IPCC第38回総会と自動車の低CO2

横浜でIPCC第38回総会開催中
今週の25日から横浜市パシフィコ横浜会議センターで、気候変動の現状分析と対応策を話し合う、IPCC第38回総会が開催されています。IPCCは国連環境計画(UNEP)、世界気象機関(WMO)により、1988年に世界の気象学者と環境研究者、政府機関の環境政策スタッフを集めて設立した政府間機関です。
人間活動で排出される温暖化ガスにより引き起こされていると言われる地球規模の気候変動に関する科学的な最新情報をまとめ、各国にその実情と将来予測、緩和にむけての政策提言をおこなう役割です。定期的に気候変動に関する多くの専門家の研究と分析をまとめて報告書を発行、今年は2007年の4次報告書に次ぐ第5次「評価報告書」発行を予定しています。
この活動を通じてIPCCは2007年度にアメリカのクリントン政権時代の副大統領ゴア氏とともにノーベル平和賞を受賞しています。代表として賞を受け取ったのが、現IPCC議長のパチューリ氏です。

生態系、経済社会への影響と適応策が提示される?
今回の総会では、温暖化ガスの増加がもたらす生態系、社会、経済社会への影響及び適応策について評価を行う第2作業部会の活動報告を予定しており、最終日にはこれまでの活動を纏めた評価報告書を採択し発表することになっています。
2007年の第4次評価報告書としての提言に基づき、国際社会として温暖化ガスによる地球平均気温の上昇を2℃以下に抑制するとの目標に合意していましたが、温室効果ガス排出削減への取り組み目標を決める国際条約をなかなか纏めあげることができずにいます。
(国際条約を決めるには通称COP:気候変動枠組条約締結国会合)

地球平均気温上昇2℃以内に抑制は絶望的
今回のIPCC総会を前に、パチューリ議長は2℃までの抑制は絶望的であり、このまま増加が続くと今世紀末には平均気温が最大4.8℃上昇するとして、経済損失が大きいだけでなく、人命や生態系への影響が甚大と警告しています。さらに、「何もしないことのつけは非常に大きい」と各国が早急に温室効果ガス排出削減に取り組むことを呼びかけました。
日本では福島第1原発事故の影響で原発がほぼ停止状態に追い込まれ、削減どころか1990年比でも増加する状況に追い込まれています。また、中国、インドなど発展途上国の経済急成長で石炭、石油、天然ガスの消費は急増し、温室効果ガスの代表である二酸化炭素(CO2)の大気中濃度が、産業革命前の280ppmから昨年とうとう400ppmの大台を突破してしまいました。

自動車からのCO2排出
自動車もCO2排出の主役の一つです。ハイブリッド開発に取り組んだのも画期的な低燃費自動車を普及させ、CO2排出の寄与度を下げることでした。日本ではハイブリッド車の比率が17%に達し、従来車の低燃費化も加速、日本の燃料消費総量が減少に転じています。アメリカでのハイブリッド比率はまだ3.8%台とわずかですが、低燃費の流れは強まり石油実需が減少に転じたようです。一方、三度目の正直だったはずの電気自動車は、またもやそのブームは去りかけています。電気自動車の走行中ゼロエミッションには意味はなく、温室効果ガス削減が目的なら発電時のCO2、さらに自動車製造時、電池製造時、配電ロス、充電効率、配車時のCO2を含めて評価すべきです。しかし、この議論の前にクルマとしての基本機能、性能不足で、主役としては役不足、ニッチのマーケットではCO2削減への期待も萎んでしまいそうです。その替わりか、これまた1990年代後半のデジャビュのように、水素燃料電池車(FCEV)がクローズアップしてきました。これまた、世界の自動車から排出するCO2削減の主役となるには克服できるかどうか判らない課題が山積しています。 その将来は水素燃料電池車の実用化に人生をかける気概で取り組んでいるエンジニア達にかかっていますが、簡単ではありません。

