プラグインプリウス日記 1年間の総まとめ
今年1月末に発売を開始した新型プリウスPHVが納車されましたので、それに乗り換え、一年の約束で使っていた限定販売のプラグインプリウスをお返ししました。(今回、わかりやすくするために、これまでの限定販売のモデルをプラグインプリウス、一般販売した新型をプリウスPHVと表記します。)
今回はこの一年の走行まとめと、その結果および概要などを報告したいと思います。もちろん、私はトヨタをリタイアしたとはいえ、業界の人間、このプラグインのプリウスは現役開発エンジニアとしてスタートさせた最後の仕事であり、エンジン開発、ハイブリッド開発にどっぶり40年以上浸かっていましたので、身びいきが入る分はご容赦下さい。
プリウス以前のプラグインハイブリッド
以前にこのブログで書いた記憶がありますが、初代ハイブリッドプリウス開発の時代から、プラグインハイブリッドは頭にありました。当時は、ハイブリッド・コンセプトといえば、カリフォルニア州で規制が決まったゼロエミッション車、すなわちバッテリー電気自動車の欠点をカバーすることを目的とした、プラグインタイプのレンジエクステンダーハイブリッドが主流の次代でした。(その頃はレンジエクテンダーという呼び名ではなく、シリーズハイブリッドと呼ぶのが一般的でした。)
バッテリー電気自動車の欠点はその頃も今も同じで、走行距離の短さ、バッテリーのコスト、バッテリーの重さです。トヨタのZEV対応車として製作したRAV4EVでは、車高の高いSUVをベース車としその床下一面に重量が450kgの当時としては最先端の電池を搭載しました、重く大きく450kgものレアメタルが多く使われた電池ですから、そのコストは押して知るべし、とても量産車と呼べる代物ではありませんでした。
そしてその450kgの電池を搭載してすら、フル充電からの航続距離は当時のアメリカ都市モードで160km、ロス地区での実走行ではエムプティ点灯までの余裕をとると50マイル(90km)がいいところした。この短い航続距離、割高どころではないコスト増、いかに法規制よるものとしても、赤字の垂れ流しでは企業として事業の継続はできませんので、この欠点を補うものとして、プラグインハイブリッドが検討されていました。
しかし、カリフォルニア州の規制当局CARBは、発電機用でもエンジンを搭載するクルマはZEVとは認められないとの最終判断を下し、当時このハイブリッドは日の目を見ませんでした。
プリウスの開発はこの決定が下された後にスタートさせたもので、もちろん排気のクリーン度はZEVに劣らないレベルを目指し、その上でZEV規制のくびきを離れ、21世紀のグローバルカーとして石油燃料消費、CO2排出の画期的な削減が狙い、我慢のエコカーではなく、安心、安全の次世代自動車を目指したものでした。ですから初代プリウスハイブリッドシステム記者発表の資料の冒頭にも、下のようにEVのような外部充電を必要とせず、既存のインフラに適合した画期的な低燃費車と説明しています。
長時間充電しても、航続距離は短く、普通のクルマとしては使えないというのが当時の電気自動車のイメージでした。そのイメージを払拭したかったというのがこの表現です。
しかし、ZEV対応を目的としなくても、将来石油需給の逼迫、温暖化緩和に対しては、既存電力インフラからの充電で走行エネルギーの一部を補う、プラグインハイブリッド構想があったことも確かです。数回前のブログで気に言った表現として紹介した、さまざまなエミッションを他で排出するZEV、エミッション・エルスオエア・ビークルではなく、安心、安全なグローバルエコカーとのコンセプトはプラグインハイブリッドでも外すことはできません。
プリウスPHVはエミッション・エルスオエアの部分、すなわち発電時に出すエミッションを含めたクリーンで低CO2排出のクルマ、さらに実際に今永らく使われてきたエミッション、CO2排出の多い経年車に変り同じように使うことができるクルマが狙いです。最近の講演では、電池充電を忘れても普通以上に走れるクルマ、充電をすればその分ガソリン消費が少なくなるクルマ、さらに充電電池を使い切った後は燃費の良いハイブリッド走行と紹介しています。
一年間の平均燃費は31.2km/l
