まちづくりと新交通ネットワーク
先日、約100台のプラグインプリウスを集め、次世代自動車としての大規模実証試験を行っている、ストラスブールから興味深いニュースが入ってきました。
そのニュースとは、市街地の自動車最高時速を30km/hに制限する条例の準備を進めているというものです。対象地区は未定とのことですが、周辺の大通りと市街地区を迂回するバイパス路への連絡路を除いて、最高速度を30km/hに制限する方針を提示しているようです。
ストラスブール市の交通政策
もともとイル川と運河に囲まれた中州地帯にあるストラスブールの旧市街地は、今でも厳しい速度制限と自動車の乗り入れ制限が行われ、しかも旧市街地区の地下駐車場の料金は東京なみに高く設定されており、決してドライバーに優しい街ではありませんでした。
しかしその分、歩行者や自転車にとっては比較的安心して動き回ることができる街となっており、旧市街地区は数多くの歩行者、自転車でいつも賑わっています。その賑わいの中心に欧州の地方都市にはどこでもある広い広場があり、その周辺にショッピングセンター、レストランが軒を連ね、日本の地方都市のようなシャッター商店街は見かけません。
ストラスブールはアルザスの中心都市、EU議会が設置されているとはいえ、人口28万、都市圏人口を合わせて45万の地方都市ですが、4路線のLRT網があり、今年にはもう1路線が新設され、さらにフランス国鉄路線にも乗り入れることが決まるなど、公共交通網の整備を着々と進めています。
それと合わせて、市街地バイパス路やその道路への乗り入れ道路の整備を行い、その上で自動車乗り入れ制限地域を拡大、同時に自動車の最高速度制限を強化する方針を打ち出したようです。
私も何度かストラスブール市や都市圏(アーバンコミュニティー)の代表者やLRTや路線バスなどを運営している交通公社の方々とも話をする機会を得ましたが、過去にそのような分野の方に多かった脱自動車を前提としてそれに邁進するような意見ではなく、旧市街地を中心に、守るところは守り、新しい町作りとそれに沿った自動車との共存をめざす新しいネットワークづくりを進めると言っておられたことが印象的です。
基本的には人・自転車と自動車の通行帯を分離、LRTなど公共交通機関を整備と割安な料金設定、郊外LRTターミナルでのパーク&ライド駐車場の整備と割安な料金設定、大規模な駐輪場の設置、さらには割高な市街地の駐車料、自動車乗り入れの時間制限など、一律の規制ではなく、様々な方向から中心市街地への自動車乗り入れ台数の抑制をはかり、そのうえでの自動車最高速度制限の強化です。
市街地内自動車最高速度30km/h制限により、歩行者・自転車最優先をさらに進め、さらにその先には、電気自動車やプラグインハイブリッド車に乗り入れインセンティブを与える交通政策を考えているようです。このような、30km/h程度の最高速度制限を行う市街地限定モビリティを考えるならば、もっともっと軽量、安価な電動モビリティもありと思いました。現市長のローランド・リース氏もこの政策を強く推しており、プラグインハイブリッド実証プロジェクトの良き理解者です。
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街づくりの財源は?
このような公共交通機関の整備、運賃やパークアンドライト駐車料の割安な設定、市街地を迂回させるバイパス路や取り付け道路の整備、どのような資金でやっているのでしょうか? 実際には、公共交通機関の経営は運賃収入だけでは、大幅な赤字、それを地方自治体と国で補填、税金を投入してこのような町つくり、交通ネットつくりを進めています。
これは、2年ほど前に訪問した、ストラスブールからライン川をわたり、アウトバーンを1時間ほど北上したところにあるドイツのカールスルーエ市の交通土木局の方にも説明してもらいましたが、ここも環境都市としてそのトラム網整備で有名な街で、パークアンドライド、LRTのさまざまな運賃優遇制度などを導入しており、ここも大赤字、整備、運営費の70%は税金からの補填と言っていました。
このような交通政策もあってか、欧州都市の印象として、日本地方都市のようなシャッター街の出現が殆ど起っておらず、中心街に人出が多く、活気がある印象です。交通政策だけではなく、郊外大型店舗が日本ほどはめだたないように感じますので、これも何らかの規制措置があり、野放図な規制緩和による郊外拡散化は避けてきたようです。
日本で最近言われるようになった、地方都市活性化、中心街再生と回帰が、欧州ではもっと早くから行われていたように感じます。
さて、このようなLRT網整備、その運営はどのように行われているのでしょうか?
70%もの国民・市民負担は巨額ですが、地方都市の活性化、高齢化対応、低カーボン社会へのアプローチとしては有効な政策のようにも感じます。
日本でもこのような街づくりが導入できるのか?
この先は、政治の話、日本でも地方都市の活性化と合わせた新交通ネットワークを真剣に考える時期にきています。
昨年12月には、経産省から「EV・PHVタウン構想」の第2陣として、これまでの8自治体に加え新たに10自治体を追加選定したとの発表がありました。次世代自動車、新交通ネットワークさらに低カーボン都市作りの活動としては、2008年当時の福田内閣時代に設定された「環境モデル都市事業、国土交通省管轄の「低炭素都市づくりガイドライン」、さらには総務省管轄「環境負荷低減型ICTシステム基盤確立事業」などなど枚挙にいとまはありません。
これらが、うまくリンクし、地方都市の再活性化と新交通ネットワーク、それを日本がめざす低カーボン&安心社会の柱として取り組んでほしいものです。しかし、くれぐれも地方限定の、日本限定のローカルなガラパゴス化だけは避けて欲しいと思います。
ストラスブール市での、市街地自動車最高速度を30km/hに制限する条例の話から、都市づくりと新交通ネットワークに話題をとりあげましたが、欧州の人たちと話しをしても、一時期のような環境一途の脱自動車の話にはなりません。
ストラスブールも市街地から15分も走ると、快適な高速道路、郊外では最高速度制限130km/hの高速クルージングが楽しめ、また郊外の一般路も町をはずれると、もちろん自己責任ですが制限速度90km/hのカントリー路ハイスピードドライブができます。しかし、町中の速度制限、高速道路の制限速度取り締まりは日本以上に厳しいですので集中運転が必要です。
また、これもストラスブールでライン川を渡り20分も走るとドイツ、そこではかの有名な速度制限のない自動車専用道路アウトバーン網が張り巡らされています。もちろん、どこでも速度無制限ではありませんが、無制限区間ではそれこそ、180km/hぐらいで走っていても後ろから200km/h越えのポルシェ、BMWがあっという間に迫ってくる世界です。
ストラスブールからカールスルーエ経由フランクフルトへ約230km、少し飛ばすと約2時間のドライブで到着できます。
個人の自由・権利を重視する欧州の人たちが、この移動の自由、権利をよほどのことが内限り放棄することはないでしょう。そのよほどのことにならないよう、脱石油、低カーボンさらに欧州の高速道路でも安全で快適なクルマをリーズナブルな価格で提供できるように自動車開発屋の頑張りに期待しています。