実用燃費3倍へのチャレンジに期待
一方、このハイブリッド車、低燃費車の流れにも変化の兆候が現れてきました。エコ、エコのかけ声ばかりで、何かエコ疲れが見えてきたのではと心配しています。エコとエコは気にしない派の二極分化が進み始めているように思います。21世紀はエコカーの時代、その21世紀に間に合わせましたと言い歩いた当事者ですが、未だにカタログ燃費の数字を競い合うエコの押し売りでは、次のステップの普及拡大にはつながらない気がしています。
もちろん、燃費向上、低CO2の足踏みは許されませんし、軽量化、低空力損失などクルマとしての低燃費、エンジンの高効率化、電気駆動系の高効率化、電池の充放電効率向上もまだまだ余地は残っています。以前のブログで紹介したように、ハイブリッド開発の燃費向上目標はプリウス開発ストーリーで紹介されている燃費2倍ではなく燃費3倍でした。
カタログ燃費だけの目標ではしょうがありませんが、今なら当時のカローラ比として実走行燃費3倍は無謀なチャレンジ目標ではないように思います。

その上で、普通に走ると燃費3倍のエコ、しかし時には郊外で気持ちの良いエンジンサウンドを響かせながら伸びのある加速も両立させたクルマが目指す方向です。セダン、ステーションワゴン、クロスオーバー、ミニバン、スポーツクーペ、カテゴリーもそのデザインも好みは人それぞれ、エコだけではなく、それぞれの好みのジャンルでサプライズを感じ保有したくなるクルマが実質エコ拡大を牽引するように思います。マーケットが盛り上がり、こうしたクルマが古い燃費の悪いクルマに置き換わっていってCO2削減の実効を高めることができます。

販価の制約は大きいですが、発展途上国へもこうしたクルマを普及させていくことがグローバル自動車としてのCO2排出削減への貢献です。

COPでの国際合意に期待するより、技術イノベーション
今回のIPCC 総会での提言が次のCOPにどのように反映するかは判りません。グローバルな温室効果ガス削減への取り組みは待ったなしですが、これは国際政治で決まること、多くを期待してもしょうがないことは過去のCOPの歴史が物語っています。

それでも手を拱いているわけにはいきません。クルマだけではありませんが、研究者、エンジニアがやれることはまだまだあります。日本の環境、省エネ技術をさらに進化させ、エコと商品魅力の両立、販価効果を高めていくことがエコイノベーションです。
45年のクルマ屋の目から見て、今の世界のクルマの中でエコとクルマの魅力を両立させ、サプライズを感じ保有したくなるクルマは残念ながらありません。終の棲家ならぬ、免許証の返上前にこうした終のクルマに巡り会いたいものです。

福島第1の放射能汚染水漏れと2012年の電力CO2

今回の福島第一原発での高濃度放射能汚染水タンクからの漏水事故と東電のこれまでの一連の対応を見ると、緊急事態での危機管理マネージどころか、設計組立品質および運転維持の不具合未然防止の初歩の初歩すら機能させられなかった東電という組織体にこれ以上まかせておけないとの印象を強く持ちました。

以前のブログでも述べましたが、地球温暖化緩和にむけたすべてのジャンルでのCO2を代表ガスとする温暖化ガス排出低減は待ったなしで、このためには安全が最優先ではあるが原発の再稼働と安全性をさらに高めた新しい原発開発を続けるべきと主張してきました。 

しかし、この体たらくでは、この安全確保と新しい取り組みをこの機能不全に陥った組織に任せることは出来ません。少しでも国民の理解を得ることが再稼働の前提なのにも関わらず、電力会社自らが逆に不信感を募らせるばかりで、いよいよ困難な状況となってきています。

