アイドルストップ

今週は八重樫尚史の代打の週になります。さて先日、お台場の「MegaWEB」でモデルチェンジした「オーリス」の試乗をしてみました。代表からは代打にあたって、「そのレビューでもしたらどう?」と言われたのですが、自動車全体の出来具合を伝える事は、私の手には余るので、今回は試乗した「オーリス」にも搭載されていた「アイドルストップ」について私見を書いていこうかと思います。

「アイドルストップ(アイドリングストップ、スタート・ストップシステム)」という言葉は、特にその説明がなくても通用する程度に認知度をもつ言葉となっています。最近では、小型車を中心に自動的にアイドリングを停止する「アイドルストップ機能」を持つクルマが多くなってきています。

「アイドルストップ機能」の主目的は、燃料の消費が移動力に全く換算されない「アイドリング」状態をなくすことで、燃費の向上をはかるものです。燃費と環境性能はニアイコールの関係に見られていますので、環境に優しい機能としても紹介されることが多いようです。(ただし正確に言えば、自動車の環境に対する負荷は燃料の燃焼による二酸化炭素の排出だけではありませんので、燃費と環境性能は同じではありません。)

ずいぶん早くなった反応速度

さて、今回乗った「オーリス」の「150X」にはメーカーオプションとして「アイドルストップ機能」が用意されており、私が試乗したクルマにもそれが搭載されていました。赤信号等で停車すると、ブレーキを踏んでいる間はエンジンが停止し、発車しようとブレーキを離すとエンジンが再び動き始めます。

今回の「オーリス」の「アイドルストップ機能」は、ブレーキを離してからエンジンの始動が早く、よほど踏み変えを早く行う人でなければ、アクセルを踏んでからエンジンが掛かるのに待たされるという事はなくなったという印象を受けました。トヨタの車内測定値によるとエンジン始動まで0.4秒とのことです。

この半年ほど、私はカーシェア等を利用して様々なメーカーの小型車を使用しており、その中には「アイドルストップ機能」を持つクルマも結構有りました。中には私の普段の運転スタイル(多分平均よりもスタートが少し早い程度)でも、出足が遅いと感じられるクルマもあり、同じ機能でも各社にばらつきが感じられました。良かった方の具体名を挙げると、マツダの「デミオ」の「アイドルストップ機能」は同社車内測定値で0.35秒とのことで、数字通り反応が早いことは実感できました。

各社ともこれからも反応速度の向上に努力していくでしょうから、近い将来には殆どのクルマが「もたつき」を感じさせないレベルに達するものと思えます。

エアコンと「アイドルストップ機能」

さて、上で「アイドルストップ機能」の目的が燃費向上と書きましたが、今回の「オーリス」でも、「アイドルストップ機能」が付けた場合のJC08モードでの燃費は19.2km/lで、ついていない同モデルが18.2km/lですから、1リットルあたり1kmほどの燃費向上が見られます。他のメーカーでも、「アイドルストップ機能」付きのモデルは1~2km/l程度の向上を達成しているようです。

ただし、この数字はそのまま飲み込みづらい数字と個人的には感じています。というのも、今回の試乗でも、通常の使用を前提とすると「アイドルストップ機能」は作動しなかっただろうと考えられるからです。

先週辺りから夏の暑さのピークがようやく過ぎたと感じられるようになってきましたが、まだまだ日中の暑さは耐えられるものではなく、日中の運転でエアコンを入れないでいられるような状況ではありません。(実際、僕はこの夏に自動車の中で熱中症になりました。)

自動車のエアコンはエンジンの駆動を利用して動作していますので、基本的には「アイドルストップ機能」の作動中はエアコンの冷暖房機能は停止します。そかしそれでは、夏場や冬場の使用で乗員が不快になりますから(上の僕のように危険な場合もある)、逆に冷暖房を掛ける必要のある場合(気温と設定温度の差が大きい場合)には、「アイドルストップ機能」が働かないようになっています。

今回の試乗の時間帯は14:00頃でまだまだ暑い時間帯でしたから、通常の使用を想定するとなればエアコンをオンにしている状態です。試乗車は日陰に置いてあるので、当初乗り込んだ状態ではエアコンはオフの設定でした。この状態だと、エンジンを始動すると始動動作の後「アイドルストップ機能」が働いてエンジンが停止します。「MegaWEB」の試乗はコースを2周しますが、1周目はエアコン無しで「アイドルストップ機能」の機能が働くのを確認できました。

