またまたカタログ燃費と実燃費の話

私はビジネス週刊誌「週刊ダイアモンド」をときどき購入しているのですが、先日発刊の1月18日号で『エコカー苛烈競争で浮上する知られざる“燃費偽装”問題』との記事が目に飛び込んできました。

一昨年の現代自動車のクルマの燃費がユーザー報告燃費との差が大きいとの訴訟が米国であり大きな話題となった問題や、カタログ燃費とユーザー燃費とのギャップの存在を問題にした記事かと思い、記事を読んでみましたたがそうでありませんでした。記事は今の日本車のカタログ燃費競争を扱ったもので、これを“燃費偽装”というセンセーショナルな見出しで取り扱っていることに愕然としました。

米国での現代自動車の問題は、現代自動車から意図的では無いもののミスで提出するデータを間違えたとの説明がなされており“燃費偽装”と呼ばれても不思議がないものですが、これと定められたルール通りに行われた中で生じるJC08モードカタログ燃費とユーザー平均燃費とのギャップを取り上げて“燃費偽装”と、あたかも不正をおこなっているとの表現には、こうした低燃費車開発に心血を注いできたエンジニアとして強い怒りを覚えます。

本当に“燃費偽装”しているならそれは不正・違反だ

現代自動車の問題は先ほども触れましたが、公式燃費認証を与えた連邦環境保護局(EPA)が、再現試験やさらに現代自動車が公式燃費申請に使った社内試験ラボへの立ち入り検査を行い、現代自身が社内試験の提出値にミスがあったとして修正申請を行いました、

このケースでは現代が該当車両のユーザーに修正分+αの燃料費用補填を続けることで和解が成立しています。故意ではなかったとしても明らかにこれはルール違反であり、厳密に定められた公式燃費試験の燃費値が誤って認定され間違っていたことから、大きな訴訟問題へと発展しました。ユーザーとの和解が成立はしましたが、巨額のペナルティー負担とイメージ低下の影響は大きいようです。繰り返しになりますが、これは“燃費偽装”と呼ばれても仕方の無い不祥事であり、この米国での事件と記事で挙げられている日本のケースは全く異なります。

公式燃費値は、それ決める型式認定申請をしてそれに基づいた認定試験車を作り、厳密に定められた試験法で試験が行われ、その試験結果から決められます。その際、日本、米国、欧州ともに、認可機関がすべて認定/認証車の公式試験を行うわけではありません。その一部のクルマを抜き取りで試験をするのが通例です。

それは毎年数多く発売される新車の認可試験をすべて公的機関で行うとなると、膨大な試験費用と人が必要となるからです。そのため、多くの場合では自動車メーカーが実施する試験結果も申請値として使われますが、その公式試験を行う自動車メーカー内の組織・設備は厳しい監査を受け、また立ち入り検査も行われます。

この段階でルールから外れたクルマや試験条件で試験を行っていれば、これはまさに不正、偽装問題となります。このところ新聞を賑わせている、産地偽装・材料偽装と同様で、公式試験に不正・偽装があれば厳しく糾弾されるべきです。もし意図した不正・偽装が発覚すれば、頭を下げる程度で終わる話ではなく、法律的にもさらに半社会的な企業としてその企業姿勢も問われ、イメージ失墜どころの問題では無いでしょう。

燃費ギャップの問題提起はあるが不正とは全く別の議論

地球環境問題やガソリン価格の高騰から低燃費車への関心が高まり、この表示手段としての公式燃費、カタログ燃費競争がエスカレートしているのは誰もが知る事でしょう。その火付け役がハイブリッド車プリウスであったことも事実で、この開発を担当した一人としてそれ自体は誇りに思っています。

一方でこのプリウスが、カタログ燃費と平均ユーザー燃費とのギャップ問題を引き起こしたこともその当事者の一人として、その販売当時から自覚していました。米国では2008年に公式燃費の試験法・算定法が改訂されましたが、この改訂の背景にあったのがプリウスのユーザー燃費とそれまでの公式燃費、いわゆるカタログ燃費とのギャップ問題です。