プラグイン車は原発を前提で構想された

9年ほど前にピークオイルに備え、地球温暖化緩和のために自動車からのCO2排出も抑える実用に近い手段としてプラグインハイブリッド(PHV)の開発をスタートさせました。その前提には、原発による低CO2かつ安価な夜間電力をこの充電電力として使うシナリオがありました。

3.11前の日本のエネルギーシナリオでは原子力発電の拡大が謳われており、低燃費HV車の電池をエネルギー密度の大きなリチウムイオン電池に変え、この格安で低CO2の夜間電力を電池の充電に使い、CO2削減を果たそうとの考えでした。

PHVなら、バッテリ電気自動車の最大の課題である航続距離不足の問題も解決できます。しかしこのシナリオも3.11福島第1原発事故で大きく狂ってしまいました。太陽光、風力などリニューアブル発電に多くを期待できないことは明らかで、低CO2とともに安価な電力であることが必要条件となります。

私自身、電力村の住民でも原発の利害関係者でもありませんが、脱原発でかつ国際競争力を維持しながらの低CO2社会の構築、低CO2自動車のシナリオは描けませんでした。もちろん二度と高濃度放射能汚染物質を世界にまき散らすような原発事故は起こしてはならず、原発の安全性の確立なくして低CO2社会は絵にかいた餅になってしまいます。

原発の安全確立と低CO2技術が日本の今後の鍵

今年の秋にはIPCC5次レポートが発行されます。今月初めの日本の猛暑なども含め世界的に気象の変動は明らかに大きくなってきており、未だに人為的な発生起源の温暖化ガスが気候変動の要因であることを否定する声は聞こえてきますが、とうとう400ppⅿを突破した大気中のCO2濃度などの影響が皆無とも証明できず、将来の人類のために気候変動リスクを回避する活動を起こす必要があるのは間違いないかと思います。

福島原発事故の影響を自分の眼で確かめ、これからの低CO2エネルギー、低CO2自動車のシナリオを考えたいと思い、今年の1月には福島第2原発の見学をさせて頂きました。その際は、増田所長みずから、停止中の原子炉内部からさまざまな緊急冷却ライン、流行語にもなった炉心圧力のベントライン、原子炉の底にあるサプレッションチェンバー、さらには津波影響で倒壊したオイルタンク、大型タンクローリーを間近に目にし、天井を超える水を被った緊急冷却用ディーゼル発電機と冷却水ポンプ建屋、ガスタービン発電機トレーラー車など、その後の緊急安全対策工事についても説明を頂きました。

当時の現場の状況、緊急事態での原発安全停止の基本、「止める、冷やす、閉じ込める」を所長のリーダシップと所員と関連会社のスタッフの献身的な活動により成し遂げた状況など、増田所長、および所員のかたがたから現地、現場で詳しく説明を受け、東電福島第2原発現場の現場力に強く感銘を受けたのは事実です。

今回の漏水不具合では、今さら本社のトップを現場に貼り付けたから何とかなるような話ではないと思います。次々と発生する緊急事態をさばき、オペレーションによる不具合発生を未然に防ぐためには、プロの緊急プロジェクトマネージャと現場マネージャーのタイアップが不可欠となります。それこそ現場力の結集とそのパワーを生かす、リーダーのリーダシップとマネージパワーが必要です。

そのような人材を探し出すことがトップの役割です、現状のトップマネージではこの人材を探し出すことすらできていないとしか思えず、これもまた今回の事故が人災であったと言わざるを得ない大きな要因になっています。

今後は国が全面にでるようですが、政治家や官僚が現場作業をやるわけでも、やれるわけでもありません。やれる人材、危機管理オペレーショのリーダーを見出すこと、そのプロ人材の組織化、全面的な支援が政治家や官僚のやるべきことであり、日本の新しい危機管理チーム結成を期待されます。この収束なしに、原発再活用への道はありません。

おりしも先日、2012年度の日本9電力会社の電力CO2発生値が電力各社から発表されました。原発のない沖縄電力を除いて、残り8社の電力CO2は大幅な増加を示しており、電力各社が3.11前に設定していたCO2削減目標はいずれも未達となってしまいました。

