米国トヨタ本社のテキサス移転

少し旧聞となりますが、4月28日(月)にトヨタはこれまでカリフォルニア州(加州)トーランス市においていた米国本社をテキサス州プラノ市に移転すると発表しました。トヨタの発表によると、米国とカナダの企業活動全体を”One Toyota”ビジョンで行うためにプラノ市に移転し機能を集約すると説明しています。

もともとトーランス市に置かれていたのは、米国での販売、マーケッティング拠点であった米国トヨタ自動車販売の本社で、車両開発、生産、渉外機能とは別機能でした。その後、米国での現地生産、現地生産活動が増加するにつれ、米国全体の本社機能と位置づけられました。開発部隊のなかでも、筆者のようなエンジン屋にとっては、デトロイト近郊のアナーバー市にあるテクニカルセンターとともにトーランスの隣、ガーディナ市に置かれたラボが馴染みのある米国の拠点でした。そのガーディナラボは、エンジン評価、車両適合の拠点とともに、世界の自動車環境規制をリードしてきた加州大気資源局(CARB)と将来自動車環境規制のルールメーキング、試験法についての情報収集や、CARBとの認証届け出業務の重要拠点でもありました。プリウスの発売後は、実用的な次世代環境車としてCARBのスタッフ達が実用的なクリーン/グリーンビークルとして高く評価してくれました。それに意を強くして、全米どころか世界へハイブリッド車を広げる戦略の説明、将来ビジョン議論のためガーディナラボのメンバーとともにトーランス本社に何度も足を運んだ記憶があります。

このテキサス移転を伝える5 月のGreen Car Reportは、「Toyota’s Texas Move: Prius Maker Lands In Highest-Carbon State」との見出しでこのニュースを伝えています。テキサス州は温室効果ガス排出量が全米50州中1位、一州の排出量として、フランス、イギリス、カナダを超えています。これを根拠に、環境自動車プリウスを販売している会社が環境問題を重視していない州に本社を移したことを皮肉った見出しをつてけています。温室効果ガス排出最大州となっている要因としては、19もの火力発電所があること、化学工場が多いこと、都市部でも公共交通機関が少なく、もっぱら自動車、その自動車も大型ピックアップトラックや大型SUVが多いことが上げられています。一方、ハイブリッド車比率は全米平均を大きく下回っており、さらに、ペリー知事は地球温暖化懐疑論者であったことは有名です。

もちろん、様々な法規制や法人税率など企業活動のやり易さ、広い米国全体に散らばる拠点のコントロールセンターとしての地理的な条件からは加州よりもテキサス州が有利のようです。しかし、21世紀の企業ビジョンとして「環境・エネルギー問題へ対応する自動車の変革」を掲げ、ハイブリッドプリウス開発に取り組み、次世代自動車をリードしてきたトヨタが、環境規制をリードしてきた加州から「Highest-Carbon State」に移転したときの影響をどう判断したのか、知りたいところです。

何度かこのブログでも紹介してきたように、筆者自身は現役のクリーンエンジン開発リーダの時から、加州ZEV規制には反対を続けてきました。。大気汚染の深刻さを否定していた訳では決してありませんし、開発を手がけてクリーンエンジン車のクリーン度はCARBも太鼓判を押す経年車クリーン度NO1だったと自負しています。もちろん、排ガスシステムのリコールを命じられてことは一度もありません。クリーン度の改善手段として、まだまだエンジン車でもやれることがあり、やり遂げる自信もありました。さらに走行中ゼロ・エミッションの定義が納得できず、さらに今も基本的には変わっていませんが、短い航続距離ではクルマの機能としてエンジン車に起き買われないことが明かだったからです。。

1990年代の初めに、前述のロス近郊のCARBラボやサクラメントのCARB本部で、ZEV規制ルールメーキングスタッフ達や幹部達と、「走行中のZEVは誤解を招く、発電エミッションも入れて議論すべき」と激論を戦わせたことを思い出します。いわゆるエミッション・エルスオエア・ビークル論を戦わせました。そのときの彼らの反駁は、「カリフォルニア州には石炭火力はなく、クリーンな天然ガス火力と原発、さらにアリゾナ、コロラド州からの水力発電だから電力もクリーン、さらにオゾン濃度の高いロス地区、サクラメントには天然ガス発電所すらないので文字通りZEVだ」との主張でした。トヨタ社内のEV開発リーダーからも、あまりEV開発に水をかけないで欲しいと、クレームを付けられたのもこのころの思い出です。

僅かな台数のZEVを導入するよりも、触媒もついていない古いクルマ、いかにもエンジン失火のまま走っている故障車を減らすほうがよほど大気改善には貢献できるとの主張もしました。「効果が大きいのは判っているが、大気改善が進んでいない現状ではイメージ優先、ZEV規制を引っ込めるわけにはいかない」と言われてしまった。ロス地区のオゾン発生メカニズムや大気環境モデルを勉強をしたのもこの頃です。

その後、加州では、自動車のLEV規制や自動車だけではない様々な規制強化によりロスのオゾン濃度は低下をつづけ、またPMの改善も進んでいます。しかし、この環境改善効果は当時の議論のとおり、ZEV導入の効果はほぼゼロと言ってよいでしょう。自動車排気のクリーン化と古いクルマが新技術のクリーン車に置き換わり、さらに最近のニュースにあった停泊中の大型船舶電源として一般電力(グリッド電力)への切り替え、レジャー用船舶、アウトドア車両の規制強化などによる効果とされています。さらにPM2.5の排出源として、航空機からの排気の寄与率が高いとの調査結果も報告されています。

残念ながらZEV規制を止めることはできませんでしたが、CARBの幹部やスタッフ達とこうしたディベートをフランクにやれたことはアメリカのオープンさの表れとして良い思い出でした。”Prius”発表後は、この実用ハイブリッド車の開発努力とクリーンポテンシャルを高く評価し、新カテゴリーの先進技術パーシャルZEVカテゴリーを新設してくれるなど普及をサポートしてくれまいた。さらに環境保全の”リアルワールド重視”の部分では、技術的に納得できる提案は採用してくれるなど、オープンでフランクな信頼関係の構築ができたと思っています。

いまもZEV規制には、オゾンやPMといった都市部の大気汚染の規制としては”リアルワールド”での改善効果の少なさから賛成できません。特に自動車から排出されるCO2まで温暖化ガスとしてZEVに取り込んだ動きは、加州だけの問題ではなく、グローバルな問題、もう一度ZEVの定義について当時の議論を材料にCARB幹部やスタッフ達に反駁したいところです。CO2はどこで排出しても気候変動に影響を及ぼす温室効果ガスであり、走行中ゼロでも発電所での排出を含めて評価をすべき「エミッション・エルスオエア・ビークル」です。某社がZEVクレジット販売で利益を上げるのは異常、低カーボン車の普及によって環境保全に寄与できるとの主張は当時も今も変わりはありません。

CO2排出量ではあっという間に中国に抜かれてしまったが、アメリカは中国に続く世界二位、さらに一人当たりのCO2排出量では今でも群を抜く化石燃料多消費国、このアメリカがやっと本気で温暖化対策のためのCO2排出削減に舵を切ろうとしています。CAFÉ規制強化は決まりましたが、まだまだ大型ピック、大型SUVが好まれる国です。低CO2次世代車はハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車含めてわずかシェア3.8%と低迷しています。中国とともに、この国が低CO2に動かなければ低カーボンのグローバルな新たな削減活動の枠組み条約は成立しません。その中で、自動車の変革は待ったなしですが、実用技術の裏付けのない規制や、国際政治のパワーゲームで次世代自動車の普及が加速するわけではありません。

規制対応だけではなく、実際にクルマの魅力を高め、この次世代自動車比率を高めることが自動車分野の低カーボン化のポイントです。これをリードしてきたのがトヨタ、ホンダ、日産の日本勢、そのなかで我々は『Prius』で先頭を走ってきたとの強い自負を持っています。この次世代自動車普及の背中を押したのが、私自身、ZEV定義と規制には賛成できませんが、カリフォルニア州ZEV規制であったことは間違いないと思っています。『Prius』を筆頭に次世代自動車普及のアーリーアドプターとしてハリウッドのセレブ達やシリコンバレーなど西海岸の人たちからの強いサポートがあったことを忘れることはできません。

この話題の最中に、ピークオイル論ならぬ、ハイブリッドピーク論が話題になっています。*

*  Could U.S. Hybrid Car Sales Be Peaking Already–And If So, Why?

「アメリカのハイブリッド車販売は既にピークをすぎたのか、それは何故か?」

16 June, 2014 Green Car Report

http://www.greencarreports.com/news/1092736_could-u-s-hybrid-car-sales-be-peaking-already–and-if-so-why

 

ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車含めた次世代自動車の2013年販売シェアは僅か3.8%、このうちプラグインハイブリッド、電気自動車併せて0.6%と比率としては増加していますが、ノーマル・ハイブリッドを押しのけコンベ車に置き換わっていく勢いはありません。

折しもトヨタは年内の水素燃料自動車販売を発表しましたが、電気自動車=ZEVの代替候補として実用化の暁にはクルマの航続距離に優れた水素燃料電池自動車の実用化支援活動をリードしてきたのも加州です。まだ、水素燃料電池自動車普及へのハードルは高く、これが『Prius』を名乗ったり、ポスト『Prius』になるには時間だけではなく、技術ブレークスルーも必要ですが、このアーリーアドプターマーケットも加州が務めてくれることは間違いないと思います。

しかし、いつになるか判らない水素燃料電池車普及の前に、全米で僅か3.8%のシェアの次世代自動車シェアを拡大していくには、やはり加州のユーザーにアピールでき、また環境性能としても電気自動車、水素燃料電池車と競合できる、ハイブリッドピーク論をぶっ飛ばす次の先進『Prius』出現に期待したいところです。

 

 

パリでの大気汚染警報発令と自動車通行規制

中国からのPM2.5越境汚染の季節到来
これからが本格的は黄砂の季節、この黄砂に混じり飛んでくる中国のPM2.5が今日のテレビでも話題になっていました。PM2.5を代表とする大気汚染により、北京、天津、上海など中国の大都市部は、過去の日本も経験したことのないようなひどい状況が続いています。健康被害も広がっているようで、産業発展を優先させてきた中国政府もさすがに深刻な問題として対策を急いでいます。大気汚染では、過去のロンドンスモッグ、ロス光化学スモッグ、日本の四日市公害など、欧米の大気汚染の歴史から学ばず、今を招いてしまったことが残念です。私も何度か、中央政府や北京市の環境担当者と話をしましたが、クリーン燃料の導入とセットでの規制強化の話などには聞く耳を持たなかった印象です。

