排気浄化システムのデフィート・デバイス

VWスキャンダルのポイントは、排気浄化システムへのデフィート・デバイス(Defeat Device)の搭載です。デフィート・デバイス:「無効化装置」と訳して良いでしょう。文字通り、排気ガス浄化システムの正常な作動を無効化する装置です。今回VWがデフィート・デバイスの搭載で侵害したとされる、米国連邦大気浄化法(Clean Air Act)には、デフィート・デバイスの禁止をうたう法文が定められています。

40 CFR 86.1809-10 – Prohibition of defeat devices

http://www.gpo.gov/fdsys/granule/CFR-2014-title40-vol19/CFR-2014-title40-vol19-sec86-1809-10

自動車排気ガス規制の中身、その認可をうけるための申請手続き、試験法、試験車の要件からこのデフィート・デバイスの禁止にいたるまで、法律として定められています。また、時代に合わせた改訂も行われ、その都度、Advisory circularという改訂通知がEPAの公式ページに掲載されます。

米国向けエンジン開発の担当エンジニアが、この条文すべてを理解しながら開発作業をやっているわけではありませんが、試験法、判定基準などの基本部分は頭に入れ、また改訂条項をフォローしながら開発作業を進めています。この基本部分の一つがデフィート・デバイスの禁止で、その定義、事例には常に気を配っていました。細部の法律解釈、ループホール探しをする訳ではありません。先週のブログで述べているように、一番基本の判断基準は、規制の本来の狙いに沿った、fairnessとgood faithです。その上で、ルール変更の狙い知り、それを遵守するために最新のルールを知ることは欠かせない作業です。

その最初の条項にデフィート・デバイスの禁止を謳っています

  • No new light-duty vehicle, light-duty truck, medium-duty passenger vehicle, or complete heavy-duty vehicle shall be equipped with a defeat device.

そして、規制当局は、デフィート・デバイスの疑いのあるクルマについて、そのテストを行うか、テスト実施を要求する権限を有していることを明文化しています。

排気ガス浄化システムのデフィート・デバイス問題は、新しい話しではありません。調べた限りの一番古い事例は、1973年に遡ります。EPAは当時のBig3とトヨタが、エンジンルーム内に温度センサーを設置、それによりエンジン暖機過程で排気浄化デバイスの作動を止めるシステムをデフィートと判定したと記録されています。ただし、システムの改良は命じられましたが、このケースでは既に販売したクルマのリコールは命じられませんでした。また、トヨタがこの時、デフィート・デバイスと疑われた排気浄化システムは、今も使われているEGR(排気ガス再循環)システムで、低温時、冷間時にEGRバルブをカットするもので、寒冷地の暖機運転などで、水分を多量に含む排気ガスを再循環させることによるスロットル弁の氷結や、暖機中にまでシステムを機能させることによるドラビリ不良、また失火によるエミッション悪化を防ぐ手段であると理由とそのデータを示し、デフィート・デバイスではないとの判定をもらったと、当時EPAと交渉にあたった友人から聞いた覚えがあります。

続く1974年、これと違うデフィート・デバイス事件が発生しています。前回に似た案件のようですが、2種類の温度センサーを用い、エミッション性能に影響する制御を行ったとの事例です。この案件の当事者VWは12万ドルの罰金を払い決着しています。

http://autoweek.com/article/car-news/vw-emissions-defeat-device-isnt-first

この学習効果が働いていないのが今回のVW事件です。

1990年代にもいくつかのEPAと自動車メーカーの間で、デフィート・デバイスと判定された事例がEPAの記録として残されています。VWケースのように、判断するまでもない違法事件だったかは不明ですが、意図的に排気浄化システムの機能を停止するか弱めるデフィート・デバイスとの判定を受け、罰金を払ったケースはそれほど少なくはありません。この中に、1990年代後半の日本メーカーも含まれています。また日本でも、2011年6月、東京都環境科学研究所の調査で、最新に最新ディーゼル・トラック車に、排出ガス低減性能の「無効化機能:デフィート・デバイス」を使っていることを発見したとして、国交省に届出、改善命令がでているケースがあり、それも2011年まだ新しい事件です。

http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2011/06/20l63600.htm

先日の、東京モーターショウ開催についての自工会記者発表で、池会長は、このVWスキャンダルについて、私見と断りながらも「一企業の行為が自動車業界全体に対する信頼感を揺るがしていることに困惑し、失望している」「日本メーカーでは、そんなことはあり得ないと思っている」と述べています。ここで紹介したように、ここまで悪質なケースはなかったかもしれませんが、法規違反とされるデフィート・デバイス事件が、米国だけではなく、日本でも発生しています。また、日本のケースではなく、日本メーカーが米国でデフィート・デバイスを使ったとして、罰則を受けているケースもあることは公知の事実です。この問題への勉強不足、対岸の火事視している感度の低さには正直失望させられました。

このところ大きな品質問題の多発、その中ではそれが原因で死者がでているにも拘わらず自動車メーカーとしてのアクションが遅れてしまった問題、これも明かな違法行為であった米国での燃費詐称事件と、自動車企業のガバナンスが問われる事件が多発しています。対岸の火事では全くありません。

これまで、2回のブログで、自動車産業界として襟をただし、法規制の趣旨であるリアルの環境保全のため、fairにgood faithでbest practiceでクリーン&グリーン自動車の開発に取り組んで欲しいと申し上げたのは、日本メーカーを含む世界全体の自動車メーカーに対してのコメントです。

クリーンならぬ、ダーティ-・ディーゼル:その2

先週のブログで取り上げた、VWディーゼル車の米国での不正認定(認可)取得事件は、その後も大きくその波紋を広げています。。さすがに、この影響の広がりに経営責任は免れないとして、ヴィンターコルンCEOが辞任を表明しました。しかし、この辞任発表会見で、自分はこの中身を全く知らなかったこと、会社ぐるみではなく、ほんの数人が関与した問題と釈明しました。先週のブログで述べているように、ここまでの明かな’Defeat Device: 無効化装置を動かすソフトを仕込んであることを、内部で6年間も隠蔽し続けることは極めて困難と思います。もしできたとすると、VWのガバナンス、コンプライアンスマネージ体制とその組織に大きな欠陥があり、それを永年許してきた、企業風土、文化にまで遡る問題として、対応策を迫られるでしょう。

このような不法ソフトを仕込むことは、今のソフト技術では極めて簡単です。それを使うことを許可し続けてきた、企業としてのコンプライアンスマネージが厳しく問われるべきと思います。欧州でもこのソフトを使っていたことは明か、欧州の’Defeat Device’判断基準は、アメリカに比べ緩いので、欧州は関係ないと言い募るかと危惧しましたが、欧州であろうが、これは明らかに不正ソフト、VWもさすがにごり押しはやれず、欧州車含め対象1,100万台の大規模リコールを余儀なくされました。

この問題は、あくまで悪質な法律違反の事件、米国連邦議会での公聴会が開催されますが、この公聴会にトップ役員として誰が出席するかに注目しています。企業のガバナンスまで問うとすると、辞任したヴィンターコルンCEO、ピエヒ会長を引っ張りださないと会社としてのガバナンス体制、コンプライアンスマネージ体制までの全容は解明できないと思います。ほんの数人の担当者の責任としてのトカゲのしっぽ切りでの決着は許されないでしょう。

この問題の発端となった、欧米の環境NPO ICCTからの委託によるWest Virginia大からのレポートが発行されたのは、昨年の5月です。そこから、この結果がEPA、CARBに伝えられ、(多分EPAも独自の追試をしたのでしょうが)Defeat Device使用の疑いでその後の処置(リコール)についてVWの交渉に入っていたようです。この段階まで、この問題が会社トップに入っていないことは考えにくいと思います。ヴィンターコルンCEOの今回の釈明会見での、「私は最近まで知らなかった」は全く通用する話しではありません。VWからの対応策が、不十分、かつ曖昧、レスポンスが遅れたため、今回のEPAの発表となったことは間違いないと思います。

しかし、この問題を時々話題となるカタログ燃費と「ユーザー実走行平均燃費」いわゆるリアルワールドとのギャップ問題を混同してはなりません。今回のケースは、米国Certification、欧州Homologation、日本型式認定と呼ばれる、法律に定められている、法規制に適合していることを証明し、確認試験をおこなう認可手続きのルールを破った不法行為、法律違反です。公式の定められた試験法、試験走行モード、審査基準で算定する燃費とリアルワールド燃費のユーザーの実感にギャップがあるのは事実です。

このブログで何度も、このギャップ問題をとりあげていますが、長ったらしく「ユーザー実走行平均燃費」との表現を使うのも、認可のために定められた一定基準の試験法、試験モードで全てのユーザーの、それも寒冷地の冬から酷暑の夏、山間地のユーザー、高速道路使用の多いユーザー、ショートトリップしかしないユーザー全ての実燃費をカバーする試験法は不可能です。その大きくばらつくユーザー燃費の感覚的平均を求めることも、発売前の認可段階では困難だからです。カタログ燃費をユーザーの実感に近づける努力は進められていますが、それにも限界があることはご理解していただけるのではないでしょうか。まだ燃費ギャップは、ユーザーの給油量として把握できますが、排気エミッションのギャップはユーザーには把握できませんし、また場合によっては燃費の比ではなくギャップ量が拡大すします。そのため、公式モード外でのエミッション急増を抑制する要求は特に厳しい排気規制を導入してきた米国で強く、また自動車メーカの認可取得の申請には今回のような不法行為はしていないことを前提に試験をし認可を与えます。

それでも、各国、各地域の公式試験法でも、どんな走り方をしても、基準として決めた規制値を満たすことまでは求めていません。クルマの排気ガス性能は、新車の時だけ守れば良い話しではありません。そのクルマが使われる一生の中で、クリーン性能を保証することが求められています。その追跡調査であるin-use emission test(使用過程車のエミッションテスト)も行われます。このin-use性能を保証するために、この公式試験法での走行モードを越えた条件での触媒高温劣化を防ぐプロテクション燃料増量や、世界にまだまだ存在する粗悪燃料使用時などでのノッキング、プレイグニッションによるエンジン破損を防ぐための燃料増量は認められています。世界で一番厳しい、in-useエミッション保証の規定はカリフォルニア州の定めたLEVII規制で、15年-15万マイル(24万キロ)保証です。個人ユーザーならほぼくるまの寿命までクリーン度保証を求める極めて厳しい保証です。このカリフォルニア州の長期in-use保証も日本メーカーが率先して取り組み、その努力によってやれることが確認されbest practiceとして定められました。このように、米国ではいち早く、リアルワールド(実走行)での環境保全重視に力点を置くことになりました。ディーゼル車には詳しくありませんが、システム保護のための何らかのプロテクション制御とディーゼル固有のパティキュレート、NOxをそれぞれを排気にそのまま流さず一度トラップして、あるタイミングでトラップした排気エミッション成分をバッチ浄化モードで処理する方法は公式モード外で認められています。