しかしこの改訂のときも、決してプリウスの公式燃費値が不正・偽装を疑われた訳ではありません。私にはこの問題でEPAに呼び出されたことも、監査をうけたことも、ユーザーから訴えられた記憶もありません。話題の低燃費車であったので、競合メーカーから燃費試験を行う際の設定方法などについての問い合わせも何度か受けましたが、米国、欧州での認可当局、試験機関での試験法、基準を公開しており、公式燃費値について疑われたこともありません。

この記事で取り上げられている、メーカーのドライバーが運転したときの燃費値と認可当局、公式試験機関のドライバーが運転したときの燃費値に差がある話はときどき耳にします。しかし、これまた不正な運転を行うからでは決してなく、日本メーカーの試験ドライバーのスキルの高さを証明する話です。米国、欧州、日本、いずれの公式燃費試験も厳密な実施基準に則って行われており、それから外れるとその試験は無効、再試験となってしまいます。

無効試験となるとまた試験を一からやり直しとなり、その再試験の日程によっては、生産、販売にまで大きな影響を及ぼしかねません。車速一つをとっても、上下狭い車速幅が指定されており、それを超えると無効となってしまいます。

記事には記者がシャシーダイナモ試験をしたような表現がありますが、初めてのドライバーが無効にならないように車速を守って運転することはほぼ不可能です。試験結果は示されていませんでしたが、間違いなく専門ドライバーが同じ試験で出す燃費値よりははるかに悪かったはずです。

日本メーカーには、狭い車速バンドの中を車速維持のための余分な加減速運転は行わず、その車速バンドの中で滑らかな燃費の良い運転をするほれぼれとするような高いスキルを持った専門ドライバーが多いことは事実です。彼らは、経験は当然として、トレーニングにトレーニングを積み、試験に集中する高い専門スキルを持っており、その運転、試験技量には強い誇りを持っています。

アメリカでも昨年、EPAの燃費試験担当官が、このようなメーカードライバーが出す試験燃費がよく出過ぎると嘆いている記事があり、このブログでも取り上げました
http://www.autonews.com/article/20131004/OEM11/131009914/epa-says-automakers-test-drivers-can-be-too-good#axzz2rBe0LDYR

ただしこの記事も不正・偽装を非難している訳ではありません。厳密に決められている試験に沿って、さらにその狭い定められた車速バンドの中でスムースな運転をすることにより良い燃費値を出す、メーカーの専門ドライバーのスキルに驚嘆させられたとの話です。

アメリカでもEPAのラボで抜き取り試験が行われ、その試験結果も公式値として使われます。EPAラボに持ち込まれないことが決まると、エンジニアとしてまずほっとするというのが正直な所で、さらに持ち込みが決まった場合も、デトロイト郊外のアナーバーにあるEPAラボで試験を受けますが、何基かあるどのシャシーダイナモで試験されるのか、担当ドライバーは誰になるのかで一喜一憂したものでした。

経験者として正直にお伝えしますが、割り当てられたドライバーやシャシー台によって結果は確かに異なります。ただし一方で毎年、自動車メーカーが燃費チェック用のクルマを供出して、EPAのシャシーダイナモ・分析計での燃費チェックを行い、各社持ち回りで自分達が公式燃費試験を行うシャシーダイナモ・分析計での燃費値との差をみて調整するというクロスチェックを行い、その精度管理に最新の注意を払っていました。

燃費を「事前に」完璧に測定する事は不可能

こうした厳密に定められた試験法の中ですら、燃費値に違いが出るわけですから、様々な走行条件、環境条件で使われるユーザー燃費に大きな差があることは当たり前です。この記事にあるe-燃費もあくまでもユーザーが報告した平均燃費です。この報告値にも大きなばらつきがあり、燃費チャンピオンのデータと最低燃費のデータには2倍以上の差が出るケースもあります。

