二代目プリウス欧州カーオブザイヤー受賞

プリウス、ハイブリッド開発で様々な賞をいただき、その授賞式やフォーラム、環境イベント、広報宣伝イベントにも数えきらないほど出席しました。その中で、一番印象深いイベントは2005年1月17日スウェーデンのストックホルムで開催された“2005年欧州カーオブザイヤー受賞式”です。クルマとしての受賞式ですので、パワートレイン担当は本来は黒子、海外でのクルマ関係の受賞式にはそれまで出席はしませんでしたが、この欧州カーオブザイヤー受賞式だけは、自分で手を挙げストックホルムまで出かけて行き、受賞式に参加しました。

初代の開発エピソードは以前のブログでもお伝えしてきましたが、”21世紀に間に合いました”のキャッチフレーズで量産ハイブリッドとして脚光を浴びたスタートでした。しかし、当時の開発現場の実態としては京都COP3のタイミング1997年12月生産販売開始にやっとの思いで間に合わせたというのが正直なところです。なんとか、お客様にお渡しできるギリギリのレベル、このプリウスを初代初期型と呼んでいましたが、前後のバンパーに衝突時のダメージを防ぐ黒い防振ゴムが付いているのが特徴です。今でも、この黒い防振ゴムがついた初代初期型が走っているのを見かけると、そのけなげな走りに涙がでてくるほど嬉しくなります。

お買い上げいただき、愛用していただいたお客様には申し訳ありませんが、21世紀のグローバルスタンダードカーを目指したプリウスですが、あとで言われたように我慢のエコカーのレベルであったことは認めざるを得ません。このままでは欧米では通用しないと考えていました。生産販売開始前には、開発スタッフ達にほんの一服も与えられずに、次の改良プロジェクがスタートしていました。エンジン、ハイブリッドトランスミッション、その中に搭載する発電機、モーター、そのインバータ、さらに電池まで、普通なら2モデルは持たせなければいけないハイブリッド大物ユニットの全面変更まで決心していました。グローバル展開を図るには、ハイブリッド部品の品質もさらにレベルアップする必要がありました。これが2年半後の2000年5月のプリウスマイナーチェンジ、同時に欧米販売を開始した初代後期型プリウスのハイブリッドシステムです。この後期型プリウスでは、初期型の特徴だったバンパーの防振ゴムがなくなり、一体成形のバンパーとなりましたので一目でその違いが分かります。(写真1)写真1(初代プリウス)

この後期型プリウスも、海外でもいろいろな賞をいただきましたが、その中で残念な記憶は欧州カーオブザイヤーで次点となったことです。選考委員の採点表を見せて貰いましたが、将来のエコカーとして評価し、高い点数をつけてくれた方もおれらましたが、欧州では通用しないクルマとの酷評をいただきゼロをつけた方も複数おられ、このバラツキの大きさで次点に終わりました。私自身も、この後期型は欧州でこそ走る機会はありませんでしたが、士別のテストコース、国内の様々な道路での走行を行い、まだまだクルマ文化が根付き、ドイツアウトバーンがある欧州で評価されるレベルには達していないと思っていました。次点だったことが残念というより、シビアなコメントにも確かに納得するものがありました。次の2代目こそ、欧州の走行環境でも我慢のエコカーではなく、普通に流れにのり走れるハイブリッド車を目標とし、これまた開発スタッフ達は、休む間もなく2代目プリウス用の開発に取り組んでもらっている最中での次点の通知でした。

初代、その後期型までは、“21世紀に間に合いました”“量産世界初のハイブリッド”、“COP3に間に合わせよう””欧米でも使えるハイブリッド車”と、技術チャレンジの連続、その開発プロジェクトマネージは今思い返してもエキサイティング、無我夢中で過ぎたプロジェクトでした。車両チーフエンジニアの車両企画上のコスト目標も無視をし、とにかく世界初の商品を仕上げることに集中できました。

しかし、二代目からはそうはいきません。超トップのサポートは引き続き得られましたが、事務方からはそれまで使った巨額の開発費用や、設備投資の回収を迫られ、一方では、初期立ち上がりの品質不具合多発で従来車よりも多額の品質補償費を原価目標に積まされ、米国からはこのサブコンクラスで、当時の安いガソリン価格では売れる筈がないと酷評され、車両企画の元になる販売目標として1,000台/月を切る提示があったりと、二代目の車両企画、そしてハイブリッド企画も右往左往しました。

