スマートグリッドとPHV/EV

明けましておめでとうございます。
毎年元旦の新聞には未来への展望が取り上げられるのが通例となっていますが、今年は「スマートグリッド」「電気自動車・プラグインハイブリッド」が省エネルギ、低カーボン社会への期待の星として取り上げられていました。

 また、少々その成り行きに疑問が提示されていますが、アメリカのオバマ大統領の将来政策の目玉である「グリーンニューディール政策」も、この「スマートグリッド」とそのグリッドに繋がる「電気自動車・プラグインハイブリッド」、家庭、オフィス群によるグリーン&クリーンエネルギー社会の構築をその中心軸においています。

 そもそも「スマートグリッド」ブームそのものが、大統領就任直後の2009年2月にリーマンショック後の緊急契機刺激策として成立した「米国再生、再投資法」の目玉政策として「スマートグリッド」「プラグインハイブリッド自動車と次世代電池」関連分野に110億ドルの拠出を決めたことに端を発した現象のように私は感じています。

グリッドに接続する自動車

プラグインハイブリッド車(PHV)にせよ、電気自動車(BEV)にせよ、電力供給網(グリッド)に接続し、その供給電力を電池に充電して利用されるものです。クルマの走行エネルギの一部、もしくは全部をその充電電力で走るクルマを普及させていくためには、その充電をどのように行うのか、またその供給電力をどのようにまかなうかの研究開発は、このブームが始まる以前からいろいろ行われていました。

先程から「ブーム」という言葉を使用していますが、これは既存の構想や技術が、昨今の低カーボン社会構築の動きの中で、風力発電や太陽光発電など、再生可能エネルギ普及促進政策の目玉として、発電変動抑制の狙いとも結びついて脚光を浴びているというのが実際ではないでしょうか。

ハイブリッドプリウスの開発を担当し、電池の進化をにらみながらプラグインハイブリッドと自動車の電動化を推進してきた私も、将来自動車の観点からこのスマートグリッドの動きを注目しています。ポスト石油、低カーボン社会と、社会構造、産業構造の大変革期を迎えようとしているなかで、どのような形態になっていくのか、今の取り上げられているテーマの延長線なのかは別にして、「グリッド充電自動車」をシステム要素の一つとする「スマートグリッド」が主要な役割を果たすことは間違いないでしょう。

数年前から、将来自動車に関する講演会でも、図1のスライドを使って、スマートグリッドとPHVの充電網を組み込んだITネットワーク社会、すなわちユビキタス化の方向を説明してきました。
PHV_EnergyManagement

この動きを現地、現物で探ってみたいと考え、昨年末にわがやの堀込み式車庫にプラグインプリウスの充電ができるように、100Vと200Vの充電用コンセントの設置工事を行い、また充電電力、その充電状況を記録するため、スマートメータならぬメモリーカード付き電力メータを設置しました。

PHV充電用電力メータ

また4年前の自宅リフォームの折りに、2重窓、断熱強化、エコキュート給湯と床暖房、さらにIH調理器に入れ替えたオール電化にしました。

今年の初めには、この充電設備を使用しプラグインプリウスが走り始める予定ですので、ユーザの視点から、図1に示すような、家庭でのPHVとエネルギーマネージメントシステムの効果と将来性を考えていきたいと思っています。

自動車のユビキタス化も色々話題として取り上げられてから10年以上も経過しました。このグリッドに接続する自動車は、プラグインハイブリッド車と電気自動車から間違いなくスタンダード採用が進むのではないでしょうか? 

しかし、断熱化とオール電化リフォームをやり、また急速充電ではありませんが、自宅やオフィスの100Vと200V系のPHV用充電コンセントの工事費、充電用高圧ケーブルとコネクタの費用、オール電化の費用、家庭用太陽電池と家庭用コンディショナ、スマートメータ機能をもつエネルギ・マネージメント・コントローラ、さらにはプラグイン用充電器、PHV用に容量をアップした電池などの追加費用やコストアップを想定すると、石油の高騰、また低カーボン環境税による優遇策があったとしても、まだまだ費用対効果として普及拡大の楽観的シナリオは描けないのが実際のところです。

ユビキタス、スマートグリッド

PHVやBEVの電池を、風力発電や太陽光電池の負荷変動用バッファー電源として使い、V2G、すなわち充電電池からグリッドへ電力を供給することも提案されていますが、いまのPHV/BEV電池の使い方でもその電池寿命は大きな課題であり、V2G用ではさらに寿命が短くなってしまいます。

国レベルのスマートグリッド構想は、国民の税負担、電力費負担が増加しない範囲で、国と電力会社の将来インフラとして整備いただくとして、家庭やオフィス単位では使用エネルギの見える化と電力料金次第ですがPHVなら年に何日かのピーク電力時の充電カット、日中の太陽光発電電力による充電、太陽光発電電力による日中の給湯器運転など、スマートメータを基本としたマイクログリッド、少し拡大して団地群、オフィス群単位のミニグリッドからのスタートが~2030ぐらいの中期シナリオになるのではないでしょうか。

このマイクログリッド網とリンクして、自動車のITネット化、ユビキタス化が間違いなく標準として加速していくと思います。PHVではあまり、急速充電器や公共充電器は必要とはしませんが、スマートフォンを介した家庭、オフィス駐車場での電池充電情報の通知、燃費や電費、CO2排出量の見える化情報、電池寿命や故障の診断、メンテナンス情報の通知、クルマのディーラサービスや家庭/オフィス充電器のリモートメンテナンスと故障診断などさまざまな用途への拡大が期待されます。
 
 このような、マイクログリッド、ミニグリッドでの、自動車用充電、家庭オフィス用スマートメータとEMS、それを組み込んだITネット化、さらにスマートフォンやPCとの接続などでは、従来のしがらみ、囲い込み、専用化をすてたオープン化が必要です。欧米はそちらの方向に間違いなく向かっています。

 安全、安心、使い勝手、その上での低価格化のための充電器、コンセント、コネクタの標準化、規格化は不可欠です。しかし、100Vであれ、200Vであれ、今使われている、また標準化が議論されている充電器、コンセント、コネクタではまだまだ使い勝手が悪く、高価格で、さらに安全上も改良余地が大きいと思います。数を多く作ればコストが自動的に下がっていく訳ではありませんが、標準化を進め、数を集めて上で、低コスト化の知恵を絞ることが肝要です。

また、エネルギ消費、CO2排出量の見える化情報とエンジンや排気クリーンデバイスの故障診断情報、電池充電状態や電池劣化や故障などもオープン化を進めるべきと思います。そのスタート点を共通にした上で、商品力、技術力を競いあうことでガラパゴス化を防ぎ、国際競争力を維持していけるのではないでしょうか?