日本初の自動車リコールとAT車のエンスト問題

先月の中日新聞に、『トヨタの系譜 時流の先への』第2部 「危機の教訓」が連載されていました。全国版ではありませんので、読まれた方は少ないと思いますが、この第2部は予期せぬ加速問題とプリウスブレーキリコール問題の顛末が主題です。騒ぎが大きくなり章男社長が米国連邦議会の公聴会に呼ばれ証言をし、不具合”がまだ疑いだけの段階でこの公聴会でも取り上げられ、当時の運輸大臣ラソーダ氏のトヨタバッシングとなる「トヨタ車はお勧めしない」とのフライング発言までありました。この電子制御系不具合による暴走問題は、その後の米国ハイウエー運輸安全局(NHTSA)と航空宇宙(NASA)の専門家達による合同調査で疑いが晴れましたが、これがハイブリッド車の普及に大きなマイナスになってしまいました。この記事は、章男社長の公聴会での証言とその後の米国トヨタディーラー激励会での涙、CNNライブでのやりとりから、さらにNHTSAとNASAでの調査結果まで取り上げられていました。この2部の最後、5月1日号に私のコメントが紹介されていました。インタビューを受けたのは、マスキー法からプリウスまでの取り組みで、その中でお話したその後の自動車エンジニアの原体験となった日本初の自動車リコールが取り上げられていました。わずか1行の紹介でしたが、その話を取り上げた記者の方が掲載された一連の新聞を送ってくれました。
今日の話題は、この日本リコール届け出第1号の話題と、自動車の重大不具合として今週メディアで話題となったオートマ車のエンスト問題です。

日本の自動車リコール第1号
日本に自動車リコール制度は、1969年6月に運輸省(現国交省)の通達でスタートしました。第1号がトヨペットコロナRT40のブレーキ配管腐食によるクラックからブレーキフルッドが洩れ、ブレーキ失陥を引き起こす重大不具合でした。丁度その年の4月にトヨタに入社しました。集合教育の後、工場実習を終えると6月から、各地の販売店に派遣されサービス実習・セールス実習が始まります。私も出身地の札幌でサービス・セールス実習を行いました。リコール届け直後のサービス実習では、受け入れ先の販売店さんにとってトヨタ自動車からの実習生は飛んで火に入る夏の虫、1カ月のサービス実習の全てが、市内を歩き回りリコール該当車を探し回る仕事でした。RT40コロナを見つけると、床下を覗きブレーキ配管にブレーキフルードの滲みがないかを確認し、該当車のワイパーにリコール修理呼び込みのパンフレットを挟んで回る仕事です。まだ、学生気分が抜けず、また北海道とはいえ暑い時期、不平たらたらで歩き回った記憶があります。これが、中日新聞で取り上げられたエピソードです。

この実習を終え、トヨタに戻り、2度目の工場実習を終えるといよいよ職場配属です。私の配属先は、駆動ユニットと制動ユニットの設計担当の駆動設計課、ブレーキ・リコールの責任設計部署でした。まだリコール対応のまっただ中、TVコマーシャルでリコール告知と修理持ち込みのお願い、リコールのお詫びが流れていました。そのリコール内容の説明役が直属課長、日頃指導を受けている課長がTVで頭を下げ、技術説明を懇切丁寧にされている姿を見て、自動車会社の責任、設計担当の責任の重さを思い知らされました。駆動設計ではリコールを引き起こすような大チョンボはやらずに済みましたが、単発のチョンボ設計は何度かやりました。上司から叱責を受けた記憶はありませんが、そのちょっとしたチョンボがお客様にご迷惑をおかけし、販売店サービスを苦労させたことに、やった自分自身が一番堪えました。このリコール第1号のサービス現場体験、そのリコールフォローに飛び回る配属先の臨場感、そして自分が引き起こした設計不具合の影響の大きさ、この時期の体験がそれ以降の自動車エンジニアとしてのスタートポイントになったように思います。

排ガスリコールとエンジン適合不良によるエンスト不具合
クリーンエンジン開発担当時も、リコールは身近な話でした。米国で排気規制を管轄する環境保護庁(EPA)は、規制をしっかり守っているかチェックする経年車のエミッションサーベイ試験をやっていました。この成績が悪いとリコールを命じます。1970年代~80年代では、米ビッグ3の成績が悪く、度々排ガスリコール命令が出ていました。排ガスリコールは何年か売り続けた経年車が対象ですから、ビッグ3のメイン車種となると対象台数は半端ではありません。当時のリコールで1回あたり数百億が吹っ飛ぶ規模です。トヨタの米国主力車種、カムリやカローラがリコールを起こすとこれまた半端な台数ではありません。量産設計の担当ではありませんでしたが、1990年からは米国向けの全ての車種のエンジン排気システム諸元を決めるリーダとなり、エンジンの品質問題、排気システム品質確保、重大不具合の未然防止は最優先マネージテーマでした。トヨタはこの排ガス品質では優等生、1990年代まで排ガスリコールはありませんでしたので、開発担当としてはこのリコール・ゼロ継続も大きなプレッシャでした。1980年代から仲間内ではリコール・ゼロの継続が話題で、自分の担当でゼロを打ち止めにはしたくないと我慢競争をしていたように思います。エンジン制御も担当しましたが、これもまたリコールに直結する重大不具合との関わりが大きい分野です。排ガス品質を確保できたとしても、ギリギリのエンジン制御適合でエンスト、ショック、もたつき、サージ振動といったドラビリ不具合を起こしてしまうとこれまたお客様にご迷惑をおかけする市場不具合となります。このドラビリ問題の中で、適合評価で気を遣ったのがオートマ車のD/Rレンジ・エンスト不具合です。これが今日のもう一つの話題です。

今のガソリンエンジンは全て電子制御燃料噴射エンジンです。長い期間使った経年車では、空気を送り込む吸気バルブにカーボンやオイル中の固形分がたまり、噴射した燃料がトラップされ不整燃焼が起きやすくなります。さらにガソリンが揮発性の高い冬用から揮発性の低い夏用に切り替わる時期でマーケット上限の揮発性が低い夏燃料を用い、急なスロットル操作をやると適切な燃料が供給されず、不整燃焼が起きやすくなります。これに、P/Nレンジから急にDレンジに入れ、同時にアクセルのチョイ踏み、さらにDレンジのままアクセルのon/off操作で坂道をずり下がる、途中でDからRに切り替えるなど、不整燃焼、エンストを起こし易い意地悪操作をいやというほど繰り返し、耐エンスト性の確認とエンスト不具合の未然防止適合を行うのが通例でした。いかに経年車とはいえ、マーケットでエンスト不具合を起こすのはエンジン開発屋の恥との感覚だったと思います。

なぜ今頃ガソリンオートマ車のエンスト問題?
最近このガソリンAT車のエンスト不具合問題がメディアで話題となっています。この切掛けは、3月に交通安全環境研究所が国交省の委託調査としておこなった-「エンジン停止走行」に繋がるおそれがある事象に関する調査-なるレポートです。
http://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/common/data/201403_report.pdf
国交省がこのレポート結果を公表し、自動車のリコール・不具合情報サイトで再現ビデオを付けて紹介しています。http://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/carsafety_sub/carsafety027.html
これをメディアが一斉に取り上げたのが今週です。

誤操作による急発進や、逆走を防ぐために、AT車やハイブリッド車では、P/Nレンジ、システムによってはさらにブレーキを踏んでいる状態でのみエンジン始動やモーター駆動力が発生するように設定しています。D/Rレンジではどんな意地悪操作であろうが、エンストは起こさないことが前提で始動シーケンスをを組んでいます。ですから、この状態でエンストが発生すると、P/Nレンジに入れ直し、ブレーキを踏み始動操作をやり直す面倒な操作を要求しています。この状態でエンストが起きると、通常のガソリン車ではパワステの油圧が低下しパワステが効かなくなり、またブレーキ油圧もエンジン回転でポンプを回し発生させていますので、油圧低下をきたしブレーキが効かなくなるケースも発生します。この状況に陥るとドライバーがパニック状態に陥ることも開発では考慮に入れる必要があります。何よりも、エンストさせないことです。

無理な低燃費適合も遠因では?
国交省のリコール・不具合情報サイトでは、ドライバーの操作についての注意喚起になっていますが、低燃費競争のなかで、エンスト防止への適合評価がおろそかになっているのではとの心配をしています。燃費のために、アイドル回転数を下げるとエンストしやすくなります。またATのトルコンも、動力伝達効率を高めるため滑りの少ないタイトなものを採用する方向、これもエンストしやすくなります。カタログ燃費競争が激しくなるなか、AT車でエンストを起こす適合は恥との感覚が薄くなってはいないでしょうか?安全が何よりも最優先です。

