初代プリウス生産開始1ヶ月前 修羅場の不具合対策とコンプライアンス

フランス、パリで同時多発テロが発生し、多くの犠牲者がでました。パリに在住の友人の一人からは、Facebookで無事との連絡が入りましたが、フランスには知人も多く、ご本人、ご家族、関係者の無事をお祈りするばかりです。

このテロは、トルコで開催される「G20サミット」やウイーンで開催された「国際シリア支援グループ外相会議」にターゲットを当てたISによるもののようです。G20ではこれもパリで今月30日から開催されるCOP21、国連気候変動枠組み条約締結国会議で議論する、気候変動抑制の国際合意についての最終調整もテーマの一つでしたが、このテーマはテロにより吹っ飛んでしまいそうです。

1997年12月京都COP3で締結された京都議定書から18年経過し、COP21では当時よりもさらに顕在化してきた地球温暖化緩和への国際的な取り組み合意が期待されています。京都議定書のように批准国に削減義務を負わせる国際合意を目指す議長国フランスと、削減義務を負わない各国の自主的な削減取り組みでまとめようとするアメリカとで意見のギャップがあり、トルコG20でのその調整議論が予定されていましたが、多発テロでオランド大統領がサミットを欠席することになり、COP21にも暗雲が立ちこめてきました。

初代ハイブリッドプリウスと京都COP3

1995年12月のトヨタ役員会で、二年後の1997年12月に開催される京都COP3の時期に合わせ量産世界初ハイブリッド車プリウスの量産プロジェクトにゴーがかかりました。開発チームの当初量産目標提案は1999年末でしたが、まだ最初のハイブリッドプロトが走り出すこともできていない状態で、トップダウンによる2年早出しの号令です。社内技術陣には無謀なクレージープロジェクトとの声も上がっていました。開発ストーリーは様々な本で紹介されていますのでここでは省略しますが、今日のブログではその超短期プロジェクトの量産化寸前、1ヶ月前、丁度18年前の11月のトピックスを取り上げてみました。

199711月 生産・販売開始へのカウントダウンの最中で

1997年11月は、すでに、国土交通省(当時は運輸省)の新車販売認可が下り、10月10日に東京での新車発表、さらにそれに続く東京モーターショーでの展示が終わった段階です。従来車ならば、技術開発陣の役割はぐっと減り、車両系の人たちが車両工場の人たちとドアの立て付けや、組み付け部品類の干渉対策、異音対策など最後の詰めを行う時期です。しかし、プリウスではまだハイブリッド開発部隊は残存課題対策のまっただ中、ジャーナリスト試乗会など広報イベントにはは、暇ではありませんが実務担当ではない私などマネージメンバーで対応し、開発現場は未解決不具合の対策検討、まだ新たに報告される不具合の原因究明と対策に深夜まで走り回っていました。

もちろん、認可が下りた後の開発作業ですので、安全性能や環境性能など型式認定項目に拘わる不具合であれば、改めて設計変更申請が必要です。世界初の量産ハイブリッド車発売と新車発表をした後でしたが、万が一、安全走行に拘わる未知の不具合が見つかると、生産・、販売延期もまだあり得るタイミングでした。

トヨタではこの面でのコンプライアンスマネージは何重ものハードルがあり、技術開発部門、生産部門、品質管理部門と厳しいチェックが待ち構えています。しかし、ハードルが高くとも、もし不具合が残れば、その真因をいち早く究明し、再発させない本対策を見つけ出し、期間内に対策処置をやり遂げることができるかの判断を下すのは、車両主査とハイブリッドでは開発リーダーである私の役割でした。

ヒヤッとする不具合発生はこの期間も続いていました。原因が不明な、予期せぬ車両停止不具合もほんの僅かですがまだ残っていました。その一つが、11月の初旬長野を拠点に実施したジャーナリス試乗会で発生し、パニックを起こしかけたことも今となっては懐かしい思い出です。この原因は幸いにも、型式認定の届出項目には該当せず、簡単なソフト設計変更で生産開始までに対策を済ませることができました。

さらに、この時期、新規採用のモーター・発電機駆動用パワー半導体の焼損事故が発生、青ざめたこともあります。発生は1件だけでしたが、これが設計仕様としての不具合ならばマーケットで散発する恐れもあります。また、工程上の問題であっても、その工程上の問題とその焼損発生の真因を掴み、対策を実施し、その効果を確認しなくては、不具合が起こった以上、量産用としての使用はできません。この部品の生産工場からも、担当役員、部長、担当技術者に来てもらい、何度か対策作戦会議を行ったことも忘れがたい思い出です。このケースでは幸い、別々の二箇所からの調達部品で、一方の増産で乗り切り、この一社はしっかり対策を進めた上で次の年の生産拡大期からの採用となりました。

11月第3週は、河口湖のホテルでカーオブザイヤー選考会があり、内山田さん運転のプリウスで雨の中を会場に向かい、車中で残存課題の収め方の意見交換をした記憶があります。発売前のクルマでは異例のカーオブザイヤーを受賞しましたが、カウントダウン期となった立ち上がりまでの最後の詰めをどうやるかで気もそぞろで、前夜際で誰と何を話したのか、受賞式の記憶は殆ど残っていません。

京都COP3に使う事務連絡車や展示車のプリウスも、正式生産前に実施する生産ライントライ車の白ナンバー登録車が本格的に動きはじめたのもこの時期です。いよいよ12月10日生産開始にむけての最終カウントダウン、この段階ではCOP3に持ち込むクルマ、長野オリンピック聖火リレーの伴走車、試乗イベント車など開発評価のクルマ以外にも一般路で使われるプリウスが増加していきました。そのクルマからの不具合報告もあり、また冬の寒冷地試験は暫定試作車で1回しかやれていませんので、少し時期は早いでしたがこのライントライ車での北海道寒冷地試験、雪路走行試験を開始したのもこの時期です。こうしたイベント対応車や様々な試験走行での不具合報告もまだ続いていましたが、ほぼこれまでに掴んでいた不具合で、生産・販売延期につながりかねない不意打ちの新規不具合はありませんでした。しかし、念のため最後のスクリーニングを行うため、従来車ではやっていない工場完成車での全車スクリーニング走行を決めたのもこの頃でした。

こんな修羅場でのコンプライアンスマネージ

この段階では基本的には開発部隊の手は離れており、不具合が発生した時の処置は販売したクルマと同じ扱いとなり、工場車両検査部門、品質管理部門の管理下での原因調査、真因対策検討を行い対応アクションを決めます。認定届出事項かどうかは設計管理部門の判断により決めることになります。一つ一つの不具合の原因、対策処置レビューなど、社内の何重もの高いチェックハードルをクリアし、もちろんその後は安全走行に拘わる新たな重大不具合に遭遇することなく生産・販売開始に漕ぎ着けることができました。

もちろんスタッフ達の努力の賜ではありましたが、そうした努力を続けたことへのご褒美としての幸運としか思えません。今振り返っても、本当に生産・販売を止めなければいけない致命的な不具合が発生したときに、自分自身でそれを止める決断をし、車両主査や役員に提案していけたかの自信はありません。しかし、某社のスキャンダルのように、社内の仕組みとして隠し通すことは不可能であったことは、今でも断言できます。

当時トヨタの企業風土として悪いことこそ本当のところを早く上司に報告すべきとの先人の教えを繰り返し叩き込まれてきました。私自身も、ハイブリッド・リーダーの指名を受けた時に、ある役員から「このような超短期のビッグプロジェクトこそ、悪い状況は早くトップ役員まで挙げるように」と言われました。プロジェクトの重大な方針変更を行う場合にも、突然の報告では即断ができなくなるからとの説明でしたが、後で考えると、プロジェクトを止める時の決断を間違わず、プロジェクトを暴走させないようにとのアドバイスだったようです。これまた、幸いにも止める決断を上げることもなく、またマネージとしての暴走もさせないで1997年12月10日の生産・販売開始を迎えることができました。

某社のエミッションスキャンダルやこのところの日本大企業の不祥事を知るにつれ、企業風土・文化の重要性とその維持の難しさを痛感します。このスキャンダルを取り上げた以前のブログで、何度か「日本自動車企業トップもエンジニアも襟を正して」と述べました。企業倫理、トップ役員の倫理感が重要です。企業の存続意義としてのCSR(Corporate Social Responsibility)がガバナンスの基本、企業経営として収益はもちろん大切ですが、CSRから外れては存続が許されなくなります。トップが本当の意味でのCSR重視を訴え、実践し続けなければそのCSRに基づく企業風洞文化は継続できません。現役時代のトヨタには、CSRベースの企業風土・文化が開発部隊には根付いていました。トヨタを離れて10年、トヨタを含め、今の現役企業トップ、役員、マネージャー層に向けた「襟を正せ」のメッセージのつもりです。

パリCOP21と次世代低カーボン自動車のこれから

京都COP3から18年、厳戒態勢の中でパリCOP21を開催することがフランス政府から発表されました。この同時多発テロでやや関心が薄れていますが、テロへの取り組みとともに、地球温暖化への取り組みも人類としての大きな取り組み課題です。次世代低カーボン自動車への変革も、紛争の中心になっている中東、西アジア、アフリカ諸国など発展途上国や中国、インド、東南アジア諸国などを置き去りにした、先進国だけの転換では地球環境保全の効果も上がりません。この取り組みも、グローバルな視野でのCSR重視が求められます。日本勢は「襟を正し」、先進国以外の自動車マーケットを含めて低カーボン&クリーン自動車普及をリードして欲しいと願っています。

今週日曜(15日)の日経本誌13面、『日曜日に考える欄の科学技術ニッポンの歩みの』第5回として、ハイブリッド車プリウスの誕生が取り上げられています。私もインタビューを受け、マスキー法から1990年代初めのZEVからハイブリッドプリウスへの流れ、開発時のエピソードなどをお話しました。戦後70年の日本科学技術の歩みとしてハイブリッド車プリウス開発を取り上げていただけてことを担当したエンジニアの一人として嬉しく思っています。

京都COP3のタイミングに間に合わせようと悪戦苦闘し送りだしたトヨタプリウスに込めた次世代エコカーのメッセージは、トヨタハイブリッド車累計販売台数800万台を越えに結実しました。しかし、ハイブリッド車は低カーボン自動車への変革のほんの僅かの一歩、この記事の巻末にあるように、先頭ランナーで居続けようとしたら、技術者達は立ち止まっている余裕はありません。その全力疾走にも、常に人類社会への貢献を基本とする自動車産業界としてのCSR、その倫理感が重要であることは言うまでもありません。

未来のクルマは自動運転車!?