エンジン、ハイブリッドトランスミッションなど大物ユニットでは、コスト面からは1万台/月以上で生産ラインを計画することが最低ライン、欲を言うと2万台/月と言われていましたが、2代目プリウスでは1万台/月の企画さえあり得ないと言われ続けていました。それでは、まともな原価目標の立てようもありません。一時は、アルミボディーの限定生産燃費チャンピオン車で良いなどとの企画提案すらありました。21世紀のグローバルスタンダードどころの話しではありません。

技術部の中もアゲンストの嵐、そのなかでやっと立ち上げたのが二代目プリウスとそのハイブリッドシステムです。これまた、部品ベースでは、初代後期型からほぼ新設計での作り直しになりました。しかし初期型THSの大きな欠点の一つだった、エンジンのトルクアップ、パワーアップに対応するトルク容量アップ余地を増やすレイアウト変更まではやれませんでした。

二代目は、そんな中で欧米でも普通に走れるハイブリッド車を目指しましたが、振り返ると初代は無我夢中の技術チャレンジであっという間に過ぎ去っていきましたが、二代目の開発はそれ以外の苦労が多かった印象です。様々な制約、費用回収の要求からのコスト低減要求、さらに様々な外乱の中で、グローバルスタンダードの志しを下ろさず、知恵を絞り抜いて取り組んだ開発でした。

それだけ、いろいろあった2代目プリウスの開発でしたので、2005年欧州カーオブザイヤーの受賞はなにより感激した出来事でした。欧州販売開始は2003年末からでしたので、選考委員もしっかり欧州で走り込んだうえでの審査だったと思います。非常に高い得点で2005年カーオブザイヤーに選ばれました。

その選考委員の採点表欄をみると、初代後期型ではゼロ、もしくは非常に低い点数を付けた選考委員の方々が、この2代目プリウスには高い点をつけ、コメント欄に前回の低い点を付けたことが間違いで、ここまでの進化を見抜けなかったとのコメントが複数ありました。このコメントを読み、欧州でも評価してもらえるクルマにすることができと嬉しさがこみ上げてきました。これが自ら受賞式出席に手をあげ、寒い冬の観光にも不向きな1月中旬、ブリュッセルから一泊二日、トンボ帰りの受賞式でしたがストックホルムの受賞式に参加した背景です。

冒頭の選考委員会委員長Mr. Rey Huttonのスピーチの中で

「トヨタは(自動車としての)厳しい道を学んできた。カーオブザイヤーの審査委員は、2000年プリウスも候補としたが、その投票は割れていた。当時では、プリウスが将来のビーコンと見なした委員と、ハイブリッドのアイデアは見当違いと片づけた委員に分かれていた。新型プリウスは2000年には無かった大部分を持つようになった。今回は、32の候補車の中で、過去最高得点の一つ139点を獲得し、58人の審査員のうち39名がトップとした。」

などとこの受賞を紹介してくれました。

その後、当時の技術担当副社長がトロフィーを受け取るのを見守り、一緒に写真撮影を行い、多くの選考委員の方々と話しをすることができました。そのディナーで味わったワインは、それまでもその後も味わうことのあった有名シャトーのワインよりも美味しかったことが忘れられない思い出です。(写真2)

写真2(2005欧州カーオブザイヤー)

このブログを書きながら、はたと思い至ったことがあります。この欧州カーオブザイヤーの受賞式は2005年1月、これがひょっとすると今大騒ぎになっているVWスキャンダルの引き金の一つになったのではとの思いです。

プリウスハイブリッドが米国で、欧州で認知度が高まり、急激に販売を伸ばし始めたのもこの頃からです。講演会、フォーラムでの欧米エンジニアの態度、目線に変化を感じ始めたのもこの時期からのような気がします。特に、欧州のエンジニア、ジャーナリストは、審査員のコメント、委員長のスピーチにあったように2000年のモデルまでは、ハイブリッドを収益無視の広告宣伝用のシステム、欧州では通用しないとの意見が主流であったのに対し、この2003年二代目でその見方が変わったように思います。

当時は、欧州でも認知されたことを喜ぶばかりでしたが、そこまでインパクトを与えたとすると、それから10年、3代目から4代目をこの世界にサプライズを与えたインパクトを引き継げているか、次の機会には振り返ってみたいと思っています。

