IEAの「Fact vs Fiction」、将来自動車の事実とは?

先月、国際エネルギー機関(IEA)のWebサイトに、″Fact versus fiction” とのコラムが掲載されました。意訳をすると将来自動車やエネルギー、地球環境問題に対する、いくつかの筆者が気になるFact(事実)とFiction(虚構~神話)を対比させた内容です。

この国際エネルギー機関(IEA)という組織は、1973年~1974年の第1次石油危機を契機として、当時のアメリカの国務長官キシンジャーが旗振り役となって、石油輸出国機構(OPEC)の影響力増大に対抗する戦略、政策調査を目的に1974年に設立された国際機関で、本部はパリに置かれています。加盟国の石油供給危機回避―安定したエネルギー需給構造を確立する施策提案―を主な目的としており、そのエネルギー需給調査、その将来予測などは、アメリカ、欧州、日本など石油輸入国のエネルギー政策立案の基礎資料として使われています。そのIEAが、このところのEVブームの盛り上がりの中で、エネルギー問題などにまつわる誤解を解くためにとして、この″Fact versus fiction”と題されるコラム記事掲載したのです。

その主な内容は

″神話″「数年後にEVが普及すれば、石油依存を終わらせられる」
″事実″「各国政府の意欲的な普及目標を基準としても、2020年時点で、EV・PHVの年間販売台数は700万台、それまでの累計販売台数としても、20,000台。これはその時点での世界の自動車保有台数10数億台の僅か2%にすぎない」

″神話″「現在、各国政府が約束している温暖化ガス削減目標を達成すると、地球の平均気温上昇を2℃以内に抑制することができる」
″事実″「現在公表されているすべての公約(鳩山前首相がコペンハーゲンCOP15で約束した日本の温暖化ガス25%削減など)を実現できたとして、2℃抑制目標実現にはほど遠い状況にある」

″神話″「石炭は19世紀のエネルギーで、世界はその使用をやめようとしている」
″事実″「石炭の使用量は上昇を続けており、急激な政策転換がなければこの上昇は続くと予測されている」

″神話″「リチウム資源の一極集中と欠乏がEVの大規模商業普及の足かせとなる」
″事実″「少なくとも現時点でも、2030年までEVの広範な普及を支えるだけのリチウム資源は確保されており、普及が予測以上だったとしても、恐らくそれ以上のリチウム供給余力があると考えられる」

このコラムは、その直後にIEAが発行した、Technology Roadmap – Electric and plug-in hybrid electric vehicles (電気自動車とプラグインハイブリッド電気自動車についての技術ロードマップ)にもとづいて書かれたようです。

この「技術ロードマップ」を読むと、いま欧米各国が輸入石油依存度の低減、ポスト化石燃料、低カーボン化政策の目玉として推進しようとしている、電気自動車・プラグインハイブリッド電気自動車(総称してプラグイン自動車)普及政策と、各自動車メーカの生産計画との間に大きなギャップがあり、さらにこのロードマップの前提としてIPCCが提案し、政府間でも議論されている2050年までに地球の平均気温上昇を2℃以内に抑制を目標へのアプローチとして矛盾だらけであるように感じました。
それに対する、反省であり、警告からのコラム記事ではないかと推測しています。

葛藤が垣間見えるIEAのシナリオ

また、私のブログでも何度かとりあげましたが、このプラグイン自動車の電池充電に使う電力が石炭火力や石油火力など化石燃料発電が主体では、地球温暖化ガスである炭酸ガス(CO2)の削減にはほとんど寄与しないどころか、普通のハイブリッド車との比較でも増加させてしまいます。そして、このコラムにもあるように、いまでも世界全体では石炭火力が増加中であることが事実です。

「その代替として風力や太陽光などリニューアブル電力があるのでは?」という意見もあります。しかしこれも、以前のブログで述べたように、古くからリニューアブル電力の買い取り制を実施し、今年になって脱原発政策を発表したドイツですら、リニューアブル電力の発電シェアは水力を含めて16.5%、石炭火力が日本よりもはるかに多い42.1%と、現在20%強の原子力発電分を含めても日本よりも発電時CO2の排出が多いことが実態です。脱原発分をリユーアブル電力拡大で置き換えようとしていますが、石炭発電主力の構造は変わらず、CO2低減をどのように行っていくのか注目しています。