TVコマーシャル “やっちゃいました!”

最近、気になる自動車のTVコマーシャルが、“やっちゃいました!”とのコマーシャルです。自動運転がほんとうに“やっちゃえる!”技術、になるのでしょうか?トヨタも高速道路限定のようですが、2020年に商品化のアドバルーンをあげ、さらに早いのはテスラが、ドライバー責任を強調したうえでの自動運転ソフトをリリースしました。自動車とは何か、自動車交通の安全性とは何かの掘り下げた議論や、法整備もなしに熱病に浮かされている状況の商品力競争ブームには首をかしげざるを得ません。また、それを煽るメディアの報道、行政の反応に危惧の念を強めています。安全運転の基本は運転に集中すること、この基本が変わるのでしょうか?

安全運転の基本は運転に集中すること!?

現役時代の話しですが、自動車の評価を行うためには、私のようなパワートレイン・エンジニアも試験車運転資格の取得が必要でした。その社内試験車運転資格もクルマ全体の限界走行性能を評価する社内のテストドライバーまで、様々なクラスに分かれていました。限界性能評価を行うエンジニアやクルマの走行性能評価を行うテストドライバー以外の我々が目指すトップランクが上級試験運転資格でした。それがないとテストコース内でも180 km/h超えの高速走行や、欧米一般路での試験走行は許されません。上級資格の取得トレーニングは、スリッピーな路面でのドリフト走行から、サーキット路でのタイムトライアルまで時間と金を掛けて行われます。クルマ屋にとってみると、業務内で行える最も面白いトレーニングですが、徹底的に叩き込まれることがクルマの限界を知り、その範囲で安全に走ることです。最終のサーキット走行では、最低ラップタイムが指定されますが、追い込み過ぎてコースアウトすると、それで即不合格です。兎に角、様々なクルマ、走行環境下での限界を知り、決してそれを越えた運転を行わないためのトレーニングです。そんな運転資格試験の走行トレーニングで教えられる基本の一つに、障害物回避があります。仮にテストコース内に鹿、イノシシ、熊がでてきても、「超高速走行ではぶつかってもしょうがないからハンドル操作で回避しようとするな」です。事実、静岡のコースで鹿、北海道のコースでは鹿や熊が出没することは報告されていました。レアですが衝突例もあったように思います。高速走行では、当たり前ながら急なハンドル操作は禁物、ハンドルを切らずにタイヤロックをさせない最大制動力でのブレーキングがまず運転技能として叩き込まれる基本中の基本です。クルマの限界、自分の運転技能の限界を知り、さらにどんな時にも運転に集中することを徹底させるトレーニングです。運転技能訓練でない一般路の場合でも、安全運転のポイントは運転に集中すること、このパラダイムを変える自動運転は実現できるのでしょうか?

自動運転に求められること

自動操縦に戻ると、このような高速走行中に大型動物が出てくるケース以外にも、前方に落石、道路の陥没、トラックからの落とし物、前方のスリップしたクルマに遭遇するケースはゼロではありません。さらに、操舵輪がバーストしても回避走行ができるか、衝突してでも被害を軽微にとどめるか、回避操作を行うかの判断がドライバーに委ねられているのが今の自動車です。自動運転も走行系に影響を及ぼす部品故障時でも安全に回避、待避走行させる機能を持つことが条件です。暴走運転の割り込み、故意の自爆運転まで考えておく必要があり、そんな様々なケースで勝手に後はトライバーの責任とギブアップするようなクルマならそれは自動運転ではありません。さらに、大雨、大雪、強風、霧、路面状況も水たまり、雪道、氷結路などさまざまです。ひとたび自動運転モードに入ったら、このような条件で勝手にギブアップすることは許されません。技術的にこのような条件を満たせたとしても、性能要件を定義する規格、基準、法的責任所在を定義する法規制、保険制度などなどを整備が不可欠です。

もし、上記の条件を満たし、法整備もでき、完全自動運転のクルマが実用化できるなら、老兵は消えゆくのみ、将来の自動車技術を語る資格はありません。そうでない、中途半端な自動運転もどきのフィーバーなら、自動車に拘わる誰かが止めるべきです。”やっちゃいました!“のTVコマーシャルのクルマも、トヨタの2020年に目指すクルマも、先週テスラが『Model S』制御ソフトVersion7でリリースした自動操縦ソフトも、もちろん完全自動運転ではありません。テスラの例では、自動運転を目指すとしていますが、いざ何かの折にはドライバー責任、ステアリングホイールを従来車どおり手を載せて走ることが”strongly recommended”とされています。結構、システムとしてのギブアップ条件は多いようです。

自動運転車はバイ・ワイヤシステムが前提 その道を拓いたのはプリウス

自動運転車は、当然ならが、ドライバーの操作ではなく車を自動で操りますので、その基本は、クルマの基本要素「走る」「曲がる」「止まる」は、信号仕掛け、バイ・ワイヤー制御が前提です。その意味で、この三要素全てをバイ・ワイヤー制御でやらざるを得なかった、フルハイブリッドのプリウスがこの自動運転への道を拓いたと言っても良いでしょう。バイ・ワイヤー制御でなければ成り立たないフルハイブリッドのプリウス開発では、バイ・ワイヤー制御の安全、安心品質をどうやったら保証できるか、本当に保証できるのか、確認に確認を重ね、無い知恵を絞り、意地悪試験をやりまくり、その上で清水の舞台から飛び降りるような決断でGoを掛けました。「走る」「曲がる」「止まる」の三要素に、ドライバーの操作、意図から外れる安全・安心性能を損なう不具合が発生したら、リコールは当然、生産をストップさせ場合によってはすでに売ったクルマを回収するケースまで想定しました。それくらい、重い決断で踏み切った、ハイブリッドです。

Googleの自動運転開発用試験車の殆どがプリウスとレクサスRXハイブリッド

今の自動運転ブームに火をつけた主役は、Googleですが、遊園地のオモチャのようなハンドルもない自動運転プロトは別として、これまでの検討用車両のほぼその全てが2代目プリウスと、レクサスRXハイブリッド車の改造試験車です。バイ・ワイヤーの信号系だけを操作して、ナビデータと画像認識処理に基づく運転操作信号をハイブリッド車のアクセル信号、ブレーキ信号、ステアリング舵角信号としてECUに送り、ハイブリッドECU、ブレーキECUなどから駆動力、制動力、操舵角信号をアクチュエータに送り自動運転をやっていると思います。ハイブリッドシステム制御をハックして動かしているのでしょう。しかし、制御ソフト全体がその設計思想含め、解読されているとは思いません。

エンジンを含めた、ハイブリッドパワートレイン、パワーステアリング、ブレーキシステムの基本構成、設計要件、設計思想、フェールセーフ設計指針、保証指針、さらにその車両系、シャシー系の設計指針と思想、特性を理解して、設計情報を掴んで改造できる筈はありません。信号系、制御系だけをだまして自動運転と言っているなら、極言するとお遊びのオモチャです。ブレーキ性能一つとっても、タイヤ、ディスク径、パッド特性さらにサスペンション特性など、さまざまな設計要件があり、基準、規格があり、試験法があり、さらにその上で、各社の規格、判定基準に沿ってクルマは作られています。さらに、クルマは個人ユーザでも15年以上、タクシーでは50万キロ以上も使われ、その間の経時変化も考慮に入れた安全・環境品質とその信頼性保証が必要な製品です。

このクルマの基本を性能、品質、信頼性を抜きにしての自動運転車はまだ、遊び、おもちゃと片付けられますが、それを取り上げるメディア、アナリスト達に煽られたのか、自動車メーカーの一部にも、自動運転がブームになってきていることが気になります。このTVコマーシャルだけではなく、ドイツ、スツッツガルトに本社がある老舗高級車メーカーがプレミアムクラスのリムジンコンセプトを展示し、そのCEOが完全無人操縦のそのリムジンを将来リムジンと紹介する姿にがっかりしました。自動車にどんな未来を描いているのか、本当に完全無人運転車が将来自動車としての目指す方向か、どこか、どなたかIT系以外のクルマの専門家、自動車メーカートップが、将来自動車のわくわくする夢、ビジョンを語って欲しいと思います。それは、ドライバーレス自動運転車ではないでしょう。

米国のネットサイトに、Googleのプリウス、レクサスRXハイブリッドを改造した実験車の追突事故率が高いことが何度か取り上げられていました。普通のプリウス、レクサスRXハイブリッドの事故率、米国での追突事故率は掴んでいませんが、ニュースの件数だけからするとgoogle試験車での事故率は高いと思います。その全てが、被害事故と会社側は言っているようですが、法律的な判断は別として、クルマの流れの中での追突事故で100%被害事故は多くはありません。ブレーキのタイミング、操舵のタイミングが一般のドライバー操作との違いがあるとすると、それが追突を誘発する可能性も否定はできません。もちろん、一般車のドライバーも千差万別、力量、判断基準も大きくばらつきます。ニュースで取り上げた中に、そんな千差万別、バラツキが大きく、判断ミスをする人間の運転より、自動運転車のほうが事故確率を低くできるとの意見もありましが、確率論で自動運転の安全性は議論できないと思います。

もう一つ気になることは、今回のテスラ『Model S』自動運転ソフトのリリースですが、このやりかたも大いに疑問です。未熟な状態であることはマスク氏も述べており、その状態で、安全関連リコールでは必ず登場する米国運輸省NTHSAの認可を受けてのリリースでしょうか?安全、環境基準への対応は、どこの国でも認可、認定項目だと思います。日本では道路運送法で定められた保安基準としてソフトだけの変更による操縦アシスト機能提供は認められないのではと考えますが如何でしょうか? とかく、新技術は認可基準が後追いになりますが、環境、安全関連のシステムでは、認可段階でも基準、規格化の議論は必要と思います。

