未来のクルマは自動運転車!?

TVコマーシャル “やっちゃいました!”

最近、気になる自動車のTVコマーシャルが、“やっちゃいました!”とのコマーシャルです。自動運転がほんとうに“やっちゃえる!”技術、になるのでしょうか?トヨタも高速道路限定のようですが、2020年に商品化のアドバルーンをあげ、さらに早いのはテスラが、ドライバー責任を強調したうえでの自動運転ソフトをリリースしました。自動車とは何か、自動車交通の安全性とは何かの掘り下げた議論や、法整備もなしに熱病に浮かされている状況の商品力競争ブームには首をかしげざるを得ません。また、それを煽るメディアの報道、行政の反応に危惧の念を強めています。安全運転の基本は運転に集中すること、この基本が変わるのでしょうか?

安全運転の基本は運転に集中すること!?

現役時代の話しですが、自動車の評価を行うためには、私のようなパワートレイン・エンジニアも試験車運転資格の取得が必要でした。その社内試験車運転資格もクルマ全体の限界走行性能を評価する社内のテストドライバーまで、様々なクラスに分かれていました。限界性能評価を行うエンジニアやクルマの走行性能評価を行うテストドライバー以外の我々が目指すトップランクが上級試験運転資格でした。それがないとテストコース内でも180 km/h超えの高速走行や、欧米一般路での試験走行は許されません。上級資格の取得トレーニングは、スリッピーな路面でのドリフト走行から、サーキット路でのタイムトライアルまで時間と金を掛けて行われます。クルマ屋にとってみると、業務内で行える最も面白いトレーニングですが、徹底的に叩き込まれることがクルマの限界を知り、その範囲で安全に走ることです。最終のサーキット走行では、最低ラップタイムが指定されますが、追い込み過ぎてコースアウトすると、それで即不合格です。兎に角、様々なクルマ、走行環境下での限界を知り、決してそれを越えた運転を行わないためのトレーニングです。そんな運転資格試験の走行トレーニングで教えられる基本の一つに、障害物回避があります。仮にテストコース内に鹿、イノシシ、熊がでてきても、「超高速走行ではぶつかってもしょうがないからハンドル操作で回避しようとするな」です。事実、静岡のコースで鹿、北海道のコースでは鹿や熊が出没することは報告されていました。レアですが衝突例もあったように思います。高速走行では、当たり前ながら急なハンドル操作は禁物、ハンドルを切らずにタイヤロックをさせない最大制動力でのブレーキングがまず運転技能として叩き込まれる基本中の基本です。クルマの限界、自分の運転技能の限界を知り、さらにどんな時にも運転に集中することを徹底させるトレーニングです。運転技能訓練でない一般路の場合でも、安全運転のポイントは運転に集中すること、このパラダイムを変える自動運転は実現できるのでしょうか?

自動運転に求められること

自動操縦に戻ると、このような高速走行中に大型動物が出てくるケース以外にも、前方に落石、道路の陥没、トラックからの落とし物、前方のスリップしたクルマに遭遇するケースはゼロではありません。さらに、操舵輪がバーストしても回避走行ができるか、衝突してでも被害を軽微にとどめるか、回避操作を行うかの判断がドライバーに委ねられているのが今の自動車です。自動運転も走行系に影響を及ぼす部品故障時でも安全に回避、待避走行させる機能を持つことが条件です。暴走運転の割り込み、故意の自爆運転まで考えておく必要があり、そんな様々なケースで勝手に後はトライバーの責任とギブアップするようなクルマならそれは自動運転ではありません。さらに、大雨、大雪、強風、霧、路面状況も水たまり、雪道、氷結路などさまざまです。ひとたび自動運転モードに入ったら、このような条件で勝手にギブアップすることは許されません。技術的にこのような条件を満たせたとしても、性能要件を定義する規格、基準、法的責任所在を定義する法規制、保険制度などなどを整備が不可欠です。

もし、上記の条件を満たし、法整備もでき、完全自動運転のクルマが実用化できるなら、老兵は消えゆくのみ、将来の自動車技術を語る資格はありません。そうでない、中途半端な自動運転もどきのフィーバーなら、自動車に拘わる誰かが止めるべきです。”やっちゃいました!“のTVコマーシャルのクルマも、トヨタの2020年に目指すクルマも、先週テスラが『Model S』制御ソフトVersion7でリリースした自動操縦ソフトも、もちろん完全自動運転ではありません。テスラの例では、自動運転を目指すとしていますが、いざ何かの折にはドライバー責任、ステアリングホイールを従来車どおり手を載せて走ることが”strongly recommended”とされています。結構、システムとしてのギブアップ条件は多いようです。

自動運転車はバイ・ワイヤシステムが前提 その道を拓いたのはプリウス

自動運転車は、当然ならが、ドライバーの操作ではなく車を自動で操りますので、その基本は、クルマの基本要素「走る」「曲がる」「止まる」は、信号仕掛け、バイ・ワイヤー制御が前提です。その意味で、この三要素全てをバイ・ワイヤー制御でやらざるを得なかった、フルハイブリッドのプリウスがこの自動運転への道を拓いたと言っても良いでしょう。バイ・ワイヤー制御でなければ成り立たないフルハイブリッドのプリウス開発では、バイ・ワイヤー制御の安全、安心品質をどうやったら保証できるか、本当に保証できるのか、確認に確認を重ね、無い知恵を絞り、意地悪試験をやりまくり、その上で清水の舞台から飛び降りるような決断でGoを掛けました。「走る」「曲がる」「止まる」の三要素に、ドライバーの操作、意図から外れる安全・安心性能を損なう不具合が発生したら、リコールは当然、生産をストップさせ場合によってはすでに売ったクルマを回収するケースまで想定しました。それくらい、重い決断で踏み切った、ハイブリッドです。

Googleの自動運転開発用試験車の殆どがプリウスとレクサスRXハイブリッド

今の自動運転ブームに火をつけた主役は、Googleですが、遊園地のオモチャのようなハンドルもない自動運転プロトは別として、これまでの検討用車両のほぼその全てが2代目プリウスと、レクサスRXハイブリッド車の改造試験車です。バイ・ワイヤーの信号系だけを操作して、ナビデータと画像認識処理に基づく運転操作信号をハイブリッド車のアクセル信号、ブレーキ信号、ステアリング舵角信号としてECUに送り、ハイブリッドECU、ブレーキECUなどから駆動力、制動力、操舵角信号をアクチュエータに送り自動運転をやっていると思います。ハイブリッドシステム制御をハックして動かしているのでしょう。しかし、制御ソフト全体がその設計思想含め、解読されているとは思いません。

エンジンを含めた、ハイブリッドパワートレイン、パワーステアリング、ブレーキシステムの基本構成、設計要件、設計思想、フェールセーフ設計指針、保証指針、さらにその車両系、シャシー系の設計指針と思想、特性を理解して、設計情報を掴んで改造できる筈はありません。信号系、制御系だけをだまして自動運転と言っているなら、極言するとお遊びのオモチャです。ブレーキ性能一つとっても、タイヤ、ディスク径、パッド特性さらにサスペンション特性など、さまざまな設計要件があり、基準、規格があり、試験法があり、さらにその上で、各社の規格、判定基準に沿ってクルマは作られています。さらに、クルマは個人ユーザでも15年以上、タクシーでは50万キロ以上も使われ、その間の経時変化も考慮に入れた安全・環境品質とその信頼性保証が必要な製品です。

このクルマの基本を性能、品質、信頼性を抜きにしての自動運転車はまだ、遊び、おもちゃと片付けられますが、それを取り上げるメディア、アナリスト達に煽られたのか、自動車メーカーの一部にも、自動運転がブームになってきていることが気になります。このTVコマーシャルだけではなく、ドイツ、スツッツガルトに本社がある老舗高級車メーカーがプレミアムクラスのリムジンコンセプトを展示し、そのCEOが完全無人操縦のそのリムジンを将来リムジンと紹介する姿にがっかりしました。自動車にどんな未来を描いているのか、本当に完全無人運転車が将来自動車としての目指す方向か、どこか、どなたかIT系以外のクルマの専門家、自動車メーカートップが、将来自動車のわくわくする夢、ビジョンを語って欲しいと思います。それは、ドライバーレス自動運転車ではないでしょう。

米国のネットサイトに、Googleのプリウス、レクサスRXハイブリッドを改造した実験車の追突事故率が高いことが何度か取り上げられていました。普通のプリウス、レクサスRXハイブリッドの事故率、米国での追突事故率は掴んでいませんが、ニュースの件数だけからするとgoogle試験車での事故率は高いと思います。その全てが、被害事故と会社側は言っているようですが、法律的な判断は別として、クルマの流れの中での追突事故で100%被害事故は多くはありません。ブレーキのタイミング、操舵のタイミングが一般のドライバー操作との違いがあるとすると、それが追突を誘発する可能性も否定はできません。もちろん、一般車のドライバーも千差万別、力量、判断基準も大きくばらつきます。ニュースで取り上げた中に、そんな千差万別、バラツキが大きく、判断ミスをする人間の運転より、自動運転車のほうが事故確率を低くできるとの意見もありましが、確率論で自動運転の安全性は議論できないと思います。

もう一つ気になることは、今回のテスラ『Model S』自動運転ソフトのリリースですが、このやりかたも大いに疑問です。未熟な状態であることはマスク氏も述べており、その状態で、安全関連リコールでは必ず登場する米国運輸省NTHSAの認可を受けてのリリースでしょうか?安全、環境基準への対応は、どこの国でも認可、認定項目だと思います。日本では道路運送法で定められた保安基準としてソフトだけの変更による操縦アシスト機能提供は認められないのではと考えますが如何でしょうか? とかく、新技術は認可基準が後追いになりますが、環境、安全関連のシステムでは、認可段階でも基準、規格化の議論は必要と思います。

