次いでいます。

電力網の特徴をご存知でないかたは、「その時間だけ電力を多く使う工場などへの供給する電力を減らせないのか?」「信号機や基本インフラ部分だけでも電力供給できないのか?」と思われたかもしれません。

しかし電力の供給の制御は送電施設単位でしかできないというのが現状のです。(実際には、中央制御設備からは出来なくても、変電所等にある送電設備を各自調整することによって、ある程度はコントロールできるそうで、鉄道などへはそのようにして停電中も電力を供給できるようにしたようですが。)

「スマートグリッド」の必要性

さて、このブログでも何度か「スマートグリッド」という言葉を取り上げたことがあります。電力網に双方向の通信機能を持たせる構想ですが、この言葉が取りざたされているということは、つまり現在の電力網は「スマート」ではないということを意味します。この「スマート」でないということの象徴が、今回の計画停電でしょう。現状の電力網は、川上の制御(供給側の発電量)は出来るが、川下(需要側)については物理的なオン・オフする以外には何も出来ないということなのです。

震災前、今月初め3/6の日経新聞で、「スマートグリッド」の第一歩である「スマートメーター」の設置について、イタリアが90%以上の普及率であるのに日本はごく一部にとどまっているとの記事がありました。(なお、僕の実家はその一部です。)ここでは、日本でその普及が遅れているのは、安定した送電網を持つ日本の電力会社が追加投資に消極的だったと理由を述べています。今読むと、非常に皮肉な理由ですね。

実は正しく機能する「スマートメーター」が普及するだけでも、今回の計画停電は大きくその様相が変化したはずです。繋がっている先が工場やオフィスなのか、それとも家庭なのかを電力会社が把握することもでき、例えば家庭用の供給だけを止めて、信号や病院など最低限必須と思われる設備だけは電力を供給するということができたはずです。

停止中の原発の再稼働が難しいなか、特に東日本では短くない間に渡って電力の供給が不安定になると思われます。「スマートグリッド」技術に対してはこれから間違いなくその必要性が高まることでしょう。

「スマートグリッド」と次世代自動車

さきほど新聞記事では「スマートグリッド」の普及が妨げられた要因について、「安定した送電網を持つ日本の電力会社が追加投資に消極的だった」とした記事を紹介しました。僕もそれが最大の理由だと思っています。

しかし、最近の次世代車関連の記事を見てきた僕には、もう一つ「スマートグリッド」への一歩を妨げてきた要因があるように思えてなりません。

それは「「スマートグリッド」が電気自動車(EV)等の充電型自動車とセットで語られてきた為に、逆に「スマートメーター」等のその初期的な普及が遅れたのではないか?」という疑念です。

もっと穿って見れば「「スマートグリッド」に対する設備投資の財源を、電力と自動車などで押し付けあいを続けていた(電力会社と自動車会社だけではなく、官公庁も含めて)ばかりに、本当に必要な時に間に合わなかったのではないか?」とすら思えてきます。

確かに現在の「スマートグリッド」構想全体の完成のためには、どうしても安定発電の難しい自然エネルギー発電(風力や太陽光)の利用と、その蓄電用として大きなバッテリを持つであろうと思われる充電型自動車の利用が必要となっています。

しかし、僕にはこれはあまりにも構想を大きくしてしまったために、「「スマートグリッド」か「EV」か」の「「卵」と「鶏」」の議論に終始し、結局は全体を先送りにするという、最も愚かな状況となってしまったように思えます。

大事なのは震災後に僕らがまずしなければならないことと同じ、「未来に向けた着実な一歩」を歩むことだと思います。必要なことを見極めて、しっかり「一歩」を歩みだしましょう。