その前に、アクセル・ブレーキ踏み間違防止、衝突回避システムの標準仕様化が先

いまだに、アクセル・ブレーキの踏み間違いによる暴走事故が頻発しています。また、追突事故、バックでの人身事故も後を絶ちません。信号無視、一旦停止無視、高速道路逆走による事故も、無視というよりも運転に集中できずに認知しないで走ってしまったケースが大部分でしょう。自動運転よりも先に、こうした操作ミス、認知ミスを防止するシステムの導入、さらに普及し始めた衝突回避自動ブレーキ、衝突回避操舵アシストをもっとしっかりと安心して使えるものにすることが先決のように思います。これですら、国際基準、規格、システム定義のそのレベリングが、製品よりも後追いになっています。

規制緩和は必要ですが、安全、環境は何らかの規制、基準による誘導は必要です。将来自動車の方向を誤らせるような、中身もレベルも違う状態での宣伝先行の自動運転車競争はやめて欲しいものです。繰り返しですが、安全運転の基本中の基本は運転に集中すること、それを妨げるような自動運転もどきシステムは許されません。

この自動運転車の話題については、清水の舞台から飛び降りる覚悟でバイ・ワイヤーを世に出した当事者の一人として、これからも注目し、このブログで取り上げていきたいと思っています。完全無人自動運転車の時代は、これまで述べてきた成立条件を前提にすると、近未来で実現するとはとても思えません。またドライバレス・モビリティは自由な移動手段、さらにドライブする自由空間としてのモビリティの衰退のイメージであり、個人的にはそんなモビリティは見たくはありません。

されど、まだまだ老兵が消えゆくことにはならないとの強い自信はあります。

トヨタ&レクサスハイブリッド車累計800万台突破と4代目プリウス発表

先月21日、トヨタ自動車からトヨタとレクサスのハイブリッド車の世界累計販売台数が7月末で800万台を突破したとの発表がありました。

http://newsroom.toyota.co.jp/en/detail/9152370

図1に1997年からのトヨタ&レクサスハイブリッド車のグローバル累計販売台数推移と年間販売台数推移をしめします。(トヨタ ニュースサイトの年度別販売台数データから作成)

トヨタハイブリッド車販売台数推移

トヨタの公式サイトには、1997年12月「プリウス」の誕生から、7月末にグローバル累計販売台数800万台突破と書かれていましたが、これは正確な表現ではありません。トヨタの市販ハイブリッド車の初号車は、このプリウスの1997年12月発売の前、8月に少量販売を開始した小型バス「コースター ハイブリッドEV」が最初です。クリーンを売りに、ディーゼルエンジンに換えて、当時のサブコン車「ターセル」などに搭載されていた4気筒1.3リッターガソリンエンジンを搭載、そのエンジンで発電機を回し、その電力で最大出力70 kWの駆動モーターで走らせるシリーズハイブリッド方式のハイブリッド車でした。

これが、1997年12月「プリウス」発売を前に数台か十数台が、大都会の幼稚園バスや観光地の送迎バスとして販売されていました。

私自身は、初代「プリウス」搭載のハイブリッドシステム開発がハイブリッドに携わった最初です。この「コースター ハイブリッドEV」にはタッチしていませんので、トヨタの公式サイトの表現を使いたいのですが、個人的には残念ですがトヨタハイブリッドの1号車はこの「コースター ハイブリッドEV」です。

もちろん、この800万台に至る量産ハイブリッド車のスタートは「プリウス」であることは間違いありません。この「プリウス」に採用し、洒落た名前が思い付かないまま、私が文字通りのトヨタ・ハイブリッド・システム=略してTHSとそのまま名前をつけたハイブリッドが、トラックのハイブリッドなど、ほんの一部のハイブリッド車を除き、同じコンセプトのまま今も使われています。

このTHSコンセプトを、”遊星ギアの三軸に、エンジン、発電機、モーターを接続、このモーター軸からチェーンを介しデフギアへ、デフからドライブシャフトによりタイヤを駆動してクルマを走らせる方式”、”クラッチもトルコンも、変速ギアも、リバースギアすらなくクルマを普通に走らせるユニークなハイブリッド”と説明したことを覚えています。いくつかのバリエーションはありますが、遊星ギアの三軸にエンジン、発電機、モーターを接続するコンセプトは今も変わりはありません。

このプリウスの初号車が、累計販売台数の何台目に当たるか判りませんが、1997年12月10日にトヨタ自動車高岡工場から初代プリウスが車両運搬トレーラーに乗せられて、多分東京か愛知の販売店にむかってからまもなく18年が経過します。国内での正規白ナンバー登録は、国交省から認可をいただき、9月末にライントライ車両の社内評価車両に付いた白ナンバーがプリウス1号車だと思いますが、このトレーラーで運ばれた車のどれかが、お客様の手に渡った第1号車になりました。2000年5月の初代マイナーチェンジを機に、米国と欧州販売を開始し、グローバル市場へと拡げていきました。

車重の思いミニバンや大排気量エンジン搭載の上級車では、すぐにプリウスTHS方式を適用することができず、メカCVT変速機を使ったTHS-CのエスティマHV、エンジン補機ベルト駆動のオルタの変わりにモーター発電機とし12V補機駆動鉛電池とは別に36V鉛電池を搭載したマイルドハイブリッドTHS-Mを使ったクラウンHVも開発しましたが、マーケットから本格ハイブリッドの要望が強く、またMGやそれを駆動するインバーターの高出力コンパクト化が進み、それらも遊星ギア方式のTHSコンセプトに置き換えられていきました。プリウスに続く、THS第2段はハリアーHV、エスティマTHS-Cで開発したリアモーター駆動のAWDを採用したTHSです。これがレクサスHVの始まりで、レクサスブランドのグローバル展開に合わせRX400hとして発売され、トヨタ、レクサスでのハイブリッドラインアップ展開は始まりました。このトヨタ・レクサスハイブリッドが累計800万台を迎えました。

その内の、400万台以上が「プリウス」、またレクサスCT200h、 ノア/ボクシーHV、英国工場で生産しているAuris Hybridなどに使われ、累計800万台の60%以上がこの1.8Lエンジンの同じファミリーのTHSパワートレインを搭載しています。

そのプリウスが、2009年発売を開始した3代目プリウスから6年半ぶり、いろいろ合ったようで少し間があきましたが、今年末にフルモデルチェンジを行い4代目となります。詳細スペックは発表されていませんが、ハイブリッドもこの4代目プリウス用として大きな技術進化が織り込まれているようですので、どこまで進化したのか今から楽しみにしています。日本のJC08燃費 40 km/l 、ユーザー実走行燃費に近いと言われる米国EPA公式燃費では都市とハイウエーのコンバインド燃費で55 mpg(23.38 km/L)、燃費バージョンで60 mpg(25.51 km/L)との噂がニュースに登場しています。

プリウスの使命は、初代から21世紀のグローバルスタンダードカーとして、他の追従を許さない燃費/CO2を目指すクルマでした。3代目の企画まで現役として付き合ってきましたが、もちろんグローバルスタンダードカーとして我慢のエコでは問題外、燃費/ CO2性能の向上はもちろん、クルマとしての走る魅力の向上、さらに世界に拡大していくためのコスト低減が絶え間なく取り組んできた開発課題でした。。

この4代目が、この初代からの志しを継いでくれているか、これも現地、現物、現車で見極めていきたいと思っています。この4代目から新しいプラットフォームTNGA採用第1号となりますので、シャシー系も、欧州Cセグメント系とガチンコ勝負ができるのではと期待しています。(写真1 4代目プリウス ワールドプレミア トヨタサイとより転載)

2016年 4代目プリウス 写真

遠からず、このTNGAでも足りないと言わせるぐらいの、ハイパワーバージョンTHSの登場を期待しています。もちろん、クラスとして燃費チャンピオンが前提です。

 

1年2ヶ月ほど、お休みしていたこのCordia Blogを、このトヨタ&レクサスハイブリッド車グローバル販売800万台突破と4代目プリウス発表を機会に、再開いたしました。

800万台突破といっても、10億台を越える世界の自動車保有台数の1%にも届いていないレベル、ほんの第一歩を歩みだしたに過ぎません。また、このところのエコカー販売停滞も気になるところです。よく言われた、ハイブリッド車はショートリリーフ、電気自動車、水素電池自動車が本命との声も実態は風吹けと、鞭をたたけど(規制)、飴をばらまけど(インセンティブ、補助金)踊らずが現状で、アメリカでは大型車回帰でCO2が増加に転じてしまいました。

昨年のグローバル小型自動車(Light vehicle)販売8,720万台です。このクルマを低燃費、低CO2のクルマに切り替えて行くことが何と行っても最優先です。今の延長線程度の電気自動車や水素燃料電池自動車には、次世代自動車の主役としてのバトンを渡す訳にはいきません。その内燃エンジン車を低燃費、低CO2へと進化させるコア技術はハイブリッドです。軽自動車まで、アイドルストップでは不十分と減速回生、モータアシストとハイブリッド化の道を辿り始めています。内燃エンジン車のハイブリッド化をリードしてきたのは、日本勢です。このアドバンテージをさらに拡げて行って欲しいものです。

このアドバンテージを多くの現場スタッフ、エンジニア達と作りあげてきた、日本のパワートレインエンジニアOBとして、これからも辛口のコメント、叱咤激励を続けていきたいと思っております。 [jwplayer mediaid=”1808″]

 

ブログは、お休みしていましたが、ハイブリッドプリウスの開発、次世代自動車のゆくえなど、今もいろいろな場所でお話をさせていただいております。

また、TEST 2015 第13回総合試験機器展 東京ビッグサイト 西ホール 2015.9.16(水) ~18(木)

の17日(木)13:00~14:10まで、特設会場Aにて「プリウスが切り拓いた低CO2自動車のこれまでと、これから」との題目でお話をさせていただきます。見学、ご視察のご予定がございましたら、お立ちより下さい。

今後とも、よろしくお願いいたします。

 

