2010パリモーターショー雑感

クルマ好きの方であればご存知かとは思いますが、現在フランスにて欧州を代表するモーターショーの一つであるパリモーターショーが開催されています。私も先月の末から渡仏して、この現地のメディアが「環境自動車のモーターショー」と報じているこのパリモーターショーを実際に見てきましたので、その様子を私の目からの解説を交えてご紹介したいと思います。

今年のショーはパリの南西の郊外、私が宿を定めたパリ中心部のモンマルトルから地下鉄で10分程の場所に位置するポート・デ・ベルサイユ国際見本市で行われ、今月の17日まで開催されています。
まず率直な感想を書きますが、10月1日のプレスデイおよび一般公開日の2-3日の計3日間、毎日足しげく地下鉄で会場に通い、広い会場を歩き回って非常に疲れ果てたというが本音です。これは単に少し厳しい日程で時差ぼけにやられた、または私もさすがに年齢を重ねて疲れやすくなったということだけが原因ではありません、つまり私の疲れを吹き飛ばしてくれるはずだったもの――謳い文句である筈の「環境自動車のモーターショー」という部分で、このショーが見せたものにがっかりし「どっと疲れた」というのが真相です。では私の感触をもう少し詳しくお伝えしていきましょう。

誰のための「環境自動車のモーターショー」?

今回のパリ・ショーは、事前より数多くの量産もしくは量産予定のEV/HVが展示されることが発表されており、次世代自動車に対する各社の熾烈な競争の火ぶたが切って落とされるショーになると予想されていていました。確かに、各社とも低CO2を全面にかかげ、従来車も欧州で主流のディーゼル車をアピールするだけではなく、ガソリン車においても過給の活用や軽量化を行いCO2の低減への取り組みをしていることを謳っていました。また、欧米の大手自動車メーカーのほぼ全てが、量産ハイブリッド車もしくは量産予定のハイブリッド車を展示、さらにPHVやEVのプロト車もいたるところで展示されていました。

BMWブース

上はBMWブースの写真です。
写真を拡大していただくとより明確にわかりますが、日本TVコマーシャルにも登場するスーパースポーツEVが大々的に提示され、そしておなじみのBMW車もそのドアに排出CO2量が大きく描かれるなど、その削減努力をこれぞとばかり高らかに謳う展示となっていました。このような展示は別にBMWだけではなく、Benz, VW, プジョー&シトロエン, ルノー&日産も, さらにはヒュンダイや起亜の韓国勢も同じようにドアに排出CO2量を記入し、至る所にグリーンだのエコだのブルーだの環境重視のキーワードを並べまくっていました。日本勢では、ドアの横っ腹に排出CO2量をでかでかと描くメーカーは多くはありませんでしたが、やはりグリーン、クリーン、エコのオンパレードとなっています。

そう、このように、パリモーターショーは展示側つまりメーカー側が提示する「環境自動車のモーターショー」としての体裁は整っていました。しかし、これはプレスデイでは解からなかったことなのですが、一般公開日になると誰の目にも「環境自動車のモーターショー」というのが単に「体裁」でしかないのがわかったと思います。

一般のお客様の「お目当て」は、目玉のはずの環境自動車ではなかったのです。

本当の「お目当て」は?

Volt展示

Jazz展示

上の二つの写真は、GMの救世主とされる充電式ハイブリッド電気自動車Voltと、私の現役時代に常に競い合ってきたホンダの現地名ジャズ、日本ではフィットで知られる小型車のハイブリッド車を展示したコーナーです。この写真は狙ったものではなく、これらの展示コーナーは閑散としており、説明員も手持ちぶさたの状況でした。
それに引き替え、子供達や若い世代を引きつけていたのは、ランボルギーニ、フェラーリ、ポルシェなどのスーパースポーツや、アウディーなどのスポーツカーを売りにするメーカーです。幸いにもトヨタのブースは、人気の高いランボルギーニ、アウディーなどと同じパビリオンにあったせいか、その流れで立ち寄る人が多かった印象ですが、ハイブリッドによるクルマの進化のメッセージは感じ取れませんでした。

そんな「正直な」お客さんの動きの中、(おそらく一般客にはあまり見向きもされない事は予期できたことなのに関わらず)ドアに排出CO2量を表示しさまざまな環境自動車の展示した各メーカーの「真意」を思うと、私の心は重くなるばかりでした。もちろんこれは、各社の地球温暖化の緩和にむけ自動車低カーボン化を計っていくとのメッセージであることは確かです。しかし、その裏に透けて見えるのは、欧州スタートの自動車を対象とする厳しいCO2量削減への必至の努力を一般の方々と言うよりは、政府関係者とメディアの方々へのアピールとしてやっているように感じてなりません。規制に適合できなければ払わなければならない膨大な罰金を意識し、従来車からのCO2排出量の削減と、遅ればせながらハイブリッド車や電気自動車の量産拡大への取り組みを示そうとしたのが実際のところで、日本勢も同じ穴のムジナから脱していないように感じました。

ではメーカーに求められるクルマ作りとは何か?

ディーゼルやガソリンエンジンを搭載した従来車では、VWやBenzのドイツ勢が走りの性能を維持させながらCO2排出量の削減努力を続けているように感じましたが、それでも従来技術の延長上では、次世代自動車へのアプローチへのスタート点に立てないことは明かだと思います。子供達、若い人たちが群がったスーパーカー、スポーツカーへの憧れは、良く理解できます。スタイルこそ洗練されましたが、スポーツカーといえども21世紀に目指すべきは20世紀のスポーツカーの延長ではないはずです。そのスタート点の画期的低カーボンを実現させた上で、環境、エネルギー資源、さらには経済原理など、人間の左脳で購入を判断するだけのクルマではなく、右脳で懐具合も考えずに飛びつくような21世紀のクルマと車社会に対するメッセージがあるクルマを今回のモーターショーでも期待して探し回りました。残念ながらそのようなクルマ、メッセージを見つけられなかったことも失望の一つでした。低カーボンは当たり前、その上で次の世代にもそれを見るとわくわくし、買いたくなり、また仲間に見せびらかしたくなるクルマを、それも若者がなんとか汗をかいて働けば手に入る価格で提供することが、世界のクルマ屋がめざすべき方向であるように思います。 日本のもの作り技術、環境自動車技術を高めてこそ、環境性能と商品魅力とのトレードオフ点を高めることができます。クルマの進化に対する飽くなきチャレンジこを、日本の、そして日本の自動車産業の生きる道ではないでしょうか?

唯一ほっとしたのが、一般公開スタートの土曜日と日曜日とはいえ、その人出は多く、また一部のブースに限定されていたものの、スポーツカーなどの展示の大混雑ぶりと熱いまなざしを感じ、欧州そしてフランスでは日本ほどの離れは進んでいない印象を受けたことです。来週は、このモーターショーでの、ハイブリッド自動車、充電式ハイブリッド自動車と電気自動車の展示内容とその印象についてお伝えしたいと思います。