プリウスとCOP3~COP18の15年

今からちょうど15年前の12月10日、初代プリウスは豊田市にあるトヨタ自動車高岡工場で生産を開始しました。それから15年、いまではプリウス・アクアなどハイブリッド車が走っているのが当たり前の光景になってきたことに隔世の感を覚えています。

昨年、日本でのハイブリッド車が新車販売台数の10%を越えるようになりました。今年はさらにその比率が増え、9月までの累計では17%にまで増加しています。米国、欧州ではプリウスブレーキのリコール問題やトヨタ車の予期せぬ加速問題に端を発したハイブリッド車の電子制御への不安感からハイブリッド車販売が停滞してしまいましたが、今年になり、米運輸省道路交通局(NHTSA)と航空宇宙局(NASA)の綿密な調査で「白」判定のレポートがだされ、信頼回復も進み販売台数が急回復をしています。米国では10月までに過去最高の2007年の販売台数を上回っており、またトヨタ以外の会社からもFord C-Max、VW Jettaなど新型ハイブリッド車が続々登場し、本格的なハイブリッド車競争時代の到来、普及拡大が期待されます。

「COP3までにハイブリッド車を完成させよ!!」

初代プリウスは、様々な本でもとりあげられているように、燃費2倍のハイブリッド車を、発売時のキャッチフレーズ“21世紀に間に合いました”どころか、“何が何でも京都COP3のタイミング間に合わせよ!”との当時のトップからの厳命によって開発された車で、やっと最初の試作車がよたよたと走り出した95年12月に、すでに残り2年を切るなかで量産開発をスタートさせたプロジェクトです。

通常、新エンジンや新トランスミッションなど大がかりな製造設備が必要なユニット部品を新造するには早くても4年はかかると言われている中、開発期間をその半分以下、それもまったく経験のないハイブリッドシステム開発をやろうという異例中の異例の超特急プロジェクトでした。もうダメとの難局を何とか乗り切り、10日の生産開始にこぎ着けることができました。このCOP3に間に合わせよとの厳命も、12月1日から京都国際会議場で開催されていた第3回国連気候変動枠組条約締結国会議(これCOP3の正式名称)に、量産ライントライとして生産したクルマを持ち込み、展示・連絡車としてなんとか間に合わせることができした。このCOP3で先進国がCO2など温暖化ガス排出削減を約束した京都議定書がもめにもめながらも採択されたのが最終日の11日でした。

エコ製品は普及したが、国際会議は……

そのCOPがスタートする切掛けとなったのが、1992年6月ブラジル・リオで開催された環境と開発に関する国際連合会議、通称世界環境サミットでした。以前のブログでも紹介しましたが、この世界環境サミットが低燃費、低CO2次世代自動車ではトヨタが先陣をきりたいとのハイブリッドプリウス開発スタートのドライビングフォースだったと思います。それから15年、次世代自動車では、トヨタ、ホンダの日本勢が90%近いシェアを示し、累計販売台数でも約600万台強と自動車のCO2削減をリードし、大きな貢献を果たすまでに成長させてきました。

この自動車だけではなく、エコキュートなどヒートポンプ分野でも、さまざまな環境製品でも、産業分野でも効率化、省エネ、省エネ商品の開発と供給で世界全体でのCO2削減に貢献してきていると、堂々と自負することができます。今月、これもCOP3から15年後、中東カタールのドーハでCOP18が開催されましたが、京都議定書にかわる次ぎの目標はまたも先送りとなり、さらにわれわれ日本の産業界が省エネ、CO2削減技術の実用化、技術移転で大きな貢献を果たしているにも関わらず、国際政治、外交の場では日本の存在感が低下してきているのが非常に残念です。

先日、米環境保護庁(EPA)から今年発売された2013年モデル各社の公式燃費、ステッカー燃費値が発表されました。発表された1082車種の総平均燃費は20.9マイル/ガロン、8.87km/リットルです。

プリウス、プリウスc(日本名アクア)がどちらも50マイル/ガロン、21.3km/リットル、米運輸省によると、アメリカの一人当たり年間平均走行距離は20,000km強ですので、この走行距離で平均燃費のクルマの替わりにプリウスやプリウスcに置換えたとすると年間のCO2削減量は台当たり3.3トンにもなります。日本、欧州ではアメリカほど走行距離は多くはなく、年間CO2削減量もこのアメリカ並みとはなりませんが、日本のハイブリッド車600万台の貢献は決して小さなものではありません。

本質を伴った省エネ技術の推進を

2009年国連本部での環境サミットで、当時の鳩山首相が国内のシナリオ議論もまったくないまま、2020年までに90年比25%温暖化ガス削減を宣言しました。この目標には、我々が世界に供給してきた次世代自動車による削減効果などはカウントされていません。一部、環境技術の輸出、技術支援による削減分はカウントされていますが、日本の国内削減目標が一人歩きし、厳しい規制の縛りや、日本だけの削減目標達成のため、電力料金やエネルギーコストが高騰してしまっては、電気、エネルギーを使う国内での製造業は国際競争力が失われます。

国内での地盤低下は、高効率技術、省エネ技術の研究開発のパワーも削ぐ危険を懸念します。安価な電力、エネルギーを求め、日本で製造するよりもはるかにCO2排出の増加する、たとえば中国に製造移転をするようになっては、かえってエネルギー効率を悪化させ、グローバルではCO2排出を増やしかねません。もちろん、これからも次世代自動車など省エネ、高効率技術開発をリードし続けることが日本の責務と思いますが、その普及、技術移転を進めるためにも、この省エネ、環境分野での政治・外交パワーも少しは発揮して欲しいものです。

先週、今週と、自宅付近を走っていて1997年12月~2000年4月まで生産していた、初代プリウスの初期型が走っているのを見かけました。初代のシンボルカラー、エコ・グリーンと白のプリウスです。15年近くたっていると思えないくらい、手入れもしっかりしてお使いいただいいている様子に大変嬉しくなりました。

今のクルマは新車登録から廃車までの平均寿命が10年を越えるようになってきました。今走っているクルマが入れ替わるのに10年~15年掛かると言うことです。グローバルでの自動車燃料としての石油消費削減、CO2削減の実効を高めていくためにも、次世代自動車の販売比率をもっと拡大していかなければこの2020年、2025年の削減量を増やして行くことはできません。次ぎの15年、ハイブリッド車の更なる飛躍を、これも日本勢がリードしていってくれることを祈ります。