またまたカタログ燃費と実燃費の話

私はビジネス週刊誌「週刊ダイアモンド」をときどき購入しているのですが、先日発刊の1月18日号で『エコカー苛烈競争で浮上する知られざる“燃費偽装”問題』との記事が目に飛び込んできました。

一昨年の現代自動車のクルマの燃費がユーザー報告燃費との差が大きいとの訴訟が米国であり大きな話題となった問題や、カタログ燃費とユーザー燃費とのギャップの存在を問題にした記事かと思い、記事を読んでみましたたがそうでありませんでした。記事は今の日本車のカタログ燃費競争を扱ったもので、これを“燃費偽装”というセンセーショナルな見出しで取り扱っていることに愕然としました。

米国での現代自動車の問題は、現代自動車から意図的では無いもののミスで提出するデータを間違えたとの説明がなされており“燃費偽装”と呼ばれても不思議がないものですが、これと定められたルール通りに行われた中で生じるJC08モードカタログ燃費とユーザー平均燃費とのギャップを取り上げて“燃費偽装”と、あたかも不正をおこなっているとの表現には、こうした低燃費車開発に心血を注いできたエンジニアとして強い怒りを覚えます。

本当に“燃費偽装”しているならそれは不正・違反だ

現代自動車の問題は先ほども触れましたが、公式燃費認証を与えた連邦環境保護局(EPA)が、再現試験やさらに現代自動車が公式燃費申請に使った社内試験ラボへの立ち入り検査を行い、現代自身が社内試験の提出値にミスがあったとして修正申請を行いました、

このケースでは現代が該当車両のユーザーに修正分+αの燃料費用補填を続けることで和解が成立しています。故意ではなかったとしても明らかにこれはルール違反であり、厳密に定められた公式燃費試験の燃費値が誤って認定され間違っていたことから、大きな訴訟問題へと発展しました。ユーザーとの和解が成立はしましたが、巨額のペナルティー負担とイメージ低下の影響は大きいようです。繰り返しになりますが、これは“燃費偽装”と呼ばれても仕方の無い不祥事であり、この米国での事件と記事で挙げられている日本のケースは全く異なります。

公式燃費値は、それ決める型式認定申請をしてそれに基づいた認定試験車を作り、厳密に定められた試験法で試験が行われ、その試験結果から決められます。その際、日本、米国、欧州ともに、認可機関がすべて認定/認証車の公式試験を行うわけではありません。その一部のクルマを抜き取りで試験をするのが通例です。

それは毎年数多く発売される新車の認可試験をすべて公的機関で行うとなると、膨大な試験費用と人が必要となるからです。そのため、多くの場合では自動車メーカーが実施する試験結果も申請値として使われますが、その公式試験を行う自動車メーカー内の組織・設備は厳しい監査を受け、また立ち入り検査も行われます。

この段階でルールから外れたクルマや試験条件で試験を行っていれば、これはまさに不正、偽装問題となります。このところ新聞を賑わせている、産地偽装・材料偽装と同様で、公式試験に不正・偽装があれば厳しく糾弾されるべきです。もし意図した不正・偽装が発覚すれば、頭を下げる程度で終わる話ではなく、法律的にもさらに半社会的な企業としてその企業姿勢も問われ、イメージ失墜どころの問題では無いでしょう。

燃費ギャップの問題提起はあるが不正とは全く別の議論

地球環境問題やガソリン価格の高騰から低燃費車への関心が高まり、この表示手段としての公式燃費、カタログ燃費競争がエスカレートしているのは誰もが知る事でしょう。その火付け役がハイブリッド車プリウスであったことも事実で、この開発を担当した一人としてそれ自体は誇りに思っています。

一方でこのプリウスが、カタログ燃費と平均ユーザー燃費とのギャップ問題を引き起こしたこともその当事者の一人として、その販売当時から自覚していました。米国では2008年に公式燃費の試験法・算定法が改訂されましたが、この改訂の背景にあったのがプリウスのユーザー燃費とそれまでの公式燃費、いわゆるカタログ燃費とのギャップ問題です。

しかしこの改訂のときも、決してプリウスの公式燃費値が不正・偽装を疑われた訳ではありません。私にはこの問題でEPAに呼び出されたことも、監査をうけたことも、ユーザーから訴えられた記憶もありません。話題の低燃費車であったので、競合メーカーから燃費試験を行う際の設定方法などについての問い合わせも何度か受けましたが、米国、欧州での認可当局、試験機関での試験法、基準を公開しており、公式燃費値について疑われたこともありません。

この記事で取り上げられている、メーカーのドライバーが運転したときの燃費値と認可当局、公式試験機関のドライバーが運転したときの燃費値に差がある話はときどき耳にします。しかし、これまた不正な運転を行うからでは決してなく、日本メーカーの試験ドライバーのスキルの高さを証明する話です。米国、欧州、日本、いずれの公式燃費試験も厳密な実施基準に則って行われており、それから外れるとその試験は無効、再試験となってしまいます。

無効試験となるとまた試験を一からやり直しとなり、その再試験の日程によっては、生産、販売にまで大きな影響を及ぼしかねません。車速一つをとっても、上下狭い車速幅が指定されており、それを超えると無効となってしまいます。

記事には記者がシャシーダイナモ試験をしたような表現がありますが、初めてのドライバーが無効にならないように車速を守って運転することはほぼ不可能です。試験結果は示されていませんでしたが、間違いなく専門ドライバーが同じ試験で出す燃費値よりははるかに悪かったはずです。

日本メーカーには、狭い車速バンドの中を車速維持のための余分な加減速運転は行わず、その車速バンドの中で滑らかな燃費の良い運転をするほれぼれとするような高いスキルを持った専門ドライバーが多いことは事実です。彼らは、経験は当然として、トレーニングにトレーニングを積み、試験に集中する高い専門スキルを持っており、その運転、試験技量には強い誇りを持っています。

アメリカでも昨年、EPAの燃費試験担当官が、このようなメーカードライバーが出す試験燃費がよく出過ぎると嘆いている記事があり、このブログでも取り上げました
http://www.autonews.com/article/20131004/OEM11/131009914/epa-says-automakers-test-drivers-can-be-too-good#axzz2rBe0LDYR

ただしこの記事も不正・偽装を非難している訳ではありません。厳密に決められている試験に沿って、さらにその狭い定められた車速バンドの中でスムースな運転をすることにより良い燃費値を出す、メーカーの専門ドライバーのスキルに驚嘆させられたとの話です。

アメリカでもEPAのラボで抜き取り試験が行われ、その試験結果も公式値として使われます。EPAラボに持ち込まれないことが決まると、エンジニアとしてまずほっとするというのが正直な所で、さらに持ち込みが決まった場合も、デトロイト郊外のアナーバーにあるEPAラボで試験を受けますが、何基かあるどのシャシーダイナモで試験されるのか、担当ドライバーは誰になるのかで一喜一憂したものでした。

経験者として正直にお伝えしますが、割り当てられたドライバーやシャシー台によって結果は確かに異なります。ただし一方で毎年、自動車メーカーが燃費チェック用のクルマを供出して、EPAのシャシーダイナモ・分析計での燃費チェックを行い、各社持ち回りで自分達が公式燃費試験を行うシャシーダイナモ・分析計での燃費値との差をみて調整するというクロスチェックを行い、その精度管理に最新の注意を払っていました。

燃費を「事前に」完璧に測定する事は不可能

こうした厳密に定められた試験法の中ですら、燃費値に違いが出るわけですから、様々な走行条件、環境条件で使われるユーザー燃費に大きな差があることは当たり前です。この記事にあるe-燃費もあくまでもユーザーが報告した平均燃費です。この報告値にも大きなばらつきがあり、燃費チャンピオンのデータと最低燃費のデータには2倍以上の差が出るケースもあります。

ユーザー燃費の観点では大きな違いを見せるのが北米のユーザー燃費で、冬には零下20℃を下回るウイスコンシンやミシガン北部の冬のユーザー燃費とアリゾナ、ハワイのユーザー燃費には当然ですが大きな差が出ます。さらに夏の路上では50℃を超えるネバダやアリゾナと、サンフランシスコ付近のベイエリアでの夏の燃費にも違いがあります。

日本も北海道・沖縄でのユーザー燃費値には大きな差があるのは当然です。さらに、アップダウンの多い地区での運転と、平坦な地区で主に使うケースでも大きな差があり、これに加えてもちろんクルマの走らせ方、タイヤの空気圧、荷物の重量、乗車人数、さらに加速の仕方によっても実走行燃費は様々です。

このブログでもユーザーの燃費をあくまで平均燃費で論じているのも、この燃費の大きなばらつきがあるためです。この大きくばらつくユーザー燃費の平均値を「事前に」どのクルマでも公平に算出する試験法を作りだすことは、科学技術的にも不可能だと思います。

そのユーザー平均燃費に近いと言われる米国EPAの公式燃費は、排ガスのクリーン度が公式試験値よりも厳しい走行で大きく悪化しないことをチェックする急加速・高速モード走行など、もともとは排ガスチェック用に作られたそれまで公式燃費モード以外のオフモードと呼ぶさまざまな限界モードの燃費値を洗いざらい使って補正すると燃費値を低めに補正することができることからこの補正を行っています。

この補正は科学的な根拠があって決めたものではありません。従来ある様々な排気ガスチェックモードの値を使って、無理やり燃費値が悪くなるような補正を行ってユーザー燃費値に近づけていると言ったほうが当たっていると思います。

この記事に書かれている、国連が進めているこの自動車排ガス、燃費試験の国際基準調和、統一試験法作成作業も、その目標をユーザー平均燃費に近づける為に行っているものではありえません。もちろん、日本だけではなく、欧州、米国、アジアと各地域での走行環境調査を行い、その走行実態に合わせた走行パターンとなっていますが、夏、冬、登降坂、カーブなどまで加味したものではありません。

図は米国EPAの燃費サイトにのっていたプリウスとフォード・フュージョンハイブリッドの公式燃費とEPAがアンケート調査しているユーザー燃費データを比較したものです。

図1

カタログ燃費に反映されない低燃費技術もある

私にとって低燃費技術の開発の目標は、環境条件、季節、地域、走行パターン、加減速度などによってさまざまに変わるユーザーに対して改善した実走行燃費を提供する事でした。少なくとも自分は、決してカタログ燃費に特化しての低燃費車は目指してこなかったと胸を張って断言できます。

夏のエアコン運転でもエンジン停止をすること、モーター走行頻度を高めるための電動エアコンの採用、車両の断熱、シートヒーター、三代目プリウスで採用したヒーター用エンジン冷却水の排熱回収器などは、どれもカタログ燃費には反映されないユーザー燃費向上のための技術です。

カタログ燃費と言われるように、どの国どの地域でも公式試験にのっとった試験法で求められた燃費値が公式燃費とされ、この公式燃費のみが正式にクルマの広報・宣伝・販売活動として使用できます。

確かにいかにこのカタログ燃費を高めることができるかを激しい競争を行ってきていることも事実です。しかし、その一方で、各メーカーともユーザー実走行燃費改善にも努力をしています。

最近のニュース等でも紹介されている、エコラン運転中でもエアコンを効かせる蓄冷方式のエアコンなどもその一例です。この部分では、日本の自動車メーカー、部品メーカーが欧米メーカー以上に知恵をだし、新技術を提案しています。これらの努力は燃費値では貢献できないかもしれませんが、最終的にユーザー平均燃費にその実際の効果が問われることになります。

販売後のユーザー燃費の収集・解析は可能

現在、日本、欧州そして米国と自動車による石油燃料消費総量が減少に向かっています。ハイブリッドだけとは言いませんが、着実に低燃費車が普及していることの表れです。

この記事の内容は問題ですが、そろそろカタログ燃費とユーザー平均燃費とのギャップ問題に決着をつける時期に来ているのは確かでしょう。ただし、公式試験をどのようにいじろうが、ギャップ問題は発生します。上に挙げた図のように使い方、走り方によって燃費は大きくばらつきます。さらに、今のkm/Lの表記では、さらに低燃費車になればなるほど燃費値の乖離は大きくなってしまいます。

一つの公式試験モード、条件でユーザー平均燃費を近似することは無理があります。あくまでも燃費比較の尺度として国際基準調和の新試験法を使い、そのあとは実際のユーザー燃費値を集めたビッグデータとしての解析を加え、その結果をEPAのように公表していく方向が一つの方向と思います。