その前に、アクセル・ブレーキ踏み間違防止、衝突回避システムの標準仕様化が先

いまだに、アクセル・ブレーキの踏み間違いによる暴走事故が頻発しています。また、追突事故、バックでの人身事故も後を絶ちません。信号無視、一旦停止無視、高速道路逆走による事故も、無視というよりも運転に集中できずに認知しないで走ってしまったケースが大部分でしょう。自動運転よりも先に、こうした操作ミス、認知ミスを防止するシステムの導入、さらに普及し始めた衝突回避自動ブレーキ、衝突回避操舵アシストをもっとしっかりと安心して使えるものにすることが先決のように思います。これですら、国際基準、規格、システム定義のそのレベリングが、製品よりも後追いになっています。

規制緩和は必要ですが、安全、環境は何らかの規制、基準による誘導は必要です。将来自動車の方向を誤らせるような、中身もレベルも違う状態での宣伝先行の自動運転車競争はやめて欲しいものです。繰り返しですが、安全運転の基本中の基本は運転に集中すること、それを妨げるような自動運転もどきシステムは許されません。

この自動運転車の話題については、清水の舞台から飛び降りる覚悟でバイ・ワイヤーを世に出した当事者の一人として、これからも注目し、このブログで取り上げていきたいと思っています。完全無人自動運転車の時代は、これまで述べてきた成立条件を前提にすると、近未来で実現するとはとても思えません。またドライバレス・モビリティは自由な移動手段、さらにドライブする自由空間としてのモビリティの衰退のイメージであり、個人的にはそんなモビリティは見たくはありません。

されど、まだまだ老兵が消えゆくことにはならないとの強い自信はあります。

二代目プリウス欧州カーオブザイヤー受賞

プリウス、ハイブリッド開発で様々な賞をいただき、その授賞式やフォーラム、環境イベント、広報宣伝イベントにも数えきらないほど出席しました。その中で、一番印象深いイベントは2005年1月17日スウェーデンのストックホルムで開催された“2005年欧州カーオブザイヤー受賞式”です。クルマとしての受賞式ですので、パワートレイン担当は本来は黒子、海外でのクルマ関係の受賞式にはそれまで出席はしませんでしたが、この欧州カーオブザイヤー受賞式だけは、自分で手を挙げストックホルムまで出かけて行き、受賞式に参加しました。

初代の開発エピソードは以前のブログでもお伝えしてきましたが、”21世紀に間に合いました”のキャッチフレーズで量産ハイブリッドとして脚光を浴びたスタートでした。しかし、当時の開発現場の実態としては京都COP3のタイミング1997年12月生産販売開始にやっとの思いで間に合わせたというのが正直なところです。なんとか、お客様にお渡しできるギリギリのレベル、このプリウスを初代初期型と呼んでいましたが、前後のバンパーに衝突時のダメージを防ぐ黒い防振ゴムが付いているのが特徴です。今でも、この黒い防振ゴムがついた初代初期型が走っているのを見かけると、そのけなげな走りに涙がでてくるほど嬉しくなります。

お買い上げいただき、愛用していただいたお客様には申し訳ありませんが、21世紀のグローバルスタンダードカーを目指したプリウスですが、あとで言われたように我慢のエコカーのレベルであったことは認めざるを得ません。このままでは欧米では通用しないと考えていました。生産販売開始前には、開発スタッフ達にほんの一服も与えられずに、次の改良プロジェクがスタートしていました。エンジン、ハイブリッドトランスミッション、その中に搭載する発電機、モーター、そのインバータ、さらに電池まで、普通なら2モデルは持たせなければいけないハイブリッド大物ユニットの全面変更まで決心していました。グローバル展開を図るには、ハイブリッド部品の品質もさらにレベルアップする必要がありました。これが2年半後の2000年5月のプリウスマイナーチェンジ、同時に欧米販売を開始した初代後期型プリウスのハイブリッドシステムです。この後期型プリウスでは、初期型の特徴だったバンパーの防振ゴムがなくなり、一体成形のバンパーとなりましたので一目でその違いが分かります。(写真1)写真1(初代プリウス)

この後期型プリウスも、海外でもいろいろな賞をいただきましたが、その中で残念な記憶は欧州カーオブザイヤーで次点となったことです。選考委員の採点表を見せて貰いましたが、将来のエコカーとして評価し、高い点数をつけてくれた方もおれらましたが、欧州では通用しないクルマとの酷評をいただきゼロをつけた方も複数おられ、このバラツキの大きさで次点に終わりました。私自身も、この後期型は欧州でこそ走る機会はありませんでしたが、士別のテストコース、国内の様々な道路での走行を行い、まだまだクルマ文化が根付き、ドイツアウトバーンがある欧州で評価されるレベルには達していないと思っていました。次点だったことが残念というより、シビアなコメントにも確かに納得するものがありました。次の2代目こそ、欧州の走行環境でも我慢のエコカーではなく、普通に流れにのり走れるハイブリッド車を目標とし、これまた開発スタッフ達は、休む間もなく2代目プリウス用の開発に取り組んでもらっている最中での次点の通知でした。

初代、その後期型までは、“21世紀に間に合いました”“量産世界初のハイブリッド”、“COP3に間に合わせよう””欧米でも使えるハイブリッド車”と、技術チャレンジの連続、その開発プロジェクトマネージは今思い返してもエキサイティング、無我夢中で過ぎたプロジェクトでした。車両チーフエンジニアの車両企画上のコスト目標も無視をし、とにかく世界初の商品を仕上げることに集中できました。

しかし、二代目からはそうはいきません。超トップのサポートは引き続き得られましたが、事務方からはそれまで使った巨額の開発費用や、設備投資の回収を迫られ、一方では、初期立ち上がりの品質不具合多発で従来車よりも多額の品質補償費を原価目標に積まされ、米国からはこのサブコンクラスで、当時の安いガソリン価格では売れる筈がないと酷評され、車両企画の元になる販売目標として1,000台/月を切る提示があったりと、二代目の車両企画、そしてハイブリッド企画も右往左往しました。

エンジン、ハイブリッドトランスミッションなど大物ユニットでは、コスト面からは1万台/月以上で生産ラインを計画することが最低ライン、欲を言うと2万台/月と言われていましたが、2代目プリウスでは1万台/月の企画さえあり得ないと言われ続けていました。それでは、まともな原価目標の立てようもありません。一時は、アルミボディーの限定生産燃費チャンピオン車で良いなどとの企画提案すらありました。21世紀のグローバルスタンダードどころの話しではありません。

技術部の中もアゲンストの嵐、そのなかでやっと立ち上げたのが二代目プリウスとそのハイブリッドシステムです。これまた、部品ベースでは、初代後期型からほぼ新設計での作り直しになりました。しかし初期型THSの大きな欠点の一つだった、エンジンのトルクアップ、パワーアップに対応するトルク容量アップ余地を増やすレイアウト変更まではやれませんでした。

二代目は、そんな中で欧米でも普通に走れるハイブリッド車を目指しましたが、振り返ると初代は無我夢中の技術チャレンジであっという間に過ぎ去っていきましたが、二代目の開発はそれ以外の苦労が多かった印象です。様々な制約、費用回収の要求からのコスト低減要求、さらに様々な外乱の中で、グローバルスタンダードの志しを下ろさず、知恵を絞り抜いて取り組んだ開発でした。

それだけ、いろいろあった2代目プリウスの開発でしたので、2005年欧州カーオブザイヤーの受賞はなにより感激した出来事でした。欧州販売開始は2003年末からでしたので、選考委員もしっかり欧州で走り込んだうえでの審査だったと思います。非常に高い得点で2005年カーオブザイヤーに選ばれました。

その選考委員の採点表欄をみると、初代後期型ではゼロ、もしくは非常に低い点数を付けた選考委員の方々が、この2代目プリウスには高い点をつけ、コメント欄に前回の低い点を付けたことが間違いで、ここまでの進化を見抜けなかったとのコメントが複数ありました。このコメントを読み、欧州でも評価してもらえるクルマにすることができと嬉しさがこみ上げてきました。これが自ら受賞式出席に手をあげ、寒い冬の観光にも不向きな1月中旬、ブリュッセルから一泊二日、トンボ帰りの受賞式でしたがストックホルムの受賞式に参加した背景です。

冒頭の選考委員会委員長Mr. Rey Huttonのスピーチの中で

「トヨタは(自動車としての)厳しい道を学んできた。カーオブザイヤーの審査委員は、2000年プリウスも候補としたが、その投票は割れていた。当時では、プリウスが将来のビーコンと見なした委員と、ハイブリッドのアイデアは見当違いと片づけた委員に分かれていた。新型プリウスは2000年には無かった大部分を持つようになった。今回は、32の候補車の中で、過去最高得点の一つ139点を獲得し、58人の審査員のうち39名がトップとした。」

などとこの受賞を紹介してくれました。

その後、当時の技術担当副社長がトロフィーを受け取るのを見守り、一緒に写真撮影を行い、多くの選考委員の方々と話しをすることができました。そのディナーで味わったワインは、それまでもその後も味わうことのあった有名シャトーのワインよりも美味しかったことが忘れられない思い出です。(写真2)

写真2(2005欧州カーオブザイヤー)

このブログを書きながら、はたと思い至ったことがあります。この欧州カーオブザイヤーの受賞式は2005年1月、これがひょっとすると今大騒ぎになっているVWスキャンダルの引き金の一つになったのではとの思いです。