この自動車環境性能のリアルワールドの話はCordiaブログで過去に取り上げていますので、ご興味のあるかたはご一読願います。

『リアルワールド』と自動車の環境性能(2011年2月24日)

http://www.cordia.jp/wp/?m=201102

今回の事件は、前に述べたようにICCTがディーゼル車のリアルワールドでの実態調査研究による異常値の計測がきっかけでした。ICCTは欧州と米国を二大拠点とする、クリーン自動車の普及啓蒙活動、さらにクリーン自動車のリアルの実力に目を光らせているNPOです。残念ながら、日本にはこのような第三者評価を行う組織はありません。

このICCTのBoard Chairpersonは、このクリーン自動車に携わってきた人間なら知らない人はいない元CARB議長 Dr. Alan Lloydです。Board Directorにも元EPA自動車局長 Ms. Margo Oge、Participant Councilに現在のCARB議長Ms. Mary Nichols、 元CARB長官 Ms. Catherine Witherspoon、永らくCARB副長官を務めたMr. Tomas Cacketteなど、現役時代には何度もお目にかかり、クリーンエンジンの開発状況、ハイブリッドの説明などをさせていただいた方々です。まこの方々が、米国、カリフォルニア州の自動車環境規制制定をリードしてこられました。

そのICCTが以前から注目していたのが、リアルワールドでのディーゼル車エミッションの実態です。欧州では、米国、日本に比べ遅れていた(遅らせていた?)ディーゼル車の排気規制強化を2007年からEuro IV、2010年からEuro V、さらに2014年からEuro VIへと強化しました。このEuro IVからVへの規制強化でのエミッション削減効果を実路での効果を検証していたのがICCTのメンバーです。私も、リアルワールドの重要性を訴えていましたので、このICCTの活動をフォローしていました。昨年11月にベルリンのICCTのオフィスを訪ね、燃費とエミッションのリアルワールドと公式試験値のギャップ問題について議論をしてきました。下のグラフはその時に貰った資料の中にあったグラフです。この時は、今回の米国でのVW Defeat Device事件までは明るみにはでていませんでしたが、この欧州での実態調査とWest Virginia大調査の時期は一致しており、ICCTでは米国、欧州ともにこの実態は掴んでいたと思います。

環境保全に熱心で気持ちの良い、優秀なスタッフ達で、日本の状況、中国への進出など様々な話しをしました。彼らは不正なDefeat Deviceを使ったことはまでは明言しませんでしたが、今回の事件に発展しかねない情報はすでに持っていたと思います。かれらとの議論は主に、リアルの実燃費ギャップの議論でしたが、このディーゼルNOx問題も立て続けの強制強化をおこなってきたのに、リアルが改善されていない現状を説明してくれました。図1は、その時説明してくれたデータの代表例、欧州での排ガス規制強化の経緯と、スイス/チューリッヒで実施した路側帯でのNOxエミッション計測値をガソリン車、ディーゼル車で比較したものです。その違いは明かです。

スライド1

図2は、そのさまざまなリアルワールド計測値と規制値の比較をしたデータです。一目瞭然です、規制を強化したにも拘わらず、リアルがほとんど良くなっていないとの実態がつかまれています。この時の議論で示してくれたレポートを読んでも、メーカー、車種は特定されていないものの、高い技術力を売に簡素なシステムで厳しい規制に対応できたとするVWの今回の話しは裏付けられると思います。

スライド2

この夜は、ICCTの若いリサ-チャー3人と、ベルリンの彼らが選んでくれた庶民的なレストランで、ワインとオーストリアの肉料理を堪能し、将来のリアルワールドクリーン自動車の話題で、エキサイティング、楽しい時間を過ごしました。

ドイツ誌”Auto Bild”がこのICCT調査を取り上げてVW以外のエミッション対応にも問題の声を上げていますが、この不正が他へと拡散していかないことを願っています。日本勢有利との記事もありますが、それどころかまだまだ主役の座を続けなければいけない内燃エンジン車全体のバッシングに繋がってくことを一番心配しています。

日本の一部報道、またモータージャーナリストのコメントに、今回の事件に関連し、不正はいけないけれど、影響はそれほど多くない、人が死んでいるわけではないとの論評を読みました。これは、理解不足、ミスリードです。もちろん、ディーゼル排気だけの問題ではありませんが、大気中の放出されるNOx、PMが影響すると見られる死者数は汚染度の酷い中国では、年間160万人に達するとの調査レポートが出されています。(1)この数字は世界保健機関(WHO)の公式数字、中国の年間自動車事故死者数20万人を遙かに上回る数字です。 もちろん、中国で今回のVW車はまだほんの僅かしか売られていませんので、この問題と直接結びつく話しではありませんが、企業スタンスとして問われる問題でしょう。

さらに先々週には、ドイツMax Plank Instituteのレポートとして、このままの状態が続くと、大気汚染による死者数は今の2倍660万人に上るとのレポートがだされています。このところ大きな問題となっている、春先のロンドン、パリの大気汚染警報の発令も、このディーゼル車のエミッションも一因と言われ、都市への乗り入れ禁止など脱内燃自動車の動きが加速しています。

  • バークレー大地球研究所の研究で、中国での大気汚染は年間160万人の死亡者を生み出すことを計算 (UC-Berkely Earth: Journal PLOS ONE)

August 14, 2015 Green Car Congress

http://www.greencarcongress.com/2015/08/20150814-be.html

  • Air pollution could claim 6.6 million lives per year by 2050, double current rate; small domestic fires and ag the worst offenders
  • 大気汚染は2050年までに660万人の命を奪う可能性、現在の2倍の数値(ドイツMax Plank Institute report)

Sep 17, 2015 Green Car Congress

http://www.greencarcongress.com/2015/09/20150917-mpi.html

何度も申し上げますが、VWの今回の件は、あってはならない事件です。どこもこんなことをやっているとは思わないでいただきたいと願っています。しかし、日本でも数年前に大型トラックディーゼルで’Defeat Device’事件が発生しています。日本勢すべてが公明正大とは思いません。そんな背景があり、先週のブログで襟をただして欲しいと書かせてもらいました。また透明性と書いたのも、日本にもICCTのようなNPOの活動余地ができるようなオープンな活動が必要で、こうした第三者機関の公正な情報発信によるユーザへの理解活動も欠かせないと思い筆をとりました。

自動車メーカーも、環境規制など法規制対応の基本、good faith、 fairness、best practiceが原点と他山の石として振り返ってほしいからです。企業風土、文化を守るのは大変です、一度踏み外すと転落はあっと言う間です。全ての自動車メーカー経営者、エンジニアがこの部分では襟を正し、口幅ったいですがこれを守り抜いてきたつもりのOBエンジニアの提言に耳を傾けて欲しいと願います。

公明正大、透明に、米国で法規作りとCertification作成の前提となっている思想のベースは、good faith 、fairness、その規制の趣旨(リアルの大気改善、低カーボン)に対しbest practiceが求められていることを強調しておきます。このfairな土俵での競争にもまれることにより、日本自動車産業は発展をとげることができたと信じています。

今回は私の人生にとっても大きな事件、自動車文化発祥地、欧州でそれもこの自動車文化を牽引してきた、我々にとても尊敬の念を抱いていたVWの不祥事です。厳しい糾弾になってしまいました。

今日のTBSの”ひるおび”でも、私のコメントがとりあげられるかも知れません。あってはならない事件にショックを受けたこうした経験、意見をもっているエンジニアOBのコメントとお受け取りいただければ幸いです。

そんなショックの大きさから長文のブログになってしまったことにもご容赦願います。

これまでも、Cordiaブログに様々なコメントを頂いていますが、基本的に個別のご回答、コメントは差し上げていません。今回も複数のお問い合わせ、コメントをいただきましたが、今回も返事を差し上げませんでした。この場をお借りしてお詫び申し上げます。

クリーンならぬ、ダーティ-・ディーゼル:VWディーゼル、米国で大気浄化法違反

昨日、長年の自動車エンジン屋にとって、驚愕し、ガッカリし、さらに怒り心頭のニュースが飛び込んできました。OBとして同業他社の直接の批判は控えてきましたが、今回はそれを破り、まじめにやってきた多くの自動車メーカー、エンジン屋のために厳しく糾弾していきたいと思います。手当たり次第にニュースを拾い読みしてみましたが、東芝の比ではなく、企業姿勢、風土そのものが問われる悪質極まりない環境規制違反と言っても良い事件です。

 

関連記事 

  1. 米国のエコカー関連サイト、Green Car Reportの見出し記事

「VW, Audi TDI Diesel Cars Had ‘Defeat Device’ That Violated EPA Rules, 500K Cars Recalled: BREAKING: VWとAudiのTDIディーゼルは、EPAルール(排ガス規制)を侵害する’Defeat Device:無効化装置’をつけているとして、50万台のリコール、

http://www.greencarreports.com/news/1100101_vw-audi-tdi-diesel-cars-had-defeat-device-that-violated-epa-rules-500k-cars-recalled-breaking

概要

連邦環境保護庁(EPA)は、今週金曜、大手自動車メーカーに関するメディア会見を開催すると通知した。それには、VWとAudiが販売した2009年~2015年までの4気筒TDIディーゼル車約50万台についてのリコール命令についてである。それらのTDI車は、排気テストサイクル走行を検出し、その状況下だけで排気ガスを大幅に減らすようにしていたことが明らかになったとして、EPAはその行動を起こした。EPA担当官の電話会議での発言によると、そのクルマが、通常走行か排気テスト走行かを判別し、通常走行では排気制御をオフにするソフトを持っていることが疑われた。

 

  1. Reutersの報道記事

「Volkswagen could face $18 billion penalties from EPA: VW、米EPAから180億ドルの罰金に直面する可能性」

http://www.reuters.com/article/2015/09/18/us-usa-volkswagen-idUSKCN0RI1VK20150918

概要

金曜日、米EPAは、VWは有害エミッション計測の法規を欺くディーゼル車のソフトを使ったことで告訴された場合、180億ドルの罰金の可能性があると発表した。米大気浄化法不適合の罰則により、罰金は台当たり37,500ドル、総額180億ドルとなることを、担当官は電話会議で確認した。米国VWのスポークスマンは「調査には協力しており、現時点ではコメントはできない」と述べている。VWは、米国で’クリーン・ディーゼル’として強力なマーケッティングを行っており、TVコマーシャルでは「米国でのディーゼルNO1ブランドで、自慢は’クリーン・ディーゼル’」と放映している。