さらに、中国はまだまだ石炭火力を増強中、アメリカも主力は石炭火力、その発生CO2の低減が大きな課題、IEAのこのコラムは、この発電事情の中でプラグイン自動車普及による低カーボン効果への過度な期待に警告を発しているように感じました。日本でも同様、プラグイン化は確かに石油消費削減には寄与しますが、低カーボン・エコの観点では発電電力のCO2にも注目する必要があります。現時点では、中国、インドの電力Mixではプラグイン自動車のほうが、通常のハイブリッド車よりも発電電力分を含めるとCO2排出が多くなることは事実です。

地球温暖化緩和目標も、このコメントが実態、現在地球温暖化ガスを多量に排出している、中国、アメリカが石炭火力に依存し、中国ではさらにその増強を計画中です。
日本の25%削減目標も、具体的なアクションプランがなく、いまや鳩山さんの放言扱いにしたいところですが、日本が国際社会に約束したことになっています。さらに、この原発事故で、石炭火力、石油火力依存度が高まり、景気低迷を脱出するとエネルギー需要増でこの実現は極めて困難な状況にあることは事実です。

リチウム資源問題についても、この事実の通り、それほど心配をする必要はありませんが、プラグイン自動車の大量普及を進めるためには、リチウム以上に、レアアース、レアメタルの資源問題が浮上してくると思います。自動車搭載のコンパクト・ハイパワーのモータに欠かせないのが、ネオジムとジスプロシウム、その他にもセリウム、ランタン、イットリウムのレアアース、さらにここで話題のリチウムやマンガン、コバルト、ニッケル、白金など数多くのレアメタルが使われており、供給源の多様化、材料代替、使用量の削減、リサイクルなどの取り組みの緊急性が高まってきています。

「技術ロードマップ」をまとめたのは、IEA加盟各国のエネルギー関連官学スタッフ、電力会社スタッフ、自動車メーカスタッフから構成されており、各国、各分野での意見集約がうまくまとまらず、各国政府ベースの積極普及の予測でもIEAの総合的なエネルギー&温暖化緩和シナリオ(図IEA WEO2010 大気中のCO2 450ppmをターゲットとする地球温暖化緩和目標達成BLUE Mapシナリオの次世代自動車予測)と整合性がとれず、内部矛盾を抱えた内容になっていることから、今のプラグイン自動車ブームにアラームを発する意図があったのではと勘ぐっています。

IEA BLUE Map
IEA BLUE Map

1997年から14年が経過、二代目インサイト、三代目プリウスが普通のクルマとしてその販売台数を競いあうようになりましが、ハイブリッド車全体としも全世界の保有台数からはまだ%台にすら届いていません。その状態で、かつ今のプラグイン自動車の現状実力、充電インフラの現状、さらに多額のインセンティブを頂いても、ガソリンのセーブ額ではまだまだ価格アップ分の埋め合わせもできない状況にあります。

脱石油シナリオ、2050年地球温暖化を2℃上昇以内に抑制しようとの目標を、自動車分野にもそのまま適用すると、このIEA Blue Mapシナリオのように、従来ガソリン車・ディーゼル車、さらに加えてそのハイブリッド車からこのようらドラスティックな電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、水素燃料電池自動車へのチェンジが必要との結論になってしまいます。しかし、このコラムの筆者は目前に迫る2020年ですら、シナリオと現実とのギャップは大きく、このBlue Mapシナリオ達成の困難さを示そうとしてのかも知れません。

