プリウスPHV日記-4

プリウスPHV使用開始から1年

昨年4月に納車されて以来、私の足として使ってきたプリウスPHVが1年を過ぎましたので、その一年のまとめを報告します。

私はエンジニアとして、次世代車であっても安全・安心性能とそれを支える信頼性品質が何よりも重要で、その上でエコ性能を追求しようという信念でハイブリッド開発にとり組んできました。そうして送り出したプリウスですが、厳しい企業・製品評価で有名なJ. D. Power社の米国経年車品質ランキングで今年も連続でコンパクト車クラスNO1を獲得してくれました。これはハイブリッド車カテゴリーでの品質NO1ではなく、従来エンジン車を含めたNO1です。トヨタのハイブリッド車は販売台数500万台を突破しましたが、これは絶え間ない品質向上に努めてくれたスタッフ達による偉業であり、今も彼等は日夜飛び回ってくれいるのに間違いないと思います。

さて、今日のテーマから少し脱線しましたが、このプリウスPHVも品質NO1のDNAを引き継ぎ、この1年間、故障ゼロ・不具合ゼロで走り続けてくれました。自動車は工業製品であり、このような品質向上の努力を続けないとあっという間に故障率が増加し、お客様の信頼を失ってしまいます。プリウスPHVもこの品質NO1のDNAは引き継いでくれていることにほっとしました。

実用上には全く不便なことは無いプリウスPHV

上の図1は、この2012年4月20日から今年4月13日までのこの一年の走行結果を、以前にトヨタにお願いして使っていたプリウスPHVの前身で、実証テストを兼ねた限定PHVとその前に使っていたノーマル三代目プリウスの結果と比較して示したものです。

この1年の総走行距離は15,479km、平均的なユーザーの1.5倍以上ですが、それでもその前の限定PHV車18485kmに比べると大幅に減ってしまいました。二度の海外出張などクルマをおいての出張も多く、クルマを走らせた日数は259日、使わなかった日数は101日、稼働率72%です。

2月にブログで紹介した新プリウスPHV日記-3の走行ログと比較すると、その後に寒の戻りの寒い日が続いたせいか、また豊田や名古屋への何度かの出張で新東名を少しオーバースピードで気持ちよく走ったせいか、大幅に燃費・排出CO2を悪化させてしました。 

今のクルマの用途をカバーし、さらに電池エネルギーを使い切ってもノーマルハイブリッドと同様低燃費ハイブリッド走行ができるのがプリウスPHVの特徴です。 ノーマルプリウスから乗り換えて正直な所、全くサプライズは感じませんでしたが、この充電を気にせず走り回れるメリットは非常に大きいことを実感しました。充電器も屋内車庫に据え付けにしましたし、今回のPHVでは充電ポート部に照明がつけられましたので、夜間に差し込み口を探すことも、また重く扱いづらい充電ケーブルをもちあるくことも不要になり、充電操作そのものは楽になりました。

外出先での充電は、トヨタに出張したとき以外は全く無しで、ガス欠にでもならない限りはわざわざ充電ステーションをさがして出かけることはPHVでは全く不要です。また、充電電力を使い切ったあとも低燃費ハイブリッド走行ができることも特徴の一つで、こうして燃費メリットを引き出せるのはプリウスならではで、従来エンジン車をPHVに改造したようなクルマでは出来ない芸当です。

原発停止で日本の発電CO2が急増、PHV・EVの環境改善寄与は薄く
なお、2月のブログでは、発電CO2として東日本大震災前の2010年経産省エネ庁エネルギー白書データーの各電力会社がグリーン開発メカニズム(CDM)購入分を除いた真水の値の418g_CO2/kWhに原発停止分を勘案し450g_ CO2/kWhで算出しましたが、最近電事連から公表されたデーターでは原発停止の影響が大きく2011年度では510g_ CO2/kWhと20%以上も増加しており、上の表はこの値を使って計算し直した結果となります。

2011年 CO2排出実績と見通し{電気事業連合会HP}

この資料によれば、日本全体の電力総使用量は2010年度の9,060億kWhから3.11後の計画停電や節電の徹底、生産の落ち込み、長引く経済不況から8,600億kWhと減少したにもかかわらず、発電のCO2排出量は3.74億t_ CO2から4.39億t_ CO2と、CO2排出を削減しようという流れに逆行する形の、由々しい増加を記録しています。

