アメリカでの充電式(プラグイン)自動車のいま

先週は授賞のお話しをしましたが、授賞式の傍らアメリカでGM VoltやNissan Leafのアメリカでの反響について情報収集もしてきましたので、今回はそのお話を。
両車とも本格的なプラグイン(外部電力充電型)自動車の量産のスタートを象徴するクルマでしたので、私も注目していましたし、その反響も非常に大きいものだろうと予想していたのですが、実際は予想に反してアメリカでは静かなローンチを切ったのだなとの印象を持ちました。

自動車社会アメリカ

今回の訪米では、事前にロサンゼルスで何人かの友人に会おうと持ちかけ、一人はオフィスまで片道50マイル以上、もう一人はサンタバーバラから片道117マイルを気楽にロスのホテルまで訪ねてくれました。
このようにアメリカでは、自動車をまさに最も身近なモビリティとして活用し、ハイウェイの大部分が無料であることも相まってロングトリップも当然とするまさに自動車社会が構築されています。NYやシカゴ、ワシントンDC、ボストンなど一部の大都市を除けば、アメリカでの個人の移動範囲は自動車によってのみ大きく面として広がっており、アメリカで自動車抜きの生活をするということは不便という段階を超えて人としての活動の大きな縮小を意味します。
アメリカに代表されるこのような自動車社会をどのように低カーボン社会に変革していくのか、人類の将来にとっても中国とともに注目するところです。ロスでも公共交通機関がないわけではありませんが、輸送の全体の中でのプレゼンスは極めて微小と言わざるを得ないというのが実態です。

私はこの広大な国土を持ち、ロングトリップが当たり前で、年間の平均走行距離でも日本の1.5倍以上の自動車社会アメリカに変革を与えるためには、まずは長い走行距離を確保できることが最低限必要だと考え、まずHV、さらには都市内のショートトリップで充電電力エネルギーを使うプラグインHVが現実的と考えてきました。
その意味で冒頭でも書きましたが、GM Chevy Voltがどのように受け取られるのか、使われるのか、そのローンチに注目してきました。

GM Chevy Volt

Voltのことは、このブログでも何度かとりあげましたが、T字型の16kWhという大容量の電池パックを、重量バランスが偏らないように、苦労してクルマのセンター部分に搭載する苦労、エンジン、トランスミッション、インバータ搭載の工夫など、開発エンジニアの努力を感じさせられました。 

Opel-Ampera(Voltの姉妹車)の電池パック

Opel-Ampera(Voltの姉妹車)の電池パック

また、GMはVoltの説明としてハイブリッドではなく、レンジエクステンダータイプのEVと説明してきたため、私自身もてっきりシリーズタイプのハイブリッドと思い込んでしましが、最近になって、基本的にはトヨタハイブリッドと類似の遊星ギアでエンジンパワーの一部は直接タイヤの駆動にも使うことができる、シリーズパラレル型であることが判ってきました。

トヨタ方式とは違って、動力伝達遮断/結合のクラッチを2組持ち、エンジン動力によるタイヤ駆動パス(パラレルパス)を切った、完全シリーズ型運転も出来る機構になっていることが特長です。電池エネルギーを使い切ったあとの長距離ドライブ、さらには高速フリーウエー走行のシリーズ型運転では、どうして燃費効率が悪くなってしまいます。この部分では、トヨタ方式のようにパラレル運転が有利です。Voltでもこの高速走行のある走行条件では、エンジンパワーのさらに一部で直接タイヤを駆動するパラレルパスを使っていることが判りました。私からすればアメリカで当然のように利用されるフリーウエーにおいて燃費効率を保つことは絶対必須条件で、そのためにパラレル機構を持たせることは技術者としては当然の判断だと思うのですが、GMが事前からEVもしくはシリーズ型であるかのように伝えてきていたためメディアからは「これではEVではない!!」とGMは批判されているのが現状です。

