日本初の自動車リコールとAT車のエンスト問題

先月の中日新聞に、『トヨタの系譜 時流の先への』第2部 「危機の教訓」が連載されていました。全国版ではありませんので、読まれた方は少ないと思いますが、この第2部は予期せぬ加速問題とプリウスブレーキリコール問題の顛末が主題です。騒ぎが大きくなり章男社長が米国連邦議会の公聴会に呼ばれ証言をし、不具合”がまだ疑いだけの段階でこの公聴会でも取り上げられ、当時の運輸大臣ラソーダ氏のトヨタバッシングとなる「トヨタ車はお勧めしない」とのフライング発言までありました。この電子制御系不具合による暴走問題は、その後の米国ハイウエー運輸安全局(NHTSA)と航空宇宙(NASA)の専門家達による合同調査で疑いが晴れましたが、これがハイブリッド車の普及に大きなマイナスになってしまいました。この記事は、章男社長の公聴会での証言とその後の米国トヨタディーラー激励会での涙、CNNライブでのやりとりから、さらにNHTSAとNASAでの調査結果まで取り上げられていました。この2部の最後、5月1日号に私のコメントが紹介されていました。インタビューを受けたのは、マスキー法からプリウスまでの取り組みで、その中でお話したその後の自動車エンジニアの原体験となった日本初の自動車リコールが取り上げられていました。わずか1行の紹介でしたが、その話を取り上げた記者の方が掲載された一連の新聞を送ってくれました。
今日の話題は、この日本リコール届け出第1号の話題と、自動車の重大不具合として今週メディアで話題となったオートマ車のエンスト問題です。

日本の自動車リコール第1号
日本に自動車リコール制度は、1969年6月に運輸省(現国交省)の通達でスタートしました。第1号がトヨペットコロナRT40のブレーキ配管腐食によるクラックからブレーキフルッドが洩れ、ブレーキ失陥を引き起こす重大不具合でした。丁度その年の4月にトヨタに入社しました。集合教育の後、工場実習を終えると6月から、各地の販売店に派遣されサービス実習・セールス実習が始まります。私も出身地の札幌でサービス・セールス実習を行いました。リコール届け直後のサービス実習では、受け入れ先の販売店さんにとってトヨタ自動車からの実習生は飛んで火に入る夏の虫、1カ月のサービス実習の全てが、市内を歩き回りリコール該当車を探し回る仕事でした。RT40コロナを見つけると、床下を覗きブレーキ配管にブレーキフルードの滲みがないかを確認し、該当車のワイパーにリコール修理呼び込みのパンフレットを挟んで回る仕事です。まだ、学生気分が抜けず、また北海道とはいえ暑い時期、不平たらたらで歩き回った記憶があります。これが、中日新聞で取り上げられたエピソードです。

この実習を終え、トヨタに戻り、2度目の工場実習を終えるといよいよ職場配属です。私の配属先は、駆動ユニットと制動ユニットの設計担当の駆動設計課、ブレーキ・リコールの責任設計部署でした。まだリコール対応のまっただ中、TVコマーシャルでリコール告知と修理持ち込みのお願い、リコールのお詫びが流れていました。そのリコール内容の説明役が直属課長、日頃指導を受けている課長がTVで頭を下げ、技術説明を懇切丁寧にされている姿を見て、自動車会社の責任、設計担当の責任の重さを思い知らされました。駆動設計ではリコールを引き起こすような大チョンボはやらずに済みましたが、単発のチョンボ設計は何度かやりました。上司から叱責を受けた記憶はありませんが、そのちょっとしたチョンボがお客様にご迷惑をおかけし、販売店サービスを苦労させたことに、やった自分自身が一番堪えました。このリコール第1号のサービス現場体験、そのリコールフォローに飛び回る配属先の臨場感、そして自分が引き起こした設計不具合の影響の大きさ、この時期の体験がそれ以降の自動車エンジニアとしてのスタートポイントになったように思います。