プッシュボタンスタートの流行にも?
また、二代目プリウスから採用したプッシュボタンスタートが、コンベ車にもどんどん採用されるようになってきました。この誤操作としてエンジンが起動していない状態で、D/Rレンジに入れるとそれが坂道なら走り出してしまう不具合も報告されています。この状態では、パワステ油圧もブレーキ油圧も発生しておらず、どちらも効かずパニックに陥ってしまうケースが紹介されています。このプッシュボタンスタートの採用も、プリウスが採用してからの流行として安易に採用していないでしょうか?二代目プリウスでスマートスイッチは車両主査グループからの採用要望でしたが、われわれハイブリッドチームも不具合防止、ご誤操作防止、誤操作時のパニック操作、その時の挙動分析を何度も何度も行い、採用を決めてきました。ハイブリッドだから、全くこのようなエンスト、パワーシャットダウン不具合がなかったと言うつもりはありません。部品不具合でのシャットダウン、エンストでお客様にもご迷惑をおかけしました。しかし、適合不良としてのエンスト、シャットダウン不具合は現役時代には起こしませんでした。自分が適合作業をやった訳ではありませんが今でもリーダとしての誇りです。
中日新聞で取り上げていた、プリウスの電子制御が疑われた予期せぬ急加速問題のNHTSAとNASA専門家調査で白となった背景にも、プリウスの途中から入れた簡易ドライブレコーダーのデータ解析が決め手になったと書かれていました。バイ・ワイヤ制御が不可欠のハイブリッドで何か重大不具合が起こった時の原因究明に役立つかもしれないと、修理書にも記載せずこっそりと入れた機能でした。

何度もこのブログで書いているように、安全がなによりも優先、排気クリーンはもちろん低燃費とも、いわんやコストとのトレードはやってはいけないことを肝に銘じて欲しいと思います。知恵を絞ってトレードオフポイントを高い位置に引き上げるのが技術進化です。

プリウスの前身、G21プロジェクトとその次のG30活動

G21という符牒は、このブログの読者、またプリウス本をお読みのかた、トヨタの関係者や私の講演をお聞きの方なら記憶されているかもしれません。石油資源、地球温暖化問題が騒がれはじめた1992年ごろ、世界ではハイブリッド車プリウスの開発につながるいくつかの動きがありました

世の中では、地球温暖化を筆頭とする環境問題の深刻化が顕在化、この地球環境問題を議論する国連主催の第1回世界環境サミットがリオ(ブラジル)で開催されたのが1992年6月です。持続可能な開発、サステーナブルデベロプメントがキーワードでした。一方、米国カリフォルニアではロススモッグ解決のため、究極の自動車環境規制、LEV/ZEVを議論していた時期です。排気ガスを出さない自動車ZEV(ゼロエミッション自動車)の販売義務付けが議論されていました。

21世紀を間近にし、ちょうどトヨタの将来ビジョンが社内の各部署で議論されている最中でした。1993年春にこの議論をもとにまとめられた中長期ビジョンのタイトルが『調和ある成長:Harmonious Growth』 、その中核の一つが持続可能な自動車を目指すことを宣言した『トヨタ地球環境憲章』です。この中長期ビジョン、その中核となる地球環境宣言に沿い、トップからその実現に向かう業務改革、組織改革、さらに具体化のためのアクションが社内各部門への宿題として示されました。

 

ハイブリッド普及プロジェクト「G30」

われわれ技術開発部門が、この宿題としてスタートさせた研究プロジェクトの一つが、この社内コードG21、持続可能な自動車社会への一歩となるグローバル・セダンの探索プロジェクトです。1993年秋に少人数でスタートしたG21が周囲のあれよあれよとの間にハイブリッドを搭載するプリウスとなり、“21世紀に間に合いました”のキャッチコピーで1997年12月に発売を開始しました。この経緯は、いろいろなプリウス本に紹介されている通りです。

それから16年、昨年末にそのトヨタハイブリッド車累計販売台数が600万台を突破、持続可能な自動車への大きな一歩を踏み出すことができました。今日の話題は、このG21から今日の600万台への道のりの中にあったもう一つのマイルストーンG30を紹介したいと思います。

このG30は社内だけで通用するプロジェクトコードですが、当時ではプリウスにつながる車両開発プロジェクトのコードではありません。量産のスタートを切ったハイブリッド車の普及をめざすシナリオ策定と、それに対応する開発企画、車両企画、開発体制を提案する活動です。

初代の発売から2年半、モーター、発電機、電池、ハイブリッドシステム部品のほとんどを作り替えるシステムとしての大改良を行い、欧米での発売をスタートさせたのが2000年マイナーチェンジプロジェクトでした。そんな時期、これもトップ役員からハイブリッド車普及として次ぎは2005年30万台/年のシナリオ策定とその具体化プラン提案を指示されました。このシナリオ策定とその開発体制の仕組みを作り上げるのがG30 プロジェクトの役割でした。

プリウスのモデルチェンジ、さらにエスティマ、クラウンとそれぞれプリウスとは機構が違うハイブリッド開発をやりながら、普及戦略をたて具体化するのもお前の役割と事務リーダーを仰せつかりました。G21もプリウス本にあるようにとんでもない超短期開発、社内でもクレージー扱いもされましたが、技術を見極め、チャレンジし、安全に関わる品質に抜けがないようスタッフ一丸で必死に取り組んだ先にゴールがありました。

 

利益を出せるハイブリッドに

開発マネージャー、ビッグプロジェクトのリーダーだからといって、技術開発だけに集中していれば良いわけではありません。しかし、このG30はG21のようにハイブリッドの量産化に集中すれば良い話ではありませんでした。G21はあっという間でしたが、その最中は無我夢中で産みの苦しみのプロジェクト、そこから何度かとりあげたマーケットでの品質向上への取り組みで育ての苦しみも味わいましたが、このG30は世間の冷たい風にも当たりながらハイブリッドを大きく成長させるきっかけとなるステップでした。

当然ながら、まずは収益問題、欧米メーカートップが言った一台ごと、札束を付けて売っているとの状況からは脱出していましたが、初代、マイナーチェンジまでに使った先行開発投資、設備投資の回収まで入れた収益計画の具体化を求められたのもこのG30です。このプロセスでもいろいろなことを学びました。普及拡大には、先行投資分の回収を進めながら、さらに先の開発に投入する原資を確保していく必要があります。ハイブリッド車を増やすにはハイブリッド採用車種の拡大が必要、さらに開発要員の確保、人材育成、開発設備の増強などなどの手当も同時にやる必要がありました。一車種あたりの生産台数が増やせれば、コスト的には楽になりますが、営業部門がそれほど楽観的な台数を提示することはありません。当時、現在進行形だったまだまだ不良発生のおおかったマーケット不具合も、この高い不良率で算定した故障対策費が次ぎのコスト目標に上乗せさせられます。生産予定台数を多くすればするほどコストが下がる訳ではありませんが、少なすぎては開発投資分、設備投資分の回収分が積み上がり、台当たりのコスト増がどんどん大きくなってしまいます。

さらに、営業サイドからはハイブリッド分のコスト増に対し、厳しい販価査定が提示されました。そのギャップを埋めるのがコスト低減活動ですが、知恵を絞り、汗を流してギリギリ届きそうなチャレンジ目標を決めていくのもG30活動の重要部分でした。

普及に伴いハイブリッドにも様々な軋轢が生じてきた

途中経過をパスしてG30活動の顛末を述べると、2005年の30万台/年販売の目標達成はできませんでした。クラウンで採用したマイルドハイブリッドはもちろん、今はポピュラーになってきているアイドルストップまでハイブリッドの範疇に入れて達成シナリオを検討しましたがさすがにそのシナリオは取り下げました。当時、ハイブリッド路線と収益性に疑問を投げ抱えるような、コンペティターやメディアからの弾丸、矢もいっぱい飛んできていましたが、後ろからの弾丸、矢も降ってきたのがこのG30活動でした。

この活動をやりとげたから今の600万台があると思っています。遮二無二、勢いをつけたからやり遂げることができたと信じています。後ろからの弾丸や矢も、前に進むスピードを上げれば勢いが弱まり、さらに時代を切り拓くのは自分達と信じて開発に取り組んでいたスタッフ達の熱気もこれをはじき返す力になったと今になり懐かしく振り返っています。