トヨタハイブリッド車累計販売600万と電動自動車の未来

昨日、私にとってうれしいニュースが飛び込んできました。すでに新聞で報道されているように、トヨタハイブリッド車の世界累計販売台数が昨年の12月末で600万台を突破したとのニュースです。以前のブログで、昨年3月末に達成した累計販売台数500万台記念の現役、OB含めたハイブリッド開発の仲間たちのパーティーを取り上げましたが、次の100万台まで9カ月、ピッチをさらに速めての達成です。正確な数字は掴んでいませんが、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車といった電動自動車の世界累計販売台数もまた1,000万台突破もまもなくと思います。

トヨタのハイブリッド車販売のスタートは1997年12月発売の「プリウス」ではなく、その年8月に発売を開始したミニバス「コースターハイブリッド」ですが、これは少量販売にとどまり短い期間で生産も停止していますので、この600万台のうち半数以上を占める「プリウス」がリードしてきたと言っても良いでしょう。

図1
図は1997年からのトヨタハイブリッド車の販売経過です。

1997年のわずか300台程度からスタートし、100万台までに118カ月、約10年かかりましたが、次の200万台からは各100万台増加に27、18、14、11ヶ月とピッチを速め、昨年3月末に到達した500万台から600万台まではわずか9ヶ月で到達しています。お買い上げいただいた全部のクルマが生き残っている訳ではありませんが、このクルマが自動車低CO2の牽引役を果たしていると思うとエンジニア冥利につきます。

電動化に先行する日本、海外でもやってくる

ただし、日本ではハイブリッドやEVなどの電動自動車販売シェアが20%を越えましたが、アメリカでは今年も昨年に続き販売新記録となったもののまだまだ3.84%のシェアにしかすぎません。

今、デトロイトで北米自動車ショーが開催されていますが、ロイター通信の論調は「エコよりもパワー」に回帰かとの見出しで、フォードF150、GMシルベラードといった販売が好調な大型ピックアップトラックの新型車をとりあげています。

中身をよく見ると、その大型ピックアップトラックもダウンサイジング過給、軽量化、アイドルストップの採用といった低燃費メニューが並び「エコ」はあたりまえになっており、その上でカウボーイハットが似合うアメリカのガラパゴスカーの大型ピックアップですら低燃費が社会のまたユーザーのアピールポイントとなってきており、「エコよりパワー」とは反対に着実に燃費意識が定着してきた証拠のように思います。

中国も新車販売がとうとう2000万台を突破し、世界全体でみると自動車販売はさらに拡大を続け、保有台数が増加しています。

こうした状況では、トヨタハイブリッド車累計販売600万台到達、世界の電動車両累計販売1,000万台到達といって浮かれている訳にはいきません。自動車の走行でのCO2排出にまず歯止めをかけるには、どんなタイプであれ自動車の電動化を加速させる必要があります。

トヨタのハイブリッド車を販売している国は80ヶ国に拡大していますが、国別シェア、台数でみるとまだまだです。さらに新興国では廉価な小型大衆車クラスの電動化もまた求められています。そのためにも、電動化部品および車両の現地化も必要です。

ハイブリッド、EV、燃料自動車はライバルでは無い

昨日、お台場の東京ビッグサイトで開催されている「カーエレクトロニクス技術展」「EV・HEV駆動システム技術展」を見てきました。日本の自動車電動化を支える部品技術、材料技術、計測技術、生産技術各社がブースを出していましたが、その広がりと熱気が大変印象的でした。

一般の見学者が多い、他の環境展やスマート何とやら展とは違い、実際にモノ造り、ビジネスにかかわる専門家が多い印象で、各ブースで熱心な商談、営業活動が行われ、また中国、韓国他、海外の参加者も目につきました。

この17年、トヨタハイブリッド車累計600万台がけん引役を務めました。自動車電動化を支える日本の部品、材料、計測機、開発ツール、生産機械がここまでに広がってきたことに口火を切る役割を務められたことを、少し自慢がしたくなりこのブログに取り上げました。

もちろん、感慨に浸り立ち止まっていてはこの激烈なグローバル次世代自動車競争を日本勢が勝ち抜き、生き抜いていくことはできません。

巷では、その発信源がどこかは判りませんが、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、さらに水素燃料電池自動車をあたかもコンペティター関係にあるかのように対比、オン/オフ比較して語られているように思います。

さらにハイブリッド自動車と昨今の欧州勢のアプローチ、直噴過給ダウンサイジング、デュアルクラッチ多段変速機、アイドルストップ、気筒停止の低燃費車両を、これまたコンペティター関係として対比する論評を見かけます。そのあげくに、ハイブリッドは日本のガラカ―?などとのまで言われたこともあります。これはミスリード、不本意です。

電動化が将来自動車のコアなのは間違いない

クルマを動かすエネルギーの全部か、一部かは別としてエネルギーの貯蔵源を有効につかって高効率、低CO2を目指す目的は、ハイブリッドも、プラグインハイブリッドも、さらに電気自動車も水素燃料電池自動車も変わりはなくクルマの電動化がコア技術です。使われている技術分野も共通分が多く、そのモーター、インバーター、さらに電池の技術進化、低コスト化が進むといずれもさらにCO2排出を減らすことができます。その手段が電動化です。

またハイブリッドの定義はクルマを直接電気モーターで駆動するパスを持つクルマとなっていますが、ナビもオーディオもインパネ表示も、クルマを動かすための様々な制御もエンジン発電発生するか、充電電池から取り出すかは別としてクルマを動かすために消費しているエネルギーです。このすべてのクルマで消費するエネルギーの効率化を図るのが低燃費のアプローチで、これもハイブリッドでもノンハイブリッドであろうが変わりはありません。できる限りの減速エネルギー回生を行い、そのエネルギーを使ってエンジン停止中の補機、制御系を動かし低燃費化を図る部分が、強いて言うとノンプラグイン車とハイブリッドの違いです。

低燃費車の標準メニューとなってきているアイドルストップでは、その領域を拡大していくと軽自動車の低燃費車競争で競いあっているように、クルマが完全停止する前からエンジンを停止し低燃費効果の拡大が図りたくなります。停車中でもエンジン停止を行うようになると、パワステ油圧、ブレーキ油圧など従来はエンジン回転で駆動していた補機類のエネルギー源確保が困難になりパワステも、ブレーキ油圧発生、さらに夏のエアコン運転、冬のヒーター熱源のエンジン冷却水もまた電動化がやりたくなります。

こうした補機類の電気駆動もまたどんどん進んでいます。上級車や重量車ではこうした補機駆動のエネルギーもばかにならず、42V~48Vのマイルドハイブリッドがやりたくなります。マイルドまでいかなくとも、スズキのエネチャージ、日産ノート、マツダスカイアクティブも12V鉛電池の他に小さなリチウムイオン電池、キャパシタ―を使い、エンジンベルト駆動ですが減速時のエネルギー回収を行っています。これまた自動車の電動化です。

展示会でも日本各社の様々なタイプの電動化に向けた部品、材料、開発のためのツール、計測機がこれでもかというほど展示されていました。国内マーケットで低燃費自動車開発を競いあり、その部品、材料、計測ツール、開発ツール、さらにその生産技術開発が活発になり、展示会場で感じた熱気をさらに高め、その熱気のなかで次をになう人材が育っていけば次の700万台、1000万、2000万とさらに電動化車両の普及拡大を日本勢がリードできます。さらに、その低燃費車、部品、材料技術のグローバル展開を進めることが日本自動車産業の生きる道、この分野、この技術、この人材で地球市民として日本が貢献していくことを願っています。

米国トヨタ本社のテキサス移転

少し旧聞となりますが、4月28日(月)にトヨタはこれまでカリフォルニア州(加州)トーランス市においていた米国本社をテキサス州プラノ市に移転すると発表しました。トヨタの発表によると、米国とカナダの企業活動全体を”One Toyota”ビジョンで行うためにプラノ市に移転し機能を集約すると説明しています。

もともとトーランス市に置かれていたのは、米国での販売、マーケッティング拠点であった米国トヨタ自動車販売の本社で、車両開発、生産、渉外機能とは別機能でした。その後、米国での現地生産、現地生産活動が増加するにつれ、米国全体の本社機能と位置づけられました。開発部隊のなかでも、筆者のようなエンジン屋にとっては、デトロイト近郊のアナーバー市にあるテクニカルセンターとともにトーランスの隣、ガーディナ市に置かれたラボが馴染みのある米国の拠点でした。そのガーディナラボは、エンジン評価、車両適合の拠点とともに、世界の自動車環境規制をリードしてきた加州大気資源局(CARB)と将来自動車環境規制のルールメーキング、試験法についての情報収集や、CARBとの認証届け出業務の重要拠点でもありました。プリウスの発売後は、実用的な次世代環境車としてCARBのスタッフ達が実用的なクリーン/グリーンビークルとして高く評価してくれました。それに意を強くして、全米どころか世界へハイブリッド車を広げる戦略の説明、将来ビジョン議論のためガーディナラボのメンバーとともにトーランス本社に何度も足を運んだ記憶があります。

このテキサス移転を伝える5 月のGreen Car Reportは、「Toyota’s Texas Move: Prius Maker Lands In Highest-Carbon State」との見出しでこのニュースを伝えています。テキサス州は温室効果ガス排出量が全米50州中1位、一州の排出量として、フランス、イギリス、カナダを超えています。これを根拠に、環境自動車プリウスを販売している会社が環境問題を重視していない州に本社を移したことを皮肉った見出しをつてけています。温室効果ガス排出最大州となっている要因としては、19もの火力発電所があること、化学工場が多いこと、都市部でも公共交通機関が少なく、もっぱら自動車、その自動車も大型ピックアップトラックや大型SUVが多いことが上げられています。一方、ハイブリッド車比率は全米平均を大きく下回っており、さらに、ペリー知事は地球温暖化懐疑論者であったことは有名です。

もちろん、様々な法規制や法人税率など企業活動のやり易さ、広い米国全体に散らばる拠点のコントロールセンターとしての地理的な条件からは加州よりもテキサス州が有利のようです。しかし、21世紀の企業ビジョンとして「環境・エネルギー問題へ対応する自動車の変革」を掲げ、ハイブリッドプリウス開発に取り組み、次世代自動車をリードしてきたトヨタが、環境規制をリードしてきた加州から「Highest-Carbon State」に移転したときの影響をどう判断したのか、知りたいところです。