排ガスリコールとエンジン適合不良によるエンスト不具合
クリーンエンジン開発担当時も、リコールは身近な話でした。米国で排気規制を管轄する環境保護庁(EPA)は、規制をしっかり守っているかチェックする経年車のエミッションサーベイ試験をやっていました。この成績が悪いとリコールを命じます。1970年代~80年代では、米ビッグ3の成績が悪く、度々排ガスリコール命令が出ていました。排ガスリコールは何年か売り続けた経年車が対象ですから、ビッグ3のメイン車種となると対象台数は半端ではありません。当時のリコールで1回あたり数百億が吹っ飛ぶ規模です。トヨタの米国主力車種、カムリやカローラがリコールを起こすとこれまた半端な台数ではありません。量産設計の担当ではありませんでしたが、1990年からは米国向けの全ての車種のエンジン排気システム諸元を決めるリーダとなり、エンジンの品質問題、排気システム品質確保、重大不具合の未然防止は最優先マネージテーマでした。トヨタはこの排ガス品質では優等生、1990年代まで排ガスリコールはありませんでしたので、開発担当としてはこのリコール・ゼロ継続も大きなプレッシャでした。1980年代から仲間内ではリコール・ゼロの継続が話題で、自分の担当でゼロを打ち止めにはしたくないと我慢競争をしていたように思います。エンジン制御も担当しましたが、これもまたリコールに直結する重大不具合との関わりが大きい分野です。排ガス品質を確保できたとしても、ギリギリのエンジン制御適合でエンスト、ショック、もたつき、サージ振動といったドラビリ不具合を起こしてしまうとこれまたお客様にご迷惑をおかけする市場不具合となります。このドラビリ問題の中で、適合評価で気を遣ったのがオートマ車のD/Rレンジ・エンスト不具合です。これが今日のもう一つの話題です。

今のガソリンエンジンは全て電子制御燃料噴射エンジンです。長い期間使った経年車では、空気を送り込む吸気バルブにカーボンやオイル中の固形分がたまり、噴射した燃料がトラップされ不整燃焼が起きやすくなります。さらにガソリンが揮発性の高い冬用から揮発性の低い夏用に切り替わる時期でマーケット上限の揮発性が低い夏燃料を用い、急なスロットル操作をやると適切な燃料が供給されず、不整燃焼が起きやすくなります。これに、P/Nレンジから急にDレンジに入れ、同時にアクセルのチョイ踏み、さらにDレンジのままアクセルのon/off操作で坂道をずり下がる、途中でDからRに切り替えるなど、不整燃焼、エンストを起こし易い意地悪操作をいやというほど繰り返し、耐エンスト性の確認とエンスト不具合の未然防止適合を行うのが通例でした。いかに経年車とはいえ、マーケットでエンスト不具合を起こすのはエンジン開発屋の恥との感覚だったと思います。

なぜ今頃ガソリンオートマ車のエンスト問題?
最近このガソリンAT車のエンスト不具合問題がメディアで話題となっています。この切掛けは、3月に交通安全環境研究所が国交省の委託調査としておこなった-「エンジン停止走行」に繋がるおそれがある事象に関する調査-なるレポートです。
http://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/common/data/201403_report.pdf
国交省がこのレポート結果を公表し、自動車のリコール・不具合情報サイトで再現ビデオを付けて紹介しています。http://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/carsafety_sub/carsafety027.html
これをメディアが一斉に取り上げたのが今週です。