結局は、G30活動で作り上げたシナリオではなく、この熱意ある開発スタッフ達が取り組んだ、次のプリウス、ハリアーハイブリッド、そしてアクアと続く、ハイブリッド車がこのシナリオを飛び越して、600万台へと発展させた原動力となりました。このG30とそのときの後ろからの弾丸や矢が降ってきた話は自分の墓石の中まで持ち込むつもりでいましたが、バブル崩壊からやっと次の成長へと舵をきった日本再生、アベノミクスの具体化はきれい事だけでは済みません。人間ドラマ、アゲンストであった当時の振り返りも必要と思いました。今が日本再生の21世紀全般の最後のチャンス、このチャンスを失した先に次のチャンスが巡ってくるかは解りません。このチャンスの後ろ髪を追っかけることにならないよう、このG30で学んだ教訓をお伝えしていきたいと思っています。乞うご期待ください。

この一年のハイブリッド、昨年のブログ記事を振り返って

昨年の9月にも、15年前の9月とのタイトルで初代プリウス発表、発売前の9月のエピソードをお伝えしました。今回はそのブログについてのそれから1年を振り返ってみたいと思います。

昨年9月、『トヨタの技術発表を内山田竹志副会長がされました』との書き出しで、トヨタの2012年環境技術説明会での当時副会長だった内山田さんの発表をとりあげ、その内山田さんが車両チーフエンジニア、私がハイブリッド主査として取り組んだ初代プリウスの発表・発売寸前の状況を取り上げました。その内山田さんは、今年の株主総会で会長に就任、トヨタの次世代自動車をリードするとともに、経団連副会長として日本の産業界のこれから、日本のこれからに力を発揮いただけることを力強く感じています。

ハイブリッド販売の好調が続く

また昨年のこの項では

『電子制御系の誤作動問題も濡れ衣が晴れ、今年は4年振りにアメリカでのハイブリッド車販売新記録を達成することが確実となってきました。』

『またFord Fusion ハイブリッド、ホンダ アコードハイブリッド、日産アルティマハイブリッドとライバルも現れ、某経済誌の「日本のハイブリッド車はガラカーか?」の?に対し、今年こそ、それを否定する答えがでると今から喜んでいます。』

と書きましたが、アメリカのハイブリッド販売も好調、昨年に続き、今年も販売新記録となること確実、カリフォルニア州ではハイブリッド車新車販売シェアが昨年比0.8%増の7.0%を突破、車種別でもプリウスファミリーが“シビック”“アコード”の従来車を抜いて最量販車種となっています。

ここで書いた、日産アルティマハイブリッド販売の声はまだ聞こえて来ませんが、アコード・ハイブリッドは今年10月から米国でも発売開始、アメリカ環境保護局EPAの公式燃費として都市モード50mpg(21.25km/L)、ハイウエーモード45mpg(19.13km/L)、その混合モード(コンバインモード)47mpg(20.83km/L)と公表、クラスが下で車両重量も軽いプリウスの混合モード50mpg(21.25km/L)に迫る高い公式燃費を記録、強力なライバルが登場することによりさらにハイブリッド普及に弾みがつくのではと期待しています。

品質は全ての現場から

『初めてづくしのハイブリッド開発』

、さらに

『最後の最後まで修正・確認が続けられた』

とのサブタイトルで、発表、発売ぎりぎりまでの修正作業、さらにリスクマネージ、コンプライアンスマネージとして、品質・信頼性監査、法規・届出対応についての新商品を送り出す“産みの苦しみ”について書かせてもらいました。

そして最後のサブタイトル

『すべての現場が努力したからこそ量産ハイブリッドは生まれた

』として「現地、現物、現車、現場」重視のクルマ作り・もの作りの重要性をとりあげ、その現場ななにも「開発現場」「生産現場」だけではなく、

『販売店の営業現場、サービス現場、発表イベントや発売イベント、さらにはその年のCar of the Year獲得をめざす広報・宣伝スタッの現場、そのさまざまな現場作業の進行を見守りコンプライアンスチェック、現場マネージの日々のディシジョンに承認を与える開発、生産部隊の役員を含めたマネージメント現場、それらを総括するトップ役員を含む経営現場までの全ての現場の意味で使っています。』

と書きました。この「現地、現物、現車、現場」主義を貫かれたのが、先週お亡くなりになった豊田英二さんです。

昨年のブログで書いたように、今年の3月末にはトヨタハイブリッド車の世界累計販売台数が500万台を突破、年内の600万台はちょっと無理かもしれませんが『普及してこそ環境に貢献』と高い志で取り組んでいるようで、ライバルとの切磋琢磨でエコだけではない走る魅力も高いハイブリッドが当たり前に時代の到来が期待できそうです。このハイブリッド車が日本復興、復活のけん引役になってくれるのではとの期待もまた、岩手工場で生産される「アクア」「カローラハイブリッド」がその役割を担ってくれているようで、心強く感じています。

環境立国の日本へ

最後に書いた

『日本の政治現場だけが、この現場力の蚊帳の外に置かれている日本人として情けない現状を、これこそ何が何でも早急に打破し、エネルギー、環境技術立国として世界に貢献できる日本への変革を急いで欲しいものです。』

では、昨年の年末選挙で民主党野田政権から自民党安部政権に代わり、政治現場で現場力が蚊帳の外の状況打破に少しは期待が持てるようになってきましたが、『エネルギー、環境立国』への道のりをこれは政治主導でスピードアップして欲しいものです。

ホンダ『アコード・ハイブリッド』と電気CVT

先月31日、ホンダは6月21日から国内で『アコード・ハイブリッド』の販売を開始すると発表、同社Webサイトでそのティザー広告を開始し、新聞でも全紙広告を打ち始めています。

『アコード』はここ最近ではアメリカ専売車となっていましたが国内での復活、またJC08燃費リッター30㎞を引っ提げてハイブリッドバージョンをアメリカに先駆けて発売したのを見て、燃費チャンピオンを続けてきたトヨタハイブリッド群に対してホンダが真っ向勝負を仕掛けてきたと強い関心を持って見ています。

エンジンは排気量2L直列4気筒エンジンの高膨張比アトキンソンサイクルを採用し、アトキンソンながらVTECを活用した高回転化によって最高出力143ps(105kW)/6,200rpmと馬力も稼いでいるようです。エンジン出力と電池出力を合わせたシステム最高出力199ps(146kW)であり、とするとエンジン最高出力とシステム最高出力の差56ps(41kW)が電池からの出力ということになります。高出力タイプのリチウムイオン電池を搭載し走行パワーを高め抜群の低燃費とともに走りの両立をめざしたのがこの「スポーツハイブリッドi-MMD」(インテリジェント・マルチ・モード・ドライブ)と謳う所以のようです。

このようにシステムの概要などは紹介されており類推は可能となっていますが、詳しい諸元はまだ発表されていません。発表された資料によるとハイブリッドシステム構成としてはシリーズハイブリッドを基本としそれにクラッチで駆動輪にエンジン駆動力を直接伝達するパラレルパスを加えたもので、これはトヨタのハイブリッドTHSと同じカテゴリーと言ってもよいシリーズ・パラレル・ハイブリッドです。

THSとスポーツハイブリッドi-MMD の比較をもう少し詳しく説明すると、THSが動力分割用の遊星ギアを使いシリーズ・パラレル運転を行っているのに対し『アコード・ハイブリッド』では、エンジン軸と車輪駆動軸の間にクラッチをもち、基本はそのクラッチをオフとしてシリーズハイブリッド運転を行い、エンジン運転効率が高くなった領域ではクラッチを接続しエンジン直結運転をさせる、クラッチ切り替え型のシリーズ・パラレル・ハイブリッドです。

電気CVTとメカCVTは機構的には全く違う

このアコード・ハイブリッドの変速機構については、THS同様に電気CVT方式と表記されています。この電気CVTというものは誤解を招くネーミングなのですが、実はその責任は私にあります。それは初代プリウスの監督官庁への車両届け出申請をするとき、2モーター方式のシリーズ運転部分が電気/駆動力変換がそれまでのメカ(機械式)CVTと動作が近いことから電気CVT方式と届け出てそれが受理をされてしまい、それ以来この方式が電気式CVTとして定着しました。しかし、個人的には何かメカ変速機を持つタイプなのではと誤解されやすく、もっと良いネーミングがあったのではと今は少し後悔しています。これら電気CVTは、シリーズパスの動力伝達ではエンジン動力を発電機で電気に変換し、その電力を直接モーターでの駆動力と電池充電の電力として使うもので、メカCVTのような変速機構を持っているわけではありません。