「タラ」「レバ」の期待で足踏みをせず、着実な歩みを

もちろん、このIEA Webページのこのコラムに示された“神話”に対する“事実”や、メディア報道、政府発表、メーカ発表の背後に隠された今の“事実”に目をそらしてはいけません。かといってそのギャップにオタオタするばかりでは、また例えば航続距離500㎞の電気自動車ができ“タラ”、販価200万を切る水素燃料電池カローラができ“タラ”、プラグイン自動車の電池などエネルギー貯蔵源をネットワークに取り込み、電力需給のインテリジェント制御をおこなうスマートグリッドの実現によりリニューアブル電力でほとんどの電力需要を賄うことができ“タラ”、食料や飼料と食い合わない石油燃料並みの価格で大量に生産できるバイオ燃料が開発され“タラ”と、“タラ”への期待で、今やれること、今チャレンジすれば届くかもしらないことに手をつかなければ、課題の先送りです。

高い目標へのチャレンジ、イノベーション技術へのチャレンジは必要、しかりそれにだけのギャンブルは危険です。現在のクルマの主役、ガソリン車もディーゼル車も、またそのクルマ本体としても、まだまだ高効率、低燃費の余地はあり、やりつくしたとは思えません。さらにガソリン、ディーゼルの効率を高める手段がハイブリッド、これもまだまだ幼児期を脱した段階、さらに改良した高効率エンジンを組み合わせると、まだまだ高効率が期待できます。もちろん、電気自動車が本命に躍り出るまでの電池の出現には、技術のブレークスルーが必要ですが、ハイブリッドやプラグインハイブリッド用途ならば、回生効率のアップやEV走行範囲の拡大などはまだまだ改良の余地があり、システムもプリウス方式だけがハイブリッドではなく、どんどん対抗馬がでてくることを期待しています。

そのうえで、”タラ”の対象となった、電池、水素燃料電池、スマートグリッド、バイオ燃料など、従来技術の進化では到達できない、″神話″を″事実″に近づけるイノベーション創出へチャレンジできる環境を整えることではないでしょうか?このジャンルは、熱意ある専門人材が叡智を絞り取り組むことが必要、それでも単に頭数、物、金、時間をかければ成果がでてくるたぐいの話ではないことを銘記すべきです。

表面だけのプラグイン自動車ブームにうつつを抜かしている時間はありません。さらに各国政府の積極的なプラグイン自動車普及策でも、Blue Mapシナリオ達成の第1ステップにすぎません。政府が多額の補助金を出そうが、カリフォルニア州ZEVのように、法規制で販売、購入を義務付けしようが、お客様が受け入れ購入して頂けなければ、普及を果たすことはできません。ハイブリッドプリウスはZEVをターゲットから外したところからスタートさせました。補助金ありきの開発をしたわけでもありません。多額の補助金も、結局は国民の税金、補助金をあてにしなくても、お客様にメリットを感じていただける価格で、さらにサプライズを感じていただけるクルマがめざすべきターゲットです。

先週のブログで息子が述べたLEAFの試乗ですが、基本的には私も同じ感想を抱きました。電気自動車実用化にかけた開発エンジニアの志を感じ、その努力による完成度の高さを感じたが故に、皮肉なことに石油消費削減、低カーボン化のメニューとしての電気自動車の限界を感じてしまいました。その限界と感じた最大のポイントは、航続距離と充電インフラですが、その限界を決して超えない用途だけで使うならば、このクルマに不満を感ずるユーザーはほとんどいないと思います。しかし、その限界を左脳で感じてしまうと、滑らかで、静かで、力強く、さまざまな表示でも電気自動車をうまく使いこなすための、また充電切れにならないための様々な工夫が織り込まれ、その志の高さをそのクルマに感じても、右脳でのサプライズを感ずることはありませんでした。

エコは必要条件、エンジン車が電気自動車や水素燃料電池車に当分はその主役の座を譲ることはなさそうですが、低燃費、低カーボンへのチャレンジに手を抜かず、さらにエンジニアのクルマへの思い入れと将来の夢をこめて、魅力あるクルマとしての十分条件を探り、神話/事実のギャップを飛び越える次のクルマへのチャレンジとその実現を日本の若いエンジニアに期待しています。もちろん、だれか熱意ある専門人材の叡智で、ブレークスルー技術を創出し、エンジンがいらない、究極のエコ&走る魅力のある次世代車が生み出されたら万々歳ではないでしょうか?