誤操作による急発進や、逆走を防ぐために、AT車やハイブリッド車では、P/Nレンジ、システムによってはさらにブレーキを踏んでいる状態でのみエンジン始動やモーター駆動力が発生するように設定しています。D/Rレンジではどんな意地悪操作であろうが、エンストは起こさないことが前提で始動シーケンスをを組んでいます。ですから、この状態でエンストが発生すると、P/Nレンジに入れ直し、ブレーキを踏み始動操作をやり直す面倒な操作を要求しています。この状態でエンストが起きると、通常のガソリン車ではパワステの油圧が低下しパワステが効かなくなり、またブレーキ油圧もエンジン回転でポンプを回し発生させていますので、油圧低下をきたしブレーキが効かなくなるケースも発生します。この状況に陥るとドライバーがパニック状態に陥ることも開発では考慮に入れる必要があります。何よりも、エンストさせないことです。

無理な低燃費適合も遠因では?
国交省のリコール・不具合情報サイトでは、ドライバーの操作についての注意喚起になっていますが、低燃費競争のなかで、エンスト防止への適合評価がおろそかになっているのではとの心配をしています。燃費のために、アイドル回転数を下げるとエンストしやすくなります。またATのトルコンも、動力伝達効率を高めるため滑りの少ないタイトなものを採用する方向、これもエンストしやすくなります。カタログ燃費競争が激しくなるなか、AT車でエンストを起こす適合は恥との感覚が薄くなってはいないでしょうか?安全が何よりも最優先です。

プッシュボタンスタートの流行にも?
また、二代目プリウスから採用したプッシュボタンスタートが、コンベ車にもどんどん採用されるようになってきました。この誤操作としてエンジンが起動していない状態で、D/Rレンジに入れるとそれが坂道なら走り出してしまう不具合も報告されています。この状態では、パワステ油圧もブレーキ油圧も発生しておらず、どちらも効かずパニックに陥ってしまうケースが紹介されています。このプッシュボタンスタートの採用も、プリウスが採用してからの流行として安易に採用していないでしょうか?二代目プリウスでスマートスイッチは車両主査グループからの採用要望でしたが、われわれハイブリッドチームも不具合防止、ご誤操作防止、誤操作時のパニック操作、その時の挙動分析を何度も何度も行い、採用を決めてきました。ハイブリッドだから、全くこのようなエンスト、パワーシャットダウン不具合がなかったと言うつもりはありません。部品不具合でのシャットダウン、エンストでお客様にもご迷惑をおかけしました。しかし、適合不良としてのエンスト、シャットダウン不具合は現役時代には起こしませんでした。自分が適合作業をやった訳ではありませんが今でもリーダとしての誇りです。
中日新聞で取り上げていた、プリウスの電子制御が疑われた予期せぬ急加速問題のNHTSAとNASA専門家調査で白となった背景にも、プリウスの途中から入れた簡易ドライブレコーダーのデータ解析が決め手になったと書かれていました。バイ・ワイヤ制御が不可欠のハイブリッドで何か重大不具合が起こった時の原因究明に役立つかもしれないと、修理書にも記載せずこっそりと入れた機能でした。

何度もこのブログで書いているように、安全がなによりも優先、排気クリーンはもちろん低燃費とも、いわんやコストとのトレードはやってはいけないことを肝に銘じて欲しいと思います。知恵を絞ってトレードオフポイントを高い位置に引き上げるのが技術進化です。

制御系リコール多発

プリウス、フィットハイブリッド、その姉妹車ヴェゼルハイブリッドのパワートレーン制御系リコールの発表が相次いでいます。プリウスではアクセルペダル戻り不良による暴走問題と同時期におきたブレーキ効き不良を引き起こすABS制御系のリコールがまだ記憶に新しいところですが、またの大規模リコールとなってしまいました。フィット、ヴェゼルHVでは新開発7速 DCT(Dual Clutch Transmission)のクラッチ制御系不具合とのことで、昨年9月の販売開始から、この部分だけで3度目となるリコール発表です。

ハイブリッド以外の低燃費新技術リコール問題としては、VW、AUDI車が広く採用している7速DCTのクラッチ制御の不具合として、中国、日本で大規模なリコールを発表しています。タイプこそ違いますが、多段DCTクラッチ制御系不具合はフィット、ヴェゼルHVリコールと同じくクラッチ制御系の不具合です。