何度かこのブログでも紹介してきたように、筆者自身は現役のクリーンエンジン開発リーダの時から、加州ZEV規制には反対を続けてきました。。大気汚染の深刻さを否定していた訳では決してありませんし、開発を手がけてクリーンエンジン車のクリーン度はCARBも太鼓判を押す経年車クリーン度NO1だったと自負しています。もちろん、排ガスシステムのリコールを命じられてことは一度もありません。クリーン度の改善手段として、まだまだエンジン車でもやれることがあり、やり遂げる自信もありました。さらに走行中ゼロ・エミッションの定義が納得できず、さらに今も基本的には変わっていませんが、短い航続距離ではクルマの機能としてエンジン車に起き買われないことが明かだったからです。。

1990年代の初めに、前述のロス近郊のCARBラボやサクラメントのCARB本部で、ZEV規制ルールメーキングスタッフ達や幹部達と、「走行中のZEVは誤解を招く、発電エミッションも入れて議論すべき」と激論を戦わせたことを思い出します。いわゆるエミッション・エルスオエア・ビークル論を戦わせました。そのときの彼らの反駁は、「カリフォルニア州には石炭火力はなく、クリーンな天然ガス火力と原発、さらにアリゾナ、コロラド州からの水力発電だから電力もクリーン、さらにオゾン濃度の高いロス地区、サクラメントには天然ガス発電所すらないので文字通りZEVだ」との主張でした。トヨタ社内のEV開発リーダーからも、あまりEV開発に水をかけないで欲しいと、クレームを付けられたのもこのころの思い出です。

僅かな台数のZEVを導入するよりも、触媒もついていない古いクルマ、いかにもエンジン失火のまま走っている故障車を減らすほうがよほど大気改善には貢献できるとの主張もしました。「効果が大きいのは判っているが、大気改善が進んでいない現状ではイメージ優先、ZEV規制を引っ込めるわけにはいかない」と言われてしまった。ロス地区のオゾン発生メカニズムや大気環境モデルを勉強をしたのもこの頃です。

その後、加州では、自動車のLEV規制や自動車だけではない様々な規制強化によりロスのオゾン濃度は低下をつづけ、またPMの改善も進んでいます。しかし、この環境改善効果は当時の議論のとおり、ZEV導入の効果はほぼゼロと言ってよいでしょう。自動車排気のクリーン化と古いクルマが新技術のクリーン車に置き換わり、さらに最近のニュースにあった停泊中の大型船舶電源として一般電力(グリッド電力)への切り替え、レジャー用船舶、アウトドア車両の規制強化などによる効果とされています。さらにPM2.5の排出源として、航空機からの排気の寄与率が高いとの調査結果も報告されています。

残念ながらZEV規制を止めることはできませんでしたが、CARBの幹部やスタッフ達とこうしたディベートをフランクにやれたことはアメリカのオープンさの表れとして良い思い出でした。”Prius”発表後は、この実用ハイブリッド車の開発努力とクリーンポテンシャルを高く評価し、新カテゴリーの先進技術パーシャルZEVカテゴリーを新設してくれるなど普及をサポートしてくれまいた。さらに環境保全の”リアルワールド重視”の部分では、技術的に納得できる提案は採用してくれるなど、オープンでフランクな信頼関係の構築ができたと思っています。

いまもZEV規制には、オゾンやPMといった都市部の大気汚染の規制としては”リアルワールド”での改善効果の少なさから賛成できません。特に自動車から排出されるCO2まで温暖化ガスとしてZEVに取り込んだ動きは、加州だけの問題ではなく、グローバルな問題、もう一度ZEVの定義について当時の議論を材料にCARB幹部やスタッフ達に反駁したいところです。CO2はどこで排出しても気候変動に影響を及ぼす温室効果ガスであり、走行中ゼロでも発電所での排出を含めて評価をすべき「エミッション・エルスオエア・ビークル」です。某社がZEVクレジット販売で利益を上げるのは異常、低カーボン車の普及によって環境保全に寄与できるとの主張は当時も今も変わりはありません。

CO2排出量ではあっという間に中国に抜かれてしまったが、アメリカは中国に続く世界二位、さらに一人当たりのCO2排出量では今でも群を抜く化石燃料多消費国、このアメリカがやっと本気で温暖化対策のためのCO2排出削減に舵を切ろうとしています。CAFÉ規制強化は決まりましたが、まだまだ大型ピック、大型SUVが好まれる国です。低CO2次世代車はハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車含めてわずかシェア3.8%と低迷しています。中国とともに、この国が低CO2に動かなければ低カーボンのグローバルな新たな削減活動の枠組み条約は成立しません。その中で、自動車の変革は待ったなしですが、実用技術の裏付けのない規制や、国際政治のパワーゲームで次世代自動車の普及が加速するわけではありません。

規制対応だけではなく、実際にクルマの魅力を高め、この次世代自動車比率を高めることが自動車分野の低カーボン化のポイントです。これをリードしてきたのがトヨタ、ホンダ、日産の日本勢、そのなかで我々は『Prius』で先頭を走ってきたとの強い自負を持っています。この次世代自動車普及の背中を押したのが、私自身、ZEV定義と規制には賛成できませんが、カリフォルニア州ZEV規制であったことは間違いないと思っています。『Prius』を筆頭に次世代自動車普及のアーリーアドプターとしてハリウッドのセレブ達やシリコンバレーなど西海岸の人たちからの強いサポートがあったことを忘れることはできません。

この話題の最中に、ピークオイル論ならぬ、ハイブリッドピーク論が話題になっています。*

*  Could U.S. Hybrid Car Sales Be Peaking Already–And If So, Why?

「アメリカのハイブリッド車販売は既にピークをすぎたのか、それは何故か?」

16 June, 2014 Green Car Report

http://www.greencarreports.com/news/1092736_could-u-s-hybrid-car-sales-be-peaking-already–and-if-so-why

 

ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車含めた次世代自動車の2013年販売シェアは僅か3.8%、このうちプラグインハイブリッド、電気自動車併せて0.6%と比率としては増加していますが、ノーマル・ハイブリッドを押しのけコンベ車に置き換わっていく勢いはありません。

折しもトヨタは年内の水素燃料自動車販売を発表しましたが、電気自動車=ZEVの代替候補として実用化の暁にはクルマの航続距離に優れた水素燃料電池自動車の実用化支援活動をリードしてきたのも加州です。まだ、水素燃料電池自動車普及へのハードルは高く、これが『Prius』を名乗ったり、ポスト『Prius』になるには時間だけではなく、技術ブレークスルーも必要ですが、このアーリーアドプターマーケットも加州が務めてくれることは間違いないと思います。

しかし、いつになるか判らない水素燃料電池車普及の前に、全米で僅か3.8%のシェアの次世代自動車シェアを拡大していくには、やはり加州のユーザーにアピールでき、また環境性能としても電気自動車、水素燃料電池車と競合できる、ハイブリッドピーク論をぶっ飛ばす次の先進『Prius』出現に期待したいところです。

 

 

VVT-iによるプリウスのエンジン起動・停止ショック対策

エンジン起動・停止ショック対策の切り札だったVVT-i
初代プリウスの1.5リッターエンジン、1NZ-FEからハイブリッドエンジンの定番として採用されている可変機構の一つがVVT-i(Variable Valve Timing Intelligent)と呼ぶ、吸気弁のカムタイミング連続可変機構です。VVT-i機構は今では、トヨタのガソリンエンジンのほとんど全てに使われる標準品となっていますが、初代プリウス当時は高級エンジンの一部に採用されている程度でそれほどポピュラーではありませんでした。また、初代プリウスでも最初の計画段階からこのVVT-iの採用を決めていたわけではありません。

初代プリウスの新型車解説書には、VVT-i採用の狙いとして
① 低速トルク向上
② 燃費向上
③ エミッション性能向上
④ 始動時の振動低減
と書かれていますが、急遽採用を検討した決め手は④のエンジン始動時の振動低減でした。
1995年12月にハイブリッド専用車として2年後の1997年12月に販売開始をめざし量産プロジェクトの号令がかかり、エンジン、駆動、制動、シャシーなど様々な設計部隊、また車両性能、機能の評価部署に評価検討用の試作車が配られ始めたのが次の年の4月頃からでした。そうなると、さまざまな大問題が至るところから報告されるようになりお先真っ暗になったのがこの時期です。その大問題の一つが、走行中のエンジン起動、停止の度に大きなショックが発生し、そのつどクルマがゆさゆさと揺れ、とても商品のクルマには程遠い状況でした。さらに、エンジン起動のタイミングが悪い場合には、エンジントルクを遊星ギアに伝えるインプットシャフトがボキッと折れたり、ハイブリッド・トランスミッションを支えているマウント固定部のケーシングの破損まで引き起こす状態でした。この救世主の一つがVVT-iの採用でした。

初代プリウスの最初の広報資料にはVVT-iの項として
『吸気タイミングを、VVT-I (Variable Valve Timing-intelligent)により運転条件に応じて
きめ細かく呼応させることで、常に最大の効率確保を図りました』の記述しかありませんが、決め手はエンジン起動停止のショック対策でした。しかし、当初はタイミング固定の従来方式での高膨張比アトキンソンサイクルエンジンの企画でしたが、その固定タイミングの高膨張比エンジンでは両立が難しかった低温時のエンジン安定性確保やその後のエンジン出力向上にも効果を発揮しました。このVVT-iの採用は、エンジンチームの発想です。ショックの要因解析を行い、さまざまな対策を検討しまくった上ででてきたアイデアでした。その効果が確認されると時を移さず量産設計に入り、このクラスのエンジンでは初、さらにハイブリッド専用の機構を加えて量産化に漕ぎ着けることができました。もちろん、このVVT-iの適合だけで全て解決した訳ではありません。エンジンを回し、止める発電機の制御、トランスミッションの捩りタンパー設計、過大トルクを防ぐストッパー、エンジン、トランスミッションを支えるマウント位置の見直しなど、クルマ全体での対策の集大成でした。