また今のクルマでは、エンジン制御からも正確な燃費計測を行っています。初代プリウスを出した際には珍しかった燃費表示はあたりまえの機能となりました。さらにクルマごとに、燃費と様々な走行データ、走行パターン、トリップ解析を車両コンピューターで行うことも難しくはありません。

個々のクルマ、ユーザーごとの燃費診断もやろうとすればやれます。ナビ装着もあたりまえの世の中ですので、GPSデータ付でそのデータを外部に送り解析することは、ITS、スマホ普及を考えるとそれほど先の話ではありません。

ユーザーごとの燃費診断から、クルマの故障把握もできるはずです。排気のクリーン度、燃費を悪化させる故障、整備不良を減らすだけでも環境保全への効果は大きいと思います。

燃費が大切で低CO2を目指すのは社会的要請ではありますが、個人的には低燃費運転だけを推奨するつもりはありません。時には気分よく、思い切った加速をやってみてみたくなるクルマを作るのも我々の役割で、その一回の加速で実燃費がどれくらい悪化するかの見える化も実燃費向上につながるのではと思っています。

私自身も、燃費悪化は判っているものの、ときには思い切った加速、カーブの多い山道でコーナリング減速からのラインに沿った加速などを楽しんでいます。

決まったようで決まらない欧州の自動車CO2規制

欧州不況が長引いています。自動車販売も絶不調で、6月は少し持ち直したものの昨年比4.7%減、今年の上半期では8.1%減と自動車メーカーの工場閉鎖、人員整理、経営危機が話題となっています。この不況に晒されて背に腹はかえられないのか、既に決まったはずの2020年欧州自動車CO2規制がすったもんだしています。

EU委員会の政策立案レベルではほぼ決まり、ということは欧州自工会ACEAや各自動車メーカーとの交渉も終了し渋々でも合意したはずの案ですが、各国政府の合意による委員会決定を通過した後で、本来はまもなく行われる予定だった最終的な本会議での議決が延期されているという状況になっています。

単純には比較できない各国の規制

欧州は燃費ではなくCO2の排出量で規制値が定められており、現在決まっている規制値は2015年にメーカー毎に販売した新車の総平均CO2 (欧州公式認定試験NEDCのCO2値)を130g_ CO2 /km以下とすると定めています。この数値は燃費換算すると17.8km/Lになります。もし平均値がこの規制値を超えた場合には、台あたりいくらと規定されているペナルティ(罰金)が科せられる厳しい内容です。次の規制強化案が2020年に95g_ CO2 /km、ガソリン換算値として24.3㎞/Lにしようとの提案でほぼ決まっていました。

燃費規制値比較

ちなみに最近公表された日本の2020年燃費基準は小型自動車の平均燃費として20.3km/L(JC08)となっています。図1はアメリカ・オバマ政権が提案している2025年までのCAFE規制値の推移にこの欧州、日本、中国の2015年、2020年の燃費基準値、燃費規制値を㎞/L換算してプロットしたものです。このブログでも以前も紹介しましたが、この燃費数値だけを比較して、どの国が厳しい規制値かどうかを判定することはできません。この数値を出す、公式試験法それぞれ走行パターンもその条件も違うからです。

プリウス公式燃費

表1にこれも以前のブログで紹介したプリウスの、日本、米国、欧州の公式燃費値の比較を示します。これも厳密に言うと、それぞれの仕向け先で仕様が違いますので、まったく同じクルマでの比較ではありませんが、ほぼ同等のクルマの公式燃費比較として見ていただきたいと思います。アメリカCAFEは乗用車と軽トラック(Light Duty Truck)の二本立ての規制で、さらにその合算コンビネーション燃費値が規制値として定められています。

なお、米国の軽トラックとは、日本の軽トラックを思い浮かべると大きな間違いです。日本でも輸入車を時々見かけますが、いわゆるBig3のV8、V6エンジン搭載のフルサイズトラックや大型SUVを含むカテゴリーです。またアメリカの公式燃費にはCAFE計算用の燃費値と広告宣伝に使うことが義務付けられているラベル燃費の二つがあり、全く違う燃費値になっていることにも規制値比較を行うときには注意を払う必要があります。

今日の話題の欧州の2020年規制値95g_ CO2/kmについてですが、低燃費車に採用している低燃費技術にも走行パターンによる得意・不得意がありますので、厳密には燃費値だけの単純比較での厳しさ判定はできませんが、今回はプリウスの燃費値比較から厳しさを考えてみたいと思います。

日本のJC08で32.6㎞/Lのプリウスは、欧州NEDCモードのCO2で89g_ CO2/km、燃費値として26.0㎞/Lとなっています。ちなみにアメリカのCAFE基準では30.1㎞/L、ユーザー燃費平均に近づける補正をおこなったラベル燃費では21.3㎞/Lと、同じクルマでも燃費値は大きく違います。このプリウスならばなんとか2020年欧州CO2規制値をクリアしています。

前置きが長くなってしまいましたが、欧州CO2の公式燃費モードNEDCでのCO2値95g_ CO2、24.3㎞/lは、もちろん日本のJC08モードでの20.3km/Lよりもはるかに厳しく、米国の2025年CAFEのコンビ規制値よりも厳しい水準ではないかと推測しています。

規制案反対をするドイツ

欧州連合(EU)は発足当時からエネルギー・環境政策を重要政策として位置づけ、世界でこのエネルギー・環境政策をリードすることで経済発展に結び付けようとしてきています。

ドイツはその中でもエネルギー・環境を最重点政策とおき、メルケル政権も3.11福島原発後いちはやく脱原発を掲げ、太陽光・風力といったリニューアブル電力にも力を入れてきました。

ですがどうも今回の2020年CO2規制の最終決定を渋っているのはその環境先進国ドイツとのニュースが流れています。今の経済不況下で雇用にも大きく影響を及ぼす規制強化の導入は避けるべきというのが論拠のようですが、その裏にはグローバル化が進んだ中で欧州不況下でも経営状況がまだ安定しているドイツ高級車メーカー救済の思惑が透けて見えるように思います。

雇用に直結する経営的な苦しさであればフランス・イタリア勢のほうがより苦しいはずで、またドイツ勢のなかでもGM傘下オペル、欧州フォードなども苦しんでいます。しかしながら、今回の新規制案には、フランス・イタリア勢やフォードなどは積極賛成を表明しています。これはドイツの、特に高級車メーカーはサイズの大きなを中心としており、平均燃費での規制では苦しく、フランス・イタリア勢は小型車を主力としており平均燃費では優位性があることが背景にあります。

またこれには、今の電気自動車情勢も影を落としているように感じています。ドイツは、2009年頃から国策として電気自動車推進政策を掲げ、次世代電池開発、電気駆動技術開発にも力をいれ、産官学プロジェクトにもさまざまな資金投入がされてきました。2020年までにはこの電気自動車普及が進み、米国カリフォルニア州ZEV規制のような電気自動車に有利なクレジットを与えると、なんとかこうした高級車メーカーも規制対応もできるとのシナリオが作られていたように思います。

しかし、その後の量産販売された電気自動車の商品力、売れ行き、充電インフラの整備状況から、2020年時点の電気自動車普及率は当初予定からは大きく下方修正をせざるを得ず、その時点でのクレジット程度では達成が悲観的となり、その結果として規制決定引き延ばしているとされています。

アウトバーンと高級車を維持しようする環境先進国

日本の中では、ドイツが環境先進国、模範国として取り上げる向きもありますが、私は巧いイメージ戦略のたまものあり、実態としては模範国であるとは思っていません。地域レベルや国民の全体の意識として、リサイクル、リユース、公共交通機関の整備、交通弱者にやさしい街づくりなど、見習うべきところが多いと思いますが、自動車分野・電力分野ではそれほど環境対応に進んではおらず、これを巧妙に使い分けているように思います。

特に自動車に関連した部分でもっともそれを象徴するのが、速度無制限のアウトバーンの維持です。もちろん、自動車屋としてアウトバーン走行は今も魅力的で、この交通環境で通用するクルマ作りがわれわれのターゲットでもありました。自分のクルマで、結構な距離を短時間でストレス少なく安全に移動することはクルマの目指してきたところです。

その性能を発揮できる道路環境は非常に魅力的ですが、平均速度が高くなればなるほど燃料消費が急激に増加することは当然です。速度無制限といってもすべてのクルマが200㎞/h越えで走っているわけではありませんが、フランスやベルギーといった近隣国が高速道路で120ないし130㎞/hの法定速度制限を決め、厳しい取り締まりを行っているのに対し、アウトバーンの流れがはるかに速いことは事実で、ドイツでも上限速度130㎞/hを推奨しているといっても、150㎞/h以上の流れは普通です。

私も運転していた後ろから200㎞/h越えで迫ってくる高級車、高級スポーツカーにヒヤッとさせられることもしばしばありました。燃料消費削減との点でいえば、まずは最高速制限の強化と取り締まり強化が効果的ですが、これに手を付けずエコ重視というのはある種の矛盾です。

勿論、自動車文化発祥国であり、自動車技術牽引国とて、また自動車移動にとって快適な環境を手放したくないとの思いは自動車屋としてよくわかりますが、やはりダブルスタンダードの謗りは免れないと思います。

脱線しますが、そのような道路環境、自動車社会で、今の電気自動車が街乗りのスクーターやコミュータ限定にならざるを得ないのは当然で、各地の実証試験やそこに提供されるクルマの性能からその手のクルマは今使われているクルマとは別のジャンルのクルマであることがはっきりしてきたこともこの動きにつながっているように思います。

日本の規制はぬるま湯

また95g_ CO2 /㎞規制の厳しさに話を戻しますが、プリウス、アクアクラスのハイブリッドならこの規制を今のクルマでクリアしています。最近発売されたアコードハイブリッドでもう一息で、今日発表された新型フィットハイブリッドなら十分にクリアするレベルです。

欧州勢でも小型ディーゼル車なら95g_ CO2には燃費チャンピオンの特別バージョンでなくとも届くレベルです。V10、V8、V6エンジン搭載の高級車、高級スポーツにとっては、ディーゼル、ガソリンとも極めて厳しく、何らかの電動化、ハイブリッド化が不可欠です。
さらに、欧州でも多い馬やボート、トレラーハウスをけん引することも多いSUV、ハイブリッドといえどV8、V6エンジン搭載のレクサスなど日本の上級車もCO2の低い小型車の合算でのCAFEといえども、足を引っ張らないようにハイブリッド燃費の今以上の向上も必要になってくると思います。

この欧州規制に比べると日本はまだまだぬるま湯で、2015年基準のJC08 17.8km/Lはすでに昨年新車販売の総平均でクリア、2020年基準のJC08 20.3km/ Lもプリウス32.6、アクア35.4、アコードHV 30.0、新型フィットHV 36.0と言っている状況では簡単に達成できるのではないでしょうか? 