しかし、2周目にエアコンのスイッチを入れると停車中であってもエンジンがエアコンの為にかかりはじめます。この試乗はあまり長い時間できませんので、細かくは確かめられませんでしたが、設定温度を高めにしても「アイドルストップ機能」は働かず、この気温ではエアコンを切らない限りは「アイドルストップ機能」は利用できないようでした。勿論、こういった状況では「アイドルストップ機能」の搭載は全く燃費には寄与していません。

燃費基準とエアコン

これは「オーリス」やトヨタに限ったことではなく、殆どの「アイドルストップ機能」搭載のクルマに共通の「仕様」です。ここで上の燃費基準の話に戻りますが、日本や欧州の燃費基準では、エアコン動作による燃料消費についてはあまり多く考慮されていないので、「アイドルストップ機能」がフルに活躍した場合の燃費向上の数字が出ます。

自動車の燃費は、各国の評価基準によって出た数字しか使用できませんから、カタログでは「アイドルストップ機能」の燃費向上が大きく出ますが、夏や冬にはあまり使用できないことを考えると、実用ではその差異は小さくなります。

これは、エアコンをモーターで動かすハイブリッド車や電気自動車も同様で、エアコンによる電気の消費量は多く、電気自動車ではエアコンの入切によってその走行可能距離が大きく変化します。ハイブリッド車も、電池の余裕が有る場合は停車中に「アイドリング」をせずにエアコンをかけることができますが、その容量が少なくなるとエアコンが使用する電気を発電しようと「アイドリング」を始めます。

アメリカの燃費基準EPAでは、エアコンの燃費に対する影響が大きいと考えており、強くそれを掛けた状態での燃費を測定しています。アメリカでのEPA燃費が、日本の燃費に対してかなり少なく出る要因の一つがこのエアコンの考え方の違いです。また、アイドルストップ機能」の搭載が、日本車や欧州車で先行し、アメリカではまだまだ少ないのもこういった所の影響も大きいと考えられます。

「アイドルストップ機能」のこれから

東京都を始めとした自治体が駐停車中のアイドリングを禁止する条例を施行しているなど、この先もアイドルストップの流れは加速していきそうです。(ただしこれらの条例は、燃費向上の為の「アイドルストップ機能」が行う信号待ちや渋滞での停車中の「アイドリング」は対象にしておらず、あくまで交通の流れから離れた場所での駐停車での「アイドリング」の禁止です。)

「アイドルストップ機能」の機能の向上は日進月歩の状況で、先日発表されたスズキの「ワゴンR」では、エンジンのスタートに使用する補機バッテリーに従来までの鉛電池に加えてリチウム・イオン電池も搭載し、完全に停止する前の低速減速中から「アイドルストップ機能」を駆動させエンジンを止めながら「回生ブレーキ」で電気を溜め、また上で挙げた「アイドルストップ機能」中に冷房機能が止まる事に対しても、エアコン駆動時に冷気を蓄えておき「アイドルストップ機能」が働いているときにも冷気を含んだ風が送られるようにするなど、様々な新機能の搭載が発表されています。

ここまでくると単なる「アイドリング」を止めるという一機能ではなく、これに少しでも駆動にモーターを利用すると少し前に「マイルド(マイクロ)ハイブリッド」と呼ばれていた機構そのものとなります。

技術的な未来見通しとしてみると、この方向性は「アイドルストップ機能」にとって、諸刃の刃もなり得そうな部分です。現時点では、「アイドルストップ機能」はハイブリッドに対してコスト的なメリットがあると言われていますが、要求値が大きくなって様々な機能を組み込むとそのコスト的メリットは少なくなります。今回のスズキのようにリチウム・イオン電池を採用し回生ブレーキを付けるなどすると、これを駆動用にも使用して更に燃費を向上して欲しいとの声も大きくなるでしょう。そうするとそれは、ハイブリッド車になります。

そこまではいかなくても、これから様々な会社から「アイドルストップ機能」に関係して新たな取組が出てくるのは間違いありません。スズキの取った方式とは違ったとしても、私が今回取り上げた「アイドルストップ機能」のデメリットである、エンジン始動までの反応速度とエアコンの問題は、必ず対処しなければならない点です。今後要注意の分野です。