電池はなまもの!」からハイブリッドタクシーまで

「電池はなまもの!」

以前のブログで、「電池はなまもの!」のタイトルの初代プリウス開発にあたってのハイブリッド電池を巡るエピソードを紹介しました。

2012年 1月26日: http://www.cordia.jp/wp/?m=201201

 

開発当初、電池は高温で放置しておいても、電池が空っぽに近い状態でちょっと無理をさせてもどんどん腐ってしまう(劣化)ので、乗っている人間さまよりも大事に使う必要があると脅かされていました。ハイブリッド開発リーダーとして最初に計画した出張が電池工場の視察、二番目が電池開発センターの視察と懇談でした。当時の電池工場はいわゆる3K職場、トヨタのエンジンや駆動部品を加工する機械場と比べても決して綺麗とは言い難い工場で、ハイブリッド電池の母体となる単1サイズの電気工具用のニッケル水素電池を生産していました。その電池を240個直列に繋いで、モーターによるパワーアシスト、減速回生を行うハイブリッドのコア中のコア部品電池パックとなります。240セルのうち1セルでも故障すれば、クルマがストップ、エンジンも掛けられず、路上故障モードとなってしまう重要部品です。

その電池が「なまもの!」、当たり外れがあると聞かされていました。さらに、ハイブリッド開発が佳境に入っても、なかなか量産スペックの電池はできあがらず、やっとできてきた試作電池すら不具合の多発、テストコースでクルマが止まってしまうなどは可愛いいもの、フェールセーフ制御が未完成の状態では電池パックから火を噴くトラブルさえ経験し「電池はなまもの!」を思い知らされました。

われわれクルマ屋の感覚では、故障率0.1%でも大問題、年産10万台のクルマでは100件の故障になってしまいます。セルあたりの不良率1ppm以下が必要と電池屋さんに申し入れると、目を白黒、それが本格的にハイブリッド車用電池開発のスタートでした。さらに、その上で電池の耐久寿命をどれくらい伸ばせるかの見極めがハイブリッド量産化を本当に進めて良いかを判断する大きなポイントでした。

電池もエンジンなみの耐久寿命が普及への必要条件

エンジンやトランスミッションなど、大物ユニットの保証期間は当時で5年5万キロ、しかしこの保証期間が過ぎてもオイル交換などのメンテナンスを怠わらなければ、ほぼクルマ一生の寿命を持つのが普通のクルマの常識です。10年越え、10万キロ越えで、ユニット交換が必要な故障が発生しても、不満の声は上がります。保証期間外の故障率が大きくなると、そのクルマ、そのメーカーの評判は下がってしまいます。ハイブリッド用モーターやインバートはもちろん、ハイブリッド電池もエンジンやトランスミッション同様、同じ機能を担う大物ユニットです。5年5万キロを越えると故障率が増加してしまうようでは、普通のクルマにはなりません。クルマの一生の間での交換が必要となると、中古車価格も大きく下がり、下取り価格の下落、リース残価の下落を招き、そのクルマの評判はガタ落ちとなり、マーケットからの退場を余儀なくされるケースさえあります。

せめて、10年10万キロ以上、クルマの残価がほぼゼロになり、故障してもほぼ寿命と納得していただけることが、寿命保障の一つの目安です。

工業製品のみならず、宇宙や、地球にも寿命があるように、万物には寿命があります。さらに機械部品に比べ、寿命予測、寿命設計は非常に難しい製品です。使用過程でケミカル反応を使うケミカル製品では、その反応雰囲気、反応条件により寿命に影響するストレスは大きく変わり、その繰り返しサイクルにより寿命品質は大きく変化します。

私は電池化学の素人ですが、自動車用触媒、排ガスセンサーを使ったシステム開発に永く従事してきましたので、その寿命保証の難しさはイヤとなるほど経験してきました。ハイブリッド用電池はその経験すら越えそうな代物が、最初の印象でした。

もちろん、電池材料製造プロセス、電池部品輸送・保管プロセス、製造プロセスから検査プロセス、電池パック組み立てから検査、保管、車両工場までの輸送プロセスに至るまで、徹底的な不良撲滅、品質向上活動をやってもらいました。さらに、人間さまよりもわがままな電池を、搭載も急遽変更し、パッセンジャー後席シートの後ろと一等席に変更、電池温度が上がれば電池アシスト量と回生量を絞り、過充電防止は当たり前、満充電までの十分なマージンを取って回生量を絞り、残量が少なくなると余裕を大きくとって出力制限をし、電池がちょっとでも悲鳴をあげると電池使用を切り離すエンジンのみの走行モードへの切り替えすらやりました。

しかし、この電池入出力性制限制御も、お客様の運転中に度々起こるようでは普通のクルマとは言えません。初代ではどうしても、電池からのアシスト出力制限を大きくとる必要があり、亀マークを点灯させる「ごめんなさい」モードを設定し、追い越しなどを控えていただかざるを得ませんでした。

「なまもの」から「工業製品」へ

それでも、「電池はなまもの!」のブログで述べたように、初代初期型プリウスでは、お客様にお渡ししたクルマで電池不具合を多発させてしまい、大変ご迷惑をお掛けしてしまいました。その改良品、単1型240個のセルを直列に接続した電池を搭載した初代初期型プリウスが走っているのを見かると今でのうれしくなります。

今ではクルマが15年以上使われるのは当たり前です。しかし「なまものの電池!」と自覚して、万全を尽くしたつもりでも、最後は清水の舞台から飛び降りる覚悟で送り出した初代プリウスです。