IEAの「Fact vs Fiction」、将来自動車の事実とは?

先月、国際エネルギー機関(IEA)のWebサイトに、″Fact versus fiction” とのコラムが掲載されました。意訳をすると将来自動車やエネルギー、地球環境問題に対する、いくつかの筆者が気になるFact(事実)とFiction(虚構~神話)を対比させた内容です。

この国際エネルギー機関(IEA)という組織は、1973年~1974年の第1次石油危機を契機として、当時のアメリカの国務長官キシンジャーが旗振り役となって、石油輸出国機構(OPEC)の影響力増大に対抗する戦略、政策調査を目的に1974年に設立された国際機関で、本部はパリに置かれています。加盟国の石油供給危機回避―安定したエネルギー需給構造を確立する施策提案―を主な目的としており、そのエネルギー需給調査、その将来予測などは、アメリカ、欧州、日本など石油輸入国のエネルギー政策立案の基礎資料として使われています。そのIEAが、このところのEVブームの盛り上がりの中で、エネルギー問題などにまつわる誤解を解くためにとして、この″Fact versus fiction”と題されるコラム記事掲載したのです。

その主な内容は

″神話″「数年後にEVが普及すれば、石油依存を終わらせられる」
″事実″「各国政府の意欲的な普及目標を基準としても、2020年時点で、EV・PHVの年間販売台数は700万台、それまでの累計販売台数としても、20,000台。これはその時点での世界の自動車保有台数10数億台の僅か2%にすぎない」

″神話″「現在、各国政府が約束している温暖化ガス削減目標を達成すると、地球の平均気温上昇を2℃以内に抑制することができる」
″事実″「現在公表されているすべての公約(鳩山前首相がコペンハーゲンCOP15で約束した日本の温暖化ガス25%削減など)を実現できたとして、2℃抑制目標実現にはほど遠い状況にある」

″神話″「石炭は19世紀のエネルギーで、世界はその使用をやめようとしている」
″事実″「石炭の使用量は上昇を続けており、急激な政策転換がなければこの上昇は続くと予測されている」

″神話″「リチウム資源の一極集中と欠乏がEVの大規模商業普及の足かせとなる」
″事実″「少なくとも現時点でも、2030年までEVの広範な普及を支えるだけのリチウム資源は確保されており、普及が予測以上だったとしても、恐らくそれ以上のリチウム供給余力があると考えられる」

このコラムは、その直後にIEAが発行した、Technology Roadmap – Electric and plug-in hybrid electric vehicles (電気自動車とプラグインハイブリッド電気自動車についての技術ロードマップ)にもとづいて書かれたようです。

この「技術ロードマップ」を読むと、いま欧米各国が輸入石油依存度の低減、ポスト化石燃料、低カーボン化政策の目玉として推進しようとしている、電気自動車・プラグインハイブリッド電気自動車(総称してプラグイン自動車)普及政策と、各自動車メーカの生産計画との間に大きなギャップがあり、さらにこのロードマップの前提としてIPCCが提案し、政府間でも議論されている2050年までに地球の平均気温上昇を2℃以内に抑制を目標へのアプローチとして矛盾だらけであるように感じました。
それに対する、反省であり、警告からのコラム記事ではないかと推測しています。

葛藤が垣間見えるIEAのシナリオ

また、私のブログでも何度かとりあげましたが、このプラグイン自動車の電池充電に使う電力が石炭火力や石油火力など化石燃料発電が主体では、地球温暖化ガスである炭酸ガス(CO2)の削減にはほとんど寄与しないどころか、普通のハイブリッド車との比較でも増加させてしまいます。そして、このコラムにもあるように、いまでも世界全体では石炭火力が増加中であることが事実です。