ユーザー燃費の観点では大きな違いを見せるのが北米のユーザー燃費で、冬には零下20℃を下回るウイスコンシンやミシガン北部の冬のユーザー燃費とアリゾナ、ハワイのユーザー燃費には当然ですが大きな差が出ます。さらに夏の路上では50℃を超えるネバダやアリゾナと、サンフランシスコ付近のベイエリアでの夏の燃費にも違いがあります。

日本も北海道・沖縄でのユーザー燃費値には大きな差があるのは当然です。さらに、アップダウンの多い地区での運転と、平坦な地区で主に使うケースでも大きな差があり、これに加えてもちろんクルマの走らせ方、タイヤの空気圧、荷物の重量、乗車人数、さらに加速の仕方によっても実走行燃費は様々です。

このブログでもユーザーの燃費をあくまで平均燃費で論じているのも、この燃費の大きなばらつきがあるためです。この大きくばらつくユーザー燃費の平均値を「事前に」どのクルマでも公平に算出する試験法を作りだすことは、科学技術的にも不可能だと思います。

そのユーザー平均燃費に近いと言われる米国EPAの公式燃費は、排ガスのクリーン度が公式試験値よりも厳しい走行で大きく悪化しないことをチェックする急加速・高速モード走行など、もともとは排ガスチェック用に作られたそれまで公式燃費モード以外のオフモードと呼ぶさまざまな限界モードの燃費値を洗いざらい使って補正すると燃費値を低めに補正することができることからこの補正を行っています。

この補正は科学的な根拠があって決めたものではありません。従来ある様々な排気ガスチェックモードの値を使って、無理やり燃費値が悪くなるような補正を行ってユーザー燃費値に近づけていると言ったほうが当たっていると思います。

この記事に書かれている、国連が進めているこの自動車排ガス、燃費試験の国際基準調和、統一試験法作成作業も、その目標をユーザー平均燃費に近づける為に行っているものではありえません。もちろん、日本だけではなく、欧州、米国、アジアと各地域での走行環境調査を行い、その走行実態に合わせた走行パターンとなっていますが、夏、冬、登降坂、カーブなどまで加味したものではありません。

図は米国EPAの燃費サイトにのっていたプリウスとフォード・フュージョンハイブリッドの公式燃費とEPAがアンケート調査しているユーザー燃費データを比較したものです。

図1

カタログ燃費に反映されない低燃費技術もある

私にとって低燃費技術の開発の目標は、環境条件、季節、地域、走行パターン、加減速度などによってさまざまに変わるユーザーに対して改善した実走行燃費を提供する事でした。少なくとも自分は、決してカタログ燃費に特化しての低燃費車は目指してこなかったと胸を張って断言できます。

夏のエアコン運転でもエンジン停止をすること、モーター走行頻度を高めるための電動エアコンの採用、車両の断熱、シートヒーター、三代目プリウスで採用したヒーター用エンジン冷却水の排熱回収器などは、どれもカタログ燃費には反映されないユーザー燃費向上のための技術です。

カタログ燃費と言われるように、どの国どの地域でも公式試験にのっとった試験法で求められた燃費値が公式燃費とされ、この公式燃費のみが正式にクルマの広報・宣伝・販売活動として使用できます。

確かにいかにこのカタログ燃費を高めることができるかを激しい競争を行ってきていることも事実です。しかし、その一方で、各メーカーともユーザー実走行燃費改善にも努力をしています。

最近のニュース等でも紹介されている、エコラン運転中でもエアコンを効かせる蓄冷方式のエアコンなどもその一例です。この部分では、日本の自動車メーカー、部品メーカーが欧米メーカー以上に知恵をだし、新技術を提案しています。これらの努力は燃費値では貢献できないかもしれませんが、最終的にユーザー平均燃費にその実際の効果が問われることになります。

販売後のユーザー燃費の収集・解析は可能

現在、日本、欧州そして米国と自動車による石油燃料消費総量が減少に向かっています。ハイブリッドだけとは言いませんが、着実に低燃費車が普及していることの表れです。

この記事の内容は問題ですが、そろそろカタログ燃費とユーザー平均燃費とのギャップ問題に決着をつける時期に来ているのは確かでしょう。ただし、公式試験をどのようにいじろうが、ギャップ問題は発生します。上に挙げた図のように使い方、走り方によって燃費は大きくばらつきます。さらに、今のkm/Lの表記では、さらに低燃費車になればなるほど燃費値の乖離は大きくなってしまいます。