2年半後のマイナーで、円筒型セルから電極構造自体を抜本的に変更した角形セルへと大変更を行いました。さらにそのタイミングで、ハイブリッド用電池専用工場を建設、半導体工場とまではいきませんが、クリーンルーム化をするなど、「なまもの」から「工業製品」への転換を果たしました。さらに、電池パック冷却性能の向上や電池の使い方も見直し、加えてエンジンパワーアップにより、電池入出力を絞っても走行性能低下が少なくする改良を行い、また電池充放電の精密制御など電池の使い方の面からも寿命伸張に向けた改良を続けました。

この2000年マイナーチェンジでの電池大変更の狙いの一つが、カリフォルニア州のエコカー認定でした。規制値が世界で一番厳しいばかりではなく、エコカーと認定されるにはさらに15年15万マイル(24万キロ)のクリーン度保証が要求されました。初代初期型の円筒電池からたった2年半で角形へと大転換したのもプリウスの欧米販売、エコカーを標榜するからにはカリフォルニアのエコカー認定が不可欠との判断からです。新開発電池ですから、マーケットで実際に使った状態での耐久寿命データはありません。初代円筒電池の劣化解析、故障モード解析結果から角形電池開発へのフィードバック、電池セル、電池パックでの意地悪耐久、クルマでの耐久走行だけでは確信の持てるデータはでてきません。

カリフォルニア州の環境当局CARBとの保障期間を少しまけてもらう交渉もやりました。寿命劣化の傾向として長距離走行よりも、少ない走行距離でも長期間使われた方が厳しそうだとの単品耐久結果を説明し、保証期間15年を10年まで短縮してくれました。

それでも、「なまものの電池」の10年15万マイル保証の決断は二度目の清水の舞台から飛び降りる覚悟が必要でした。初代プリウスでは、タクシー会社の宣伝用として少し使われてようですが、われわれとしては、タクシー使用は想定外、この2000年のマイナーチェンジでもほとんど考えていませんでした。意識し始めたのは2003年の二代目プリウスからでした。しかし、10年15万マイル保証がしっかりできるとすると、その先も急速に性能劣化を起こすわけではありません。結局この二代目プリウスから本格的なタクシー使用が始まりました。タクシーでは10年は使われることはありませんが、15万マイル以上の走行は当たり前です。それ以上の長距離走行なら電池途中交換もアリと考えていました。

想定外のタクシー使用、しかし想定以上の電池耐久寿命

これまで述べてきたように、タクシー使用は想定外、しかし二代目プリウスから日本のみならず、欧米、オーストラリアとプリウスタクシーが増加していきました。冷や冷やしながらも、その電池寿命に注目してきました。プリウスタクシーに乗り合わせると、ドライバーから話しを伺い、オドメータを見ながら、電池劣化の兆候である走行中にエンジン起動が頻繁に起きるようになっていないか気にしながら乗っていました。日本同様に、海外でも初期導入はタクシー会社のエコPR活動や政府、地方自治体のエコカー補助制度の後押しがあったようです。その後の増加には、これに加え、燃料費の削減、オイル交換やブレーキバッド交換頻度が少なくなるなど経済面でもメリットも大きいことも後押しとなったと言っていました。ディスカウントの押し込み販売を気にしていましたが、欧州の営業サイドからはそれはないと聞いてい安心したのもこのころです。

いまや、トヨタ&レクサスハイブリッド車の世界累計販売台数が800突破、さらに日本のみならず、世界中でプリウスタクシーが走り回っています。最近訪問した欧州の都市では、パリ、バルセロナ、ブリュッセル、ストラスブール、ストックホルム、など、プリウスタクシーの多さには驚かされます。(写真)

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タクシー用としての電池途中交換がどの程度かは不明ですが、インターネットでは、30万マイル無交換、50万キロ無交換走破のニュースも聞こえてきています。

クシー使用は想定外でしたが、劣化要因の解析を重ね、電池そのものの耐久寿命伸長への取り組み、「わがままでなまものだった電池」から「丈夫な工業製品へと育った電池」へと技術改良を積み重ねることにより、タクシー使用でも想定以上の電池寿命を確保できるまでに進化しています。

米国実施したクルマの長期間保有比率調査結果として、最初購入したオーナーで、そのクルマを10年以上愛用しているユーザー比率を調べたところ、プリウスがトップと僅差の第2位となり、28.5%のユーザーが10年以上使用し、15万マイル以上の走行を記録しているとのニュースが流れていました。

Oct 29, 2015 Green Car Report

トヨタ『プリウス』オーナーが、ある1車種を除き長期間クルマを保有

http://www.greencarreports.com/news/1100689_toyota-prius-owners-keep-cars-longer-than-any-other-model-but-one

このニュースも、タクシー使用だけではなく、個人使用としてもエンジンなど大物ユニット同様、ケミカル製品の電池を無交換と言っても良いレベルにまで進化していることの証明と、初代の開発段階から考えると隔世の感を覚えます。

しかし、電池は「工業製品」と云え、ケミカルプロダクツであることを忘れるな!

しかし、自動車用電池は「工業製品」に進化したとは云え、金属製品と比べると、寿命設計の難しいケミカルプロダクツ、電極での電気化学反応の繰り返しにより物性変化、性能劣化を起こす製品です。過充電、過放電、衝撃による電極変形、金属微粒子混入での微短など、故障モードもいろいろあります。その材料構成、製造工程、反応メカニズム、劣化メカニズム、故障モードを知らず自動車用としてブラックボックスで使える部品ではありません。また、熱暴走抑制や発火・発煙防止として制御だけでやれるわけではありません。ここまでの寿命伸長も、電池本体の耐久信頼性の向上、電池材料特性の向上だけではなく、電池特性を理解したうえでクルマとして使う側からのシステム企画、設計、制御改良の合わせ技でした。

