「モビリティ」考

こんにちは八重樫尚史です。
前回は代表が「ゼロ・エミッション」という言葉(フレーズ)について記事を書いていました。そこで、というわけではないのですが、今回は僕が「モビリティ」という言葉について考えを記していこうと思います。

お気づきではないかもしれませんが、このブログのタイトルの横には「Think about Future Mobility」というサブタイトルが載っています。「未来のモビリティについて考える」ってことですね。

さて、以前僕は「自転車というモビリティ」という記事も書いているのですが、「モビリティ」という大きな枠で考えてみると、何か面白いものが見えてくるかもしれません。今回はそんな思考実験にお付き合いいただければ幸いです。

色んな「モビリティ」、その特徴

今の世の中、多種多様なモビリティが存在します。とりあえずざっくりと列挙してその特徴を示してみましょう。厳密ではないですが、歴史の古い順に並べていきます。

1) 歩く(体を使った移動
 最も身近。移動できる距離や運ぶ量は限られる。

2) 船(水上運送)
 川や海などの水上でのモビリティ。この中でも多種多様。速さは無いが、必要人員に比較して輸送量が絶大なため国際的な貨物では現代でも中心。

3) 馬(動物を使った移動)
 徒歩よりも高速。取り扱いが難しく、コストも高い。現代で「モビリティ」として使用される機会はほぼ皆無。

4) 自転車 
1の発展形。速度は上昇。ただし輸送量は限られ、地形の影響を大きく受ける。

5) 鉄道
 馬などを利用した原型は古くからあったようだが、蒸気機関の発明で一気に普及。速達性と安定的な輸送量が特徴。

6) 自動車(4輪)
 馬車から発展。内燃機関の発明で一気に普及。道路が整備された現代においては、船、鉄道、飛行機に比べて移動の自由度が高いのが特徴。

7) バイク 
4の発展形。自動車をも凌ぐ移動の自由度を持つ。ただし、輸送量と安全性の面で劣る。

8) 飛行機
 圧倒的な速達性を持つ。ただし、コストが非常に高く、使用箇所が限られる。

「こんなの小学生レベルの常識だ!」と思われるかもしれません。
こういった特性を見極めて、いろんな移動手段が使われているんだと。
確かにそうなのですが、逆に僕はこれが「常識」になりすぎて「モビリティ」について考える機会が減っているのではないかと思い、不遜ですがこんな書き方をしてみました。

「モビリティ」の使い分け

例えば次のようなデータがあります。

旅客輸送距離比較

旅客輸送距離比較


貨物輸送重量距離比較

貨物輸送重量距離比較

これは、少し古いデータですが、EUにおける行政機関である欧州委員会のエネルギー運輸委員会が2000年に発表した資料から抜き出したものです。

この当時は、日本でもモーダルシフトという言葉がよく使われていました。移動手段を代替手段に変えるという意味ですが、日本では主に運輸の面で使われていました。確かに、その必要性は下の表を見れば明らかで、日本の貨物運輸体制がトラックを中心とした陸上輸送に過度に偏っているのが見て取れます。

一方、旅客の面ではこれは逆転していて、今度はEU、アメリカの乗用車依存が極端なものであることが浮き彫りになっています。

日本では以後、高速道路料金の一律割引などモーダルシフトとは逆の政策が打ち出されたため、この議論は停止したままなのですが、例えばEUでは、先日この資料を出した欧州委員会の運輸委員会が2050年に向けたビジョンを発表し、その主題はモーダルシフトそのものので、高速鉄道網の整備と水上貨物路の有効活用などをうたうものでした。自動車社会の象徴でもあるアメリカも、近年は高速鉄道網を整備しようと必死になっています。(上手くいっていないようですが…)

このように国、地域によってどうして「モビリティ」の選択の違いが出たかというと、もちろん地形や国民性の影響もあるでしょうが、僕はインフラ政策の違いが最大のものであった様に感じています。日本の鉄道旅客量の多くは新幹線の存在抜きにしては語ることができないでしょう。(なおこの表は乗降客数ではなく人を何km運んだかを示しています。)

これからの「モビリティ」を考えてみる

そこで、先ほどでた「常識」に対する僕の疑問です。政策によって変化もする「モビリティの常識」はいつまでも「常識」のままであり続けるのでしょうか?僕はそうではないと思っています。

ここでまた、視点の変化をさせてみます。先程の表は、極めてマクロから見た視点です。もう少し小さい視点で見てみれば、ここに盛り込まれていない様々な情報が出てきます。新幹線の件もそうですし、例えばここには載っていませんが、日本は確かにEUやアメリカに比べて乗用車所持割合(モータリゼーション)は低いのですが、それほど大きな違いがあるわけではありません。それでも、乗用車での移動割合が少ないのは車一台あたりの移動距離が短いからです。これは発達した高速鉄道網を補完する形で車が利用されていると推測できます。松本清張じゃありませんが「点と線と面」ですね。

しかし、これもまたこれまでの「常識」です。個人的には貨物輸送のモーダルシフトができなかったのは、この「常識」をブレークスルーできなかったからだと考えています。そしてまた残念ながら、僕は少なからずの将来自動車や将来の「モビリティ」をうたうものを見てきましたが、これらの「常識」を超えるようなものは今でも殆ど無いと感じています。

すごく勝手で我侭な考え方ですが、僕は本当に「常識」を覆す「モビリティ」の出現を待ちわびています。それこそ、馬が内燃機関になった時のような。