欧州自動車CO2規制をめぐる独仏のさやあて?
フランスのメルセデス・ベンツ登録禁止問題
今日は、ギリシャに端を発する欧州ソブリン危機の対応を巡って、何かと不協和音が聞こえてくるドイツとフランスですが、その対立の中に自動車の将来CO2規制をめぐる争いも含まれているという話題を取り上げます。先日、フランス当局がベンツの「Aクラス」「Bクラス」の新車登録を、空調冷媒がEU規制に合致していないことを理由に停止したとのニュースがありました。
EUは車両空調に関して、環境負荷の小さい新冷媒の使用を義務付ける規制を定めましたが、この冷媒が従来品に比べ発火性が高いとの理由でVWやダイムラーが反発していました。ベンツは先の2車種についてはドイツ当局の認可を受けて切り替え期間を延ばして従来品を引き続き使用することにしましたが、フランスはこれに対して規則違反として登録停止措置をとったとのことです。またこの規則を決めたEU委員会も、このフランスの措置に対し支持を打ち出しています。
欧州は1997年12月COP3京都議定書締結後、2050年の温暖化ガス(GHG)排出削減目標として1990年比80-85%削減という非常に意欲的な目標を掲げ、さまざまな分野で削減のための法規制強化を進めてきています。それを目的とした規制の一つがF-ガス規制と呼ばれる冷凍機用冷媒を地球温暖化係数の小さい冷媒への切り替えを促すものです。
これまで使用していた冷媒がCO2の1300以上もの高い地球温暖化係数をもっており、これを温暖化係数が一桁の新冷媒への切り替えを決めたもので、2011年が切り替え期限となっていました。その新冷媒が可燃性であることを理由に、ベンツは小型クラスの「Aクラス」「Bクラス」への切り替えせず、従来冷媒を使用したことが規則違反として登録停止をしたというのがフランス当局の言い分です。
またこれがフランスの独断による登録停止に留まらず、EU委員会がフランスの支持を打ち出したのも、欧州で策定予定の2020年自動車CO2の95g_CO2/km規制の決定に対し、ここにきて自国内の自動車メーカーの強い反対で、ドイツの激しい活動によって理事会での正式承認が遅れていることに対して、EU他国によるドイツへのプレッシャーとの観測もあります。このフランスの措置は、これもドイツに対する反発を強めているイタリアへの波及を予測する向きもあり、まだ当分揉めそうです。
ドイツの転向と他国の反発
ドイツ・メルケル政権では当初電気自動車普及とその電気自動車への追加クレジットをあたえることにより、ドイツ高級車メーカーでもなんとかこの2020年CO2規制に対応できると読んでいたふしがあります。しかしながらここにきて電気自動車普及がそれほど楽観的ではないことがわかり、時刻の自動車メーカーの反対が強くなり、規制条件の見直しを求めて反対に回った形となります。
EU圏として地球温暖化の取り組みにリーダーシップを発揮しようするEUの中で、その中でもこれに積極的だったはずのドイツ・メルケル首相がドイツ自動車メーカーからの強い働きかけで決めたはずの自動車CO2規制に待ったをかけざるを得なくなったことに対して、経済面ではドイツの一人勝ちで特に自動車では欧州で唯一好調なドイツがこのような転向を見せたことに対し、苦戦するフランス等の他国が牽制を行ったという意味もあるようです。
温暖化ガス削減は次のフェーズへ
地球温暖化緩和に向けての国際的な温暖化ガス削減の取り組みは、1997年12月の京都で開催されたCOP3で採択された京都議定書に基づく削減条約がありますが、これも当時の最大の排出国であるアメリカが参加しないまま約束期間の2012年が過ぎてしまい、いまだに次の取り組み議論が空転状態にあります。このドイツvsフランスの対立はまだEU内の話ですが、いよいよ地球温暖化緩和としての温暖化ガス削減を巡る世界バトル勃発の前哨戦との見方もできるかもしれません。
2009年コペンハーゲンで開催されたCOP15では、当時の鳩山首相が日本の2020年温暖化ガス削減目標として25%削減をぶち上げました。しかしCOP15自体が空転、この25%削減が強制力のない口約束に留まり、おそらく産業界中心に胸をなでおろした人も多かったのではないかと思います。原発拡大をベースとしたシナリオでしたが、その後の福島第1原発事故を考慮に入れなくとも、国内での削減活動中心(真水分)では全く見通しがつかない目標でした。
また前自民政権時代ではあったとは言え、日本の環境技術を積極的に世界に展開し削減効果を高めようとのセクトラルアプローチを取っていた中にも関わらず、国連総会とCOP15でそれを完全に逸脱したスピーチを行ったことはまさにスタンドプレー以外のなにものでもありませんでした。私も鳩山首相の退陣とその後の政権交代によりこれが口約束に終わったことに安心したものです。
ですがあくまでこれはあまりにも非現実的な目標が取りやめになった安心であって、決して地球温暖化対策を先送りし、日本としての削減努力をしないで良いと言っているわけではありません。しっかり削減を進めるにせよ、世界全体としての温暖化緩和に結びつかなくては意味がありません。
仮に国内だけで25%削減が国際公約になると、CO2排出の多い鉄鋼、セメントといった産業は単位生産量あたりのCO2を海外勢に比べ削減できる技術を持っていたとしても、それでも日本で操業することができなくなる可能性がありました。そのことによって、日本勢に比べるとはるかにCO2排出量の多い海外勢の生産量が増えてしまっては、結局世界全体ではCO2が増える本末顛倒になってしまいます。
もちろん技術移転によるCO2削減クレジット制度などもないわけではありませんが、その審査やカウントなども国際政治が決める話です。国際CO2トレードなどでは、日本勢のCO2クレジット大量購入をあてこんで制度設計を検討していたとの話も耳にしました。これを防ぐ方策として、産業分野ごとにその排出基準を決め、その分野の世界全体での排出総量を削減しようとの考え方がセクトラルアプローチでした。国対国の国際政治バトルの中ではこの方式がなじまなかったのか、また実施にあたっての審査基準がまだ具体化できていなかったのか、サポートする味方がいなかったのか、COPでの議論の土俵にあがらなかったのは残念です。
技術を磨いた上でしっかりと交渉を
この環境保全、エネルギー保全の実効面では、日本の自動車が技術面、商品面含め、トップを走っていると自信をもって申し上げることができます。エネルギー保全、環境保全に貢献していくことが日本の生きる道です。しかし、国際政治の舞台は正論だけ、きれいごとで回っているわけではありません。ハイブリッドを筆頭にコンベの低燃費車も、また発展途上国で生産する小型自動車も日本のクリーン&低燃費自動車がその存在感を強めています。しかし、ここも規制、規則、国際標準、試験法など国際交渉の中で決まっていきます。もちろん、商品力、技術力が第一ですが、それだけでは不十分、デファクトを目指すには、国際交渉力、政治力、仲間づくりも必要になってきます。
この海外での日本のハイブリッド車やサブコンコンパクト低燃費車のCO2削減分は、鳩山さんがCOP15で約束した25%CO2削減にはカウントされません。セクトラルアプローチの対象にもなりませんが、この技術移転分、現地化分などはまだこれからのCOPでの国際条約締結にむけ交渉材料になるのではと期待しています。自動車分野でも低燃費をめぐっては商品力としても激烈な戦いが始まっています。ここに国力をかけた国際政治バトルの側面もあることを忘れてはなりません。