プラグインハイブリッド、電気自動車はハイブリッドよりも電池依存度が大きく、電池寿命保障、信頼性品質保証はハイブリッド用以上に難しい要素があります。

ニッケル水素、リチウムイオン、電池化学特性は異なりますが、寿命保障、信頼性保証の考え方には大きな違いはありません。電池をブラックボックスにし、その制御も車両駆動システムと切り離した丸投げでは、普通のクルマレベルの寿命保障、信頼性品質の確保は困難です。このところの電気自動車ブーム、プラグインハイブリッド車ブームで、杞憂に終われば幸いですが、電池寿命保障、信頼性保証面での不具合発生を心配しています。しかし、この電池寿命保障のハードルを乗り越えなければ、普通の次世代エコカーにはなれません。

ハイブリッド仕様タクシー専用車

今日のテーマ、ハイブリッドタクシーでは、いよいよトヨタからハイブリッド仕様のタクシー専用車発売の発表がありました。まずは日本向け、LPGエンジンの右ハンドル車のみのようですが、欧米でもやや車高が高く客室スペース、荷室スペースが広いこうしたハイブリッドタクシー専用車のマーケットも大きく、従来タクシーと比較して大きなCO2削減効果も期待できます。このタクシー専用車の電池寿命もまた注目です。

アメリカの電池ベンチャーA123 Systems社の倒産

アメリカ・オバマ大統領の目玉政策であるグリーンニューディール政策のなかでアメリカの次世代自動車電動化を支える期待の星、200億円以上もの政府資金を投入したリチウムイオン電池技術ベンチャー企業A123 Systems社(以下A123と記述)倒産の記事が世界中を駆け巡っています。

10月16日(火)にこのA123が資金繰りの悪化からアメリカでの企業倒産の法的手続きであるチャプター11の申請手続きを行いました。A123の経営悪化は今年の春からささやかれていましたが、このきっかけも電気自動車やプラグイン自動車用として大口ユーザーが決まらないままグリーンニューディール政府投融資をあてにリチウムイオン電池工場の拡大を行い、さらにこれも経営悪化がささやかれているプラグインハイブリッド車開発生産のベンチャー企業フィスカー社の市販プラグインスポーツ車に電池を納入し、その電池パックがリコール問題を起こしてしまったことがこの倒産の引き金になってしまいました。

一時はGMのプラグインハイブリッド車 Chevolet Voltへの採用、クライスラーの電気自動車用電池への採用などが話題にあがっていましたが、この話もいつとはなしに消え、以前から生産していた電動工具用電池の生産だけではカバーできず、運転資金ショートに至ったとのことです。

また、このニュースと同じ16日夜に、オバマ対ロムニー候補の第2回候補者討論会が開催されましたが、ここでもオバマ大統領のニューディール政策失敗をつく格好の攻撃材料としてロムニー候補がとりあげられています。一時は中国企業がA123 を救済買収するとの話が具体化していましたが、これも政府資金を投入したアメリカ企業がそのコア技術ごと買収され海外に流出すると攻撃され、ほぼ決まっていた中国企業からの基金援助が滞り、結局チャプター11の申請になってしまったようです。

リチウムイオン電池事業は、補機用鉛電池ほか自動車用電装部品大手でリチウムイオン電池生産も行っているアメリカJohnson Control社が 買収し運転資金融資も決まったようですので、大統領選の影響も大きかったとの推測もあながち間違ってはいないようです。

ダーウィンの海で座礁したA123

A123社の創業は2001年、マサチューセッツ工科大学(MIT )電気化学分野の教授、Dr. Yet-Ming Chiangが中心となり、彼が研究していたナノカーボン技術のリチウムイオン電池応用の事業化として設立したテクノベンチャーです。高い熱安定性と長寿命を売りとして、まず電動工具用電池として小規模な商品化を行っていました。

このころから私は将来自動車用電池として熱安全性にと寿命特性に優れたこのA123の電池に注目していました。ナノカーボン技術の応用では先を行っていましたが、独占的な知財権をもつには至らなかったようで、早すぎた量産投資が裏目にでたようです。

図1
図 持続可能なモビリティへの道のり(Pathway to the sustainable mobility)
2011年11月 IEA IA-HEV プラグイン自動車と将来エネルギー 技術フォーラム
デンマーク

図は3年ほど前にデンマークで開かれた将来自動車関連のフォーラムで、私が行った講演資料の一部です。イノベーション技術、新技術の実用化、量産化までの道のりと、そのハードルについて触れたものです。画期的なシーズ技術と思われても、そのシーズの応用技術が開発され、その生産技術開発、用途開発が進められ、実用化への様々な技術ハードルを乗り越える見通しが付けられたうえで、投資に見合った経済効果が得られるか、そのマーケットが拡大していくのか最後の最後まで厳しいハードルが待ち受けていることを示そうとしたグラフで、研究者、その企業家への戒めしてよく使われている表現を私なりにまとめてみたものです。

技術開発で言われる悪魔の川(The Devil River)、死の谷(The Valley of Death)を乗り越え、さらに企業、その研究開発者の期待の新技術、新商品の未熟さ、不十分さを栄養に飲み込んでしまう(淘汰)化け物がはびこるダーウィンの海(The Darwinian Sea)を泳ぎ渡りついて初めてマーケットに受け入れられる商品となるとの例えです。この時のデンマークでのフォーラムでは、この図を使って、電気自動車やプラグインハイブリッド自動車、さらに水素燃料電池自動車の将来について話をしました。

この時は、水素燃料電池用セルや水素貯蔵デバイスは死の谷を越える前、電気自動車やプラグイン自動車用の電池、さらに充電インフラ整備はダーウンの海を泳ぎ切る前の状態と説明した記憶があります。A123もこのダーウィンの海を泳ぎ切るまえに飲み込まれてしまったと言うことができるでしょう。