プリウスハイブリッドが米国で、欧州で認知度が高まり、急激に販売を伸ばし始めたのもこの頃からです。講演会、フォーラムでの欧米エンジニアの態度、目線に変化を感じ始めたのもこの時期からのような気がします。特に、欧州のエンジニア、ジャーナリストは、審査員のコメント、委員長のスピーチにあったように2000年のモデルまでは、ハイブリッドを収益無視の広告宣伝用のシステム、欧州では通用しないとの意見が主流であったのに対し、この2003年二代目でその見方が変わったように思います。

当時は、欧州でも認知されたことを喜ぶばかりでしたが、そこまでインパクトを与えたとすると、それから10年、3代目から4代目をこの世界にサプライズを与えたインパクトを引き継げているか、次の機会には振り返ってみたいと思っています。

この二代目プリウスは、このブログのように、2005年欧州カーオブザイヤー受賞の他、北米カーオブザイヤーも受賞しました。しかし、本家本元日本ではカーオブザイヤーを逃してしまいました。日本のエンジニアである私にとっても残念なことでした。

二代目のハイブリッド開発は、様々な制約はありましたが、我々には我慢のエコカーから欧州(ドイツアウトバーンを除き)で普通に心配なく走れるエコカーの実現の目標にはブレはありませんでした。しかし、今振り返ると、社内では走りの良さをアピールポイントにしたいとの声が強すぎ、走り系のモータージャーナリストから、欧州車との対比で拒否反応があったことも原因かとも思っています。

今回の騒ぎで思い出したことが、あたりか、外れは判りませんが、時代を切り拓くつもりでやったことは確かです。フェアな土俵で、その次の時代にも安全・安心、自由に快適に移動そのものも楽しめるFuture Mobilityを巡る、世界自動車エンジニアのチャレンジを期待します。

トヨタ&レクサスハイブリッド車累計800万台突破と4代目プリウス発表

先月21日、トヨタ自動車からトヨタとレクサスのハイブリッド車の世界累計販売台数が7月末で800万台を突破したとの発表がありました。

http://newsroom.toyota.co.jp/en/detail/9152370

図1に1997年からのトヨタ&レクサスハイブリッド車のグローバル累計販売台数推移と年間販売台数推移をしめします。(トヨタ ニュースサイトの年度別販売台数データから作成)

トヨタハイブリッド車販売台数推移

トヨタの公式サイトには、1997年12月「プリウス」の誕生から、7月末にグローバル累計販売台数800万台突破と書かれていましたが、これは正確な表現ではありません。トヨタの市販ハイブリッド車の初号車は、このプリウスの1997年12月発売の前、8月に少量販売を開始した小型バス「コースター ハイブリッドEV」が最初です。クリーンを売りに、ディーゼルエンジンに換えて、当時のサブコン車「ターセル」などに搭載されていた4気筒1.3リッターガソリンエンジンを搭載、そのエンジンで発電機を回し、その電力で最大出力70 kWの駆動モーターで走らせるシリーズハイブリッド方式のハイブリッド車でした。

これが、1997年12月「プリウス」発売を前に数台か十数台が、大都会の幼稚園バスや観光地の送迎バスとして販売されていました。

私自身は、初代「プリウス」搭載のハイブリッドシステム開発がハイブリッドに携わった最初です。この「コースター ハイブリッドEV」にはタッチしていませんので、トヨタの公式サイトの表現を使いたいのですが、個人的には残念ですがトヨタハイブリッドの1号車はこの「コースター ハイブリッドEV」です。

もちろん、この800万台に至る量産ハイブリッド車のスタートは「プリウス」であることは間違いありません。この「プリウス」に採用し、洒落た名前が思い付かないまま、私が文字通りのトヨタ・ハイブリッド・システム=略してTHSとそのまま名前をつけたハイブリッドが、トラックのハイブリッドなど、ほんの一部のハイブリッド車を除き、同じコンセプトのまま今も使われています。

このTHSコンセプトを、”遊星ギアの三軸に、エンジン、発電機、モーターを接続、このモーター軸からチェーンを介しデフギアへ、デフからドライブシャフトによりタイヤを駆動してクルマを走らせる方式”、”クラッチもトルコンも、変速ギアも、リバースギアすらなくクルマを普通に走らせるユニークなハイブリッド”と説明したことを覚えています。いくつかのバリエーションはありますが、遊星ギアの三軸にエンジン、発電機、モーターを接続するコンセプトは今も変わりはありません。

このプリウスの初号車が、累計販売台数の何台目に当たるか判りませんが、1997年12月10日にトヨタ自動車高岡工場から初代プリウスが車両運搬トレーラーに乗せられて、多分東京か愛知の販売店にむかってからまもなく18年が経過します。国内での正規白ナンバー登録は、国交省から認可をいただき、9月末にライントライ車両の社内評価車両に付いた白ナンバーがプリウス1号車だと思いますが、このトレーラーで運ばれた車のどれかが、お客様の手に渡った第1号車になりました。2000年5月の初代マイナーチェンジを機に、米国と欧州販売を開始し、グローバル市場へと拡げていきました。

車重の思いミニバンや大排気量エンジン搭載の上級車では、すぐにプリウスTHS方式を適用することができず、メカCVT変速機を使ったTHS-CのエスティマHV、エンジン補機ベルト駆動のオルタの変わりにモーター発電機とし12V補機駆動鉛電池とは別に36V鉛電池を搭載したマイルドハイブリッドTHS-Mを使ったクラウンHVも開発しましたが、マーケットから本格ハイブリッドの要望が強く、またMGやそれを駆動するインバーターの高出力コンパクト化が進み、それらも遊星ギア方式のTHSコンセプトに置き換えられていきました。プリウスに続く、THS第2段はハリアーHV、エスティマTHS-Cで開発したリアモーター駆動のAWDを採用したTHSです。これがレクサスHVの始まりで、レクサスブランドのグローバル展開に合わせRX400hとして発売され、トヨタ、レクサスでのハイブリッドラインアップ展開は始まりました。このトヨタ・レクサスハイブリッドが累計800万台を迎えました。

その内の、400万台以上が「プリウス」、またレクサスCT200h、 ノア/ボクシーHV、英国工場で生産しているAuris Hybridなどに使われ、累計800万台の60%以上がこの1.8Lエンジンの同じファミリーのTHSパワートレインを搭載しています。

そのプリウスが、2009年発売を開始した3代目プリウスから6年半ぶり、いろいろ合ったようで少し間があきましたが、今年末にフルモデルチェンジを行い4代目となります。詳細スペックは発表されていませんが、ハイブリッドもこの4代目プリウス用として大きな技術進化が織り込まれているようですので、どこまで進化したのか今から楽しみにしています。日本のJC08燃費 40 km/l 、ユーザー実走行燃費に近いと言われる米国EPA公式燃費では都市とハイウエーのコンバインド燃費で55 mpg(23.38 km/L)、燃費バージョンで60 mpg(25.51 km/L)との噂がニュースに登場しています。

プリウスの使命は、初代から21世紀のグローバルスタンダードカーとして、他の追従を許さない燃費/CO2を目指すクルマでした。3代目の企画まで現役として付き合ってきましたが、もちろんグローバルスタンダードカーとして我慢のエコでは問題外、燃費/ CO2性能の向上はもちろん、クルマとしての走る魅力の向上、さらに世界に拡大していくためのコスト低減が絶え間なく取り組んできた開発課題でした。。

この4代目が、この初代からの志しを継いでくれているか、これも現地、現物、現車で見極めていきたいと思っています。この4代目から新しいプラットフォームTNGA採用第1号となりますので、シャシー系も、欧州Cセグメント系とガチンコ勝負ができるのではと期待しています。(写真1 4代目プリウス ワールドプレミア トヨタサイとより転載)

2016年 4代目プリウス 写真

遠からず、このTNGAでも足りないと言わせるぐらいの、ハイパワーバージョンTHSの登場を期待しています。もちろん、クラスとして燃費チャンピオンが前提です。

 

1年2ヶ月ほど、お休みしていたこのCordia Blogを、このトヨタ&レクサスハイブリッド車グローバル販売800万台突破と4代目プリウス発表を機会に、再開いたしました。

800万台突破といっても、10億台を越える世界の自動車保有台数の1%にも届いていないレベル、ほんの第一歩を歩みだしたに過ぎません。また、このところのエコカー販売停滞も気になるところです。よく言われた、ハイブリッド車はショートリリーフ、電気自動車、水素電池自動車が本命との声も実態は風吹けと、鞭をたたけど(規制)、飴をばらまけど(インセンティブ、補助金)踊らずが現状で、アメリカでは大型車回帰でCO2が増加に転じてしまいました。

昨年のグローバル小型自動車(Light vehicle)販売8,720万台です。このクルマを低燃費、低CO2のクルマに切り替えて行くことが何と行っても最優先です。今の延長線程度の電気自動車や水素燃料電池自動車には、次世代自動車の主役としてのバトンを渡す訳にはいきません。その内燃エンジン車を低燃費、低CO2へと進化させるコア技術はハイブリッドです。軽自動車まで、アイドルストップでは不十分と減速回生、モータアシストとハイブリッド化の道を辿り始めています。内燃エンジン車のハイブリッド化をリードしてきたのは、日本勢です。このアドバンテージをさらに拡げて行って欲しいものです。

このアドバンテージを多くの現場スタッフ、エンジニア達と作りあげてきた、日本のパワートレインエンジニアOBとして、これからも辛口のコメント、叱咤激励を続けていきたいと思っております。 [jwplayer mediaid=”1808″]

 

ブログは、お休みしていましたが、ハイブリッドプリウスの開発、次世代自動車のゆくえなど、今もいろいろな場所でお話をさせていただいております。

また、TEST 2015 第13回総合試験機器展 東京ビッグサイト 西ホール 2015.9.16(水) ~18(木)