低燃費新技術ではありませんが、衝突防止自動ブレーキでも制御系リコールなど制御系不具合、リコールが発表されています。

また米国の様々な事業、商品の顧客満足度調査、コンサルティング会社J.D.パワー社が発表した2014年度の経年車信頼性調査レポート(2014 Vehicle Dependability Study)の中で、全体のスコアは15年ぶりとなる低いスコアを記録、その要因として、エンジンとトランスミッションの不具合が増加していることも要因と解説しています。

その中で、低燃費のためにおこなった4気筒ダウンサイジングエンジン車のスコアが低く、もたつき、加速不良、変速不良の指摘が増加しており、自動車メーカーは低燃費のためにこうした品質との妥協をしないように注意を払うべきと述べています。

J.D.POWERニュースリリースhttp://autos.jdpower.com/ratings/2014-Vehicle-Dependability-Study-Press-Release.htm

J.D.POWER社の信頼性調査レポートが指摘している、4気筒エンジン車の不具合では、リコール対象の不具合ばかりではなく、もたつき、加速不良、変速不良などドラビリ不具合の増加が指摘されていますが、これもその大部分は制御系の適合不良、制御ソフトの不具合と推察されます。低燃費技術としては、他に直噴、可変動弁系、弁停止、CVT、多段AT、多段DCT、アイドルストップ、回生など、いずれもコンピュータ制御とその適合が不可欠、自動低燃費運転をさせるために、ハイブリッドでなくとも信号仕掛けでクルマを走らせるアクセル・バイ・ワイヤ、ブレーキ・バイ・ワイヤ、ステア・バイ・ワイヤと制御系が果たす役割が急増し、さらにその適合作業で負われるようになってきていることも間違いありません。

リコールの多発には、以前に比べリコールとしての判定基準が厳しくなり、公表件数として増加していることもあるようですが、制御系が大規模化し開発段階での不具合摘出に抜けが多くない、また販売後の不具合についてもマーケットでの原因究明が難しくなりそのため対策スピードも遅れてしまい対象台数が拡大しているのではと推測しています。

私の現役時代にも適合不良、制御プログラムバグに起因する不具合は多く、適合の標準化、制御プログラムの構造化、標準化が何度も進められ、膨大なチェックリストが作られ、さらにエンジン、トランスミッション、ハイブリッド制御、モーター制御、電池制御といった機能別サブシステムごとにこれまたきめ細かいプログラム変更情報、仕様変更情報の連絡網がつくられ品質向上、不具合撲滅に取り組んでいました。

こうした取り組みは今でも、またトヨタだけではなく、各社とも進めており、不具合摘出、デバッギング用のツールも当時よりはもっともっと進化していると思いますが、それでも制御系不具合が多発しています。システム規模の拡大、その制御系の大規模化に、制御系ハード、ソフトの専門家が不足し、その人材育成が追いついていないことが不具合多発の背景にあるとの声も聞こえてきます。この意見も一理あるとは思いますが、ちょっと違う方向から不具合多発の背景にある懸念点に触れてみたいと思います。

この制御システ系、そのソフトウエア不具合は自動車だけではなく、飛行機、家電さらには鉄道、電力から銀行の電算システムにまで及んでいます。その不具合の拡大を招いているのは、制御システム、そのソフトウエアのジャンルを見えない、解らないと、理解する努力も近づくことすら敬遠してきた役員、マネージャー層にもあるように思います。トヨタだけとは思いませんが、解らないから制御系専門部署に任せっきりにし、そこはそこで手に負えなくなってから大手部品会社やアウトソーシング会社に丸投げとなり、制御がクルマ屋にとってブラックボックスとなっているのではと気になっています。