ハイブリッドもまだ油断はできない

この講演から3年経ち、さまざまな電気自動車、プラグイン自動車が量産発売した今も、この時、普及への楽観的見方に警告を発したこの状態から電気自動車もプラグインハイブリッドも大きく進化していないのではないかとの危機感を強めています。熱安全性、寿命、さらにユーザー補助金なしに買っていただける販価がつけられるコストなど、まだまだ見通しも付いていない状況に思います。また、グローバルなエネルギー保全、環境保全に貢献する普及度の点からは、ノーマルハイブリッドすらまだこのダーウィンの海を渡り切ってきないのではと考え込んでしまいます。

そんな今週、ホンダがハイブリッド車累計販売台数100万台達成を発表し、また、日産が1モータ、2クラッチ方式の新型ハイブリッド車を2013年から本格導入すると発表しました。ホンダの新型CRZでも、この日産新型ハイブリッドでも電池はリチウムイオン電池採用と報道されています。この新型電池が、安全品質確保は当然として、グローバルな電池にとってもシビアな走行環境の中で、交換なしでもクルマの一生を十分乗り越えられる品質レベルに到達しているであろうことを期待しています。

なんどか、このブログで書いた、エコだけではないファンツードライブなどクルマ本来の魅力アップにも、またよく欧州勢の受け売りとして云われるCVTフィーリングからの脱却にも、また欧州車に多くなった多段ミッション過給ダウンサイジング車を都市内で走らせると感ずるビジー感、ギクシャク感、もたつき感の改善にも電池性能向上は大いに役に立つはずです。

プリウスの電池寿命とプラグイン自動車用電池

アメリカ国立研究所の自動車環境負荷レポートより

次世代自動車の鍵は電池であり、そのコストと寿命の行方が、これからの次世代自動車普及を支配するということには論を待たないでしょう。今日のブログは、アメリカの連邦エネルギー省(DOE)傘下にある国立研究所の一つで、シカゴ近郊にあるアルゴンヌ国立研究所(Argonne National Laboratory: ANL)のレポートに初代プリウスの電池寿命調査について取り上げたレポートを見つけましたので、それを紹介したいと思います。
http://greet.es.anl.gov/publication-update-veh-specs

このANLは、以前から次世代自動車の環境アセスメント用として様々なデーターベース整備と、シュミレーションモデル研究を行っています。その一つとして、GREET(Greenhouse Gases, Regulated Emissions, and Energy use in Transportation)modelがあります。このブログでも何度か取り上げている、燃料採掘(Well:井戸)から給油スタンドで給油し実際にクルマの走行(Wheel:車輪)まで、Well to Wheelでの温暖化ガス、環境規制対象の排気ガス、エネルギー使用や、材料発掘から部品製造、クルマの製造、輸送、使用過程、廃車までクルマ一生での環境負荷アセスメント(Life Cycle Assessment)用に使うモデルとそのデーターベースの研究として、電池寿命にも注目して改良が進められています。

余談ですが、オバマ政権の目玉政策として、この次世代自動車を含む将来エネルギー・環境分野を対象に「グリーンニューディール政策」が取り上げられ、その研究開発、テクノベンチャー企業への投融資などに巨額の政府資金が投入されており、この研究もそうした予算によって行われています。最近、この政府資金が投入されたベンチャー企業が次々と経営破綻を起こし、大統領選での共和党からの格好の攻撃材料になっていますが、このテーマのような研究開発分野にも政府資金が投入されています。

このような潤沢な政府資金により、プリウスやインサイトなど、何十台も購入し、膨大な距離の耐久走行試験、徹底的な分解調査や主要部品については民間企業では二の足を踏むよう単体性能評価試験まで行い、THS・ホンダIMAやそのシステム、部品技術を丸裸にしています。

AVTA (Advanced Vehicle Testing Activity) Idaho National Laboratory (INL)
http://www1.eere.energy.gov/vehiclesandfuels/avta/
EVALUATION OF THE 2010 TOYOTA PRIUS HYBRID SYNERGY DRIVE SYSTEM
Oak Ridge National Laboratory (ORNL)
http://info.ornl.gov/sites/publications/files/Pub26762.pdf

これらの研究資金は国立研究所など公的研究機関の他、大学にも投入され、研究者、技術者の育成にも使われていることは見習うべきかもしれません。

車両の寿命まで持つと認められた初代プリウスの電池

さて、このANLのレポートの話に戻ります。WTWやLCAさらにはその経済性検討において、次自動車用の電池の途中交換が必要かどうかは、そのアセスメント結果に大きな影響を及ぼします。電池は、材料精製、部品製造段階でも多くのエネルギーを使いますし、交換費用も考慮に入れると費用対効果も変わってしまい、将来予測にも大きな影響を及ぼしてしまいます。

このレポートによると、アメリカでの各社HEV/PHEV/EV電池の保証期間が紹介されており、各社とも基本的には8年もしくは10万マイル(16万キロ)のどちらか早く到達した時点としており、標準の無償修理期間の8年もしくは8万マイルよりも長く設定しているようです。

しかし、このレポートでも問題としているのは実際の寿命実力で、その寿命実力についても様々な調査レポートを紹介し、米国に最初に導入した初代プリウス(2001年~2003年夏)で、保証期間を超えた長期使用での電池故障率1%以下との報告や、Consumer reportによる「プリウス2002年モデルの208,000マイル走行車と2003年モデルの新車と比較したが、燃費低下や走行性能低下はほんの僅か」との調査結果を引用しています。

勿論トヨタ社内にもハイブリッド電池についての膨大な耐久データや市場調査データはありますが、このほとんどは非公開、ご紹介するわけにはいきませんでした。しかし、このような公的機関のレポートデータなら、開発時のエピソードとともにご紹介しても問題ないと判断し、今回取り上げることにしました。