日本にはフルサイズピックアップはありませんが、大型SUV、大型ミニバン(アメリカのミニバンに比べればかわいいものですが)がありますが、これの合算CAFE燃費基準といえでもそれほど厳しいものではありません。現役時代も、日本の燃費基準も排気規制値もほとんど頭には入っていませんでした。

米国、欧州基準を目標に開発をすすめれば、技術的には日本対応はほとんど問題がないのがあたりまえの印象でした。あるところからトップランナー方式と言い出しましたが、まだまだ護送船団方式の色彩が色濃く残っています。試験法もしかり、欧米のような法規制、罰金方式にならう必要はありませんが、インセンティブ、税制優遇&ペナルティーなど低燃費技術を国内マーケットで競い合うことも、世界をリードする低燃費自動車開発には必要ではないかと思います。高級車でも欧州規制をパスできる低燃費車を提案できれば、新興国でも伸びている世界の高級車マーケットでの競争力、ブランドイメージを高めることができ、さらに低燃費車普及を加速させる必要がある新興国でのハイブリッドプレゼンスを高めることができるのではと思っています。

日本発進の低燃費技術、ハイブリッド応援団のつぶやきです。

現代・起亜のアメリカ連邦ステッカー燃費詐称問題

燃費表示は新しい課題となってきた

今、アメリカで現代・起亜のクルマの連邦ステッカー燃費詐称問題が大きな騒ぎとなっています。この燃費詐称の勧告を行った部署が連邦環境保護局(通称EPA)で、排ガスクリーン度のコンプライアンス、公式カタログ燃費をメーカーの提出データ、公式認定試験結果により認定書を交付する責任官庁になります。

このブログでも以前、「低燃費のゆくえ」として、アメリカと欧州で、将来の厳しい燃費・CO2規制強化を求めるオバマ政権、EU委員会の決定についてとりあげました。
そこでは、アメリカ、欧州、日本での公式燃費試験法の違い、アメリカでは燃費規制で使われる燃費値とカタログ燃費としてクルマの販売で使わなければいけないステッカー燃費との違いについても解説しました。

地球温暖化、石油価格の暴騰から自動車の燃費性能、CO2排出性能がクルマを購入されるユーザーにとっての重要な選択基準となり、そのカタログ燃費値競争が世界中で激化してきています。今回の詐称問題は、その中で起こった問題です。カタログ燃費は、各国、各地域(EU圏)で定められた走行モード、計測方式、算定方式で計測され、その同じ土俵でフェアに試験し、算定した燃費値です。

もともとは、こうした燃費値は基本的にはユーザーが実際に走行したときの平均燃費値を示すものではなく、同じ物差しで車種ごとの燃費性能を比較し、空気環境の保全等を目的とした政策や法令に使用するためのものでした。こういった時代では、カタログ燃費とユーザー燃費のギャップは問題にはなりませんでした。しかし各国の中で、アメリカのカタログ燃費算定方式が、ユーザーの実走行燃費平均に近づけようと改訂したことにより、生じてきたのが今回のような問題です。

日本、欧州での公式燃費(カタログ燃費)は、決められた走行モード、計測方式、算定方式にのっとって行われ、基本的には認可官庁ラボ、もしくは公認ラボでの試験値が使われ、また社内申請値との相関チェックも厳しく行われています。

複雑化したためにEPAが全てをチェックすることは不可能に

アメリカの場合には、これまでカタログ燃費としてEPAが認定し公表し、販売店の展示車のフロントガラス(ウィンドーシールド)にその燃費値表示のステッカーを添付することが義務付けられていたことからステッカー燃費と呼ばれていましたが、これがユーザーの実走行燃費とのギャップが大きいことが問題になり、認定官庁のEPAが一般ユーザーから訴えられ、ステッカー燃費算定方式をユーザー実走行平均燃費に近づける方向で2008年に改訂を行いました。

今回の問題は、この新しいステッカー燃費と現代・起亜の対象車を購入されたユーザーが実際に走って得られた燃費値に大きなギャップがあるとEPAに申し出たことに端を発しています。以前のブログでも紹介しましたが、EPAはユーザー実走行燃費のアンケート調査、当時排気クリーン度と燃費評価として使っていた様々な走行モード燃費を用いた燃費修正方式を検討し、2008年にステッカー燃費算出方式とその表記方式の改訂を行いました。

この改訂は、ユーザーが実際に走行したときの平均燃費にいかに近づけるかが狙いで、ユーザーからクレームが出ないように、燃費を意識しないで走った場合のやや悪目の燃費値がでるように根拠もなく無理矢理つくりあげた修正方式との印象を持っていました。

しかし、以外や以外、同じクルマならアメリカも日本もユーザー実走行燃費アンケートの平均値はほぼ一致しており、それよりも少し悪目ながら非常に近い値に収まっています。この算出方式の詳しい説明は省きますが、排気クリーン度と燃費評価に使っていたアメリカのシティーモードとハイウェーモードに加え、零度以下での一酸化炭素排出レベルをチェックする低温COモード、ハイパワー車によるアグレッシブな急加減速運転の排気チェックモード、さらに夏のエアコン運転時の排気チェックモードを加え得た5つの試験結果から算定する方式です。

従来の算定方式ならば、シティーモードとハイウェーモードの2つだけですし、EPAが社内公式試験の試験手順、試験車の管理など、厳しい管理と規定遵守を求め、さらに認可試験のための排気ガス・燃費測定車をデトロイトの近くにあるEPA試験ラボに持ち込み抜き取りチェックを行い、社内申請値、EPA公式試験の両方を使い、排ガス合否判定、カタログ燃費値算定を行っていましたので、今回のような問題を起こすことはありませんでした。

今回はEPAが韓国の現代・起亜の社内排ガス・燃費試験ラボに立ち入り検査を行い、ステッカー燃費算定に使っていた社内公式試験燃費値が実際にはそこまでの値がでず、ギャップの原因になっていたことを会社が認め、EPAがこれを公表しました。11月7日付けのThe Wall Street Journal紙によると、米オハイオ州の住人3人が、米連邦裁判所に提訴し、集団訴訟としての扱いを求めているこの案件に対し、EPAは両社の13のモデルに燃費性能の不当表示があったとの見方を示したと報じています。両社は、社内燃費のテスト方法に誤りがあったことをみつけたとして、EPAの指摘を認め、ユーザーに対し燃費ギャップ分の燃費代を返却すると発表しています。WSJの記事による、両社の説明としては、「社内公式燃費に採用した試験の手続き上のミスが原因とし、EPAがすべての車種をテストするわけではなく、自動車メーカーに作業の多くを任せている」と伝えています。

私の経験から、試験の手続き上のミスとはとても考えられません。この記事のように、公式のカタログ燃費、通称ステッカー燃費算出として使われる5モード燃費データの大部分は社内公式試験データが使われることは確かです。2008年の改訂後では、基準となるシティーモードとハイウェーモード以外の試験モードデータは、特別な試験設備も必要で、準備時間を含めると試験時間も多くかかるため、そのほとんどが社内公式データそのままが使われ、EPAラボでのチェックは行われず、勘ぐればそれを見越して残り3つの試験データに実際に規定されている試験法、算定法では出ない燃費値を申告していたのではと思います。この推測どうおりとすると、この値をコマーシャルの宣伝にも使っていたことはFairnessから大きく外れていることは明らかでしょう。

アメリカでビジネスを行うのに必要なFairness

これまでのブログでも述べてきたように、われわれ日本勢も1970年代の大気浄化法マスキーの時代から、このアメリカにクルマを輸出し販売を行うためにはこのEPAの排ガスチェックを受け、公式認可を得ることが不可欠であり、この経験で多くのことを学びました。

その中でもの最重要として日本勢が定着させてきた考えが、公平性(Fairness)と実市場(Real World)です。アメリカで排気クリーン度の認可をもらう試験法で、厳しく問われるのはFairnessです。その試験モードを走っているときだけに作動し、その他のReal Worldでは作動しない排気クリーン装置とその制御は、規制逃れのunfairなやり方としてdefeat device(…無効にする装置)と呼び、それを使っていないことの誓約をさせられます。

これが徹底されるうえ、さらにEPAからクルマの持ち込み要求があり、EPAラボでのダブルチェックも受けることになります。EPAラボでの試験要求がないケースをWaive (要求の見送り)と呼び、こうなる正直なところホットしました。Fairにやっても、もし万が一EPAラボでの試験で規制値を満たさないデータがでると、生産開始も当然ながら販売開始もすることができなくなり、会社としては大きなダメージを受けてしまいます。幸いにも私自身は、自分の担当でそのような羽目に陥ったことはありませんでした。なんと言ってもFair & その法規性の目的であるReal Worldが問われると諸先輩からも叩きこまれました。

欧米自動車の背中を見ながら、日本勢が1970年代から、韓国勢が1980年代後半から欧米マーケットに進出し、その販売拡大を図ってきました。次世代自動車こそ、こんどは我々アジア勢が自動車の進化に貢献していくことが求められています。その基本がやはりFairnessとReal World、同じFairな土俵での厳しい競争を行い、その上でエネルギー、環境保全の効果を高める普及のための貢献活動では、是非協調路線で進めて行って欲しいと思います。

低燃費自動車のゆくえ

先月28日、オバマ政権は昨年11月に提案されていた自動車新燃費規制に、CNG車やEV車販売に対する追加クレジット付加などの修正を加え、2025年までに乗用車のメーカー別新車販売平均燃費値として、現行の35.5マイル/ガロン(15.1km/リットルから54.5マイル/ガロン(23.2 km/リットル)達成を義務づける燃費規制法案の実施を発表しました。

また欧州でも7月11日に欧州委員会の原案として2020年までに欧州市場で販売する全ての乗用車やSUVやミニバンなど軽商用車から排出される台当たりの平均CO2排出量を、現行の2015年規制130g/km(ガソリン燃費換算で約17.8km/リットル)から95g/km(ガソリン燃費換算で約24.3km/リットル)への強化案を発表しました。

いよいよ低燃費&低カーボン自動車へのシフトが待ったなしになってきています。今日のブログでは、「低燃費自動車のゆくえ」とのタイトルで、従来エンジン車からハイブリッド車までの低燃費化のアプローチについて私見を述べてみたいと思います。

数値そのままでは比較できない

以前のブログでも書きましたが、各国、各地域の燃費規制値の比較をするにしても、そのままアメリカのマイル/ガロン値や欧州のCO2換算でCO2_g/km値、日本のkm/リットル値を同じkm/リットル値に換算にて比較しているレポートを見かけますが、これは全く意味がありません。燃費値を求める試験法、その走行モード、算定方式が国毎、地域ごとに異なるからです。

一昔前の排気規制値の比較でも、排気ガス成分中の一酸化炭素(CO)、未燃炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)の規制値をg/kmに換算し、日本の規制値が一番厳しいとの言っていた時期もありましたが、日本の規制方式はエンジンの暖機運転をしたあとで10-15モードを走らせ排気ガス成分を分析する方式で、アメリカの1昼夜駐車した後でエンジンも排気触媒も冷えた状態からスタートさせ、大きい加速度と高い最高速度で算定されるアメリカの規制と比較すれば数値は低くとも、技術的には遙かに緩い規制でした。

燃費もこれと同じで、試験法、走行モード、算出法の全く違うものを単純比較はできません。またアメリカの中だけでも、CAFÉ燃費規制で扱われる燃費値と公式認証燃費値を決める連邦環境保護庁(EPA)から公表され、販売店での展示車フロントガラスに添付することが義務づけられているラベル燃費/ステッカー燃費と言われる燃費値とは、同じマイル/ガロンで表しますがまったく違う算出方式ですのでこれを混同すると厳しさの判断が大きく狂ってしまいます。

表1_プリウス燃費比較

表1は、同じプリウスの日米欧における公式燃費の比較です。日本、アメリカ、欧州向けの仕様で、車両重量、タイヤ諸元など微妙に異なりますが、ほぼ同じ標準仕様車の公式燃費値でも日本、アメリカ、欧州で大きく異なることがお解りいただけると思います。

いずれの公式燃費も、実験室に設置したシャシーローラにクルマを載せ、そのクルマを平坦路で走行させたときと同じような走行負荷が掛かるようにローラー軸に付けられている動力計でクルマの走行抵抗を調整し、規定走行モード(パターン)を走らせ排ガス性能と燃費性能を測定します。アメリカのコンビ燃費は、アメリカ都市内走行を想定したシティーモードと、ハイウエー走行を想定するハイウエーモードを走行し、シティー走行燃費のウエートを55%、ハイウエー走行燃費のウエートを45%として算定した燃費値をコンビ燃費と呼び、これをCAFÉ規制の算定基準燃費としています。

紆余曲折のアメリカ燃費基準

少し脱線しますが、このシティー走行モード(走行パターン)は自動車の排気ガスによる大気汚染が問題になった1970年代の初めに、その排気ガスのクリーン度をシャシーローラ上で評価する走行パターンとして作られました。

ロスの地方道4号線を走っているクルマの走行パターンを調査し、その代表的な走行モードを抽出して定められたことからLAナンバー4、LA#4モードと呼ばれています。当時のシャシーローラでは当時のクルマでもその抽出したモードを走らせるとタイヤスリップを起こしてしまうので、今も使われているこのLA#4 モードでは、実際の調査モードからスリップが起こらないように加速度、減速度を緩めた走行モードとなっています。

一方、ハイウエーモードは石油ショックの影響から輸入石油消費の削減を目的に導入したCAFÉ規制の燃費値をも求めるために提案された走行モードで、石油ショック後にこれも燃料消費削減を目的に実施されたハイウエーの最高速度制限を厳しくした時に設定され、当然ながら遵法運転を行った場合の走行モードですので最高速度は現在の実際の流れ寄るも低速になっています。