一つの公式試験モード、条件でユーザー平均燃費を近似することは無理があります。あくまでも燃費比較の尺度として国際基準調和の新試験法を使い、そのあとは実際のユーザー燃費値を集めたビッグデータとしての解析を加え、その結果をEPAのように公表していく方向が一つの方向と思います。

また今のクルマでは、エンジン制御からも正確な燃費計測を行っています。初代プリウスを出した際には珍しかった燃費表示はあたりまえの機能となりました。さらにクルマごとに、燃費と様々な走行データ、走行パターン、トリップ解析を車両コンピューターで行うことも難しくはありません。

個々のクルマ、ユーザーごとの燃費診断もやろうとすればやれます。ナビ装着もあたりまえの世の中ですので、GPSデータ付でそのデータを外部に送り解析することは、ITS、スマホ普及を考えるとそれほど先の話ではありません。

ユーザーごとの燃費診断から、クルマの故障把握もできるはずです。排気のクリーン度、燃費を悪化させる故障、整備不良を減らすだけでも環境保全への効果は大きいと思います。

燃費が大切で低CO2を目指すのは社会的要請ではありますが、個人的には低燃費運転だけを推奨するつもりはありません。時には気分よく、思い切った加速をやってみてみたくなるクルマを作るのも我々の役割で、その一回の加速で実燃費がどれくらい悪化するかの見える化も実燃費向上につながるのではと思っています。

私自身も、燃費悪化は判っているものの、ときには思い切った加速、カーブの多い山道でコーナリング減速からのラインに沿った加速などを楽しんでいます。

現代・起亜のアメリカ連邦ステッカー燃費詐称問題

燃費表示は新しい課題となってきた

今、アメリカで現代・起亜のクルマの連邦ステッカー燃費詐称問題が大きな騒ぎとなっています。この燃費詐称の勧告を行った部署が連邦環境保護局(通称EPA)で、排ガスクリーン度のコンプライアンス、公式カタログ燃費をメーカーの提出データ、公式認定試験結果により認定書を交付する責任官庁になります。

このブログでも以前、「低燃費のゆくえ」として、アメリカと欧州で、将来の厳しい燃費・CO2規制強化を求めるオバマ政権、EU委員会の決定についてとりあげました。
そこでは、アメリカ、欧州、日本での公式燃費試験法の違い、アメリカでは燃費規制で使われる燃費値とカタログ燃費としてクルマの販売で使わなければいけないステッカー燃費との違いについても解説しました。

地球温暖化、石油価格の暴騰から自動車の燃費性能、CO2排出性能がクルマを購入されるユーザーにとっての重要な選択基準となり、そのカタログ燃費値競争が世界中で激化してきています。今回の詐称問題は、その中で起こった問題です。カタログ燃費は、各国、各地域(EU圏)で定められた走行モード、計測方式、算定方式で計測され、その同じ土俵でフェアに試験し、算定した燃費値です。

もともとは、こうした燃費値は基本的にはユーザーが実際に走行したときの平均燃費値を示すものではなく、同じ物差しで車種ごとの燃費性能を比較し、空気環境の保全等を目的とした政策や法令に使用するためのものでした。こういった時代では、カタログ燃費とユーザー燃費のギャップは問題にはなりませんでした。しかし各国の中で、アメリカのカタログ燃費算定方式が、ユーザーの実走行燃費平均に近づけようと改訂したことにより、生じてきたのが今回のような問題です。

日本、欧州での公式燃費(カタログ燃費)は、決められた走行モード、計測方式、算定方式にのっとって行われ、基本的には認可官庁ラボ、もしくは公認ラボでの試験値が使われ、また社内申請値との相関チェックも厳しく行われています。