しかし、中国の大気汚染など、発展途上国の大気汚染が話題になっていますが、欧米、日本の大気汚染問題がすっかり解決したわけではありません。

パリの大気汚染警報発令、主犯はPM2.5、罰金ありの自動車通行規制を実施
最近パリ首都圏(イルドフランス地域圏)では、好天で風が弱い状況が続いたため、5日連続で警報発令の大気汚染レベルとなり、自動車通行規制が実施されました。3月17日、フランスのフィガロ誌によると、大気中のPM2.5が環境基準を大きく超えたための措置で、中国都市部よりはましですが、一時は1立方メートルあたり80マイクログラム以上の警報レベルに達し、連日50マイクログラムの注意報レベルを上回っていると伝えています。
この対策として、パリとその周辺22町村を対象にした自動車通行規制を3月17日から導入することを決め、奇数日にはナンバープレート末尾の数字が奇数の車両(二輪車含む)のみが通行を認められ、偶数日は末尾偶数の車両のみの走行が可能の自動車通行規制が実施されました。この間、トラックの通行は禁止されます。この規制は1997年に1日だけ実施されたことがあったようですが、連続して実施されるのは今回が初めてです。緊急車両やタクシーなどは規制対象外で、電気自動車やハイブリッド車はクリーン自動車の扱いで適応除外となります。
違反者には22ユーロの罰金(即時払いの場合、3日以内に支払われなかった場合は35ユーロ)が課され、違反状態にある限り日に何度でも課せられる規定になっています。この取り締まりのため、700人の警官が動員され、60ヶ所で検査を行う予定と伝えられています。公共交通機関(メトロ、郊外鉄道RER,ローカル線、バス)の利用を無料としたためか、17日は交通量が通常の25%減となり、混乱は避けられたとのことです。18日にはこの交通規制は解除されています。

欧州大都市のPM2.5悪化はディーゼル優遇政策のつけ?
このような通行規制にまで至った例は多くはありませんが、欧州の大都市ではディーゼル車規制強化と燃料の低硫黄化が日本や米国加州に比べ遅れ、さらにディーゼル燃料への優遇税制などでディーゼル車比率が増加したこともあり(フランス車のディーゼル比率61.3%、うちクリーンディーゼル(Euro4以降)は25%)、PM2.5による大気汚染はまだまだ問題となるレベルです。政治のパワーバランスで規制が決まっていくのは何も欧州だけではありませんが、欧州では低カーボン政策と欧州ディーゼル技術をサポートするために、ディーゼル規制がガソリン規制より緩いダブルスタンダードが永らくまかり通ってきたことも今の大気汚染問題の背景にあると思います。今年から実施されるEURO6規制からPM規制値はガソリン並みとなりますが、まだまだ2005年までのPMフィルターや触媒が装着されていない古いクルマが多くその改善は容易ではありません。19日のルモンド誌によるとフランスでは、この自動車通行規制が実施されたことを受けて、連立与党に加わる環境政党EELV(欧州エコロジー・緑の党)は、抜本的な対策としてガソリンに比べ課税水準が低いディーゼル燃料への課税強化を要求したとのことです。

直噴ガソリン車のPMと実走行のエミッションも問題
PM2.5では、ガソリン車も問題がないわけではありません。昨年12月に発表された日本の国立環境研の調査によると、低燃費技術として採用が増加している直噴ガソリン車から排出されるPM2.5がこれまでのポート噴射エンジン車の数倍となり、さらに欧州メーカーの過給直噴ガソリン車ではそれを上回る排出とのレポートが発表されました。この調査は欧州モードや米国モードに比べると比較的走行時のエンジン負荷が低い、日本の燃費・エミッション評価モードのJC08での結果ですので、大きなエンジン負荷を使う連続登坂、高速登坂、追い越しなど、実走行、いわゆるオフモードではさらに排出量が増えることが懸念されます。欧州でもこの直噴ガソリン車のPM排出増が問題となり、直噴ガソリン車にはディーゼルEURO6と同じPM2.5規制が適用されます。燃費ではカタログ燃費と実走行平均燃費のギャップが問題となっていますが、大気汚染物質、エミッションでもこの公式試験のエミッションと実走行でのエミッションのギャップは大きな問題です。エミッションは燃費以上にモード外での排出感度が高いため、米国ではこのギャップを問題にしてオフモード試験なる新たな試験モードが設定された経緯があります。当然ながら、環境改善には実走行、すなわちリアルワールドでの排出削減が重要です。日本では、中国からのPM2.5越境汚染が問題にされていますが、ベースとなる日本の自動車、工場、さらには農機や船舶から排出されるPM2.5もリアルワールドでもっと低減する必要があります。
アメリカからの最近のニュースとして、西海岸のロングビーチ港に停泊する船に外部給電を義務づけ、停泊中のディーゼル発電をやめることにより、周辺の大気環境が大きく改善したと報道されていました。自動車以外でもリアルワールドで大気汚染物質削減の取り組みが重要、その対策により効果を上げた例です。

1990年代の初めのカリフォルニア州(加州)のゼロエミッション車(ZEV)&低エミッション車(Low Emission Vehicle: LEV)規制議論の時に、規制スタッフ達と新車規制強化だけではなく古いクルマのスクラップ促進やレジャーボート、大型船舶、アウトドアバギーなどのクリーン規制も併せて実施すべきと議論をしたことを思い出します。また、このタイミングで加州はガソリン中の硫黄分を大きく減らすクリーン燃料導入を決めました。われわれ、自動車メーカー側もこれをサポートし、自動車メーカーが団結して燃料中の硫黄分削減を規制当局、石油メーカーに働きかけるように欧州自動車メーカー各社を回り多くの賛同をえたのもこの時代の話です。

先進国では、大気汚染問題は過ぎ去った問題、気候変動対策、すなわち低燃費が重要とのイメージがありましたが、このパリの大気汚染警報発令のニュースは大気汚染が現在の問題であることを我々に突きつけました。

低燃費と低エミッションの実走行、リアルワールドでの両立を目指そう
低燃費と低エミッションは、こちらをとればこちらが立たずのトレードオフ関係にあります。低燃費のための直噴エンジンがPM2.5を増やしてしまうように、低燃費技術によるエミッション悪化を見極めその両立点を高める技術開発が必要です。それも実走行、リアルワールドでの低燃費と低エミッションが求められています。これもまた、日本勢が経験してきた道、間違ってもオフモードがダーティーと言われないようにリアルワールドセンスで取り組んで欲しいものです。

ゴーン氏の言葉、EVと“Freedom of Mobility”

11/23日の一般公開を控えた東京モーターショーですが、昨日と今日が報道公開日とされ、各社の展示車、トップスピーチが様々なニュースとしてメディアに取り上げられています。

過去、一時は海外勢の撤退もあり海外メディアの東京パッシングの動きなどもありましたが、日本の自動車メーカーが、アベノミクス効果かどうかはさておき、円安の後押しもあって大幅な収益回復を果たし、また日本マーケットそのものも次世代環境技術、安全技術など自動車の先行きを占うイベントとして海外メディアからも再注目されてきていることはご同慶の至りです。今日のTVにも報道公開日にも関わらず大混雑しているシーンが流れていました。

インフラ未整備は本当にEV普及の最大の阻害要因?

この2013年東京モーターショー報道公開日の会場で、ルノー日産のカルロス・ゴーンCEOが電気自動車販売目標について以前のコミットメントであった2016年までに累計150万台を、2~3年達成期限を遅らせるとの発言し、またその理由として最大のEV普及の阻害要因としてあげた充電設備の未整備にあると述べました。

『電気自動車への投資、後悔していない=ゴーン日産自CEO』との見出しで、ロイター通信は伝えています。もちろん、電気自動車普及をギブアップしたわけではなく、目標達成時期が2~3年遅れるとしたうえで、充電設備の未整備が普及の障害となっており、さらに燃料電池車の普及にも水素インフラ不足という問題があると語っています。

カルロス・ゴーン氏は世界の自動車メーカートップの中でも際立つプレゼンスを示している人物であることを否定する人はいないでしょう。我々も次世代自動車関連トピックスの調査を継続して行っていますが、そのトピックスに登場する自動車メーカートップとして内容、件数ともにNO1のプレゼンスを示しています。EVについて長らくその旗振り役を振り続けたゴーン氏の発言は注目を集め、大きな影響力を持っています。

そういった立場にある方の発言として考えると、この発言には大きな疑問を抱かざるをえないものです。それはEV普及がうまくいない原因をインフラの未整備にすることで、EVが苦戦している最大の理由である航続距離の短さというまさに商品としてそして車として極めて重要な所から、意図的か意図的でないのかはわかりませんが、目を逸そうとしているように思えるからです。またこの論旨では、EV販売については最も充電インフラが進みかつ今後も投資が予定されている日本で急速に販売が鈍化しているにも関わらず、人口比・面積比ではインフラがまだまだなアメリカや欧州ではそこまでの落ち込みは見せていないことなどが説明できていません。

またインフラ整備が進んでいないというと、EV普及を政府等が支援するのが当然のように思えますが、発電時のCO2等を含めた議論では、必ずしもそれが好ましいという結論を出すことはできません。政府等がインフラ整備を含めてEV普及を後押しする際には、温暖化防止、大気環境保全等に大きく貢献し、またその財源をもたらす市民にとって利便性をもたらす必要があります。

“Freedom of Mobility”である車を守らなければ

先週のブログでご紹介した、フランスの自動車ラリー伝説の名ドライバー、ダルニッシュさんとの懇談でも、この電気自動車の今後、その中でゴーンさんの発言、その影響力が話題となりました。ダルニッシュさん自身は、反EV派ではありません。都市内での未成年者、お年寄りのモビリティ・ディバイド(公共交通機関が寂れ、移動する自由度が奪われ、差別化されてしまうこと)の対応として、日本でも話題になっている一人~二人乗りの超小型コミュータEVを使った新しい都市内モビリティの提唱者です。

そこでの議論も、先週のブログでも取り上げて“個人の自由な移動手段”としてのモビリティ、“Freedom of Mobility”の重要性です。しかし、最近フランスでも、環境命の政治家が増え、この“Freedom of Mobility”に聞く耳もたなくなってきていることへの心配をしていました。このような政治家にゴーンさんが影響を与えているのではとの話題です。

もちろん、地球温暖化、大気環境保全は、社会的要請です。次世代自動車として、この変革に取り組むことは必要条件です。しかし、人類の発展を支えた要素として、自動車が生まれる前からも“旅の自由=Freedom of Travel”があり、その手段として発達した二輪、三輪、四輪自動車による“Freedom of Mobility”が重要と信じています。この要素を発展させる前提として、自動車の持つネガティブインパクト低減に取り組んできました。ダルニッシュさんと、この意見で一致したのが、先週のブログですが、自動車会社トップがそれとは反対の方向で政治的働きかけを続けているとすると?どころではありません。

 私自身、トヨタ現役時代もトヨタ内の電気自動車開発担当に“何が目的のEV?”の議論をふっかけ、米国加州環境当局CARB ZEV規制立案スタッフとも議論してきました。またクリーンガソリンエンジン開発の社内プロジェクトリーダとしても、大気環境アセス研究にも首を突っ込み、またLEV/ULEV/SULEVといった略号だらけのゼロエミッションレベルにどんどん近づくクリーン車開発を続け、この後に担当することになったのがハイブリッドプリウスの開発です。

当時の無理やりZEV規制に対応するEVではこの“Freedom of Mobility”から逸脱してしまう、この“Freedom of Mobility”を維持する次世代自動車としてハイブリッド開発に注力しました。当時のトヨタ社内でも、ZEV当局者、こうしたブログや他の方面での私の発言を聞いた方からも、私はアンチEV派と見られているかもしれません。しかし決してアンチEV派でも、ハイブリッドと内燃エンジンにしがみついている旧守派ではないつもりです。