の17日(木)13:00~14:10まで、特設会場Aにて「プリウスが切り拓いた低CO2自動車のこれまでと、これから」との題目でお話をさせていただきます。見学、ご視察のご予定がございましたら、お立ちより下さい。

今後とも、よろしくお願いいたします。

 

トヨタハイブリッド車累計販売600万と電動自動車の未来

昨日、私にとってうれしいニュースが飛び込んできました。すでに新聞で報道されているように、トヨタハイブリッド車の世界累計販売台数が昨年の12月末で600万台を突破したとのニュースです。以前のブログで、昨年3月末に達成した累計販売台数500万台記念の現役、OB含めたハイブリッド開発の仲間たちのパーティーを取り上げましたが、次の100万台まで9カ月、ピッチをさらに速めての達成です。正確な数字は掴んでいませんが、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車といった電動自動車の世界累計販売台数もまた1,000万台突破もまもなくと思います。

トヨタのハイブリッド車販売のスタートは1997年12月発売の「プリウス」ではなく、その年8月に発売を開始したミニバス「コースターハイブリッド」ですが、これは少量販売にとどまり短い期間で生産も停止していますので、この600万台のうち半数以上を占める「プリウス」がリードしてきたと言っても良いでしょう。

図1
図は1997年からのトヨタハイブリッド車の販売経過です。

1997年のわずか300台程度からスタートし、100万台までに118カ月、約10年かかりましたが、次の200万台からは各100万台増加に27、18、14、11ヶ月とピッチを速め、昨年3月末に到達した500万台から600万台まではわずか9ヶ月で到達しています。お買い上げいただいた全部のクルマが生き残っている訳ではありませんが、このクルマが自動車低CO2の牽引役を果たしていると思うとエンジニア冥利につきます。

電動化に先行する日本、海外でもやってくる

ただし、日本ではハイブリッドやEVなどの電動自動車販売シェアが20%を越えましたが、アメリカでは今年も昨年に続き販売新記録となったもののまだまだ3.84%のシェアにしかすぎません。

今、デトロイトで北米自動車ショーが開催されていますが、ロイター通信の論調は「エコよりもパワー」に回帰かとの見出しで、フォードF150、GMシルベラードといった販売が好調な大型ピックアップトラックの新型車をとりあげています。

中身をよく見ると、その大型ピックアップトラックもダウンサイジング過給、軽量化、アイドルストップの採用といった低燃費メニューが並び「エコ」はあたりまえになっており、その上でカウボーイハットが似合うアメリカのガラパゴスカーの大型ピックアップですら低燃費が社会のまたユーザーのアピールポイントとなってきており、「エコよりパワー」とは反対に着実に燃費意識が定着してきた証拠のように思います。

中国も新車販売がとうとう2000万台を突破し、世界全体でみると自動車販売はさらに拡大を続け、保有台数が増加しています。

こうした状況では、トヨタハイブリッド車累計販売600万台到達、世界の電動車両累計販売1,000万台到達といって浮かれている訳にはいきません。自動車の走行でのCO2排出にまず歯止めをかけるには、どんなタイプであれ自動車の電動化を加速させる必要があります。

トヨタのハイブリッド車を販売している国は80ヶ国に拡大していますが、国別シェア、台数でみるとまだまだです。さらに新興国では廉価な小型大衆車クラスの電動化もまた求められています。そのためにも、電動化部品および車両の現地化も必要です。

ハイブリッド、EV、燃料自動車はライバルでは無い

昨日、お台場の東京ビッグサイトで開催されている「カーエレクトロニクス技術展」「EV・HEV駆動システム技術展」を見てきました。日本の自動車電動化を支える部品技術、材料技術、計測技術、生産技術各社がブースを出していましたが、その広がりと熱気が大変印象的でした。

一般の見学者が多い、他の環境展やスマート何とやら展とは違い、実際にモノ造り、ビジネスにかかわる専門家が多い印象で、各ブースで熱心な商談、営業活動が行われ、また中国、韓国他、海外の参加者も目につきました。

この17年、トヨタハイブリッド車累計600万台がけん引役を務めました。自動車電動化を支える日本の部品、材料、計測機、開発ツール、生産機械がここまでに広がってきたことに口火を切る役割を務められたことを、少し自慢がしたくなりこのブログに取り上げました。

もちろん、感慨に浸り立ち止まっていてはこの激烈なグローバル次世代自動車競争を日本勢が勝ち抜き、生き抜いていくことはできません。

巷では、その発信源がどこかは判りませんが、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、さらに水素燃料電池自動車をあたかもコンペティター関係にあるかのように対比、オン/オフ比較して語られているように思います。

さらにハイブリッド自動車と昨今の欧州勢のアプローチ、直噴過給ダウンサイジング、デュアルクラッチ多段変速機、アイドルストップ、気筒停止の低燃費車両を、これまたコンペティター関係として対比する論評を見かけます。そのあげくに、ハイブリッドは日本のガラカ―?などとのまで言われたこともあります。これはミスリード、不本意です。

電動化が将来自動車のコアなのは間違いない

クルマを動かすエネルギーの全部か、一部かは別としてエネルギーの貯蔵源を有効につかって高効率、低CO2を目指す目的は、ハイブリッドも、プラグインハイブリッドも、さらに電気自動車も水素燃料電池自動車も変わりはなくクルマの電動化がコア技術です。使われている技術分野も共通分が多く、そのモーター、インバーター、さらに電池の技術進化、低コスト化が進むといずれもさらにCO2排出を減らすことができます。その手段が電動化です。

またハイブリッドの定義はクルマを直接電気モーターで駆動するパスを持つクルマとなっていますが、ナビもオーディオもインパネ表示も、クルマを動かすための様々な制御もエンジン発電発生するか、充電電池から取り出すかは別としてクルマを動かすために消費しているエネルギーです。このすべてのクルマで消費するエネルギーの効率化を図るのが低燃費のアプローチで、これもハイブリッドでもノンハイブリッドであろうが変わりはありません。できる限りの減速エネルギー回生を行い、そのエネルギーを使ってエンジン停止中の補機、制御系を動かし低燃費化を図る部分が、強いて言うとノンプラグイン車とハイブリッドの違いです。

低燃費車の標準メニューとなってきているアイドルストップでは、その領域を拡大していくと軽自動車の低燃費車競争で競いあっているように、クルマが完全停止する前からエンジンを停止し低燃費効果の拡大が図りたくなります。停車中でもエンジン停止を行うようになると、パワステ油圧、ブレーキ油圧など従来はエンジン回転で駆動していた補機類のエネルギー源確保が困難になりパワステも、ブレーキ油圧発生、さらに夏のエアコン運転、冬のヒーター熱源のエンジン冷却水もまた電動化がやりたくなります。

こうした補機類の電気駆動もまたどんどん進んでいます。上級車や重量車ではこうした補機駆動のエネルギーもばかにならず、42V~48Vのマイルドハイブリッドがやりたくなります。マイルドまでいかなくとも、スズキのエネチャージ、日産ノート、マツダスカイアクティブも12V鉛電池の他に小さなリチウムイオン電池、キャパシタ―を使い、エンジンベルト駆動ですが減速時のエネルギー回収を行っています。これまた自動車の電動化です。

展示会でも日本各社の様々なタイプの電動化に向けた部品、材料、開発のためのツール、計測機がこれでもかというほど展示されていました。国内マーケットで低燃費自動車開発を競いあり、その部品、材料、計測ツール、開発ツール、さらにその生産技術開発が活発になり、展示会場で感じた熱気をさらに高め、その熱気のなかで次をになう人材が育っていけば次の700万台、1000万、2000万とさらに電動化車両の普及拡大を日本勢がリードできます。さらに、その低燃費車、部品、材料技術のグローバル展開を進めることが日本自動車産業の生きる道、この分野、この技術、この人材で地球市民として日本が貢献していくことを願っています。

米国トヨタ本社のテキサス移転

少し旧聞となりますが、4月28日(月)にトヨタはこれまでカリフォルニア州(加州)トーランス市においていた米国本社をテキサス州プラノ市に移転すると発表しました。トヨタの発表によると、米国とカナダの企業活動全体を”One Toyota”ビジョンで行うためにプラノ市に移転し機能を集約すると説明しています。

もともとトーランス市に置かれていたのは、米国での販売、マーケッティング拠点であった米国トヨタ自動車販売の本社で、車両開発、生産、渉外機能とは別機能でした。その後、米国での現地生産、現地生産活動が増加するにつれ、米国全体の本社機能と位置づけられました。開発部隊のなかでも、筆者のようなエンジン屋にとっては、デトロイト近郊のアナーバー市にあるテクニカルセンターとともにトーランスの隣、ガーディナ市に置かれたラボが馴染みのある米国の拠点でした。そのガーディナラボは、エンジン評価、車両適合の拠点とともに、世界の自動車環境規制をリードしてきた加州大気資源局(CARB)と将来自動車環境規制のルールメーキング、試験法についての情報収集や、CARBとの認証届け出業務の重要拠点でもありました。プリウスの発売後は、実用的な次世代環境車としてCARBのスタッフ達が実用的なクリーン/グリーンビークルとして高く評価してくれました。それに意を強くして、全米どころか世界へハイブリッド車を広げる戦略の説明、将来ビジョン議論のためガーディナラボのメンバーとともにトーランス本社に何度も足を運んだ記憶があります。

このテキサス移転を伝える5 月のGreen Car Reportは、「Toyota’s Texas Move: Prius Maker Lands In Highest-Carbon State」との見出しでこのニュースを伝えています。テキサス州は温室効果ガス排出量が全米50州中1位、一州の排出量として、フランス、イギリス、カナダを超えています。これを根拠に、環境自動車プリウスを販売している会社が環境問題を重視していない州に本社を移したことを皮肉った見出しをつてけています。温室効果ガス排出最大州となっている要因としては、19もの火力発電所があること、化学工場が多いこと、都市部でも公共交通機関が少なく、もっぱら自動車、その自動車も大型ピックアップトラックや大型SUVが多いことが上げられています。一方、ハイブリッド車比率は全米平均を大きく下回っており、さらに、ペリー知事は地球温暖化懐疑論者であったことは有名です。