またどちらのモードも大気温度75°F(約24℃)と春、夏のヒーター作動もなく、エアコン負荷も小さな大気条件での試験で、いずれも今のリアルの走行燃費よりかなり燃費の良い結果がえられます。シティーモードでは一晩駐車したあとのクルマ、エンジン、触媒なども大気温に近い状態からのエンジン起動(冷間始動条件)となっています。CAFÉ規制は従来から、このコンビ燃費を使っており、オバマ政権の提案するCAFÉ強化提案も、この基準燃費での規制です。

それでも、日本の10-15モード、JC08モード走行での走行燃費よりは低い値となります。ちなみに、EPAラベル燃費は、1980年代にこうして算定したCAFÉ燃費を公式燃費としたところ、この公式燃費が実際のユーザー燃費と大きく異なることからEPAが訴えられ、シティー、ハイウエーそれぞれの燃費値に概略の修正係数をかけ、ラベル燃費として公表するようになった経緯があります。

さらに近年になり、インサイト、プリウスが発売され、ハイブリッド車のような低燃費車のラベル燃費では、これまでの係数をかけてもユーザー平均燃費とのギャップが大きくなっているとのユーザーの訴えから、EPAはユーザー平均燃費に近づくようにラベル燃費算定基準を変更しました。

これはかなり複雑な算定方式で、シティーモードやハイウエーモード以外に排気のクリーン度評価に使っている、大気温-7℃での低温COエミッション試験、US06、SC03モードと呼ぶ大気温が高くエアコン負荷の大きな運転モードや、急加減速運転の排気性能評価のモードの燃費測定結果の全てを加味し、悪目、悪目に燃費値が算定されるように調整した算出方式です。

正直言うと、アメリカ方式では、開発段階、認証試験、認定試験段階で、車両スペックごとに試験車両を備える必要があり、また試験の数、回数、その設備もばかにならず、開発エンジニアにとっても、会社にとっても費用、時間、要員数で負担の大きなやりかたです。このような複雑な試験法はあまり歓迎できませんが、日本もそろそろリアルワールドをもう少し意識する時期になっているように思います。

プリウスは既に将来の規制をクリアしている

脱線が長くなりましたが、フルハイブリッドのプリウス燃費ならば、2025年のアメリカCAFÉ規制強化、2020年の欧州95g_CO2規制をパスするレベルを現在でも達成しています。さらに、昨年新モデルを発売開始したカムリハイブリッドのCAFÉ基準コンビ燃費が標準車で58.7mpg(24.9km/リットル)プリウスC(日本名アクア)は71.8mpg(30.5km/リットル)となり、トヨタ車の販売車種総平均燃費としてカムリハイブリッドレベルで規制値を満足できることになります。
また欧州CO2規制ではすでに2015年基準メーカー平均130g_CO2/kmをトヨタは他社に先駆けてトップでクリアしており、2020年95g_CO2/kmもフルハイブリッドを増やしていけば遅れをとることはないと思います。

米国、欧州の今回の燃費規制/CO2規制強化の提案は、電気自動車や天然ガス自動車のクレジットもありますが、なんらかのハイブリッド化が不可欠なレベルの燃費規制で、日本の経済誌で取り上げられた日本のハイブリッド「ガラカー論」は外れとなりそうです。

カタログ燃費だけ追ってはいけない

カタログに表現できる燃費は公式燃費値だけですので、それぞれの国、地域での評価モードで良い公式燃費がでるように、各社競いあっていることは事実ですが、燃費規制の目的はあくまでもグローバル、リアルでの石油消費削減であり、CO2排出の削減です。

確かに初代プリウスの開発で燃費2倍の目標はまず日本の10-15モードでの目標でしたが、当時からリアルの燃費向上が常に意識の中にありました。梅雨時、夏のエアコン運転からくるエンジン起動を冷気蓄熱を使い少なくする工夫、冬のヒーター要求からのエンジン起動もできるだけ低水温から温風を吹き出させる工夫、10-15モードの回生発電なら全く不必要なエネルギー容量を確保するハイブリッド電池、さらにエンジン停止走行時間を増やすためのエアコンコンプレッサーの電動化、冷却水の蓄熱、排気熱でのヒーター用冷却水熱回収などなど、ここまでの燃費向上では常にリアルでの燃費向上をめざした取り組みでした。

もちろん、日本の10-15モード、JC08モード、アメリカ-シティーモード、欧州EUモードのように都市内走行シミュレートの発進停止の繰り返し走行、平均車速がそれほど高くない走行モードでは停車中および低車速走行時のエンジン停止、EV走行、大きなエネルギー容量の電池と大出力モータを持つフルハイブリッドの最も得意とする走行モードですから、この走行モードで燃費を大きく向上させていることは事実です。

高効率エンジンの採用とその燃費効率最適ポイントでの運転がもう一つの重要な燃費向上の基本メニューです。これに加え、最近話題の小排気量(ダウンサイジング)過給も低燃費の定番メニュー、1990年代クリーンエンジン開発担当時のテーマの一つも小排気量過給でした。

過給が効きブーストトルクが発生するまでの応答遅れを改善するため、セラミックターボ、チタン製のコンプレッサーブレードのトライ、さらに機械式過給器までトライしていました。エンジンの高効率を追求し、トルク/出力性能をトレードにかけたアトキンソンエンジンを使い、電池出力アシストをおこなうプリウスハイブリッドの考え方も、小排気量過給と基本は共通です。燃費最適運転と電気過給ならぬ電気アシストがそのコンセプトです。

細かいアプローチは違えども低燃費化への基本思想は同じ

この低燃費化への基本的アプローチは、従来エンジン車(通称コンベ車)でも同じです。まず車両の軽量化、空力改善、さらにタイヤ転がり抵抗や動力伝達系の引き摺りによる損失低減が車両全体として基本部分です。低燃費メニューをどのように取り入れるかで違いがでてきます。エネルギー容量の大きな重いハイブリッド電池を搭載し、二つの大出力モータ/発電機を持つことにより重量増を招くハイブリッド車のハンデを減らすハイブリッド部品軽量化の取り組みも継続して行われ大きな成果を収めてきました。

最近何台かの欧州低燃費車に乗る機会がありました。ダウンサイジング過給、7段デュアルクラッチシーケンシャルギアボックス(DSG)、さらにエコランと定番のメニューで低燃費を目指したクルマです。このクルマに搭載している7段デュアルクラッチシーケンシャルギアボックスの作動は、またにエンジン燃費最適運転へのシミュレート、多段化は欧州勢が好むMTベースのダイレクト変速というよりも、多段化により低燃費エンジンポイントでの運転頻度を高める手段、言い換えるとCVT運転に近づけるための多段化と感じました。

クルージングに入るとすぐにアップシフト、アップシフトさせ日本の高速道路巡行までではでききる限りエンジン回転数を抑えた低燃費ポイントに抑えています。ダウンサイジング過給も低容量型のターボを使い、低速から過給が効くようなセッティングですが、やはりガソリンターボはガソリンターボ、ブーストトルクがでてくるまでのタイムラグ、それと加速時にはダウンシフトと入り交じったビジー感は免れませんでした。

またエコランでは、残暑が厳しい9月の東京での走行ではほとんどエアコン運転からの要求からほとんどエコラン運転にはならず、モード燃費対策と言われてもしかたがない状況です。この状況は、初代プリウスで梅雨どきの除湿、夏の冷房要求からのエアコン運転でエコラン、EV走行ができなくなってしまう悩みと一致していました。リアルの燃費向上を目指していくと、結局同じ方向、エンジン停止中のエアコン作動には少し容量アップした電池、それを充電するためにはベルト駆動の発電機では物足りなくなり回生発電量の大きくとれる発電機、エンジン停止走行域拡大には、少し車速のあるところからエンジン停止をし、との途中からの再加速要求にはエンジンの急速起動ができる高出力スターター、さらに少しクリープ走行ができるモータが欲しくなるなど、どんどんハイブリッドメニューが多くなってくるように感じます。

さらに、リアルでの低燃費を追求していくとなれば、ハイブリッド化はさらに進むと思います。この多段デュアルクラッチシーケンシャルギアボックスで、パワーアシスト&回生用のそれなりのモータをつけたハイブリッドならば、クリープ、電池アシスト、回生と、今指摘した欠点の多くは改善できるのかもしれません。私もかねてより、こうしたシステムを搭載したクルマが、トヨタTHSの有力なライバルの一つとなるのでは注目していましたが、いよいよ登場しそうでそのポテンシャルに注目しています。

クルマとしての魅力を備えた次世代車を

もちろん、トヨタTHSが究極のハイブリッドと言うつもりはありません。さまざまな欠点があり、欧州の多段DSGとの対比で言われるCVT感、エンジン回転が勝手に吹き上がりダイレクト感のなさ、その割に高速燃費向上が今ひとつなど指摘されています。その指摘は当たらずと言えど遠からず、CVTフィーリングは低燃費追求の結果であることは事実ですが、THS機構そのものからくるものでもなく、改良余地もまだまだある部分です。

もちろんこれからも次世代自動車としての社会要請から低燃費、低カーボンへの追求は手を緩める訳にはいきません。しかし、エコだけはクルマとしての魅力として不十分です。速度無制限がまだ許されているドイツのアウトバーン走行を除くと、リアルでのほとんどの走行でフルパワーを使うことは多くはありませんが、このフルに近いパワーを使う走行でいわゆるダイレクト感のある動力伝達を行い、回転が上昇するとともに今のTHSよりも気持ちよいエンジンサウンドを響かせリニアに伝達パワーが高まるダイレクトな走りを実現させることは可能と信じています。

通常の90%以上は安全、安心、快適な低燃費運転でカバーでき、たまに10%以下の頻度で道路環境を確かめてフルパワーも使う気持ち良くドライブができるクルマの実現を夢見ています。それなら、リアル燃費の目減りをほとんどさせずにやれるように思います。さらに付け加えると、日本の通常の走りではそれほど差を感ずることはありませんが、欧州車の車体剛性の高さは見習う必要がありそうです。

これから、移動手段、輸送手段としてのクルマと、保有し、走る喜びを感ずるパーソナルモビリティとの2極分化がさらに進むような予感がしています。現役時代に実現出来た訳ではありませんが、私が目指していた次世代自動車はこの保有し、走る喜びを感じ、意識しなくともリアルでの抜群の低燃費も実現できるパーソナルモビリティです。

その意味では、欧州低燃費車も日本のハイブリッド車も私の理想イメージからはまだまだほど遠いとところにあると思います。免許証返上まであと1台か2台乗り換えられるかどうか、ぜひ最後のクルマとして満足できる次世代ハイブリッドパーソナルモビリティの実現を待ちたいものです。

クリーンディーゼルとプリウス「ガラカー」?