「その代替として風力や太陽光などリニューアブル電力があるのでは?」という意見もあります。しかしこれも、以前のブログで述べたように、古くからリニューアブル電力の買い取り制を実施し、今年になって脱原発政策を発表したドイツですら、リニューアブル電力の発電シェアは水力を含めて16.5%、石炭火力が日本よりもはるかに多い42.1%と、現在20%強の原子力発電分を含めても日本よりも発電時CO2の排出が多いことが実態です。脱原発分をリユーアブル電力拡大で置き換えようとしていますが、石炭発電主力の構造は変わらず、CO2低減をどのように行っていくのか注目しています。

さらに、中国はまだまだ石炭火力を増強中、アメリカも主力は石炭火力、その発生CO2の低減が大きな課題、IEAのこのコラムは、この発電事情の中でプラグイン自動車普及による低カーボン効果への過度な期待に警告を発しているように感じました。日本でも同様、プラグイン化は確かに石油消費削減には寄与しますが、低カーボン・エコの観点では発電電力のCO2にも注目する必要があります。現時点では、中国、インドの電力Mixではプラグイン自動車のほうが、通常のハイブリッド車よりも発電電力分を含めるとCO2排出が多くなることは事実です。

地球温暖化緩和目標も、このコメントが実態、現在地球温暖化ガスを多量に排出している、中国、アメリカが石炭火力に依存し、中国ではさらにその増強を計画中です。
日本の25%削減目標も、具体的なアクションプランがなく、いまや鳩山さんの放言扱いにしたいところですが、日本が国際社会に約束したことになっています。さらに、この原発事故で、石炭火力、石油火力依存度が高まり、景気低迷を脱出するとエネルギー需要増でこの実現は極めて困難な状況にあることは事実です。

リチウム資源問題についても、この事実の通り、それほど心配をする必要はありませんが、プラグイン自動車の大量普及を進めるためには、リチウム以上に、レアアース、レアメタルの資源問題が浮上してくると思います。自動車搭載のコンパクト・ハイパワーのモータに欠かせないのが、ネオジムとジスプロシウム、その他にもセリウム、ランタン、イットリウムのレアアース、さらにここで話題のリチウムやマンガン、コバルト、ニッケル、白金など数多くのレアメタルが使われており、供給源の多様化、材料代替、使用量の削減、リサイクルなどの取り組みの緊急性が高まってきています。

「技術ロードマップ」をまとめたのは、IEA加盟各国のエネルギー関連官学スタッフ、電力会社スタッフ、自動車メーカスタッフから構成されており、各国、各分野での意見集約がうまくまとまらず、各国政府ベースの積極普及の予測でもIEAの総合的なエネルギー&温暖化緩和シナリオ(図IEA WEO2010 大気中のCO2 450ppmをターゲットとする地球温暖化緩和目標達成BLUE Mapシナリオの次世代自動車予測)と整合性がとれず、内部矛盾を抱えた内容になっていることから、今のプラグイン自動車ブームにアラームを発する意図があったのではと勘ぐっています。

IEA BLUE Map
IEA BLUE Map

1997年から14年が経過、二代目インサイト、三代目プリウスが普通のクルマとしてその販売台数を競いあうようになりましが、ハイブリッド車全体としも全世界の保有台数からはまだ%台にすら届いていません。その状態で、かつ今のプラグイン自動車の現状実力、充電インフラの現状、さらに多額のインセンティブを頂いても、ガソリンのセーブ額ではまだまだ価格アップ分の埋め合わせもできない状況にあります。

脱石油シナリオ、2050年地球温暖化を2℃上昇以内に抑制しようとの目標を、自動車分野にもそのまま適用すると、このIEA Blue Mapシナリオのように、従来ガソリン車・ディーゼル車、さらに加えてそのハイブリッド車からこのようらドラスティックな電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、水素燃料電池自動車へのチェンジが必要との結論になってしまいます。しかし、このコラムの筆者は目前に迫る2020年ですら、シナリオと現実とのギャップは大きく、このBlue Mapシナリオ達成の困難さを示そうとしてのかも知れません。