複雑化したためにEPAが全てをチェックすることは不可能に

アメリカの場合には、これまでカタログ燃費としてEPAが認定し公表し、販売店の展示車のフロントガラス(ウィンドーシールド)にその燃費値表示のステッカーを添付することが義務付けられていたことからステッカー燃費と呼ばれていましたが、これがユーザーの実走行燃費とのギャップが大きいことが問題になり、認定官庁のEPAが一般ユーザーから訴えられ、ステッカー燃費算定方式をユーザー実走行平均燃費に近づける方向で2008年に改訂を行いました。

今回の問題は、この新しいステッカー燃費と現代・起亜の対象車を購入されたユーザーが実際に走って得られた燃費値に大きなギャップがあるとEPAに申し出たことに端を発しています。以前のブログでも紹介しましたが、EPAはユーザー実走行燃費のアンケート調査、当時排気クリーン度と燃費評価として使っていた様々な走行モード燃費を用いた燃費修正方式を検討し、2008年にステッカー燃費算出方式とその表記方式の改訂を行いました。

この改訂は、ユーザーが実際に走行したときの平均燃費にいかに近づけるかが狙いで、ユーザーからクレームが出ないように、燃費を意識しないで走った場合のやや悪目の燃費値がでるように根拠もなく無理矢理つくりあげた修正方式との印象を持っていました。

しかし、以外や以外、同じクルマならアメリカも日本もユーザー実走行燃費アンケートの平均値はほぼ一致しており、それよりも少し悪目ながら非常に近い値に収まっています。この算出方式の詳しい説明は省きますが、排気クリーン度と燃費評価に使っていたアメリカのシティーモードとハイウェーモードに加え、零度以下での一酸化炭素排出レベルをチェックする低温COモード、ハイパワー車によるアグレッシブな急加減速運転の排気チェックモード、さらに夏のエアコン運転時の排気チェックモードを加え得た5つの試験結果から算定する方式です。

従来の算定方式ならば、シティーモードとハイウェーモードの2つだけですし、EPAが社内公式試験の試験手順、試験車の管理など、厳しい管理と規定遵守を求め、さらに認可試験のための排気ガス・燃費測定車をデトロイトの近くにあるEPA試験ラボに持ち込み抜き取りチェックを行い、社内申請値、EPA公式試験の両方を使い、排ガス合否判定、カタログ燃費値算定を行っていましたので、今回のような問題を起こすことはありませんでした。

今回はEPAが韓国の現代・起亜の社内排ガス・燃費試験ラボに立ち入り検査を行い、ステッカー燃費算定に使っていた社内公式試験燃費値が実際にはそこまでの値がでず、ギャップの原因になっていたことを会社が認め、EPAがこれを公表しました。11月7日付けのThe Wall Street Journal紙によると、米オハイオ州の住人3人が、米連邦裁判所に提訴し、集団訴訟としての扱いを求めているこの案件に対し、EPAは両社の13のモデルに燃費性能の不当表示があったとの見方を示したと報じています。両社は、社内燃費のテスト方法に誤りがあったことをみつけたとして、EPAの指摘を認め、ユーザーに対し燃費ギャップ分の燃費代を返却すると発表しています。WSJの記事による、両社の説明としては、「社内公式燃費に採用した試験の手続き上のミスが原因とし、EPAがすべての車種をテストするわけではなく、自動車メーカーに作業の多くを任せている」と伝えています。

私の経験から、試験の手続き上のミスとはとても考えられません。この記事のように、公式のカタログ燃費、通称ステッカー燃費算出として使われる5モード燃費データの大部分は社内公式試験データが使われることは確かです。2008年の改訂後では、基準となるシティーモードとハイウェーモード以外の試験モードデータは、特別な試験設備も必要で、準備時間を含めると試験時間も多くかかるため、そのほとんどが社内公式データそのままが使われ、EPAラボでのチェックは行われず、勘ぐればそれを見越して残り3つの試験データに実際に規定されている試験法、算定法では出ない燃費値を申告していたのではと思います。この推測どうおりとすると、この値をコマーシャルの宣伝にも使っていたことはFairnessから大きく外れていることは明らかでしょう。