環境という化粧を落として、商品として勝負しなければ発展はない

RAV4EV、e-Com、Subaru eVステラ、三菱自アイミーブ、日産リーフ、Smart EV、MiniEV、BMW ActiveEなど様々なEVにも試乗してきました。その中では、クルマとして群を抜いていたのが日産リーフです。この量産化に取り組んだ開発エンジニアのハートを感じ、また量産自動車としての厳しい評価をパスして作り上げた自動車商品として評価できたのはこのリーフだけです。

そのクルマとしての完成度が高く、さらに都市内走行でのモーター駆動のポテンシャルの高さを感ずるだけに、急速充電までトライし、今のハイブリッドを含む内燃エンジン車を代替する次世代自動車としての限界をより強く感じました。もちろん、この航続距離の範囲内でコミューターとして使える用途としては十分満足できるクルマであることは間違いありません。

ただし、満足されて使われているユーザーに私の意見を押し付けるつもりはありませんが、こうしたコミューター用途は石油枯渇問題、大気環境問題、気候変動CO2問題とは別の、公共交通機関を含む輸送機関全体の問題として議論をすべきと思います。コミューター使用だけでは、間走行距離も少なく、今のクルマの代替としてのCO2削減効果は期待できません。これを混同すると方向を誤るように思います。その意味で、普及の障害を充電設備の未整備と責任転嫁することは大経営者として?に感じました。

このコミューター用途であれば、電動アシスト自転車、電動スクーター、超小型コミューター、シニアカーなどいろいろ候補あると思います。この用途ならば、排気がクリーンであることは前提ですが、なにもEVに限定する必要はないと思います。

いずれにせよ、事業採算性が問われ、これをクリアしなければ将来マーケット拡大はなく、これまた補助金をあてにしたプロジェクトでは先の発展はないことは、今の内燃エンジン車代替の次世代自動車と同じであることを銘記すべきです。

充電設備網の整備もまた政府資金頼り、補助金便りでは先はありませんし、そのつけは税金、電力料金として国民が負担することになります。エンジニアとして、その厳しいハードルにチャレンジし、乗り越えてこそ、世界をリードできる次世代自動車技術を創出することができると思います。

二酸化炭素濃度の上昇とこれからの自動車

大気中の二酸化炭素濃度(CO2)が400ppmを超えました

5月10日に米海洋大気局(NOAA)が、ハワイ島のマウナロア観測所での前日9日の観測において、大気中CO2平均濃度が1958年に同観測所での観測開始から初めて400ppmを超えたと発表しました。 

人類が発生させている様々な温暖化ガスが大気に拡散すると、いわゆる温室効果をもたらし、これが地球温暖化の主要因とされています。この温暖化ガスにはメタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、二酸化炭素(CO2:炭酸ガス)などの様々なものがありますが、人間活動を起因とする温暖化ガスの中で、化石燃料を燃やすと必ず発生するこのCO2ガスが発生量もダントツで多く、温暖化への寄与度が一番大きいと言われています。

こうした大気中の温暖化ガスの存在が、日中の太陽からの受熱と夜間の宇宙への熱放散をおさえ、あるバランスで地球表面部の平均温度を保ち、昼夜の温度変化を抑え、生物生存の環境を作り上げています。この熱シールド効果すなわち温室効果については、既に1800年代には知られていましたが、1890年代初頭に実験と計算でその効果の説明を試みたのが、化学反応理論の研究で高名なスウェーデンの化学者アレニウスです。しかしこの時には将来の温暖化効果によって大気温度があがり、もともと寒冷な欧州ではこれによって住みやすくなると捉えられていました。

この大気中のCO2平均濃度観測データとして最も著名なのが、ハワイ・マウナロア観測所のデータで、1957年から現在に至るまでの長期に渡って継続的な観測が行われており、また太平洋のど真ん中のさらに標高3397mと高地に位置し、局所的な濃度変動を受けにくいことなどから大気中CO2濃度変化議論には必ずと言っていいほど、このマウナロア観測所のデータが使われています。

なお、この大気中のCO2濃度測定としては、局所的な濃度変動を受けにくいことから日本等が保有する南極観測基地での計測データなども解析には使われているようです。

上の図は観測を開始した1957年以来のCO2平均濃度データで、観測をスタートさせたキーリング博士の名前を取ってキーリング曲線と呼ばれています。図はUCSD(カリフォルニア大サンディエゴ校)のWebサイトにあるマウナロア観測所で測定されたキーリング曲線です。

1957年の観測開始から、年をおってCO2濃度が増加し、近年はその増加率が急激に増えていると報告されています。このカーブの1年周期の変動(ギザギザ)は、植物の光合成サイクルによるもので、春夏は植物の成長が活発になってCO2ガス吸収する事で減少し、秋から冬では、光合成が弱まることによってCO2濃度が増加するためです。現在では様々な観測施設でこのような定点観測が行われており、先ほども触れましたが局地的な変動が少ないところとして南極での観測も行われています。今回南極でのデータを見つけ出すことが出来なかったのですが、南半球になりますのでマウナロアとは周期が逆となって、4~9月に減少し、10~3月に増加するパターンの筈です。

出典: Scripps Institution of Oceanography, University of California, San Diego.
出典: Scripps Institution of Oceanography, University of California, San Diego.

産業革命前にはこの大気中のCO2濃度が280ppm程度、この観測開始の1957年では315ppmであったものが56年後の今年400ppmを超えてしまったというのが、冒頭のニュースです。最近では2.1ppm/年以上のスピードで増加しており、この地球温暖化による急激な気候変動緩和への取り組みを取り決める、COP会議で議論している目標が2050年450ppm への抑制ですが、今のままでは目標達成は絶望的な状況となっています。

プリウスは燃費とCO2削減の2つの目標を追い求めた

21世紀の次世代車を目指そうと社内コードG21プロジェクトをトヨタ社内でスタートさせたのが1993年で、その切掛けとなったのが1992年6月リオ(ブラジル)で開催された国連地球環境会議だったことは、このブログでもご紹介しました。クルマを走らせるエネルギー源は内燃エンジンで、動力を取り出すために内燃エンジンで石油燃料を燃やすと必ず発生するのがCO2ガスです。

しかしそれまでの自動車の排出ガスについては、1970年代に自動車排気規制が強く押し出されましたが、その際に問題視されたのはこのCO2ではなく、また対処法も内燃エンジン排気中に含まれる一酸化炭素(CO)や燃え残りの炭化水素成分(HC:ハイドロカーボン)をしっかりと完全燃焼させて、人体に直接は無害なCO2に変換させることでした。

私自身は当時、先週ご紹介した米国カリフォルニア州で制定された従来エンジン車の排気ガスクリーン規制強化であるLEV規制対応のクリーンエンジン開発に取り組んでおり、またZEV規制議論にも加わっていました。

このLEV開発からこのハイブリッド車プリウス開発を担当することになった時、内燃エンジン車として当時としては途方もない目標とされていたCO2半減を目標とすることとしました。

走行燃費2倍へのチャレンジと同時に、ZEV規制の本来の狙いである大気環境に影響を及ぼさない究極の排気クリーン化の実現するためです。エコカーという名称は完全に巷間に普及しましたが、エコロジーとエコノミーを両立した車を指し示すもので、それは燃費向上とCO2が代表する環境負荷物質の排出を低減することを意味し、その基本は現在でも全く変わっていません。

夢の技術の罪

日本の自動車保有台数が頭打ちとなり現象に向うと推測され、また販売車の平均燃費の向上によって自動車用石油燃料消費が減少しており、自動車セクターのCO2削減に関して日本は他国をリードする形となっています。また日本と比較すると歩みは遅いとはいえ、欧州・アメリカでも新車の平均燃費は向上の一途となっており、燃料消費量・CO2排出量が減少してきています。全体ではまだまだ僅かの効果ではありますが、これに累計販売台数500万台を突破したトヨタのハイブリッド車も貢献しており、この流れをリードするプロジェクトを担当できたことを誇りに思っています。

ただし正直に言いえば、グローバルな自動車セクターとしてのCO2削減としての寄与率は僅かに留まっていることも事実です。それはこうした自動車先進国の低減の流れよりも、世界最大の自動車マーケットに成長し保有台数でも一気に日本を抜き去った中国を筆頭とする新興国のモータリゼーションが遥かに早い速度で進行しているからです。こうした現実を考えると、次世代車への転換をもっともっと加速させる必要があります。もちろんハイブリッドだけというつもりはありませんが、従来車の低燃費化とエコラン・回生などさまざまなハイブリッド技術を取り込んだ低燃費車を先進国に遅れることなく新興国マーケットにも導入していくことが必要です。

もはや実用の見通しのない夢だけを追いかける余裕などありません。

1990年代のZEV規制ではGMの『EV1』が次世代自動車の星と騒がれ、初代プリウスを出した1997年~2000年にかけては、短中期はクリーンディーゼルが本命で中長期は水素燃料電池自動車が本命(この時には2010年には実用燃料電池自動車が量産拡大していると公言していたメーカー首脳もありました)とする意見がまことしやかに言われ、ハイブリッドはショートリリーフで広告宣伝車にすぎず「プリウスは札束をつけて売っている」との競合他社の首脳のコメントをそのまま流したメディアもありました。

次ぎ続いたのは第三次電気自動車ブームと復活したZEV議論で、さらにハイブリッド車ガラパゴス論がこれに乗って生じ、これが海外のハイブリッド車販売台数の伸びによって沈静化すると、今度はまたこれも復活した水素燃料電池車待望論が巻き起こっています。

何度も何度もこうした議論に巻き込まれた私としては「しらけている」というのが正直なところです。

将来の技術として画期的な電池や水素燃料電池セル・水素貯蔵技術といった研究開発は必要で、そうした部分の研究に水をかけるつもりはありません。しかしながらこうした技術を隠れ蓑として、欧米の自動車メーカーが実用としての次世代自動車開発をサボり、もしくは甘い技術見通しとマーケットやお客様の要望に応える努力もせずに「電気自動車時代が来る」「すぐにでも水素燃料電池時代が来る」と述べ、メディアなどもそれらの現実性を見極める事が出来ずに無責任に囃し立ててきたのは事実ではないでしょうか?