高パワー・高応答の発電機でエンジン回転数を制御して電力変換を行っているわけで、THSもホンダ方式も基本的には通常のエンジンを使ったハイブリッド走行領域ではその時の車両走行パワーをもっとも効率よく引き出すエンジン最適燃費運転域に制御しています。これが結果的にはメカCVTと似たようなエンジン回転動作をすることになり電気CVT方式と届けてしまったのが真相です。

メカCVTもその殆どがその長所を伸ばすために燃費最適に合わせたエンジン回転制御を行っていますので似た形になるのですが、電気CVTとメカCVTはこのように機構的には全く違うもので、その特徴は大きく異なります。例えば、電気CVTでは高性能・高応答のエンジンと高応答の発電機での変換した電力を高応答モーターに伝達し、メカ伝達とは次元の違う駆動力応答を実現することができます。また、これに加え高出力電池からのアシストパワーをさまざまな走行用域で活用できるのもこのシリーズ・パラレルの特徴となります。

THSはこれまで、欧州低燃費車の定番である過給ダウンサイジングエンジンと多段DSG変速機を組合せた方式と対比され、多段DSGのダイレクト感に比べTHSのダイレクト感のないCVTフィーリングに違和感があるとよく言われてきました。個人的には、これには電気CVTというネーミングによる先入観によるものもあるのではないかとも考えています。

欧州勢の多段化もまた燃費最適を目指したもので、これはメカCVTが目指してきた方向性と全く同一線上にあり、私はエンジンの回転制御という点においてはメカCVTと電気CVTも多段のDSGやATも全て同じカテゴリーに含まれていると考えています。

もしスポーティ走行でドライバー自身のトラクションコントロールが必要なのであれば、このシリーズ・パラレル方式でもいろいろやりようはあり、密かに『アコード』がシリーズ・パラレルのシリーズ部分を高出力電池のパワーアシストを生かした上手いチューニングで払拭してくれるのではと期待しています。

このような電気CVT方式と言う名前が持つイメージを打破し、シリーズ・パラレル方式での低燃費&商品力競争の結果として新しい定義を確立させるような、革新的な技術の提案が表れて欲しいと思っています。

シリーズ・パラレルに帰着するフルハイブリッド

さて、低燃費を追及してフルハイブリッドを選択し実際に開発するとなれば、シリーズ方式の限界に直面しそれを打破する為のパラレルパスが欲しくなります、これは私には手に取るように解る開発の流れです。トヨタではこの手段として遊星ギア方式のシリーズ・パラレルを採用しました。

ホンダはプラグイン狙いでシリーズハイブリッドから開発をスタートさせたようですが、やはりパラレルパスが必要となってクラッチ直結モードを選択しクラッチ切り替え方式のシリーズ・パラレルとなったように思います。ホンダはこれまでIMAというエンジン直結パラレル方式のハイブリッドを生産していましたが、こちらは高速走行の低燃費には限界を持ちます。最終的にはこのような流れで、シリーズとパラレルの切り替えを行うシリーズ・パラレルと帰着したと推測しています。この切り替えをどのようにショックなく行っているか非常に興味があり、試乗をしてみるのが楽しみです。

レンジエクステンダー電気自動車と自ら呼ぶGM『VOLT』のハイブリッドはモード切り替クラッチを3セット、さらに動力分割の遊星ギアを使う方式で、基本的な動作は今回の『アコード・ハイブリッド』と同じシリーズベースにパラレルをほんの少し組み合わせたものですが、結局『アコード・ハイブリッド』に比べはるかに複雑な構造となってしまっており、さらにハイブリッド走行燃費が大きく見劣りするものとなってしまっています。

ハイブリッドであろうが、従来エンジン(コンベ)であろうが、低燃費の基本はエンジン効率の向上に帰着します。アトキンソンサイクルエンジンの採用も必然の方向で、エンジン効率が低下するアイドル・低中速走行でのエンジン停止と、それを推し進めたEV走行を行うフルハイブリッド化もまた必然です。

さらに電池の高出力化によるシステム出力アップでは、まず走行性能向上に注目が集まりがちですが、高出力化を果たすと減速回生の回生パワーも高めることも出来る点を見逃してはなりません。減速時にクラッチを切り、エンジンや発電機のつれ回りによる損失を減らして回生効率を高め、さらに高回生入力が可能な電池で回生量自体を増やすことも低燃費に貢献していると思います。排気量を2Lに留めたのも、エンジンの教科書どおりのダウンサイジング過給と同じ考え、過給の代わりに電池パワーアシストを利用すると言う思想で、電池エネルギー容量は1.3kWhとプリウスのNi-MH電池と同じ容量ですが、リチウム電池の採用により軽量・コンパクトながら56ps(41kW)もの高出力化を達成し、燃費に最も大きなインパクトを与える車両の軽量化に貢献しているのも見て取れます。

まだ詳しい車両諸元、システム諸元やシステム構成は公表されていませんので、実力のほどは実際に発売されてそれらが公開された後、またやはり実際に試乗して見ての見極めと、何よりもマーケットでの反響をみてのお楽しみですが、THSに対しやっと強力なライバルが現れてくれたのではと私は純粋に期待に胸を膨らましています。

激烈な競争があってこそ、技術は進化する

数年前、海外のフォーラム後にホンダのエンジニアと呑む機会があり、2代目インサイトではもっと低燃費と走りでプリウスと真っ向勝負してくることを期待したのに、肩透かしを喰わされて残念だと話をしたことがあります。その頃は「ハイブリッド嫌い(トヨタのハイブリッドが嫌い?)のトップの方の厳しいコスト低減要求で勝負ができなかったのでは」と勘ぐっていましたが、今度こそこの『アコード・ハイブリッド』と、デュアル・クラッチ・ハイブリッドを搭載し間もなく登場すると言われている『フィット・ハイブリッド』では、純粋に技術における激烈な競争を繰り広げて欲しいと思っています。

私は現役時代、ハイブリッドシステム全体だけではなく、エンジン開発でも日本勢では日産、ホンダ、さらには海外のVW、Benz、BMWにも一歩もまけてなるものかと開発競争に打ち込んできました。追いつき、追い越せ、抜かれたら抜き返せでやってきましたが、一方では環境規制や試験法の議論ではエンジニア同士の交流もあり、まさに競争と協調、これが日本の自動車がグローバル開発競争の先頭を走れた源泉だったと思います。1980年代には、日産の過給エンジン路線に対しトヨタは気筒あたり4バルブのEFI路線で対抗し、われわれの可変動弁系VVT-i路線に対してはホンダがVTECで対抗するなど、エンジンのEFI・電子制御化でも、また性能・燃費競争でも競いあってきました。

本気に抜きにかかってきたのなら、当然トヨタのエンジニアも黙ってはいないはずです。次のプリウス、次のミッド系THSで低燃費はもちろん、クルマの商品魅力をどのように打ち出してきてくれるのかも楽しみです。

もちろん、エコだけ、走行性能だけが競争のポイントではありません。安全、安心、クルマの魅力と価格、この部分での競争にも期待したいと思います。

トヨタハイブリッド車が累計500万台を突破

先週のブログの最後で、トヨタ自動車が発表した、「トヨタ自動車、ハイブリッド車のグローバル累計販売台数が500万台を突破」のニュースをお伝えしました。

この500万台突破をお知らせするトヨタの記念コンテンツ(http://www.toyota.co.jp/jpn/tech/environment/hv5m/)には当時プリウスの車両主査(車両チーフエンジニア)を務めた、現トヨタ自動車副会長の内山田さんのメッセージ動画や、記念動画、1997年から現在までの累計販売台数の推移グラフが紹介されています。

次ぎの自動車をわれわれがリードしようとして、多くの仲間達の熱い想いと寝食を忘れた取り組みに支えられ、内山田さんが車両チーフエンジニア、私がハイブリッドシステム開発リーダーと二人三脚で数多くの修羅場を乗り切って送り出したのが初代プリウスです。

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プリウスが目指したのはモータリゼーションの発展によってエネルギー資源問題、環境問題、渋滞、交通事故といった自動車のネガティブインパクト増大を抑え、自動車のさらなる発展をめざす21世紀のグローバルスタンダードカーのリードオフ役となることでした。

内山田さんのメッセージにもあるように、このようにエネルギー資源や環境問題の緩和に貢献していくには、普及拡大が前提になります。私もハイブリッド開発エピソードをお話するときには、当時から『いかにそのクルマが低燃費で環境性能がいかに優れていても、テストコースだけを走るプロト車や、ショールームに飾るショーカーでは意味がない、買っていただき、走り、使い、それを喜んでいただけるクルマ』が目標と申しあげてきました。そのハイブリッドが、15年で累計販売台数500万台突破、感無量であるとともに、このバックにこのハイブリッド車を選び愛用されている500万のユーザーの方々がおられることの重さをジワッと感じています。