アメリカでビジネスを行うのに必要なFairness

これまでのブログでも述べてきたように、われわれ日本勢も1970年代の大気浄化法マスキーの時代から、このアメリカにクルマを輸出し販売を行うためにはこのEPAの排ガスチェックを受け、公式認可を得ることが不可欠であり、この経験で多くのことを学びました。

その中でもの最重要として日本勢が定着させてきた考えが、公平性(Fairness)と実市場(Real World)です。アメリカで排気クリーン度の認可をもらう試験法で、厳しく問われるのはFairnessです。その試験モードを走っているときだけに作動し、その他のReal Worldでは作動しない排気クリーン装置とその制御は、規制逃れのunfairなやり方としてdefeat device(…無効にする装置)と呼び、それを使っていないことの誓約をさせられます。

これが徹底されるうえ、さらにEPAからクルマの持ち込み要求があり、EPAラボでのダブルチェックも受けることになります。EPAラボでの試験要求がないケースをWaive (要求の見送り)と呼び、こうなる正直なところホットしました。Fairにやっても、もし万が一EPAラボでの試験で規制値を満たさないデータがでると、生産開始も当然ながら販売開始もすることができなくなり、会社としては大きなダメージを受けてしまいます。幸いにも私自身は、自分の担当でそのような羽目に陥ったことはありませんでした。なんと言ってもFair & その法規性の目的であるReal Worldが問われると諸先輩からも叩きこまれました。

欧米自動車の背中を見ながら、日本勢が1970年代から、韓国勢が1980年代後半から欧米マーケットに進出し、その販売拡大を図ってきました。次世代自動車こそ、こんどは我々アジア勢が自動車の進化に貢献していくことが求められています。その基本がやはりFairnessとReal World、同じFairな土俵での厳しい競争を行い、その上でエネルギー、環境保全の効果を高める普及のための貢献活動では、是非協調路線で進めて行って欲しいと思います。

「PHVに未来あり」

今週のタイトルは私がつけたものではありません。
先週ご紹介した、フランス、ストラスブールでのプラグイン・プリウス大規模実証走行プロジェクト、通称クレベールプロジェクトの開始1周年の成果報告会とユーザーミィーティングをとりあげた、アルザス地方紙記事のタイトルです。フランスでは、プラグイン・ハイブリッドは、充電可能ハイブリッドという意味の“hybride Rechrgenable”とも呼ばれています。

DNA 05/09/2011
DNA 05/09/2011

記事は、実証試験に参加したユーザーの声とトヨタ、EDFの代表者のスピーチなどをまとめたものとなっています。そこでは94%のユーザーがその燃費に満足し、93%の方が従来よりも環境を配慮したドライブ・マナーを心がけるようになったというEDFが行ったユーザーのアンケート調査結果が紹介され、これを受けてこのプロジェクトの強力な支援者ローラン・リース ストラスブール市長が「(時速制限)地帯『Zone 30』の拡張計画に正に適したドライブ・マナーがもたらされた」というコメントが記載されています。

この『Zone30』とは、以前のブログでもとりあげましたが、ストラスブール市が提案している、高速道路との連絡路を除く市内中心地区内全域の最高速度を30km/hに制限にする市条例のことで、現在議会で審議中です。先週も紹介しましたが、クルマの市内中心地区への乗り入れ制限の動きは、歩行者、自転車との混合交通の安全確保、自動車から排出される浮遊粉塵や窒素酸化物の削減など都市大気のクリーン化、さらには自動車やバイクによる騒音防止、都市内渋滞対策として欧州各都市で拡大しようとしています。

しかし、欧州社会に根付いている自由な移動手段としての個人用モビリティを抑制しようとの考え方は少なく、エネルギー資源、環境保全を進めたうえで、公共交通機関、自転車、歩行者と共存できるモビリティを求めていこうとの姿勢に共感を覚えます。歩行者、自転車、トラム、バスや都市内用コミューターEV、電動スクーターと共存できる個人用モビリティとしてプラグインが評価され、認知度が高まってきたことに、自動車屋として手応えを感じ始めています。