「タラ」「レバ」の期待で足踏みをせず、着実な歩みを

もちろん、このIEA Webページのこのコラムに示された“神話”に対する“事実”や、メディア報道、政府発表、メーカ発表の背後に隠された今の“事実”に目をそらしてはいけません。かといってそのギャップにオタオタするばかりでは、また例えば航続距離500㎞の電気自動車ができ“タラ”、販価200万を切る水素燃料電池カローラができ“タラ”、プラグイン自動車の電池などエネルギー貯蔵源をネットワークに取り込み、電力需給のインテリジェント制御をおこなうスマートグリッドの実現によりリニューアブル電力でほとんどの電力需要を賄うことができ“タラ”、食料や飼料と食い合わない石油燃料並みの価格で大量に生産できるバイオ燃料が開発され“タラ”と、“タラ”への期待で、今やれること、今チャレンジすれば届くかもしらないことに手をつかなければ、課題の先送りです。

高い目標へのチャレンジ、イノベーション技術へのチャレンジは必要、しかりそれにだけのギャンブルは危険です。現在のクルマの主役、ガソリン車もディーゼル車も、またそのクルマ本体としても、まだまだ高効率、低燃費の余地はあり、やりつくしたとは思えません。さらにガソリン、ディーゼルの効率を高める手段がハイブリッド、これもまだまだ幼児期を脱した段階、さらに改良した高効率エンジンを組み合わせると、まだまだ高効率が期待できます。もちろん、電気自動車が本命に躍り出るまでの電池の出現には、技術のブレークスルーが必要ですが、ハイブリッドやプラグインハイブリッド用途ならば、回生効率のアップやEV走行範囲の拡大などはまだまだ改良の余地があり、システムもプリウス方式だけがハイブリッドではなく、どんどん対抗馬がでてくることを期待しています。

そのうえで、”タラ”の対象となった、電池、水素燃料電池、スマートグリッド、バイオ燃料など、従来技術の進化では到達できない、″神話″を″事実″に近づけるイノベーション創出へチャレンジできる環境を整えることではないでしょうか?このジャンルは、熱意ある専門人材が叡智を絞り取り組むことが必要、それでも単に頭数、物、金、時間をかければ成果がでてくるたぐいの話ではないことを銘記すべきです。

表面だけのプラグイン自動車ブームにうつつを抜かしている時間はありません。さらに各国政府の積極的なプラグイン自動車普及策でも、Blue Mapシナリオ達成の第1ステップにすぎません。政府が多額の補助金を出そうが、カリフォルニア州ZEVのように、法規制で販売、購入を義務付けしようが、お客様が受け入れ購入して頂けなければ、普及を果たすことはできません。ハイブリッドプリウスはZEVをターゲットから外したところからスタートさせました。補助金ありきの開発をしたわけでもありません。多額の補助金も、結局は国民の税金、補助金をあてにしなくても、お客様にメリットを感じていただける価格で、さらにサプライズを感じていただけるクルマがめざすべきターゲットです。

先週のブログで息子が述べたLEAFの試乗ですが、基本的には私も同じ感想を抱きました。電気自動車実用化にかけた開発エンジニアの志を感じ、その努力による完成度の高さを感じたが故に、皮肉なことに石油消費削減、低カーボン化のメニューとしての電気自動車の限界を感じてしまいました。その限界と感じた最大のポイントは、航続距離と充電インフラですが、その限界を決して超えない用途だけで使うならば、このクルマに不満を感ずるユーザーはほとんどいないと思います。しかし、その限界を左脳で感じてしまうと、滑らかで、静かで、力強く、さまざまな表示でも電気自動車をうまく使いこなすための、また充電切れにならないための様々な工夫が織り込まれ、その志の高さをそのクルマに感じても、右脳でのサプライズを感ずることはありませんでした。

エコは必要条件、エンジン車が電気自動車や水素燃料電池車に当分はその主役の座を譲ることはなさそうですが、低燃費、低カーボンへのチャレンジに手を抜かず、さらにエンジニアのクルマへの思い入れと将来の夢をこめて、魅力あるクルマとしての十分条件を探り、神話/事実のギャップを飛び越える次のクルマへのチャレンジとその実現を日本の若いエンジニアに期待しています。もちろん、だれか熱意ある専門人材の叡智で、ブレークスルー技術を創出し、エンジンがいらない、究極のエコ&走る魅力のある次世代車が生み出されたら万々歳ではないでしょうか?