この中でトヨタだけがサボらず低燃費車開発をリードしたなどとも言うつもりは、勿論ありません。既に内部ではなくOBとなった身として客観的にシビアな目で見てみると、強力な競争相手がいなかったこともあり、さらなるエコ性能の進化も、エコ性能以外のクルマの魅力アップや新興国への低燃費技術導入などのスピードが遅くなってきているように感じています。現状に満足せず、これを打破してスピードアップしないと未来の自動車、未来のモビリティの展望を開くことは出来ません。

環境対応はキレイ事だけでなく、自動車と産業を守るためにも必要

私もトヨタ時代は、欧米勢が本気にならないのをしめしめと横目で見て、この隙に低燃費ハイブリッド車でマーケットをリードできると考えていたことは白状します。とはいえ、15年もたっても自動車業界がこの程度の状態に留まっていると、脱自動車の考え方を加速・激化させ、またそうした流れに答えた非現実的な程に厳しい環境規制によって、自動車産業そのものが歪んだものとなってしまうのではないかと心配しています。

現・安倍内閣は、2009年に当時の鳩山首相がぶちあげた日本の2020年までにCO2総排出量25%削減目標の撤回を決めました。CO2 25%削減の目玉の一つが原発拡大であり、3.11がそのメニューを完全に吹き飛ばし、さらにほとんど何の根拠も見通しも経済影響すらまともに検討しないままスタンドプレーとして打ち上げた25%目標でしたので、その撤回は当然ではあるものの、その宣言も遅きに失したように思います。ただし国際条約ではなくとも国として公表し約束した目標の撤回は、日本の国際的な信用失墜を招いたことは明かです。それを緩和する為にも、撤回したとはいえ排出低減の努力を継続し続けねばなりません。

現時点での効果はまだ少ないですが、ハイブリッド車は確実にCO2削減に効果をあげ、またガソリン代が少なくて済むお財布にも優しいクルマとして普及拡大していくと、国内でのCO2削減だけではなくグローバルでのCO2削減を果たすことができます。

このブログで何度も述べていることですが、現在の自動車の快適さや移動の自由さを保った上で、更に安全性を徹底的に向上し、またこれまでと同等、いやそれ以上の走りの楽しみをもたらすのが未来の自動車であるべきです。勿論、残り走行距離に一喜一憂するようなストレスをドライバーに与えてはいけません、既に満タンから無給油で2泊3日走行距離1000km程度の小旅行を行うことが可能となっています、殆どのトリップはショートトリップでこれを短くしてもいい等というのは送り手の傲慢です。

私は今現在の自動車技術では、ハイブリッドがこの領域に最も早く近づく可能性があると考えています。そして、この技術を着実に進化させる事が、Real World、Globalでの実質的なCO2削減に繋がり、日本自動車技術、日本のもの作り技術を通じての貢献になると思います。

プラグインプリウス日記 1年間の総まとめ

今年1月末に発売を開始した新型プリウスPHVが納車されましたので、それに乗り換え、一年の約束で使っていた限定販売のプラグインプリウスをお返ししました。(今回、わかりやすくするために、これまでの限定販売のモデルをプラグインプリウス、一般販売した新型をプリウスPHVと表記します。)
 
今回はこの一年の走行まとめと、その結果および概要などを報告したいと思います。もちろん、私はトヨタをリタイアしたとはいえ、業界の人間、このプラグインのプリウスは現役開発エンジニアとしてスタートさせた最後の仕事であり、エンジン開発、ハイブリッド開発にどっぶり40年以上浸かっていましたので、身びいきが入る分はご容赦下さい。

プリウス以前のプラグインハイブリッド

以前にこのブログで書いた記憶がありますが、初代ハイブリッドプリウス開発の時代から、プラグインハイブリッドは頭にありました。当時は、ハイブリッド・コンセプトといえば、カリフォルニア州で規制が決まったゼロエミッション車、すなわちバッテリー電気自動車の欠点をカバーすることを目的とした、プラグインタイプのレンジエクステンダーハイブリッドが主流の次代でした。(その頃はレンジエクテンダーという呼び名ではなく、シリーズハイブリッドと呼ぶのが一般的でした。)

バッテリー電気自動車の欠点はその頃も今も同じで、走行距離の短さ、バッテリーのコスト、バッテリーの重さです。トヨタのZEV対応車として製作したRAV4EVでは、車高の高いSUVをベース車としその床下一面に重量が450kgの当時としては最先端の電池を搭載しました、重く大きく450kgものレアメタルが多く使われた電池ですから、そのコストは押して知るべし、とても量産車と呼べる代物ではありませんでした。

そしてその450kgの電池を搭載してすら、フル充電からの航続距離は当時のアメリカ都市モードで160km、ロス地区での実走行ではエムプティ点灯までの余裕をとると50マイル(90km)がいいところした。この短い航続距離、割高どころではないコスト増、いかに法規制よるものとしても、赤字の垂れ流しでは企業として事業の継続はできませんので、この欠点を補うものとして、プラグインハイブリッドが検討されていました。

しかし、カリフォルニア州の規制当局CARBは、発電機用でもエンジンを搭載するクルマはZEVとは認められないとの最終判断を下し、当時このハイブリッドは日の目を見ませんでした。

プリウスの開発はこの決定が下された後にスタートさせたもので、もちろん排気のクリーン度はZEVに劣らないレベルを目指し、その上でZEV規制のくびきを離れ、21世紀のグローバルカーとして石油燃料消費、CO2排出の画期的な削減が狙い、我慢のエコカーではなく、安心、安全の次世代自動車を目指したものでした。ですから初代プリウスハイブリッドシステム記者発表の資料の冒頭にも、下のようにEVのような外部充電を必要とせず、既存のインフラに適合した画期的な低燃費車と説明しています。

初代プリウス解説文

 長時間充電しても、航続距離は短く、普通のクルマとしては使えないというのが当時の電気自動車のイメージでした。そのイメージを払拭したかったというのがこの表現です。

しかし、ZEV対応を目的としなくても、将来石油需給の逼迫、温暖化緩和に対しては、既存電力インフラからの充電で走行エネルギーの一部を補う、プラグインハイブリッド構想があったことも確かです。数回前のブログで気に言った表現として紹介した、さまざまなエミッションを他で排出するZEV、エミッション・エルスオエア・ビークルではなく、安心、安全なグローバルエコカーとのコンセプトはプラグインハイブリッドでも外すことはできません。

プリウスPHVはエミッション・エルスオエアの部分、すなわち発電時に出すエミッションを含めたクリーンで低CO2排出のクルマ、さらに実際に今永らく使われてきたエミッション、CO2排出の多い経年車に変り同じように使うことができるクルマが狙いです。最近の講演では、電池充電を忘れても普通以上に走れるクルマ、充電をすればその分ガソリン消費が少なくなるクルマ、さらに充電電池を使い切った後は燃費の良いハイブリッド走行と紹介しています。

一年間の平均燃費は31.2km/l

前置きが長くなってしまいましたが、このような狙いで開発をスタートさせたプラグインプリウスの一年間の走行結果まとめを報告します。表1は1年間のプラグインプリウス走行結果のまとめです。昨年4月28日に受け取ってから先週19日に返却するまで、ほぼ1年357日間使用しました。この間、海外出張4回含め、呑む機会のある出張、デスクワークなどハンドルを握らなかった日が93日、実際ハンドルを握った日は264日、稼働日数比率としは74%、総走行距離は18,465kmでした。月平均1,500kmと日本の自家用車ユーザー平均の9,000kmを遙かに超えるヘビーユーザーです。この間の給油回数は20回、591Lのガソリンを使いました。

初代プリウス解説文

総合累積燃費は31.2km/l、3代目プリウスのJC08カタログ燃費の32.6km/Lには届きませんでしたが、日本でもアメリカでのユーザーの実使用平均燃費に近いアメリカのEPAラベル燃費50mpg(21.3km/L)や日本のユーザー燃費サイトの数字21.7km/Lに比べると約50%の燃費向上となりました。(プリウスの実燃費についての詳しいところは、以前のブログhttp://www.cordia.jp/wp/?p=286をご覧ください)

EV走行比率では31.2%と、このクルマの公式燃費算出に使われている比率46.2%(ユーティリティファクター)に比べると低い値になっていますが、これも長距離ドライブが多いヘビーユーザーであるが故の結果だと思います。しかし、年間の走行距離が多いだけに、31.2%のEV比率であっても年間1,049kWhの充電電力分、走行距離として5,761kmもガソリンを使わずに走行できたことになりました。図2に一年間の日当たり走行距離をプロットした走行ログを示します。

表2_プラグインプリウス走行ログ

日当たり走行距離500km越えは、三島の自宅から豊田/名古屋地区への日帰り出張、250km~350kmの大部分は宿泊出張の片道、年の後半は酒を呑む機会が増え、宿泊出張や電車での往復で、500km越えの日帰り出張はありませんでした。環境のためには、こんなにクルマを使うのは良くないとのお叱りが聞こえてきそうですが、プリウスハイブリッドを使うと、豊田、名古屋地区への出張では経費も安くすみ、さらに時間も有効に使えます。

現地での移動にタクシーを使うと、費用が高くつく他、CO2排出も増えかねません。さらに、根っからのクルマ屋、走る事そのものも好きですし、様々なところを走り回り、隅から隅まで、そのクルマのあら探し(次ぎの改良点探し)をするのを仕事にしてきましたので、今でもその癖は抜けません。自由な移動手段、そのうえ走ることそのものでも精神の解放を味わうためのクルマを、これからも使い続けるために低燃費、低CO2に取り組んだといったほうが正直なところです。少し脱線しましたが、このログデータを基に自動車の使い方について議論させて下さい。

EVの適性、PHVの適性

私も日常のショッピング、送り迎え、リクレーションなどはほとんど充電エネルギーで走っています。265日のハンドルを握り、5,761 kmのEV走行とすると、長距離ドライブに使った日を含め、平均20km強は外部電力充電によるEV走行をしていることになります。

この充電電力を使い切ったあとはノーマルHV走行になりますから、充電切れを心配する必要はありません。このグラフで80kmラインに赤線を引いたのは、EVを使ったときの航続距離イメージを示すためです。以前のブログでも触れているように、私も日産LEAFほか様々なEVを使ってみました。また過去のRAV4EVを使った経験からも、次ぎの充電までの余裕ギリギリとったとしても、夏のエアコン、冬のヒータ運転を想定すると余裕をみて航続距離80kmが心理的に安心して利用できる目安としました。

ヘビーユーザーに入る私ですらこの走行ログに現れているように、日常のショートトリップの大部分はこれでカバーできますので、これを越えるドライブを100%しない用途としてお使いの方であれば、EVはその価格を除けば静かでクリーンで素晴らしいクルマです。 

ただし、これを越える用途でEVを使用するとなると難しいものとなります。公共充電インフラ整備、急速充電設置を急げとの声もありますが、80km越えの長距離ドライブではPA/SA毎に充電が必要になり、そのたびに「お茶でも」ではありませんが30分もかかります。スローライフ的にゆっくりと移動するというイメージ戦略もあるかもしれませんが、そうなる高速移動体としてのクルマの存在価値と矛盾するものです。しかも、もし充電ポイントが使われていれば次ぎの充電ポイントまで電池切れをヒヤヒヤと心配しながら走ることになり、ゆとりとはかけ離れたものとなります。また、そういった事のないようにと、充電スポットを沢山設置するとなれば、莫大な金額の投資が必要となりあまり現実的ではないでしょう。

プラグインプリウスでは、自宅外で充電したのはたった3回、それも必要だったからではなく、外部での充電そのものを目的としたお試しの充電です。平均的な個人ユーザーでは、日常のショートトリップが多く、私との差は長距離走行の頻度の違いが大部分でしょうから、これが少なくなるとEV走行比率はどんどん増加し、限定車のカタログ値としての比率46.2%、新型プリウスPHVの48%に近づくと思います。さらに、勤務先駐車場、ショッピングセンター、宿泊のホテルなど出先の駐車中に充電ができるようになると、搭載電池をあまり大きくしなくても走行比率を高めることができます。

