プラグインハイブリッド車の燃費とCO2排出量

プラグインプリウスの燃費および炭酸ガスの排出量は、日本では燃費値として国土交通省から57.0km/l, 炭酸ガスの排出量として41g_CO2/kmと公表されています。(http://www.mlit.go.jp/common/000111207.pdf

プラグインプリウスについての解説記事や試乗レポートなどでもこの数字を大きく打ち出して紹介している事も多いようです。

さて、それでは「今のプリウスが広告では38.0km/lって言っていた記憶があるから、じゃあ1.5倍以上燃費がいいのか。」と言えるかというとそれは間違いで、この数字を読み解くには幾つか前提の知識が必要となります。

燃費測定方法の変遷

もともと永らく、一般的な小型ガソリン自動車の排気ガスのクリーン度と燃費を評価し、排気規制への適合性や燃費基準値への適合性を評価する為には、10-15モードという走行モードで計測された燃費・排気の数値が使用されていました。現行のプリウスの38.0km/lという数字は、この10-15モードで計測されたものです。

しかしハイブリッドの登場等の自動車技術の進展や、自動車による環境負荷を低減する為に様々な規制を行う際に10-15モードが時代に則さなくなっているという事から、数年前にJC08という基準が採用され、今はクルマのパンフレット等にはこの2種類の燃費が併記される形になっています。なお、現行のプリウスのJC08で測定された燃費は32.6km/lとなります。(なお、2012年まで10-15モードを併記することが認められています。)

さて、ではプラグインプリウスの燃費ですが、この数字はJC08をプラグインハイブリッド車用に拡張した測定方法に拠るものです。これはまずは電池の充電電力を使って走行(外部電力使用走行)した走行距離とその時のガソリン消費量を計測し、次に電池の所定の充電電力を使い終わった後の通常のハイブリッド同様の外部電力エネルギーを使わないハイブリッド走行(充電量維持走行)の燃費を計測し、最後に充電電力を使った走行がそのクルマ全体の走行距離のうち何パーセントを占めるのかを統計データから定められた値(ユーティリティファクター)を用いて上記の外部電力使用走行と外部電力使用走行を組み合わせて算出された値です。この試験法は、国土交通省がプラグインハイブリッド車排出ガス・燃費測定方法策定のため有識者を集めた検討会での議論と、そのまとめのパブリックヒアリングでの意見を参考に新たに制定した測定法に沿ったものです。

(参考:新しい測定法、試験法、さらには新技術の届出

ちなみに、電池に充電された外部電力を使った後の、ハイブリッド走行燃費は、30.6km/lと公表されており、この値は通常プリウスのJC08公表燃費値の32.6km/lに迫る燃費値で、電池の外部電力を使ったあとのハイブリッド走行でもプラグインプリウスは通常の現行プリウスとさほど違いのない燃費性能を持っていることを示しています。

燃費測定方法と燃費性能

さて、燃費測定方法はこのように変化してきましたが、ここからはそれが指し示す「燃費性能、炭酸ガス排出量とは何か」ということについて考えてみたいと思います。

クルマの燃費については、公表されるカタログ燃費と実際の走行燃費にはギャップがあり、また加速の程度、速度、速度の変動、気温、登坂や降坂、さらには標高など多種多様な要因によって変化します。通常の使用状態でのユーザ燃費は、現在ではさまざまなWebサイトで取り上げられており、同じクルマでも大きなばらつきを示すのが通常です。

プリウスの実走燃費グラフ

プリウスの実走燃費グラフ

上の図は数年前に調べた、私が講演等で紹介していたアメリカでの初代プリウス(00年モデル)ユーザ燃費のばらつき程度を示すグラフです。燃費の実態の一例はこのグラフが示す通りとなります。基本的には故障などがないかぎりにおいて、同じ車種のクルマ毎に燃費のばらつきはそれほどありません。しかしながら、そうであるのにこれだけ燃費がばらつくというのは、ユーザの使用実態が大きくばらついているという事を示しています。