自動車会社の商品はクルマ、トヨタでは何度かこのブログで取り上げた車両主査制度が社長の代行役として商品機能、収益性からこうした信頼性品質など不具合の未然防止にいたるまで仕切って商品としてのクルマ開発を行ってきました。さらにその主査のクルマ作りを支えてきたのがエンジン、駆動、制動、シャシーといった専門機能部隊とは別にクルマ全体の商品性、走行機能、さらには信頼性、安全性を評価してきた、車両評価、走行評価スタッフ達です。車両主査自身が制御システムは解らないとして、専門部署に任せきりになり、車両主査からの制御系評価に対するフォロー、注文もないから車両評価のスタッフ達も見えない、解らないで評価の深入できない、やらないにこの問題の根があるのではと心配しています。制御系、そのソフトウエアが大規模、複雑になってきても、クルマの基本要素である『走る』『曲がる』『止まる』の安心、安全を、使用環境こそ世界では半端ではありませんが、クルマの、もちろん制御系の専門家でもない多くの人たちに提供する自動車メーカーの役割は20世紀の初めからこの21世紀の現在まで変わりはありません。

制御系の介在が多くなったとは言えクルマの走り、ドラビリ、さらには世界中のクルマの使い方、使われ方などの経験を駆使して、なにかしらわずかの車両挙動、反応、変化から適合不良、ソフトのバグなど制御システム不具合の兆候を検出できる高い能力を持った車両評価のプロ達は残っているはずです。

プリウスのハイブリッド開発では、制御システムやそのソフトウエア設計、さらに適合のエンジニア達が見つけ出せなかった不具合を見つけ出した車両評価のプロ達が活躍してくれました。その不具合兆候を見つけ出し、その再現方法を見つけ出せれば制御システムやソフト不具合の解決は簡単です。制御系の専門家、制御系適合のスタッフ達からは思いもよらない使い方、使われ方の中で見逃していた不具合が結構ありました。『走る』『曲がる』『止まる』に関わる異常挙動不具合は制御系にかかわらず即リコールですが、初代プリウスの開発では、制御システムの専門家達の不具合評価、デバッギング作業と並行してこうした車両評価のプロ達による意地悪に意地悪を重ねた評価、限界条件での評価を行うことによりマーケットに出してから不意打ちをくらった制御系不具合はおこさないですみました。それでも、ソフトウエアバグがゼロだった訳ではありません。何万台かの販売で、たった1台、それも1回だけのバグ不具合を発生させてしまい、人間がやる作業でバグゼロはこの規模になると実現はほぼ不可能、安全が確保できているならばマーケットで起こさないバグはバグではないと開き直っていました。リコール判断が厳しくなってきている現在、このような開き直りは見習って欲しくはありませんが、クルマ評価での意地悪試験、限界試験、ばらつき試験、その評価プロ達と制御システムスタッフとのデザインレビューによる未然防止の重要性も強調しておきたいと思います。

自動車と品質、もの作り

プリウスがドイツで2年連続品質NO1を獲得

昨年の12月に、嬉しいニュースが飛びこんできました。
ドイツの自動車の安全・燃費・排ガス性能試験を行う公的認定機関であり、車検統計調査機関であるTUV・SUD(テュフ・ズード)が、毎年その3年後の車検結果から発表している既販車品質調査レポートで、故障率が一番少ないクルマとしてプリウスが選ばれたとの記事です。この数年、トヨタ車のリコール問題、品質問題で、プリウスを含め、世の中を騒がせてきただけにホットし、また品質のトヨタの名をはずかしめないようにと取り組んだ初代プリウスハイブリッドの品質向上活動が、今もしっかり根付いている証のニュースとしてうれしくなり祝杯を挙げました。

しかし、もちろん故障率ゼロではありませんし、この2年間にもブレーキABS制御系のリコール、初代プリウスの電気パワステリコール、電動ウオーターポンプのサービスキャンペーンと、不具合でお客様にご迷惑をお掛けしています。品質改善、その未然防止活動には限りがないことを肝に銘じて、さらにレベルアップを続けて欲しいと願っています。
  