 

この記事は、共同通信が配信し日経、朝日ほか多くの日本紙が掲載しています。目次にある’Defeat Device: 無効化装置’の言葉は、自動車マル排屋にとってはやってはいけないタブーの装置を指す言葉で、すでに死語と思っていました。

今から30年以上も前、タイマー、車速スイッチなど試験モードの特徴に合わせてそれ以外では排気浄化システムや低燃費デバイスの作動を無効化する装置を採用するメーカーが現れ、大きな問題となりました。規制当局と自動車メーカなど関係者で、その定義、判定基準などが規定され、それに該当する場合は大気浄化法違反とされ、罰則規定が制定されました。しかし、基本的には試験モードだけに特定して、排気、燃費デバイスを無効にすること自体が、法規制の目的に反しておりアンフェアな行為であり、’Defeat Device’と疑われることもやってはいけないとのコンセンサスができあがりました。その死語になったはずの’Defeat Device’という言葉が、幽霊のように復活したというのが最初の印象です。

この’Defeat Device’の判断基準と罰則が規定された後も、リアルの大気改善はなかなか進みませんでした。このため、1990年の始め、米国ではそのクリーン度を判定する試験モード以外でエミッション悪化による影響が大きいとして、規制当局の呼びかけにより自動車メーカー各社がクルマを出し合い、米国のアトランタやスポケーンなど何カ所かの都市で走行実態調査を行いました。トヨタもこの調査活動に参加し、試験用のクルマを提供、データ分析にも米国スタッフが付き合いました。その調査結果に基づきリアルワールド走行をカバーするマル排屋にとっては厳しい判定走行モード、オフモード(公式試験モード外:オフ)試験基準を作りあげ、現在も公式試験に追加する判定試験法として使われています。 今回のケースは、このように’Defeat Device’はアンフェアとの判断基準があり、リアルワールドでのエミッション悪化防止を厳しくチェックする米国で明るみにでた不正です。

一部にはアメリカだけの問題で、欧州や日本は関係なく、あってもオフモードの悪化は少ないのではとの意見もあるようですが、そうではないと思います。欧州と日本では、このアメリカのようなオフモード試験法はなく、’Defeat Device’基準も緩いのが現状ですが、EPAが摘発したこのような’Defeat Device’が使われているなら、オフモードでのエミッション悪化は今回のアメリカのケースよりもさらに大きくなる可能性大です。もちろん、基準が緩いとしてもこのような’Defeat Device‘は企業姿勢、環境保全からも許されません。

VWは現時点でコメントを避けていますし、判定ソフトの詳細も判りませんので、この問題の解析は、今後もフォローを続け、もっと情報が集まってから技術判断などお伝えしたいと思います。

ディーゼル車のマル排性能については、以前からオフモードとのギャップ大が問題とされていました。欧州の最新規制ユーロ6規制対応車が、実走行では以前ユーロ4やユーロ5よりも悪いケースがあるとの環境NGOから指摘もされています。また、規制強化にも関わらず大都市のNOxが環境基準を大きく越え、改善に向かわないのはこのリアルワールドでの急増との関連が疑われていました。

現時点で欧州、日本の試験法、判定基準で、このソフトが入っていたとして、米国の’Defeat Device’判定のように不正と判断されるかは判りませんが、規制の主旨を逸脱したアンフェアなやりかたであることは確かでしょう。

リアルワールドでの自動車燃費、クリーン度については、欧米には環境当局OB、技術者、専門家による環境NGOがあり第三者調査が行われています。今回もその環境NGOと大学研究者の合同調査データが摘発のきっかけだったとの報道もあります。クリーン度の調査には計測装置やシャシーダイナモなど高価な設備が必要であり、残念ながら日本にこのような第三者調査機関はありません。公的機関のリアルワールド調査結果や、経年車の追跡調査も公開されておらず、透明性に欠けていることは否めないと思います。

欧州と日本では、実走行に近づける新試験法WLTPの採用が決まり、また欧州ではとうとう、 ‘portable emissions measurement system:車載ポータブル計測システム’を搭載した “real world:実路走行” 排気エミッション試験が義務づけられるようになってしまいました。しかし、クルマの使用条件は千差万別、この新しい“real world:実路走行” 排気エミッション試験でもリアルワールドの一部だけを評価しているに過ぎません。それから先は、フェアネスが問われることになり、不正と判断された場合には厳しいペナルティーを課すことも当然でしょう。今回のケースでは、場合によっては刑事罰の対象にもなる可能性があります。

このような’Defeat Device’に何故、VWは手を染めたのでしようか?排気性能、燃費性能、走行性能はトレードオフ関係、こちらを立てればこちらが立たず強い関係があります。試験モード走行域外でNOx排出を垂れ流し状態にできれば、この排気浄化システムを簡素化し、コストを下げることができます。他社のシステムに比べるとVWのシステムは簡素で、これをEPAが疑ったことが今回の発端との観測記事もありました。また、米国のオフモード走行モードはかなり高負荷、高速域まで走ることになりますので、安いシステムのままで対応すると、燃費悪化、出力低下を招く可能性も強く、排気クリーンの意味、アンフェアかどうかのエンジニアとしての常識に目をつぶれば、やりたくなる誘惑に駆られることは理解できます。しかし、この明らかな不正に歯止めが掛けられなかった会社マネージは厳しく問われることになることは確実でしょう。

以前から、私は欧州勢受け売りの’クリーン・ディーゼル’との表現に違和感を覚えていました。もちろん、アンチ・ディーゼル派としてではなく、中大型トラック、大型バス、重機ではディーゼル以外の実用的な選択肢はないことは十分に理解しています。しかし、これを小型車まで適用し、ガソリンよりも緩い規制を続け、そんな状況で’クリーン・ディーゼル’とキャンペーンを張ってきた一部ドイツ勢のやりかたにもこの不正を招く温床があったように感じます。

このような不正の再発防止はもちろんのこと、この問題を他山の石として、米国だけではなく、世界全体で襟を正しリアルでの’クリーン・ディーゼル’ 、リアルでのクリーン&グリーンカーを目指して欲しいものです。

米国トヨタ本社のテキサス移転

少し旧聞となりますが、4月28日(月)にトヨタはこれまでカリフォルニア州(加州)トーランス市においていた米国本社をテキサス州プラノ市に移転すると発表しました。トヨタの発表によると、米国とカナダの企業活動全体を”One Toyota”ビジョンで行うためにプラノ市に移転し機能を集約すると説明しています。

もともとトーランス市に置かれていたのは、米国での販売、マーケッティング拠点であった米国トヨタ自動車販売の本社で、車両開発、生産、渉外機能とは別機能でした。その後、米国での現地生産、現地生産活動が増加するにつれ、米国全体の本社機能と位置づけられました。開発部隊のなかでも、筆者のようなエンジン屋にとっては、デトロイト近郊のアナーバー市にあるテクニカルセンターとともにトーランスの隣、ガーディナ市に置かれたラボが馴染みのある米国の拠点でした。そのガーディナラボは、エンジン評価、車両適合の拠点とともに、世界の自動車環境規制をリードしてきた加州大気資源局(CARB)と将来自動車環境規制のルールメーキング、試験法についての情報収集や、CARBとの認証届け出業務の重要拠点でもありました。プリウスの発売後は、実用的な次世代環境車としてCARBのスタッフ達が実用的なクリーン/グリーンビークルとして高く評価してくれました。それに意を強くして、全米どころか世界へハイブリッド車を広げる戦略の説明、将来ビジョン議論のためガーディナラボのメンバーとともにトーランス本社に何度も足を運んだ記憶があります。

このテキサス移転を伝える5 月のGreen Car Reportは、「Toyota’s Texas Move: Prius Maker Lands In Highest-Carbon State」との見出しでこのニュースを伝えています。テキサス州は温室効果ガス排出量が全米50州中1位、一州の排出量として、フランス、イギリス、カナダを超えています。これを根拠に、環境自動車プリウスを販売している会社が環境問題を重視していない州に本社を移したことを皮肉った見出しをつてけています。温室効果ガス排出最大州となっている要因としては、19もの火力発電所があること、化学工場が多いこと、都市部でも公共交通機関が少なく、もっぱら自動車、その自動車も大型ピックアップトラックや大型SUVが多いことが上げられています。一方、ハイブリッド車比率は全米平均を大きく下回っており、さらに、ペリー知事は地球温暖化懐疑論者であったことは有名です。

もちろん、様々な法規制や法人税率など企業活動のやり易さ、広い米国全体に散らばる拠点のコントロールセンターとしての地理的な条件からは加州よりもテキサス州が有利のようです。しかし、21世紀の企業ビジョンとして「環境・エネルギー問題へ対応する自動車の変革」を掲げ、ハイブリッドプリウス開発に取り組み、次世代自動車をリードしてきたトヨタが、環境規制をリードしてきた加州から「Highest-Carbon State」に移転したときの影響をどう判断したのか、知りたいところです。

何度かこのブログでも紹介してきたように、筆者自身は現役のクリーンエンジン開発リーダの時から、加州ZEV規制には反対を続けてきました。。大気汚染の深刻さを否定していた訳では決してありませんし、開発を手がけてクリーンエンジン車のクリーン度はCARBも太鼓判を押す経年車クリーン度NO1だったと自負しています。もちろん、排ガスシステムのリコールを命じられてことは一度もありません。クリーン度の改善手段として、まだまだエンジン車でもやれることがあり、やり遂げる自信もありました。さらに走行中ゼロ・エミッションの定義が納得できず、さらに今も基本的には変わっていませんが、短い航続距離ではクルマの機能としてエンジン車に起き買われないことが明かだったからです。。

1990年代の初めに、前述のロス近郊のCARBラボやサクラメントのCARB本部で、ZEV規制ルールメーキングスタッフ達や幹部達と、「走行中のZEVは誤解を招く、発電エミッションも入れて議論すべき」と激論を戦わせたことを思い出します。いわゆるエミッション・エルスオエア・ビークル論を戦わせました。そのときの彼らの反駁は、「カリフォルニア州には石炭火力はなく、クリーンな天然ガス火力と原発、さらにアリゾナ、コロラド州からの水力発電だから電力もクリーン、さらにオゾン濃度の高いロス地区、サクラメントには天然ガス発電所すらないので文字通りZEVだ」との主張でした。トヨタ社内のEV開発リーダーからも、あまりEV開発に水をかけないで欲しいと、クレームを付けられたのもこのころの思い出です。