この二代目プリウスは、このブログのように、2005年欧州カーオブザイヤー受賞の他、北米カーオブザイヤーも受賞しました。しかし、本家本元日本ではカーオブザイヤーを逃してしまいました。日本のエンジニアである私にとっても残念なことでした。

二代目のハイブリッド開発は、様々な制約はありましたが、我々には我慢のエコカーから欧州(ドイツアウトバーンを除き)で普通に心配なく走れるエコカーの実現の目標にはブレはありませんでした。しかし、今振り返ると、社内では走りの良さをアピールポイントにしたいとの声が強すぎ、走り系のモータージャーナリストから、欧州車との対比で拒否反応があったことも原因かとも思っています。

今回の騒ぎで思い出したことが、あたりか、外れは判りませんが、時代を切り拓くつもりでやったことは確かです。フェアな土俵で、その次の時代にも安全・安心、自由に快適に移動そのものも楽しめるFuture Mobilityを巡る、世界自動車エンジニアのチャレンジを期待します。

低燃費自動車のゆくえ

先月28日、オバマ政権は昨年11月に提案されていた自動車新燃費規制に、CNG車やEV車販売に対する追加クレジット付加などの修正を加え、2025年までに乗用車のメーカー別新車販売平均燃費値として、現行の35.5マイル/ガロン(15.1km/リットルから54.5マイル/ガロン(23.2 km/リットル)達成を義務づける燃費規制法案の実施を発表しました。

また欧州でも7月11日に欧州委員会の原案として2020年までに欧州市場で販売する全ての乗用車やSUVやミニバンなど軽商用車から排出される台当たりの平均CO2排出量を、現行の2015年規制130g/km(ガソリン燃費換算で約17.8km/リットル)から95g/km(ガソリン燃費換算で約24.3km/リットル)への強化案を発表しました。

いよいよ低燃費&低カーボン自動車へのシフトが待ったなしになってきています。今日のブログでは、「低燃費自動車のゆくえ」とのタイトルで、従来エンジン車からハイブリッド車までの低燃費化のアプローチについて私見を述べてみたいと思います。

数値そのままでは比較できない

以前のブログでも書きましたが、各国、各地域の燃費規制値の比較をするにしても、そのままアメリカのマイル/ガロン値や欧州のCO2換算でCO2_g/km値、日本のkm/リットル値を同じkm/リットル値に換算にて比較しているレポートを見かけますが、これは全く意味がありません。燃費値を求める試験法、その走行モード、算定方式が国毎、地域ごとに異なるからです。

一昔前の排気規制値の比較でも、排気ガス成分中の一酸化炭素(CO)、未燃炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)の規制値をg/kmに換算し、日本の規制値が一番厳しいとの言っていた時期もありましたが、日本の規制方式はエンジンの暖機運転をしたあとで10-15モードを走らせ排気ガス成分を分析する方式で、アメリカの1昼夜駐車した後でエンジンも排気触媒も冷えた状態からスタートさせ、大きい加速度と高い最高速度で算定されるアメリカの規制と比較すれば数値は低くとも、技術的には遙かに緩い規制でした。

燃費もこれと同じで、試験法、走行モード、算出法の全く違うものを単純比較はできません。またアメリカの中だけでも、CAFÉ燃費規制で扱われる燃費値と公式認証燃費値を決める連邦環境保護庁(EPA)から公表され、販売店での展示車フロントガラスに添付することが義務づけられているラベル燃費/ステッカー燃費と言われる燃費値とは、同じマイル/ガロンで表しますがまったく違う算出方式ですのでこれを混同すると厳しさの判断が大きく狂ってしまいます。

表1_プリウス燃費比較

表1は、同じプリウスの日米欧における公式燃費の比較です。日本、アメリカ、欧州向けの仕様で、車両重量、タイヤ諸元など微妙に異なりますが、ほぼ同じ標準仕様車の公式燃費値でも日本、アメリカ、欧州で大きく異なることがお解りいただけると思います。

