BMW ActiveEを借りてみました

今回は八重樫尚史が代打で更新します。

以前、アクアの納車を待つ間のつなぎとして、カーシェアに入会したことをお知らせしました。その時は、大手3社からカレコを選択して入会したと書きましたが、実はその後他の2社についても、月額料金の無い個人会員として入会をしています。

これは、カレコのサービス内容に不満があったということではなく、カーシェアに配備されている色々な車を乗り比べてみて、現在最ボリュームゾーンである小型車を乗り比べして、現時点での自動車の技術状況を自分の経験で感じようと考えたからです。その後、トヨタ、ホンダ、日産、マツダ、VW、Mini、BMWの主力小型車を借りて、自分なりに各社の方向性を探っている所です。

さて、そんな事をしている中、タイムズプラスからBMWの電気自動車ActiveEを導入したというリリースがありました。まさに自分の為といった感じで、先日早速借りて乗ってみました。今回は、それの感想を書いていきます。

出先で充電できない!

さて、今回カーシェアに導入されたという事ですが、通常のカーシェアとは少し違う方法での貸出となっています。カーシェアとレンタカーの最大の違いは、借出・返却時に窓口での手続きが無いということなのですが、今回の車はBMWが一般販売している車ではなく少量生産の市場テスト用の車である為か、予約は通常と同じですが(ただし、パック割引等は利用できない)、借出・返却時にタイムズプラスと提携をしているマツダレンタカーの窓口に行く形となっています。

予約を入れた池袋のマツダレンタカーに行くと、予約の確認後、簡単な説明を受けました。内容としては、満充電(98%)の状態で走行可能距離が約150km、ただし冷房等によってそれが短くなるということ、電源の入れ方とReady状態でドアを開けると電源が切れるということ等です。この時、少し面食らったのは、外の一般充電器で充電を行わないで下さいと言われたことです。PHEVならまだしも、EVで他の場所で充電できないということは行動半径が貸出拠点の50km内に限られるということを意味します。その日の予定は、都内での打合せのみだったので問題なかったのですが、実用で借りようという方は注意が必要です。

ただし、他の場所で充電させないというは、EV等の現状を知っている身としては当然の処置だと納得できるところがあります。因みに、その説明が会った際、もしかしたらドイツ等で採用されている3相系の充電口なのかと想像しましたが、実際には日本での通常充電で採用されている1相のJ1772でした。ですので、形状としては日本の通常充電器が使用できるはずなのですが、実は通常充電であっても車と充電器の相性等によってエラーが発生することは少なくありません。

駐車場に設置されたSIEMENS製充電器

駐車場に設置されたSIEMENS製充電器

勿論、通常充電の規格はIEC等で国際標準規格となっているのですが、アメリカでも日産のディーラーがGEの充電器でリーフを充電しないよう忠告していると報じられるなど、標準規格に適合しているからといって安心してどの充電器も使えるかというとそうではない状況です。日本では充電機器も日本メーカーのプラグイン車(EVやPHV)と適合するように作っていますが、BMWは現時点では日本で走らせるプラグイン車はタイムズプラスの4台だけですので、日本に配備されている充電機器との適合チェックを行うことは非現実的です。少し前に、急速充電の規格争いが新聞紙面を飾ったことがありましたが、個人的にはそれよりも、こうした通常充電の適合性の問題を解決することのほうが重要だと感じています。

ActiveEの装備

さて、充電の話が長くなってしまいましたが、ActiveEに戻ります。この車はBMWブランドとしては最も小型な1シリーズの2ドアクーペの車体を利用し、32kWhのリチウム・イオンバッテリーと125kWのモーターを搭載した電気自動車となります。BMWとしては小型ですが、EVとしては大型の部類に入ります。実際、車両重量は1850kgで、総重量としては2tを超える車となっており、バッテリーなどによって元の1シリーズクーペよりも300kg以上重量が多くなっています。

BMW-ActiveE

BMW ActiveE

可能な限りバッテリーを積んだというは外からでも確認ができ、元の1シリーズクーペには無いボンネット中央部の出っ張りの下には、リチウム・イオンバッテリーが搭載されています。また、ラゲージルームはおそらくはインバーターと思われる機器によって容量を奪われており、大型スーツケースだと一つも入らないかもしれません。

ボンネットの出っ張り

ボンネットの出っ張り

赤枠の部分がリチウム・イオンバッテリー

赤枠の部分がリチウム・イオンバッテリー

ラゲージルーム

ラゲージルーム

ただし32kWhという大容量の電池を搭載した分、航続可能距離は北米EPAモードで151kmを確保しており、今回乗車した感じでは実走でも近い数字が出そうです。(なお、日産リーフの北米EPAモード航続可能距離は117kmです。)

ActiveEで走ってみて

さてこのActiveE、貸出の際に特徴として、クリープが無いことを注意されました。重量が重すぎてクリープであまり動かないということではなく、緩やかな上り坂でブレーキを離すと下がる感覚がありますので、やはり「無い」と言ってもいいのだと思います。

重い車ですがアクセルを踏み込むと、驚くほど機敏に加速します。125kWのモーターの出力は168馬力とのことですが、EVの特徴として低速域からトルクが継続して出ますのでそれ以上の力を感じさせます。出力を制限して航続距離を伸ばす『Eco Pro』モードにすると加速感はやや少なくなりますが、都心のドライブとしては『Eco Pro』モードでも十分すぎるほどの加速を見せます。