僅かな台数のZEVを導入するよりも、触媒もついていない古いクルマ、いかにもエンジン失火のまま走っている故障車を減らすほうがよほど大気改善には貢献できるとの主張もしました。「効果が大きいのは判っているが、大気改善が進んでいない現状ではイメージ優先、ZEV規制を引っ込めるわけにはいかない」と言われてしまった。ロス地区のオゾン発生メカニズムや大気環境モデルを勉強をしたのもこの頃です。

その後、加州では、自動車のLEV規制や自動車だけではない様々な規制強化によりロスのオゾン濃度は低下をつづけ、またPMの改善も進んでいます。しかし、この環境改善効果は当時の議論のとおり、ZEV導入の効果はほぼゼロと言ってよいでしょう。自動車排気のクリーン化と古いクルマが新技術のクリーン車に置き換わり、さらに最近のニュースにあった停泊中の大型船舶電源として一般電力(グリッド電力)への切り替え、レジャー用船舶、アウトドア車両の規制強化などによる効果とされています。さらにPM2.5の排出源として、航空機からの排気の寄与率が高いとの調査結果も報告されています。

残念ながらZEV規制を止めることはできませんでしたが、CARBの幹部やスタッフ達とこうしたディベートをフランクにやれたことはアメリカのオープンさの表れとして良い思い出でした。”Prius”発表後は、この実用ハイブリッド車の開発努力とクリーンポテンシャルを高く評価し、新カテゴリーの先進技術パーシャルZEVカテゴリーを新設してくれるなど普及をサポートしてくれまいた。さらに環境保全の”リアルワールド重視”の部分では、技術的に納得できる提案は採用してくれるなど、オープンでフランクな信頼関係の構築ができたと思っています。

いまもZEV規制には、オゾンやPMといった都市部の大気汚染の規制としては”リアルワールド”での改善効果の少なさから賛成できません。特に自動車から排出されるCO2まで温暖化ガスとしてZEVに取り込んだ動きは、加州だけの問題ではなく、グローバルな問題、もう一度ZEVの定義について当時の議論を材料にCARB幹部やスタッフ達に反駁したいところです。CO2はどこで排出しても気候変動に影響を及ぼす温室効果ガスであり、走行中ゼロでも発電所での排出を含めて評価をすべき「エミッション・エルスオエア・ビークル」です。某社がZEVクレジット販売で利益を上げるのは異常、低カーボン車の普及によって環境保全に寄与できるとの主張は当時も今も変わりはありません。

CO2排出量ではあっという間に中国に抜かれてしまったが、アメリカは中国に続く世界二位、さらに一人当たりのCO2排出量では今でも群を抜く化石燃料多消費国、このアメリカがやっと本気で温暖化対策のためのCO2排出削減に舵を切ろうとしています。CAFÉ規制強化は決まりましたが、まだまだ大型ピック、大型SUVが好まれる国です。低CO2次世代車はハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車含めてわずかシェア3.8%と低迷しています。中国とともに、この国が低CO2に動かなければ低カーボンのグローバルな新たな削減活動の枠組み条約は成立しません。その中で、自動車の変革は待ったなしですが、実用技術の裏付けのない規制や、国際政治のパワーゲームで次世代自動車の普及が加速するわけではありません。

規制対応だけではなく、実際にクルマの魅力を高め、この次世代自動車比率を高めることが自動車分野の低カーボン化のポイントです。これをリードしてきたのがトヨタ、ホンダ、日産の日本勢、そのなかで我々は『Prius』で先頭を走ってきたとの強い自負を持っています。この次世代自動車普及の背中を押したのが、私自身、ZEV定義と規制には賛成できませんが、カリフォルニア州ZEV規制であったことは間違いないと思っています。『Prius』を筆頭に次世代自動車普及のアーリーアドプターとしてハリウッドのセレブ達やシリコンバレーなど西海岸の人たちからの強いサポートがあったことを忘れることはできません。

この話題の最中に、ピークオイル論ならぬ、ハイブリッドピーク論が話題になっています。*

*  Could U.S. Hybrid Car Sales Be Peaking Already–And If So, Why?

「アメリカのハイブリッド車販売は既にピークをすぎたのか、それは何故か?」

16 June, 2014 Green Car Report

http://www.greencarreports.com/news/1092736_could-u-s-hybrid-car-sales-be-peaking-already–and-if-so-why

 

ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車含めた次世代自動車の2013年販売シェアは僅か3.8%、このうちプラグインハイブリッド、電気自動車併せて0.6%と比率としては増加していますが、ノーマル・ハイブリッドを押しのけコンベ車に置き換わっていく勢いはありません。

折しもトヨタは年内の水素燃料自動車販売を発表しましたが、電気自動車=ZEVの代替候補として実用化の暁にはクルマの航続距離に優れた水素燃料電池自動車の実用化支援活動をリードしてきたのも加州です。まだ、水素燃料電池自動車普及へのハードルは高く、これが『Prius』を名乗ったり、ポスト『Prius』になるには時間だけではなく、技術ブレークスルーも必要ですが、このアーリーアドプターマーケットも加州が務めてくれることは間違いないと思います。

しかし、いつになるか判らない水素燃料電池車普及の前に、全米で僅か3.8%のシェアの次世代自動車シェアを拡大していくには、やはり加州のユーザーにアピールでき、また環境性能としても電気自動車、水素燃料電池車と競合できる、ハイブリッドピーク論をぶっ飛ばす次の先進『Prius』出現に期待したいところです。

 

 

カリフォルニア州ZEV論争

アメリカで少し息を吹き返した電気自動車

今年に入ってアメリカでは電気自動車(BEV)の販売が上向き、GM VOLTやトヨタプリウスPHVやFord C-Max Energiといったプラグインハイブリッド車(PHV)の販売台数を上回っています。特に、テスラ社の高級セダンモデルSの生産が軌道にのり、抱えていた受注残が捌けるようになったこと、また日産スマーナ工場での米国生産開始とこのタイミングでの販価ダウンが功を奏した日産リーフの販売増が大きな要因です。

4月度の全米でのBEV販売台数は4,043台と3月に続き4,000台を突破し、昨年同月比5.7倍と大幅な増加を記録しています。一方PHVは4月2,735台と昨年同月比12%減とフォードのFusion及び C-MaxのプラグインモデルEnergiの販売スタートにも関わらずBEVに差を付けられるようになってしまいました。ちなみに、ノーマルハイブリッドの販売が42,804台,前年同月比7%増でした。

確かに数字だけみるとBEVの販売が上向き、PHV勢を上回りアメリカでも「ゼロ・エミッション車」の流れが加速し始めたようにも見えますが、この内訳を見るとテスラ モデルS 2,100台、日産リーフ 1,937台が全体の91.7%シェアを占め、残りに三菱i-MiEV 127台、トヨタRAV4EV 70台、ホンダFit EV 22台、Ford Focus EV 147台、昨年4月には326台を売っていたBMW Active Eはゼロとなっています。

日本のメディアでは、米国でのBEV販売を加速させる要因としてカリフォルニア州のゼロ・ゼロエミッション車規制(ZEV規制)の今後の強化をあげる向きもあります。新しいZEV規制は各自動車メーカーに2025年までにこのZEVの販売をカリフォルニア州新車販売台数の15%とする販売義務付けるものです。また、その基準が満たせないと規制を満たした他車からクレジットを購入するか、多額の罰金を納入するかといった規定となっています。

このZEV規制については、報道などではやや硬直的に捉えられている感があります。今回は私の経験もふくめて、これまでのZEV規制とそれを私なりの考え方を書いていこうと思います。

変化していった第1次ZEV規制

このZEV規制が最初に制定されたのは1993年で、1998年からの実施となり、GM EV1、トヨタRAV4EV、日産アルトラEV、ホンダEV Plusなど各社からこの規制対応としてEV車が発売されました。これが米国での第1次ZEV対応EVの動きです。

この第1次ZEV対応車が消えていった経緯を取り上げたのがドキュメンタリー映画” Who Killed the Electric Car?” 「邦題:誰が電気自動車を殺したか?」です。映画では、規制当局のトップ、GMトップ他、このZEV規制制定に関わった関係者のインタビューを中心に犯人捜査を取り上げていました。公開前の、当時ハイブリッド開発責任者を務めて私もその犯人とされるのではとの知人から言われたこともありましたが、幸いにもトヨタでインタビューされたのはアメリカトヨタの広報担当だけでした。

1305ZEV規制の顛末

私の意見では犯人はマーケットで、どのEVも当時の技術としては最大限の努力をしたうえで売れば売るほど多額な赤字が積み上がるレベルで、それでもRAV4EVの例では450kgもの重さの新型EV専用Ni-MH電池を搭載しても満充電走行距離は米国の実走行で120kmが精一杯でした。

フル充電サイクルでの電池劣化を心配しながら限定販売をスタートさせましたが、複数台を購入し業務用車として使われた西海岸の電力会社では10万マイル以上を問題なく走破してくれましたが、やはり徐々に航続距離が短くなっていったと聞いています。

結局のところ、この航続距離では従来車の代替にはならず、販売価格が従来車以下に低下したとしてもこの機能で使って頂ける用途はほんのわずかと言うのが当時の結論でした。規制で販売を強制したとしても、お客様がいなければ叩き売りをしたとしても継続的な販売はできません。さらに赤字の垂れ流しでは、事業の継続ができないのは明か、法規制対応、研究開発費として吸収するにしても限度があります。

法規制を決めたとしても、マーケットが拡大せず、期待ほどの技術進化がないことが明らかになれば、その規制を決めた立法・行政はその責任が問われます。米国は訴訟社会で、その対象は自動車メーカーに限らず、規制による価格上昇を争点としてカリフォルニア州政府自身も一般消費者からの訴訟にさらされるリスクがあります。しかしながらそれを鑑みて規制緩和・規制延期を決定するとなると、今度は環境派から訴訟されかねないのが米国です。

1998年にスタートした第1次ZEV規制も、このBEVに1台あたり大きなクレジットを与え、また将来の有望なZEV技術として取り上げた水素燃料電池自動車開発促進を目的とした各自動車メーカーによる共同研究プログラム(カリフォルニアFCパートナーシップ)参加車両へのさらに大きなクレジット付与し、これに加え新カテゴリーとして排気クリーン度の高いガソリン車にパーシャルZEVクレジット(PZEV)、さらに排気クリーン度がPZEVレベルのハイブリッド車に先進PZEVクレジット(ATPZEV)付与する規定などを新設し、もともとのZEV販売義務付けパーセントは変えずに実質的な規制緩和を行ってきました。