これまで何度か、このブログで開発エピソードや発売初期のエピソードをお伝えしていますが、世界中の多くのお客様に支えられここまでたどり着くことができました。

1997年に販売開始された2つのハイブリッド

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図はこのトヨタ記念コンテンツにあった1997年から現在までの累積販売台数のグラフです。

トヨタでのハイブリッド車販売スタートは、1997年12月の初代プリウスではありません。その年の8月、トヨタのコミュータバス、コースター・ハイブリッドをプリウスに先駆けて発売を開始しています。このハイブリッドの狙いは、燃費よりも排気のクリーン化で、ディーゼルエンジンの変りにターセルやスターレット、カローラに使っていた排気量1.5リッタのガソリンエンジンを使ったシリーズタイプのハイブリッドです。電池は鉛、外部充電型ではなかったように記憶していますが、電池をエネルギーバッファーとして使い、エンジンは発電用として走行負荷の変動をできるだけ抑え、排気浄化能を高めていました。
大都市の幼稚園バスや、北海道のリゾート施設の送迎用として使われていました。台数は多くはありませんが、このハイブリッドバスが最初です。

その1997年の総販売台数は、トヨタのニュースリリースによると、0.3千台と書かれており、累積500万台達成を表したこのグラフの中では、線としても識別できるレベルではありませんが、このハイブリッドバスと、1997年12月10日に豊田市にある高岡工場から各地の販売店に運ばれ、その年に登録された約300台のプリウスが最初の一歩を刻んでいます。

カーオブザイヤー受賞後に生産開始

初代プリウスは、この年の日本カーオブザイヤーなど多くの賞をいただきましたが、日本カーオブザイヤーの受賞条件はその年に量産車としてお客様に販売したクルマが対象です。
10月の新車発表後、11月にちょうど次の年の冬期オリンピックが開催される長野を拠点とし、その競技会場巡るコース設定で行ったジャーナリスト、メディア試乗会で走りを確認にただき、河口湖にあるリゾートホテルで開催された日本カーオブザイヤーに臨みました。その試乗車は、先週のブログに書いた量産トライの号試車で、まだ生産開始をしていない状態でのエントリーと異例中の異例ながら、トヨタの次世代自動車へのチャレンジを評価いただき受賞することができましたが、それを受け取るためにも年内には量産と言える規模の登録を行うことが条件だったと思います。

この長野での試乗会もなんとか間に合わせた突貫作業で、システム開発担当スタッフはまだまだ猫の手も借りたい状態のなか、この時期に開発現場にいると邪魔な私などのマネージャーを集めてこれらイベントに参加しました。この長野の試乗会でも、走行中のシステムダウンが発生、原因究明にきりきり舞いをしたことを思い出します。

最近は自動車ジャーナリストからトヨタのハイブリッド車に対し、エコは良いがクルマの魅力に欠けるなどの厳しい声も聞こえてきますが、この初代ではクルマの基本性能としてはまだまだの状態でしたが、自動車ジャーナリストの方々、メディアの方々も日本発の自動車技術として応援に回っていただきました。

何とか、12月10日の生産開始までに、システムダウン不具合対策や、最後の品質、信頼性確認作業を済ませ、この日本カーオブザイヤー受賞の条件をクリアさせることが出来ました。これも今としては、なつかしい思い出です。

ハイブリッドは普及はこれから更に

丁度このブログがアップされる今、豊田市で、開発に携わってきたメンバーが集まり、ハイブリッド15年、累計販売500万台の記念パーティが開催され、OBの私にも声がかかり、
この原稿を書き終えた後で豊田に出発する予定です。

皆と一緒にこの15年、500万台の美味しい酒を酌み交わしたいと思っています。

しかし、世界で10億台を超える自動車保有台数の中で、なんとか0.5%シェア、まだ1%にも届かないことも肝に銘記する必要があります。

今日の日経新聞に「エコカー苦戦」の記事が載っていました。電気自動車の販売がはかばかしくないことを題材に、新興国でのVWを代表とするコンベ車の低燃費車普及を対比させ日本のエコカー苦戦との論調でした。

この中で、エコカーの市場規模拡大を取り上げていましたが、コンベ低燃費車であれ、ハイブリッドであれ、これから目指すのは全てのクルマのエコ性能向上です。100%エコカーが目標、100%を目標にすると、エコ性能だけではなく、クルマとしての基本性能、走る喜び、持つ喜び、買う喜びを感じていただけるクルマの総合力での競争が決め手です。

クルマの総合力発揮にも低燃費エンジンとともに強力モーター、強力な電池のフルハイブリッド機能が力を発揮すると思います。1%、5%、10%、さらに100%へとカテゴリーは問いませんが自動車の電動化、何らかのハイブリッド技術が次世代自動車の進化をリードしていくことを確信しています。

プリウス開発秘話 15年前の9月

トヨタの技術発表を内山田竹志副会長がされました

今月の24日(月)トヨタ自動車は東京・お台場にある「MEGA WEB」で2012年環境技術説明会を開催し、ハイブリッド車の拡大を軸としたこれからの次世代自動車への取り組みについて発表しました。メインプレゼンテーターは、現取締役副会長の内山田さん、初代プリウスの車両チーフエンジニア(車両主査)でした。(本文中のリンクをクリックすると、トヨタ自動車の公表資料のPDFが開きます。)

この報せを聞き、15年前1997年のこの9月、10月の新車発表を目前にしてもまだまだ未熟な状態のハイブリッドでしたが、内山田さんがハイブリッド開発担当の私には心配なそぶりも見せず深夜まで最後の仕上げに取り組んでいた若いスタッフ達の激励に回ってくれたことを今も思い出します。

今年の環境技術発表会によると、初代プリウス発売以来のトヨタ/レクサスハイブリッド車の累積販売台数は8月末までに440万台を達成したとのことです。400万台達成が今年の4月末ですので、ほぼ10万台/月のペースで販売を伸ばしていることになり、今年はいよいよハイブリッド車年間販売台数100万台越えが確実な状況、15年にして石油消費の削減、自動車の低カーボン化に貢献する次世代自動車に育ってきたことに深い感慨を覚えています。

リーマンショックと、その後のトヨタ車の品質問題、さらにプリウスの電子制御ブレーキリコール問題であらぬ疑いを受けたハイブリッド車の電子制御系の誤動作問題で次世代車としての拡大に水が掛けられ、アメリカでの販売台数が減少してしまったハイブリッド車ですが、電子制御系の誤作動問題も濡れ衣が晴れ、今年は4年振りにアメリカでのハイブリッド車販売新記録を達成することが確実となってきました。

またFord Fusion ハイブリッド、ホンダ アコードハイブリッド、日産アルティマハイブリッドとライバルも現れ、某経済誌の「日本のハイブリッド車はガラカーか?」の?に対し、今年こそ、それを否定する答えがでると今から喜んでいます。

とは言え、まだ440万台、他社のハイブリッド車を含めてもまだ世界の自動車保有台数比率からは1%にも満たない台数、省石油、低カーボンに着実に貢献していくのはこれから、日本勢がこれからもトップを譲らず、次世代自動車への転換をリードしていくことを期待します。

初めてづくしのハイブリッド開発

今年で初代プリウス発売から15年、今日のブログはちょうど15年前、10月の東京モーターショーを前にした10月12日、東京での新車発表会、さらに12月の京都COP3のタイミングで販売を開始するという、極めて戦略的な超短期開発のエンディングを迎えようとしていた9月の出来事をいくつか紹介してみたいと思います。

新型車を開発し、それを販売していくには、日本の場合、認可官庁である国土交通省に届出を行い、法令にそった保安基準、環境基準などの審査を受け、環境性能、燃費性能については認定試験を受験し、その届出諸元で全ての基準をクリアしたうえで認可をいただく必要があります。この認可が下りて始めてナンバー登録が可能となり、新車発表イベント、そして販売店での新車販売開始にこぎ着けることができます。

環境性能、燃費性能の認定試験も、認定目標燃費10-15モード基準で28km/Lが達成できるかどうかにヒヤヒヤしながらも、なんとかクリアしたのが8月連休明け、その結果と審査結果のレビューを受け、当時の国交省認可担当責任者から、「普通乗用車として申請に対し認可を与えたのに、オール電子制御のハイブリッド車ならプログラムを変更し、スポーツカーにだまって変更することもできるのでは?そうできないことをしっかり説明をするように」と求められ、目を白黒させたのもこの時期のエピソードです。