このANLのレポートでは、クルマの平均寿命として、米国では乗用車は16万マイル(25.5万キロ)、SUVやピックアップトラックは18万マイル(28.8万キロ)としており、プリウスのNi-MH電池では、GREETモデルの扱いとして電池交換不要としています。開発段階でこの数字を目標とし、また保証期間外でも故障率1%以下とすることが開発の想定値であっただけに、第3者の検証でこういった結果が出たことに正直ホットしています。

この各メーカーが定めている保証期間の他に、このハイブリッド電池については、アメリカでは法規制から決められた保証期間が設定されています。これは、カリフォルニア州のLEV(Low Emission Vehicle)/ZEV(Zero Emission Vehicle)規制の改定案として追加された条項です。プリウス発売後、カリフォルニア州の規制当局CARBが実用的な環境自動車としてプリウスを評価し、ZEV規制緩和の要件としてある基準を満たしたハイブリッド車に販売量に応じてZEVとしてカウントしてくれるとの緩和条項を決めました。その要件はガソリン車として一番クリーンなカテゴリーであるPZEVカテゴリーにパスしたうえで、クリーン度にも影響するハイブリッド電池に対し、10年15万マイル(24万キロ)どちらか早く到達した時点の保証期間要件を満たしたクルマをATPZEV(先進PZEV)としてクレジットを与えるとの条項です。

2003年秋に導入した二代目プリウスから、この規定の対象として申請していますので、法規制上は排気のクリーン度としての規定ですが、10年、15万マイルの寿命保証を満たしています。この電池は加州ATPZEV専用ではありませんので、日本向けも、その他に地域の電池もこのポテンシャルを持っています。

駆動用電池は主要部品と同じ保証とした

1月のブログ「電池はなまもの?」で取り上げたように、ハイブリッドプリウスの開発リーダーを仰せつかった時に、真っ先に頭に浮かんだのは、電池の寿命、信頼性でした。このあたりの話は、今年1月のブログ、「電池は生もの?」とのテーマで取り上げています。生ものと言われた電池を、どのようにしてトヨタ車の厳しい品質要求、寿命要求に答える製品にしていくのか、していけるのか?葛藤の連続でした。もちろん、電気化学反応を繰り返す電池は永久寿命を保証できるわけではなく、寿命があることは確かです。

しかし、ハイブリッド電池はエンジンやトランスミッション同様、自動車の主要パワートレンユニット部品であり、高額な部品です。補機用12V鉛蓄電池は、消耗品扱いとして2年~3年の交換が当たり前として認知いただいていますが、ハイブリッド電池が交換前提では、広く普及を目指せる商品にはならないことは明かです。考え方としては、消耗品、メンテナンス指示がある部品を除いて、エンジンやトランスミッション、ブレーキ、操舵装置など、走る、曲がる、止るに関わる主要部品と同じ扱いとしました。

無償修理期間と製品寿命とは別な概念で、エンジン、トランスミッションなど機械部品は、保証期間を遙かに超える製品寿命を持っていることは一般常識となっており、その保証期間に注目することはほとんどないのではないでしょうか?それに対し、補機用鉛電池だけではなく、電動歯ブラシ、シェーバー、ラジコン、携帯電話、パソコンなど一般的に使われている二時電池は、「電池は生もの」と言われていたように、性能劣化があり、当たり外れもあることは常識になっていました。

社内でも様々な議論があり、寿命があることをしっかり説明をしていくべきとの意見、普及させるには製品設計として途中交換が必要ないレベルが必要との意見などケンケンガクガクの議論が闘わされた結果として、いまもトヨタのWebサイトなどで説明をしているように、「通常の使い方であれば定期交換は必要がありません」との説明に落ち着きました。

初代の円筒型電池では、製造不具合もあり故障が頻発、無償修理期間を延長し、さらに故障率削減の緊急活動を実施しましたが、1月のブログでも書いたように構造からくる問題もあり2000年のマイナーチェンジには、円筒型から新開発の角型にチェンジ、その角型で様々な寿命伸張改良を行い、前述のカリフォルニアATPZEV規定にも対応し、現在に至っています。

電池交換前提は考えられない

現在ではリチウムイオン電池を搭載した電気自動車、プラグインハイブリッド車が販売され、ノーマルハイブリッド車にもこのリチウムイオン電池が採用されるようになってきています。電気自動車、プラグインハイブリッド車、ノーマルハイブリッド車では電池の使い方がそれぞれ異なり、その耐久寿命に与える影響も違います。しかし、クルマという製品品質としての寿命要求は変わらない筈で、ANLのレポートでの無償保証期間ではNi-MH電池を使ってきた従来のノーマルハイブリッドと各社とも違いをつけてはいません。

しかし、電池の使い方、各社の説明書にある寿命の考え方、各社エンジニアのインタビュー記事などを見ると、いささか心配になってきています。電池に寿命があるのは当然で、交換が必要とはまでは謳っていないものの、容量低下すなわち航続距離の低下が当たりまえのといったように表現され、さらに寿命低下が急激におこる高温保存を避けるようにとのコメント、さらにはフル充電まで充電させないエコ充電モードの設定やそれを推奨している記述などが目につきます。

上に書いた通り、Ni-MHもリチウムイオンも電気化学反応によるもので、仕様によって消耗し寿命を持つ部品であることは事実です。ただし、電気自動車やプラグイン自動車でのEV航続距離が少し短くなる程度であれば許容して頂くことはできるとしても、クルマの生涯使用期間・走行距離の中で電池交換が必要となると、もはやこれまで通りに購入していただける「普通のクルマ」では無くなってしまいます。

プリウスも当初販売時から、高額な電池交換が必要という風評を受け続けており、そうならないように改良に改良、念には念をいれた確認を行って、こうして第3者機関等のお墨付きを頂いてハイブリッド車の今を迎えることができました。こうしら経緯も、電池技術屋だけではなく、ハイブリッド開発担当、車両開発担当も肝に銘じていただきたいと思います。

