IPCC第38回総会と自動車の低CO2

横浜でIPCC第38回総会開催中
今週の25日から横浜市パシフィコ横浜会議センターで、気候変動の現状分析と対応策を話し合う、IPCC第38回総会が開催されています。IPCCは国連環境計画(UNEP)、世界気象機関(WMO)により、1988年に世界の気象学者と環境研究者、政府機関の環境政策スタッフを集めて設立した政府間機関です。
人間活動で排出される温暖化ガスにより引き起こされていると言われる地球規模の気候変動に関する科学的な最新情報をまとめ、各国にその実情と将来予測、緩和にむけての政策提言をおこなう役割です。定期的に気候変動に関する多くの専門家の研究と分析をまとめて報告書を発行、今年は2007年の4次報告書に次ぐ第5次「評価報告書」発行を予定しています。
この活動を通じてIPCCは2007年度にアメリカのクリントン政権時代の副大統領ゴア氏とともにノーベル平和賞を受賞しています。代表として賞を受け取ったのが、現IPCC議長のパチューリ氏です。

生態系、経済社会への影響と適応策が提示される?
今回の総会では、温暖化ガスの増加がもたらす生態系、社会、経済社会への影響及び適応策について評価を行う第2作業部会の活動報告を予定しており、最終日にはこれまでの活動を纏めた評価報告書を採択し発表することになっています。
2007年の第4次評価報告書としての提言に基づき、国際社会として温暖化ガスによる地球平均気温の上昇を2℃以下に抑制するとの目標に合意していましたが、温室効果ガス排出削減への取り組み目標を決める国際条約をなかなか纏めあげることができずにいます。
(国際条約を決めるには通称COP:気候変動枠組条約締結国会合)

地球平均気温上昇2℃以内に抑制は絶望的
今回のIPCC総会を前に、パチューリ議長は2℃までの抑制は絶望的であり、このまま増加が続くと今世紀末には平均気温が最大4.8℃上昇するとして、経済損失が大きいだけでなく、人命や生態系への影響が甚大と警告しています。さらに、「何もしないことのつけは非常に大きい」と各国が早急に温室効果ガス排出削減に取り組むことを呼びかけました。
日本では福島第1原発事故の影響で原発がほぼ停止状態に追い込まれ、削減どころか1990年比でも増加する状況に追い込まれています。また、中国、インドなど発展途上国の経済急成長で石炭、石油、天然ガスの消費は急増し、温室効果ガスの代表である二酸化炭素(CO2)の大気中濃度が、産業革命前の280ppmから昨年とうとう400ppmの大台を突破してしまいました。

自動車からのCO2排出
自動車もCO2排出の主役の一つです。ハイブリッド開発に取り組んだのも画期的な低燃費自動車を普及させ、CO2排出の寄与度を下げることでした。日本ではハイブリッド車の比率が17%に達し、従来車の低燃費化も加速、日本の燃料消費総量が減少に転じています。アメリカでのハイブリッド比率はまだ3.8%台とわずかですが、低燃費の流れは強まり石油実需が減少に転じたようです。一方、三度目の正直だったはずの電気自動車は、またもやそのブームは去りかけています。電気自動車の走行中ゼロエミッションには意味はなく、温室効果ガス削減が目的なら発電時のCO2、さらに自動車製造時、電池製造時、配電ロス、充電効率、配車時のCO2を含めて評価すべきです。しかし、この議論の前にクルマとしての基本機能、性能不足で、主役としては役不足、ニッチのマーケットではCO2削減への期待も萎んでしまいそうです。その替わりか、これまた1990年代後半のデジャビュのように、水素燃料電池車(FCEV)がクローズアップしてきました。これまた、世界の自動車から排出するCO2削減の主役となるには克服できるかどうか判らない課題が山積しています。 その将来は水素燃料電池車の実用化に人生をかける気概で取り組んでいるエンジニア達にかかっていますが、簡単ではありません。