140612Blog図
この中で、項目2番目のエンジン始動時および停止時と1項目と同じ運転状態を示す部分が通常運転時のEV走行からのエンジン起動、エンジン運転中からの停止時のVVT-i制御の説明です。吸気弁を最進角側、図の下にあるバルブタイミングのイメージ図にあるように、排気弁ばまだ開いている状態で吸気弁が開着始めるように、吸排気弁がどちらも開いている状態、所謂バルブオーバーラップ状態が長くなるように制御しています。この状態では、シリンダー内の燃焼ガス圧力はまだ高く、この状態で吸気弁を開くと圧力の高い燃焼ガスは吸気バルブから吸気ポート側に逆流してきます。次にその逆流した燃焼ガスをまたシリンダーに吸い込み、吸気弁をオーバーラップが大きくなるように進角したことにより、吸気弁を閉じるタイミングを早め、新しい空気の吸い込み量を少なくしています。この燃焼ガスを再吸入させ、また新しい吸入空気を減らすことにより、次の圧縮抵抗を小さく抑えることができます。これで圧縮抵抗によるショックを押さえ、ショックが大きくなるエンジン低回転にある共振域を素早く通過させてショックをこの共振によってショックが大きくなることを防ぐことができました。燃料を噴射し、点火させるのはその共振域を通過させてから行います。これ以外にも、冬の低温時の冷間始動性を向上させるタイミング制御、スロットル弁全開条件でエンジン出力を高めるタイミング制御など、当初のショック対策だけではなく、ハイブリッド実用化には欠かせないエンジンデバイスとなってくれました。

10代目クラウンに最初に採用されたVVT-iがプリウスへ
手前味噌ですが、このプリウスハイブリッドの救世主になったVVT-iですが、私のエンジンR&D担当時代に開発をマネージしたテーマの一つです。トヨタは可変動弁系の最後発、トヨタが採用していたエンジンの動弁機構では、三菱自のMIVECやホンダのVTECのようなカムの切り替え方式の採用は非常に困難でした。そこから、いろいろあって1995年にフルモデルチェンジした10代目クラウンの3リッタ直列6気筒エンジンに採用したのが量産のスタートでした。これもまたプリウスハイブリッドを世に送り出すことができたラッキーな巡り合わせであったように思います。現在では、排気バルブもタイミング制御を行う吸排VVT-i、電動VVT-I、さらにVTECなどバルブ機構切り替え方式とタイミング切り替え方式の併用、バルブ作動休止機構との組み合わせなどが実用化され、可変動弁機構は現代エンジンとして欠かせない標準デバイスとなっています。

MIVEC、VTEC、VVT-iなど可変動弁機構は出力競争、低燃費、排気のクリーン化の現代ガソリンエンジン進化を競い合った中でコア分野の一つでしたので、可変動弁機構では当時やや他社に遅れをとったトヨタでどのような議論があり、どのような検討をおこないVVT-iに収斂していったのかなども次の機会にはお話していきたいと思います。

その議論の先、この可変動弁機構の発展に、次のガソリンエンジンの進化も見えてくるように感じています。

プリウスの回生ブレーキ ー その1 

燃費3倍をめざすハイブリッド探索から燃費2倍プリウスの開発へ
何度かこのブログで紹介しましたが、プリウスの前身、21世紀のスタンダードカー・スタディーをスタートさせたのが、1993年秋、社内コードG21です。このときにチームの依頼でエンジンチームが燃費シナリオ検討を行い、コンベ(従来車)技術で10-15モード燃費50%なら達成可能とのスタディ結果だったそうです。G21チームはこの燃費50%向上を車両開発目標として、当時の技術副社長和田さんに提案したところ、「やるなら燃費2倍、それでなければ止めておけ」と言われたエピソードはいくつかのプリウス本で紹介されているとおりです。この目標を達成するには、もうハイブリッドしかありません。急遽ハイブリッド前提での燃費2倍を達成するシステム選定が行われ、その結果選びだしたのが今のトヨタハイブリッド車全車種が採用している、2モーター方式、遊星ギアにエンジン、発電機、駆動モーターをつなげるTHS方式です。
このG21のスタディーとは別に、パワートレーングループが発足させたハイブリッドチーム(BRVF)に和田さんが与えた宿題が燃費3倍を実現するハイブリッドの探索です。この裏話を昨年のブログで紹介しました。
(2013年8月コーディアブログ http://www.cordia.jp/wp/?m=201308)

BRVFチームは、燃費3倍をターゲットに、考えられる限りの様々なハイブリッド構成とアトキンソンサイクルエンジンなど低燃費技術シナリオを入れてスタディーを進めたものの、燃費3倍の実現は困難、車両軽量化や空力改善を入れても燃費2倍強が限界との結果だったようです。BRVFスタッフ達が、和田さんからの爆裂弾破裂を覚悟して恐る恐る「燃費3倍は無理、燃費2倍強が限界」と報告したところ、「よくやった、その目標で次ぎはプロト開発に入るように」と指示をされたとの裏話を聞いています。「燃費50%程度を目標とするならG21は止めてしまえ!」とおっしゃった和田さんの頭の中には、すでに燃費2倍ならハイブリッドでやれるとの報告が入っていたことは間違いありません。このブログで何度もご紹介したトヨタの諸先輩がた、特に今も語り継がれる名車を作り上げられた車両主査のお一人、和田さんらしいエピソードです。

燃費2倍にはフルハイブリッドが不可欠、ブレーキ屋さんには苦労をかけました
この「ハイブリッドなら燃費2倍強はやれるかも?」の根拠の一つが、停車中のアイドルストップどころか、低中速の走行時には運転効率が極端に悪化するエンジンを止め、モーター走行をさせるフルハイブリッド(ストロング)とも呼ばれるハイブリッドと、今日の話題回生ブレーキの採用です。燃費3倍の探索からスタートしたプロジェクトですので、以前に実用化経験のあるエコランでも、また回生の取り分が少ないマイルドハイブリッドは検討対象には入っていませんでした。

当時の日本10-15モードだけでの「なんちゃって燃費2倍」を目指したわけでもありません。グローバル21、アメリカの公式燃費も欧州の公式燃費も探索の対象に入れると10-15モード領域だけではなく、広い車速域でのエンジン停止EV走行と減速回生ができるシステムを目指しました。

10-15モードの燃費2倍はそれほど難しいターゲットではなかったはずが、最初のプロトでの燃費試験結果は惨憺たるありさま、リッター20キロを切るレベルでした。この理由の一つが、スタディーに使った発電機とモーターの効率マップが僅かの計測点から鉛筆を嘗めて作成した実際とはかけ離れたものであったことがわかりましたが、後の祭りでした。エネルギー回生の取り代を過大に見込んでいたことになり、この回復を図らなければ10-15モードですら燃費2倍は見えてきません。少しマージンがあったはずが、当て外れでした。

燃費シミュレーションで見込んだ回生量を稼ぐことを前提に、ハイブリッド電池が受け入れられ限り目一杯の減速回生、停車の寸前で油圧ブレーキに切り替える油圧ブレーキ屋さんにとっては無理難題のチューニングをお願いしました。それまでの電気自動車ではそこまでの減速回生はやっておらず、エンブレ相当まで、ブレーキを踏むと中速域から油圧ブレーキに切り替える方式だったと思います。それを、アクセルペダルから足を離し、ブレーキペダルを踏み始めても回生を続け、止まる寸前に油圧ブレーキに切り替えないと燃費2倍で見込んだエネルギー回生はできません。いわゆる、高度な電気回生と油圧ブレーキの電気-油圧の回生協調ブレーキシステムを必要とする要求です。ブレーキ設計担当も、初代はそこまでの高度な回生協調ブレーキの経験はなく、油圧ブレーキのチューニングでやれる範囲と考えていたと思います。油圧・回生協調ブレーキの開発の第1歩は、エンジニアの回生協調、油圧ブレーキエンジニアを派遣してもらい、ハイブリッドエンジニアとの共同チームによる制御系の摺り合わせからスタートしました。
油圧ブレーキ系ハードはこの開発日程ではほとんど変更の余地はありません。回生域は拡大、そこから油圧への切り替えを車両のチューニングでやるしかありませんが、その車両とハイブリッドが商品車としてのチューニングに入れる状態になったのは量産トライ寸前の1997年夏の頃です。

その苦労が本格的なブレーキ・バイ・ワイヤECB2の実用化を加速?
燃費2倍実現を目指す公式試験の申請諸元はほぼ決めており、回生領域拡大は必須、あとはブレーキ部隊のチューニングの詰めに期待するしかありません。ギリギリまでがんばってくれましたが、チューニングだけでは十分なレベルにはならなかったようで、初代の立ち上がりではカックンブレーキと言われてしまいました。無理な適合を押しつけ、チューニングの詰めの段階でも、まともなクルマを提供できなかったことなど、今もブレーキ屋さんに申し訳なく思っています。しかし、開き直ると、この「カックンブレーキ」が本格的なブレーキ・バイ・ワイヤのシームレスに回生・油圧切り替えを行う2代目プリウスに採用することになる電子制御ブレーキシステム[ECB2: Electronically Controlled Brake System 2]の開発を加速させることになったと言えるかもしれません。ジャーナリス試乗会でカックン感を指摘されると、「すぐ慣れますよ!」とか「ブレーキ操作が荒いからですよ!」などと嘯いていましたが、ブレーキ担当のメンバー達には口惜しい思いをさせてしまいました。

従来のエンジンと機械変速機の組み合わせでは実現できなかった、クルマを加速させ、巡航運転を行う駆動力から停車させるまでの制動力までモーターとECB2によるシームレスなコントロールの将来性に目を開くことができました。

モータ・発電機のとんでもなく高い効率マップを提出したモーター開発スタッフには大きな貸しを与えましたが、これまた2000年のマイナー、2003年二代目プリウスTHSIIと着実に効率を高め今ではそのとんでもない効率を実現し、ECB2との回生協調の進化によりエネルギー回生効率も当時では考えられなかったレベルを達成しています。このあたりは、次の機会にご紹介したいと思います。