私自身1990年からのZEV規制制定時を初め、その後のZEV規定の見直しやPZEVやATPZEV制定議論にも関わってきましたが、従来車の代替として排気のクリーン度としての規定を厳しくするのではなく、走行時に排気を出さないことを理由にBEVのみの販売を強制するこの法規制には強い反発を覚えていました。

当時も発電電力のエミッションや、クリーン度チャンピオンのガソリン車の可能性、排気浄化システムの耐久品質など、ZEVと同等以上の大気改善効果を発揮させる技術などを規制当局スタッフと議論を重ねました。

1台の触媒ナシのアンティークカーを走らせるだけで、また触媒が破損したクルマが走るだけで、いまのPZEV、ATPZEVのクルマの10000倍ぐらいの排気エミッションを排出してしまいます。

このようなクルマはハイエミッターと呼ばれますが、我々の主張は数パーセントのBEVの販売を法律で強制するよりもこのようなハイエミッターを減らすことのほうが大気環境良化には効果的という議論を続けました。その時の議論・提案のいくつかは、CARBが取り上げてくれ、カリフォルニア州の大気改善に貢献してきたと自負しています。

また、ATPZEVカテゴリーの新設は、こちらから売り込んで活動したものではありませんでした。ハイブリッドプリウスの発売を開始し、そのクリーン度と将来性に規制スタッフが賛同してくれた結果として、ZEV規制の落としどころの一つとして新設したものと私は考えています。

しかし地球温暖化ガスCO2の排出について言うと、これはカリフォルニアだけではなくグローバルな話で、カリフォルニア州が自動車環境規制をリードしたことに敬意を払ったとしても、このZEV規制強化の理由にCO2排出低減を含めてしまったこと、明らかに科学的な見識よりも時流に流された感があり、カリフォルニア州の悪のりであったと思います。

自動車会社がZEVに悲鳴を上げ始めた

第1次ZEV規制では、その仕掛け人はEV1を次世代自動車と広報戦略に使い規制当局に売り込んだGMトップではないかとの噂もありました。結局EV1は電池不具合を起こし、また2シータで航続距離も短いBEVではマーケットに受け入れて貰えず、結局は全車回収という最悪の形で市場から退場することになりました。

第2次ZEV規制の仕掛け人の噂も絶えず、規制対応でマーケットをリードしようとした会社もあるようですが、そろそろ自動車メーカーの悲鳴が聞こえてきました。
今年に入り、米国旧Big3が設立した業界団体「The Alliance of Automobile Manufacturers」と米国の国外メーカー団体「Association of Global Automakers」が遅ればせながらZEV規制の見直し要望を公式に表明しました。

最近開催されたアメリカ自動車技術会(SAE)のフォーラムで、カリフォルニア州でこのZEV規制を管轄するCARB(カリフォルニア大気資源委員会)の委員長メアリー・二コルス氏がZEV規制見直し要望に不快感を表明し、フィアット・クライスラーCEOのセルジオ・マルキオーネ氏が、ZEV規制対応としてカリフォルニア州での限定販売を予定しているフィアット車改造の小型EV『Fiat 500e』が1台あたり$10,000の赤字となり、「BEVの大規模販売は強烈なマゾヒズムだ」と述べたと伝えています。

私自身は、自動車メーカーの反対も遅きに失したように感じています。今回の第2次ZEV規制対応のBEV販売も、結局は自動車としての基本機能があまりにも未熟で、その割には割高な価格となっており、これではいくらエコを売りにしていても(走行中だけのゼロ・エミッションに意味があるとは思いませんが)マーケットはニッチに留まることは自明の理であることは第1次ZEV規制議論とその顛末からも明かだったと思います。

もちろん、大気環境保全、地球温暖化緩和のために全体としてのクリーン(排気のクリーン化)、グリーン自動車(低燃費・低CO2)への取り組みは重要です。この自動車のクリーン化をけん引してきたCARBのリーダ・シップには私も敬意を払ってきましたし、そのCARBトップ、スタッフの方々との数々のディベートは、今でのエキサイティングなまたアメリカのオープン・フェアネスを感ずることができた良き思い出です。

しかし、大気改善効果、地球温暖化効果を全体として高めることが、環境規制の目的です。BEVそのものの普及が目的ではなく、もちろん内燃エンジンが無いことが善では自動車社会そのものの否定に繋がってしまいます。ハイブリッドプリウスがめざしたように、将来も自動車が人類発展を支えてきた移動の自由(Freedom of Travel)の手段をめざし、その基本性能として普及しクリーン・グリーンに寄与していくエコの追求でした。これからもZEV規制のゆくえに注目していきたいと思います。さらに自動車メーカーからも、マーケットが歓迎し普及拡大することができるクルマの提供とその商品開発競争こそ環境保全に貢献していくことになることを銘記して欲しいと思います。

最後に少し広告になりますが、こうしたBEV・プラグイン自動車など次世代自動車を巡る動き、その背景にあるエネルギー・環境トピックスは弊社会員制のWeekly Mail Newsにてお伝えしています。これらのZEVを巡るディベートも取り上げております。とのトピックスリストはこのWebページにリンクしておりますので、どんなトピックスを取り上げているのかご覧いただき、ご興味があるかたは入会をご検討いただければ幸いです。

エミッション・エルスオエア・ビークル(EEV)

「探求 エネルギーの世紀」

ピュリッツァー賞受賞のジャーナリストでエネルギーコンサルタントであるダニエル・ヤーギン氏の「探求 エネルギーの世紀」(原題「The Quest」)にて、ZEV(Zero Emission Vehicle、ゼロ・エミッション・ヴィークル)についてエミッション・エルスオエア・ビークル(EEV=Emission Elsewhere Vehicle=エミッションを他のところで排出するクルマ)と表現しており、その表現の巧さに惚れてしまいました。

この本は日本では4月初めに日経新聞出版社から日本語版として出版されましたが、昨年にアメリカで原著が出版され、その評判は私の耳にも届いていました。上下巻合わせて1000ページに近い大作です。原題の「The Quest」というのは、中世騎士物語の聖杯探求の旅の意味で、これまで人類の発展を支え、さらにこれからも大きく支配するエネルギー資源とその利用、さらにその消費拡大が及ぼす影響などを、過去、現在と振り返り、次ぎの未来を考えるには、大変勉強になる本です。

また、そのエネルギー消費のかなりの割合を占める自動車についても、19世紀末のオットーサイクルから石油燃料自動車が主流となり、21世紀にむけた省エネルギー、環境対応としてハイブリッド車プリウス、さらに電気自動車、その中ではLEAFの開発と発売を巡るカルロス・ゴーン氏の言動、テスラ社、ベタープレース社、さらには日本が推進している急速充電器規格CHAdeMO(チャデモ)まで、過去から現在まで、この分野でのホットな話題を扱っています。また電気自動車、水素燃料電池自動車を巡るこれからを取り上げています。

この本の感想は別の機会に取り上げたいと思いますが、今日は、この中で、スタンフォード大学シッパー教授の言葉として筆者ヤーギン博士が紹介している「EEV=エミッション・エルスオエア・ビークル」を話題にしたいと思います。

1990年代のカリフォルニア州でのエミッション議論

さて、この「エミッション・エルスオエア・ビークル」論を読みすすめる内に、90年代の始めカリフォルニア州規制当局CARBスタッフと行った、ZEVに使う電力のエミッション議論の記憶が思い起こされました。

この時、われわれは、全米での電力ミックスのデータを基に、石炭火力発電によるパティキュレート(浮遊粉塵、PM)、亜硫酸ガス(SO2)、窒素酸化物(NOx)の排出を問題にし、それを含めて環境アセスを行うべきとの論陣を張りましたが、それに対し、彼らは、カリフォルニア州には石炭火力は無く、原子力と天然ガス火力のみであり、さらにネバダなどからの水力発電を使っているから、LA、サンディエゴ、サクラメントなど都市部の走行時においてZEVの効果はあるとの主張を譲りませんでした。なお、留意して欲しいのですが、このときの議論はあくまでも大都市の光化学スモッグ対策の議論であり、CO2対象としたものではありませんでした。

実際、最近CARBから発表されている大気環境レポートでは、光化学スモッグは大幅に改善に向かっていますが、まだまだパティキュレート、窒素酸化物が問題のレベルで、これは乗用車や小型トラックのガソリン車からではなく、その他からの排出、発電の寄与率が大きいことを示していました。

こうして最終的にはCARBに押し切られる形となり、後のZEV改定では温暖化ガスのCO2までもが、ゼロエミッションにカウントする規制が制定されることとなりました。それを受けて自動車会社などによる訴訟などもありましたが、結局連邦最高裁までこれを認める判決を出し、唖然としたのを今でも鮮明に記憶しています。

これについては丁度一年前に「ゼロ・エミッションビークル」という題材で取り上げてますので、興味のあるかたはそちらも御覧ください。

エミッション削減に真に貢献するクルマとは

ZEVの代表のバッテリー電気自動車(BEV)は、確かに走行時に燃焼による排気ガスを出しませんが、厳密に言えばその走行の為に、地球温暖化ガスであるCO2は排出しています。当然の話しですが、充電の為に使用する電気は、どこか(elsewhere)で、エネルギーを消費し排出(emission)して作られたものです。

電力の特性から言って、太陽光、風力発電だけを選んで使うことはできず、電気自動車も様々な形で発電され組み合わされた電気を利用することとなります。一部では、充電するのに払った電気料金をサステーナブル発電電力購入に充てるという擬似的な取り組みもありますが、エミッションとして考えると根本を変える訳ではありません。

次世代自動車には、燃料製造過程のエネルギー消費やCO2排出を含むWTW(Well to Wheel=井戸から車輪)、さらにはクルマの構成材料、部品、組み立てから実際の走行、廃車まで、クルマの一生でのエネルギー消費やCO2排出を議論するLCA(Life Cycle Assessment)のようにさまざまな「エミッション・エルスオエア」を考慮した上での省エネルギー、低CO2が必要です。

また、正真正銘のゼロエミッション車であっても、テストコースだけで走るプロトタイプや、ショーウンドーに展示されているだけ、車庫に使われないで保管されているだけのクルマは環境保全に何も貢献しません。普及拡大し、既存のクルマを置き換えることができてこそ、エネルギー・環境保全に貢献できるのです。
そもそもの目的は、机上やカタログ値ではなく、“リアル・ワールド”の実使用で実現すること、さらにはグローバルな総量として削減に寄与していくことは言うまでもありません。