このプリウスPHV限定車を使って、公募したお客様を対象に行っているフランス・ストラスブール市の実証プロジェクトでは、1台あたりの充電設備を、契約会社の駐車場、そのクルマ共同利用する従業員二人の自宅、合わせて3箇所に設置して、EV走行比率向上のトライとしてスタートさせました。その結果、EV比率は大きく増加したとの結果が得られています。このプロジェクトでは、フランス電力EDFやフランスエネルギー省、ストラスブール市とタイアップし、中心部の地下駐車場、市役所駐車場、都心部の路側帯駐車スペースに公共充電ステーションも設置しましたが、実使用では充電の97%が自宅と会社駐車場での充電、公共充電ステーションは殆ど使われないとの結果でした。70台強のプリウスPHVが走り回り、その年間走行距離の平均は約24,000km、欧州の平均16,000kmを大きく越え、従来車のそのものの用途として長距離ドライブにも使われています

甘くないプラグイン車の普及

プリウスPHVはEV距離が短すぎ、中途半端とのコメントを耳にします。もちろん私的にももう少し延ばしてくれればとの思いもないではありません。しかし、今一度、EV走行の意味を考えてみる必要があるように思います。なんのためにEV走行距離を求めるのか? エンジンを使うのが悪、EV走行が善との短絡的に扱わることが残念です。

1990年代のカリフォルニアZEV規制は光化学スモッグが改善していかないことを市民から迫られ、州政府がその対策効果というよりもしっかりやっていることのアピールとして決めた法律でした。すべてのクルマをEVにできるならば別ですが、古いクルマが併存する状況では、クリーン度向への寄与はありません。石油消費削減ならば、いまのクルマに変わって普及し、同じような用途で輸送距離、走行距離の肩代わりが実効をあげる条件です。年間走行距離が限定されるようでは、また従来車と使い分けられ、古い従来車の代替が進まなければその効果が上がらないことは明かです。さらに、CO2削減効果を追求するなら、発電時のCO2、エミッション・エルスオエアを考慮に入れなければ意味はありません。このCO2削減では、3.11福島原発事故以降、発電のCO2がどんどん増加し、これはPHVもEVも同じですが、ノーマルハイブリッドとほとんど変わらない排出量になってしまっています。プリウスPHVのCO2排出についてのWTW分析、LCA分析は別の機会に報告したいと思います。

大都市での郵便配送、宅配サービス、ショートトリップ専用のセカンドカーなど、EVの良さと、その限界を理解したうえで使って行く必要があり、普及の努力に水をかけるつもりはありませんが、エンジンを持たずEVだけで走らせること、その走行のゼロエミッションに意味はあまりないことは再度強調させて戴きたいと思います。

さらに現在のPHVもまだまだですが、補助金前提の一杯一杯の価格設定では、普及は期待できません。お客様を侮ってはいけません。アメリカでも、日本でも、欧州でも、昨年EVやPHV/EREVの売れ行きは芳しくありませんでした。今年に入ってもノーマルハイブリッド車の伸びに比べると、充電を行うプラグイン車の販売は低迷しています。

補助金をいただいてもガソリン消費削減代でカバーすることは困難です。加えて充電用設備の工事費追加、さらにはマンションなど集合渋滞句での充電はほぼ不可、充電設備が必要など、そのメリット、お使い戴く上での課題をご検討され見送られているケースが予想以上に多かったようです。”PHVですら“と敢えて言わせていただきますが、この状態、安全、安心、安価、使い安い充電設備を開発し、Step by Stepで整備し、さらに電力のCO2を下げ、それでも電力料金の高騰を抑え、将来の普及を目指して行くこと、さらにクルマとしての魅力アップも必要です。

走ってクルマのあら探しをするのが習い性、次から次に見つける気になるところを指摘してきましたが、新しいプリウスPHVはかなりの点が改良されているようです。この新プリウスPHVとの比較、走行の印象はまた別の機会に報告したいと思います。
      

エミッション・エルスオエア・ビークル(EEV)

「探求 エネルギーの世紀」

ピュリッツァー賞受賞のジャーナリストでエネルギーコンサルタントであるダニエル・ヤーギン氏の「探求 エネルギーの世紀」(原題「The Quest」)にて、ZEV(Zero Emission Vehicle、ゼロ・エミッション・ヴィークル)についてエミッション・エルスオエア・ビークル(EEV=Emission Elsewhere Vehicle=エミッションを他のところで排出するクルマ)と表現しており、その表現の巧さに惚れてしまいました。

この本は日本では4月初めに日経新聞出版社から日本語版として出版されましたが、昨年にアメリカで原著が出版され、その評判は私の耳にも届いていました。上下巻合わせて1000ページに近い大作です。原題の「The Quest」というのは、中世騎士物語の聖杯探求の旅の意味で、これまで人類の発展を支え、さらにこれからも大きく支配するエネルギー資源とその利用、さらにその消費拡大が及ぼす影響などを、過去、現在と振り返り、次ぎの未来を考えるには、大変勉強になる本です。

また、そのエネルギー消費のかなりの割合を占める自動車についても、19世紀末のオットーサイクルから石油燃料自動車が主流となり、21世紀にむけた省エネルギー、環境対応としてハイブリッド車プリウス、さらに電気自動車、その中ではLEAFの開発と発売を巡るカルロス・ゴーン氏の言動、テスラ社、ベタープレース社、さらには日本が推進している急速充電器規格CHAdeMO(チャデモ)まで、過去から現在まで、この分野でのホットな話題を扱っています。また電気自動車、水素燃料電池自動車を巡るこれからを取り上げています。

この本の感想は別の機会に取り上げたいと思いますが、今日は、この中で、スタンフォード大学シッパー教授の言葉として筆者ヤーギン博士が紹介している「EEV=エミッション・エルスオエア・ビークル」を話題にしたいと思います。

1990年代のカリフォルニア州でのエミッション議論

さて、この「エミッション・エルスオエア・ビークル」論を読みすすめる内に、90年代の始めカリフォルニア州規制当局CARBスタッフと行った、ZEVに使う電力のエミッション議論の記憶が思い起こされました。

この時、われわれは、全米での電力ミックスのデータを基に、石炭火力発電によるパティキュレート(浮遊粉塵、PM)、亜硫酸ガス(SO2)、窒素酸化物(NOx)の排出を問題にし、それを含めて環境アセスを行うべきとの論陣を張りましたが、それに対し、彼らは、カリフォルニア州には石炭火力は無く、原子力と天然ガス火力のみであり、さらにネバダなどからの水力発電を使っているから、LA、サンディエゴ、サクラメントなど都市部の走行時においてZEVの効果はあるとの主張を譲りませんでした。なお、留意して欲しいのですが、このときの議論はあくまでも大都市の光化学スモッグ対策の議論であり、CO2対象としたものではありませんでした。

実際、最近CARBから発表されている大気環境レポートでは、光化学スモッグは大幅に改善に向かっていますが、まだまだパティキュレート、窒素酸化物が問題のレベルで、これは乗用車や小型トラックのガソリン車からではなく、その他からの排出、発電の寄与率が大きいことを示していました。

こうして最終的にはCARBに押し切られる形となり、後のZEV改定では温暖化ガスのCO2までもが、ゼロエミッションにカウントする規制が制定されることとなりました。それを受けて自動車会社などによる訴訟などもありましたが、結局連邦最高裁までこれを認める判決を出し、唖然としたのを今でも鮮明に記憶しています。

これについては丁度一年前に「ゼロ・エミッションビークル」という題材で取り上げてますので、興味のあるかたはそちらも御覧ください。

エミッション削減に真に貢献するクルマとは

ZEVの代表のバッテリー電気自動車(BEV)は、確かに走行時に燃焼による排気ガスを出しませんが、厳密に言えばその走行の為に、地球温暖化ガスであるCO2は排出しています。当然の話しですが、充電の為に使用する電気は、どこか(elsewhere)で、エネルギーを消費し排出(emission)して作られたものです。

電力の特性から言って、太陽光、風力発電だけを選んで使うことはできず、電気自動車も様々な形で発電され組み合わされた電気を利用することとなります。一部では、充電するのに払った電気料金をサステーナブル発電電力購入に充てるという擬似的な取り組みもありますが、エミッションとして考えると根本を変える訳ではありません。

次世代自動車には、燃料製造過程のエネルギー消費やCO2排出を含むWTW(Well to Wheel=井戸から車輪)、さらにはクルマの構成材料、部品、組み立てから実際の走行、廃車まで、クルマの一生でのエネルギー消費やCO2排出を議論するLCA(Life Cycle Assessment)のようにさまざまな「エミッション・エルスオエア」を考慮した上での省エネルギー、低CO2が必要です。

また、正真正銘のゼロエミッション車であっても、テストコースだけで走るプロトタイプや、ショーウンドーに展示されているだけ、車庫に使われないで保管されているだけのクルマは環境保全に何も貢献しません。普及拡大し、既存のクルマを置き換えることができてこそ、エネルギー・環境保全に貢献できるのです。
そもそもの目的は、机上やカタログ値ではなく、“リアル・ワールド”の実使用で実現すること、さらにはグローバルな総量として削減に寄与していくことは言うまでもありません。

このカリフォルニア州のZEV規制にわたし自身も交渉の当事者として反対したのは、「エミッション・エルスオエア」を考慮すると決してZEVではなく、それに対しエンジン車では大気環境に影響を及ぼさないレベルにまで排気をクリーンし、「エミッション・エルスオエア」でEVをクリーン度で上回っても構造上エンジンが着いているだけで、環境良化に貢献したと認められなくなるからです。

結局ZEV規制は実施されましたが、そのEVはクルマとしてユーザーからケッチンをくらい消えていきました。ハイブリッドプリウスはこのZEV規制対応を意識したものではありません。排気のクリーンには拘り抜きましたが、あくまでも狙いは画期的燃費削減であり、CO2削減でした。出した後に、CARBから実効があがる環境車として評価いただき、またガソリン車のクリーン技術の進化も認めていただき、パーシャルZEV、ハイブリッド車では先進技術パーシャルZEVといったカテゴリーが新設され、大気環境改善に大きな貢献を果たしています。

突きつけられた原発のエミッション

啓蒙活動としての環境自動車普及活動に水をかけるつもりはありませんが、次世代自動車としてはやはり“リアル・ワールド”で「エミッション・エルスオエア」まで考えるべきというのが今も私の持論です。石炭火力が発電の主力である中国でプラグイン自動車を走らせる場合には、今のハイブリッド車よりも多量のCO2を排出してしまうこと、またその発電所から排出される浮遊粉塵、亜硫酸ガス、窒素酸化物が中国都市部の大気汚染だけではなく、偏西風にのって日本の光化学スモッグにまで影響を及ぼしていることにも留意すべきでしょう。

電気自動車のCO2排出量比較(欧州試験モード基準)
電気自動車のCO2排出量比較(欧州試験モード基準)

出典:Ecometrica,UK,Technical Paper

ただし、この「エミッション・エルスオエア」を考えたとしても、石油の消費削減の効果からは、ポスト石油時代の自動車として、外部電力網のコンセントにプラグをさしこんで電池を充電して走らせる、電気自動車やプラグインハイブリッド車などプラグイン自動車が有望であることはZEVとは関係なく明かです。アメリカ、欧州、中国、日本とも発電電力に占める石油発電の比率は小さく(日本で8%程度)、将来の方向として期待が高まっていました。充電電力を走行に使う分だけ、石油燃料消費を減らすことができます。

