次世代車は0か1ではない

10年以上使われるクルマ

先週の週末に買い物で私の暮らしている三島の市内を走っていて、わずか20分足らずのドライブで2台の初代プリウスのそれも初期型に出会いました。初期型は、1997年12月に発売を開始してから、2000年5月までの2年半に約3万7千台が日本国内で販売されています。

既に11年から12年以上を経過したクルマですが、手入れも行き届いた綺麗な姿で走っているのを見かけると、そのけなげさに走っていることが嬉しくなるとともに、開発屋冥利に尽きます。

初代プリウス

クルマが10年以上も使い続けられるということは、当時も、今も、さらにこれからも至極あたりまえのことです。自動車検査登録情報協会によれば、新車登録から抹消登録までの平均年数は2010年の調査で12.7年にもなります。この年数の長さに驚かれるかたもいるかと思いますが、この数字ですら平均値ですから、さらに長期に使い続けられるクルマも多くあることになります。また、この平均年数は、長くなる傾向がずっと続いています。

このように10年以上も使い続ける当たり前のクルマとして、13年前にハイブリッド自動車プリウスを開発し、発売を開始しました。やりきる覚悟で、生産開始のギリギリまで、さらに設計現場から生産現場、販売店のサービスまで、多くの人たちの血の滲むような努力でお客様の手元にお届けしたつもりです。しかし、正直言うと10年以上もまた10万キロ以上も普通のくるまとして使い続けられると自信をもって送り出せた訳ではなく、自動車の電動化は将来不可欠になる、その先駆けを我々が務めるとの高揚した気持ちで、清水の舞台から飛び降りる心境で送り出したというのが正直なとことろです。

大きな容量とパワーのハイブリッド電池と、少量の手作りに近い電気自動車用を除くと、大トルク/パワーのモーター発電機をそれも2セットも使ったハイブリッドシステムを搭載したクルマの世界初の量産化スタートです。正直当たり前のクルマとの確信があったわけではありません。発生してしまった市場不具合にすぐ手を打ち、また品質向上に努めてきましたが、初期型は、その電池を始め、さまざまな初期不具合でお客様にご迷惑をおかけしたことも多々ありました。今でもその初期型をお使いいただいたお客様に育てられ、ここまで発展することができたと肝に銘じています。今のトヨタの連中も、この経過を決して忘れることなく、また驕ることなく、次ぎの進化に取り組んで欲しいと思います。

『HEV』から『HV』へ

ハイブリッドが普通のクルマになりつつあり、このハイブリッド自動車をHVと表記する例も数多く見受けるようになってきました。1990年代には、ハイブリッド電気自動車、Hybrid Electric Vehicle (HEV)と呼ぶのが普通で、欧米でくわしく呼ぶ時は、Gasoline Engine Hybrid Electric Vehicle(GHEV), Diesel Engine Hybrid Electric Vehicle (DHEV)の省略系で、どんなエンジンを使うかは省略し、電動自動車を強調する呼び方になっていました。

HEVのEを外し、HVと呼び始めたのは初代プリウスでハイブリッドの技術紹介を始めた1997年以降のことと記憶しています。 3月25日に東京で行ったハイブリッドシステム発表会のパンフレットからHEVではなく、HVとの表記を使い始めたように記憶しています。

自動車エンジン屋を私としては、ガソリンエンジンハイブリッド電気自動車:GHEVと呼び、ガソリンエンジンと電気モーター駆動の「よいとこどり」を強調しようと主張しましたが、あまりにも説明的で長すぎるとのことで、それならいっそ電気のEを外し、HVとしようよと言って決めました。

いまでは、Hybrid Vehicle=HVの表記で、経産省が音頭をとって進めている、次世代自動車戦略検討会や「EV・PHVタウン構想」の表記でもプラグインハイブリッドの略としてPHVが使われています。

ながながと、初代プリウスの回顧録とHVの由来を説明してきましたがこのHVとの表記で消してしまった、前段のガソリンのGやDと、電気のEの将来自動車にむかっての頑張りどころについて述べようというのが今日の趣旨です。

遠くだけでなく、足元もしっかり見よう

トヨタハイブリッドは電気が主で、エンジンは従、ホンダはエンジンが主で電気が従などの意見が取りざたされました。今のハイブリッドは、トヨタもホンダもガソリンエンジンがクルマを走らせる全てのエネルギーを供給していますので、エンジンが主役と言っても良いと思います。エンジンの使い方が少し違うだけで、環境性能だけではなく、走り、静粛性、スムーズさの進化にもエンジンの進化は欠かせません。

ホンダもプラグインハイブリッドにアトキンソンサイクルエンジンを採用したように、エンジンに限っても両方のエンジンの「よいとこどり」をすると、どちらのハイブリッド車も少なくとも燃費性能は高められると推測しています。