このカリフォルニア州のZEV規制にわたし自身も交渉の当事者として反対したのは、「エミッション・エルスオエア」を考慮すると決してZEVではなく、それに対しエンジン車では大気環境に影響を及ぼさないレベルにまで排気をクリーンし、「エミッション・エルスオエア」でEVをクリーン度で上回っても構造上エンジンが着いているだけで、環境良化に貢献したと認められなくなるからです。

結局ZEV規制は実施されましたが、そのEVはクルマとしてユーザーからケッチンをくらい消えていきました。ハイブリッドプリウスはこのZEV規制対応を意識したものではありません。排気のクリーンには拘り抜きましたが、あくまでも狙いは画期的燃費削減であり、CO2削減でした。出した後に、CARBから実効があがる環境車として評価いただき、またガソリン車のクリーン技術の進化も認めていただき、パーシャルZEV、ハイブリッド車では先進技術パーシャルZEVといったカテゴリーが新設され、大気環境改善に大きな貢献を果たしています。

突きつけられた原発のエミッション

啓蒙活動としての環境自動車普及活動に水をかけるつもりはありませんが、次世代自動車としてはやはり“リアル・ワールド”で「エミッション・エルスオエア」まで考えるべきというのが今も私の持論です。石炭火力が発電の主力である中国でプラグイン自動車を走らせる場合には、今のハイブリッド車よりも多量のCO2を排出してしまうこと、またその発電所から排出される浮遊粉塵、亜硫酸ガス、窒素酸化物が中国都市部の大気汚染だけではなく、偏西風にのって日本の光化学スモッグにまで影響を及ぼしていることにも留意すべきでしょう。

電気自動車のCO2排出量比較(欧州試験モード基準)
電気自動車のCO2排出量比較(欧州試験モード基準)

出典:Ecometrica,UK,Technical Paper

ただし、この「エミッション・エルスオエア」を考えたとしても、石油の消費削減の効果からは、ポスト石油時代の自動車として、外部電力網のコンセントにプラグをさしこんで電池を充電して走らせる、電気自動車やプラグインハイブリッド車などプラグイン自動車が有望であることはZEVとは関係なく明かです。アメリカ、欧州、中国、日本とも発電電力に占める石油発電の比率は小さく(日本で8%程度)、将来の方向として期待が高まっていました。充電電力を走行に使う分だけ、石油燃料消費を減らすことができます。

また、昨年の3.11で福島原発の炉心メルトダウン事故が起こるまでは、原発からの電力による安い夜間電力充電がプラグイン自動車普及の条件、日本での自動車CO2削減の大きな将来メニューとして説明してきました。3.11前のシナリオでは、さらに原発を増設して原発比率50%の計画、充電電力のCO2はさらに下がりますし、大幅に増える夜間の余裕電力の新規需要として、自動車充電電力の値下げ交渉余地もあるのではと、“とらたぬ”の皮算用までしていましたが、このシナリオが一気に吹っ飛んでしまいました。

日本中を震撼とさせる放射能エミッションの放出とその汚染の恐ろしさを味わい、さらにCO2排出削減のため原発支持派だったドイツ メルケル首相をして日本の原発事故は「ドイツのあらゆることを変えた」とのセリフとともに脱原発に宗旨替えをさせてしまいました。「エミッション・エルスオエア」、この原発事故による放射能エミッションの実害と恐怖は、日本どころか世界全体の将来エネルギー政策、CO2削減計画、地球温暖化緩和シナリオにも大きな影響を及ぼしています。

これからの自動車が貢献できること

日本では当面は、石炭、石油発電と、これに比べるとCO2排出量の少ない天然ガス発電の増設で電力不足を乗り切ることになりますが、CO2排出が大きく増え、さらに燃料の輸入量とその価格の上昇から、電力価格も上昇せざるを得ない状況となっています。また、出力の調整を行わない原発発電による余裕電力の需要拡大として安い夜間電力価格が設定されていますが、深夜も化石燃料発電となるとすれば夜間電力料金が維持されるのかは不透明になります。

風力発電、太陽光発電、地熱発電などサステーナブル発電も、急激にこの化石燃料発電を置き換えるだけのポテンシャルはありませんし、さまざまな環境負荷影響として「エミッション・エルスオエア」を突き止め、解決していくことが必要です。

自動車の排出CO2削減からは、プラグイン自動車の行方として、「エミッション・エルスオエア」の発電CO2エミッションと、加えて、これからの電力料金上昇を睨みながら普及策を見直す必要がありそうです。1kWh当たりの東電発電時CO2排出量が、3.11前の2010年では、375g_CO2/kWhですから、これが原発の停止によりそのほとんどが火力発電となり、この値が大幅に増え、今騒がれている電力料金値上げ、さらにこれからの廃炉費用なども「エルスオエア」と言ってはおられず、国民の負担になってくることは避けられそうもありませ。

節電努力により、発電総量が減りますから、CO2排出総量も減少傾向にはありますが、いつまでも節電、節電では、不況脱出にも勢いがそがれてしまいます。安易な原発再開論には疑問がありますが、3.11以前に増して、WTWさらにはLCAとしての低CO2自動車にも、もちろんプラグイン自動車にも、さらに社会活動全体にも電力の、「エミッション・エルスオエア」としてのCO2削減への取り組み、経済成立性を高めるさまざまな低コスト努力が重要になってきているように思います。

自動車サイドも更なる低CO2イノベーション技術、その低コスト技術への飽くなきチャレンジとユーザーにサプライズと満足感を与えられるクルマづくりへのチャレンジが、日本の最大のピンチをチャンスに替えるリード役になることを願っています。

プラグイン・プリウスの納車

プラグインを実際に使用しはじめました

古巣であるトヨタ自動車に、リース貸与をお願いしていたプラグイン・プリウスが先月末に納車され、会社の足として使い出し出しました。このクルマは、トヨタ自動車が広報用に使っていたクルマということですので、もしかしたら正月の箱根駅伝でも使われたものかもしれません。プラグインハイブリッドは現役時代にも注目しており、トヨタ最後の仕事としてプロジェクト立ち上げにも付き合いましたので、「ハイブリッドの父」とも呼ばれることもある私としては、その出来映えをシビアに見極めてやりたいとの思いもあり、貸与をお願いしました。

プラグイン・プリウス
プラグイン・プリウス  5月4日撮影
(受け取り後走行距離 797.4km
表示燃費 30.4km/L
累積充電量30.81kWh )

車庫の充電用コンセント工事では、エネミエールという充電電力量や、時間、日、月ごとの使用電力量をメモリーに記憶ができる電力計を設置しましたので、毎日の充電経過を計測しながら、プラグインハイブリッドの低燃費、低CO2効果、さらにその将来性を確かめて行くつもりです。この様子はこれからも折にふれて、紹介していきたいと思います。

エネミエール
パナソニック製エネミエール表示画面
(5月2日の日当たり充電量 7.26kWh)

充電の必要をなくしたプリウス

自動車は、ポスト石油、地球環境問題などから、ドラスティックなチェンジが求められおり、ハイブリッド・プリウスはその口火を切るとの強い意志をもってまた、エネルギー・環境に対応するチェンジの第一歩として送り出しました。

人間進化の原点が、未知な物、未知な土地への「チャレンジ」と「ムーヴ=移動」にあったように感じています。20世紀に生み出され普及した自動車は単なる移動手段としてだけではなく、人間の「チャレンジ」「ムーヴ」を体現するものでした。ハイブリッド車プリウスも「チャレンジ」と「ムーヴ」への喜びを与えられるクルマとして開発したつもりです。

この自動車のチェンジの時代、現役の開発の一線からは身を引きましたが、未来の自動車も「チャレンジ」と「ムーヴ」への喜びを与えるクルマであって欲しいと思い、今も将来自動車とそれを支える日本のもの作り技術の発展をサポートするアドバイザーを続けています。

このブログでも何度も述べていますが、そのコア技術が自動車の電動化であり、ハイブリッド技術であることは論をまたないでしょう。

初代プリウスの広報では、漫画家手塚治虫先生のアニメキャラクタのアトムやお茶の水博士などを使い、「このクルマは電気自動車のような充電はいりません」とのコマーシャルを流しました。電気自動車は当然として、それまでのハイブリッドは電気自動車の欠点である、フル充電あたりの走行距離が短いことを克服するため、その電池を充電するための発電用エンジンと発電機をもった、GM VOLTが説明している走行レンジを延長させる(Range Extender)タイプのハイブリッドが主流でした。

トヨタは電気自動車の延長、欠点を補うものではなく、自動車の「チャレンジ」と「ムーヴ」を与えられるものとして、エンジンと電気をうまく混合して使い、クルマの走る喜びと低燃費、低CO2の両立をめざし、今に続く、トヨタハイブリッドシステムの実用化に取り組みました。エンジンを搭載しても、電気自動車に負けないクリーン性能をめざし、その実力がカリフォルニア州の環境当局(CARB)にも認められAT-PZEV(Advanced Technology Partial Zero Emission Vehicle:先進技術PZEV)という難しい名前のカテゴリーが新設され、2003年にHONDA Civic Hybridとともに2代目プリウスがAT-PZEVとして認定されました。

こうして、外部充電のいらない低燃費自動車として誕生したプリウスでしたが、米国での販売開始の前後から、ZEV規制を決め、その普及を進めたいCARBや、そのZEV規制をサポートしていたアメリカの電力中央研究所(EPRI)のメンバーが、このプリウスに注目し、このプリウスに搭載したハイブリッド電池の容量を拡大し、外部電力で充電するプラグイン自動車をやらないかとの問いかけが何度もありました。

しかし、電気自動車ZEVが電池の実力ばかりではなく、充電操作性、充電設備の設置コスト、充電インフラの未整備など、実用化のハードルが非常に高いく、またユーザにイメージも悪いことから、前にのべた「充電のいらないハイブリッド」を特徴としましたし、また今も採用している安全性と耐久性に優れるニッケル水素(Ni-MH)電池では、電池容量を増やすと、重量、容量からもラゲッジ容積(トランクルーム容積)や室内スペースを損なうことになるため、電池の軽量化とコンパクト化が期待できるリチウム電池の安全性と寿命が改善され、またその低コストが見込めるようになったら、プラグインも考えたいとお答えしていたことを覚えています。

危うさを抱えたプラグイン化改造の流行

その後、アメリカで販売したプリウスを、追加でトランクルーム一杯にリチウム電池を搭載してプラグイン・プリウスに改造するベンチャー企業が次々と現れ、それが契機となりアメリカ政府やカリフォルニア州をも巻き込んだプラグインハイブリッド待望論が過熱化し、さらにこれが引き金になり電気自動車リバイバルの動きにもつながって来ました。