またかの『ガラパゴス論』

私は新聞、雑誌、インターネットで「プリウス」との記事、特に批判めいた記事を見つけるとじっくりと読み込むことにしています。トヨタのDNAの一つとして、大先輩から叩き込まれたのが、良いニュースはあとでいいから、悪いニュース、心配、批判に目を向けからの反応です。

最近では日経ビジネスの最新号の時事深層欄に“プリウスは『ガラカー』か?”との記事を見かけました。今年3月7日の日経新聞にも「ハイブリッドに死角、車もガラパゴス化の懸念」という記事が掲載され、このブログでも取り上げたことがあります。同じ記者の執筆された記事かどうはわかりませんが、日経の方々はこのテーマがお好きなような印象です。

記事の中身をみると、エコカー補助金の後押しで日本のハイブリッド車特にプリウスと弟分のアクアが大幅に販売台数をのばし、新車販売に占めるハイブリッド車の台数が20%を超えたことを取り上げ、昨年ハイブリッド車が1万台も売れなかった中国市場、および以前からなんども言われてきた欧州ディーゼルとの対比で、日本のハイブリッド「ガラカー」論を展開している記事です。初代プリウス発売以来、何度も繰り返し蒸し返されている話題で、またかといった印象で、いまさらこの記事に直接に反論するつもりはありません。もっとも、日本の小型自動車用ディーゼル屋さんがもっと頑張らなければいけないことは確かですし、欧州勢にかまされていることはエンジン屋の端くれとして残念なことです。

ただし、ハイブリッドはあくまでも内燃エンジン車の燃費効率を高める手段であり、組み合わせるエンジンはガソリンでもディーゼルでも問いません。ハイブリッド機能のどこまで使うかは別として、もっと低カーボンが求められるか、こちらのほうが心配ですが燃料価格がさらに高騰するとガソリン、ディーゼル問わず、ハイブリッド化が進むものと考えています。

このハイブリッドメニューの中には、外部電力充電を使い、この外部電気エネルギーを走行に使いその分石油燃料消費を減らすプラグインハイブリッドも含まれ、ガソリン、ディーゼル問わず、ハイブリッドの有効な使い方です。

欧州で「独自進化」するディーゼル

10年ほどまえにも、欧州でハイブリッドの講演やメディア・インタビューでは、たびたびディーゼルが本命で、システムが大規模で販価アップが大きいガソリンハイブリッドはニッチに留まるとの議論をふっかけられました。その時の答えは上述の説明と「世界中でガソリンエンジンは廃止して全部ディーゼルにしてその燃料を供給できると言うならこの議論の意味があるが、そうでないのであれば欧州だけのエゴだ」と言っておきました。

効率と経済性を持って原油から液体燃料を精製しようとすると、原油成分によっても違ってきますが、ある比率のガソリンとディーゼル油が同時に生産されることになります。

アメリカでは、小型自動車ではほとんどがガソリン車ですので、精製効率(Well to Tank)の効率を落としながらもガソリン比率を高めています。欧州では逆で、今はどうかわかりませんが、足りなくなったディーゼル油を輸入し、余っているガソリンを輸出しているとの話を聞いたこともあります。

さらに、車両重量が重く、大出力とトルクが必要な大型トラック、大型バス、さらには建設機械などの大型産業機械はもちろんディーゼルの独壇場です。シェールガスブームに沸くアメリカでは大型車両への天然ガスエンジン適用の動きもありますが、基本はディーゼル、さらに船舶用エンジンでは小型船外機エンジンを除くとこれもほぼ100%ディーゼルエンジンの世界です。このように、世界全体としては、ガソリン、ディーゼルを用途によって使い分けているのが実情です。

日本では、もう少しディーゼル油比率を高めた方が精製効率、経済性が有利との話がありますが、これも将来の石油需給シナリオの中で考えるべきで、ほんの一部の小型自動車のディーゼルシフトではCO2削減効果も微々たるものです。ですから、ディーゼル対ガソリンハイブリッド、どちらが本命などの議論はあまり意味がありません。

確かに欧州、特にフランスではこのところ小型自動車のディーゼル比率が急激に高まっており全体の60%、今年年初来の新車販売に占める割合は83.5%に達したとの報道もあります。この流れは、欧州の自動車CO2規制の影響によるものと見え、欧州自動車メーカー各社が速効性のあるCO2削減手段として、小型ダウンサイジングとディーゼル比率アップを選んだとも言えると思います。

欧州環境庁は今月暫定統計値として、昨年販売登録された新車の平均CO2排出量は135.7g/kmで、前年に比べ4.6g(3.3%)減少したと発表しました。欧州では、新車のCO2排出規制強化として、2015年130g/km、2020年95g/kmがすでに決定済み、ガソリンでもディーゼルでも、従来技術の延長では乗り切れないことは明かで、ハイブリッド化、プラグイン化、電動化合わせて大幅なCO2削減を進めていくことが求められています。

ディーゼルとガソリンの環境特性の違い

ここで、ガソリンエンジン車とディーゼルエンジン車での燃費とCO2性能を比べるときの留意点についても少し述べたいと思います。ディーゼルエンジン用燃料の軽油は、比重がガソリンより少し重く、また発熱量も少し多いので、同じ1リッターでも発生する熱量が多くそれだけでも体積当たりの燃費は良くなります。しかし、その燃費値が良くなった分だけCO2排出量が減る訳ではありません。ご存じのように、石油燃料はカーボンCと水素Hが合成された炭化水素燃料です、ガソリンと軽油では、含まれるCとHの比率がことなり、軽油がガソリンに比べすこしCの比率が多い燃料です。このため、同じ重量の燃料を燃やする、軽油を燃やした時のほうがCO2の排出量が多くなってしまします。

もちろん、燃料代は単位体積あたりですから、日本では燃料のリッター単価がやすく、比重の重い軽油を用いるディーゼルエンジン車は実走行時の効率が高いだけではなく、比重分も消費体積量が少なくなり、燃料代の観点からは有利になります。しかし、CO2排出量に関して言うと、リッター燃費の差ほど効果は持ちません。

ガソリンエンジン車では1980年代にはほぼ全ての車が触媒を採用し厳しくなる排気規制を乗り切ったのに対し、ディーゼルエンジン車排気のクリーン化はディーゼルの燃焼特性や燃料の成分の違い、さらにこれらも影響してガソリンエンジンのような触媒など後処理システムを有効に使えませんでした。

1990年代に入り、後処理システムの性能を劣化させる燃料中の硫黄分の除去などが進められいわゆるクリーンディーゼルと呼ばれるものが登場したものの、永らく微粒粒子成分(パティキュレート)の規制をガソリンエンジンのレベルから緩めるダブルスタンダードが採用されてきました。

これも、2014年には欧州でも新たなディーゼル規制ユーロ6が導入され、ほぼガソリン、ディーゼル同じレベルのクリーン度が要求されるようになります。これに対応できてからが、ガソリン・ディーゼルそしてハイブリッドの本当の勝負の時で。欧州基準であれば、2020年総平均CO2排出量95g/kmを2020年よりも早く達成するように、経済性、燃費性能、CO2排出性能を競いながら技術を進化させて欲しいものです。

ハイブリッド、プラグインの拡大がすすめば、この早期達成も十分可能、またCO2削減は2020年が打ち止めではありませんので、この先の次世代自動車を視野にいれると、ハイブリッド「ガラカー」などとはとても言える状況にはありません。

様々な技術を組み合わせて新たな自動車を

余談ですが、私の大学時代はボイラー燃焼も内燃エンジンを含む、燃焼全般の研究室に所属し、卒業論文は石炭ボイラーの燃焼というよりも燃焼したあとの残骸をボイラーに滓をのこさず融かして排出させる研究でした。このときから将来は自動車会社でエンジン開発が希望し、大学院に入った時に担当の先生に泣きついてエンジン燃焼のテーマに変更してもらった記憶があります。このエンジン燃焼のテーマが、ディーゼルの低温始動時の燃焼でした。

トヨタに入ってからは、ディーゼルエンジンの担当になったことはありませんが、クリーンエンジンの開発リーダーをやっていた92~94年頃には欧州自動車メーカーを回り、ガソリンエンジン用の触媒の活性低下をふせぐクリーンガソリン成分の採用や、ディーゼル用軽油から後処理触媒の活性低下をもたらす硫黄成分の除去などの働き掛けを行いましたので、いまのディーゼルの進化にも影ながら寄与してきたと自負しています。 

2週間ほどまえのブログで取り上げた、豊田佐吉翁が懸賞をだした電池まではいかなくとも、今のリチウム電池の一桁エネルギー量の多い電池が見いだされない限り、また今の3分の1以下のコストが実現できた上で、低CO2/エネルギー効率の高い水素製造、充填インフラ事業採算性がとれる水素燃料電池自動車の実用化に見通しがつけられない限り、重量を増やさず、余分なスペースをつぶさない範囲で電池を賢くつかい、ハイブリッド、プラグインハイブリッドを使って2020年以降もCO2 95g/kmからさらなる低減に取り組んでいくことが求められます。ディーゼルエンジンもガソリンエンジンもさらに高効率化が進むと、そのハイブリッド車の効率はさらに進化します。

もちろん、エコ性能だけではなく、走りの性能、自分が走りをあやつるトラクション性能、操舵性能、音、乗り心地といった感性性能、当然ながらぶつけない、ぶつけられない安全性能も進化した次世代ハイブリッド車へのチャレンジを期待します。進化へ努力を怠れば、もちろん、あっという間にそのハイブリッドシステムは「ガラハイ」になってしまうことを銘記すべきでしょう。

プリウスPHVの米国公式電費と燃費

アメリカでもプリウスPHVが販売開始しました

プリウスPHVが日本に続き、アメリカで連邦環境保護庁(EPA)とカリフォルニア州大気資源局(CARB)からの認証・認可を受けて3月から販売を開始しました。
販売開始後の販売実績としては3月911台、4月1,654台とまずまずのスタートを切っているようです。このうち4月の1,654台、電気自動車やGMシボレーボルト・レンジエクステンダー型電気自動車(これもエンジンを搭載したプラグインハイブリッドと認定当局は定義していますが)など、電気を外部電力で充電できるプラグイン自動車全体の販売台数3,595台でしたので、シェアとして46%を獲得しました。

アメリカの一部メディアでは、この数字を見て4月の販売台数が1,462台だったシボレーボルトが早くも抜かれたとかき立てていましたが、まだまだ僅かな台数の中での話です。また、この4月の販売台数には、これまで実証試験をおこなってきたパートナーや、プリウスをカンパニーカートして多量に使っていただいた会社関係への事前オーダーへの配車が主体で、今後拡大していけるかはこれからのことのようですので、アメリカにおけるプリウスPHVは今後要注目です。

図1米国電動自動車販売台数

上の表は、昨年のアメリカに置ける電動自動車の販売台数になります。昨年は、ノーマルハイブリッドを含む電動自動車の総数で286,367台、東日本大震災とタイ洪水の影響による日本製ハイブリッド車の深刻なタマ不足もありましたが、新車販売全体の伸びには追いつかなかったものの、2007年以来の増加に転じ、今年に入っても好調な販売を示しています。

しかし、シェアでは、2007年の2.99%から、トヨタの品質問題の影響が大きく尾を引き、2.22%へと後退しています。しかしながら今年に入り、電動自動車の販売台数が大きく回復、1月~4月のシェアも3.39%と2007年のピーク時を越えており、今年の台数、及びシェアでの記録更新が期待されます。

加えて今年は、Ford フュージョンハイブリッドのモデルチェンジ、日産アルティマ新ハイブリッド、ホンダアコードハイブリッド、さらにはトヨタRAV4EV、Ford フォーカスEV、ホンダ ジャズEV、アコードプラグインハイブリッドなど、新しいハイブリッド、プラグイン自動車が販売を予定していますので、これがどのように販売を伸ばしていくかに注目されます。世界最大の自動車市場であるアメリカの今後の販売実績が、以前触れた日本ハイブリッド車ガラパゴス論の正否を問うことになるでしょう。

しかし、この中で電池充電型自動車(以下プラグイン自動車と記述)のみ限ってその販売動向をみると、2011年通年でも17,731台に留まっています。電動自動車の中のシェアとしても6.19%とまだまだ次のサステーナブル自動車の担い手というにはほど遠い状況にありましたが、あらたな参入でマーケットがどう動くのか注目されます。

プリウスPHVのアメリカ基準燃費は?