プラグイン・プリウスの燃費経過

4月末に納車された、わが社のプラグイン・プリウスも海外出張中の6日間は車庫でお休みしていましたが、この日曜日の第1回目の給油を行いました。連休中に2回の長距離ドライブを含め、走行距離978kmに対し、29.3Lの給油、その間の充電電力は58kWh,この電気エネルギーを使って燃費はクルマの表示では35.0km/L、満タン法では33.4km/Lを記録しました。この数字を見て、わたし自身も、実際にプラグイン・プリウスを使うなかで、「PHVに未来あり」との思いを強めています。

少々充電効率は悪いような感じがしますが、充電した電力量に応じて、ガソリン消費が確実に減らすことができ、高速道路以外の郊外や都市内の一般道路では、ほとんどエンジンをかけず、モータだけで走行することができます。一般路の走行で走り方と道路勾配などにより、エアコン負荷も少ない今の時期でEV走行距離は15km~27kmと大きくばらつき、印象としては日当たり一回の充電だけで通勤やショッピングなど日常のトリップをカバーするには少し足りず、通勤先での追加充電など、日当たり2回ならば結構カバーできるユーザー層が多いのではと思います。
日当たり1回の充電、それを夜間電力で行うことが当面の平均的な使い方、日本での、欧州でも、もう少しEV航続距離が欲しいところです。

今週、片道250kmの長距離日帰り出張にでかけましたが、前夜電池充電を忘れ、そのままの状態で出発しましたが、もちろん普通のプリウスとして、往復500km、出張先には充電コンセントがありませんでしたので、帰りも普通のプリウス、往復の燃費は、それほどのエコ運転は行いませんでしたが、表示燃費は25.5km/L、エコタイヤのせいもあるかも知れませんが、車両重量は180kg近く重いにも関わらず、私の乗っていた3代目プリウスよりはかなり良く、エネルギー容量が大きく、また回生受け入れパワーも大きなリチウム電池を搭載した効果もこのような高速燃費にも現れているように感じました。

超えるべき課題はあるが……

もちろん、EV航続距離を伸ばし、家庭の深夜電力充電だけではなく、ピーク時以外の日中充電頻度を高くできれば、さらにEV走行比率が高まり、ガソリン消費削減効果が大きくなりますが、充電インフラの費用負担をどのようにするかも、EV含めたプラグイン自動車普及への課題です。

プラグイン自動車用充電スポットをどのように設置できるかが、PHVのみならず、EV普及には販価アップ以外の最大の課題です。日本でも、新しいマンションには充電用コンセント設置を売りにするところも出てきましたが、標準装備にはまだまだ先、その費用負担をどうするかの問題も解決していく必要があります。地方では、移動の足として1家族複数台保有が多く、そのほとんどが屋外駐車スペース、そこの充電ポイント設置、さらに欧州都市では、古い集合住宅も多く、許可はもらっているようですが、路上駐車はあたりまえ、一軒家でも独立した車庫があるのは裕福なほんの一部の家庭だけ、ほとんどは屋外駐車で、EV/PHV用の充電スポットをどのように設置するのか、安全チェック、メンテナンスをどう進めるのか、さらにその費用負担をどうしていくのかも大きな課題です。

屋外駐車が多いだけに、今回のプラグイン・プリウスでの使い勝手の悪い、重いケーブル、照明のないプラグ差し込み口、ロックのない充電ケーブルには、すでに強い改善要望が出されています。

さらに、今回の原発事故問題に端を発して、自動車走行用エネルギーとしては、新規需要となる電力の安定供給、さらにその低CO2化など、日本ではその先行きが混沌としてきています。しかしグローバルには、ポスト石油、低カーボン化として自動車のプラグイン化が大きなうねりとして動きだそうとしています。

「PHVに未来あり」、さまざまな課題を、知恵を結集し、また日本のもの作りパワーを発揮してその解決策を見つけ出し、この未来を日本人の手で引き寄せてくれると期待しています。