いずれの公式燃費も、実験室に設置したシャシーローラにクルマを載せ、そのクルマを平坦路で走行させたときと同じような走行負荷が掛かるようにローラー軸に付けられている動力計でクルマの走行抵抗を調整し、規定走行モード(パターン)を走らせ排ガス性能と燃費性能を測定します。アメリカのコンビ燃費は、アメリカ都市内走行を想定したシティーモードと、ハイウエー走行を想定するハイウエーモードを走行し、シティー走行燃費のウエートを55%、ハイウエー走行燃費のウエートを45%として算定した燃費値をコンビ燃費と呼び、これをCAFÉ規制の算定基準燃費としています。

紆余曲折のアメリカ燃費基準

少し脱線しますが、このシティー走行モード(走行パターン)は自動車の排気ガスによる大気汚染が問題になった1970年代の初めに、その排気ガスのクリーン度をシャシーローラ上で評価する走行パターンとして作られました。

ロスの地方道4号線を走っているクルマの走行パターンを調査し、その代表的な走行モードを抽出して定められたことからLAナンバー4、LA#4モードと呼ばれています。当時のシャシーローラでは当時のクルマでもその抽出したモードを走らせるとタイヤスリップを起こしてしまうので、今も使われているこのLA#4 モードでは、実際の調査モードからスリップが起こらないように加速度、減速度を緩めた走行モードとなっています。

一方、ハイウエーモードは石油ショックの影響から輸入石油消費の削減を目的に導入したCAFÉ規制の燃費値をも求めるために提案された走行モードで、石油ショック後にこれも燃料消費削減を目的に実施されたハイウエーの最高速度制限を厳しくした時に設定され、当然ながら遵法運転を行った場合の走行モードですので最高速度は現在の実際の流れ寄るも低速になっています。

またどちらのモードも大気温度75°F(約24℃)と春、夏のヒーター作動もなく、エアコン負荷も小さな大気条件での試験で、いずれも今のリアルの走行燃費よりかなり燃費の良い結果がえられます。シティーモードでは一晩駐車したあとのクルマ、エンジン、触媒なども大気温に近い状態からのエンジン起動(冷間始動条件)となっています。CAFÉ規制は従来から、このコンビ燃費を使っており、オバマ政権の提案するCAFÉ強化提案も、この基準燃費での規制です。

それでも、日本の10-15モード、JC08モード走行での走行燃費よりは低い値となります。ちなみに、EPAラベル燃費は、1980年代にこうして算定したCAFÉ燃費を公式燃費としたところ、この公式燃費が実際のユーザー燃費と大きく異なることからEPAが訴えられ、シティー、ハイウエーそれぞれの燃費値に概略の修正係数をかけ、ラベル燃費として公表するようになった経緯があります。

さらに近年になり、インサイト、プリウスが発売され、ハイブリッド車のような低燃費車のラベル燃費では、これまでの係数をかけてもユーザー平均燃費とのギャップが大きくなっているとのユーザーの訴えから、EPAはユーザー平均燃費に近づくようにラベル燃費算定基準を変更しました。

これはかなり複雑な算定方式で、シティーモードやハイウエーモード以外に排気のクリーン度評価に使っている、大気温-7℃での低温COエミッション試験、US06、SC03モードと呼ぶ大気温が高くエアコン負荷の大きな運転モードや、急加減速運転の排気性能評価のモードの燃費測定結果の全てを加味し、悪目、悪目に燃費値が算定されるように調整した算出方式です。

正直言うと、アメリカ方式では、開発段階、認証試験、認定試験段階で、車両スペックごとに試験車両を備える必要があり、また試験の数、回数、その設備もばかにならず、開発エンジニアにとっても、会社にとっても費用、時間、要員数で負担の大きなやりかたです。このような複雑な試験法はあまり歓迎できませんが、日本もそろそろリアルワールドをもう少し意識する時期になっているように思います。

プリウスは既に将来の規制をクリアしている

脱線が長くなりましたが、フルハイブリッドのプリウス燃費ならば、2025年のアメリカCAFÉ規制強化、2020年の欧州95g_CO2規制をパスするレベルを現在でも達成しています。さらに、昨年新モデルを発売開始したカムリハイブリッドのCAFÉ基準コンビ燃費が標準車で58.7mpg(24.9km/リットル)プリウスC(日本名アクア)は71.8mpg(30.5km/リットル)となり、トヨタ車の販売車種総平均燃費としてカムリハイブリッドレベルで規制値を満足できることになります。
また欧州CO2規制ではすでに2015年基準メーカー平均130g_CO2/kmをトヨタは他社に先駆けてトップでクリアしており、2020年95g_CO2/kmもフルハイブリッドを増やしていけば遅れをとることはないと思います。