この電池寿命については、1970年代始めからその開発に取り組んだ、自動車用排気浄化触媒の耐久寿命伸張活動と近いアナロジーと感じていました。触媒本体の改良とともに、触媒寿命に影響を及ぼすガソリンや潤滑油の微量成分の除去をオイルメーカーに働き掛け、またエンジン運転でも劣化の少ない温度、雰囲気での制御、触媒の搭載位置、排気系の冷却などありとあらゆる寿命伸張、品質、信頼性向上に取り組み、加州LEV/ZEV規制では当時達成は困難と言われたマスキー規制のさらに10分の1、最初は5年、5万マイル保証からほぼ生涯保証といえる、15年15万マイル無交換を実現しました。

初代プリウスでのハイブリッド電池開発でも電池本体とその使用条件最適化と電池マネージの総合として取り組み、今回取り上げたように交換不要が証明されるレベルを実現しています。リチウムイオン電池でも、まだまだ寿命伸張の余地は大きいと思っています。中途半端にユーザーの不安を煽ったり、ツケを回すことなく途中交換は必要ありませんと断言できるレベルの実現を期待しています。最近話題となっている、自動車用電池からの電源供給機能は、災害時の緊急用を除くと、この寿命伸張に見通しがついてから、また急速充電もこの電池寿命が延びてからの話に思えます。高いハードルですが、日本の技術なら超えることは可能と信じています。

豊田佐吉翁の新型電池懸賞

日本の電気自動車の歴史に触れたインタビュー

以前よりトヨタの社内では、電気自動車の開発が話題になる度に、開発中の電気自動車に搭載する電池性能と、戦前に豊田佐吉翁が賞金を出した新型電池の目標性能の比較が話題となることがありました。私自身は、その時の経緯やどのような目標でどのくらい懸賞金だったかなど、具体的な話は知りませんでしたが、先日、自動車技術会のHPにある、「自動車技術を築いたリーディング・エンジニア」という日本自動車技術界の先人達のインタビュー州の中でトヨタ自動車の最高顧問・豊田英二氏が、佐吉翁の電池懸賞に触れておられ、その内容を知ることができました。

自動車技術会 先人のインタビュー: http://www.jsae.or.jp/interview/
豊田英二氏「日本における自動車技術の革新と国産乗用車の開発」:http://www.jsae.or.jp/~dat1/interview/interview5.pdf(佐吉翁の電池についての話はp151から)

このインタビューが行われたのは、平成7年4月。いまから17年前で、プリウスの前身である21世紀の乗用車の研究プロジェクト、G21プロジェクトで燃費2倍の目標が示され、燃費2倍のハイブリッドを選び出す研究作業が大詰めを迎えていたころです。

このインタビューのインタビュアーがトヨタ自動車の元副社長金原淑郎氏(技術担当)とモータージャーナリストの栗原定幸氏で、この金原氏がG21の提案者であり、インタビューの受け手であった豊田英二氏がG21の最大のスポンサーでした。そうした背景もあり、この電池への懸賞金のことや、第2次世界大戦最中のトヨタグループでの電気自動車開発なども語れており、非常に興味深く読むことができました。

余談ですが、G21のGは公式にはグローバルのGと言っていますが、当時の社内では、金原氏の「金」ゴールドのGと言い合っていました。また豊田英二氏も、初代プリウス発売後に「自分が若かったらこのプロジェクトをやりたかった」と車両担当の若いスタッフに言われたと伝え聞いています。また、1997年10月の東京ホテルでのプリウス新車発表会では、この発表にこぎ着けたことを大変喜んでおられたのが印象的でした。

現在からみても途轍もない性能のハードル

さて、この佐吉翁の電池に話しに戻ります。このインタビューでの豊田英二氏の説明では、佐吉翁が懸賞の話を当時の発明協会にもちかけたのは大正14(1925年)年のこと、今から87年も前のことです。私は自動車用の電池の話と思っていましたが、実際には電動飛行機用の電池がターゲットだったようで、「こういう性能のバッテリーを造ったら100万円あげます」という懸賞だったようです。 

その時のこういう性能というのが、『100馬力(英国馬力HPなら76.4kW)で36時間連続運転を持続することができ、かつ重量60貫(225kg)、容積10立方尺(278リッター)をこえないもので、工業的に実施できるもの』であったそうです。

当時、性能実現の見込みがないものの懸賞募集をやっては、「佐吉は馬鹿か」とか「売名行為」とも言われかねないので、関係学会の権威者に判断してもらったところ「まったく見込みがないとは言い切れない」とののコメントだったそうです。結局は、これほど画期的バッテリーはすぐにはできそうもないとのことで、バッテリー発明奨励として50万円を発明協会に寄付をし、発明協会の中にその評価をする研究室を設立したそうです。

この目標を今の自動車用電池と比較すると、途方もない目標であった事が明確になります。100馬力で36時間というと2750kWh相当となり、今の日産LEAFの電池エネルギー25kWhの100倍以上のエネルギー量です。電気自動車として考えると、この目標の10分の1でもプリウスレベルの航続距離が実現できるとの計算になります。更にその上で重量と容量まで満たすとなると、途轍もない高いハードルです。飛行機とすると、一人乗りか二人乗りの軽量飛行機で太平洋横断ぐらいを想定していたのでしょう。

日本が太平洋戦争へ向かい最終的に敗戦を喫した理由として、「エネルギー」確保を目的として戦争を行い「エネルギー欠乏」によって敗北したと説明されることがあります。もしこのような電池が表れていたとしたら、自動車や航空機の変化だけではなく、20世紀の世界の歴史そのものが違ったものになっていたでしょう。