当時でも、量産自動車用にリチウム電池を使うには、克服すべき多くの課題があると認識しており、勝手な改造といえども、その改造プラグイン車の安全性に心配をしていました。心配していた通り、改造電池パックが原因で燃えてしまったクルマもあったようです。また、パソコンや携帯電話の電池パック発火事故や過熱が問題になったのもこの頃です。パソコン出火の状況は、You-Tubeでも流れていましたので、ご覧になった方もおられるでしょうが、出火というよりも火の手が数メータの高さにもあがる爆発といった映像でした。

プリウスの開発でも、電池起因の発火とそれが起因の車両火災に対しては、念には念、安全設計、フェールセーフ設計、故障分析には万全を尽くしましたし、ニッケル水素電池に決めたのも、リチウム電池に比べ安全性に優れ、長寿命であることがポイントでした。

リチウム電池もその後、発火事故防止、安全対策としては様々な改良が行われ、自動車用にも使える見通しが付いてきたようですが、自動車でパソコン出火のような事故が起ることは決して起してはいけません。万全の安全性、フェールセーフ、エマージェンシー性能が保証し、自動車用として採用できるようになった筈です。こうして、プラグイン・ハイブリッド実用化に向けて走り出した第1歩がこの少量限定生産の実証用プラグイン・プリウスです。

プラグイン・プリウスのクルマとしての「チャレンジ」と「ムーヴ」実現度についての感想と、燃費、CO2削減ポテンシャルは、もう少し走り込んでから、またきちっとしたデータをとってからお伝えしたいと思いますが、使い始めた最初の印象は、どれも想定内、次世代自動車としてのサプライズはなかったのが開発陣の「チャレンジ」不足の印象でした。

まずは、軽い愚痴を少々

しかし想定内ではありますが、電池切れを心配せず、充電電池を使い切ったあとも普通のプリウスとして低燃費で走り続けられるプラグイン・プリウスの良さを感ずることができました。されど、重く持ちにくい充電ケーブルを持ち歩き充電するいまの充電方式には、プリウスに限ったことではありませんがはやくもうんざりしています。

「ゼロ・エミッションビークル」

あの大震災から一ヶ月、気温が上昇してしばらくの間は計画停電も実施の必要がなくなりました。TVでも、一時期のACだけという状態ではなくなり、CMも少しずつ平常に戻ってきているところですが、工場の操業停止の影響か自動車のCMの数はずっと減っている状態となっています。さて、震災前の自動車のTVCMで連呼されていたフレーズに「ゼロ・エミッション」というものがあります。私はこのフレーズには現役のエンジニアをリタイアした今でも違和感をもっていましたので、今回はその話です。

カリフォルニアから一般的になったゼロ・エミッションという言葉

1990年に、ロサンジェルス地区や州都のサクラメント地区、サンディエゴ地区の光化学スモッグがなかなか改善していかないことに業を煮やしたカリフォルニア州が、その抜本的な改善を目指し、極めて厳しい自動車排気ガス規制の導入を決めました。
それが、LEV(Low Emission Vehicle)/ZEV(Zero Emission Vehicle)と呼ばれる自動車排気ガス規制です。

このうちのZEV規制が、排気ガスをださないクルマ、すなわちエンジンを持たない電池エネルギーだけで走るクルマ、電気自動車をある比率販売することを義務づける規制でした。
エンジンを持たないクルマ、すなわち走行中の排気ガス排出ゼロから「ゼロ・エミッションビークル」という定義です。

これはカリフォルニア州で販売する全ての自動車メーカーに対する販売義務づけではなく、当時ビッグセブンと言われた、GM、FORD、Chrysler、トヨタ、日産、ホンダ、マツダのカリフォルニア州での新車販売台数シェアの大きなメーカーが対象でした。

当時私は、トヨタでのLEV、すなわち従来エンジンを搭載するクルマの規制対応技術の開発リーダーでした。従って、何度もカリフォルニア州に足を運び、光化学スモッグの実態を実地で確認しました。また、規制当局であるカリフォルニア大気資源局、略称CARB(California Air Resources Board)とも密接に接触し、規制導入の是非やその技術的可能性やその経済性を議論する公聴会への参加や、CARBスタッフとのミーティングを持つ機会を頻繁に持っていました。

大気汚染を脱する為の官民協働

アメリカでの規制の決め方は、規制当局がそのドラフトペーパーを発行し、それに自動車メーカー、石油会社、環境団体、地域代表などさまざまな関係者がコメントを提出し、さらに公聴会が開かれ、さまざまな意見を闘わせ、そのうえで修正を加えて規制法案を決定するというものです。

これと同時に、規制当局スタッフとメーカーとの個別ミーティングも行われ、規制案に対する技術面、マーケット面からの課題、規制方式に対するスタンスなどの意見交換を行います。
ここでは、規制案への疑問点、対案、技術的難易度など、かなり突っ込んだ、またシビアな意見交換も行われていました。

LEV/ZEV規制でもこのようなかなりシビアな議論が闘わされました。中でも規制そのものの効果についての議論では、彼らが大学などの研究機関に委託して行っているロス地区での自動車からの大気汚染物質の排出量とオゾン濃度のシュミレーションモデルでの計算結果基づく規制実施の理論武装に対抗して、その反論、対案なども同じ大気モデルでの実証が求められました。

トヨタの中でもシュミレーションモデルを使った大気汚染研究を本格的に行うようになったのも、このころからです。われわれ、クリーンエンジン開発のエンジニアも、単にエンジン排気ガスをクリーンにする技術開発を行うだけではなく、その目的である自動車による大都市での大気汚染発生のメカニズム、低減の方向などを学ぶことができました。

言うまでもありませんが、排気ガス規制強化は健康にも影響を及ぼしている都市の大気汚染改善が目的です。規制で決められるルールだけのクリーン化だけでは不十分、実際の大気汚染を改善するもっと効果的な方法がないかの検討も行い、CARBとも議論を行いました。以前のブログでも紹介しましたが、このようなCARBスタッフとの議論、意見交換の、さらには公聴会などで知り合ったビッグスリーのエンジニアなどとの交流のなかで、クリーン技術開発の目的として規制ルールに対応する技術ではなく、「リアル・ワールド」実際にクルマを使った状態でのクリーン度や燃費に注目するようになりました。

一人歩きしはじめた「ゼロ・エミッション」

ZEV規制についてもこのリアル・ワールドでの大気改善効果について議論を闘わせました。
ZEVすなわち、電気自動車のクリーン度が論点になり、「リアル・ワールド」としては、電池に充電する電気の発電所時の汚染物質も論点になりました。電気自動車は自分では化石燃料を使うエンジンは持っていませんが、電気の大部分は化石燃料の熱機関(サーマルエンジン)により発電される電気を使っていますので、これを考慮に入れることが必要です。

この時の議論で、われわれは全米平均での発電電力から排出される大気汚染物質、窒素酸化物(NOx)、亜硫酸ガス(SO2)を問題にし、電気自動車は「ゼロ・エミッション」ではないとの提言を行いました。全米では、石炭発電が多く、日本の発電所に比べるとNOx、SOxを除去する脱硝、脱硫設備が不十分で多くの汚染成分を排出していました。

もちろん、石炭発電では多量のCO2を排出していますが、当時のLEV/ZEV規制議論はあくまでも都市のオゾンや浮遊粉じんの都市大気環境問題が対象、CO2の排出削減はまだ議論にはなっていませんでした。

そのときのCARBスタッフの反論は、カリフォルニア州には石炭火力発電所が少なく、供給電力はネバダ、コロラドからの水力発電やカリフォルニア南部の原子力発電、さらにロス地区にはLNG発電所しかないので、ZEVで議論するエミッションはロス地区の電力Mixとして扱い、ほぼ「ゼロ・エミッション」と反論されてしまいました。しかし、このZEV規制が今では石炭火力の多い東海岸の州にまで採用されていますので、我々の主張した電気自動車のクリーン度はもう一度議論する必要があると思います。

今は、自動車排気ガスのクリーン度とともに地球温暖化の原因物質であるCO2排出が問題となってきています。CO2排出こそ、グローバルな問題ですので、走行中の「ゼロ・エミッション」が狙いではなく、発電所から発生するCO2排出量を含めた、「リアル・ワールド」での影響として扱うべきです。その意味で、今回の大震災での原発事故は電気自動車やプラグイン自動車の普及によるCO2削減シナリオにも大きな影響を及ぼすことになりそうです。

国・地域・地方によって電気自動車の環境貢献度は異なる

この電気自動車のCO2排出については、最近イギリスのコンサルタント会社から、日産LEAF、三菱i-MiEVを題材に、最新のディーゼル車、ガソリン車、さらにはトヨタプリウスを題材に、発電電力を含めたCO2排出量の比較を行ったレポートを発表しました。下の図はこのレポートの図に、比較参照のためにプリウスの排出量を私が加えたものです。

電気自動車のCO2排出量比較(欧州試験モード基準)
電気自動車のCO2排出量比較(欧州試験モード基準)

出典:Ecometrica,UK,Technical Paper

このグラフは電気自動車の欧州試験モード基準の、走行距離1kmあたりのCO2排出量を表しており、電気自動車のCO2排出量は各国の発電所の形態(発電Mix)による1 kWhあたりのCO2排出量によって大きく変わることを示しています。ちなみに英国(UK)では75g_ CO2/km、原子力発電と水力発電で90%以上の発電をしているフランスでは12g_ CO2/kmですが、石炭火力が大部分の中国では115g_ CO2/kmと同クラスのディーゼルやプリウスの89g_ CO2/kmよりも多いCO2を排出してしまうことになります。このグラフには示されていませんが、おそらく日本では、英国やアメリカよりも少ないCO2排出量となるはずです。しかしながら、震災の影響で原発の未来が見えない現在、東電の記者発表でもあったとおり少なくとも短期間の間は日本の1 kWhあたりのCO2排出量は上昇すると思われます。

大気環境改善のための排気のクリーン化、また地球温暖化緩和のためのCO2排出量削減、さらにピークオイル、エネルギー資源問題に対応するための省資源、省エネ、すべて「リアル・ワールド」での取り組みが必要です。その意味で、TVコマーシャルにでてくる「ゼロ・エミッション」との言葉に違和感を持っていました。

さらに、この「リアル・ワールド」、すなわち実際に効果を発揮する環境改善、省エネ、省資源の観点では、それぞれの燃料製造過程からクルマの走行過程までのクリーン度、燃料消費、エネルギー効率での改善が必要です。

