次世代車解説 プラグインハイブリッド車(PHV) 第1回

プラグインハイブリッド車(英語表記であるPlugin Hybrid Vehicle の頭文字を取ってPHVと略されます)は、電池を外部電力で充電できるようにしたハイブリッド車です。

ハイブリッド車の電池を、外部電力で充電するという考え自体は決して新しいものではありません。いや、そもそも多くの技術者にとってハイブリッド車というのは、充電するのが前提の車だったのです。ちょっとその辺を、ハイブリッド車の歴史を紐解きながら、お話していきます。

ハイブリッド・・・電気自動車の代替

ハイブリッド車は過去に電気自動車に注目が集まった時期―内燃機関がその地位を確立する20世紀初頭や、1970年代以降の光化学スモッグに代表される公害を軽減するためのクリーン自動車、またはオイルショック等の受けて高まった石油依存への危機感を緩和する代替エネルギー自動車として期待を集めた時期-に、それと同時に研究開発されていたものでした。

なぜその都度ハイブリッド車も開発されてきたかというと、電気自動車の実用化にむけて何度もその前を立ちはだかってきた壁「電池の性能」を乗り越える技術としてハイブリッド車が捉えられてきたからです。20世紀初頭は言わずもがな、70年代以降もその当時の電池技術では、重くかさばりしかも高価な電池を使用しても、電気自動車に許されたのは非常に短い航続距離でしかありませんでした。

その電池の壁を乗り越えるために考えられたのがハイブリッド技術であり、その発想というのは、電気自動車の電池の搭載量を減らし、それに伴って減少する航続距離を、搭載したエンジン発電機によって充電しながら走ることによって補うという、電気自動車の代替としてのものだったのです。

さて、電気自動車が更なる脚光を浴びたのが、1990年代の初め、アメリカのカリフォルニア州(加州)でZEV(Zero Emission Vehicle)規制という自動車に対する規制が施行されたときでした。これは加州でその当時販売シェアの高かった7社(GM/Ford/Chrysler/Toyota/Nissan/Honda/Mazda)にZEVすなわち電気自動車の販売を義務付けたものです。

トヨタも電気自動車の実用化に必死に取り組んでいましたが、お客様に受け入れていただける性能、価格、信頼性を持ち、継続的に販売していけるだけの収益が挙げられる実用電気自動車開発の見通しは全くありませんでした。そこで、その代替として開発していたのが先ほど上に書いた通りの伝統的なハイブリッド車、つまり電池搭載量を減らし、エンジン発電期を搭載したシリーズタイプ、レンジエクステンダー(航続距離伸張式)ハイブリッドです。

GMなどいくつかのメーカーもトヨタ同様にZEV代替として、このタイプのハイブリッド開発を進めていました。しかし、加州は1993年に、エンジンのついたハイブリッドはZEVとして認めないとの決定を下し、多くの自動車メーカーはこの決定を受けてこのタイプのハイブリッド開発を中止してしまいました。

しかしトヨタはここで、エンジンを使用したハイブリッドがZEVとしては認められなくとも、ハイブリッドの開発を継続する決断をしました。それは、ハイブリッド技術をZEVに対応する為の技術、つまりは電気自動車を補助する為の技術として考えるのではなく、燃費を画期的に改善する為の技術、つまりは将来の石油資源枯渇や地球温暖化問題に取り組むのに必須となる高燃費かつ低CO2排出の車を開発する為の技術として考えたからでした。

プリウス発売・・・充電のいらないハイブリッド

この電気自動車の代替ではないハイブリッドというコンセプト、これこそ当時のZEV代替にこり固まっていた多くのエンジニアにとって発想の転換でした。どの自動車メーカーも取り組まなかった低燃費かつ低CO2で充電の必要のないハイブリッド、この商品化プロジェクトが1997年のプリウスです。

1996proto

プリウス_1996プロトタイプ

しかし、新しいコンセプトというのはなかなかすぐに理解されるものではありません。当時の電気自動車のネガティブなイメージ、つまりは航続距離が短く長く面倒な充電が必要とイメージが全く別のコンセプトで開発されたプリウスにもまとわりついていました。これを払拭するため、プリウスは既存のインフラ(給油スタンド)ですむ、面倒な充電がいらないハイブリッド電気自動車だということを、私も様々な場で説明を行ったものです。

プリウス発売後から現在まで・・・プラグインへの回帰?