米国、欧州の今回の燃費規制/CO2規制強化の提案は、電気自動車や天然ガス自動車のクレジットもありますが、なんらかのハイブリッド化が不可欠なレベルの燃費規制で、日本の経済誌で取り上げられた日本のハイブリッド「ガラカー論」は外れとなりそうです。

カタログ燃費だけ追ってはいけない

カタログに表現できる燃費は公式燃費値だけですので、それぞれの国、地域での評価モードで良い公式燃費がでるように、各社競いあっていることは事実ですが、燃費規制の目的はあくまでもグローバル、リアルでの石油消費削減であり、CO2排出の削減です。

確かに初代プリウスの開発で燃費2倍の目標はまず日本の10-15モードでの目標でしたが、当時からリアルの燃費向上が常に意識の中にありました。梅雨時、夏のエアコン運転からくるエンジン起動を冷気蓄熱を使い少なくする工夫、冬のヒーター要求からのエンジン起動もできるだけ低水温から温風を吹き出させる工夫、10-15モードの回生発電なら全く不必要なエネルギー容量を確保するハイブリッド電池、さらにエンジン停止走行時間を増やすためのエアコンコンプレッサーの電動化、冷却水の蓄熱、排気熱でのヒーター用冷却水熱回収などなど、ここまでの燃費向上では常にリアルでの燃費向上をめざした取り組みでした。

もちろん、日本の10-15モード、JC08モード、アメリカ-シティーモード、欧州EUモードのように都市内走行シミュレートの発進停止の繰り返し走行、平均車速がそれほど高くない走行モードでは停車中および低車速走行時のエンジン停止、EV走行、大きなエネルギー容量の電池と大出力モータを持つフルハイブリッドの最も得意とする走行モードですから、この走行モードで燃費を大きく向上させていることは事実です。

高効率エンジンの採用とその燃費効率最適ポイントでの運転がもう一つの重要な燃費向上の基本メニューです。これに加え、最近話題の小排気量(ダウンサイジング)過給も低燃費の定番メニュー、1990年代クリーンエンジン開発担当時のテーマの一つも小排気量過給でした。

過給が効きブーストトルクが発生するまでの応答遅れを改善するため、セラミックターボ、チタン製のコンプレッサーブレードのトライ、さらに機械式過給器までトライしていました。エンジンの高効率を追求し、トルク/出力性能をトレードにかけたアトキンソンエンジンを使い、電池出力アシストをおこなうプリウスハイブリッドの考え方も、小排気量過給と基本は共通です。燃費最適運転と電気過給ならぬ電気アシストがそのコンセプトです。

細かいアプローチは違えども低燃費化への基本思想は同じ

この低燃費化への基本的アプローチは、従来エンジン車(通称コンベ車)でも同じです。まず車両の軽量化、空力改善、さらにタイヤ転がり抵抗や動力伝達系の引き摺りによる損失低減が車両全体として基本部分です。低燃費メニューをどのように取り入れるかで違いがでてきます。エネルギー容量の大きな重いハイブリッド電池を搭載し、二つの大出力モータ/発電機を持つことにより重量増を招くハイブリッド車のハンデを減らすハイブリッド部品軽量化の取り組みも継続して行われ大きな成果を収めてきました。

最近何台かの欧州低燃費車に乗る機会がありました。ダウンサイジング過給、7段デュアルクラッチシーケンシャルギアボックス(DSG)、さらにエコランと定番のメニューで低燃費を目指したクルマです。このクルマに搭載している7段デュアルクラッチシーケンシャルギアボックスの作動は、またにエンジン燃費最適運転へのシミュレート、多段化は欧州勢が好むMTベースのダイレクト変速というよりも、多段化により低燃費エンジンポイントでの運転頻度を高める手段、言い換えるとCVT運転に近づけるための多段化と感じました。

クルージングに入るとすぐにアップシフト、アップシフトさせ日本の高速道路巡行までではでききる限りエンジン回転数を抑えた低燃費ポイントに抑えています。ダウンサイジング過給も低容量型のターボを使い、低速から過給が効くようなセッティングですが、やはりガソリンターボはガソリンターボ、ブーストトルクがでてくるまでのタイムラグ、それと加速時にはダウンシフトと入り交じったビジー感は免れませんでした。