大飯原発以外はすべて停止していても、この猛暑の夏のピーク時を節電と火力シフトで乗り切ることが出来ました。しかし、原発分をまかなったのはほぼ100%が石炭、石油、天然ガスの火力発電で、リニューアブル電力ではありませんでした。

このところの貿易赤字も、電力各社の赤字も、さらに温暖化ガスCO2の大幅増加もこの火力発電シフトが原因となっています。ポスト京都議論の進展は遅れていますが、低CO2技術で貢献していってこその日本の存在価値であり、真水部分(温暖化ガスの国内削減分)の削減にしっかり取り込まずして国際貢献は考えられず、この点からも安全確保が前提ではあるが、原発再活用議論に目を背けて進めることは出来ないのではないでしょうか?

欧州自動車CO2規制をめぐる独仏のさやあて?

フランスのメルセデス・ベンツ登録禁止問題

今日は、ギリシャに端を発する欧州ソブリン危機の対応を巡って、何かと不協和音が聞こえてくるドイツとフランスですが、その対立の中に自動車の将来CO2規制をめぐる争いも含まれているという話題を取り上げます。先日、フランス当局がベンツの「Aクラス」「Bクラス」の新車登録を、空調冷媒がEU規制に合致していないことを理由に停止したとのニュースがありました。

EUは車両空調に関して、環境負荷の小さい新冷媒の使用を義務付ける規制を定めましたが、この冷媒が従来品に比べ発火性が高いとの理由でVWやダイムラーが反発していました。ベンツは先の2車種についてはドイツ当局の認可を受けて切り替え期間を延ばして従来品を引き続き使用することにしましたが、フランスはこれに対して規則違反として登録停止措置をとったとのことです。またこの規則を決めたEU委員会も、このフランスの措置に対し支持を打ち出しています。

欧州は1997年12月COP3京都議定書締結後、2050年の温暖化ガス(GHG)排出削減目標として1990年比80-85%削減という非常に意欲的な目標を掲げ、さまざまな分野で削減のための法規制強化を進めてきています。それを目的とした規制の一つがF-ガス規制と呼ばれる冷凍機用冷媒を地球温暖化係数の小さい冷媒への切り替えを促すものです。

これまで使用していた冷媒がCO2の1300以上もの高い地球温暖化係数をもっており、これを温暖化係数が一桁の新冷媒への切り替えを決めたもので、2011年が切り替え期限となっていました。その新冷媒が可燃性であることを理由に、ベンツは小型クラスの「Aクラス」「Bクラス」への切り替えせず、従来冷媒を使用したことが規則違反として登録停止をしたというのがフランス当局の言い分です。

またこれがフランスの独断による登録停止に留まらず、EU委員会がフランスの支持を打ち出したのも、欧州で策定予定の2020年自動車CO2の95g_CO2/km規制の決定に対し、ここにきて自国内の自動車メーカーの強い反対で、ドイツの激しい活動によって理事会での正式承認が遅れていることに対して、EU他国によるドイツへのプレッシャーとの観測もあります。このフランスの措置は、これもドイツに対する反発を強めているイタリアへの波及を予測する向きもあり、まだ当分揉めそうです。

ドイツの転向と他国の反発

ドイツ・メルケル政権では当初電気自動車普及とその電気自動車への追加クレジットをあたえることにより、ドイツ高級車メーカーでもなんとかこの2020年CO2規制に対応できると読んでいたふしがあります。しかしながらここにきて電気自動車普及がそれほど楽観的ではないことがわかり、時刻の自動車メーカーの反対が強くなり、規制条件の見直しを求めて反対に回った形となります。

