東京モーターショー2013の印象

東京モーターショーが有明の東京ビッグサイトで今週末まで開催されています。私は一般公開日の前日の11/22の特別招待日と、昨日の11/27の2回、会場を訪れました。公式発表によると11/22の入場者がプレビューナイトの8,600人を含めて40,000人、11/27の入場者が77,600人ということですが、平日である11/27でも主要なメーカーのブースは人で溢れている状態でした。平日でもこれで、11/23には135,800人とこの倍近い人出があったとのことですから、休日にはまさに立錐の余地もないという状態で、大きな盛況を見せているといってもよいのではないでしょうか。

ご存じの方も多いでしょうが、東京モーターショーは1990年初頭をピークに入場者の減少が続けていましたが、会場を幕張メッセから東京ビッグサイトに移し、また欧州メーカーの出品が復活したことなどもあって前回の2011年には開催期間は縮小しながらも人出が戻ってきていました。これまでの入場者の推移を見ても、今回も前回と同様かそれを超える入場者が見込めそうです。週末の人混みを想像するに、東京ビッグサイトのみでの開催ではこの規模の入場者数が限度のようにも感じます。

さて、今回は八重樫尚史が、東京モーターショー2013について、話題のコンセプトカーや新車等については、多くのメディア等で触れられているでしょうから、すっぱりと割りきってそこには触れず、次世代車や次世代技術の点からショーから見る全体の業界の印象などに極私的視点で書いていこうかと思います。

プラグイン車の存在感の無さ

まず、今回のショーで最も強く印象に残ったのは「プラグイン自動車の存在感の無さ」でした。勿論、自分が次世代自動車に係る仕事をしているので、そういった側面から見ての印象ですが、前回と比較しても明確にプラグイン車(EV、PHEV)の存在感が低下していました。

これは以前からモーターショーの記事などでも触れていることですが、世界のどのモーターショーでも主役は憧れの対象としてのコンセプトモデルや高級スポーツカー等で、それに加えて購入目当ての新型車に乗って触ろうというのがショーの姿だと思います。その中で環境技術を全面に押し出したいわゆる「エコカー」やそうした技術の解説展示などは、自動車メーカーが大掛かりに打ち出しても会場の入場者の視線を集めてはいませんでした。

そうした反応を感じ取ってということでしょうが、今回のショーではメーカー毎に色彩の差はありますが、自動車メーカーはブース自体を映像や舞台建てを駆使してショーアップし「インタラクティブで3次元のCM」に作り上げているという印象を受けました。技術などの解説はその隣にある部品メーカーのブースなどで行い、そうした役割分担がこれまでよりも明確になったように感じます。特に日本市場で大手のトヨタとホンダのブースではそれを強く感じ、ブースの面積の割には展示車を絞りまた技術の詳細解説は最小限にし、全体としてのショーを作り上げていたとの印象です。

本題のプラグイン車についてですが、前回等はブースの良い場所に充電ステーションをおいて充電している姿を見せた車両があったものですが、今回はそうした車両は非常に少なくなりました。EVの旗手である日産のブースでも、主役はコンセプトモデルと量産車ではHVの新型『スカイライン』等で、『リーフ』『New Mobility Concept』『e-NV200』はブースの入り口にあるものの、主役から一段降りた場所にあったという印象です。

日産 eNV200

日産 eNV200

主役にプラグイン車を配していたのはドイツ勢のVW、アウディ、BMWで、VWはディーゼルPHEVの『XL1』『Twin UP!』、アウディもPHEV『A3 e-tron』を雛壇に、BMWも中心にEV『i3』とPHEV『i3』を置いていました。とはいえ、自動車ブースの中で、環境を強く謳って周辺インフラ込みで「スマート」をアピールするような展示は見当たりませんでした。

VW TwinUP!

VW TwinUP!