IPCC5次レポートと将来自動車の低CO2

IPCC5次レポートが順次公表中
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、2007年の4次レポートの次として5次レポートのまとめをおこなっています。IPCCには、パネル議長(パチューリ氏:インド)のもと①第1作業部会(自然科学的根拠)②第2作業部会(影響・適応・脆弱性)③第3作業
会(気候変動の緩和)と国別の温暖化ガス排出データーベースの算出方法をまとめ、管理する温暖化ガスインベントリー・タスクフォースの4つの専門家グループが研究のとりまとめをおこなっています。
環境省HP: http://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/index.html
気象庁HP: http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/index.html

IPCCは国際連合環境計画(UNEP)と国際連合の専門機関である世界気象気候(WMO)が共同で1988年に気候変動とその対策研究の機関として設置した国際機関です。1990年に発行した第1次評価報告書から数えて今回が5回目、昨年9月の第1作業部会の評価報告書を皮切りに、第2作業部会、第3作業部会の評価報告書が発表され、今年の10月にはコペンハーゲンでのIPCC総会で総合レポートは発表される予定です。4月13日ベルリンで開かれたIPCC総会で発表された緩和策をまとめる第3作業部会報告書では、政策決定者向け要約が承認・公表されています。各国の政策執行に強制力をもつものではありませんが、このレポートをベースとして緩和に向けての国際条約がCOP(気候変動枠組み条約締結国会議)で議論されますので、そのとり纏めも政治色が入り紛糾したようです。

IPCC 1次レポートが後押ししたプリウス・ハイブリッドの開発
ハイブリッドプリウスの開発も、この1990年に発行されたIPCC第1次レポートの影響を受けスタートしたと言っても良いと思います。この第1次レポートを受けて1992年6月にブラジル、リオで開催された地球環境サミット(環境と開発に関する国際連合会議:UNCED)で採択したのが地球温暖化問題に対する国際的な取り組みを約束する条約、国連気候変動枠組み条約です。この採択に触発され、低カーボンを目指す21世紀の自動車のスタディープロジェクト、社内コードG21をスタートさせたのがハイブリッド車プリウスにつながりました。

トヨタハイブリッド累計販売600万台は通過点、低CO2車普及が急務
しかし、5次レポートにもあるように、世界全体の気候変動緩和への取り組みは遅々として進まず、当時よりもさらに影響が顕在化し、このままでは今世紀末には平均気温として4度以上の上昇となると予測しています。現在の1度上昇程度でも、大きな気候変動を招いていますので、4度上昇の影響ははかりしれません。もちろん自動車だけの問題ではありませんが、主要な排出源の一つである自動車からの排出低減、すなわち低燃費自動車の普及をさらに加速させる必要があります。トヨタ・ハイブリッド車累計600万台達成と浮かれているわけには行きません。もちろん、ハイブリッドを含め、いずれは化石燃料を使い続けることはできません。しかし、電気自動車も水素燃料電池自動車も、充電電力の発電に、また水素の製造過程では、風力、太陽光、水力などリニューアブル発電を使わない限りはゼロCO2にはなりません。また、自動車部品の材料採掘、生成、製造過程、さらに自動車の生産過程から廃車までのCO2も考慮にいれその削減を計る必要があります。

最初は10-15モード燃費2倍がやっと、いまなら実走行燃費3倍が目標?
もちろん、ゼロCO2自動車を目指して研究開発に力を注ぐことは必要ですが、今の最重要テーマは内燃エンジン車の実用的な低CO2車をさらに進化させ、その普及を加速させることです。ハイブリッドはその実用低燃費技術の一つです。プリウスは当初は10-15モードでの燃費2倍がやっとでしたが、描いていいた目標は当時も実走行燃費2倍でした。いまではそれにあと一歩まで迫っていると思います。ハイブリッド用エンジンの最高熱効率も初代の34%から、3代目プリウスで38%、40%超えは目の前です。モーター発電機の効率も初代プリウスから現在までに大きく向上しています。電池も当時のニッケル水素円筒電池に比べ最新のリチウム電池では、軽量、コンパクトの上に充放電効率が向上し、さらに回生協調ブレーキの進化と合わせ回生エネルギー量を大きく増加させることみ期待できます。エンジン熱効率、モーター発電機効率、電池の充放電効率を高め、伝達効率を改善し、様々な損失を減らし、さらに車両軽量化、空力改善も加えていくと実走行燃費3倍、燃料消費1/3もあながち夢ではないのではと現役の連中をけしかけています。燃費3倍でも、削減率では67%程度、それも走行過程だけの削減率ですが、ここまでくるとクルマの一生で比較しても今の電気自動車よりも低いCO2排出になるはずです。

日本の実用低燃費技術、低CO2技術を世界に
IPCC5次レポートによると、各セクターともこの程度の削減率では足りず、またCO2削減の国際合意が遅れれば遅れるほど、後々の削減率を高める必要があり、場合によっては排出量を上回る削減、大気中のCO2を回収して固定化することまでシナリオに入り初めています。しかし、やれることを着実にやることが肝要、その意味ではクルマの低燃費化は、ハイブリッド技術の採用まで視野に入れて迫ってきたコンベ車(従来エンジン車)を含め、メニューはまだまだあると思います。さらに、モータリゼーションが進んできている発展途上国への低燃費技術の移転もまた、われわれの責務です。

自動車セクター以外では、電力のCO2が気掛かりです。3.11前は、ハイブリッドの先に低CO2電力での夜間充電を前提にプラグインHV普及のシナリオを描いていましたが、このシナリオが崩れてしまいました。IPCC5次レポートへも3.11福島第1事故は影響を及ぼしたようで、原子力のリスクに言及しています。リニューアブルだけで乗り切れないことは明らかで、これまた先が見えないCO2固定、貯蔵(CCS)をプライオリティの高いシナリオに入れてきました。いずれにしても、すこしでも具体的な低CO2に向かって知恵を出すのが日本の役割です。

欧州での「プリウス」

 

スライド1

欧州でも「プリウス」はごく普通のクルマ

先週のブログでロンドンのPM2.5を取り上げましたが、久しぶりにロンドンに滞在し、これまた数年前にロンドンの新駅、新線が開通し、英国内のスピードがやや速くなったユーロスターにのってパリに移り、パリ経由で帰国しました。この数年で何度目かの欧州ですが、今回のロンドン含め、パリ、バルセロナ、ブリュッセル、ウイーン、ストックホルム、ストラスブールと、ドイツを除き訪れる都市で目につくのがプリウスです。リーマンショック、さらにトヨタ車の予期せぬ加速問題で欧州でのトヨタ車販売が落ち込み、加えて欧州ソブリン危機で欧州全体での新車販売が低迷していましたが、2012年、2013年とマーケット全体が落ち込むなかでトヨタ車の販売が回復し、その牽引役を果たしてきたのが「プリウス」を筆頭とするトヨタハイブリッド群です。その走り回っている 「プリウス」は日本からの輸入車ですが、プリウス用のハイブリッドシステム、電池パックを日本からもっていき、英国工場で現地生産を行っているのが「オーリスハイブリッド」、さらに「アクア」のハイブリッドシステム、電池パックを使いフランス工場で現地生産を行っているのが「ヤリスハイブリッド」です。これにレクサスハイブリッドを加え、欧州での販売を牽引しています。もちろん、ロンドンでの市内乗り入れ税免除など、日本同様、各国、各都市のインセンティブ、補助金の後押しもありますが、ハイブリッド車が市民権を得てきたことが町を歩き回ると実感します。その中で、ひときわ目立つのがプリウスです。日本では一時、ハイブリッドはガラパゴスカー?との記事もありましたが、日本同様に欧州でも「プリウス」がごく普通のクルマとして走り回っています。

 

初代プリウスのアメリカ導入でつくづく感じましたが、トップの英断でハイブリッド専用モデルとして出したのが効果的でした。自動車変革の先駆けとしてプリウスのネーミングが付けられ、われわれ開発陣も清水の舞台から飛び降りるようなチャレンジをしてしゃにむに生産、販売にこぎ着け、当初はなにかあれば目立ち過ぎで引くに引けないとの思いがありましたが、これが今に思うと大正解でした。クルマを見て、一目でわかることがエコカー普及の先駆けとして重要でした。日本では、あまりにも普通になりましが、アメリカ、欧州ではまだワン・オブ・ゼム、現地生産の「オーリスハイブリッド」、「ヤリスハイブリッド」の販売も伸びてきていますが、やはり存在感が大きいのが「プリウス」です。さらに最近では、日本名「プリウスα」、欧州では「プリウスv」と読んでいますがこのワゴンタイプの「プリウスv」が目立つようになってきました。

 

「プリウス」タクシーのプレゼンス大と心配事

このプリウスファミリーが目立つもう一つの理由がプリウスタクシーの存在です。さすがにロンドンではロンドンタクシーの独壇場ですが、パリを筆頭に他の都市ではプリウスタクシーが欧州車を押しのけて幅をきかせています。数年前にストックホルムではその時のタクシー登録台数NO1が二代目「プリウス」、昨年訪問したベルギーブリュッセル、スペインバルセロナでも「プリウス」タクシーの多さにびっくりさせられました。パリでも二代目「プリウス」からタクシーで使われるようになり、三代目で飛躍的に増加、最近では大きなラゲージスペースから「プリウスv」のタクシーが増加しています。今回パリのホテルから空港までのタクシーとして、ベルボーイにお願いして「プリウスV」タクシーを止めてもらいましが、客待ち行列の中にも複数台の「プリウス」を見かけるのが普通になってきました。実は、欧州大都市での「プリウス」のプレゼンスが大きくなってくるのを喜びながら、一方「プリウス」タクシーの拡大は少し心配しながら見ていました。もちろんその一つの理由は、プリウス搭載のハイブリッドシステムをタクシー用途の年十万キロ以上が当たり前の長距離走行寿命までは考えてはいなかったこと、またこれまでのタクシー用途ではとかく売れ行きの思わしくないクルマの値引きをしての販売台数稼ぎの話もないわけではなく、正直その心配をしていたことも事実です。二代目プリウスがタクシーシェアNO1を占めたストックホルムでは、インセンティブがついていること、エコイメージとランニング費用が安く商売上もメリットがあるからと聞いていましたが、三代目プリウスでここまで台数が増える背景には、台数稼ぎもあるのではと心配していました。今回また、トヨタの関係者から状況を聞きましたが、その心配は当たっておらず、インセンティブ、ガソリン代の節約以外にもブレーキパッドの減りが少なく、オイルの交換スパンも長くなる上に、故障が少ないため稼働率が高く、商売上もメリットが大きいことが拡大の理由と聞かされました。確かに、初代から回生ブレーキの採用でメカブレーキの仕様頻度は大きく下がり、通常の使い方ではほとんどブレーキパッド交換が不要になったと聞いていました。