この何年か、石油ストーブの一酸化炭素中毒事故、火災事故リコールとその回収修理キャンペーンがテレビ、新聞を賑わせていました。10年以上も前の製品でも、重大不具合故障が発生すると、さかのぼって緊急の回収修理が必要になることを痛感しました。また一連の自動車の不具合隠しが取り上げられたのも初代プリウス発売後で、それがどこまで波及していくのかヒヤヒヤしながら、やってきた開発プロセスにコンプライアンス上の問題がなかったかなど振り返りも行ってきました。

自動車のリコール制度

日本での自動車リコール制度は、私がトヨタ自動車に入社した1969年に制定され、その実施第1号がトヨペット・コロナのブレーキ油圧配管の腐食によりブレーキ油圧が抜け、ブレーキが効かなくなる問題でした。当時、入社し最初の集合教育と工場実習が終わると、7月頃から販売店に派遣され、販売店現場でのサービス・販売実習がありました。
1ヶ月間のサービス実習では、このブレーキチューブリコール実施を発表した直後で、毎日、毎日街の中を歩き回り、駐車中のコロナの床下を除き、年式を確認しリコール対象かどうか判別し、リコール回収修理の案内ビラを付けてあるくことが仕事でした。さらに、その実習から戻り、配属先が決まるとそれがそのリコール問題の設計担当職場でした。当時の課長がTVコマーシャルに出てリコール不具合の技術説明と緊急回収修理の呼びかけを行っており、この一連の出来毎が、製造会社のエンジニアとして信頼性品質確保の重要性、設計責任、製造責任の重要性を思い知らされ、学生気分が一基に抜けたきっかけだと記憶しています。

このリコール制度は何度か改定され、リコール隠し問題などが何度か取り上げられ、またインターネットが普及し、情報公開と迅速な回収修理が求められる時代となり、主管部署の国土交通省に「自動車のリコール・不具合情報」サイトが作られ、リコール情報の公開、不具合情報のホットラインなどが開設され、だれでもその情報にアクセスできるようになっています。

その後、マスキー排ガス対策プロジェクトに加わり、クリーンエンジン開発に携わってきましたので、排ガス浄化システムの排ガス性能リコール問題は開発陣にとって最大の関心時でした。排ガス性能保証は当時でも5年、5万マイル(8万キロ)、無鉛化されたとはいえまだまだガソリンスタンドや輸送過程で混入する鉛が残るガソリンを使い、オイルも純正オイルは殆ど使われず、触媒や排ガスセンサーの性能に影響を及ぼす成分が多いオイルも出回っていました。この中で、5年、5万マイルのクリーン度保証を開発段階で行うには、市場燃料やオイルの素性を調べ、走り方を調べ、ユーザーからクルマをお借りして排気性能を調べ、触媒や排ガスセンサーを回収し、劣化状況の調査をおこない、設計へのフィードバック、耐久試験用燃料、オイルを劣化しやすいものに変え、耐久試験条件もシビアなものに見直しを続けることの繰り返しでした。アメリカの規制当局は、既販車の排ガスチェックを厳しく実施し、規制レベルを超える車種には厳しくリコール命令を出し、BIG3は軒並み大規模なリコールを連発することになり、品質イメージの低下とともに巨額のリコール費用を費やすことになっていました。日本勢はこの排ガス性能の経年品質向上に、愚直に取り組み、これが日本車の品質全体を高め、大飛躍の要因となっていったと自負しています。コストダウンも厳しく求められましたが、その前に品質、品質とコストのトレードは御法度がトヨタの暗黙知でした。