Audi A3 e-Tron

Audi A3 e-Tron

そうした部分では前回に引き続き「Smart Mobility City」と銘打って、こうしたプラグイン車とその周辺インフラについて自動車メーカー以外の企業などを含めたブースが設置されているのですが、場所は長大なエスカレーターに乗っていかなければならない西棟の上階に置かれ、明らかにこの区画は他の自動車メーカーのブースと比較しても人が少ないエリアとなっていました。(実は私も最初に訪れた際には、その後に予定があったこともあって、ここにこうしたブースがあることを知らず、2度目で初めてこのエリアを見ました。)ただ、これは場所だけの問題ではなく、やはりこうした展示に人気が集まらないという事を示してはいると思います。

ただしホールの一角に電池サプライヤーとして参加していたパナソニックのブースと、非常に小さなブースながら参加していたテスラの『Model S』はそうしたなかでも人を集めていた事は書き残しておきたいと思います。

「離れ」ではなく「日常化」したエコカー

ただし、こうしたEVやPHEVの注目の少なさによって「エコカー離れ」が起こっているというのは早計に過ぎると考えています。というのも既に新車のかなりの割合がHVとなっている日本ではもはやそれは日常であり、また欧州各社もダウンサイジングは当然となっており、そうした技術を大々的にこうしたショーで訴える必要性が無くなったからともいえます。

それを実感できるのは、住み分けているのだろうかと書いた技術展示を中心とした部品メーカー等のブースで見ることができ、そこで展示されているものはエンジンの部品などであっても摩擦の低減等を行って効率性の向上をして燃費を高めるというものが殆どでした。ただし、そうした展示に興味を持つ人の割合は勿論少なく、そういった場所では観覧者もスーツ姿の人が主流でした。あまりにも細かく難しくなってしまったこうした技術と実際の商品が離れていってしまっているというのが、自動車メーカーと部品メーカーの展示の違いとそこに集まる人の違いとして、私の目には強く焼き付きました。

独ZF社 9速AT

独ZF社 9速AT

また更に先の次世代車として注目されている燃料電池車(FCEV)ですが、トヨタが新型のFCEVを大々的に発表したものの、ホンダは新型FCEVを同時期に開催されているLAモーターショーで発表するなど、全体として取り上げられている印象は感じられませんでした。

FCEVについては、規制や導入支援等からカリフォルニア州から発売されるのが既定路線となっており、そちらが優先されるのは当然ではありますが、これまでの報道の量などから考えると肩透かしを感じました。同じく控えめだったのが自動運転や衝突安全技術等で、勿論多くのところで解説や説明があり体験会なども模様されていましたが、主役という程の存在感は無かったかとは思います。これは憶測ですが、大きな話題となったマツダの体験会の事故の影響もあったのかもしれません。

自動車の「現在」を見るモーターショー

東京モーターショーのキャッチコピーは「世界にまだない未来を競え」となっています。しかし、今回のショーで私が強く感じたのは「未来」では無く「現在」です。5年後・10年後の未来がここで提示されたかというとコンセプトモデルも含めてNoだというのが私の感想です。コンセプトモデルも「現在」に存在する非日常のショーとして消化し、直ぐにディーラーに並ぶであろうモデルを日常の現実の目として見ているというのが、今の東京モーターショーの姿なのではないのでしょうか。

ただしこれが悪いことかと考えているかというとそうではなく、おそらくこの「現在」は多く人が考えているよりも緻密で繊細な技術で作り上げられておいる「現在」で、本当の少し先の「まだない」未来はなかなか説明しづらい専門的な知識の海に眠っているのではというのが技術の素人である私の見解です。(あとは厳しい競争を行っている中で、5年・10年後の技術は今まさに最も重要なものであり、それを見せることは無いだろうとも思いますし。)

とはいえ前回もそう感じましたが、平日にもかかわらず多く人が訪れるショー(平日なので若い層は少なかったことは少なかったですが)の姿を見て、自動車の人気はまだまだあるのだと安心感を抱きました。

またモーターショーの関連イベントとしてお台場で様々なイベントを行ったのもよい方向に感じます。今回モーターショーに参加しなかったアメリカ・イタリアの各メーカーもそちらで一部展示を行っていました。こうしたメーカーもまた本体に参加して、今後もっと華やかなモーターショーが戻ってくることを期待しています。