EU圏として地球温暖化の取り組みにリーダーシップを発揮しようするEUの中で、その中でもこれに積極的だったはずのドイツ・メルケル首相がドイツ自動車メーカーからの強い働きかけで決めたはずの自動車CO2規制に待ったをかけざるを得なくなったことに対して、経済面ではドイツの一人勝ちで特に自動車では欧州で唯一好調なドイツがこのような転向を見せたことに対し、苦戦するフランス等の他国が牽制を行ったという意味もあるようです。

温暖化ガス削減は次のフェーズへ

地球温暖化緩和に向けての国際的な温暖化ガス削減の取り組みは、1997年12月の京都で開催されたCOP3で採択された京都議定書に基づく削減条約がありますが、これも当時の最大の排出国であるアメリカが参加しないまま約束期間の2012年が過ぎてしまい、いまだに次の取り組み議論が空転状態にあります。このドイツvsフランスの対立はまだEU内の話ですが、いよいよ地球温暖化緩和としての温暖化ガス削減を巡る世界バトル勃発の前哨戦との見方もできるかもしれません。

2009年コペンハーゲンで開催されたCOP15では、当時の鳩山首相が日本の2020年温暖化ガス削減目標として25%削減をぶち上げました。しかしCOP15自体が空転、この25%削減が強制力のない口約束に留まり、おそらく産業界中心に胸をなでおろした人も多かったのではないかと思います。原発拡大をベースとしたシナリオでしたが、その後の福島第1原発事故を考慮に入れなくとも、国内での削減活動中心(真水分)では全く見通しがつかない目標でした。

また前自民政権時代ではあったとは言え、日本の環境技術を積極的に世界に展開し削減効果を高めようとのセクトラルアプローチを取っていた中にも関わらず、国連総会とCOP15でそれを完全に逸脱したスピーチを行ったことはまさにスタンドプレー以外のなにものでもありませんでした。私も鳩山首相の退陣とその後の政権交代によりこれが口約束に終わったことに安心したものです。

ですがあくまでこれはあまりにも非現実的な目標が取りやめになった安心であって、決して地球温暖化対策を先送りし、日本としての削減努力をしないで良いと言っているわけではありません。しっかり削減を進めるにせよ、世界全体としての温暖化緩和に結びつかなくては意味がありません。

仮に国内だけで25%削減が国際公約になると、CO2排出の多い鉄鋼、セメントといった産業は単位生産量あたりのCO2を海外勢に比べ削減できる技術を持っていたとしても、それでも日本で操業することができなくなる可能性がありました。そのことによって、日本勢に比べるとはるかにCO2排出量の多い海外勢の生産量が増えてしまっては、結局世界全体ではCO2が増える本末顛倒になってしまいます。

もちろん技術移転によるCO2削減クレジット制度などもないわけではありませんが、その審査やカウントなども国際政治が決める話です。国際CO2トレードなどでは、日本勢のCO2クレジット大量購入をあてこんで制度設計を検討していたとの話も耳にしました。これを防ぐ方策として、産業分野ごとにその排出基準を決め、その分野の世界全体での排出総量を削減しようとの考え方がセクトラルアプローチでした。国対国の国際政治バトルの中ではこの方式がなじまなかったのか、また実施にあたっての審査基準がまだ具体化できていなかったのか、サポートする味方がいなかったのか、COPでの議論の土俵にあがらなかったのは残念です。

技術を磨いた上でしっかりと交渉を

この環境保全、エネルギー保全の実効面では、日本の自動車が技術面、商品面含め、トップを走っていると自信をもって申し上げることができます。エネルギー保全、環境保全に貢献していくことが日本の生きる道です。しかし、国際政治の舞台は正論だけ、きれいごとで回っているわけではありません。ハイブリッドを筆頭にコンベの低燃費車も、また発展途上国で生産する小型自動車も日本のクリーン&低燃費自動車がその存在感を強めています。しかし、ここも規制、規則、国際標準、試験法など国際交渉の中で決まっていきます。もちろん、商品力、技術力が第一ですが、それだけでは不十分、デファクトを目指すには、国際交渉力、政治力、仲間づくりも必要になってきます。