私は幸いにも、開発を担当した排ガス浄化システムのリコール問題には遭遇しませんでしたが、市場調査データではヒヤヒヤすることは何度も経験しました。ある新技術チャレンジをした時には、市場チェックではグレーのデータがでて、当時の上司から、夜もおちおち眠れないと叱責をうけたことも記憶しています。実際の担当としても、夜も眠れなくなる心境になるのは確かです。僅かなコストダウンなど一端排ガスリコールを起すと一瞬で吹っ飛ぶどころか、その車種の収益全体も大幅に悪化させてしまいます。

アメリカでは、1990年代に入ってもBIG3の排ガスリコールが続き、また様々な既販車の排ガスチェックでも、保証期間を超えた古いクルマや、排ガスシステム故障車から排出される大気汚染影響が大きいことが分かり、このブログでも何度かとりあげたカリフォルニア州のローエミッション車規制では、排気ガス性能としての保証が15年15万マイル(24万キロ)保証と自家用車としてはほぼクルマの一生のクリーン度を求められることになりました。この、保証期間延長の理由として、トヨタ、日産、ホンダなど日本勢の経年車のエミッションチェックで、保証期間後もそのクリーン度が高く、故障も少ないとのデータを集め、保証期間延長の根拠とされてしまいました。トヨタ社内の一部からは、コストの掛け過ぎ、過剰品質ではとの声を上がりましたが、品質最優先を貫いてくれたトップ方針が揺らぐことはありませんでした。

ハイブリッドと品質

プリウスの品質問題に話を戻しますが、確かにハイブリッド車は従来車に比べハイブリッド電池、電気駆動系、さらに回生ブレーキなど部品点数が大幅に増加します。構成部品点数が多いことは、従来車と同じ品質レベルなら統計的には故障率が上がってしまうのは必然です。さらに、制御系が大規模になり、人間の操作を電気信号にかえ、その信号とクルマの走行状態、様々なシステムの作動状態信号からコンピュータで駆動力、制動力などを制御する、バイ・ワイヤシステムの固まりとなり、一つの不具合がお互いに影響しあうことも心配されました。加えて、初代では新システム、新部品の固まり、トヨタ車として恥ずかしくない品質、トヨタ車品質への信頼感から初物のハイブリッド車をお買い上げいただいたお客様に不具合多発でその信頼を裏切ってはとのプレッシャーは担当スタッフ一同、押しつぶされそうになるほど強いものがありました。確かに、立ち上がりの故障率は高く、トヨタ車だかと信頼して買っていただいたお客様に多大のご迷惑をお掛けしました。

何度か、発売後の品質向上活動についてはこのブログで触れましたが、部品点数が圧倒的に多いハイブリッド車を従来車レベル以上の信頼性品質にしていくには、それだけの活動をしたスタッフの存在があり、その活動の中で、部品工場の中にまで入り混んで不具合の真因究明と対策を共同で行って来た仲間達と、それを理解して取り組んでくれた多くの工場現場、部品会社、材料会社の方々の活動の賜です。

一連のトヨタリコール問題で、大規模になってきた電子制御系がやり玉にあがり、いろいろ取り上げられました。プリウスのブレーキリコールもその代表例の扱いでした。もちろん、プリウスのブレーキ不具合は、ブレーキ性能に影響を及ぼす適合不良の不具合ですが、いわゆるプログラムバグではありません。トヨタ品質の観点からすると、結果論ですが、トヨタお設計、評価基準が甘いと云わざるを得ないと思います。

フロアーマットとアクセルレバーの干渉、アクセルペダルの戻り不良の問題以外として、電子制御系も疑われた一連の“予期せぬ加速”問題では、昨年アメリカの運輸省から連邦航空宇宙局NASAを含めた大々的な調査結果として“電子制御系”は白との判断が下され、ほっとしました。しかし、ハイブリッドの品質向上活動で力を入れたのは電子制御系だけではありません。初代プリウス発売当時の業務メモを見ながら、私の怪しい記憶を絞ってみても、不具合の三分の二は部品故障、それも水漏れ、油漏れ、部品欠品、異物混入といった従来車でもよくある不具合が占めていました。ハイブリッド制御系でも、半田付け不良、IC素子の不良など、これまた故障モードとしてはよくある不具合、これを一つ一つ原因を究明し、流失防止、再発防止を図る地道な活動が続けられたことが、従来車を越える品質レベルを達成した理由です。結局はこの品質向上活動の「ヒューマンネットワーク」を維持し、改善を続けてきた「人」がいたから、ここまで発展できたと断言できます。