もちろん、様々な法規制や法人税率など企業活動のやり易さ、広い米国全体に散らばる拠点のコントロールセンターとしての地理的な条件からは加州よりもテキサス州が有利のようです。しかし、21世紀の企業ビジョンとして「環境・エネルギー問題へ対応する自動車の変革」を掲げ、ハイブリッドプリウス開発に取り組み、次世代自動車をリードしてきたトヨタが、環境規制をリードしてきた加州から「Highest-Carbon State」に移転したときの影響をどう判断したのか、知りたいところです。

何度かこのブログでも紹介してきたように、筆者自身は現役のクリーンエンジン開発リーダの時から、加州ZEV規制には反対を続けてきました。。大気汚染の深刻さを否定していた訳では決してありませんし、開発を手がけてクリーンエンジン車のクリーン度はCARBも太鼓判を押す経年車クリーン度NO1だったと自負しています。もちろん、排ガスシステムのリコールを命じられてことは一度もありません。クリーン度の改善手段として、まだまだエンジン車でもやれることがあり、やり遂げる自信もありました。さらに走行中ゼロ・エミッションの定義が納得できず、さらに今も基本的には変わっていませんが、短い航続距離ではクルマの機能としてエンジン車に起き買われないことが明かだったからです。。

1990年代の初めに、前述のロス近郊のCARBラボやサクラメントのCARB本部で、ZEV規制ルールメーキングスタッフ達や幹部達と、「走行中のZEVは誤解を招く、発電エミッションも入れて議論すべき」と激論を戦わせたことを思い出します。いわゆるエミッション・エルスオエア・ビークル論を戦わせました。そのときの彼らの反駁は、「カリフォルニア州には石炭火力はなく、クリーンな天然ガス火力と原発、さらにアリゾナ、コロラド州からの水力発電だから電力もクリーン、さらにオゾン濃度の高いロス地区、サクラメントには天然ガス発電所すらないので文字通りZEVだ」との主張でした。トヨタ社内のEV開発リーダーからも、あまりEV開発に水をかけないで欲しいと、クレームを付けられたのもこのころの思い出です。

僅かな台数のZEVを導入するよりも、触媒もついていない古いクルマ、いかにもエンジン失火のまま走っている故障車を減らすほうがよほど大気改善には貢献できるとの主張もしました。「効果が大きいのは判っているが、大気改善が進んでいない現状ではイメージ優先、ZEV規制を引っ込めるわけにはいかない」と言われてしまった。ロス地区のオゾン発生メカニズムや大気環境モデルを勉強をしたのもこの頃です。

その後、加州では、自動車のLEV規制や自動車だけではない様々な規制強化によりロスのオゾン濃度は低下をつづけ、またPMの改善も進んでいます。しかし、この環境改善効果は当時の議論のとおり、ZEV導入の効果はほぼゼロと言ってよいでしょう。自動車排気のクリーン化と古いクルマが新技術のクリーン車に置き換わり、さらに最近のニュースにあった停泊中の大型船舶電源として一般電力(グリッド電力)への切り替え、レジャー用船舶、アウトドア車両の規制強化などによる効果とされています。さらにPM2.5の排出源として、航空機からの排気の寄与率が高いとの調査結果も報告されています。

残念ながらZEV規制を止めることはできませんでしたが、CARBの幹部やスタッフ達とこうしたディベートをフランクにやれたことはアメリカのオープンさの表れとして良い思い出でした。”Prius”発表後は、この実用ハイブリッド車の開発努力とクリーンポテンシャルを高く評価し、新カテゴリーの先進技術パーシャルZEVカテゴリーを新設してくれるなど普及をサポートしてくれまいた。さらに環境保全の”リアルワールド重視”の部分では、技術的に納得できる提案は採用してくれるなど、オープンでフランクな信頼関係の構築ができたと思っています。

いまもZEV規制には、オゾンやPMといった都市部の大気汚染の規制としては”リアルワールド”での改善効果の少なさから賛成できません。特に自動車から排出されるCO2まで温暖化ガスとしてZEVに取り込んだ動きは、加州だけの問題ではなく、グローバルな問題、もう一度ZEVの定義について当時の議論を材料にCARB幹部やスタッフ達に反駁したいところです。CO2はどこで排出しても気候変動に影響を及ぼす温室効果ガスであり、走行中ゼロでも発電所での排出を含めて評価をすべき「エミッション・エルスオエア・ビークル」です。某社がZEVクレジット販売で利益を上げるのは異常、低カーボン車の普及によって環境保全に寄与できるとの主張は当時も今も変わりはありません。

CO2排出量ではあっという間に中国に抜かれてしまったが、アメリカは中国に続く世界二位、さらに一人当たりのCO2排出量では今でも群を抜く化石燃料多消費国、このアメリカがやっと本気で温暖化対策のためのCO2排出削減に舵を切ろうとしています。CAFÉ規制強化は決まりましたが、まだまだ大型ピック、大型SUVが好まれる国です。低CO2次世代車はハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車含めてわずかシェア3.8%と低迷しています。中国とともに、この国が低CO2に動かなければ低カーボンのグローバルな新たな削減活動の枠組み条約は成立しません。その中で、自動車の変革は待ったなしですが、実用技術の裏付けのない規制や、国際政治のパワーゲームで次世代自動車の普及が加速するわけではありません。

規制対応だけではなく、実際にクルマの魅力を高め、この次世代自動車比率を高めることが自動車分野の低カーボン化のポイントです。これをリードしてきたのがトヨタ、ホンダ、日産の日本勢、そのなかで我々は『Prius』で先頭を走ってきたとの強い自負を持っています。この次世代自動車普及の背中を押したのが、私自身、ZEV定義と規制には賛成できませんが、カリフォルニア州ZEV規制であったことは間違いないと思っています。『Prius』を筆頭に次世代自動車普及のアーリーアドプターとしてハリウッドのセレブ達やシリコンバレーなど西海岸の人たちからの強いサポートがあったことを忘れることはできません。

この話題の最中に、ピークオイル論ならぬ、ハイブリッドピーク論が話題になっています。*

*  Could U.S. Hybrid Car Sales Be Peaking Already–And If So, Why?

「アメリカのハイブリッド車販売は既にピークをすぎたのか、それは何故か?」

16 June, 2014 Green Car Report

http://www.greencarreports.com/news/1092736_could-u-s-hybrid-car-sales-be-peaking-already–and-if-so-why

 

ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車含めた次世代自動車の2013年販売シェアは僅か3.8%、このうちプラグインハイブリッド、電気自動車併せて0.6%と比率としては増加していますが、ノーマル・ハイブリッドを押しのけコンベ車に置き換わっていく勢いはありません。

折しもトヨタは年内の水素燃料自動車販売を発表しましたが、電気自動車=ZEVの代替候補として実用化の暁にはクルマの航続距離に優れた水素燃料電池自動車の実用化支援活動をリードしてきたのも加州です。まだ、水素燃料電池自動車普及へのハードルは高く、これが『Prius』を名乗ったり、ポスト『Prius』になるには時間だけではなく、技術ブレークスルーも必要ですが、このアーリーアドプターマーケットも加州が務めてくれることは間違いないと思います。

しかし、いつになるか判らない水素燃料電池車普及の前に、全米で僅か3.8%のシェアの次世代自動車シェアを拡大していくには、やはり加州のユーザーにアピールでき、また環境性能としても電気自動車、水素燃料電池車と競合できる、ハイブリッドピーク論をぶっ飛ばす次の先進『Prius』出現に期待したいところです。

 

 

プリウスの回生ブレーキ ーその2

本格回生協調ブレーキECB(電子制御ブレーキ)
一週空いてしまいましたが、引き続き、プリウスの回生ブレーキを巡る開発エピソードをお伝えしたいと思います。先回はカックンブレーキと言われてしまった回生協調ブレーキチューニングの顛末を取り上げました。回生量を増やすにはギリギリまで油圧ブレーキ作動への切り替えを遅らせ、回生制動割合を増やすだけではなく、回生の取り代を減らすこととなるブレーキ引きずりの低減にも従来車ブレーキ以上に厳しい目標設定をおいて取り組んでもらいました。このブレーキ屋さんや車両評価の人たちとの共同作業とその時の議論がその後のさまざまな進化に繋がりました。
まず、2000年のマイナーチェンジでカックン感の改善を行い、同時に回生・油圧の切り替え適合で燃費向上を果たしました。次の本格的な進化は2003年二代目プリウスに向け開発した本格ブレーキ・バイ・ワイヤ、文字通りの回生協調ブレーキと言える電子制御ブレーキECBです。中速域からの加速ならば、回生優先、このECBの採用で大幅な燃費向上を果たすことができました。図に初代と二代目での制動力に対する回生・油圧分担割合と、回生効率比較を示します。回生効率とは、空気抵抗やタイヤの転がり抵抗で回収できない減速エネルギーを除き、理論上回収できるエネルギーのどれくらいを実際に回収したかの比率としました。初代の10-15モードでは、38%程度だった回収効率が、二代目では倍近い72%程度にまで向上しています。
140605ブログ図表_ECB回生効率
アメリカ、欧州の最高速度が高く、減速度も10-15モードよりも大きな公式都市走行モードでも大幅な向上を果たしています。初代では強力な電池を搭載していてもエネルギー回生では十分にその容量を生かし切れなかったとも言えます。また、10-15モードぐらいの車速域と減速度なら、回生協調ブレーキを使わなくともアクセルペダルから足を離した状態のエンジンブレーキ相当の回生で十分との意見もありましたが、やってみるとそれでは不十分でした。特に実走行では公式モード通りの運転をしている訳ではありませんので、アクセル全閉、いわゆるエンジンブレーキ相当の減速度を強めると、無意識に車速を落としてしまい、車速維持のためにアクセルまた踏むといったオン/オフ運転を繰り返してしまうことがあります。こうしたオン/オフ運転では燃費を大きく悪化させてしまいます。この状態こそ、回生協調ECBの独断場、ブレーキで車速コントロールしながら広い領域でエネルギー回生を行うハイブリッドのポテンシャルの高さを感じたのも、初代から二代目のECB採用での開発でした。