また、Voltの発売に当たって、アメリカ連邦の環境当局EPAとカリフォルニア州の環境当局CARBから、燃費、電力消費量(電費)、排気のクリーン度、CO2の排出量が公表されました。カテゴリーとしてはGMの公表とは違い、(当然ですが)Voltはプラグインハイブリッドとされており、電池エネルギーだけを使うAll Electric走行では燃費(電費)93mpg、電池エネルギーを使い切ったあとのガソリンエネルギーでの走行では37mpgと認定されています。
なおこの93mpgというのは、消費電力エネルギーをガソリン消費エネルギー換算して出された値です。
ガソリン走行の37mpgという数字は、通常プリウスの50mpgと比較すれば一目瞭然ですが、同サイズのクルマとしてはかなり悪い部類に入り、個人的な推測ですがEVに拘るあまり総合的な効率を犠牲にしてまでシリーズ運転領域を多くしてしまったのではないでしょうか。

CARBからはクリーン度としてULEV(Ultra Low Emission Vehicle)認定を受けました。ULEVとの表現では、とんでもないクリーン度のクルマとの印象ですが、この先にさらにクリーンなカテゴリーとして、SULEV(スーパーウルトラ), 更にPZEV(Partial Zero Emission Vehicle)さらには、ハイブリッドではATPZEV(Advance Technology PZEV)なるカテゴリーまであり、カリフォルニアではその販売比率の組み合わせで決められたクリーン車の導入比率を守ることが義務づけられています。
プリウスはこのATPZEVカテゴリーとして認定されていますが、VoltはULEV認定であり、いくつかのインセンティブが与えられるATPZEVではなく、ULEVに留まったこともメディアの話題となっています。これもまた、先ほどと同じくシリーズ運転領域を多くしてしまったことに起因するのではと予測しています。

アメリカでもプラグイン導入への障害は多い

先ほども書きましたが、アメリカでは、やはり広い国土とその中でのクルマの使い方から、エンジンパワーと電気パワーを賢く使う車が、将来の低カーボン自動車として有力と思います。将来としてはプラグイン自動車の普及を視野に入れる必要がありますが、充電機器、そのコネクター、さらには搭載電池など、実用化の課題はまだまだ山積しています。標準化議論も進んでいるようですが、今の充電機器、コネクターでは、使い勝手、装着性、保管性など、毎日使うにはまだまだ不十分、また家庭やオフィス駐車場での充電で使う低パワー充電設備のコストも普及へのハードルです。

プラグインハイブリッドのヨーロッパでの実証試験データでも、充電回数の90%以上は家庭とオフィス駐車場のコンセントから充電しているとのデータが報告され、またアメリカのモニター走行ではプラグインハイブリッドは充電をしなくても走れるので、コンセントに繋いで充電する操作すら面倒になり、ガソリンハイブリッド運転比率がだんだん高くなってしまったとのちょっと心配なデータもでているようです。

EV用としての、急速充電器の普及、拡大、さらにその国際標準化に注目が集まっていますが、プラグインハイブリッドでは、家庭、オフィス駐車場での通常汎用コンセントに近い、安価で安全、安心なコンセントとそのIT化さらにはスマートメータ機能の標準化を急ぐ必要があります。競争と協調、充電インフラ、コネクター、IT活用、その標準化では、オープン化による協調路線が必要、GMなども、グローバルな低カーボン自動車への競争と協調路線に転換してくれることを期待しています。EVでもその使用電力量の大部分は、家庭か会社や役所の駐車場の長時間低パワー充電が使われる筈です。

アメリカでのLEAF

日産リーフのカットモデル

日産リーフのカットモデル

また、同時期に、日産リーフの発売発表もありました。Volt同様、EPAから燃費(電費)、クリーン度の公式値が発表されており、これはピュア電気自動車ですので、ガソリン換算の電費と航続距離として、99mpg(約42km/l)の電費、航続距離73mile(117km)となっています。
EPAでの燃費、電費の表示法は、販売店でのクルマのウインドーシールドに表示を義務づけているもので、数年前にプリウスなどのハイブリッド車や低燃費を売りとする小型車では、ユーザの実走行燃費と表示燃費の間にギャップが大きいとの訴えから、平均的ユーザの年間平均燃費にかなり近い値になるように算出法を改定したもので、これでも、冬の寒冷地でのヒータ運転、山岳路での登坂、大都市の渋滞走行ではこの航続距離を下回ることもあるように思います。

このようなEV車が、アメリカでどのように使われ、どのように評価され、クルマの実際の用途としてどれくらい代替できるかも注目点です。
GM Volt, 日産リーフの健闘を祈ります。