この海外での日本のハイブリッド車やサブコンコンパクト低燃費車のCO2削減分は、鳩山さんがCOP15で約束した25%CO2削減にはカウントされません。セクトラルアプローチの対象にもなりませんが、この技術移転分、現地化分などはまだこれからのCOPでの国際条約締結にむけ交渉材料になるのではと期待しています。自動車分野でも低燃費をめぐっては商品力としても激烈な戦いが始まっています。ここに国力をかけた国際政治バトルの側面もあることを忘れてはなりません。

二酸化炭素濃度の上昇とこれからの自動車

大気中の二酸化炭素濃度(CO2)が400ppmを超えました

5月10日に米海洋大気局(NOAA)が、ハワイ島のマウナロア観測所での前日9日の観測において、大気中CO2平均濃度が1958年に同観測所での観測開始から初めて400ppmを超えたと発表しました。 

人類が発生させている様々な温暖化ガスが大気に拡散すると、いわゆる温室効果をもたらし、これが地球温暖化の主要因とされています。この温暖化ガスにはメタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、二酸化炭素(CO2:炭酸ガス)などの様々なものがありますが、人間活動を起因とする温暖化ガスの中で、化石燃料を燃やすと必ず発生するこのCO2ガスが発生量もダントツで多く、温暖化への寄与度が一番大きいと言われています。

こうした大気中の温暖化ガスの存在が、日中の太陽からの受熱と夜間の宇宙への熱放散をおさえ、あるバランスで地球表面部の平均温度を保ち、昼夜の温度変化を抑え、生物生存の環境を作り上げています。この熱シールド効果すなわち温室効果については、既に1800年代には知られていましたが、1890年代初頭に実験と計算でその効果の説明を試みたのが、化学反応理論の研究で高名なスウェーデンの化学者アレニウスです。しかしこの時には将来の温暖化効果によって大気温度があがり、もともと寒冷な欧州ではこれによって住みやすくなると捉えられていました。

この大気中のCO2平均濃度観測データとして最も著名なのが、ハワイ・マウナロア観測所のデータで、1957年から現在に至るまでの長期に渡って継続的な観測が行われており、また太平洋のど真ん中のさらに標高3397mと高地に位置し、局所的な濃度変動を受けにくいことなどから大気中CO2濃度変化議論には必ずと言っていいほど、このマウナロア観測所のデータが使われています。

なお、この大気中のCO2濃度測定としては、局所的な濃度変動を受けにくいことから日本等が保有する南極観測基地での計測データなども解析には使われているようです。

上の図は観測を開始した1957年以来のCO2平均濃度データで、観測をスタートさせたキーリング博士の名前を取ってキーリング曲線と呼ばれています。図はUCSD(カリフォルニア大サンディエゴ校)のWebサイトにあるマウナロア観測所で測定されたキーリング曲線です。

1957年の観測開始から、年をおってCO2濃度が増加し、近年はその増加率が急激に増えていると報告されています。このカーブの1年周期の変動(ギザギザ)は、植物の光合成サイクルによるもので、春夏は植物の成長が活発になってCO2ガス吸収する事で減少し、秋から冬では、光合成が弱まることによってCO2濃度が増加するためです。現在では様々な観測施設でこのような定点観測が行われており、先ほども触れましたが局地的な変動が少ないところとして南極での観測も行われています。今回南極でのデータを見つけ出すことが出来なかったのですが、南半球になりますのでマウナロアとは周期が逆となって、4~9月に減少し、10~3月に増加するパターンの筈です。

出典: Scripps Institution of Oceanography, University of California, San Diego.
出典: Scripps Institution of Oceanography, University of California, San Diego.