Bレンジのエンブレの効き
また、初代ではBレンジに入れてもエンブレの効きが悪いとのお叱りもいただきました。今の設計指針、法規が当時からどう変わってきているのかわかりませんが、初代~二代目ではBレンジの減速度の上限として、長い下り坂などで電池が満充電状態でもエンジン空転で消費できる発電量としました。どんな状態でもエンブレ状態の制動力を変化させないことを指針としたため、Bレンジで電池満充電では、エンジンの許容最高回転数での空転が上限です。このため、満充電となるとエンジン回転数を発電機でつり上げて高めていました。初代ではこのエンジン許容最高回転数も熱効率を高めるため4,000回転/秒と低く設定していましたので、これが上限、このためBレンジでもDレンジとさほど差がつかない減速度しか使えなかったというのがその顛末です。エンジン最高回転数を2000年のマイナーで少しあげ、2003年二代目で5,000回転/秒まで上げた理由が、エンジン最高出力を高める他にこのBレンジでのエンブレの効きを良くしようとの狙いがありました。
エンジンでは、アイドル運転時の発生トルクが駆動トルクの下限、微妙な駆動力コントロールはできません。この点、モーターは出力側から、回生制動力までリニアにさらに精密に駆動/制動力を制御できます、初代ではこのポテンシャルを使い切れませんでしたが、スキッドコントロール、トラクション、オートクルーズなど駆動/制動力をリニアに精密に制御することのポテンシャルの高さを感じたのも、ブレーキ屋、車両屋、エンジン屋、駆動屋と共同開発作業、チューニング作業をおこなった初代~二代目の開発での思い出です。
まだまだ、電気駆動/回生制動のポテンシャルを突き詰めきれてはいなとの感じながら、開発エンジニアをリタイアしました。その後の進化が少ないことが気掛かりです。

プリウスの回生ブレーキ ー その1 

燃費3倍をめざすハイブリッド探索から燃費2倍プリウスの開発へ
何度かこのブログで紹介しましたが、プリウスの前身、21世紀のスタンダードカー・スタディーをスタートさせたのが、1993年秋、社内コードG21です。このときにチームの依頼でエンジンチームが燃費シナリオ検討を行い、コンベ(従来車)技術で10-15モード燃費50%なら達成可能とのスタディ結果だったそうです。G21チームはこの燃費50%向上を車両開発目標として、当時の技術副社長和田さんに提案したところ、「やるなら燃費2倍、それでなければ止めておけ」と言われたエピソードはいくつかのプリウス本で紹介されているとおりです。この目標を達成するには、もうハイブリッドしかありません。急遽ハイブリッド前提での燃費2倍を達成するシステム選定が行われ、その結果選びだしたのが今のトヨタハイブリッド車全車種が採用している、2モーター方式、遊星ギアにエンジン、発電機、駆動モーターをつなげるTHS方式です。
このG21のスタディーとは別に、パワートレーングループが発足させたハイブリッドチーム(BRVF)に和田さんが与えた宿題が燃費3倍を実現するハイブリッドの探索です。この裏話を昨年のブログで紹介しました。
(2013年8月コーディアブログ http://www.cordia.jp/wp/?m=201308)

BRVFチームは、燃費3倍をターゲットに、考えられる限りの様々なハイブリッド構成とアトキンソンサイクルエンジンなど低燃費技術シナリオを入れてスタディーを進めたものの、燃費3倍の実現は困難、車両軽量化や空力改善を入れても燃費2倍強が限界との結果だったようです。BRVFスタッフ達が、和田さんからの爆裂弾破裂を覚悟して恐る恐る「燃費3倍は無理、燃費2倍強が限界」と報告したところ、「よくやった、その目標で次ぎはプロト開発に入るように」と指示をされたとの裏話を聞いています。「燃費50%程度を目標とするならG21は止めてしまえ!」とおっしゃった和田さんの頭の中には、すでに燃費2倍ならハイブリッドでやれるとの報告が入っていたことは間違いありません。このブログで何度もご紹介したトヨタの諸先輩がた、特に今も語り継がれる名車を作り上げられた車両主査のお一人、和田さんらしいエピソードです。

燃費2倍にはフルハイブリッドが不可欠、ブレーキ屋さんには苦労をかけました
この「ハイブリッドなら燃費2倍強はやれるかも?」の根拠の一つが、停車中のアイドルストップどころか、低中速の走行時には運転効率が極端に悪化するエンジンを止め、モーター走行をさせるフルハイブリッド(ストロング)とも呼ばれるハイブリッドと、今日の話題回生ブレーキの採用です。燃費3倍の探索からスタートしたプロジェクトですので、以前に実用化経験のあるエコランでも、また回生の取り分が少ないマイルドハイブリッドは検討対象には入っていませんでした。

当時の日本10-15モードだけでの「なんちゃって燃費2倍」を目指したわけでもありません。グローバル21、アメリカの公式燃費も欧州の公式燃費も探索の対象に入れると10-15モード領域だけではなく、広い車速域でのエンジン停止EV走行と減速回生ができるシステムを目指しました。

10-15モードの燃費2倍はそれほど難しいターゲットではなかったはずが、最初のプロトでの燃費試験結果は惨憺たるありさま、リッター20キロを切るレベルでした。この理由の一つが、スタディーに使った発電機とモーターの効率マップが僅かの計測点から鉛筆を嘗めて作成した実際とはかけ離れたものであったことがわかりましたが、後の祭りでした。エネルギー回生の取り代を過大に見込んでいたことになり、この回復を図らなければ10-15モードですら燃費2倍は見えてきません。少しマージンがあったはずが、当て外れでした。

燃費シミュレーションで見込んだ回生量を稼ぐことを前提に、ハイブリッド電池が受け入れられ限り目一杯の減速回生、停車の寸前で油圧ブレーキに切り替える油圧ブレーキ屋さんにとっては無理難題のチューニングをお願いしました。それまでの電気自動車ではそこまでの減速回生はやっておらず、エンブレ相当まで、ブレーキを踏むと中速域から油圧ブレーキに切り替える方式だったと思います。それを、アクセルペダルから足を離し、ブレーキペダルを踏み始めても回生を続け、止まる寸前に油圧ブレーキに切り替えないと燃費2倍で見込んだエネルギー回生はできません。いわゆる、高度な電気回生と油圧ブレーキの電気-油圧の回生協調ブレーキシステムを必要とする要求です。ブレーキ設計担当も、初代はそこまでの高度な回生協調ブレーキの経験はなく、油圧ブレーキのチューニングでやれる範囲と考えていたと思います。油圧・回生協調ブレーキの開発の第1歩は、エンジニアの回生協調、油圧ブレーキエンジニアを派遣してもらい、ハイブリッドエンジニアとの共同チームによる制御系の摺り合わせからスタートしました。
油圧ブレーキ系ハードはこの開発日程ではほとんど変更の余地はありません。回生域は拡大、そこから油圧への切り替えを車両のチューニングでやるしかありませんが、その車両とハイブリッドが商品車としてのチューニングに入れる状態になったのは量産トライ寸前の1997年夏の頃です。

その苦労が本格的なブレーキ・バイ・ワイヤECB2の実用化を加速?
燃費2倍実現を目指す公式試験の申請諸元はほぼ決めており、回生領域拡大は必須、あとはブレーキ部隊のチューニングの詰めに期待するしかありません。ギリギリまでがんばってくれましたが、チューニングだけでは十分なレベルにはならなかったようで、初代の立ち上がりではカックンブレーキと言われてしまいました。無理な適合を押しつけ、チューニングの詰めの段階でも、まともなクルマを提供できなかったことなど、今もブレーキ屋さんに申し訳なく思っています。しかし、開き直ると、この「カックンブレーキ」が本格的なブレーキ・バイ・ワイヤのシームレスに回生・油圧切り替えを行う2代目プリウスに採用することになる電子制御ブレーキシステム[ECB2: Electronically Controlled Brake System 2]の開発を加速させることになったと言えるかもしれません。ジャーナリス試乗会でカックン感を指摘されると、「すぐ慣れますよ!」とか「ブレーキ操作が荒いからですよ!」などと嘯いていましたが、ブレーキ担当のメンバー達には口惜しい思いをさせてしまいました。

従来のエンジンと機械変速機の組み合わせでは実現できなかった、クルマを加速させ、巡航運転を行う駆動力から停車させるまでの制動力までモーターとECB2によるシームレスなコントロールの将来性に目を開くことができました。

モータ・発電機のとんでもなく高い効率マップを提出したモーター開発スタッフには大きな貸しを与えましたが、これまた2000年のマイナー、2003年二代目プリウスTHSIIと着実に効率を高め今ではそのとんでもない効率を実現し、ECB2との回生協調の進化によりエネルギー回生効率も当時では考えられなかったレベルを達成しています。このあたりは、次の機会にご紹介したいと思います。