また、昨年の3.11で福島原発の炉心メルトダウン事故が起こるまでは、原発からの電力による安い夜間電力充電がプラグイン自動車普及の条件、日本での自動車CO2削減の大きな将来メニューとして説明してきました。3.11前のシナリオでは、さらに原発を増設して原発比率50%の計画、充電電力のCO2はさらに下がりますし、大幅に増える夜間の余裕電力の新規需要として、自動車充電電力の値下げ交渉余地もあるのではと、“とらたぬ”の皮算用までしていましたが、このシナリオが一気に吹っ飛んでしまいました。

日本中を震撼とさせる放射能エミッションの放出とその汚染の恐ろしさを味わい、さらにCO2排出削減のため原発支持派だったドイツ メルケル首相をして日本の原発事故は「ドイツのあらゆることを変えた」とのセリフとともに脱原発に宗旨替えをさせてしまいました。「エミッション・エルスオエア」、この原発事故による放射能エミッションの実害と恐怖は、日本どころか世界全体の将来エネルギー政策、CO2削減計画、地球温暖化緩和シナリオにも大きな影響を及ぼしています。

これからの自動車が貢献できること

日本では当面は、石炭、石油発電と、これに比べるとCO2排出量の少ない天然ガス発電の増設で電力不足を乗り切ることになりますが、CO2排出が大きく増え、さらに燃料の輸入量とその価格の上昇から、電力価格も上昇せざるを得ない状況となっています。また、出力の調整を行わない原発発電による余裕電力の需要拡大として安い夜間電力価格が設定されていますが、深夜も化石燃料発電となるとすれば夜間電力料金が維持されるのかは不透明になります。

風力発電、太陽光発電、地熱発電などサステーナブル発電も、急激にこの化石燃料発電を置き換えるだけのポテンシャルはありませんし、さまざまな環境負荷影響として「エミッション・エルスオエア」を突き止め、解決していくことが必要です。

自動車の排出CO2削減からは、プラグイン自動車の行方として、「エミッション・エルスオエア」の発電CO2エミッションと、加えて、これからの電力料金上昇を睨みながら普及策を見直す必要がありそうです。1kWh当たりの東電発電時CO2排出量が、3.11前の2010年では、375g_CO2/kWhですから、これが原発の停止によりそのほとんどが火力発電となり、この値が大幅に増え、今騒がれている電力料金値上げ、さらにこれからの廃炉費用なども「エルスオエア」と言ってはおられず、国民の負担になってくることは避けられそうもありませ。

節電努力により、発電総量が減りますから、CO2排出総量も減少傾向にはありますが、いつまでも節電、節電では、不況脱出にも勢いがそがれてしまいます。安易な原発再開論には疑問がありますが、3.11以前に増して、WTWさらにはLCAとしての低CO2自動車にも、もちろんプラグイン自動車にも、さらに社会活動全体にも電力の、「エミッション・エルスオエア」としてのCO2削減への取り組み、経済成立性を高めるさまざまな低コスト努力が重要になってきているように思います。

自動車サイドも更なる低CO2イノベーション技術、その低コスト技術への飽くなきチャレンジとユーザーにサプライズと満足感を与えられるクルマづくりへのチャレンジが、日本の最大のピンチをチャンスに替えるリード役になることを願っています。

「アメリカのプリウスの父」との思い出

デイビッド・ヘルマンス ―アメリカにおけるプリウスの父―

アメリカで “American father of the Prius.” と呼ばれたトヨタのエンジニアがいました。彼の名は“David Hermance”、私より少し若く、我々はデーブ、デーブと呼んでいました。

彼が1991年の春にロスの車両開発拠点、トヨタ・テクニカルセンター・U.S.Aに入社して以来の長い付き合いの友人であり、ハイブリッド車プリウスの開発ストーリーでは紹介を落とせない仲間の一人でした。しかし残念なことに、2006年11月26日(日)に趣味としてやっていたアクロバット飛行のフライト中にロスの沖合で墜落死してしまいました。

デーブはGMインスティチュートの出身で、GMに入り、主に自動車用エンジン評価を担当し、排ガス・燃費関連の認証試験担当のマネージャーを務めていたGM生え抜きの自動車エンジニアでした。1990年の始め、カリフォルニア州から提案されたLEV(低エミッション車)/ZEV(ゼロエミッション車)規制、OBD(故障診断システム搭載)などなど様々な環境規制強化の提案があり、規制制定の議論、そのルールメーキングが始まり、公聴会、公開討論会への参加、その情報収集、ルールメーキング活動への参画、その新ルールに対応する開発エンジンの現地評価、チューニング作業など、体制強化を図るため、西海岸で仕事をしたいと希望していた彼がマネージャーとしてトヨタの現地チームに加わりました。

ZEV以外のクリーンエンジン開発リーダを指名された私も、1990年初めから、情報収集、規制当局との会合、公聴会への参加などでアメリカに出かける機会が増えてきていましたので、1991年に彼がトヨタに入社以来のアメリカでの活動には欠かせないパートナーでした。

アメリカ自動車業界に残る彼の名

今回、彼の紹介をしようと思ったのは、丁度今週末からシカゴで開催されるシカゴ・モーター・ショーでの出品車をインターネットで調べていたら、画期的な低燃費自動車に与えられる賞に彼の名前が付けられていることを知ったことがきっかけです。

その賞は “ “Hermance Vehicle Efficiency Award””と名付けられ、2010年の最初の賞はフォード・フュージョン・ハイブリッドに授与されています。(3代目プリウスとの一騎打ち)彼が飛行機事故でなくなった翌年の2007年シカゴ・モーター・ショーでもアメリカでのハイブリッド車普及への貢献をたたえ、メモリアルイベントが開催されていたことを記憶しています。

彼は初代プリウスのハイブリッド開発に直接携わっていたわけではありませんが、その開発後半にあるきっかけでアメリカのハイブリッド技術スポークスマンとして加わることになりました。1997年春にハイブリッド車開発の技術紹介と発売予告の発表を行い、発売予告を兼ねたエコキャンペーンを開始しました。その4月からは、当時のプレミオをハイブリッドに改造した試作車ができあがり、そのクルマで日本でのジャーナリスト試乗イベントをスタートさせました。

それを耳にしたアメリカの販売サイドからも、アメリカでの試乗イベント開催を提案され、そのときに現地の助人として技術支援リーダとスポークスマンをお願いしたのが彼とハイブリッドとの関わりのスタートでした。それでどっぷりハイブリッドにはまり込み、担当のシステム屋以上に中身を勉強し、それ以来、アメリカでのスポークスマン役を務めてくれました。

アメリカで発売を開始したのは2000年の5月、欧米の使用環境にも適応できるようにとハイブリッドシステムのビッグチェンジをおこなったマイナーチェンジのクルマでした。この間、アメリカでの認可をうけるための認可手続き、試験法の交渉、クルマの現地評価、販売準備の技術支援、サービス体制作りなど様々な支援活動をやってもらい、また開発ブレーンとして開発スタンス、目標の設定、企業環境広報活動シナリオの策定などについても加わってもらいました。

北米でのプリウスの伝道師

プリウスなどトヨタのハイブリッドシステムはカリフォルニア州のLEV/ZEV規制の中で、ガソリンエンジン搭載車としてもZEVクラスのクリーン度を持つパーシャルZEVと認定され、さらにハイブリッド車はその中の先進技術PZEV(Advanced Technology Partial ZEV)と新しいカテゴリーまで作ってくれ、規制対応上の優遇を受けるようにないました。このカテゴリーの設定、規制ルールの変更を勝ち取るには、デーブの貢献は多大なものがありました。

エンジンパワーと電池パワーをミックスしてクルマを走らせるハイブリッドでは、そのクリーン度や燃費の試験法、申請書類に記入する諸元の定義など決まっていない項目があり、それぞれ認可官庁スタッフに提案し、決めて行く必要があります。この現地での交渉なども、彼がリードしてくれました。このような活動を通じ、日本の開発スタッフとコミュニケーションを密にとり、トヨタのハイブリッドの機構、作動を誰よりもよく理解をし、自分でもプロトを乗り回し、アメリカでのハイブリッド活動のスポークスマンとして様々なにイベントに、環境広報、企業広報、ハイブリッド販促活動に加わってくれました。

2003年に発売を開始した2代目プリウスの最初の発表は、4月に開催されたニューヨーク・モーター・ショーで行い、私も参加しましたが、このときのプリウス紹介のメインプレゼンテーターを彼が努め、非常に喜んでいたのが印象的でした。

このような活動を続けたことから、北米メディアなどで “American father of the Prius.” と呼ばれるようになりました。先ほど挙げたシカゴ・モーター・ショーの賞も、彼のアメリカでのプリウス、そしてハイブリッド普及拡大に大きな貢献を果たしてくれたことを語り継ぐために彼の名を付けた賞を設定したと設立趣意書に書かれていました。初回の受賞車がプリウスではなく、アメリカ製フォード・フュージョン・ハイブリッドであったのは少し皮肉でしたが。

このような技術貢献、社会貢献に個人の名前を付けるのはアメリカによくあり、アメリカ自動車技術会(SAE)でもトヨタのスポンサーのもと”David Hermance Hybrid Technologies Scholarship“と名付けられた奨学金が自動車工学を学ぶ学生のために設けられています。

彼は飛行機のスタント競技が趣味で、会う度にその飛行機の写真を見せられ自慢話を聞かされました。また、何度もフライトに誘われましたが、ロシア製エンジンのスタント飛行機に恐れをなし、いつもお断りしていましたが、その自慢の飛行機が海に突っ込み帰らぬ人となってしまいました。

トヨタのPHVのはじまり

先月末にプリウスPHV(プラグイン・ハイブリッド)の発売を開始しましたが、このPHVにも彼との思い出があります。2代目プリウスをアメリカで発売すると、そのクルマの電池を外部充電型のリチウム電池に載せ替えプラグイン・ハイブリッド車に改造するベンチャーが現れ、このPHVがエネルギー安全保障、環境保全の次世代自動車への近道との政治キャンペーンが始まりました。

このキャンペーンがエスカレートし、環境NGOや首都ワシントンのロビーストが、折からのガソリン高騰、地球温暖化、さらには保守派の人たちの石油の中東依存回避の手段として、このプラグイン改造プリウスが使われ、ホワイトハウス前でのデモにまで登場するようになりました。われわれも、安全でエネルギー密度が大きく、コストが安いリチウム電池が開発できたら、プラグイン化の可能性はあると考えていましたが、当時の電池ではまだ実用化は先と判断していました。しかし、われわれのプリウスを改造され、政治キャンペーンに使われ、さらにはその改造を商売とするところまで現れ、トヨタからのPHV発売待望論まで飛び出しては、だんまりで開発検討を進めるわけにも行かなくなりました。

日本での実用可能性検討をスタートさせながら、アメリカでの情報収集と外向きにどのようなスタンスとして説明するかをまず相談したのも彼です。

上のスライドは、彼とともに作り上げた次世代自動車普及に向けての説明用センテンスの一例です。
これは我々の実感でもありました。

「マーケット(お客様)は次世代エコカーに何を求めているのか?
(初代プリウス、2代目プリウスとお客様に受け入れられるハイブリッド車をめざしてきた結果、)お客様の多くはエコカーをお求めになりたいとの意思を示しています。― 但し、クルマとしての他の属性(クルマの諸性能)が同等か優れている場合にはー」