さて、冒頭でも書きましたが、アメリカで自動車を販売するということは、プリウスPHVもアメリカでの公式電費、EV航続距離、ハイブリッド燃費、ハイブリッド航続距離が、排気、燃費の認定官庁である、連邦環境保護局(EPA)から発表されたということです。アメリカでは、このEPAから発表される公式値を、販売店ではクルマのフロントウインドーにEPAが示す指定の書式で作られてステッカーとして添付することが義務づけられており、別名ステッカー燃費とも呼ばれています。

このブログでも何度かご紹介しているように、このステッカーに記載する燃費値は、それまでの燃費表示値が、実際にユーザーが使った時に実現できる燃費からの解離が大きいとEPA自体が訴えられ、ユーザーの平均燃費にできるだけ近づくように2008年に、算出方法の大幅改定を受けたものです。

この際、EPAではかなり大がかりなユーザー燃費調査を行い、EPAの排気・燃費認証試験として行う、米国シティーモード、ハイウエーモードだけではない、寒冷地のCOを規定する零度C以下の低温試験、夏のエアコン運転を想定した試験、急加減速が含まれるアグレッシブドライブ燃費など、さまざまな走行データからユーザー燃費の平均値に近くなる調整方式を創り出しました。当然ながら、アメリカのユーザー燃費の平均に近く、これがまた日本のユーザー燃費にも近いものになっています。

電気自動車やプラグインハイブリッド車の電力消費評価にもエコラン等をあまり考慮に入れないこの測定方法を適用していますので、この季節の私の実走行データと比較しても充電量や燃費の結果からもやや悪めの値になりますが、冬のヒーター運転、夏のエアコン運転などを考慮に入れると年間アベレージとして結構一致する値となっているではないかと思います。

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図2 プリウスPHV EPAラベル

しかも、EPA公式燃費掲示サイトでは、走り方によりクルマの燃費は大きく変化すること、燃費向上小技集、そのクルマのユーザー燃費調査の結果なども表示されており、エコカー購入の参考データとして活用されています。さらにEPAサイトをいろいろ調べて見ると、補正前(non adjusted)の生の燃費計測結果と修正後(adjusted)が、米国シティーモード、ハイウエーモード、さらにそのミックスであるコンビ(combination)燃費まで知ることがきます。
http://www.fueleconomy.gov/
http://www.epa.gov/otaq/carlabel/index.htm
http://www.fueleconomy.gov/feg/download.shtml

プリウスプラグインの米国EPAのステッカーでは、シティー/ハイウエーのコンビモードとして、電池にエネルギーがあるプラグイン走行(この評価モードで短時間エンジンがかかり、そこで消費したガソリンと電費を合わせたデータとして表示)ガソリン換算95マイル/ガロン(リッター40.2km相当)と示されています。このときのプラグイン走行航続距離は11マイル(17.6km)と日本のJC08基準の26.4kmに比べるとかなり短い航続距離とされています。

電池の充電エネルギーを使い終わり、ガソリンだけで走るHV走行の燃費は、ノーマルプリウスと同じ50マイル/ガロン(リッター21.2km)が公式値です。日本向けと米国向けでは車両諸元が若干違いますが、日本の民間燃費サイトで報告されるユーザー燃費や、私が使っていた前のプラグインプリウスでの年間通算HV燃費の22.5km/lよりも少し悪い値となっています。そしてこれで、同クラスの従来車にくらべ、アメリカユーザーの平均的な走行距離走ったとして、ガソリン代を7600ドルセーブできると表示されています。
また、充電電力とガソリンの両方を使った航続距離として540マイル(894km)と表示されています。

ボルトやリーフと比較してどうなのか?

参考として、GMシボレーボルト、NissanリーフのEPAステッカーも併せて載せておきます。ここで面白いのは、プリウスプラグインのステッカーのプラグイン走行燃費95マイルガロンのところには、電気とガソリン両方でのガソリン換算コンビ値と表示されているのに対し、ボルト、リーフとも電気のみと表示してあるところです。

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図3 シボレー・ボルト EPAラベル
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図4 リーフ EPAラベル

前述のように、今のEPAのステッカー燃費算出には、大きな加速度で標準モードよりも高速を走行するモードが含まれていますので、どこかでエンジンが掛かり、電気とガソリンの両方と記述されたようです。しかし試験データの詳細を見れば、その時のガソリン消費量は燃費換算で0.2ガロン/100マイル、500マイル/ガロン(リッター402km相当)と、極一瞬だったようです。この辺にEPAの連中の厳密さが表れており、この組織と長いつきあいをしている私などはいかにも彼ららしいなと感じられた箇所でした。

さて、このステッカー比較の電力消費では、やはり純電気自動車のリーフが一番よく、99マイル/ガロン、次がプリウスの95、ボルトは93と表示されています。この航続距離では、ボルトが合わせて379マイル(606km)、リーフはバッテリーだけですので、EPA基準では77マイル(123km)となり、これまでの米国シティーモード基準、日本のJC08基準と比較して極めて厳しい数値となっています。

こういった公式ラベルで年間燃料代やガソリン代セーブ額まで、販売店の展示車にまで表示させるところがアメリカの面白いところです。ホンダがこのステッカーにも表示する燃費値を広告に使いその値と自分のクルマでの走行燃費にギャップがあると訴えられたのもアメリカならではと思いますが、こうしたEPAの厳しめの調整公式燃費しか広告にも使うことができないのに、何故訴えられたのか疑問です。

更にアメリカらしいのは、GMがサイトですぐ、このEPAの公表データを使ってプリウスPHVとボルトの使い方による燃費比較を報告しているところです。
http://gm-volt.com/
この比較については、また別の機会に報告したいと思います。

いずれにしても、電池を充電するプラグイン自動車の普及には、安く、安心して使える充電設備の普及、マンションなど集合住宅での充電設備整備、そして電池の寿命や価格など、普及には残存課題の克服が先決、さらにその充電電力低CO2化をどのように進めていくのか、将来エネルギー政策全体の中で普及シナリオを見直す必要がありそうです。

プラグインプリウス日記-5

相変わらずプラグインプリウスを乗り回しています

私の愛車プラグインプリウスの走行距離が、4月末に納車されてから先週末で12,000kmを突破しました。ほぼ年間20,000km相当ですので、いまだに日本の平均ユーザーの倍以上走りや生活を続けています。環境に優しくないのではとの誹りを気にしながら、どうすればこれからのエネルギー資源、環境問題に自動車を適応させ、自動車の原点の一つ、個人が自由に移動できるMobilityがどのようになるのか、どうすれば良いのかなど、考えを巡らせながら走っています。

現役時代では、自分が開発を担当しているエンジンを搭載した試験車をテストコースに持ち出して走り回っていた他、改造申請をして正規に白ナンバーを取った白ナンバー試験車やモニター試験車、さらに比較用に買っている他社の話題車、欧州スポーツカーなどを借り出して、休日にも長距離ドライブに出かけたものです。プリウスでも、白ナンバー試験車ができあがると、すぐに借り出し、いろいろなところを走り回りました。この習性が今も顔をだし、クルマのそしてエンジン、ハイブリッドの粗を探し回り、進化の姿を描きながら結構な距離を走る事になってしまいます。また、平均よりもちょっとシビア目の走り方を心がけてきましたので、燃費値もほぼユーザーの実走行平均燃費を少し下回る走りが身についてしまいました。

図1は、4月末から12月10日までの日当たりの走行ログです。トータル12,000kmをどのような使い方をしたのかがこれでわかります。豊田・名古屋地区に日帰り出張をすると往復550km~600kmの走行、宿泊ではその地域の移動含め日当たり250km~300km、東京往復でも250km、週末のドライブでは箱根を回って90km、山梨、長野へでかけるとやはり日帰りで250km~300km、宿泊でも150km~200kmのドライブになります。

ゼロ付近の赤いハッチングは、このプラグインプリウスの電池フル充電から電池エネルギーだけで走行できたこのクルマの平均実走行距離21.4kmの部分です。日常の使い方ならほとんどこれでカバーできています。長距離ドライブでも、この充電エネルギー分はガソリン消費の削減に使われています。表1にこの間、226日間の燃費、電力消費、電力走行比率などを纏めたものです。この間の給油回数は12回、残量に余裕ももって給油し、こんな走り方ですので月1回とはいきませんが、これで12,000kmですから、一回給油すると平均1,000kmは給油せずに走れていることになります。総平均走行燃費は32.8km/l、実際にフル充電から途中にエンジンを掛けずに充電量を使い切りエンジンが掛かるまで走行が出来たときのEV走行距離データと、この充電コンセント専用に設置した電力計からの充電電力から計算した走行距離あたりの電費(Wh/km)から計算したEV走行比率は30.7%になりました。自宅以外で充電したのは、この間2回だけ、日当たり充電回数はほぼ1回、しかし、年換算すると充電電池のエネルギーでガソリンを使わないで走行出来る割合は約5,600kmとなり、長距離ドライブ頻度がそれほど多くないアベレージの使い方でユーティリティファクター48.3%(EV走行比率48.3%)は妥当のように感じました。

図1 走行ログ
図1 走行ログ
表1 走行データまとめ
表1 走行データまとめ

先月11月29日に発表した、量産タイプのプリウスPHVの国土交通省の燃費・電費諸元値では、総走行距離のどれくらいの割合を電気エネルギーで走ったかの割合として、車両走行実態調査の結果からEV走行比率48.3%(ユーティリティファクター)を採用し審査値を決めています。これによると、ガソリンを使ったハイブリッド走行の燃費値としてJC08モード基準で31.6km/lから算定したプラグインハイブリッド燃料消費率(複合燃料消費率)として61.0km/lと発表しています。(G/Sグレードの標準車)これがカタログ燃費値です。CO2の排出値は発表されていないようですが、トヨタのHPでは、従来プリウス比、この審査値ベースで35%削減と述べています。しかし、これは現在の発電CO2を考慮に入れたWTWでの計算ではありませんし、実走行での削減率ではありません。このCO2排出ポテンシャルとしてのエコ度をどう評価していくのか、これこそ産官学でのオープンで透明な議論での結論を期待します。
 

受注が始まったPHV、しっかり数字の意味を見極めよう

この新型プリウスPHV発表会で、技術担当の内山田副社長がプレゼンテーションを行い、2009年末からやってきたユーザーモニター試験の一部を紹介しています。豊田市の主婦のかたで、殆どが自宅からの買い物、送り迎えのショートトリップで自宅に戻る度に充電し、平均日当たり3.4回の充電を行った例で、EV走行比率94%、約2ヶ月半のモニター期間の走走行距離2,486kmのガソリン燃費249km/lを記録された例と、サラリーマンの方で日常の通勤と、時々の長距離ドライブで、約2ヶ月弱使われて、EV比率44%、燃費41km/lの例を紹介しています。

アメリカの燃費規制強化について 

先月に発表されたのは連邦によるCAFÉ規制

先月29日、アメリカのオバマ大統領は、ホワイトハウスで、2025年を最終目標年とする自動車の燃費規制改定について、この改定案に合意した自動車会社首脳、労働組合の代表者を集め、記者発表を行いました。
http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2011/07/29/remarks-president-fuel-efficiency-standards
(ホワイトハウスプレスリリース)

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(オバマ大統領会見映像)

1990年以来、乗用車ではCAFÉ(Corporate average fuel economy=メーカー別アメリカ販売車両の平均燃費値)27.5mpg(11.7km/L)に固定されていた規制値を2011年から2015年までに35.5mpg(15.1km/L)に向上させる改定が行われました。今回の発表は、その後の2016年から2025年までに、年率約5%ずつ強化し、2025年までに54.5mpg(23.2km/L)まで厳しくしようとの改定案です。2010年比では燃費値で約2倍、燃料消費としては半減という厳しいレベルです。前政権がやっと重い腰をあげ、2015 年までに35.5mpgまでの強化を決めましたが、グリーンニューディール政策を掲げるオバマ政権として打ち出した規制強化案です。

環境規制制定時には、担当官庁(この場合は連邦環境保護庁”EPA”と連邦運輸省道路交通安全局“NHTSA”)スタッフがルールメーキング案作成作業を進め、アセスメントStudyをU.S. Academy of Scienceなどに委託、Open hearingやそれを議論するWork shopを開催し、スタッフ案をつめていきます。その上で、今回のCAFÉ規制のように議会承認が必要な重要案件は、今回のように事前に自動車メーカーや労働組合との交渉を行い、調整を行った上で大統領提案として公表することになります。従来技術の延長では達成困難なレベルであり、ハイブリッドや車両の軽量化など、これを達成する燃費向上技術を採用することによる車両販価アップ、それによりクルマが売れなくない自動車関連雇用者の減少などが論点となり、今回の54.5mpgも,当初のスタッフ案の年率6%向上の2025年62 mpgから数週間前の発表56.2mpgに、さらにそこから小修正して決まった値です。

しかし、この規制はあくまでも乗用車の規制案、アメリカで大きなシェアを示す、フォードF150やトヨタ・タンドラのようなピックアップトラック、もとGMブランドとして売られていたハマーやキャデラック・エスエスカレード、トヨタ・セコイア、VW・トアレグなどスポーツ・ユーティリティ・ビークル(SUV)、さらにはホンダ・オデッセー、トヨタ・シエナなどミニバンは、この乗用車規制とは別の小型トラック(light duty truck:LDT)カテゴリーとされ、乗用車とは別のCAFÉ規制値として低い値となっています。

アメリカの燃費規制は、1973年の第4次中東戦争勃発後、OPEC諸国が先進国に対する石油禁輸発令による石油ショック(第1次石油ショック)が発生、石油供給のショートとその後の急激なガソリン価格高騰を招いたことから1978年に低燃費車へのシフトを狙いとして制定されました。当初は乗用車が対象でしたが、1979年からはLDT対象の2本立て規制となりました。当時のLDTとしては、農家などの小型作業トラックが主、個人用のSUVやミニバンは殆どなく、産業保護の面からも低い規制値のままとどめられ、乗用車が27.5mpgとなった1990年時点でも20.0mpg(8.5㎞/L)、以後すこしずつ強化されましたが1996年以降2004年まで20.7mpgの固定値にシールされていました。