このような声は、「プリウス」が経年車品質NO1を連続、また各地域で獲得するなど、故障が少ないことからも裏付けられています。最近では、消費者レポートのベスト・バイ中古車として「プリウス」が選ばれたのもこうした信頼性品質の高さです。

Green Car Report 2014/03/19

http://www.greencarreports.com/news/1090956_used-toyota-ford-hybrids-score-well-in-consumerreports-best-used-car-list

パリ市内からシャルル・ドゴール空港までの「プリウスv」タクシーに乗って、三代目マイナーチェンジ後であることもあってか、室内音も良く乗るコンベディーゼルタクシーよりも遙かに静か、さらに変速ショックのないなめらかでモーターアシストも加わったトルクフルな加速に、手前味噌ながらこらならプリウスが欧州で良い次世代車として認められるようになったことを実感しました。

 

普通になったプリウスの次に期待

しかし、ここまで普通になった次への期待はさらに高くなります。商売上もメリットのでるタクシー用途はいまだけの役割でしょう。昨年の東京モーターショーで展示されたように、いずれはタクシー専用のハイブリッド車が今の「プリウス」タクシーに切り替わっていくでしょう。またここまで普通になってきたら、パーソナルカーとしては次の飛躍にむかいこれまでのユーザーを引きつける何かが必要になってきます。ともするとエコ疲れを感じ始め、普通=陳腐化の道を歩みはじめた「プリウス」を、やはり先駆け「プリウス」とサプライズを与える4代目の出現を期待しています。

今回の欧州出張のさなかに、ホンダから「インサイト」に続き、「CR-Z」の欧州販売打ち切りのニュースが流れてきました。欧州でときどき「CR-Z」を見かけるだけに、販売打ち切りは残念です。ここまで普通になってきた次世代自動車としての日本ハイブリッド車の次の飛躍には、さらなるマーケットには良きライバルとの競いあいが必要です。欧州勢は、どうも政治的にも、規制対応としてもノーマル・ハイブリッドをスキップしてプラグインハイブリッドを優先させてくるようです。しかし、タクシーがエコだけではなく、経済原理から「プリウス」が増えたように、政治的、規制対応だけではユーザーの賛同は得られません。普及が遅れると低カーボンを目指した次世代車への変革が遅れることになります。

良きライバルも参入し、クリーン&グリーン(低カーボン)は当たり前の上に、クルマとしての魅力アップも果たし、ハイブリッドがさらにごくごく普通のクルマになり、そのなかでクルマそのもの商品魅力を競い合う時代になることを見届けたいと思っています。

プリウスの前身、G21プロジェクトとその次のG30活動

G21という符牒は、このブログの読者、またプリウス本をお読みのかた、トヨタの関係者や私の講演をお聞きの方なら記憶されているかもしれません。石油資源、地球温暖化問題が騒がれはじめた1992年ごろ、世界ではハイブリッド車プリウスの開発につながるいくつかの動きがありました

世の中では、地球温暖化を筆頭とする環境問題の深刻化が顕在化、この地球環境問題を議論する国連主催の第1回世界環境サミットがリオ(ブラジル)で開催されたのが1992年6月です。持続可能な開発、サステーナブルデベロプメントがキーワードでした。一方、米国カリフォルニアではロススモッグ解決のため、究極の自動車環境規制、LEV/ZEVを議論していた時期です。排気ガスを出さない自動車ZEV(ゼロエミッション自動車)の販売義務付けが議論されていました。

21世紀を間近にし、ちょうどトヨタの将来ビジョンが社内の各部署で議論されている最中でした。1993年春にこの議論をもとにまとめられた中長期ビジョンのタイトルが『調和ある成長:Harmonious Growth』 、その中核の一つが持続可能な自動車を目指すことを宣言した『トヨタ地球環境憲章』です。この中長期ビジョン、その中核となる地球環境宣言に沿い、トップからその実現に向かう業務改革、組織改革、さらに具体化のためのアクションが社内各部門への宿題として示されました。

 

ハイブリッド普及プロジェクト「G30」

われわれ技術開発部門が、この宿題としてスタートさせた研究プロジェクトの一つが、この社内コードG21、持続可能な自動車社会への一歩となるグローバル・セダンの探索プロジェクトです。1993年秋に少人数でスタートしたG21が周囲のあれよあれよとの間にハイブリッドを搭載するプリウスとなり、“21世紀に間に合いました”のキャッチコピーで1997年12月に発売を開始しました。この経緯は、いろいろなプリウス本に紹介されている通りです。

それから16年、昨年末にそのトヨタハイブリッド車累計販売台数が600万台を突破、持続可能な自動車への大きな一歩を踏み出すことができました。今日の話題は、このG21から今日の600万台への道のりの中にあったもう一つのマイルストーンG30を紹介したいと思います。

このG30は社内だけで通用するプロジェクトコードですが、当時ではプリウスにつながる車両開発プロジェクトのコードではありません。量産のスタートを切ったハイブリッド車の普及をめざすシナリオ策定と、それに対応する開発企画、車両企画、開発体制を提案する活動です。

初代の発売から2年半、モーター、発電機、電池、ハイブリッドシステム部品のほとんどを作り替えるシステムとしての大改良を行い、欧米での発売をスタートさせたのが2000年マイナーチェンジプロジェクトでした。そんな時期、これもトップ役員からハイブリッド車普及として次ぎは2005年30万台/年のシナリオ策定とその具体化プラン提案を指示されました。このシナリオ策定とその開発体制の仕組みを作り上げるのがG30 プロジェクトの役割でした。

プリウスのモデルチェンジ、さらにエスティマ、クラウンとそれぞれプリウスとは機構が違うハイブリッド開発をやりながら、普及戦略をたて具体化するのもお前の役割と事務リーダーを仰せつかりました。G21もプリウス本にあるようにとんでもない超短期開発、社内でもクレージー扱いもされましたが、技術を見極め、チャレンジし、安全に関わる品質に抜けがないようスタッフ一丸で必死に取り組んだ先にゴールがありました。

 

利益を出せるハイブリッドに

開発マネージャー、ビッグプロジェクトのリーダーだからといって、技術開発だけに集中していれば良いわけではありません。しかし、このG30はG21のようにハイブリッドの量産化に集中すれば良い話ではありませんでした。G21はあっという間でしたが、その最中は無我夢中で産みの苦しみのプロジェクト、そこから何度かとりあげたマーケットでの品質向上への取り組みで育ての苦しみも味わいましたが、このG30は世間の冷たい風にも当たりながらハイブリッドを大きく成長させるきっかけとなるステップでした。

当然ながら、まずは収益問題、欧米メーカートップが言った一台ごと、札束を付けて売っているとの状況からは脱出していましたが、初代、マイナーチェンジまでに使った先行開発投資、設備投資の回収まで入れた収益計画の具体化を求められたのもこのG30です。このプロセスでもいろいろなことを学びました。普及拡大には、先行投資分の回収を進めながら、さらに先の開発に投入する原資を確保していく必要があります。ハイブリッド車を増やすにはハイブリッド採用車種の拡大が必要、さらに開発要員の確保、人材育成、開発設備の増強などなどの手当も同時にやる必要がありました。一車種あたりの生産台数が増やせれば、コスト的には楽になりますが、営業部門がそれほど楽観的な台数を提示することはありません。当時、現在進行形だったまだまだ不良発生のおおかったマーケット不具合も、この高い不良率で算定した故障対策費が次ぎのコスト目標に上乗せさせられます。生産予定台数を多くすればするほどコストが下がる訳ではありませんが、少なすぎては開発投資分、設備投資分の回収分が積み上がり、台当たりのコスト増がどんどん大きくなってしまいます。

さらに、営業サイドからはハイブリッド分のコスト増に対し、厳しい販価査定が提示されました。そのギャップを埋めるのがコスト低減活動ですが、知恵を絞り、汗を流してギリギリ届きそうなチャレンジ目標を決めていくのもG30活動の重要部分でした。

普及に伴いハイブリッドにも様々な軋轢が生じてきた

途中経過をパスしてG30活動の顛末を述べると、2005年の30万台/年販売の目標達成はできませんでした。クラウンで採用したマイルドハイブリッドはもちろん、今はポピュラーになってきているアイドルストップまでハイブリッドの範疇に入れて達成シナリオを検討しましたがさすがにそのシナリオは取り下げました。当時、ハイブリッド路線と収益性に疑問を投げ抱えるような、コンペティターやメディアからの弾丸、矢もいっぱい飛んできていましたが、後ろからの弾丸、矢も降ってきたのがこのG30活動でした。

この活動をやりとげたから今の600万台があると思っています。遮二無二、勢いをつけたからやり遂げることができたと信じています。後ろからの弾丸や矢も、前に進むスピードを上げれば勢いが弱まり、さらに時代を切り拓くのは自分達と信じて開発に取り組んでいたスタッフ達の熱気もこれをはじき返す力になったと今になり懐かしく振り返っています。

結局は、G30活動で作り上げたシナリオではなく、この熱意ある開発スタッフ達が取り組んだ、次のプリウス、ハリアーハイブリッド、そしてアクアと続く、ハイブリッド車がこのシナリオを飛び越して、600万台へと発展させた原動力となりました。このG30とそのときの後ろからの弾丸や矢が降ってきた話は自分の墓石の中まで持ち込むつもりでいましたが、バブル崩壊からやっと次の成長へと舵をきった日本再生、アベノミクスの具体化はきれい事だけでは済みません。人間ドラマ、アゲンストであった当時の振り返りも必要と思いました。今が日本再生の21世紀全般の最後のチャンス、このチャンスを失した先に次のチャンスが巡ってくるかは解りません。このチャンスの後ろ髪を追っかけることにならないよう、このG30で学んだ教訓をお伝えしていきたいと思っています。乞うご期待ください。