ハイブリッド自動車、電気自動車とレアアース(希土類元素)問題

次世代自動車を語るとき、無数の要因や思惑が錯綜しているため、単に純技術的な側面だけでその将来を予測するのは困難なものとなります。そもそも、次世代自動車への要求は、一時期の大暴落を経ても着実に高騰を続ける原油価格に象徴される石油資源枯渇への懸念、また着実に浸透しつつある地球温暖化問題など、年を追うごとに強まる自動車の脱石油、低カーボン化の社会的要求を背景としています。

また地球温暖化抑制のためには、これからの世界自動車保有台数の増加を考慮に入れると、2050年では今のクルマが排出しているCO2の80%削減ぐらいを目標にする必要があると言われ、その点については各国のコンセンサスが確立されています。CO2排出削減80%、すなわちガソリン/軽油を使っている今のクルマで考えれば、すなわちそれは燃料消費80%削減を意味し、現行の自動車の燃費を5倍にするという途方もない目標となります。つまりガソリン/ディーゼルを問わず、従来技術の改良では対応できないことは明かです。

低カーボンの次世代自動車として、ハイブリッド(HV)、その外部電力充電式HVである通称プラグイン・ハイブリッド(PHEV)、電池のみで走る電気自動車(BEV)、さらには水素燃料電池自動車(FCEV)など、電気を使用した電動化したクルマが脚光を浴びるのはこのような理由によるものです。

この自動車の電動化にいち早く本気で取り組んできたのが、トヨタやホンダなどの日本勢です。トヨタ、ホンダがHV車の普及を目指し、技術進化とコスト低減を競い合う一方、欧米自動車メーカーは、「環境ではクルマは売れない」、「収益性が確保できるわけがない」、「FCEVまでのショート・リリーフ」などといって、本気でHV実用化には取り組んできませんでした。しかし上に書いた通りの次世代車に対する社会的な要求は、おそらく彼らが予想したよりも遥かに深刻で切実なものであり、言葉だけで実際にアクションを起こさないメーカーには政府や消費者から強い圧力がかけられました。

このような情勢にさらされ、欧米自動車メーカーもようやく重い腰を上げてHVの商品化に取り組み、発売を開始しました。さらにHV開発での「失った10年」を一気に取り戻そうとするように、HVをスキップしてBEVが即座に実用化するよう様々な仕掛けを行っています。その中、BEV実用化の鍵を握るリチウムイオン電池の開発競争、電動化に不可欠なレアメタル資源の囲い込み、電池や電動部品、充電機器の規格・基準づくりでの主導権争い、環境規制によるマーケット誘導、さらにインセンティブ付与や電池R&Dや生産への財政投融資など、なりふりかまわず、各国政府を巻き込んでの競争力確保にやっきになっているのが、今の次世代自動車開発の現状です。

レアアースと自動車

さて少し前書きが長くなってしまいましたが、今日は最近急に目にする機会が増えたレアアース(希土類元素)と次世代自動車についてお話しします。報道などでも触れられている通りHV/PHVやBEVなど、電動化自動車である次世代車にとってレアアースは不可欠な材料となっています。高性能モータや発電機の磁石には、永久磁石としては最強力とされるネオジム磁石を使用し、その高い磁束密度と強い磁力を生かして、モータ/発電機の高出力化と軽量、コンパクト化を計っています。なお、ネオジム磁石というのは1982年に日本人が発明したネオジム、鉄、ホウ素を主成分とする磁石です。(詳細はWikipediaを参照してください。)

また通常のネオジム磁石は180℃以上の高温となると磁力が低下する現象の熱減磁を生じやすいため、耐熱性向上としてこれも希土類元素である、ジスプロシウムをこれに添加して使用しています。