実用燃費3倍へのチャレンジに期待
一方、このハイブリッド車、低燃費車の流れにも変化の兆候が現れてきました。エコ、エコのかけ声ばかりで、何かエコ疲れが見えてきたのではと心配しています。エコとエコは気にしない派の二極分化が進み始めているように思います。21世紀はエコカーの時代、その21世紀に間に合わせましたと言い歩いた当事者ですが、未だにカタログ燃費の数字を競い合うエコの押し売りでは、次のステップの普及拡大にはつながらない気がしています。
もちろん、燃費向上、低CO2の足踏みは許されませんし、軽量化、低空力損失などクルマとしての低燃費、エンジンの高効率化、電気駆動系の高効率化、電池の充放電効率向上もまだまだ余地は残っています。以前のブログで紹介したように、ハイブリッド開発の燃費向上目標はプリウス開発ストーリーで紹介されている燃費2倍ではなく燃費3倍でした。
カタログ燃費だけの目標ではしょうがありませんが、今なら当時のカローラ比として実走行燃費3倍は無謀なチャレンジ目標ではないように思います。

その上で、普通に走ると燃費3倍のエコ、しかし時には郊外で気持ちの良いエンジンサウンドを響かせながら伸びのある加速も両立させたクルマが目指す方向です。セダン、ステーションワゴン、クロスオーバー、ミニバン、スポーツクーペ、カテゴリーもそのデザインも好みは人それぞれ、エコだけではなく、それぞれの好みのジャンルでサプライズを感じ保有したくなるクルマが実質エコ拡大を牽引するように思います。マーケットが盛り上がり、こうしたクルマが古い燃費の悪いクルマに置き換わっていってCO2削減の実効を高めることができます。

販価の制約は大きいですが、発展途上国へもこうしたクルマを普及させていくことがグローバル自動車としてのCO2排出削減への貢献です。

COPでの国際合意に期待するより、技術イノベーション
今回のIPCC 総会での提言が次のCOPにどのように反映するかは判りません。グローバルな温室効果ガス削減への取り組みは待ったなしですが、これは国際政治で決まること、多くを期待してもしょうがないことは過去のCOPの歴史が物語っています。

それでも手を拱いているわけにはいきません。クルマだけではありませんが、研究者、エンジニアがやれることはまだまだあります。日本の環境、省エネ技術をさらに進化させ、エコと商品魅力の両立、販価効果を高めていくことがエコイノベーションです。
45年のクルマ屋の目から見て、今の世界のクルマの中でエコとクルマの魅力を両立させ、サプライズを感じ保有したくなるクルマは残念ながらありません。終の棲家ならぬ、免許証の返上前にこうした終のクルマに巡り会いたいものです。

ピークオイル論と将来原油価格予測

昨日(11/17)の朝日新聞に、「廉価な石油の時代終わった」との見出しで、国際エネルギー機関(IEA)の事務局長をされている田中伸男氏のインタビュー記事が掲載されていました。それによれば、世界はピークオイルの時代を迎えており、安価に石油を採掘できる既存油田からの供給量が減り、高度な採掘技術を要する割高な油田への依存が高まり、さらに将来の需要増大を考慮に入れれば石油価格が2009年平均のバーレル(約160ℓ)$60から2035年には$113へと上昇すると観測されているようです。

進む原油高騰、迫るピークオイル

2008年の世界金融不況の余波によって2009年にバーレル$40台で底を打った原油価格は、日本にいると同時に進んだ円高の影響でガソリン小売価格が上昇していない為に実感として感じられはしませんが、すでにアメリカの不況対策としての金融緩和の影響でドル資金が再び石油市場に流れ始めており、直近ではバーレル$80.44(11/17終値)にまで上昇してきています。石油需要の推移を見ても、先進国の中で、着実に消費量を減らしてきているのは、軽自動車など小型車シフトとハイブリッド車を代表とする低燃費自動車の普及による低減等もある日本だけとなっています。

しかし世界全体で見ると、経済の成長とともに石油消費を増大させている中国やインドに加え、景気が回復すれば先進国においても石油消費が更に増加することは確実で、この予測以上に原油の高騰することすらあり、国際的に大きな懸念となっています。
アメリカのオバマ政権は、この原油価格の暴騰と、またまだ既存石油埋蔵量が大きなOPEC(石油輸出国機構)諸国からの輸入石油の依存度が高まることを懸念し、自動車分野では燃費規制強化とガソリン自動車から、水素や電気をエネルギーとする自動車への転換を進める、グリーンニューデール政策を打ち出してきています。
このピークオイル、脱石油への動きは、アメリカに留まらず、欧州、日本と強まってきています。