スポーツハイブリッドでは、低中速の都市内は住宅地での走行ではエンジンを切ったモーター走行で静かに走ることをお勧めしますが、郊外、高速道路ではやはり回転とともに高まるエンジンサウンドとともに高出力でのエンジン走行で気持ちよく走るためにも、高効率と高出力を両立するエンジンを搭載したクルマの出現を期待しています。

さらに、GやDの次ぎにP (プラグイン)のついたハイブリッドの実用化にも期待していますが、これもPHVの環境性能、商品性能を高めるG/Dの開発に期待します。

もちろん、ポスト石油時代の自動車を視野にいれると、GとDの延長だけでは不十分です。
そこでP(プラグイン)によりE(外部電力)を使うことも有力候補であることは論を待ちません。

しかし、何度かこのブログで取り上げたように、Ni-MHでも最新のLiイオン電池でもこの電池の延長では、GやDを外し、さらにHをはずすP(プラグイン=PURE)EVの実用化が明るいとは思いません。

軽く、コンパクト、さらにコストのためにも少量の電池を、通勤やショッピング、通院、子供の送り迎えなどのショートトリップで賢く使うPHV, PEVが一つの解、その実用化にもこれまで目指してきた商品としてのクルマの進化とのセンスでは、電池だけではなく、充電系、コネクター、コンセントなど、安全、コスト、取り回し性、ケーブルの保管など様々な課題があることを開発屋は銘記すべきと思います。

「どんな」エネルギーを、「どのように」使うか?

そこでもう一度、HVのまえの表現されていない、GとDの部分に触れたいと思います。毎日のショートトリップは外部電力で補うとして、中長距離の移動には、エネルギー密度の圧倒的に大きい液体燃料が自動車用燃料として最適です。

数年前までは、B(バイオ燃料)がポスト石油、低カーボン化の有力候補としてもてはやされました。もちろん、バイオ燃料は食料や飼料との取り合い、リーマンショックの大不況で原油価格が大幅に下がったことなどで、そのブームは去りましが、まだまだ次ぎの燃料の有力候補であることは間違いないと思います。廃材、雑草、海草や海藻などからのバイオ燃料の実用化、さらには昨年ノーベル化学賞を受賞された根岸先生が提唱されている人口光合成触媒の研究にも期待しています。空中のCO2を回収し、水素と合成して液体燃料を作るプロセスすでにありますから、効率の高い、安い触媒が生み出され、またそのプロセスに使う低カーボンでこれまた安い熱源があれば液体燃料合成は今での可能です。コマーシャルベースに乗せられる、その上で量を確保できるかがチャレンジ課題です。

ここで3年ほどまえの将来自動車のエネルギーとして説明していたグラフを示します。

自動車エネルギーの将来シナリオ

この図は、自動車燃料としてポスト石油と低カーボンの要請から、われわれがめざさなければ行けない方向を示しています。点Aが現在で、自動車燃料としてほぼその100%をCrude Oilからのガソリンと軽油を使っています。

そこからの将来の持続可能な方向が点BとCのラインを目指すシナリオが将来の方向です。
点Bは石油を使わない電力か水素、Cはバイオもしくは合成燃料の点です。
ラインBCが電力とバイオ燃料をMixとして使うラインで、BとCをクルマのカテゴリーとして棲み分けて使うか、PHEVとしてミックスして使うかの方向ですが、その電力も水素もまたバイオ燃料も低カーボンプロセスで作り出す必要があります。
外部電力使用=ゼロエミッションとの説明が広まっていますが、その発電方式によりCO2排出量は大きく替わります。石炭火力80%の中国では、少しずつ効率は高くなってきていますが、その電力でクルマを走らせると従来ガソリン車よりも多量のCO2を排出することになります。一人当たりの電力使用量はまだまだ欧米や日本に比べ少ないのですが、経済成長に伴い発電量は急激に増加しており、その増加分の殆どは石炭火力であることにも注目する必要があります。

また日本では石炭火力の脱硫、脱硝が完璧に行われていますが、中国ではまだまだ、オゾン問題、硫酸ミストなど中国からの影響も受け始めていることにも注目して欲しいと思います。

また、日本の発電電力でも、通常のHVからガソリン消費は減らすことができますが、CO2排出としては大幅に減らすことが出来るレベルではありません。低カーボン化には、発電電力からのCO2排出も大幅に低減することが必要であり、太陽光発電や風力発電の拡大も必要ですが、原子力発電以外にも石炭、天然ガスなど火力発電からのCO2回収、固定化技術の実用化が急がれます。

ハイブリッドのEの部分も同じ、軽くて安く安全なLiイオン電池の量産が実現すれば、充電/発電の効率も高まり、また回生発電量も増やすことができ、また電池パックとしての軽量化にも期待しています。パワー素子の効率もまだ進化の余地はあるのではないでしょうか。

いずれにせよ、将来自動車の行方はまだまだ定まっていません。日本のアドバンテージである、ハイブリッド技術など環境技術、エネルギー技術をさらに進化させ、間違いなく進んできている低カーボン自動車へのパラダイムシフトのメインプレーヤーを務め続けて欲しいものです。