充電ステーションと次世代自動車
今回は八重樫尚史が代打でECOtality社の経営危機を切り口に、EV充電ステーションビジネスについて取り留めもなく書いていきます。
アメリカの充電ステーション整備体制
先月、アメリカで「Blink」というブランドネームでEV充電ステーション設置・運営を行なっているECOtality社が資金繰りに行き詰まり破綻寸前となっているニュースが流れました。今年は同じくアメリカで創業し、EV充電ステーションとイスラエルや欧州で電池交換ステーションの運営を行っていたBetter Place社が破綻しており、今回のEVブーム(第何次かは人によって異なりますが)で生まれた充電インフラ企業の破綻が相次いでいます。
日本では特に公共充電ステーションについては、急速充電規格のCHAdeMO等の政府・自動車会社・電力会社主導のネットワークという形で充電器製造と設置・運営を切り離す形で整備されていますが、アメリカではECOtality等のベンチャーがエネルギー省のバックアップのもと一体で製造・設置・運営し有料の充電サービスを提供することが主流となっています。名前の出たECOtality、Better Placeの他に、Coulomb Technologyから改名したCharge Point社、Car Charging Group社、ベンチャーでは無く小型航空機製造業から参入したAeroVironment社等がこうしたビジネスを運営しています。
これら企業は家庭向け充電器も取り扱っており、家庭に設置した場合は公共充電と合わせた料金を提供するなど、ビジネスモデルとしては電話会社に近いものです。勿論、日本でもパナソニック(電工)といった電気機器会社やトヨタ等の自動車会社が家庭向け充電器を販売しているように、電気機器のLeviton社や自動車部品販売のBosch社等も充電器を販売しており、これらは同じく地域の電気会社や工務店経由で工事をするような形となっています。(急速充電については、日本のCHAdeMO充電器を富士電機等が販売しています)
アメリカのプラグイン車(EV・PHEV)普及政策については、連邦規模で展開しているものと、各州、各自治体規模で展開するものが混じっている状況で、場所によってその金額はまちまちとはなるのですが、多くの場所ではプラグイン車購入の際にこうした家庭用充電器を導入すると公共もしくは自動車会社等によって補助が出るのが一般的です。
ECOtalityの経営危機
さてそうした状況の中、ECOtalityの経営が苦境に陥っています。経営危機の直接の原因については、ECOtality自身から明確に述べられています。それはEV充電ネットワークの整備を進めていたエネルギー省(DOE)からの支払いが停止されたからというものです。DOEは「EV Project」という名で、ECOtalityをプロジェクト・マネージャー企業として認定し、高級充電ネットワークの拡大を行っていました。それに従ってスーパーマーケット等にECOtalityがEV充電器を設置・運営を行い、DOEがECOtalityに資金を投入するという形です。
しかし先月、DOEよりECOtalityに対して「EV Project」に関する支払いを停止する通知が出され、ECOtalityはその途端に資金繰りに行き詰まり、経営状況が急激に変化した際に上場企業から証券取引委員会へ提出することが義務付けられている「8-K文書」を提出し、それを受けて既に低迷していた株価が更に暴落したというのがECOtalityの経営危機の概要になります。
ECOtalityも他のベンチャーの例に漏れず、創業以来一度も黒字を計上した事がありません。そうした中で最大のスポンサーであったDOEからの資金が絶たれ、また株価の低迷($0.20近辺)に象徴されるように民間からの投資を募るのも難しい状況です。今後については不透明ですが、個人的には充電ネットワークについてはCharge Pointと提携しており、こうした所を受け皿にしていく方向性に進むように想像しています。