そんなこともありながら、9月中旬に正式認可をいただき、10月の発表会に向けた準備を始め、また早速取得した白ナンバー車を使って、なにせ発表会前のこと、暗くなってからこっそりと技術部からクルマを持ち出し、愛知県の三河山間部を走り回ったことも今となっては懐かしい思い出です。

最後の最後まで修正・確認が続けられた

この認可のための認定試験までは、技術部の試作部門が作った試作車を使い、またハイブリッド部品もまだ小規模な試作ラインの試作品が使われています。国土交通省での届出、認可のプロセスと並行して、このフェーズの試作車で開発品質、設計品質の確認、届出項目とその申請内容に変更がないかのチェックを行い、不具合項目の修正のための設計変更を行い、いよいよ技術部隊から量産工場の生産部隊へと業務マネージも移管していきます。

この生産部隊への移管後スタートするのが、量産ラインでの生産トライ、トヨタ用語でいう号口試作(量産ライン試作)、通称号試です。実際の量産ラインでクルマの組み立て、生産ラインの調整、生産作業の習熟、その段階での不具合のチェックと対策の設計変更が量産開始までの期間、突貫工事として調整、改良作業が続けられます。

もちろん、届出内容、その性能値からずれるようなことがあると、再度の届出と認可の取り直しすら必要となります。幸いにも、再認可が必要な大きな変更が必要な開発の見落とし、不具合発生はありませんでしたが、それを想定した監査、コンプライアンスチェックもこの段階の重要な開発マネージ、経営マネージ項目です。

様々なハイブリッド用新規部品も、この号試段階でそれまでの小規模な試作ラインで作ったものから、量産ラインでの生産品に切り替わり、そこでも生産ライン整備、調整が進められていきます。

通常の新型車ならば、ボデーの合わせ面の調整、ドアの隙間調整、あるていど現物調整が必要なハーネス類の調整、組み付け作業性からの変更などが主ですが、なにせ超短期で開発した初物部品、システムがてんこ盛りのハイブリッド車ですので、最終量産部品が揃うのがこの段階です。

ハイブリッド電池などは、最終スペックの試作品ができあがったのが7月、電池チームがそれを試作車に乗せクルマの状態で電池制御適合を行い夏休み返上で量産プログラムを仕上げこの号試車両にやっと間に合ったといった状況でした。

通常のエンジン車ならば、エンジンやトランスミッション制御系の適合はこの段階では最終確認の小修正程度ですが、電池だけではなく、エンジン、トランスミッション、モーター、発電機、パワーコントロールユニットも量産生産ラインで作られてもので特性チェックが行われ、制御適合が行われたものが集められたのはこの号試段階になってしまいましたので、小修正程度では済まず、そこからが本格的に最終適合になだれ込むことになってしまいました。

その適合確認のピークが、がまさにこの9月から生産開始までの2ヶ月半でした。昼はテストコースで、夜は三河山間部のさまざまな道路で、技術部の評価部隊、システム適合部隊、また生産部隊に量産移行を済ませていますから生産工場の検査、品質保証の監査チームも加わって最終段階での絨毯爆撃のような不具合チェックを行い、連日連夜その指摘された不具合対策、その適合確認作業が続く毎日でした。

昼に指摘されたチェック項目、不具合項目は昼の内に、夜の車外走行で指摘されたチェック項目、不具合項目は次ぎの日の朝には設計部隊、適合部隊、生産部隊展開され、その日の内に技術開発、設計、生産現場ベースでの方向付けが行われ次のアクションが次々と行われていました。

すべての現場が努力したからこそ量産ハイブリッドは生まれた

このブログでもなんどか「現地、現物、現車、現場」重視のクルマ作り・もの作りの重要性に触れてきましたが、この現場はなにも「開発現場」「生産現場」だけを差しているわけではありません。

販売店の営業現場、サービス現場、発表イベントや発売イベント、さらにはその年のCar of the Year獲得をめざす広報・宣伝スタッの現場、そのさまざまな現場作業の進行を見守りコンプライアンスチェック、現場マネージの日々のディシジョンに承認を与える開発、生産部隊の役員を含めたマネージメント現場、それらを総括するトップ役員を含む経営現場までの全ての現場の意味で使っています。

この15年前の9月もこの全ての現場が機能し、今の決められない政治ならぬ、すべての現場で『決めきる現場ディシジョン』が進行していました。日本スタイルのすり合わせ型の開発は時代遅れで、大規模なハイブリッドシステムはその最たる例との、メディア、評論家、アナリストの声が最近聞こえてきますが、損得、金勘定を超えた高い目標へのチャレンジに向かった様々な現場でのすり合わせと修羅場での迅速なディシジョンメーキング、その上での迅速な経営ディシジョンこそ、これからも日本人ならではのすり合わせ型マネージの特徴と今も思っています。

もちろん、日本企業も、経営の決断が遅い、決めきれない、現場の声を吸い上げられない、裸の王様といった大企業病の蔓延がトヨタもその例外ではなくあることが現実ですが、15年前の9月にその当事者として体験した、非常時の火事場の馬鹿力ならぬ、修羅場の現場「力(ジカラ)」が今の440万台へのスタートであったと今振り返って確信を深めています。

しかし、今の地球の状態、日本の状態を見ても、初代プリウス発売から15年、累計販売台数440万突破の感慨に耽っている暇はなさそうです。来年初めには500万は間違いありませんが、当分は年100万台販売維持などの低い志ではエネルギー問題、地球環境問題への取り組みからすると不十分です。トヨタの資料にある通り、環境対応自動車は『普及してこそ環境に貢献』できるのです。もちろんトヨタだけではありませんが、これからもこの日本の現場力を発展させることによって世界に貢献し、リードし日本復興、復活の牽引役になってくれることを期待しています。

日本の政治現場だけが、この現場力の蚊帳の外に置かれている日本人として情けない現状を、これこそ何が何でも早急に打破し、エネルギー、環境技術立国として世界に貢献できる日本への変革を急いで欲しいものです。

ハイブリッド開発に連なるビッグ車両主査のDNA

先月の22日トヨタ自動車から、トヨタ/レクサス・ハイブリッド車累計販売台数が400万台を突破したと発表がありました。1997年のハイブリッド車販売開始から15年にしての400万台達成です。

トヨタ最初のハイブリッド車

実は最初のトヨタの市販ハイブリッド車は、12月発売のプリウスではありません。記憶に残っている方は少ないかもしれませんが、1997年8月に小型バスのコースター・ハイブリッド車が最初です。(写真1)プリウスの販売を前にすること4ヶ月、今では懐かしいターセルなどに搭載していた1.5リッターガソリンエンジンを発電用エンジンとしたシリーズ型のハイブリッドでした。

幼稚園バスや電力会社の施設見学バスなど、ユニークな用途としては札幌近郊にある豊平峡ダムリゾートの送迎用バスとして使われていました。しかしながら車両価格が高く、また巡行パワーが小さく燃費メリットも少ない等の理由から、その販売台数は少量に留まっていました。しかしながらこのコースター・ハイブリッドが正真正銘のトヨタ初の市販ハイブリッド車です。なお、400万台のうち100台足らずがこのハイブリッド車でした。

このクルマの開発の主目的は、当時、東京や大阪等の都市圏で社会問題となっていたディーゼルスモッグに対して、幼稚園バスなどのコミューターバス用へのクリーン排気のシステムの導入でした。つまり、プリウス以後のハイブリッドのように、低燃費をメインのターゲットにはしていません。今に連なる低燃費・低CO2を目指したハイブリッド車はプリウスからがスタートです。(写真2)

ガスタービン・ハイブリッドを開発した主査の神様

また、試作のみのハイブリッドであれば、市販を行ったこの1997年コースター・ハイブリッド、これに続き同年12月に販売を開始したプリウス以前にも、永く多種多様な開発の歴史があります。

古くは1960年代後半、都市の大気汚染が騒がれ始めた時に、今の内燃エンジンに替わるエンジンとして、燃焼室で空気と燃料の混合気を連続して燃焼させ、その高温の燃焼ガスをタービンに吹き付け回転させて動力を取り出す、ガスタービンエンジンの研究開発が行われており、トヨタではこのガスタービンでクルマを動かす方式として、シリーズ型ハイブリッドの開発を進めていました。

当時の小型TwoシータースポーツS800、通称ヨタハチを改造したガスタービン車がこのシリーズハイブリッドです。(写真3)


このトヨタのガスタービン自動車の開発に情熱を注いでおられたのが、トヨタのクルマ作りの根本である車両主査制度を確立された初代クラウンの車両主査・中村健也さんでした。