またエコランでは、残暑が厳しい9月の東京での走行ではほとんどエアコン運転からの要求からほとんどエコラン運転にはならず、モード燃費対策と言われてもしかたがない状況です。この状況は、初代プリウスで梅雨どきの除湿、夏の冷房要求からのエアコン運転でエコラン、EV走行ができなくなってしまう悩みと一致していました。リアルの燃費向上を目指していくと、結局同じ方向、エンジン停止中のエアコン作動には少し容量アップした電池、それを充電するためにはベルト駆動の発電機では物足りなくなり回生発電量の大きくとれる発電機、エンジン停止走行域拡大には、少し車速のあるところからエンジン停止をし、との途中からの再加速要求にはエンジンの急速起動ができる高出力スターター、さらに少しクリープ走行ができるモータが欲しくなるなど、どんどんハイブリッドメニューが多くなってくるように感じます。

さらに、リアルでの低燃費を追求していくとなれば、ハイブリッド化はさらに進むと思います。この多段デュアルクラッチシーケンシャルギアボックスで、パワーアシスト&回生用のそれなりのモータをつけたハイブリッドならば、クリープ、電池アシスト、回生と、今指摘した欠点の多くは改善できるのかもしれません。私もかねてより、こうしたシステムを搭載したクルマが、トヨタTHSの有力なライバルの一つとなるのでは注目していましたが、いよいよ登場しそうでそのポテンシャルに注目しています。

クルマとしての魅力を備えた次世代車を

もちろん、トヨタTHSが究極のハイブリッドと言うつもりはありません。さまざまな欠点があり、欧州の多段DSGとの対比で言われるCVT感、エンジン回転が勝手に吹き上がりダイレクト感のなさ、その割に高速燃費向上が今ひとつなど指摘されています。その指摘は当たらずと言えど遠からず、CVTフィーリングは低燃費追求の結果であることは事実ですが、THS機構そのものからくるものでもなく、改良余地もまだまだある部分です。

もちろんこれからも次世代自動車としての社会要請から低燃費、低カーボンへの追求は手を緩める訳にはいきません。しかし、エコだけはクルマとしての魅力として不十分です。速度無制限がまだ許されているドイツのアウトバーン走行を除くと、リアルでのほとんどの走行でフルパワーを使うことは多くはありませんが、このフルに近いパワーを使う走行でいわゆるダイレクト感のある動力伝達を行い、回転が上昇するとともに今のTHSよりも気持ちよいエンジンサウンドを響かせリニアに伝達パワーが高まるダイレクトな走りを実現させることは可能と信じています。

通常の90%以上は安全、安心、快適な低燃費運転でカバーでき、たまに10%以下の頻度で道路環境を確かめてフルパワーも使う気持ち良くドライブができるクルマの実現を夢見ています。それなら、リアル燃費の目減りをほとんどさせずにやれるように思います。さらに付け加えると、日本の通常の走りではそれほど差を感ずることはありませんが、欧州車の車体剛性の高さは見習う必要がありそうです。

これから、移動手段、輸送手段としてのクルマと、保有し、走る喜びを感ずるパーソナルモビリティとの2極分化がさらに進むような予感がしています。現役時代に実現出来た訳ではありませんが、私が目指していた次世代自動車はこの保有し、走る喜びを感じ、意識しなくともリアルでの抜群の低燃費も実現できるパーソナルモビリティです。

その意味では、欧州低燃費車も日本のハイブリッド車も私の理想イメージからはまだまだほど遠いとところにあると思います。免許証返上まであと1台か2台乗り換えられるかどうか、ぜひ最後のクルマとして満足できる次世代ハイブリッドパーソナルモビリティの実現を待ちたいものです。

次世代自動車のゆくえ

増え続ける自動車

2011年の世界新車販売台数はまた世界新記録を記録したようです。8000万の大台には届かなかったようですが、リーマンショックで先進国の販売が大幅に落ち込んだ2009年を除けば近年、世界の自動車販売台数は毎年新記録更新を続けています。自動車保有台数もこれにつれて増加の一途をたどっており、統計値が確認できた2009年で9.65億台ですので、2010年には間違いなく10億台を越えていると思います。