CAFÉで使用する燃費値とEPAの燃費値は異なる

この2025年54.5mpgのCAFÉ規制強化の発表に対し、日本の一部の新聞では、現在のプリウスの連邦EPAの公表ラベル燃費(EPAが認証試験結果から公表し、販売店の展示車のフロントウインドウに表示が義務付けられているラベルに記載する燃費値)48mpg(20.4㎞/L)との対比で、プリウスでもクリアできない厳しい燃費規制と報道していますが、これは間違いです。同じEPAの認証試験結果から求めますが、燃費mpgの算定式がCAFÉとEPAラベル値では違い、CAFÉ規制54.2mpg(23.2km/L)はEPAラベル燃費では約41mpg
(約17.4km/L)程度となるようです。この41mpgは、23日に新車発表を行った新型カムリの、EPAラベル燃費34mpg(14.5km/L)から大幅に向上させたハイブリッドバーションの燃費と同等であり、ハイブリッド車の普及拡大を行えば達成できるレベルです。
http://pressroom.toyota.com/releases/2012+toyota+camry+global+reveal+remarks.htm
(トヨタアメリカ、カムリ燃費値)

CAFÉ燃費とEPAラベル燃費の違いについて説明しましたが、これも何度かこのブログでも述べているように、試験法、計算方法の違う燃費値を、たとえば日本の10-15モードやJC08 燃費、さらにはEC公式燃費/CO2値をそのまま比較し、優劣を述べている記事やレポートを見かけますが、これも違う試験法、計算方法では比較するのは間違いです。
http://www.autoobserver.com/2011/06/white-house-floats-562-mpg-cafe-plan-for-2025.html
(燃費値の違いを説明している海外の記事)

メスが入り始めたLDTの燃費

乗用車は、1978年からのCAFÉ規制により、燃費競争が激化、このなかでBig3が急激に販売シェアを落とし、日本勢がシェア拡大を果たしました。1980年代後半から、Big3勢がLDTのCAFÉ規制が緩いことに目をつけたのかどうかはわかりませんが、乗用車に替わる個人用自動車としてSUV、ミニバンを発売、さらに作業用トラックの用途であったピックアップトラックも価格が安いこと、大排気量エンジンの搭載で走行性能に優れていることなどから若者を中心に個人用として、地方だけではなく都市部でも販売が伸び、販売台数的にはLDTクラスが乗用車クラスと拮抗する台数にまで拡大していきました。

連邦政府も、乗用車ではCAFÉ規制によりBig3勢の競争力低下を目の当たりにみて、LDTクラスの規制強化を行わず、また乗用車用途に近いSUVやミニバンのLDTカテゴリー化を認め続けてきました。この中で、Big3が販売の軸足を乗用車からこのLDTクラスに移し、大排気量の古いV8 エンジンを搭載したピックアップトラックやSUVの拡大により、燃費の良い新型エンジンへの切り替え、車両軽量化などをやらなくても、大きな収益を上げることができていました。1990年代に入り、日本勢もこのLDT車種を拡大しこのLDT CAFÉ値が違う恩恵を受けてきています。しかし、2006年ごろからの原油の高騰とガソリン価格の上昇により、LDT車両の販売に陰りが見え、2008年秋のリーマンショックでさらに車両販売が激減、とくにこのLDT車両の販売激減がGM, Chrysler倒産の要因になったと言われています。その後の景気低迷によるガソリン価格の大幅低下が、LDT車両の販売を回復させ、GM、Chrysler再建のフォローの風になったことは、また皮肉な巡り合わせです。

今回のCAFÉ改定でも、この乗用車とLDTのCAFÉ規制値2本立てはそのまま、LDTのCAFÉ規制強化では、Big3へのダメージを少なくする意図もあってか、乗用車が2016年から年率5%の規制強化に対し、LDTでは3.5%の規制強化と、ここでも差がつけられています。アメリカの国土は広大で、道路も広く、LDTクラスの大排気量V8エンジン搭載のピックアップトラックやSUVが似合っていることは確かですが、1990年代にアメリカの石油輸入量が激増したのもこのLDTシフトが要因、さらにCO2排出量の増加にも繋がっています。しかし、2007年からの石油高騰がこの販売激減を引き起こしたように、ドル安、原油高でアメリカのガソリン価格は上昇気味、CAFÉ規制の前に、LDT車のダウンサイジング、軽量化、ハイブリッド化による燃費向上は避けて通れないように思います。

このクラスはトレイラー牽引やオフロード走行性能も求められ、フルトルクでの長時間運転が苦手なモーター、インバータを使いこなす必要があるハイブリッドの技術ハードルは高く、先日発表したトヨタ*フォードのこのLDTクラスのハイブリッドシステム共同開発の発表は、技術的にも見通しがついてきたのでは、その成果に期待しています。

1970年代の自動車開発競争。「マスキー法」の思い出

「マスキー法」の衝撃

「マスキー法」という名前にピンとくる人はもう少なくなってきているかもしれません。
「マスキー法」とは、一般的に酸性雨、オゾン層保護、都市大気汚染防止のために制定されたアメリカ合衆国連邦政府大気浄化法の1970年改定案を指し、この名は提案者であるアメリカ・メイン州知事から連邦上院議員に当選した、エドマンド・シクストウス・「エド」マスキー氏から名付けられたものです。
当時、ロサンジェルスなどの西海岸大都市において、光化学スモッグなど自動車排気を原因として大気汚染レベルの急激な悪化が社会問題となっており、それに対処するために打ち出されたマスキー法は、内容としては自動車排気ガスのクリーン度を従来の10分の1以下とすることを求める極めて厳しい内容でした。
その厳しさは、60年代後半からアメリカへとクルマを輸出しはじめていた、トヨタや日産など日本勢だけではなく、当時の巨大なビッグスリーにとっても技術的にも全く対応の見通しがつかない、今でいう未知のブレークスルー技術を必要とする規制案でした。

結局このマスキー法そのものは、どの自動車メーカーとしても達成の見通しがつかないとのことから、1974年に廃案となり、新たな規制緩和法案が成立し実施されました。しかし、この強烈な法案が契機となって各社が将来の環境対応に備えたことから、排気ガス浄化触媒の導入、その前提となる無鉛ガソリンへの切り替え、エンジンの燃焼制御の技術など、今につながる自動車エンジンの発展に繋がったのは間違いのないことだと思います。

また、マスキー規制対応に苦闘している最中に、1973年10月の第四次中東戦争を契機とした第1次オイルショックが発生しました。欧米や日本などの石油輸入国では、輸入石油消費量削減を目的に自動車の燃費規制(アメリカ連邦では自動車メーカー別に販売車両の平均燃費の上限を規制し、これを超えた場合には罰金を科すCAFÉ法案=Corporate Average Fuel Economy)が制定されました。当時の自動車技術上の常識では、「マスキー法」が求める排気クリーン度の向上と「CAFÉ法」が求める低燃費は一方をよくすればもう一方が悪化するというトレードオフの関係と考えられていましたが、各社の自動車エンジニア達は知恵を振り絞ってこのジレンマの打破を図り、その中から、燃料噴射エンジン、エンジンのマイコン電子制御化、車両軽量化などさまざまなクリーン&低燃費エンジン技術が芽吹き花を咲かせ、今のクルマはこの両者をしっかりと両立するように考えられています。

マスキー・プロジェクトに育てられた私

1969年にトヨタに入社した私は、トランスミッション関係の設計を担当したのち、このマスキー法対応エンジン車開発プロジェクトに加わることになりました。このマスキー・プロジェクトは静岡にある東富士研究所に会社全体のさまざまな部署から人が集められてスタートしたもので、エンジン担当を希望していた私にも声がかかりその一員となったのが、1971年の秋のことでした。最初の担当テーマは、触媒をエンジン排気に取り付けてそれを使いこなすことでした。まずはものの試しと、当時はまだ一般的だった有鉛ガソリン(ノッキング防止材としての鉛の入ったガソリン)を使ってエンジンを回してみれば、1時間もしないうちに、みるみる触媒の浄化性能が低下していく始末。規制で求められている浄化性能の保証距離は8万km、いまは1時間でダメになるこの触媒をどうすればそこまで持たすのか、技術課題の先の遠さに茫然とした記憶があります。

また、当時のエンジンでは点火プラグの燻りや、点火分配器(今のエンジンではもう使われていませんが、接点切り替え式ディストリビューター)の接点摩耗などによるエンジン失火は当たり前、エンジン失火が起こると未燃焼のガソリンが触媒に流れ込み、そのすべてが触媒の中で燃焼するために、触媒が火の玉のようになり溶けてしまう故障も頻発、自動車で触媒を使うことは無謀とも言われた時代でした。

その後も、燃料と空気の比率を理論上完全燃焼する比率(理論混合比)に制御して運転すると、排気ガス中の一酸化炭素、未燃炭化水素(未燃ガソリン成分)、窒素酸化物の規制対象三成分を同時に除去できる三元触媒システムの開発を担当することになり、高い浄化率で使いこなすために、燃料噴射エンジン(EFI)とその理論混合気運転のための噴射燃料の精密制御、さらにそれを発展させたマイコン制御、それらを駆使することでクリーン化の見通しがついた4バルブエンジン、その過給エンジンなど、そのご自動車用ガソリンエンジンの主流となった開発テーマを次々と担当できたことは、今振り返っても非常にラッキーだったと思っています。

その中でも、もちろん極めつけに技術ハードルが高かったのがマスキー法プロジェクト、まさに修羅場の連続、そのプロジェクトを担当し、量産に辿りついた経験が、現役最後の修羅場プロジェクト初代プリウスハイブリッド開発にも生かせたではと思っています。

向かい風の中の開発

クリーン&低燃費エンジンの開発にいち早く取り組んだのがトヨタ、日産、ホンダといった日本勢でした。燃料噴射エンジン、マイコン電子制御の進化が、4バルブエンジン、過給エンジンといったクリーン、低燃費に加えて商品力強化のポイントとなった高出力エンジンの開発を可能にし、日本自動車勢の大きな成長を遂げる牽引力になったことは確かです。

余談ですが、1972年に本田はマスキー法をクリアするエンジンとしてCVCCエンジンを発表、1973年末に生産を開始しました。当時は触媒を使わず、有鉛ガソリンも使えるエンジンとして大きな反響を呼び、バイクメーカーの印象が強かったホンダがクルマの世界での地位を築くきっかけとなったものです。トヨタや日産は触媒方式を本命として開発中でなかなかその実用化に見通しをつけることかできず、50年、51年、53年規制(西暦ではそれぞれ1975、1976、1978)を巡っての国会審議では、当時の豊田英二社長が参考人としてCVCCを引き合いに開発の遅れを厳しく責められ、メディアでも叩かれ、国会議員、規制官庁のお役人、技術委員会の先生方が開発現場を視察されるときには、開発担当のエンジニアであった私としては見せたくもないエンジン失火で無様にも溶かしてしまった触媒を展示用に集めさせられ、大変悔しい思いをしましたものです。しかし、結局はクリーン、低燃費、高性能エンジン競争の中で、CVCCエンジンは消え、触媒、燃料噴射、電子制御エンジンが主流となっていきました。(

その当時の悔しい思いもあって、ハイブリッド開発ではどこにも負けたくない、世界初として世に送り出したいとの想いがプリウス開発のモチベーションになったことは事実です。

日本車のアメリカ進出を後押ししたのは最初から環境技術だった

さらに余談ですが、マスキー法制定ののちに、日本でも昭和50年規制、51年規制、53年規制と立て続けに排気規制導入とその規制強化が行われ、53年規制の規制数値がマスキー法のレベルと同じであり、この53年当時ではマスキー法が廃案となり、緩和規制値のなっていたため、官・学・産からメディアへの説明では日本が世界一厳しい規制を導入したと伝えられ、今でのその説明がまかり通っています。しかし、アメリカの規制では、エンジンも触媒も冷えた状態からのエンジンスタートに対し、日本ではエンジンも触媒も暖まった浄化性能を発揮できる状態での試験、さらにアメリカでは加速度も車速も日本の10モード試験法に比べるとはるかに厳しい走行条件での試験と、対応技術としては、アメリカ規制対応がはるかに厳しいものでした。燃費規制も同様、試験法の数値だけで、各国、各地の規制レベルの厳しさ比較を時々見かけますが、このブログでは何度も繰り返していますがそれはナンセンスな比較です。