産業革命前にはこの大気中のCO2濃度が280ppm程度、この観測開始の1957年では315ppmであったものが56年後の今年400ppmを超えてしまったというのが、冒頭のニュースです。最近では2.1ppm/年以上のスピードで増加しており、この地球温暖化による急激な気候変動緩和への取り組みを取り決める、COP会議で議論している目標が2050年450ppm への抑制ですが、今のままでは目標達成は絶望的な状況となっています。

プリウスは燃費とCO2削減の2つの目標を追い求めた

21世紀の次世代車を目指そうと社内コードG21プロジェクトをトヨタ社内でスタートさせたのが1993年で、その切掛けとなったのが1992年6月リオ(ブラジル)で開催された国連地球環境会議だったことは、このブログでもご紹介しました。クルマを走らせるエネルギー源は内燃エンジンで、動力を取り出すために内燃エンジンで石油燃料を燃やすと必ず発生するのがCO2ガスです。

しかしそれまでの自動車の排出ガスについては、1970年代に自動車排気規制が強く押し出されましたが、その際に問題視されたのはこのCO2ではなく、また対処法も内燃エンジン排気中に含まれる一酸化炭素(CO)や燃え残りの炭化水素成分(HC:ハイドロカーボン)をしっかりと完全燃焼させて、人体に直接は無害なCO2に変換させることでした。

私自身は当時、先週ご紹介した米国カリフォルニア州で制定された従来エンジン車の排気ガスクリーン規制強化であるLEV規制対応のクリーンエンジン開発に取り組んでおり、またZEV規制議論にも加わっていました。

このLEV開発からこのハイブリッド車プリウス開発を担当することになった時、内燃エンジン車として当時としては途方もない目標とされていたCO2半減を目標とすることとしました。

走行燃費2倍へのチャレンジと同時に、ZEV規制の本来の狙いである大気環境に影響を及ぼさない究極の排気クリーン化の実現するためです。エコカーという名称は完全に巷間に普及しましたが、エコロジーとエコノミーを両立した車を指し示すもので、それは燃費向上とCO2が代表する環境負荷物質の排出を低減することを意味し、その基本は現在でも全く変わっていません。

夢の技術の罪

日本の自動車保有台数が頭打ちとなり現象に向うと推測され、また販売車の平均燃費の向上によって自動車用石油燃料消費が減少しており、自動車セクターのCO2削減に関して日本は他国をリードする形となっています。また日本と比較すると歩みは遅いとはいえ、欧州・アメリカでも新車の平均燃費は向上の一途となっており、燃料消費量・CO2排出量が減少してきています。全体ではまだまだ僅かの効果ではありますが、これに累計販売台数500万台を突破したトヨタのハイブリッド車も貢献しており、この流れをリードするプロジェクトを担当できたことを誇りに思っています。

ただし正直に言いえば、グローバルな自動車セクターとしてのCO2削減としての寄与率は僅かに留まっていることも事実です。それはこうした自動車先進国の低減の流れよりも、世界最大の自動車マーケットに成長し保有台数でも一気に日本を抜き去った中国を筆頭とする新興国のモータリゼーションが遥かに早い速度で進行しているからです。こうした現実を考えると、次世代車への転換をもっともっと加速させる必要があります。もちろんハイブリッドだけというつもりはありませんが、従来車の低燃費化とエコラン・回生などさまざまなハイブリッド技術を取り込んだ低燃費車を先進国に遅れることなく新興国マーケットにも導入していくことが必要です。

もはや実用の見通しのない夢だけを追いかける余裕などありません。

1990年代のZEV規制ではGMの『EV1』が次世代自動車の星と騒がれ、初代プリウスを出した1997年~2000年にかけては、短中期はクリーンディーゼルが本命で中長期は水素燃料電池自動車が本命(この時には2010年には実用燃料電池自動車が量産拡大していると公言していたメーカー首脳もありました)とする意見がまことしやかに言われ、ハイブリッドはショートリリーフで広告宣伝車にすぎず「プリウスは札束をつけて売っている」との競合他社の首脳のコメントをそのまま流したメディアもありました。