国別では、中国が1850万台と3年連続のトップ、2位のアメリカがリーマンショックから回復基調にあり1280万台を記録しましたが、史上最高を記録した2000年の1740万台からはほど遠い状況です。日本は、大震災やタイの洪水による減産の影響が大きく、含軽で421万台と1980年代初めのレベルとなってしまいました。保有台数(2009年)では、アメリカが2.48億台とトップを維持し、日本が0.73億台と2009年までは2位をキープしていましたが、現在では中国に抜かれています。

自動車の普及率では、アメリカが人口1000人あたり809台、この数字には赤ん坊や子供まで入っていますので、成人一人一台、日本、中国はそれぞれ579台、45台(2009年統計)となっています。中国はまだ日本の10分の1以下の普及率、昨年の中国新車販売台数が13年ぶりの低い伸び率とはいえ、史上最高の1850万台を記録し、経済成長につれさらに大きく伸びていくことは間違いないでしょう。

この10億台を越える自動車の燃料として、99%がガソリン、または油の石油液体燃料を使って走っています。深海油田からの採掘、シェールガスならぬ、シェールオイルなど在来型ではない石油生産も増えていますが、この保有台数の伸びに供給が追いつかなくなることが強く懸念されています、いわゆるピークオイルの到来です。この数年は世界不況により、石油需要が頭打ちになっていますが、それでもリビア、イラク、イランなど産油国の政情不安に石油価格が敏感に反応するなど、需給バランスが非常にタイトになってきていることは確かです。景気に少しでも明るさが出ると、原油価格が跳ね上がる構造となっています。

今年の日本は何年ぶりかに寒く、豪雪が続く冬になり、これで地球温暖化?との疑問もわいてきますが、世界全体ではやはり温暖化傾向が続いているようです。温暖化ガスの主因と云われるCO2ガスの排出削減への取り組みもさらに強めることが待ったなしでしょう。

海外の次世代自動車の状況

1997年12月のハイブリッド車プリウスの発売で幕を開いた次世代環境自動車が、一昨年の三菱i-MiEV、日産LEAF、さらにはGM復活の切り札としてアメリカで発売を開始したレンジ・エステンダー・電気自動車(Extended Range Electric Vehicle :EREV)と名付けた外部充電型ハイブリッド車GM シボレー・ボルトの発売で、2011年はハイブリッド車普及拡大と電気自動車への転換への期待が高まってきました。日本では、大震災、タイの洪水の影響も大きく、新車販売台数は大きく減少してしまいましたが、新車販売台数に占める、ハイブリッド車、電気自動車の比率は着実に増加し、昨年11月には14%を越え、通年では台数こそ減少しましたが、2010年の9.7%から10.8%へと拡大したようです。また、様々な低燃費自動車の投入により、日本全体のガソリン消費量は1990年代後半から減少に転じています。まだ、ハイブリッド車など次世代自動車が石油消費の削減に大きく寄与するまでには至っていませんが、社会全体の省エネでも日本がその技術をリードしてきたように、次世代自動車の普及でも世界をリードしています。
 
しかし、目を日本以外に転ずると、不況対策、雇用対策として日本以上にこの次世代自動車開発、購入に国費が投入されているにも係わらず、またメディアがエコ自動車ブームと大きく取り上げているにも係わらず、次世代自動車の普及は遅々として進んでいない現状が明かになってきます。最近の中国のニュースで中国自動車工業会の発表として、2011年中国の電気自動車、ハイブリッド自動車の登録台数が配信されました。
http://www.chinapress.jp/consumption/28800/
それによると、中国メーカー製にはかなりの補助があるにも係わらず、1850万台中の電気自動車が5579台、ハイブリッド車が2580台、総計でも8159台と量産販売とは程遠く、これでは広報活動用とも言えない状況に愕然としました。

中国中央政府の政策としてハイブリッド車をスキップして電気自動車の実用化を優先させることを決めていましたが、昨年6月に路線バスを除き、今の電池技術では一気に電気自動車を普及させることは困難として、ハイブリッド車にも力をいれるとの政策転換を発表しました。その背景にはこの販売状況の現実があったのではと推測しています。

この中国ほどではありませんが、アメリカも同様な状況にあます。一時は原油高騰によるガソリン価格の上昇が追い風となりハイブリッド車の販売が増加しましたが、2008年秋のリーマンショック、さらにトヨタの品質問題、プリウスのブレーキリコール騒ぎなどが響き減少に転じ、また今年は東日本大震災による減産から、トヨタ、ホンダのハイブリッド車販売がさらに減少してしまいました。台数とシェアでは2007年の35万台、2.9%から、昨年の26.9万台、2.25%への減少です。