輸送機関のエネルギーとしての電池


図は講演で私が時々使う、電池のエネルギーと様々な自動車燃料の体積当たりのエネルギー密度を比べたデータです。電池についても当時から大きな進化を果たし、ここに示すエネルギー密度以外でも、また自動車用としての普及には不可欠の品質・寿命が格段に向上していることは確かですが、それでもこのような数値となります。

この図で思い知らされるのは化石燃料、特に石油の移動用燃料としての能力の高さです。自動車産業の初期に電気自動車が衰退し、ガソリン自動車が隆盛したのはこの能力の高さゆえにです。

佐吉翁の懸賞の要求スペックは何度も書くように途轍もないものですが、無計画なものではなく、電池ですべての化石燃料の代替をするにはこのスペックが必要として弾き出したものなのでしょう。

飛行機や自動車といった、自分を運ぶ燃料/エネルギーも自分で運ばなければならない輸送機関では、搭載重量とともに搭載スペースも重要となります。それを考えると、この佐吉翁の電池が実現されていない現在、電池に出来ることを考え用途を限って使わざるを得ないというが実状だと思います。

また、このインタビューの中では、その後の電気自動車の流れとして、第二次世界大戦後、今の関東自動車工業(来月より合併してトヨタ自動車東日本株式会社)の前身が関東電気自動車製造という会社で名の通り電気自動車の製造をやっていたとか、創業者の豊田喜一郎氏が電気自動車開発を指示し、大阪にあった日本電気自動車製造という会社で製造をやっていたなどとの話もあります。

このときは、敗戦後で石油の輸入がままならず、比較的余裕があった国産の石炭をつかった発電電力を使おうとの構想だったようです。電気自動車に対する販売のトップ神谷正太郎氏(トヨタ自販元会長)のコメントや、英二氏のコメントがのっており、その状況と、それからの社会ニーズの変化、技術の進化を比べてみるのも面白いと感じました。

電気自動車の歴史をたどっても、19世紀からの自動車の歴史の中では出ては消え、出ては消えの歴史を辿ってきていますが、この21世紀に向かいピュア電気自動車かハイブリッドか、はたまた水素燃料電池自動車かどうかは別として、佐吉翁電池の目標にはほど遠くとも、電池を進化させながら、それを賢く使う自動車の電動化の方向で自動車が変革していくことには変りはないことは確かでしょう。G21として燃費2倍を目指すためには、アイドルストップだけではなく、走行中もエンジンを停止してEV走行をさせる機能が必要で、エンジン停止時に使うエネルギーも減速回生を目一杯働かせそれを再利用することが不可欠で、そのエネルギー貯蔵源として高性能、高寿命、低コストのバッテリーが不可欠でした。今だから白状できますが、自動車用としての厳しい品質目標、寿命目標にこのハイブリッドバッテリーが到達できるか、見通しを持ってスタートさせたわけではありません。

初代の立ち上がりでは、不具合の多発でお客様に大変ご迷惑をお掛けしたことも事実です。それから15年、電池品質、寿命は格段に向上させることができ、どんな地域、どんなお客様の使い方でも安心してご提供できるようになりました。電池を賢く使うと軽く書きましたが、電池そのものの進化の他、電池に無理をさせない使い方など使い方の進化も大きかったと思います。電池開発の歴史、この15年の経緯、今のリチウム電池の現状を眺めると、当時と同様、飛行機用は論外としても自動車用としても電池だけで今のクルマの全用途をカバーする時代はまだまだ夢の世界だと思います。エンジンハイブリッドでも、水素燃料電池ハイブリッドでも、またコミューター電気自動車でも、クルマの軽量化、効率化をさらに徹底的に進め、少ない電池をいまよりももっともっと賢く使うことが必要に思います。

「電池はなまもの!」

240個の直列電池

この「電池はなまもの!」というセリフを聞いたのは、私が初代プリウスのハイブリッド担当として豊田市のトヨタ本社にある技術部に赴任してすぐの時でした。
チームのハイブリッドシステムの基本制御構成企画を担当していたスタッフに「ハイブリッドをものにするための最大の課題はなに?」と聞いた時に帰って来たセリフがこの「電池はなまもの!」でした。

彼は、自動車制御設計のプロでさらに趣味としてラジコン模型をやっており、ニカド電池、ニッケル水素電池など、当時としては高価な高パワー、高エネルギーの電池を多く使いこなしていた人物で、自分の経験からのセリフでした。高価な電池であってもちょっと高温で過充電や過放電をさせるとすぐに性能低下を起し、またあたりが悪いと性能だせないなど当たり前で、使い方によっては電気特性が変化してしまい、使えるはずのエネルギーが使えないなど当たり前だとの話をいろいろ聞かさました。

挙げ句の果ては、その二次電池を直列に240個も接続し、5年5万キロどころか、クルマの一生を保証するなど、狂気の沙汰と言われてしまいました。わたし自身、電池はずぶの素人、電気化学では排ガス対策として固体電解質電池の原理を使った排気ガス中の酸素センサーを使いこなす開発を担当した程度でした。ただし素人でも、240個の電池を直列に接続し、その一個がダメになっただけエンジンもスタートさせることが出来ず、路上故障をおこしてしまうことは解ります。

当時の電池製造の現場

電池パック担当のスタッフからのレクチャーを受けた後、この彼にすぐお願いしたのは、その電池を製造する工場の見学と、ハイブリッド用電池の開発をやっている研究所の見学と開発評価スタッフとの会合でした。もうその電池工場はなくなっていますが、神奈川県平塚市にある電池工場をすぐに見学させてもらいました。たしかニカド(Ni-Cd)電池と電動工具用のニッケル水素(Ni-MH)電池のラインを見学させてもらい、電極版のコイル状のニッケル版の納入受け入れから、電池用としての加工、電極塗布など単一丸形セルの製造工程、検査工程の隅々まで見学させていただきました。