IPCC5次レポートと将来自動車の低CO2

IPCC5次レポートが順次公表中
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、2007年の4次レポートの次として5次レポートのまとめをおこなっています。IPCCには、パネル議長(パチューリ氏:インド)のもと①第1作業部会(自然科学的根拠)②第2作業部会(影響・適応・脆弱性)③第3作業
会(気候変動の緩和)と国別の温暖化ガス排出データーベースの算出方法をまとめ、管理する温暖化ガスインベントリー・タスクフォースの4つの専門家グループが研究のとりまとめをおこなっています。
環境省HP: http://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/index.html
気象庁HP: http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/index.html

IPCCは国際連合環境計画(UNEP)と国際連合の専門機関である世界気象気候(WMO)が共同で1988年に気候変動とその対策研究の機関として設置した国際機関です。1990年に発行した第1次評価報告書から数えて今回が5回目、昨年9月の第1作業部会の評価報告書を皮切りに、第2作業部会、第3作業部会の評価報告書が発表され、今年の10月にはコペンハーゲンでのIPCC総会で総合レポートは発表される予定です。4月13日ベルリンで開かれたIPCC総会で発表された緩和策をまとめる第3作業部会報告書では、政策決定者向け要約が承認・公表されています。各国の政策執行に強制力をもつものではありませんが、このレポートをベースとして緩和に向けての国際条約がCOP(気候変動枠組み条約締結国会議)で議論されますので、そのとり纏めも政治色が入り紛糾したようです。

IPCC 1次レポートが後押ししたプリウス・ハイブリッドの開発
ハイブリッドプリウスの開発も、この1990年に発行されたIPCC第1次レポートの影響を受けスタートしたと言っても良いと思います。この第1次レポートを受けて1992年6月にブラジル、リオで開催された地球環境サミット(環境と開発に関する国際連合会議:UNCED)で採択したのが地球温暖化問題に対する国際的な取り組みを約束する条約、国連気候変動枠組み条約です。この採択に触発され、低カーボンを目指す21世紀の自動車のスタディープロジェクト、社内コードG21をスタートさせたのがハイブリッド車プリウスにつながりました。

トヨタハイブリッド累計販売600万台は通過点、低CO2車普及が急務
しかし、5次レポートにもあるように、世界全体の気候変動緩和への取り組みは遅々として進まず、当時よりもさらに影響が顕在化し、このままでは今世紀末には平均気温として4度以上の上昇となると予測しています。現在の1度上昇程度でも、大きな気候変動を招いていますので、4度上昇の影響ははかりしれません。もちろん自動車だけの問題ではありませんが、主要な排出源の一つである自動車からの排出低減、すなわち低燃費自動車の普及をさらに加速させる必要があります。トヨタ・ハイブリッド車累計600万台達成と浮かれているわけには行きません。もちろん、ハイブリッドを含め、いずれは化石燃料を使い続けることはできません。しかし、電気自動車も水素燃料電池自動車も、充電電力の発電に、また水素の製造過程では、風力、太陽光、水力などリニューアブル発電を使わない限りはゼロCO2にはなりません。また、自動車部品の材料採掘、生成、製造過程、さらに自動車の生産過程から廃車までのCO2も考慮にいれその削減を計る必要があります。

最初は10-15モード燃費2倍がやっと、いまなら実走行燃費3倍が目標?
もちろん、ゼロCO2自動車を目指して研究開発に力を注ぐことは必要ですが、今の最重要テーマは内燃エンジン車の実用的な低CO2車をさらに進化させ、その普及を加速させることです。ハイブリッドはその実用低燃費技術の一つです。プリウスは当初は10-15モードでの燃費2倍がやっとでしたが、描いていいた目標は当時も実走行燃費2倍でした。いまではそれにあと一歩まで迫っていると思います。ハイブリッド用エンジンの最高熱効率も初代の34%から、3代目プリウスで38%、40%超えは目の前です。モーター発電機の効率も初代プリウスから現在までに大きく向上しています。電池も当時のニッケル水素円筒電池に比べ最新のリチウム電池では、軽量、コンパクトの上に充放電効率が向上し、さらに回生協調ブレーキの進化と合わせ回生エネルギー量を大きく増加させることみ期待できます。エンジン熱効率、モーター発電機効率、電池の充放電効率を高め、伝達効率を改善し、様々な損失を減らし、さらに車両軽量化、空力改善も加えていくと実走行燃費3倍、燃料消費1/3もあながち夢ではないのではと現役の連中をけしかけています。燃費3倍でも、削減率では67%程度、それも走行過程だけの削減率ですが、ここまでくるとクルマの一生で比較しても今の電気自動車よりも低いCO2排出になるはずです。

日本の実用低燃費技術、低CO2技術を世界に
IPCC5次レポートによると、各セクターともこの程度の削減率では足りず、またCO2削減の国際合意が遅れれば遅れるほど、後々の削減率を高める必要があり、場合によっては排出量を上回る削減、大気中のCO2を回収して固定化することまでシナリオに入り初めています。しかし、やれることを着実にやることが肝要、その意味ではクルマの低燃費化は、ハイブリッド技術の採用まで視野に入れて迫ってきたコンベ車(従来エンジン車)を含め、メニューはまだまだあると思います。さらに、モータリゼーションが進んできている発展途上国への低燃費技術の移転もまた、われわれの責務です。

自動車セクター以外では、電力のCO2が気掛かりです。3.11前は、ハイブリッドの先に低CO2電力での夜間充電を前提にプラグインHV普及のシナリオを描いていましたが、このシナリオが崩れてしまいました。IPCC5次レポートへも3.11福島第1事故は影響を及ぼしたようで、原子力のリスクに言及しています。リニューアブルだけで乗り切れないことは明らかで、これまた先が見えないCO2固定、貯蔵(CCS)をプライオリティの高いシナリオに入れてきました。いずれにしても、すこしでも具体的な低CO2に向かって知恵を出すのが日本の役割です。

IPCC第38回総会と自動車の低CO2

横浜でIPCC第38回総会開催中
今週の25日から横浜市パシフィコ横浜会議センターで、気候変動の現状分析と対応策を話し合う、IPCC第38回総会が開催されています。IPCCは国連環境計画(UNEP)、世界気象機関(WMO)により、1988年に世界の気象学者と環境研究者、政府機関の環境政策スタッフを集めて設立した政府間機関です。
人間活動で排出される温暖化ガスにより引き起こされていると言われる地球規模の気候変動に関する科学的な最新情報をまとめ、各国にその実情と将来予測、緩和にむけての政策提言をおこなう役割です。定期的に気候変動に関する多くの専門家の研究と分析をまとめて報告書を発行、今年は2007年の4次報告書に次ぐ第5次「評価報告書」発行を予定しています。
この活動を通じてIPCCは2007年度にアメリカのクリントン政権時代の副大統領ゴア氏とともにノーベル平和賞を受賞しています。代表として賞を受け取ったのが、現IPCC議長のパチューリ氏です。

生態系、経済社会への影響と適応策が提示される?
今回の総会では、温暖化ガスの増加がもたらす生態系、社会、経済社会への影響及び適応策について評価を行う第2作業部会の活動報告を予定しており、最終日にはこれまでの活動を纏めた評価報告書を採択し発表することになっています。
2007年の第4次評価報告書としての提言に基づき、国際社会として温暖化ガスによる地球平均気温の上昇を2℃以下に抑制するとの目標に合意していましたが、温室効果ガス排出削減への取り組み目標を決める国際条約をなかなか纏めあげることができずにいます。
(国際条約を決めるには通称COP:気候変動枠組条約締結国会合)

地球平均気温上昇2℃以内に抑制は絶望的
今回のIPCC総会を前に、パチューリ議長は2℃までの抑制は絶望的であり、このまま増加が続くと今世紀末には平均気温が最大4.8℃上昇するとして、経済損失が大きいだけでなく、人命や生態系への影響が甚大と警告しています。さらに、「何もしないことのつけは非常に大きい」と各国が早急に温室効果ガス排出削減に取り組むことを呼びかけました。
日本では福島第1原発事故の影響で原発がほぼ停止状態に追い込まれ、削減どころか1990年比でも増加する状況に追い込まれています。また、中国、インドなど発展途上国の経済急成長で石炭、石油、天然ガスの消費は急増し、温室効果ガスの代表である二酸化炭素(CO2)の大気中濃度が、産業革命前の280ppmから昨年とうとう400ppmの大台を突破してしまいました。

自動車からのCO2排出
自動車もCO2排出の主役の一つです。ハイブリッド開発に取り組んだのも画期的な低燃費自動車を普及させ、CO2排出の寄与度を下げることでした。日本ではハイブリッド車の比率が17%に達し、従来車の低燃費化も加速、日本の燃料消費総量が減少に転じています。アメリカでのハイブリッド比率はまだ3.8%台とわずかですが、低燃費の流れは強まり石油実需が減少に転じたようです。一方、三度目の正直だったはずの電気自動車は、またもやそのブームは去りかけています。電気自動車の走行中ゼロエミッションには意味はなく、温室効果ガス削減が目的なら発電時のCO2、さらに自動車製造時、電池製造時、配電ロス、充電効率、配車時のCO2を含めて評価すべきです。しかし、この議論の前にクルマとしての基本機能、性能不足で、主役としては役不足、ニッチのマーケットではCO2削減への期待も萎んでしまいそうです。その替わりか、これまた1990年代後半のデジャビュのように、水素燃料電池車(FCEV)がクローズアップしてきました。これまた、世界の自動車から排出するCO2削減の主役となるには克服できるかどうか判らない課題が山積しています。 その将来は水素燃料電池車の実用化に人生をかける気概で取り組んでいるエンジニア達にかかっていますが、簡単ではありません。