これが真実です。我慢のエコカーでは、価格に見合った性能、経済性でなければ、もちろん、信頼性、安全性、品質性能が劣るようでは、そのクルマの普及は望めません。

そして何度も、このブログで書いているように普及していかなければエネルギー、環境保全の効果はあがりません。

彼とプラグイン・ハイブリッドに対するスタンス・ペーパーを作り上げ、本格開発をスタートさせたのが2005年頃です。2006月に6月に、アメリカに飛んで彼とこのスタンス・ペーパーの詰めを行い、さらにアメリカのトヨタ販売サイドに説明をし、ワシントンに飛びエネルギー省(DOE)スタッフと話をし、そのまま欧州に渡り欧州のスタッフ、さらにはパリの新凱旋門の中にあるフランス運輸省に、自動車関係の国際基準作成委員会の委員長を訪ね、トヨタのスタンス・ペーパーを説明し、認可申請時の支援をお願いし、快諾を得たことを記憶しています。

2006年と言えば、丁度PCや携帯電話用リチウム電池の異常発熱問題、発火問題が騒がれた年です。この自動車用リチウムイオン電池の安全性確立について、エネルギー省の担当スタッフや、その安全性の研究を続けている国立研究所スタッフと議論をしたのも彼のアレンジでした。

そして、この6月の出張が彼と顔を合わせた最後となりました。事故の一週間前にもアメリカ出張がありましたが、このときは会う機会がなく、11月26日から欧州出張にでかけ、最初の日のスウェーデン・イエテボリのホテルで事故を知り大きなショックを受けたのを記憶しています。

それから、6年が経過しました。このスタンス・ペーパーに沿い、数多くの耐久試験、実証試験を繰り返し、安全、安心、信頼性に万全を期し、このプリウスPHVの発売に至っています。 

プリウスPHV
プリウスPHV

彼が生きていたら、このプリウスPHVにどのような意見を言ってくれるのか思い描き、プリウスPHVのコマーシャルやアクアやプリウスなどレギュラーハイブリッドや様々なハイブリッド車のニュースを聞いています。

電力の発電CO2とプラグイン自動車

先月末に、フランスでトヨタと組んで、プラグインプリウスの大規模実証試験を行っているパートナー企業フランス電力公社(EDF)役員との意見交換のためパリに出張してきました。

それまで、電気自動車(BEV)普及を熱心にやっていたEDFが、プリウスハイブリッドに注目し、そのプラグインハイブリッド化の可能性とその共同事業化を提案してきたのは、今から6年前、2005年でした。EDFは1990代の初めから電気自動車の普及に力を注ぎ、電動輸送機関事業部を作りBEVの他、バス、トラム、水上バスなど電動輸送機関の実用化に取り組んでいました。BEVでは、ルノーとPSAグループからクルマの供給を受け、パリやフランス各地のEV共同運営組合を支援し、充電ステーション設置とセットでEVカーシェアプロジェクトを実施していました。しかし、BEVの将来事業展望は拓けず、パートナーであった自動車会社も次ぎのBEV開発をストップし、EDF電動輸送機事業部では会社トップから事業転換を迫られ、そこでハイブリッドプリウスに注目、そのプラグイン化の打診をトヨタに持ちかけてきたのがきっかけです。

1990年代の初めにトヨタを含め、いくつかの自動車会社がハイブリッド自動車(HEV)の開発をスタートさせましたが、そのきっかけはBEVの販売を義務づけるカリフォルニア州ZEV規制の制定でした。とはいえ当時の最新電池技術を駆使しても、今のクルマの代替としてお客様に受け入れていただけるBEVを開発する見通しは全くありませんでした。その代替として、各社が期待したのがHEVであり、多くが想定したのはBEVの延長線上である外部電力充電型、いわゆるレンジエクステンダー型プラグインハイブリッドでした。しかし、ZEVはCO2削減というよりも、ロサンゼルススモッグに代表される大都市の大気環境クリーン化規制のシンボルとしての規制であり、結局レンジエクステンダー型とはいえ、内燃エンジンを搭載するからZEVとしては認められないとの環境派の主張が通り、HEV実用化の機運が一気にしぼんでしまったとのいきさつがあります。

一方でわれわれは、ZEV対応というよりも、将来の石油資源問題、地球温暖化問題から21世紀の自動車には画期的な低燃費が求められるとして、HEVの開発を続けハイブリッドプリウスに結びつけたとの経緯がありました。ZEVは意識しませんでしたし、普及型次世代車ということで当初から外部充電型のプラグインハイブリッドは候補には挙がっていませんでした。しかし、BEV用としての実用化は困難としても電池がもう少し軽く、コンパクトにかつ安く出来る見通しがつけば、プラグインハイブリッドの可能性もありとは考えていました。その将来電池の候補がリチウムイオン電池であったことは当然です。しかし、プラグイン自動車の普及には電池だけではなく、充電ステーション整備も必要、その費用負担を含めて、多くのユーザが経済的なメリットを出すにはまだまだ技術的にも経営的にも高いハードルを乗り越えることが必要です。また、それに使う電力も安価で、かつ低CO2であることが求められます。 

フランスで行うことの意味

フランスでは原子力発電と水力発電の両方で90%以上の発電シェアを持ち、先進国中では世界ダントツの低CO2電力供給国で、3.11前で原発が通常に稼働していた日本の発電CO2の20%以下という、2050年ぐらいに我々が目指さなければならない電力CO2排出量目標を既に達成していました。また、電力料金もオール電化契約の夜間電力料金を除くと、一般家庭用も日本よりも電力料金が安く、一方ガソリン価格は日本よりも高く、CO2低減効果、ユーザの経済メリットの点、さらにクルマの使い方の点でもクルマ文化発祥の地ヨーロッパでのPHV効果の把握とその情報発信に期待をし、EDFとのPHVアライアンスを進めることになりました。

この低CO2電力をクルマの走行エネルギーの一部に使い、長距離ドライブなど電力走行ではまかなえない部分を高効率なハイブリッド走行とすれば、いまからポスト石油や地球温暖化緩和のためのCO2排出削減シナリオの実証スタディーを行うことができます。自動車発祥の地、成熟した自動車社会の欧州で、2020年、2030年、そして2050年の自動車からのCO2排出削減目標を睨みながら、実際のユーザの走行環境での評価を受けながら次世代ハイブリッド車の開発を進めて行くには絶好のチャンスと感じました。この話をもちかけたEDFの重役が実証プロジェクトとして提案してくれたのが、彼の友人が市長を務めているストラスブール市でした。EU議会があり、EU統合のシンボルの街ストラスブール、洒落たトラムと大聖堂でも有名な観光都市で、環境保全政策にも力をいれています。さらに、街の東を流れているライン側を渡るとドイツ、30分足らずで速度無制限のアウトバーンを走ることもできます。

日本とタイアップし、日本のハイブリッド技術を生かし、プラグインハイブリッドの普及拡大と、厳しい欧州ユーザの声を次ぎのハイブリッド開発に反映させて欲しいとの強い思いがありこのプロジェクトのサポートを今も続けています。しかし、3.11福島原発事故はここに大きな影を落とすことになってしまいました。ガソリンの代替として、外部電力によって電池を充電してその電気エネルギーを使うプラグイン自動車の普及を図るには、そのエネルギー分の発電能力を増強してもらうことが必要です。低CO2 化を進めるには、電力そのものも低CO2にしていくことが求められます。

変更を余儀なくされた日本の発電シナリオ

3.11までのシナリオでは日本としてのCO2低減の重点策として原発拡大が掲げられていました。CO2排出の多い、石炭火力や石油火力から原発への転換を図り、オール電化を推進しても有り余る夜間電力の新規需要としてプラグイン自動車用電池の充電に使おうとの構想でした。このシナリオが大きく狂ってしまったことは以前のブログでも述べたところです。オール電化の推進も、原発により余裕がでる夜間電力の新規需要開拓の意味合いが強く、この夜間低CO2電力とヒートポンプ給湯を組み合せ一般家庭の電力拡販とCO2削減を狙う、政府/電力会社合作の一石二鳥シナリオだったと思います。プラグイン自動車もこのシナリオに沿った路線でした。余裕電力の活用として安く設定される筈の夜間電力料金利用も経済メリット拡大として注目していました。

図に発電方式別のCO2排出量を示します。原発の代替として、太陽光、風力といったリニューアブル発電の拡大が叫ばれていますが、現状でのシェアは微々たるもの、思い切ったインセンティブを付けたとしても即座に原発の代替などは不可能であり、原発発電量の減少を補うためには、この図に示す火力発電の増設でしのぐ他はありません。期待が集まっているLNG火力であっても石炭や石油火力に比べるとましですが、大幅な排出削減が求められている日本のCO2排出量を短期的には増加させてしまう懸念さえあります。

発電CO2排出
発電方式別の二酸化炭素排出量
(出典:資源エネルギー庁 やさしいエネルギー解説集)

今週7日、東電から2010年度の発電電力CO2実勢が発表されました。
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11110702-j.html
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/111107b.pdf
2010年度ですから、3.11の影響は3末までのわずかの期間しか原発停止の影響は含まれていませんが、発電電力あたりのCO2は前年の0.324kg- CO2/kWhから0.374kg-CO2 /kWhと15%以上も増加しています。よくよく資料を見ると、実際の発電Mixベースでは2009年度もCO2低減基準年の1990年度 380kg- CO2/kWhから微増の0.384、2010年度は少し減って0.375、その差分は他から購入した炭素クレジット分で、2009年度では0.06kg分のクレジットを購入して穴埋めにつかったが、2010年度は0.001kg分しか購入しなかったことによる差です。実態としては1990年度から発電量原単位ではCO2が減っていないとの結果でした。2011年度以降はさらに発電CO2が増加してしまうことは明かでしょう。
その電力を使う訳ですから、BEV/PHVのCO2排出量も増え、また電力料金も上がってきていますから経済メリットも感度は少ないとは云え、減少してきています。福島原発事故を受け、欧州CO2マーケットの排出権クレジットが上昇を始めています。排出権クレジットの購入費用は電力料金に跳ね返り結局は消費者負担、いつまでも続けるわけにはいきません。2010年度でもクレジット購入額を減らしましたが、本年以降はさらに増加分をクレジットでカバーすることは経営的にも許されないでしょう。

エネルギーについて大きな眼で本質的な議論を

プラグイン自動車の電池を電力貯蔵源として活用するスマートグリッド構想によって、リニューアブル発電拡大切り札にしようとの声も耳にしますが、充電電力はクルマを走らせるためのもの、それを転用するシナリオをどう成立させるかが理解できません。電力貯蔵源として使うにしても、その充電電力はこれまでになかった電力の新規需要です。原発の夜間余裕電力が期待出来ない場合、この新規需要をどんなシナリオでまかなうかはこれからの議論です。自動車だけでの議論ではありません。人間の生活、農業、漁業からサービス業、製造業まで、それを支える全ての産業が多くのエネルギーを使うことにより成り立っています。脱化石燃料、低CO2を目指さすとしても、省エネと太陽光発電や風力発電など新エネだけではまかなえないことは明かです。日本の将来のためこれからのエネルギー戦略についてもっと真剣に向き合い、議論を進めていくことが必要と思います。もちろん、原発運転を継続するにしても、もう想定外は許されないことは言うまでもありません。