次ぎ続いたのは第三次電気自動車ブームと復活したZEV議論で、さらにハイブリッド車ガラパゴス論がこれに乗って生じ、これが海外のハイブリッド車販売台数の伸びによって沈静化すると、今度はまたこれも復活した水素燃料電池車待望論が巻き起こっています。

何度も何度もこうした議論に巻き込まれた私としては「しらけている」というのが正直なところです。

将来の技術として画期的な電池や水素燃料電池セル・水素貯蔵技術といった研究開発は必要で、そうした部分の研究に水をかけるつもりはありません。しかしながらこうした技術を隠れ蓑として、欧米の自動車メーカーが実用としての次世代自動車開発をサボり、もしくは甘い技術見通しとマーケットやお客様の要望に応える努力もせずに「電気自動車時代が来る」「すぐにでも水素燃料電池時代が来る」と述べ、メディアなどもそれらの現実性を見極める事が出来ずに無責任に囃し立ててきたのは事実ではないでしょうか?

この中でトヨタだけがサボらず低燃費車開発をリードしたなどとも言うつもりは、勿論ありません。既に内部ではなくOBとなった身として客観的にシビアな目で見てみると、強力な競争相手がいなかったこともあり、さらなるエコ性能の進化も、エコ性能以外のクルマの魅力アップや新興国への低燃費技術導入などのスピードが遅くなってきているように感じています。現状に満足せず、これを打破してスピードアップしないと未来の自動車、未来のモビリティの展望を開くことは出来ません。

環境対応はキレイ事だけでなく、自動車と産業を守るためにも必要

私もトヨタ時代は、欧米勢が本気にならないのをしめしめと横目で見て、この隙に低燃費ハイブリッド車でマーケットをリードできると考えていたことは白状します。とはいえ、15年もたっても自動車業界がこの程度の状態に留まっていると、脱自動車の考え方を加速・激化させ、またそうした流れに答えた非現実的な程に厳しい環境規制によって、自動車産業そのものが歪んだものとなってしまうのではないかと心配しています。

現・安倍内閣は、2009年に当時の鳩山首相がぶちあげた日本の2020年までにCO2総排出量25%削減目標の撤回を決めました。CO2 25%削減の目玉の一つが原発拡大であり、3.11がそのメニューを完全に吹き飛ばし、さらにほとんど何の根拠も見通しも経済影響すらまともに検討しないままスタンドプレーとして打ち上げた25%目標でしたので、その撤回は当然ではあるものの、その宣言も遅きに失したように思います。ただし国際条約ではなくとも国として公表し約束した目標の撤回は、日本の国際的な信用失墜を招いたことは明かです。それを緩和する為にも、撤回したとはいえ排出低減の努力を継続し続けねばなりません。

現時点での効果はまだ少ないですが、ハイブリッド車は確実にCO2削減に効果をあげ、またガソリン代が少なくて済むお財布にも優しいクルマとして普及拡大していくと、国内でのCO2削減だけではなくグローバルでのCO2削減を果たすことができます。

このブログで何度も述べていることですが、現在の自動車の快適さや移動の自由さを保った上で、更に安全性を徹底的に向上し、またこれまでと同等、いやそれ以上の走りの楽しみをもたらすのが未来の自動車であるべきです。勿論、残り走行距離に一喜一憂するようなストレスをドライバーに与えてはいけません、既に満タンから無給油で2泊3日走行距離1000km程度の小旅行を行うことが可能となっています、殆どのトリップはショートトリップでこれを短くしてもいい等というのは送り手の傲慢です。

私は今現在の自動車技術では、ハイブリッドがこの領域に最も早く近づく可能性があると考えています。そして、この技術を着実に進化させる事が、Real World、Globalでの実質的なCO2削減に繋がり、日本自動車技術、日本のもの作り技術を通じての貢献になると思います。