ただし、プリウスタイプのハイブリッド(THS)は、電気自動車の代替では無いといっても、その利点を大いに取り入れたものにしましたので、走行中常にエンジンが掛かっているのではなく、回生エネルギーなどによって十分に充電が行われるとエンジンを停止して、その間は電気自動車のように電池からの電気のみで走って無駄なガソリン消費を抑えるよう設計されています。このような電気のみで走るエリアは、電池に蓄えられている電力を監視し、それが多いと自動的に拡大するようになっていますので、仮に外部より充電したりしたばあいには、制御プログラムを全く変更しなくても、最適な走行モードを取るようになっています。なお、アメリカではこの機能を見抜いて、一般のプリウスをプラグインに改造するベンチャービジネスまであらわれています。

プリウスが商品化され世の中に受け入れられていった大きな理由の一つに、電気自動車の幻影から脱した充電の必要のない車としたことが間違いなく寄与しているわけですが、皮肉なことにこのような電気走行モードを備えたプリウスが登場したことで、まずアメリカでプラグインハイブリッドに対する大いなる期待が生まれ、さらにそこから発展して現状のEVブームが巻き起こったよう私は感じています。

しかしながら、搭載する電池を抑えることのできるプラグインハイブリッドですら、電池の容量拡大や高性能化による車両単体のコスト上昇の問題だけでなく、充電ステーションの配備等の社会インフラ整備のコスト負担や必要性などいった、プラグイン化のコストと価格の問題を抱えており。かつ技術的にも、フル充電に近い状態から通常ハイブリッド走行に切り替える電池が少ない状態まで、大量の電気エネルギーを頻繁に出し入れするという過酷な使用法での電池寿命の問題など克服すべき課題は山積しています。

また日本と違い欧州やアメリカでは、その半数以上のクルマが屋外さらには路上に普段の駐車場所を有していますし、固定の駐車場所が確保されていないクルマも多くあります。このようなクルマの現実の使用実態を考慮すれば、もし電気自動車やプラグインハイブリッドが使用する充電ステーションを屋外や路上に設置したとしても、そのステーションの破損や充電ケーブル等の盗難対策なども対策を立てねばなりません。一方比較的駐車環境が整備されている日本でも、マンションなどの集合住宅での受電設備をどのように整備をするか、その負担をどうするかなども普及に向けての大きな課題です。充電施設やインフラの話題が多く新聞紙面を賑わせていますが、さらに安価かつ安全な充電施設の開発が待たれます。

たとえ完全にクリーンな一台のクルマを作り出したとしても、石油資源の枯渇や地球温暖化の問題に寄与することはできません。そのクルマが今のクルマに置き換わり、使われ、普及していってこそ、真の次世代車として諸問題に対して資することができるのです。

ハイブリッド車を世に送り出した一人として、いま自動車開発の最前線に立っている方々には、ブームなどの周囲の声に惑わされる事などなく、いまのクルマの利便性や楽しさを奪うような次世代車ではなく、お客様自らが望んで手にされ、かつポスト石油・温暖化緩和などの大きな要請にも応えられるクルマを、汗と知恵を絞って開発されることを望んでいます。もちろん大変難しい課題ですが、それこそ本当の技術が試される、誇るべきものづくりのチャレンジなのは間違いありません。

少し筆が滑ってしまいましたが、次回はプラグインハイブリッドのもう少し技術的な説明をします。