今日のニュースで、連邦運輸省(DOT)の依頼で、電子制御システム不具合と疑われたトヨタ車の暴走事故調査を行っていた米国科学アカデミーが、電子制御システムは白と発表しました。これで、連邦航空宇宙局NASAの調査に続く、白の発表です。これで暴走事故に関して大勢が決した感がありますが、この問題がトヨタだけではなくハイブリッド技術普及に水を差したのは間違いなく、非常に残念でなりません。

GM再生のシンボルとして鳴り物入りで発売を開始したボルトは、昨年の販売台数は7671台と月1000台にも達しない状態、日産リーフはこれを上回る10061台を記録していますが、前ブッシュ大統領が2007年年頭教書で述べた“アメリカ人のガソリン中毒(Gasoline addiction)”の症状は替わらず、オバマ大統領が今年の年頭教書で強調した2015年電気自動車/プラグインハイブリッド自動車100万台シナリオもこのままでは達成困難な状況です。

他は推して知るべし、欧州もこの不況とユーロ安、円高で日本車のシェアは低下、ハイブリッド車の販売も減少している状況です。電気自動車では、ルノーの小型バン“カングー”、PSAがi-MiEV のOEMである「iOn」を発売しましたが、郵便会社や公共団体フリート、さらにはEVカーシェア用などその殆どは法人用で、保有台数の大部分を占める個人の購入は少ないようです。

これからの次世代自動車の競争に向けて

石油消費の削減、自動車からのCO2排出を減らしていくには、上の図1に示す世界で使われている自動車(保有台数)を、次世代環境車に置き換えて、そのシェアを増やしていくことが必要です。次世代自動車の中では、ハイブリッド車が圧倒的シェアを持ち、これまでは世界のシェア90%以上が日本勢、その中でもトヨタ/レクサスのハイブリッド車が70%シェアを示していましたが、昨年後半から少し事情が変ってきたようです。ことし2月にアメリカで発売を開始したヒュンダイ車のソナタハイブリッドが売れ行きを伸ばしています。日本勢が大震災、タイの水害で減産を余儀なくされ、さらに円高の影響もあると思いますが、燃費性能でもスタイルでも、さらに品質でも日本勢のハイブリッドに肉薄してきています。今年1月に開催されたデトロイトでの北米モーターショーでも、さまざまなハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車の発表と展示がありました。

日本では、トヨタの小型ハイブリッド車アクアの受注が好調とか、また間もなくプリウスPHVも発売を開始します。日産からシーマハイブリッド、ホンダからはアコードPHVの発売も噂されています。加えてEVについても、各社からの発売が予告されています。日本では、震災復興需要や昨年の減産のカバー、さらにエコカー減税の継続などで、2008年以来となる500万台越えの新車販売と予測され、ハイブリッド車/電気自動車のシェアが15%~20%への拡大が期待されています。

いよいよ世界マーケットでは、本格的なハイブリッド自動車・電気自動車普及を目指す大競争時代突入の予感がします。ポスト石油、低CO2の持続可能な自動車への変換はまだこれからが本番です。これまでは、日本勢がリードしてきましたが、そう簡単にリードし続けられるほど世の中は甘くはありません。われわれは、欧米勢の背中を追いかけながら、なんとか追い抜きたいとチャレンジを続け、ハイブリッド車として結実させることができましたが僅かのリードです。

日本勢がリードを続けるためには、イノベーション技術へのチャレンジと“もの作り技術”の結集、その上で欧米勢、韓国勢に負けない戦略的かつスピーディな経営マネージに掛かっています。もちろんイノベーション技術へのチャレンジと言っても、技術屋の自己満足ではなく、環境性能の高さは当たり前として、クルマの基本性能、スタイル、商品機能では言い訳のない、またお客様に何かサプライズを与えられる時代を半歩リードするクルマを作り上げることが競争の原点です。日本マーケットが世界のパイロットとして、次世代自動車競争をリードし続けることが、次世代自動車の普及拡大を牽引することになります。今年はプリウス発売から15年目の節目の年、家電産業の二の舞にならないように、また負け馬の先走り、日本自動車産業衰退の潮目の年と云われないように、日本勢の奮闘に期待します。