このDOEの支払停止についてですが、正確に掴んではいないのですが「EV Poject」の整備の遅延とECOtalityの経営状況の悪化からその継続性を再調査するためと言われています。DOEのEV投資については、破綻したバッテリーのA123社や自動車メーカーのFisker社へ行っていたことで、議会などで激しく批判されたこともあり、今回のECOtalityについては傷が深くなる前に手を打ったというが実態でしょう。
充電ステーションビジネスは現状では成立していない
ECOtalityの経営の行き詰まりの直接の原因はDOEの支払停止ではありますが、しかしながら本質はECOtalityの経営が持続的でなかったこと、EV充電ステーション運営がビジネスとして成立しなかったとにあるのは間違いありません。
EVブームの初期(日産の『リーフ』やGMの『Volt』等が発売される前の2000年台後半)にこうした充電ステーションベンチャーが誕生しDOEがそのサポートを始めたのですが、その頃にはこうしたビジネスが将来大きくなって巨大ビジネスとなるなどの話がまことしやかに囁かれていました。特に上でも触れましたが携帯電話ビジネスのように、初期投資が多額にかかるが、EVが普及するとともに安定収入がもたらされるといった話が主で、その初期には政府などが資金を支え、その後民間企業として一人立ちするという目論見でした。
今回のECOtalityの実質破綻状況は、そのプランの崩壊を意味しています。EVが街を走り始め、充電ステーションが配備されたのですが、それが政府の資金が無くとも持続しうる状況は訪れませんでした。
充電ステーションビジネスへの期待はこのようにアメリカでは急激に減退しているのですが、一方で日本では今年に入って1005億を使用して公共充電器を普及させようとする計画が走り始めました。
正直言えば、私はこの計画を聞いた時には唖然としました。というのも充電ステーションの整備状況では日本は既に世界で最も進んだ国と言ってもよく、またEVの普及台数もおそらく今年中に台数ではアメリカに抜かされるとは思いますが、日本の自動車市場規模がアメリカの1/2~1/3なことを考えると、日本は明らかにEV普及についてはトップランナーだからです。
トップランナーなのだから更に攻めの戦略でと言うかもしれません。しかし、公共EV充電ステーションの更なる配備がEV普及を加速させるかというと、私個人の意見ではその効果は極めて薄いと考えています。また整備した後に、それがしっかりと継続的に整備・運営されるためには採算ベースに乗らなければなりません、その見通しを提示しない中で資金を投資し続けるのは、私には単なる蛮勇に見えます。
アメリカはチャレンジングスピリットによって、充電ステーションベンチャーを誕生させましたが、それらは破綻するかその瀬戸際に立たされています。日本はステーションの配備などについては自動車会社、電力会社、エネルギー会社等の大企業に資金を入れるという形を取ったために、その状況が見えづらくなってしまっています。それはもともと大企業の為に、ステーションビジネスが成功しなくとも本業の利益で補填が可能で、このような事態にはならないでしょう。これによって、DOEのように傷口が広がる前に手を引くことが出来ないのではないかと心配しています。
もっと長い目の次世代自動車戦略を
また日本では原発の停止と再稼働の見通しがつかないことから、急激に電気走行の意味が薄れていることも忘れてはなりません。原発の代わりに石油と天然ガスによる火力の割合を増やしたため、日本の発電における温暖化ガス発生量は激増しており、また電力価格もガソリンと同じく原油の高騰等に併せて上昇する事になってしまいました。(また、現時点で再生可能エネルギーによる発電を使用すると更に高騰します。)
その中でEVやPHEVで電気走行することは大きな目で見れば環境負荷の低減にはあまり貢献せず、電力料金が今後も上がる(また、料金優遇の根拠である原発をなくしたら深夜電力料金が急激に上昇していく可能性もある)ということであれば経済的メリットもあまり得られません。
ただし、自動車の広義での電動化は間違いなく進み、そうしたなかでEVの役割やEV開発によって齎される技術的進歩があるのは間違いありません。私としては、いましゃにむにプラグイン車の普及をすすめるよりも、もう一度基礎に立ち返ってそれら技術の熟成を進める事が大切だと考えています。
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