エネルギーと環境、フランス、ヨーロッパでの取り組み、PHVの実証状況を見守りながら、日本のエネルギー、環境議論にも加わっていきたいと思います。

「ゼロ・エミッションビークル」

あの大震災から一ヶ月、気温が上昇してしばらくの間は計画停電も実施の必要がなくなりました。TVでも、一時期のACだけという状態ではなくなり、CMも少しずつ平常に戻ってきているところですが、工場の操業停止の影響か自動車のCMの数はずっと減っている状態となっています。さて、震災前の自動車のTVCMで連呼されていたフレーズに「ゼロ・エミッション」というものがあります。私はこのフレーズには現役のエンジニアをリタイアした今でも違和感をもっていましたので、今回はその話です。

カリフォルニアから一般的になったゼロ・エミッションという言葉

1990年に、ロサンジェルス地区や州都のサクラメント地区、サンディエゴ地区の光化学スモッグがなかなか改善していかないことに業を煮やしたカリフォルニア州が、その抜本的な改善を目指し、極めて厳しい自動車排気ガス規制の導入を決めました。
それが、LEV(Low Emission Vehicle)/ZEV(Zero Emission Vehicle)と呼ばれる自動車排気ガス規制です。

このうちのZEV規制が、排気ガスをださないクルマ、すなわちエンジンを持たない電池エネルギーだけで走るクルマ、電気自動車をある比率販売することを義務づける規制でした。
エンジンを持たないクルマ、すなわち走行中の排気ガス排出ゼロから「ゼロ・エミッションビークル」という定義です。

これはカリフォルニア州で販売する全ての自動車メーカーに対する販売義務づけではなく、当時ビッグセブンと言われた、GM、FORD、Chrysler、トヨタ、日産、ホンダ、マツダのカリフォルニア州での新車販売台数シェアの大きなメーカーが対象でした。

当時私は、トヨタでのLEV、すなわち従来エンジンを搭載するクルマの規制対応技術の開発リーダーでした。従って、何度もカリフォルニア州に足を運び、光化学スモッグの実態を実地で確認しました。また、規制当局であるカリフォルニア大気資源局、略称CARB(California Air Resources Board)とも密接に接触し、規制導入の是非やその技術的可能性やその経済性を議論する公聴会への参加や、CARBスタッフとのミーティングを持つ機会を頻繁に持っていました。

大気汚染を脱する為の官民協働

アメリカでの規制の決め方は、規制当局がそのドラフトペーパーを発行し、それに自動車メーカー、石油会社、環境団体、地域代表などさまざまな関係者がコメントを提出し、さらに公聴会が開かれ、さまざまな意見を闘わせ、そのうえで修正を加えて規制法案を決定するというものです。

これと同時に、規制当局スタッフとメーカーとの個別ミーティングも行われ、規制案に対する技術面、マーケット面からの課題、規制方式に対するスタンスなどの意見交換を行います。
ここでは、規制案への疑問点、対案、技術的難易度など、かなり突っ込んだ、またシビアな意見交換も行われていました。

LEV/ZEV規制でもこのようなかなりシビアな議論が闘わされました。中でも規制そのものの効果についての議論では、彼らが大学などの研究機関に委託して行っているロス地区での自動車からの大気汚染物質の排出量とオゾン濃度のシュミレーションモデルでの計算結果基づく規制実施の理論武装に対抗して、その反論、対案なども同じ大気モデルでの実証が求められました。

トヨタの中でもシュミレーションモデルを使った大気汚染研究を本格的に行うようになったのも、このころからです。われわれ、クリーンエンジン開発のエンジニアも、単にエンジン排気ガスをクリーンにする技術開発を行うだけではなく、その目的である自動車による大都市での大気汚染発生のメカニズム、低減の方向などを学ぶことができました。

言うまでもありませんが、排気ガス規制強化は健康にも影響を及ぼしている都市の大気汚染改善が目的です。規制で決められるルールだけのクリーン化だけでは不十分、実際の大気汚染を改善するもっと効果的な方法がないかの検討も行い、CARBとも議論を行いました。以前のブログでも紹介しましたが、このようなCARBスタッフとの議論、意見交換の、さらには公聴会などで知り合ったビッグスリーのエンジニアなどとの交流のなかで、クリーン技術開発の目的として規制ルールに対応する技術ではなく、「リアル・ワールド」実際にクルマを使った状態でのクリーン度や燃費に注目するようになりました。

一人歩きしはじめた「ゼロ・エミッション」

ZEV規制についてもこのリアル・ワールドでの大気改善効果について議論を闘わせました。
ZEVすなわち、電気自動車のクリーン度が論点になり、「リアル・ワールド」としては、電池に充電する電気の発電所時の汚染物質も論点になりました。電気自動車は自分では化石燃料を使うエンジンは持っていませんが、電気の大部分は化石燃料の熱機関(サーマルエンジン)により発電される電気を使っていますので、これを考慮に入れることが必要です。

この時の議論で、われわれは全米平均での発電電力から排出される大気汚染物質、窒素酸化物(NOx)、亜硫酸ガス(SO2)を問題にし、電気自動車は「ゼロ・エミッション」ではないとの提言を行いました。全米では、石炭発電が多く、日本の発電所に比べるとNOx、SOxを除去する脱硝、脱硫設備が不十分で多くの汚染成分を排出していました。

もちろん、石炭発電では多量のCO2を排出していますが、当時のLEV/ZEV規制議論はあくまでも都市のオゾンや浮遊粉じんの都市大気環境問題が対象、CO2の排出削減はまだ議論にはなっていませんでした。

そのときのCARBスタッフの反論は、カリフォルニア州には石炭火力発電所が少なく、供給電力はネバダ、コロラドからの水力発電やカリフォルニア南部の原子力発電、さらにロス地区にはLNG発電所しかないので、ZEVで議論するエミッションはロス地区の電力Mixとして扱い、ほぼ「ゼロ・エミッション」と反論されてしまいました。しかし、このZEV規制が今では石炭火力の多い東海岸の州にまで採用されていますので、我々の主張した電気自動車のクリーン度はもう一度議論する必要があると思います。

今は、自動車排気ガスのクリーン度とともに地球温暖化の原因物質であるCO2排出が問題となってきています。CO2排出こそ、グローバルな問題ですので、走行中の「ゼロ・エミッション」が狙いではなく、発電所から発生するCO2排出量を含めた、「リアル・ワールド」での影響として扱うべきです。その意味で、今回の大震災での原発事故は電気自動車やプラグイン自動車の普及によるCO2削減シナリオにも大きな影響を及ぼすことになりそうです。

国・地域・地方によって電気自動車の環境貢献度は異なる

この電気自動車のCO2排出については、最近イギリスのコンサルタント会社から、日産LEAF、三菱i-MiEVを題材に、最新のディーゼル車、ガソリン車、さらにはトヨタプリウスを題材に、発電電力を含めたCO2排出量の比較を行ったレポートを発表しました。下の図はこのレポートの図に、比較参照のためにプリウスの排出量を私が加えたものです。

電気自動車のCO2排出量比較(欧州試験モード基準)
電気自動車のCO2排出量比較(欧州試験モード基準)

出典:Ecometrica,UK,Technical Paper

このグラフは電気自動車の欧州試験モード基準の、走行距離1kmあたりのCO2排出量を表しており、電気自動車のCO2排出量は各国の発電所の形態(発電Mix)による1 kWhあたりのCO2排出量によって大きく変わることを示しています。ちなみに英国(UK)では75g_ CO2/km、原子力発電と水力発電で90%以上の発電をしているフランスでは12g_ CO2/kmですが、石炭火力が大部分の中国では115g_ CO2/kmと同クラスのディーゼルやプリウスの89g_ CO2/kmよりも多いCO2を排出してしまうことになります。このグラフには示されていませんが、おそらく日本では、英国やアメリカよりも少ないCO2排出量となるはずです。しかしながら、震災の影響で原発の未来が見えない現在、東電の記者発表でもあったとおり少なくとも短期間の間は日本の1 kWhあたりのCO2排出量は上昇すると思われます。

大気環境改善のための排気のクリーン化、また地球温暖化緩和のためのCO2排出量削減、さらにピークオイル、エネルギー資源問題に対応するための省資源、省エネ、すべて「リアル・ワールド」での取り組みが必要です。その意味で、TVコマーシャルにでてくる「ゼロ・エミッション」との言葉に違和感を持っていました。

さらに、この「リアル・ワールド」、すなわち実際に効果を発揮する環境改善、省エネ、省資源の観点では、それぞれの燃料製造過程からクルマの走行過程までのクリーン度、燃料消費、エネルギー効率での改善が必要です。

「リアル・ワールド」で貢献してこその環境自動車

石油燃料であれば油田(Well)での生産から精製過程、スタンドまでの輸送過程から給油(Tank)、その燃料によるクルマの走行(Wheel)、すなわちWell to Wheel(WTW)での燃料消費、CO2排出量でその効果を議論することが重要です。さらにその上で、クルマを構成する材料や部品の製造、組み立、販売店までへの輸送、使用中のWTW、修理やメンテナンス、さらには廃車処理までふくめて、クルマの一生でのエネルギー消費、燃費、CO2消費量での把握と、その「リアル・ワールド」での削減を計る必要があります。

この「リアル・ワールド」での省エネ・環境保全として、短中期ではハイブリッド車の進化と普及に期待をしていますが、中長期的にはピークオイル、ポスト石油としてバイオ燃料の拡大とともに、一般電力網から電池を充電してそのエネルギーをクルマの走行に使う自動車のプラグイン化が有力なメニューであることは変わりません。

これをやはり「ゼロ・エミッション」とのセンスではなく、「リアル・ワールド」での視点、さらにそれも「リアル・ワールド」マーケットでの普及台数と使用実態まで考慮したその実現性がリアルなシナリオを作り出していきたいものです。

補足「ZEV」のその後

その後のZEVの顛末ですが、いろいろ紆余曲折がありましたが、少量販売によるデモテストとしてスタート、トヨタも1000台以上のRAV4EV電気自動車を販売しました。重量450kgのNi-MH電池を搭載しても、「リアル・ワールド」での航続距離は120km程度、さらに大きな赤字を抱えての販売でしたが、それでも他社の様々な電気自動車との対比では走行フィーリング、性能、品質、耐久性、さらにその技術面では一番優れていると言われていました。

しかし、この実証試験でも「リアル・ワールド」での実用化は困難との判断で、ZEVの一部をプリウスのようなハイブリッドのクリーン車をATPZEV(先進技術パーシャルZEV)や従来車の究極クリーン技術車をPZEV(パーシャルZEV)での代替を認める緩和措置を行いました。さらに、2008年には、自動車の環境規制では世界のトップを走ってきたとの自負を持つCARBでは、シュワルツネッカー知事のサポートもあり、地球温暖化問題に関連する自動車CO2規制でも世界をリードしようと、自動車CO2規制ととものZEV規制の改定も行い、電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド車の販売義務づけ強化を行ってきています。