今の印象でも、自動車用の鉛バッテリー工場ほどではありませんでしたが、整理・整頓・清潔・清掃の4Sが行き届いている工場の印象はなく、エンジン工場やトランスミッション工場のような機械場の感じがしました。良品率がどれくらいか、どのような検査をやっていたのか、今では記憶が定かではありませんが、マイクロオーダーの鉄粉や銅粉が混入しただけでセル不良を起しかねない電池としてクルマの故障率としてゼロとは言えずともppm(100万分の1)オーダーを目標とすることの前途の多難さに、さらにその先に使い方によってもセル毎の特性が変ってしまうメモリー効果までもつこの電池をものにしなければハイブリッドは成り立たないことを思いしり、ここでも「電池はなまもの!」のセリフを強く意識させられたことを記憶しています。

初代プリウスで採用した電池はこの工場で見学したプロセスを使う、単一タイプのニッケル水素電池でした。この単一タイプの電池を6個直列に繋ぎ、冷却のため熱を通し易い樹脂フィルムのチューブに入れてモジュールとして、その60モジュールをさらに接続した240セルの組電池としてパックを構成しています。

しかし、最初の試作車が走り出した1995年末には、このニッケル水素電池の試作品は間に合わず、同じサイズですが、出力性能、エネルギー容量の劣るニカド電池を使い、その使うセル数を増やし、計画上のニッケル水素電池の特性でるように合わせた試作車のトランクルームを全て占有してしまうような試験用電池を使ってクルマを走らせていました。

最初の車両企画では、これまでのコンパクト車以上の室内容積やトランク容積を確保するために、電池を後席下のフロアパネル下に搭載する予定でした。しかし、このレイアウトでの高温試験を行うと、夏の日差しでチンチンに熱せられたアスファルト路面の輻射熱によって僅かの時間の駐車でも走行中の電池で高温になった電池温度がさらに上がりオーバーヒート状態に陥ることが解り、室内搭載に変更することが決まり、トランク容量を犠牲にしてリアシート後部に搭載する緊急設計変更を行う羽目になってしまいました。 

電池はワガママ

電池パックの冷却も室内冷房の冷気を回し、われわれスタッフの中では、ハイブリッドの電池は人間様よりも大事に使わないと駄々をこねられ、クルマを走らせられなくなるとのジョークもでていました。

この240セルの温度にばらつきがでると、充電の効率がセル毎に変ってしまい、電池の特性が変化してしまうメモリー効果もあって、設計通りの電池の使い方ができなくなることも判ってきました。しかし、ニッケル水素の計画に近い電池パックが使えるようになったのは、次ぎの年、その年の貴重な夏の試験をすることは出来ませんでした。電池だけではありませんでしたが、トラブル続き、制御の未熟さ、電池の使い方のまずさもあり、電池もトラブルつづき、「電池はなまもの!」を思い知らされました。

図に示す、電極材を塗布した正極版と負極版の間に短絡防止のセパレーターを入れ、巻き上げます。この巻き上げた状態で金属ケースに挿入したうえで、電極間にまんべんなく電解液が入るように容器全体を真空状態にして電解液の注入を行います。この電解液が均一に回らないと、液枯れをおこし電池劣化を起してしまいます。マイクログラムオーダーの鉄粉、銅粉の混入でも、使用中に性能不良を起してしまいます。生産開始までに、製造工場でも、材料の受け入れ、加工プロセス、検査工程、組み付け工程までの様々なクリーニング工程など、品質確保に力を注ぎ、またそれに注文をつけ、電池パック組み立て工場でも再度組み付けモジュールの検査、充放電のエージングなどを行い、車両搭載に万全を尽くしてもらいましたが、お客様のお渡ししたクルマで電池不具合を多発させてしまいまい、お客様に大変ご迷惑をお掛けしてしまいました。

「なまもの」から「工業製品」へ

その電池はサービスキャンペーンをさせていただき、追跡調査をし、無償回収させていただきましたが、強く「電池はなまもの!」を実感させられた今としては貴重な経験でした。このままの電池ではハイブリッド車の普及は覚束ない、抜本的な品質向上を進めたいとの、電池会社、電池グループの提案で、2年半後の2000年には、単一丸形電池から、図に示す樹脂一体ケースの6セル1モジュールの積層電極タイプの角型電池を突貫作業で開発してくれました。

電池セル製造工場もパック工場内に新設をし、材料搬入から加工、組み立てまで準クリーンルームで行うなど、従来の電池工場イメージでは考えられないと電池化学の先生がたもビックリするような工場に仕上げてくれました。これで品質レベルも格段に上がりましたが、それでも異物混入と見られる不具合は散発、その原因を突き止めるのに時間を費やしましたが、通称品質向上Gメンと工場スタッフ、材料メーカースタッフの努力により、それを突き止めたあとは驚くほどの高品質を達成してくれました。

この電池では、アメリカやカナダのタクシーで、走行30万キロ越えを何台も達成するなど、耐久性の高さで高い評価も戴きました。これで、「電池はなまもの!」を卒業し、高い品質をもつ「日本の工業製品」に成長したことを実感したエピソードです。

開発現場から離れた今でも、ハイブリッド電池のニュースには敏感になっています。昨年もGM VOLTの電池パックからと見られる火災事故の報道で、ひやひやさせられました。GMのイメージダウンどころか、ハイブリッド、EV用全体のLiイオン電池普及に水をかけられることを心配しました。

アメリカ連邦の高速道路保安局(NHTSA)の調査の結果、電池は白とお報告がでましたが、GMはユーザーの不安解消のためにこの調査結果がでる前に自主対策として、電池パック冷却用に冷却水漏れを防止の無償対策を発表しました。「電池はなまもの!」にもどらないことを祈ります。