当時私が所属していたマスキー法対策クリーンエンジン開発プロジェクトセンターの中に、このガスタービン自動車開発など長期的な研究開発を行う特殊研究室というチームがあり、既に車両主査の神様のような存在であった中村健也さんがたびたび顔を出され、若いエンジニアからの報告を熱心に聞かれ、指示をだしておられたことを横目で眺めていた記憶があります。

直接そのハイブリッド開発が、プリウスハイブリッドにつながった訳ではありませんが、モーター開発、そのコントローラ開発が連綿と続けられてきたのは、このガスタービンハイブリッド開発にルーツであることは確かです。

車両主査は「社長の代行」

以前のブログで“トヨタのDNA 車両主査制度とプリウス”で、中村健也さんに続き、この車両主査制度を確固としたものに作り上げた、初代カローラ担当の車両主査長谷川龍雄さんの「車両主査10ヶ条」を取り上げました。

このブログでも、初代プリウス開発でも、トヨタのDNA、「車両開発主査」に開発の全てを集約することを心がけ、それを開発スタッフが支えきる、これが成功に導いた理由の一つと説明をしました。

トヨタには中村健也さんが初代クラウンの車両主査を命じられた時のエピソードが、車両主査の責任と権限の議論として伝えられていました。自動車会社経営の根幹は、よいクルマを作り上げることであり、車両主査はそのとりまとめ役としての責任を負うのだから社長の代行が役割で、どうしても設計などラインが動かない時の強権発動の権限についての議論の時に、当時のトップ(豊田英二さん?)から、トップへの直訴権をもらったとの話です。

中村健也さん曰く、その直訴権を発動したことはないとのことでしたが、われわれ若手エンジニアでも「車両主査」からの要請は何よりも優先との意識を叩き込まれていたように思います。私がエンジニアとして永く過ごしたエンジン分野は、車両主査からなかなか言うことを聞かないと言われていましたが、新しい開発テーマでは、クルマに採用してもらうことが成果の一つであり、開発スタート時にはターゲット車両とその車両主査の顔を浮かべながら、また売り込み文句も考えながら開発を進めたものです。

プリウスも、この社長への直訴ではありませんが、将来自動車へのチャレンジプロジェクトとして、社長代行役の「車両主査」に開発を集約、そこで、設計、評価、生産スタッフが無理難題にチャレンジし突破できたことが、この400万台に繫がったと思っています。

初代クラウンの中村健也さん、初代カローラ・セリカの長谷川龍雄さん、スープラの和田明弘さん(プリウス開発当時の技術担当副社長)、初代レクサス(日本名セルシオ)の鈴木一郎さん(後トヨタ車体副社長、トヨタ自動車技監)、「天才たまご」と名付けた、たまご形シルエットをもつ初代エスティマの塩見正直さん(プリウス開発スタート時の常務、商用車開発センター長、ハイブリッド開発拠点となったEV部、BR-VF室担当)といった、それぞれ個性的な“ビッグ”車両主査達が、その時代の節目となり、次のトヨタの飛躍に繫がるクルマを作り上げてこられました。このDNAを引き継いだのがプリウスだったと断言できます。

中村健也さんのインタビューが自動車技術会のページにあります、興味を持たれたなら一度お読みいただくことをおすすめします。
http://www.jsae.or.jp/~dat1/interview/interview11.pdf

プリウス開発を支えて下さった“ビッグ”車両主査の方々

プリウスの量産プロジェクトスタート後の1996年6月、ハイブリッドや電気自動車開発の牽引者だった塩見さんがトヨタ車体の社長として転出されました。ハイブリッドプリウスの開発が混沌としてまだ先が見えないその時期に、役員に昇任されてハイブリッド開発の中核部隊のEV部、われわれが所属していたBR-VF室担当となった方もまた、クラウンの主査をやってこられた渡邉浩之さん(現トヨタ自動車技監)でした。

昨年7月のブログで、このプリウス量産開発のスタート時の状況を“非常事態宣言”とのタイトルでお伝えしましたが、ハイブリッドの量産開発を強くトップに働き掛けられたのが塩見さん、トップ会議での1997年12月販売開始とのクレージーな決定を受け、技術部隊に号令を掛け、「このプロジェクトより優先のプロジェクトがあるなら言ってみろ!」の一言で噛みついてきた部長連を黙らせてゴーをかけた当時の技術担当副社長が和田明弘さんでした。またこの発言をされる前に、組織、体制作りを各部長と調整する技術管理・企画スタッフに対し和田さんから「自分はいくら悪者になっても構わないので、このプロジェクトが上手く成功できるよう、皆で知恵を絞って頑張って推進して欲しい」とのコメントがあったことが、私のノートに残っていましいた。

その後で“非常事態宣言”書を作り、まずそれを持って開発体制強化を直訴した相手が、新役員として就任された渡邉浩之さんでした。新役員に就任されると、その担当範囲が広がり、また未経験分野だと引き継ぎやレクチャを受けるのに多忙を極めます。

渡邉さんも、それまでの車両主査から、まさに会社を挙げたチャレンジプロジェクトでまだまだ先の見通しもないハイブリッド担当の他、カリフォルニアZEV対応として出さざるをえない電気自動車開発とその主要ユニット設計を担当するEV部の他、海外サービス部門もご担当と、EV部・BR-VF室の席を温める間もなく飛び歩いておられました。

“緊急事態宣言”書をもとに現状を説明し、次のアクションのご相談のためにまとまった時間を貰おうとしても、隙間なくスケジュールが埋まっている状態でした。秘書の女性と相談してとった作戦が、たまたま静岡の研究所(東富士研究所)に出張される日があることに眼を着け、三河安城からの「こだま」のグリーン車に偶然乗り合わせたかのように乗り込むことでした。当時の「こだま」のグリーン車はいつもがらがらで、貸し切り状態であることを良いことに、三島に到着するまでの1時間半を目一杯使って現状を説明し、体制強化についての提案をしました。時間が足りない分は三島駅から研究所までのクルマの中で議論を続け、すぐその場で賛同をいただき、人材補強、開発コントロール会議の設定、そのやりかたなど動きだすことができました。

このような、ビッグ車両主査のかたがたの判断基準、生産技術、生産準備、生産、調達から販売、サービス、販売店サポートまでの幅広い人脈と、その経験にもとづくご指示、サポートがあったからやりきれたように思います。

顔が見えるビッグ車両主査の出現を

その後2000年のマイナーチェンジでは、ハイブリッドをサラから作り直すようなビッグチェンジを行った上で欧米にも展開し、2003年の2代目、2004年のV6エンジンの電動4輪駆動のハイブリッドと、ハイブリッド自動車としての技術進化と、何度か取り上げている信頼性品質、車両品質の向上への取り組みがここまでの普及に繫がったように思います。

一時、車両開発期間短縮、海外生産の急増、開発車種の急増によって、以前ほど「車両主査」がまとめ役として力を発揮する開発が見あたらなくなってきたように心配をしていました。こちらも年をとったせいで懐古的になっているのかもしれませんが、将来のクルマへ拘り抜く、ビック車両主査が少なくなってきたようにも感じます。

省エネルギー・クリーン・低CO2は次世代自動車の必要条件ではあり、その更なる進化は当然期待していますが、その上で乗ってハッピー、サプライズ、そして時にはエキサイトを感ずる将来のクルマへのチャレンジを引っ張る、顔が見え、クルマに拘りを持つ、ビッグ車両主査の出現とその作品に期待を込めています。

こうして作られたクルマには、当然、今以上の高効率、クリーンで、その上、回転ののびとともに高まる出力と澄んだエンジンサウンドを持つハイブリッド車用エンジンと、トルクフルなモーター、そのモーターに十分なエネルギーが供給できる、コンパクト、軽量、その上安価なハイブリッド電池を持つハイブリッド自動車がベースになることは言うまでもありません。

トヨタ・豊田DNAを引き継ぐ章男社長が、車両主査の権限強化に動かれていると聴き、次のビッグ車両主査の出現と、チャレンジした成果としての作品(クルマ)に乗れる日がそれほど遠くないことを期待しています。

東京モーターショーの印象

人出が戻った東京モーターショー

一昨日(12月6日)、東京有明ビッグサイトで開催中の東京モーターショーを見学に行ってきました。これまではメディアデーや特別公開日の説明員など、出品者側として入場していましたので、一般公開日に、入場券を買って入場するのはなんと40年ぶりでした。
2009年は、残念ながら海外出張と重なり、見学できませんでしたが、それまでの幕張会場から都心から近い有明会場となり便利になったにもかかわらず、リーマンショックの後遺症で海外メーカーは殆ど出品しなかったことも重なり、入場者数が激減し日本の将来自動車マーケット縮小が加速していくのかと心配になった記憶がありました。