さらに、このアメリカの排気ガス規制では、経年使用車両でのリコールサーベイ試験がいち早く採用され追跡調査が行われるようになりました。燃料一つとっても、規制の合否判定や公式耐久試験に使われる認証用公式ガソリンに比べると、実際の広いアメリカで使われる燃料は、触媒劣化に影響する微量鉛や硫黄がはるかに多いものが使われていました。またオイルも純正はほとんど使われず触媒毒となるリンや硫黄添加量の多いものもあり、さらにメンテナンスも基準通り実施されていることは殆どない実際のユーザーのクルマで排気チェックが行われます。その結果が不合格となると厳しくリコール命令が下されます。
また、試験のパターン以外で意図的に排気システムの作動の解除や制限を禁止するデフィートデバイス規定、規制条文で規定できない部分にも最善を尽くすことを約束させるGood Faith Efforts条項など、どれもこれも、欧州や日本に比べても厳しい規制方式でした。

排気規制の狙いは、当然ながら都市の大気汚染問題の解決が目的です。そのクリーン度の判定として、アメリカ、欧州、日本ほか各国、各地域でさまざまな試験法、こまごまとした規定、基準が定められています。さらに、それをすべてクリアすれば良いというわけではなく、実際に使われた経年車のクリーン度、さらに実際の大気環境の改善度が重要です。世界中のクルマの使い方、燃料の品質、オイルの品質、メンテナンスの状況を調べ、その実際の使用環境で高いクリーン品質を確保することなど、我々はトヨタの先輩連から手抜きをしない品質確保とGood Faith Effortsをたたき込まれました。

トヨタ、日産、ホンダの日本勢は、この排気クリーン品質でも優等生でした。実際のマーケットのリコールサーベイではビッグスリーが大規模な排気リコールを繰り返すなか、不合格車ゼロの記録を続け、アメリカ環境保護局(EPA)、カリフォルニア州大気資源局(CARB)の規制当局からも信頼を勝ち取ることができました。この実績も、日本勢がアメリカ自動車マーケットで成長を遂げることができた一因です。

燃費規制、地球温暖化緩和を目的としたCO2排出規制でも考え方は同じです。公平にそのポテンシャルを評価する尺度としての公式燃費・CO2も重要ですが、排気のクリーン度と同様、実際にそれぞれの地域、それぞれのドライバーがクルマを走らせたときの燃費削減、CO2排出低減の実効をあげることが目的であり、その目的のためのGood Faith Effortsが求められていることと自動車の開発屋は銘記すべきと思います。

脱石油、低カーボンを目指す、持続可能な社会の次世代自動車の開発は、マスキー法以上に自動車メーカーとして生き残れるかどうかを左右するまさに修羅場の到来です。しかし、その本質を押さえ、マスキー法、CAFE規制に愚直に、歩みを止めずに取り組んだように、志を持ち、ハートの熱い人材を集め、さらに材料、部品、日本のものづくりの総合力を発揮できれば、日本勢が今回も次の自動車開発をリードしていけると確信しています。

マスキー法から現在に至るまで、トヨタ*日産*ホンダの、それぞれ相手を意識し合った、「抜きつ、抜かれつ」の技術開発競争もパワーの源泉であり、その中で、意識したくても人は育ったように思います。激烈な技術開発競争の中で、次の人材が育っていくことを期待します。

 

 

)これ以前にマツダによって量産化され、一部の排出ガス性能の高さを有していたロータリーエンジンも、このホンダのCVCCエンジンも当時の純粋なエンジニアリングの結晶としては大いに評価されるべきものでした。しかし、最初の章で私が書いたように、70年代以降の自動車には、排気のクリーン度と低燃費の両立が求められたのです。そして、これらのエンジンは、それまでのジレンマを乗り越えることができず、結局主流となることはなく、CVCCは歴史の中の存在となり、ロータリーは現状では愛好家向けのエンジンにとどまっています。

ゼロ・エミッション考-2

梅雨明け前の35度を超える酷暑と、例年より早い梅雨明けのあとの猛暑日の連続の毎日に、地球温暖化が肌で感じられてきたといっても過言ではないのかもしれません。ただし皮肉なことに、温暖化対策の観点から言えば誰も望まなかった震災の副産物として、節電の呼びかけにより今夏は電力需要が大幅に低下し、停止する原発の補完として火力発電の再開や発電量アップを行ったとしても、日本の電力からのCO2排出総量は低減する見通しとのことです。

ただしこれはあくまで一時的な結果であり、原発の代替として石炭、LPG火力でカバーする以外に現実的な解決案は見当たらない以上、復興と経済的成長と電力需要の増大は不可分ですから、将来的には特に電力部門でのCO2の排出量は増加していく可能性が高いでしょう。

CO2削減は確かに必要なことですが、私は鳩山さんの口約束をリセットしてでも、今後の電力政策含めて真剣な総見直しが必要と考えています。また、その電力の新規需要として、低CO2の原発深夜電力を期待していたプラグイン自動車(電気自動車および外部電力充電式ハイブリッド車)普及についても、CO2削減の狙いからは見直しが必要です。

今日はもう一度、自動車の「ゼロ・エミッション」「エコ」について取り上げてみたいと思います。

走行中の「ゼロ」は無意味。意味のあるそして正確な基準で議論を。

何度も、このブログでも取り上げましたが、地球温暖化ガスのCO2削減として、プラグイン自動車の走行中の「ゼロ・エミッション」に意味はありません。これについては、多くの研究者がかなり昔よりその問題点を論議しており、環境への実行面を本当に論議する際には、発電時、電池を含め、自動車製造時、さらには廃車時のCO2など、製造、使用、廃車まで、クルマの一生で排出するCO2を問題にするライフサイクルアセスメント、いわゆるLCAでのとらえ方をするようになってきています。

図に、2004年に私が韓国で行ったプレスイベントでの講演資料で説明を行った2代目プリウスのLCAスタディ結果を示します。トヨタ社内データによる試算値ですが、走行燃費として私はいつもユーザーに実走行平均燃費に一番近い欧州公式燃費を使っていました。

2004年のLCA比較
CO2のLCA比較

ここで欧州公式燃費を使用したのは、正直に言いますと日本の当時の公式燃費10-15モードを使うと、燃費値がユーザーの実走行燃費よりも良く、走行中のCO2排出量の影響度を小さく試算してしまうため、よりユーザーの実走行燃費に近い数字が出すためでした。

もちろん、日本では自動車会社からの広告・広報では、当時唯一の試験モードである10-15モードの使用が義務付けられていましたので、多くの方の目に触れる資料ではありませんでした。ただし、ユーザーの実走行燃費調査結果や、その実走行平均燃費に近づけるために行ったアメリカ連邦環境保護局EPAの公式燃費表示法改定など、その後の平均実燃費調査結果からも、LCAとしては使用過程でのCO2排出寄与率が高いことが裏付けられ、当時公式に発表されていた10-15モード燃費を使用した試算では実情を表していいないことは明らかでした。

製造過程のCO2排出量計算条件は、当時のプリウスの生産状況に近い数字を使ったと聞いていますが、材料一つとっても、その製造場所、使用した電力量とその電力Mixによっても大きく異なり、細かい具体例をあげれば、電池に使うニッケル材の精錬や加工を中国で行うか、カナダで行うかでもその値は変化します。

余談ですが、そのころあるアメリカの研究所が「LCAスタディをしたところプリウスは兵員輸送車をベースの超大型SUVであるGMハマーよりもCO2排出量が多いと」の結果を発表し物議を醸しました。その発表を見ると、電池等を含めたハイブリッド部品製造を、CO2排出量最大の電力Mixを使い、エンジンや車両で多用したアルミ部品もその精錬を効率の悪い石炭火力から製造した新材のみを使用すると仮定するなど、プリウスを貶める意図を持った結論ありきの悪意の塊の試算結果でした。

この試算を発表した研究者が利用したプリウスのデータを提供したのはアメリカDOE傘下の国立研究所でしたが、後日になって私と面識のある国立研究所スタッフから、とその中身が実態とはかけ離れた条件で計算しているなどの言い訳が含まれた謝りのメールが届きました。あまりに現実離れしたひどい条件でしたので、こころある人達はこのからくりをしっかり見抜き、その後これが話題になることはありませんでした。

この話をしたのは、環境負荷を測る基準となるLCAの数値ですら、その計算条件によって、その結果が容易に大きく変わってしまうことの怖さをお伝えする為です。ですので、ニュースや、ニュースリリースの数字には要注意、鵜呑みにするのは危険です。

必要なものは実効性のある対策

また環境負荷ということ考えるのであれば、CO2排出量だけではなく、光化学スモッグや浮遊粉塵(パティキュレート)の原因となる自動車のエミッションを議論するときにも走行中の「ゼロ・エミッション」だけではく、プラグイン自動車では、発電所からのエミッション、さらには実際にユーザー使用する状態でのエミッション、新車からのエミッション、公式試験モードのエミッションだけではなく、使用過程車、故障車、様々な走行条件でのエミッションと、LCAとして、実際の使用条件でのエミッションとして、その環境への影響、そのクリーン化に取り組むことが重要です。

日本の火力発電所では、脱硝、脱硫が進み、排気粉塵も極めて少なく、世界一のクリーン度と言われていますので、「ゼロ・エミッション」ではなくとも、環境へのインパクトを気にする必要はないレベルと聞いていますが、最近九州や裏日本の都市部で光化学オゾンレベルが悪化してきたとの報道があります。これは中国の火力発電の影響との観測もあり、中国の電気自動車普及による電力からのCO2排出ばかりか、日本にとっては中国の発電エミッションも問題です。環境の分野には国境はありませんので、いくら隣国のこととはいえ、日本としてもなんとか対応策を講じる必要があるのは間違いありません。

1970年アメリカで成立した大気浄化法改定、通称マスキー法以来、自動車排気ガス規制とその運用をリードしてきたのはアメリカでした。排気ガス規制の目的はもちろん、大都市住人の健康にまで影響を及ぼすようになってしまった大気環境保全の実効をあげることであり、排気ガスクリーン度の判定も、あくまでも実際の汚染度の抑制にあります。

規制レベルに販売するクルマの排気ガス性能が制定した合格していることを公式試験で確認し、認定書ないしは認証書など許可が下りてから、クルマの生産、販売を開始することができます。アメリカでは、その公式認証試験でのチェックだけではなく、その公式モード以外で排気浄化システムの作動を意図的に停止したり、弱めたりする設計を“デフィート・デバイス”いわゆる排気ガス浄化機能の「無効化機能」として禁止し、メーカーにこの規定を守って設計していることの誓約(グッド・フェース)を求め、それに反する行為には厳しい罰金を科してきました。

また、排気浄化システムの性能低下を招くような改造、通称“タンパリング”「不正改造」が実施できないように、設計配慮まで求めていました。さらに、新車だけではなく、経年使用車のクリーン度チェック、“リコールチェック”も厳しく行い、規制レベルそのものの強化とともに、メーカーとしてのクリーン性能保証も、マスキー時代の5年5万マイル(8万キロ)保障から、1990年代に入り制定されたカリフォルニア州LEV/ZEV規制での15年15万マイル(24万キロ)保障にまで延長されています。

この排気ガス規制強化を通じても、日本勢はこのリアル・ワールドでのクリーン品質の高さを誇ってきましたが、肝心の日本で、今になって排気ガス規制対応の初歩の初歩「デフィート・デバイス」を疑われる問題が発生したことは、まだまだ「護送船団方式」の「ガラパゴス化」のあらわれであり、残念です。
排気「デフィート・デバイス」禁止条項の明文化と、罰則規定制定についての東京都知事から国土交通大臣に対する要請書

いずれにしても、地球環境問題、都市環境問題ともに人間にとってリアルで深刻な問題であり、その取り組みには実効をあげることが求められています。次の環境自動車には走行中「ゼロ・エミッション」「エコのため…」の広報宣伝フェーズから脱皮して、実際のマーケットで、またリアル・ワールドとして、WTWとして、LCAとして、また実際の石油消費量総量の削減とし、さらにCO2削減として、またオゾン、窒素酸化物や浮遊粉塵濃度など都市大気環境基準に対し、どのように効果を上げられるかにも注目したいと思います。