メーカがカタログに記載するのは、クルマを販売する国の認可もしくは認定を与える官庁が公式に決めた試験法や測定法に則り、その官庁もしくは官庁公認のラボ、または公式試験実施が許可されたメーカのラボで計測され認可された数値です。上記に書いたような、多種多様なクルマの使用のされ方を前提に行われているものではありません。また、アメリカ、欧州、日本と、試験法および測定法は国・地域によって異なります。ですので、このような公式燃費はあくまで、さまざまなクルマの燃費ポテンシャルを同じ条件下で比較し、アメリカや欧州では燃費規制の適合性判断を行い、日本では燃費基準の適合性判断および今年実施されたような低公害車補助の基準判定として使われる、燃費比較の物差しに過ぎないということは記憶の片隅に置いていただければと思います。

燃費の尺度からCO2排出の尺度へ

また、燃費に加えて最近では、地球温暖化緩和を目指すために、自動車から排出される炭酸ガス(CO2)の値が測定され、燃費とともに公表されるようになってきました。欧州やアメリカのカリフォルニア州では、燃費ではなく、炭酸ガスの排出量が規制対象とされ、また環境自動車の補助金や自動車の税金を決める尺度として使われるようになってきています。

その炭酸ガスの排出量ですが、ガソリン車やディーゼル車であれば、それぞれの国・地域の試験法や測定法で定められた試験燃料のカーボン量から、燃費測定値がでると係数をかけるだけで算出できます。しかし、ここで話題とするプラグインハイブリッドでエンジンを使用せずに電池に充電した外部電力エネルギーを使って走るときや、バッテリーのみで動く電気自動車の場合は、そのような方法で排出CO2を測定することはできません。現時点の日本ではそのような車のCO2排出の算定方法が定まってはおらず、実際に電気で走る場合はCO2排出がゼロと解説する例があるようですが、これは強い誤解を生む表現だと私は思います。それは、バッテリーを充電するために使用される電気を生むのにCO2が排出されているからです。

発電電力のCO2は、水力、石炭、原子力、天然ガスなど使用している方式により、その国・地区の発電Mixで大きく異なります。またミクロで見れば、深夜充電するのか、日中に充電するのか、さらには、夏の電力ピーク時か、冬か、工場が稼働を停止する長期連休かによっても変わってきます。CO2の排出抑制の目的は、地球温暖化緩和というグローバルな要請によるものです。そうなると、クルマの走行中の排出や、発電時の排出だけではなく、クルマの製造過程、使用過程、さらには廃棄過程全体の排出抑制が重要です。

私は今、フランス電力公社のアドバイザーとしてフランスでのプラグイン車の普及支援活動を行っていますが、フランスに注目した大きな理由の一つは、そのずば抜けて低い発電電力のCO2排出量にあります。フランスは原子力発電と水力発電で全体の95%を超える発電Mixをもつため、電力単体ではこれから先進国が目指すべき発電電力のCO2排出削減レベルをすでに実現している国であり、そのような電力を利用できるフランスは先進的なクルマの使い方として炭酸ガス排出量抑制の研究とその実証を進めるには最適な地だとの判断からです。

一方、今後自動車の爆発的な増加が予想されている中国では、炭酸ガス排出抑制との観点から、今プラグインハイブリッド車や電気自動車を導入してもその効果を大きく見積もることはできません。なぜなら、現時点では中国の発電の95%は、ワットあたりのCO2排出が非常に多い石炭火力によって行われているからです。

真の環境自動車の為に

初代プリウスの発売直後には、モータや発電機、さらには電池の製造過程、さらには配車後の電池の廃棄までふくめた炭酸ガス排出では削減効果がないなどとのご批判もいただきました。初代の開発から、われわれはグローバルでの炭酸ガスの排出削減と石油燃料消費を減らすクルマを目指しており、常に実走行燃費、燃料製造、クルマの製造、使用過程、廃棄処理までのクルマの一生、すなわちライフサイクルとしての排出量をチェックし、確認し、比較しながら開発、その技術進化に取り組んできたつもりです。実用燃費の把握、実際の炭酸ガス排出量の把握、さらにライフサイクルでの排出量の算定は、非常に難しいことをつくづく感じています。

しかし、使用状況の把握、製造過程での分析、廃棄過程、リサイクルまで含めて、その排出を掘り下げていくと、さらにその改良の方向、抑制の方向まで見えてくるように感じました。燃費、炭酸ガスの排出量の議論では、この実用燃費、ライフサイクルの観点から次世代自動車のポテンシャルを見ていきたいと思っています。