さてEVに乗り慣れていない方にとって、最も驚くのはこのアクセルを離した時だと思います。アクセルを離すと、回生ブレーキが急激にかかり、車速がみるみる内に落ちていきます。基本的な乗り方としては、車速維持のためにはアクセルを少しだけ踏み続けるというスタイルになっているようです。私も、都心では殆どブレーキを踏むこと無く走るという状態でした。日本メーカーのHVやEVと異なって、ブレーキが回生協調となっていないので、回生エネルギーを取るためにはアクセルとブレーキの両方を離すということのようです。

同乗した方によるとTesla Roadstarも似たようなフィールで、その方が聞いたという言葉『常に2速で走っている感じ』というが、正に的を射たものだと感じました。あまりにも回生ブレーキが大きいので後続車に迷惑かと心配したのですが、ブレーキを踏まなくても減速量が大きいとブレーキランプが点灯する仕組みとなっているようです。

ActiveEの感想と懸念

さて正直に私の感想を述べたいと思います。「これで、2.0lや2.4lのエンジンが載っていたらいいな」ということです。なんのことはない、つまりそれは通常の1シリーズクーペそのものに他なりません。ただし、現状の120iのクーペの燃費を見るとJC08モードで13.4km/l、ハイスペックの135iはJC08モードで9.9km/lです。今後のことを考えると、少し厳しい燃費となります。(自分で購入するためという意味ではなく、規制の強化が進む中今後もこのような車を生産し販売し続けられるかという意味で)

私は上の走りと言う項目の中で、パワートレインの特性のみを述べ、敢えて操作性や車内の質感等の感想は述べませんでした。というのも、その部分は今回のActiveEの評価ではなく、あくまで元となった1シリーズクーペに対するものになるからです。(勿論、パワートレイン、重量の違いなどによって変化は大きいのですが)なお、その点でいえば上質で「さすがはBMW」と感じさせるものでした。

しかし、繰り返しになりますが、その部分はあくまで1シリーズクーペの質の良さから来ているものです。今回の乗車で私が感じたのは、ActiveEの完成度の低さでした。それは、上に書いた、クリープが無いことと、回生ブレーキをアクセルコントロールで行わせるという部分です。

こうした部分について「新しいEVなのだから、新しいフィールなのだ」「アクセルコントロールする技術を身につければ良い部分で、慣れればいいだけだ」という意見もあるかもしれません。しかしながら、私は断じて違うと考えています。もし、EVをこれから普及させようとするのであれば、今までのガソリン車やハイブリッド車に載っていたユーザーにアピールしなければなりません。その際に、「新しい乗り方に慣れろ」というのはあまりにも独善的であり、また慣れるまでの過渡期においては危険すらあります。

こういった感想はリーフが出ていなければ抱かなかったかもしれません。私は航続距離という点を除けば、リーフを非常に高く評価しています。リーフでは、こうしたそれまでのEVが持っていた違和感を消すことに成功しており、電池以外の側面で言えばそれまでの車のユーザーが突然乗り換えても違和感なく乗れる車に仕上げています。

クリープについても、ドイツ車はもともと弱く、VWのデュアルクラッチトランスミッションを搭載したゴルフ等では殆ど無いに近いので、欧州車の特徴とも言えるのですが、ストップ・アンド・ゴーの頻発する日本の、特に都市部の道路事情ではかなりストレスを抱かせるものです。

私が懸念するのは、このActiveEのこうした評価の難しさです。短期間の試乗しか行わなず(下手するとストップ・アンド・ゴーの殆ど無い試乗コース内で)、その上で例えばリーフの自然さを知らなければ、このEVシステム(はっきり言うとEVシステムとしては旧世代的なシステム)も「EVとはこういうもの」として納得してしまうかもしれず、BMWの通常車の質を知らなければ、「EVなのにこんなに上質だ」となってしまうかもしれません。

以前より、私は「EVは少数台作るのは簡単だが、優れた量産化EVを作るは難しい」といっています。リーフの自然さというはまさにその部分になります。以前のブログで弊社代表も回生ブレーキ制御は難しいという話をしていますが、この回生ブレーキ等の電気制御部分は、細かい積み重ねが必要で、長期間で大規模な開発投資が必要とされる分野です。またActiveEの評価の難しさを作っているボディやシャシーの質についても、BMWが長年に渡って築き上げたものであるのは、自動車好きであれば皆が知っていることです。

ただし、今回のActiveEはあくまでも実証実験用のテスト車であり、今後一般販売されることが予定されている車がこのシステムを踏襲するかどうかは解りません。個人的にはBMWが築きあげてきたブランドを守りながらEVに参入する為には、リーフやプリウスが搭載している回生協調ブレーキを導入してアクセルによる回生ブレーキによる減速感を大幅に減らし、制御によってクリープを付加して発進時のストレスを減らすなど、一層の努力が必要だと感じています。その点で言えば、BMWとトヨタの提携は、両社にとってメリットがあるものになりそうだとも思いました。

最後に、こうしたプロジェクトを行い、このような機会を与えてくれたタイムズプラスに感謝いたします。今後も、日本ではなかなか乗ることのできない車を導入していただけると嬉しいです。(勝手な要望ですが、Voltなんてどうですか?)ただし、申し訳ないですが、このActiveE、左ハンドルの完全に海外仕様で、上に書いたような違和感のある走行フィールですので、外国車に慣れた方やEVに慣れた方、覚悟を持った方以外にはお勧めしません。

ただ、カーシェアで色々な車に乗るのは、買う際の参考としても、趣味としてもオススメです。月会費無料で固定費のないプランも各社に用意されていますので、皆さんも一度試してみたらいかがでしょうか。