個人的な経験ですが、つい最近、夜中に突然停電があり、びっくりしました。原因はエアコン室外機コンプレッサー駆動モーター内の短絡でした。修理に来られたサービスマンと話をしましたが、コスト削減のため海外製部品に切り替えてからこのような不具合が多くなったと言っておられました。初代プリウスでも海外部品の不具合には泣かされました。2代目プリウス以降では、厳しいコスト低減活動を続ける中で、海外部品の採用がどんどん増えてきました。もちろん、品質とコストのトレードは許されませんが、環境自動車普及のためには、品質レベルを維持した上でさらなるコスト低減が厳しく求められています。海外調達を増やしても、その部品メーカーがその現地の会社と一緒にハイブリッド品質を確保した結果であり、品質NO1はこれを克服した第一歩だと思います。

日本のもの作りと品質

年始のテレビ番組を見ていると、ビジネス系チャンネルで「日本のもの作り」が話題となっていました。その論点は「日本のもの作り」の重要性が叫ばれ始めたのはここ10年ほどで、1990年以前にはあまり話題にもなっておらず、「日本のもの作り」が怪しくなってきたから叫ばれるようになったとの主張を巡る議論でした。40年以上もクルマという「もの作り」現場で過ごし、現地、現物、市場の厳しさをたたき込まれてきた私としては、その経験の少ないコメンテーター達の、“以前はそれほど「もの作り」が重要との意識はなかった”との論点には賛成できませんが、最近怪しくなってきているとの意見には同感です。

その議論ではそれではどうするとの議論はありませんでしたが、尽きるところは人、人から人への伝承、ヒューマンネットワーク、人材育成が鍵、この点で今回のドイツでの品質NO1は、その人から人への伝承、自動車組み立て工場から部品現場、それも海外調達先に至るまでのヒューマンネットワークと、トヨタ・ハイブリッドの「もの作り」スピリット伝承の成果と嬉しくなったわけです。

グローバル化、調達の多様化が叫ばれ続けています。この異常な円高の中で、日本での量産商品としての「もの作り」を続けることは厳しくなってきています。しかし、調達の多様化、海外部品の採用と言っても、「設計仕様書」「試験法・評価基準書」など書類のやり取りと「契約書」では、品質確保はできません。また、アセンブリーメーカーやティア1/2といった部品メーカーもまた、その全ての構成部品一点一点の品質チェックを行い、製造工程、検査工程の全てを掴んでいるわけではありません。尽きるところは、人から人への伝承、フィロソフィーの伝承、ヒューマンネットワークでやって行かざるを得ないとと思います。様々なメンバー、会社の品質向上活動を通じて、その構成部品とシステムのデザインレビュー、工程観察、機能チェックを続けることにより数多くのコスト低減の知恵も生み出されたと思います。

いよいよ、ハイブリッド車の本格的なグローバル競争時代突入の様相、トヨタ、そして日本勢もうかうかしておられない状況です。燃費性能で、ヒュンダイ・ソナタハイブリッド、フォードフュージョンハイブリッドと、トヨタのカムリ・ハイブリッドを上回るハイブリッド車も続々登場してきています。環境性能で負けては洒落になりませんので、その巻き返しを急ぎ、「もの作り」「ヒューマンネットワーク」を生かした安心・安全品質NO1維持が日本の生きる道です。
己を知り、敵を知り、驕ることない日本自動車エンジニアのチャレンジを期待します。