このネオジム、ジスプロシウムなど希土類元素の産地としては、世界の産出量の97%以上を中国(チベット)が占めており、中国の経済成長によって輸出削減の動きや、直近の尖閣列島問題での対日禁輸措置の発動など、資源ナショナリズムの武器としても使われるようになってきています。このほか、自動車には、イットリウム、ランタン、セリウムなどのレアアース元素や白金、パラジウム、チタン、ホウ素、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、チタンなど様々なレアメタルが環境性能向上、性能向上、耐熱性向上に欠くことのできない触媒や微量添加材として使われています。また、これから主流となると目されているLiイオン電池について、その材料となるリチウムもレアメタルに分類されます。

直近の中国の輸出制限、禁輸措置発動は一時的な緊張から生まれた極端な反応だとしても、そもそも次世代自動車への期待が、石油資源枯渇や地球温暖化問題に対して国際的に強調して対策する為のものであるのに、レアアースやレアメタルの利用が政治問題化したり、一部材料のオーバーユースなどが発生したりしては、本末転倒な事態となります。これを回避するために供給先の多様化、代替材料の探索、使用量の削減、リサイクルの仕組み作りなどの取り組みを急ぐ必要があります。

レアアース問題を克服する為には

しかし短期的にはそうであっても、私はこの問題に関しては長期的にはあまりあたふたする必要はないと思っています。その根拠は、1970年代のマスキー規制対応から現在に至るクリーン・エンジンの主役となった排気浄化触媒の白金使用量低減の取り組みと、その成果です。

触媒そのものの改良、白金のパラジウムへの置き換えに加え、エンジンの排気ガス温度や排ガスの質のコントロール、さらに燃料の無鉛化や低硫黄化などクリーン燃料採用により、マスキー法のさらに10分の1程度のクリーン度と、15年15万マイル(26万キロ)の排気クリーン度維持を求める90年代のアメリカの排気規制強化に対しても、マスキー規制当時の20%レベルの白金使用量で対応できています。さらに、世界全体での触媒貴金属のリサイクル・システムの確立もあり、世界中のガソリン車のほとんどが排気触媒を採用するなかで、この技術については日本勢がそれをリードしてその問題を克服してきました。

PriusのNi-MH水素電池についても、自動車メーカーと電池メーカーの密な連携作業により、電池本体の進化とHVシステムとしての利用技術の進化に取り組み、結果として、Ni、コバルト、ミシュメタルの使用量を減らしながら、品質、耐久寿命を高め、さらに大幅なコスト低減も実現してきました。リサイクルの仕組み作りも整備されてきています。さらに、触媒用貴金属材料、またハイブリッド車の電池や電動部品用材料の安定供給を計るため、世界中を飛び回ってくれた日本商社の活動も支えとなり、日本がリードしてきました。

これからのレアメタル、レアアース資源問題についても、持続可能なかたちへの変革が必要、使用量の削減、代替材料開発、供給先の多様化、リサイクルの仕組みづくりと高効率なリサイクル技術など、日本人の得意分野が数多くあると思います。日本の自動車、部品、材料メーカーの強い連携と現場ベースの知恵をしぼりまくった共同作業で、資源問題を克服し、品質を高め、さらに画期的なコスト低減を実現し、世界の低カーボン自動車普及をリードすることができるのではないでしょうか。さらには世界中に張り巡らされた日本商社の広いネットワークも日本の強みと思います。

日本勢の「本当」の強みとは

様々な場所で繰り返し言っている事ですが、一時的流れや反応に焦ることなく、着実に、地道に、しかしスピードをあげて取り組むことにより、この資源問題克服を日本がリードし、自動車の電動化を加速していくことを業界の先人として期待しています。

また、この面について環境技術・もの作り技術とそれを支えてきた人材は、天然資源が不十分な日本の大切な無形戦略資源ではないかと思います。残念なことですが、これから更に増えることが予想される資源ナショナリズムに対抗していくには、日本の人材とそのネットワークが生み出す国際貢献が戦略的武器ではないかと私には思えます。

また、これを生かすためにも、政治が少しは期待を掛けられるものであってほしいですね。