実用燃費3倍へのチャレンジに期待
一方、このハイブリッド車、低燃費車の流れにも変化の兆候が現れてきました。エコ、エコのかけ声ばかりで、何かエコ疲れが見えてきたのではと心配しています。エコとエコは気にしない派の二極分化が進み始めているように思います。21世紀はエコカーの時代、その21世紀に間に合わせましたと言い歩いた当事者ですが、未だにカタログ燃費の数字を競い合うエコの押し売りでは、次のステップの普及拡大にはつながらない気がしています。
もちろん、燃費向上、低CO2の足踏みは許されませんし、軽量化、低空力損失などクルマとしての低燃費、エンジンの高効率化、電気駆動系の高効率化、電池の充放電効率向上もまだまだ余地は残っています。以前のブログで紹介したように、ハイブリッド開発の燃費向上目標はプリウス開発ストーリーで紹介されている燃費2倍ではなく燃費3倍でした。
カタログ燃費だけの目標ではしょうがありませんが、今なら当時のカローラ比として実走行燃費3倍は無謀なチャレンジ目標ではないように思います。

その上で、普通に走ると燃費3倍のエコ、しかし時には郊外で気持ちの良いエンジンサウンドを響かせながら伸びのある加速も両立させたクルマが目指す方向です。セダン、ステーションワゴン、クロスオーバー、ミニバン、スポーツクーペ、カテゴリーもそのデザインも好みは人それぞれ、エコだけではなく、それぞれの好みのジャンルでサプライズを感じ保有したくなるクルマが実質エコ拡大を牽引するように思います。マーケットが盛り上がり、こうしたクルマが古い燃費の悪いクルマに置き換わっていってCO2削減の実効を高めることができます。

販価の制約は大きいですが、発展途上国へもこうしたクルマを普及させていくことがグローバル自動車としてのCO2排出削減への貢献です。

COPでの国際合意に期待するより、技術イノベーション
今回のIPCC 総会での提言が次のCOPにどのように反映するかは判りません。グローバルな温室効果ガス削減への取り組みは待ったなしですが、これは国際政治で決まること、多くを期待してもしょうがないことは過去のCOPの歴史が物語っています。

それでも手を拱いているわけにはいきません。クルマだけではありませんが、研究者、エンジニアがやれることはまだまだあります。日本の環境、省エネ技術をさらに進化させ、エコと商品魅力の両立、販価効果を高めていくことがエコイノベーションです。
45年のクルマ屋の目から見て、今の世界のクルマの中でエコとクルマの魅力を両立させ、サプライズを感じ保有したくなるクルマは残念ながらありません。終の棲家ならぬ、免許証の返上前にこうした終のクルマに巡り会いたいものです。

プリウスの前身、G21プロジェクトとその次のG30活動

G21という符牒は、このブログの読者、またプリウス本をお読みのかた、トヨタの関係者や私の講演をお聞きの方なら記憶されているかもしれません。石油資源、地球温暖化問題が騒がれはじめた1992年ごろ、世界ではハイブリッド車プリウスの開発につながるいくつかの動きがありました

世の中では、地球温暖化を筆頭とする環境問題の深刻化が顕在化、この地球環境問題を議論する国連主催の第1回世界環境サミットがリオ(ブラジル)で開催されたのが1992年6月です。持続可能な開発、サステーナブルデベロプメントがキーワードでした。一方、米国カリフォルニアではロススモッグ解決のため、究極の自動車環境規制、LEV/ZEVを議論していた時期です。排気ガスを出さない自動車ZEV(ゼロエミッション自動車)の販売義務付けが議論されていました。

21世紀を間近にし、ちょうどトヨタの将来ビジョンが社内の各部署で議論されている最中でした。1993年春にこの議論をもとにまとめられた中長期ビジョンのタイトルが『調和ある成長:Harmonious Growth』 、その中核の一つが持続可能な自動車を目指すことを宣言した『トヨタ地球環境憲章』です。この中長期ビジョン、その中核となる地球環境宣言に沿い、トップからその実現に向かう業務改革、組織改革、さらに具体化のためのアクションが社内各部門への宿題として示されました。

 

ハイブリッド普及プロジェクト「G30」

われわれ技術開発部門が、この宿題としてスタートさせた研究プロジェクトの一つが、この社内コードG21、持続可能な自動車社会への一歩となるグローバル・セダンの探索プロジェクトです。1993年秋に少人数でスタートしたG21が周囲のあれよあれよとの間にハイブリッドを搭載するプリウスとなり、“21世紀に間に合いました”のキャッチコピーで1997年12月に発売を開始しました。この経緯は、いろいろなプリウス本に紹介されている通りです。

それから16年、昨年末にそのトヨタハイブリッド車累計販売台数が600万台を突破、持続可能な自動車への大きな一歩を踏み出すことができました。今日の話題は、このG21から今日の600万台への道のりの中にあったもう一つのマイルストーンG30を紹介したいと思います。

このG30は社内だけで通用するプロジェクトコードですが、当時ではプリウスにつながる車両開発プロジェクトのコードではありません。量産のスタートを切ったハイブリッド車の普及をめざすシナリオ策定と、それに対応する開発企画、車両企画、開発体制を提案する活動です。

初代の発売から2年半、モーター、発電機、電池、ハイブリッドシステム部品のほとんどを作り替えるシステムとしての大改良を行い、欧米での発売をスタートさせたのが2000年マイナーチェンジプロジェクトでした。そんな時期、これもトップ役員からハイブリッド車普及として次ぎは2005年30万台/年のシナリオ策定とその具体化プラン提案を指示されました。このシナリオ策定とその開発体制の仕組みを作り上げるのがG30 プロジェクトの役割でした。

プリウスのモデルチェンジ、さらにエスティマ、クラウンとそれぞれプリウスとは機構が違うハイブリッド開発をやりながら、普及戦略をたて具体化するのもお前の役割と事務リーダーを仰せつかりました。G21もプリウス本にあるようにとんでもない超短期開発、社内でもクレージー扱いもされましたが、技術を見極め、チャレンジし、安全に関わる品質に抜けがないようスタッフ一丸で必死に取り組んだ先にゴールがありました。

 

利益を出せるハイブリッドに

開発マネージャー、ビッグプロジェクトのリーダーだからといって、技術開発だけに集中していれば良いわけではありません。しかし、このG30はG21のようにハイブリッドの量産化に集中すれば良い話ではありませんでした。G21はあっという間でしたが、その最中は無我夢中で産みの苦しみのプロジェクト、そこから何度かとりあげたマーケットでの品質向上への取り組みで育ての苦しみも味わいましたが、このG30は世間の冷たい風にも当たりながらハイブリッドを大きく成長させるきっかけとなるステップでした。

当然ながら、まずは収益問題、欧米メーカートップが言った一台ごと、札束を付けて売っているとの状況からは脱出していましたが、初代、マイナーチェンジまでに使った先行開発投資、設備投資の回収まで入れた収益計画の具体化を求められたのもこのG30です。このプロセスでもいろいろなことを学びました。普及拡大には、先行投資分の回収を進めながら、さらに先の開発に投入する原資を確保していく必要があります。ハイブリッド車を増やすにはハイブリッド採用車種の拡大が必要、さらに開発要員の確保、人材育成、開発設備の増強などなどの手当も同時にやる必要がありました。一車種あたりの生産台数が増やせれば、コスト的には楽になりますが、営業部門がそれほど楽観的な台数を提示することはありません。当時、現在進行形だったまだまだ不良発生のおおかったマーケット不具合も、この高い不良率で算定した故障対策費が次ぎのコスト目標に上乗せさせられます。生産予定台数を多くすればするほどコストが下がる訳ではありませんが、少なすぎては開発投資分、設備投資分の回収分が積み上がり、台当たりのコスト増がどんどん大きくなってしまいます。

さらに、営業サイドからはハイブリッド分のコスト増に対し、厳しい販価査定が提示されました。そのギャップを埋めるのがコスト低減活動ですが、知恵を絞り、汗を流してギリギリ届きそうなチャレンジ目標を決めていくのもG30活動の重要部分でした。

普及に伴いハイブリッドにも様々な軋轢が生じてきた

途中経過をパスしてG30活動の顛末を述べると、2005年の30万台/年販売の目標達成はできませんでした。クラウンで採用したマイルドハイブリッドはもちろん、今はポピュラーになってきているアイドルストップまでハイブリッドの範疇に入れて達成シナリオを検討しましたがさすがにそのシナリオは取り下げました。当時、ハイブリッド路線と収益性に疑問を投げ抱えるような、コンペティターやメディアからの弾丸、矢もいっぱい飛んできていましたが、後ろからの弾丸、矢も降ってきたのがこのG30活動でした。

この活動をやりとげたから今の600万台があると思っています。遮二無二、勢いをつけたからやり遂げることができたと信じています。後ろからの弾丸や矢も、前に進むスピードを上げれば勢いが弱まり、さらに時代を切り拓くのは自分達と信じて開発に取り組んでいたスタッフ達の熱気もこれをはじき返す力になったと今になり懐かしく振り返っています。

結局は、G30活動で作り上げたシナリオではなく、この熱意ある開発スタッフ達が取り組んだ、次のプリウス、ハリアーハイブリッド、そしてアクアと続く、ハイブリッド車がこのシナリオを飛び越して、600万台へと発展させた原動力となりました。このG30とそのときの後ろからの弾丸や矢が降ってきた話は自分の墓石の中まで持ち込むつもりでいましたが、バブル崩壊からやっと次の成長へと舵をきった日本再生、アベノミクスの具体化はきれい事だけでは済みません。人間ドラマ、アゲンストであった当時の振り返りも必要と思いました。今が日本再生の21世紀全般の最後のチャンス、このチャンスを失した先に次のチャンスが巡ってくるかは解りません。このチャンスの後ろ髪を追っかけることにならないよう、このG30で学んだ教訓をお伝えしていきたいと思っています。乞うご期待ください。