前置きが長くなってしまいましたが、このような狙いで開発をスタートさせたプラグインプリウスの一年間の走行結果まとめを報告します。表1は1年間のプラグインプリウス走行結果のまとめです。昨年4月28日に受け取ってから先週19日に返却するまで、ほぼ1年357日間使用しました。この間、海外出張4回含め、呑む機会のある出張、デスクワークなどハンドルを握らなかった日が93日、実際ハンドルを握った日は264日、稼働日数比率としは74%、総走行距離は18,465kmでした。月平均1,500kmと日本の自家用車ユーザー平均の9,000kmを遙かに超えるヘビーユーザーです。この間の給油回数は20回、591Lのガソリンを使いました。
総合累積燃費は31.2km/l、3代目プリウスのJC08カタログ燃費の32.6km/Lには届きませんでしたが、日本でもアメリカでのユーザーの実使用平均燃費に近いアメリカのEPAラベル燃費50mpg(21.3km/L)や日本のユーザー燃費サイトの数字21.7km/Lに比べると約50%の燃費向上となりました。(プリウスの実燃費についての詳しいところは、以前のブログhttps://cordia.jp/?p=286をご覧ください)
EV走行比率では31.2%と、このクルマの公式燃費算出に使われている比率46.2%(ユーティリティファクター)に比べると低い値になっていますが、これも長距離ドライブが多いヘビーユーザーであるが故の結果だと思います。しかし、年間の走行距離が多いだけに、31.2%のEV比率であっても年間1,049kWhの充電電力分、走行距離として5,761kmもガソリンを使わずに走行できたことになりました。図2に一年間の日当たり走行距離をプロットした走行ログを示します。
日当たり走行距離500km越えは、三島の自宅から豊田/名古屋地区への日帰り出張、250km~350kmの大部分は宿泊出張の片道、年の後半は酒を呑む機会が増え、宿泊出張や電車での往復で、500km越えの日帰り出張はありませんでした。環境のためには、こんなにクルマを使うのは良くないとのお叱りが聞こえてきそうですが、プリウスハイブリッドを使うと、豊田、名古屋地区への出張では経費も安くすみ、さらに時間も有効に使えます。
現地での移動にタクシーを使うと、費用が高くつく他、CO2排出も増えかねません。さらに、根っからのクルマ屋、走る事そのものも好きですし、様々なところを走り回り、隅から隅まで、そのクルマのあら探し(次ぎの改良点探し)をするのを仕事にしてきましたので、今でもその癖は抜けません。自由な移動手段、そのうえ走ることそのものでも精神の解放を味わうためのクルマを、これからも使い続けるために低燃費、低CO2に取り組んだといったほうが正直なところです。少し脱線しましたが、このログデータを基に自動車の使い方について議論させて下さい。
EVの適性、PHVの適性
私も日常のショッピング、送り迎え、リクレーションなどはほとんど充電エネルギーで走っています。265日のハンドルを握り、5,761 kmのEV走行とすると、長距離ドライブに使った日を含め、平均20km強は外部電力充電によるEV走行をしていることになります。
この充電電力を使い切ったあとはノーマルHV走行になりますから、充電切れを心配する必要はありません。このグラフで80kmラインに赤線を引いたのは、EVを使ったときの航続距離イメージを示すためです。以前のブログでも触れているように、私も日産LEAFほか様々なEVを使ってみました。また過去のRAV4EVを使った経験からも、次ぎの充電までの余裕ギリギリとったとしても、夏のエアコン、冬のヒータ運転を想定すると余裕をみて航続距離80kmが心理的に安心して利用できる目安としました。
ヘビーユーザーに入る私ですらこの走行ログに現れているように、日常のショートトリップの大部分はこれでカバーできますので、これを越えるドライブを100%しない用途としてお使いの方であれば、EVはその価格を除けば静かでクリーンで素晴らしいクルマです。
ただし、これを越える用途でEVを使用するとなると難しいものとなります。公共充電インフラ整備、急速充電設置を急げとの声もありますが、80km越えの長距離ドライブではPA/SA毎に充電が必要になり、そのたびに「お茶でも」ではありませんが30分もかかります。スローライフ的にゆっくりと移動するというイメージ戦略もあるかもしれませんが、そうなる高速移動体としてのクルマの存在価値と矛盾するものです。しかも、もし充電ポイントが使われていれば次ぎの充電ポイントまで電池切れをヒヤヒヤと心配しながら走ることになり、ゆとりとはかけ離れたものとなります。また、そういった事のないようにと、充電スポットを沢山設置するとなれば、莫大な金額の投資が必要となりあまり現実的ではないでしょう。