「リアル・ワールド」で貢献してこその環境自動車

石油燃料であれば油田(Well)での生産から精製過程、スタンドまでの輸送過程から給油(Tank)、その燃料によるクルマの走行(Wheel)、すなわちWell to Wheel(WTW)での燃料消費、CO2排出量でその効果を議論することが重要です。さらにその上で、クルマを構成する材料や部品の製造、組み立、販売店までへの輸送、使用中のWTW、修理やメンテナンス、さらには廃車処理までふくめて、クルマの一生でのエネルギー消費、燃費、CO2消費量での把握と、その「リアル・ワールド」での削減を計る必要があります。

この「リアル・ワールド」での省エネ・環境保全として、短中期ではハイブリッド車の進化と普及に期待をしていますが、中長期的にはピークオイル、ポスト石油としてバイオ燃料の拡大とともに、一般電力網から電池を充電してそのエネルギーをクルマの走行に使う自動車のプラグイン化が有力なメニューであることは変わりません。

これをやはり「ゼロ・エミッション」とのセンスではなく、「リアル・ワールド」での視点、さらにそれも「リアル・ワールド」マーケットでの普及台数と使用実態まで考慮したその実現性がリアルなシナリオを作り出していきたいものです。

補足「ZEV」のその後

その後のZEVの顛末ですが、いろいろ紆余曲折がありましたが、少量販売によるデモテストとしてスタート、トヨタも1000台以上のRAV4EV電気自動車を販売しました。重量450kgのNi-MH電池を搭載しても、「リアル・ワールド」での航続距離は120km程度、さらに大きな赤字を抱えての販売でしたが、それでも他社の様々な電気自動車との対比では走行フィーリング、性能、品質、耐久性、さらにその技術面では一番優れていると言われていました。

しかし、この実証試験でも「リアル・ワールド」での実用化は困難との判断で、ZEVの一部をプリウスのようなハイブリッドのクリーン車をATPZEV(先進技術パーシャルZEV)や従来車の究極クリーン技術車をPZEV(パーシャルZEV)での代替を認める緩和措置を行いました。さらに、2008年には、自動車の環境規制では世界のトップを走ってきたとの自負を持つCARBでは、シュワルツネッカー知事のサポートもあり、地球温暖化問題に関連する自動車CO2規制でも世界をリードしようと、自動車CO2規制ととものZEV規制の改定も行い、電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド車の販売義務づけ強化を行ってきています。

アメリカでの充電式(プラグイン)自動車のいま

先週は授賞のお話しをしましたが、授賞式の傍らアメリカでGM VoltやNissan Leafのアメリカでの反響について情報収集もしてきましたので、今回はそのお話を。
両車とも本格的なプラグイン(外部電力充電型)自動車の量産のスタートを象徴するクルマでしたので、私も注目していましたし、その反響も非常に大きいものだろうと予想していたのですが、実際は予想に反してアメリカでは静かなローンチを切ったのだなとの印象を持ちました。

自動車社会アメリカ

今回の訪米では、事前にロサンゼルスで何人かの友人に会おうと持ちかけ、一人はオフィスまで片道50マイル以上、もう一人はサンタバーバラから片道117マイルを気楽にロスのホテルまで訪ねてくれました。
このようにアメリカでは、自動車をまさに最も身近なモビリティとして活用し、ハイウェイの大部分が無料であることも相まってロングトリップも当然とするまさに自動車社会が構築されています。NYやシカゴ、ワシントンDC、ボストンなど一部の大都市を除けば、アメリカでの個人の移動範囲は自動車によってのみ大きく面として広がっており、アメリカで自動車抜きの生活をするということは不便という段階を超えて人としての活動の大きな縮小を意味します。
アメリカに代表されるこのような自動車社会をどのように低カーボン社会に変革していくのか、人類の将来にとっても中国とともに注目するところです。ロスでも公共交通機関がないわけではありませんが、輸送の全体の中でのプレゼンスは極めて微小と言わざるを得ないというのが実態です。

私はこの広大な国土を持ち、ロングトリップが当たり前で、年間の平均走行距離でも日本の1.5倍以上の自動車社会アメリカに変革を与えるためには、まずは長い走行距離を確保できることが最低限必要だと考え、まずHV、さらには都市内のショートトリップで充電電力エネルギーを使うプラグインHVが現実的と考えてきました。
その意味で冒頭でも書きましたが、GM Chevy Voltがどのように受け取られるのか、使われるのか、そのローンチに注目してきました。

GM Chevy Volt

Voltのことは、このブログでも何度かとりあげましたが、T字型の16kWhという大容量の電池パックを、重量バランスが偏らないように、苦労してクルマのセンター部分に搭載する苦労、エンジン、トランスミッション、インバータ搭載の工夫など、開発エンジニアの努力を感じさせられました。 

Opel-Ampera(Voltの姉妹車)の電池パック
Opel-Ampera(Voltの姉妹車)の電池パック

また、GMはVoltの説明としてハイブリッドではなく、レンジエクステンダータイプのEVと説明してきたため、私自身もてっきりシリーズタイプのハイブリッドと思い込んでしましが、最近になって、基本的にはトヨタハイブリッドと類似の遊星ギアでエンジンパワーの一部は直接タイヤの駆動にも使うことができる、シリーズパラレル型であることが判ってきました。

トヨタ方式とは違って、動力伝達遮断/結合のクラッチを2組持ち、エンジン動力によるタイヤ駆動パス(パラレルパス)を切った、完全シリーズ型運転も出来る機構になっていることが特長です。電池エネルギーを使い切ったあとの長距離ドライブ、さらには高速フリーウエー走行のシリーズ型運転では、どうして燃費効率が悪くなってしまいます。この部分では、トヨタ方式のようにパラレル運転が有利です。Voltでもこの高速走行のある走行条件では、エンジンパワーのさらに一部で直接タイヤを駆動するパラレルパスを使っていることが判りました。私からすればアメリカで当然のように利用されるフリーウエーにおいて燃費効率を保つことは絶対必須条件で、そのためにパラレル機構を持たせることは技術者としては当然の判断だと思うのですが、GMが事前からEVもしくはシリーズ型であるかのように伝えてきていたためメディアからは「これではEVではない!!」とGMは批判されているのが現状です。

また、Voltの発売に当たって、アメリカ連邦の環境当局EPAとカリフォルニア州の環境当局CARBから、燃費、電力消費量(電費)、排気のクリーン度、CO2の排出量が公表されました。カテゴリーとしてはGMの公表とは違い、(当然ですが)Voltはプラグインハイブリッドとされており、電池エネルギーだけを使うAll Electric走行では燃費(電費)93mpg、電池エネルギーを使い切ったあとのガソリンエネルギーでの走行では37mpgと認定されています。
なおこの93mpgというのは、消費電力エネルギーをガソリン消費エネルギー換算して出された値です。
ガソリン走行の37mpgという数字は、通常プリウスの50mpgと比較すれば一目瞭然ですが、同サイズのクルマとしてはかなり悪い部類に入り、個人的な推測ですがEVに拘るあまり総合的な効率を犠牲にしてまでシリーズ運転領域を多くしてしまったのではないでしょうか。

CARBからはクリーン度としてULEV(Ultra Low Emission Vehicle)認定を受けました。ULEVとの表現では、とんでもないクリーン度のクルマとの印象ですが、この先にさらにクリーンなカテゴリーとして、SULEV(スーパーウルトラ), 更にPZEV(Partial Zero Emission Vehicle)さらには、ハイブリッドではATPZEV(Advance Technology PZEV)なるカテゴリーまであり、カリフォルニアではその販売比率の組み合わせで決められたクリーン車の導入比率を守ることが義務づけられています。
プリウスはこのATPZEVカテゴリーとして認定されていますが、VoltはULEV認定であり、いくつかのインセンティブが与えられるATPZEVではなく、ULEVに留まったこともメディアの話題となっています。これもまた、先ほどと同じくシリーズ運転領域を多くしてしまったことに起因するのではと予測しています。

アメリカでもプラグイン導入への障害は多い

先ほども書きましたが、アメリカでは、やはり広い国土とその中でのクルマの使い方から、エンジンパワーと電気パワーを賢く使う車が、将来の低カーボン自動車として有力と思います。将来としてはプラグイン自動車の普及を視野に入れる必要がありますが、充電機器、そのコネクター、さらには搭載電池など、実用化の課題はまだまだ山積しています。標準化議論も進んでいるようですが、今の充電機器、コネクターでは、使い勝手、装着性、保管性など、毎日使うにはまだまだ不十分、また家庭やオフィス駐車場での充電で使う低パワー充電設備のコストも普及へのハードルです。

プラグインハイブリッドのヨーロッパでの実証試験データでも、充電回数の90%以上は家庭とオフィス駐車場のコンセントから充電しているとのデータが報告され、またアメリカのモニター走行ではプラグインハイブリッドは充電をしなくても走れるので、コンセントに繋いで充電する操作すら面倒になり、ガソリンハイブリッド運転比率がだんだん高くなってしまったとのちょっと心配なデータもでているようです。

EV用としての、急速充電器の普及、拡大、さらにその国際標準化に注目が集まっていますが、プラグインハイブリッドでは、家庭、オフィス駐車場での通常汎用コンセントに近い、安価で安全、安心なコンセントとそのIT化さらにはスマートメータ機能の標準化を急ぐ必要があります。競争と協調、充電インフラ、コネクター、IT活用、その標準化では、オープン化による協調路線が必要、GMなども、グローバルな低カーボン自動車への競争と協調路線に転換してくれることを期待しています。EVでもその使用電力量の大部分は、家庭か会社や役所の駐車場の長時間低パワー充電が使われる筈です。

アメリカでのLEAF

日産リーフのカットモデル
日産リーフのカットモデル

また、同時期に、日産リーフの発売発表もありました。Volt同様、EPAから燃費(電費)、クリーン度の公式値が発表されており、これはピュア電気自動車ですので、ガソリン換算の電費と航続距離として、99mpg(約42km/l)の電費、航続距離73mile(117km)となっています。
EPAでの燃費、電費の表示法は、販売店でのクルマのウインドーシールドに表示を義務づけているもので、数年前にプリウスなどのハイブリッド車や低燃費を売りとする小型車では、ユーザの実走行燃費と表示燃費の間にギャップが大きいとの訴えから、平均的ユーザの年間平均燃費にかなり近い値になるように算出法を改定したもので、これでも、冬の寒冷地でのヒータ運転、山岳路での登坂、大都市の渋滞走行ではこの航続距離を下回ることもあるように思います。

このようなEV車が、アメリカでどのように使われ、どのように評価され、クルマの実際の用途としてどれくらい代替できるかも注目点です。
GM Volt, 日産リーフの健闘を祈ります。