この発電CO2を使用した場合、限定車時代は私がAC100V充電をし充電効率が78%だったのに比べ、原稿PHVは車両充電器の効率向上とAC200V充電に変更した事によって充電効率89%にまで向上したにも係わらず、図1に示すようにEV比率36%だった場合のプリウスPHVの走行距離あたりのCO2排出量は111.9g_CO2/kmと、外部充電なしのノーマルプリウスの122.7g_ CO2/kmと比べてわずか9%の減少に留まっています。この減少率ならば、ノーマルプリウスが燃費向上でもう一がんばりすれば追いつくレベルです。

このように、発電CO2をしっかりと計算することは必要で、走行中ゼロエミッションとのキャッチフレーズはCO2削減に関してはまったく意味はないだけでなく誤解を招くもので、例えば英国ではこの広告表現は不正確として禁止されているのは当然の事に思えます。これは勿論、PHVだけの問題ではありません。

プラグイン車推進の見直しを考える時期では

一方でガソリン消費の削減をみてみると、インパネ表示の充電電力走行(EV走行)によるガソリン消費削減量は226リッターで、充電電力を使い切ったあとのハイブリッド走行燃費が三代目プリウスの日本のユーザー燃費サイトe-燃費の調査値21.5km/Lと同じ燃費で走れたとして計算した値239リッター、この中をとって230リッターレベルがプラグインによるガソリン消費削減量でした。

日本の最近のガソリン価格リッター150円では年間約35,000円の削減となりますがこれに充電電力の電力料金を差し引くと、安い夜間電力料金での充電をメインに行ってもその経済メリットはそれほど多くはないのが現状です。

長距離ドライブの頻度が大きく、年100日以上もクルマを使わない私のカースタイルでも、年間5,680kmもガソリンを使わず充電電力で走った勘定になり、急速充電器の整備は不要ですが、勤務先、出張先、宿泊するホテル、ショッピングセンターにAC普通充電器が用意されるようになると充電頻度を高めることは容易だと思います。

しかし、ピークオイル論が遠のいた今、また電力CO2が増加してしまった日本でプラグインハイブリッドだけではなく、電気自動車を使う意味はかなり薄くなったというのが正直な所です。これは中国では更に問題で、発電によるCO2排出が多くまた大気汚染の多い石炭発電を多く行う中国では、ノーマルハイブリッドと比較すると電気自動車の方がCO2排出を増加させるばかりか、PM2.5の大気汚染まで悪化させて、日本への広域汚染にもつながるものとなるというのが現状です。

ピークオイルの心配と、地球温暖化緩和のためのCO2削減として現役ハイブリッド開発リーダーとしてプラグインハイブリッド開発をスタートさせ、トヨタから離れたあともプラグインハイブリッド普及のサポートをしてきましたが、ピークオイルの心配が遠いた今、フランス、カナダ、スウェーデンなど水力発電や原発比率が大きく発電CO2が低い一部の国を除くと外部電力によるEV走行でCO2削減メリットが出せなくなってしまいました。今、自動車業界は果たして何のために外部充電EV走行をするのかという根本の疑問に立ち戻り、プラグイン自動車の目的をもう一度問い直す時期に差し掛かっていると個人的には考えています。

もちろん超長期的には、この発電CO2は削減するというよりも削減させねばならず、低CO2電力が使用出来るようになれば、急速充電ネット整備も不要で既存液体燃料インフラと一般電力インフラが使えるプラグインハイブリッドが有望であるという意見は変わりませんが、こうした低CO2電力供給に見通しがつくまでは、全てがプリウスタイプのフルハイブリッドとは云いませんが、エコラン+αの「マイクロ」「マイルド」から「フルハイブリッド」まで、初代プリウスの時から言い続けたハイブリッド技術をコアにするシナリオがいよいよ本命になったと確信を深めています。

しかし現状では補助金を貰いながら自動車諸税の減免を受けたとしても、経済メリットもほとんどない状況で、これではプラグイン車の売れ行きは日米欧とも芳しくないのは至極当然で、今後プラグイン車が本当に市場に受け入れてもらうためには、さらなる販価ダウンと単なるエコだけはない新鮮さ、サプライズを感じるPHVならではの商品力アップが必要と感じています。