自動車業界が取り組まねばならないこととは

この動きの中で、一時期の水素化社会、水素燃料自動車ブームに替わって、いま世界中で一気に電気自動車ブーム、フィーバーが到来し、これが脱石油の切り札のように取り上げられてきていることに私は危惧を抱いています。これはエンジン屋出身のハイブリッド開発者として、またハイブリッドは電気自動車へのショートリリーフと言われていることに反発するなどといった狭量な考えで危惧しているわけではありません。

それは、『まだまだ普及へのほんの一歩を踏み出したに過ぎない』ハイブリッドを一飛びに飛び越えて『電気自動車を普及させるべき』という論が強まったものの、結局それがうまくいかずに石油の暴騰を迎えたときには、最終的な極論であるはずの『脱自動車論、自動車悪者論』が台頭し力を持ってくるのではないかと恐れるからです。

今現在、技術的に見ても石油消費を減らすウルトラCの特効薬などありません。最も確実で重要な方法は、旧来の自動車からより低燃費自動車へ、さらに現実に実用・量産化されてきたハイブリッド自動車へのシフトを、更に加速して拡大させていくという極めて当たり前の方法しか無いはずです。もし、ピークオイルや温暖化を『真剣』に考えるのであれば、実用・量産化のフェイズにすら入っていない未来のクルマを論じるよりも、いま出来ることに注力すべきです。

ハイブリッドですらようやく一般化フェイズに入ったに過ぎない

エンジン、ミッション、シャシー、車両技術の改良に着実に取り組むこと、やっと育ってきたハイブリッド技術の進化、電池、モーター、その電力制御系とクルマ全体としてのエネルギーマネージ技術の進化に手を休めず取り組むことにより、まだまだ実用車としての燃費削減余地は大きいと思います。

現状では、低燃費自動車やハイブリッド自動車のラインアップおよびその価格帯も普及拡大を加速させるには不十分です。世界中の自動車メーカによる健全な低燃費自動車開発競争によって、これが拡充されることがまず自動車会社に期待すべきことでしょう。また、この低燃費自動車開発競争に勝ち抜き、中国、インド、東南アジア諸国へと普及加速を後押しすることが日本自動車産業としての生きる道ではないでしょうか?そこでは、先週ここに書いた、今でも日本の設計現場、工場現場に蓄積されているもの作り技術が開発競争を勝ち抜き、普及加速に貢献する大きな武器になる筈です。

こうした地に足が着いた行動こそが石油消費総量の増加に歯止めをかけ、ひいては暴騰期待の投機熱を冷まし、ポスト石油までの石油価格安定化に繋がる着実な一歩だと私は考えています。

追記(水素燃料自動車と電気自動車について)

上でもハイブリッド開発者だから言っているのでは無いと書きましたが、私は決してその立場から水素燃料電池自動車や電気自動車を批判しているのでも、このような自動車技術の未来が無いと言っているのでもありません。ただし、これらの技術が今の自動車機能の代替を果たし、実際に石油消費を削減し脱石油へと資するためには、まだまだ量産商品技術として大きなブレークスルーや新しい発想のモビリティコンセプトが必要であると述べているにすぎません。

なお、技術のブレークスルーは、人、もの、金と時間をかければ生み出せるものではありません。水素燃料電池自動車では、燃料電池セルや水素貯蔵技術が実用化に必要なブレークスルー技術にあたります。しかし私には各技術において、先ほど言った通りの現行の自動車の代替を満たすための解は、今の技術の延長線上ではおそらく存在しないのではないかと考えています。

電気自動車も今の自動車に代替しその用途をカバーし石油消費削減に実効をあげる為に必要とされている容量や耐久性が、今のLiイオン電池技術の延長線上にあるかといえば、それはかなり疑問と言わざるをえません。

環境自動車の開発に永年携わってきた私の経験から言えば、このような材料技術、要素技術でのブレークスルーには、大学や公的研究機関の基礎研究から熱意と経験に基づく研ぎ澄ました感性をもつ目利きの研究者の着眼と偶然からから生み出されることが多いように思います。人、モノ、金と時間をかければ生み出せるものではありませんが、人、モノ、金をかけずに生み出されるものでないことも心に刻む必要があります。