プラグインプリウスでは、自宅外で充電したのはたった3回、それも必要だったからではなく、外部での充電そのものを目的としたお試しの充電です。平均的な個人ユーザーでは、日常のショートトリップが多く、私との差は長距離走行の頻度の違いが大部分でしょうから、これが少なくなるとEV走行比率はどんどん増加し、限定車のカタログ値としての比率46.2%、新型プリウスPHVの48%に近づくと思います。さらに、勤務先駐車場、ショッピングセンター、宿泊のホテルなど出先の駐車中に充電ができるようになると、搭載電池をあまり大きくしなくても走行比率を高めることができます。
このプリウスPHV限定車を使って、公募したお客様を対象に行っているフランス・ストラスブール市の実証プロジェクトでは、1台あたりの充電設備を、契約会社の駐車場、そのクルマ共同利用する従業員二人の自宅、合わせて3箇所に設置して、EV走行比率向上のトライとしてスタートさせました。その結果、EV比率は大きく増加したとの結果が得られています。このプロジェクトでは、フランス電力EDFやフランスエネルギー省、ストラスブール市とタイアップし、中心部の地下駐車場、市役所駐車場、都心部の路側帯駐車スペースに公共充電ステーションも設置しましたが、実使用では充電の97%が自宅と会社駐車場での充電、公共充電ステーションは殆ど使われないとの結果でした。70台強のプリウスPHVが走り回り、その年間走行距離の平均は約24,000km、欧州の平均16,000kmを大きく越え、従来車のそのものの用途として長距離ドライブにも使われています
甘くないプラグイン車の普及
プリウスPHVはEV距離が短すぎ、中途半端とのコメントを耳にします。もちろん私的にももう少し延ばしてくれればとの思いもないではありません。しかし、今一度、EV走行の意味を考えてみる必要があるように思います。なんのためにEV走行距離を求めるのか? エンジンを使うのが悪、EV走行が善との短絡的に扱わることが残念です。
1990年代のカリフォルニアZEV規制は光化学スモッグが改善していかないことを市民から迫られ、州政府がその対策効果というよりもしっかりやっていることのアピールとして決めた法律でした。すべてのクルマをEVにできるならば別ですが、古いクルマが併存する状況では、クリーン度向への寄与はありません。石油消費削減ならば、いまのクルマに変わって普及し、同じような用途で輸送距離、走行距離の肩代わりが実効をあげる条件です。年間走行距離が限定されるようでは、また従来車と使い分けられ、古い従来車の代替が進まなければその効果が上がらないことは明かです。さらに、CO2削減効果を追求するなら、発電時のCO2、エミッション・エルスオエアを考慮に入れなければ意味はありません。このCO2削減では、3.11福島原発事故以降、発電のCO2がどんどん増加し、これはPHVもEVも同じですが、ノーマルハイブリッドとほとんど変わらない排出量になってしまっています。プリウスPHVのCO2排出についてのWTW分析、LCA分析は別の機会に報告したいと思います。
大都市での郵便配送、宅配サービス、ショートトリップ専用のセカンドカーなど、EVの良さと、その限界を理解したうえで使って行く必要があり、普及の努力に水をかけるつもりはありませんが、エンジンを持たずEVだけで走らせること、その走行のゼロエミッションに意味はあまりないことは再度強調させて戴きたいと思います。
さらに現在のPHVもまだまだですが、補助金前提の一杯一杯の価格設定では、普及は期待できません。お客様を侮ってはいけません。アメリカでも、日本でも、欧州でも、昨年EVやPHV/EREVの売れ行きは芳しくありませんでした。今年に入ってもノーマルハイブリッド車の伸びに比べると、充電を行うプラグイン車の販売は低迷しています。
補助金をいただいてもガソリン消費削減代でカバーすることは困難です。加えて充電用設備の工事費追加、さらにはマンションなど集合渋滞句での充電はほぼ不可、充電設備が必要など、そのメリット、お使い戴く上での課題をご検討され見送られているケースが予想以上に多かったようです。”PHVですら“と敢えて言わせていただきますが、この状態、安全、安心、安価、使い安い充電設備を開発し、Step by Stepで整備し、さらに電力のCO2を下げ、それでも電力料金の高騰を抑え、将来の普及を目指して行くこと、さらにクルマとしての魅力アップも必要です。
走ってクルマのあら探しをするのが習い性、次から次に見つける気になるところを指摘してきましたが、新しいプリウスPHVはかなりの点が改良されているようです。この新プリウスPHVとの比較、走行の印象はまた別の機会に報告したいと思います。