今回は平日でまた雨模様の天気でしたが、会場周辺は駐車場へ入るクルマで渋滞、ゆりかもめもラッシュ時間のように混み、会場内もごった返すまではいきませんでしたが、若者からお年寄りまで、大賑わいでした。新聞報道によると、12月3日の一般公開日から5日までの入場者数は、2009年の1.5倍以上を記録し、平日の5日も2009年に比べ2倍以上に増加したそうです。この日も、混み合う状況、人気車には近づくにも時間待ちが必要、乗り込む人はさらに長時間待っている様子でした。

人気は購入候補の国内車と外国車

OBとなっても、展示車の周りに集まっている人の話に聞き耳をたて、その様子を観察する癖が抜けませんが、その観察ではプロトよりも発売間近や、話題の市販車に人気が集まっていたように感じました。次ぎの購入候補を探しに来られて、そのスペックを確認し、乗り込んで見ておられる方も多かった印象です。トヨタOBとしては、まもなく販売を開始する新型ハイブリッド車アキュアが好評のようで、正直ほっとしました。フィットハイブリッドに正対抗し、ハイブリッドマーケット拡大に競い合って欲しいものです。

トヨタ・アクア
トヨタ・アクア

盛況だった理由の一つが、2009年はほとんどの海外メーカーが出品を見送ったのに対し、今回はドイツ、フランスの欧州勢が出品したことも要因と思います。昨年10月のパリAS,今年3月のジュネーブAS、見学はできませんでしたが9月のフランクフルトMSに出品した多くのプロトおよび最新の市販車展示でそのブースは大賑わいでした。

欧州勢のプロト展示は、ジュネーブ、フランクで公開されたものの一部だけでしたが、実際にその大きさ、質感、モックだけか、実体が詰まったものか確認することがで、やはり現地、現物、現車が大切と痛感しました。この中では、フランクフルトMSのトピックスとして紹介したDaimler Smart社のEVとBMWのEVプロト i3を見ることができました。9月29日のブログではi3を含め、今回は展示がなかったVWのe-UP!含め、ドイツ3社は全て従来車の代替ではなく、コミュータEVジャンルに絞ってきたと感想を述べました。

Smart ForTwo Electric
Smart ForTwo Electric
BMW i3
BMW i3

確かに、DaimlerのSmart-ForTwo-Electric-Driveはベース車そのまま実用に近いコミュータEVでしたが、BMW i3は予想以上に大きなサイズのコンパクトクラスのクルマでした。 
カーボンファイバー製ボディーの量産工場を準備しているとの報道もありますが、都市のチョイ乗り車としてどれくらいの価格をつけ、BMWとしてこのクルマをどのように位置づけるつもりなのか興味津々です。

日本マーケットがさらにシュリンクすると、2009年のように、海外勢の東京MSスキップが常態化するのではと心配していました。しかし、今回盛況であったこと、世界に先駆けて若者の自動車離れが進行している日本でも、自動車MSにこれだけの人を集め、自動車に対する熱気と次の自動車に対する期待感を感じたことは嬉しい予想外でした。

次世代自動車でのサプライズは無し

しかし、入場者の熱気、次ぎのクルマへの期待感の高さを感じた一方、次世代自動車の方向性を示すメッセージ性のあるクルマ、またサプライズを与えてくれたクルマは日本勢だけではなく、欧州勢含め正直いってありませんでした。

いずれも想定内、それも期待値の範囲、ビジョン、戦略を打ち出しているはずのコンセプト車ブース、ビジョン発信のセンターブースも、エコ/エコの大合唱、今はやりのスマートグリッド・スマートハウス、緊急給電のV to Gを売りにするか、ノスタルジックなスポーツカー、相も変わらず大排気量ビッグパワーセダン、SUV、ミニバンのオンパレード、カタログ燃費値の高さを謳うエコのクルマと、その対極として若者に対してというよりはクルマにとって良き時代を過ごした高所得中高年向けにエモーショナルなFun to Driveを謳うクルマの二極化の印象を受けたのは私だけではなかったようです。

確かに、今回の東京だけではなく、パリでもジュネーブでも、エコを謳うクルマ以上に多く人を集めていたのは、このようなクルマであったことは事実です。声高にエコを叫び続けることに、すこし飽きとうっとうしさを感ずるようになってきているのではと感ずるのはクルマ屋OBの過剰反応でしょうか?

低燃費高効率、エコ、クリーンは、これからのクルマとしては当たり前、ガソリンの臭いのするクルマや少しでも白煙、黒煙が出るクルマは論外、その上でカントリー路、山岳路などでクルマを走らせる快感を感ずるクルマ、長距離ドライブにも安全にストレスなく出かけられるクルマが目指す方向だと今も頑固に思い続けています。

エコと走りの両立を目指そう

初代プリウスは、21世紀として目指すべきクルマの基本性能として、エコ性能でのサプライズを目指しました。それからの15年間は、エコ性能をさらに高めながら、クルマの走行性能として世界中のさまざまな走行環境の中で、安全、安心に走れるくるまに成長してきたと思います。しかし、ここで述べた低燃費・クリーンの高いレベルのエコ性能を持ちながら、私を含めて(少しノスタルジックな走りへの想いは入りますが)時には右脳でのドライビングを楽しませてくれるクルマの実現が夢でしたが、現役時代にはそのチャレンジにまでは手を広げられませんでした。2極化ではなく、エコと走り、そして走行安全の高いレベルの融合にこれからも日本のクルマ屋としてチャレンジし続けて欲しいところです。

何度か、このブログでも述べてきましたが、自動車のこれからの進化を日本勢がリードしていくには、やはり自国マーケットが活性化し、激しくフェアな開発競争を行い、その刺激で切磋琢磨していくこと、それをしっかりとユーザーに発信してくれるドメスメディアのサポートが必要です。この15年、少子化、若者のクルマ離れ、不景気と日本の自動車マーケットは右肩下がりで縮小するばかりでした。

マイコンエンジン制御、4バルブエンジン、過給エンジン、トラクションコントロール、VVT-i(可変バルブタイミング)など、私が開発を担当した技術、新エンジンはいつもクリーンと高効率、高出力性能の両立を目指したつもりです。その全ての新技術、新エンジンをまずは日本向けのクルマに採用し、その上で、改良を加えて、海外車両に拡大してきました。

初代ハイブリッドプリウスも1997年12月の販売は日本向け、日本のお客様に育てていただいて、その経験をフィードバックし2000年に大改良を行い、同時に欧米導入を図り、お客様に信頼していただき今の普及拡大に繋がったと確信しています。2極化ではない次世代モビリティも日本勢が、日本マーケットから発進・発信し、世界へ拡大していってくれることを熱望しています。

ジュネーブショー短観

2月の末から2週間ほどスイス・フランスと周る欧州出張に行ってまいりました。それに伴い、先週はブログの更新を休んでしまいました、すみません。
今週は、武久代表が出張後のまとめなどに追われている状況ですので、まもなく閉会するジュネーブショーについて、八重樫尚史が写真を多めにお伝えします。
なお、我々が訪れたのは3月2日、一般開催日ではなくプレスデーの二日目となります。

二極化する自動車

今回のジュネーブショーは欧州開催のモーターショーとしては、昨年の秋に開催されたパリオートサロンに続くもので、ドイツ・フランス・イタリアという欧州の自動車大国に囲まれたスイス、それもプライベートバンクが集中し世界の資産家が頻繁に訪れるジュネーブという土地を反映して、イタリアのカロッツェリアやドイツのチューナー、そして高級車メーカーが大きな存在感を見せる独特の空気を纏ったショーとなっていました。

昨年のパリショーについては2回に渡って(前編)(後編)代表が感想を述べていますが、今回のショーはジュネーブショー独特の志向と相まって、環境を意識しすぎた感のあるパリショーに対する各自動車メーカーの反省と「本音」が垣間見えるショーになっていたように思えます。そしてこのショーから僕が読み取ったのは、二極化を迎えようとする自動車業界の未来でした。

駅でのリーフ展示
駅に設けられた欧州カーオブザイヤーを受賞したリーフの特別コーナー
日産エアフロー
日産エアフロー

誤解を招くのは承知の上で書くと、僕の目には「安価・利便性・小型・キュートさ・環境」の世界と、「高級・嗜好性・大型・セクシーさ・(環境)」の世界の二つに分かれていく自動車業界の姿が読み取れました。特に欧州メーカーは露骨にこれを示す展示を行っており、環境対応を唄う小型車とともに大型の高級スポーツ車もしくはユーティリティ車を華々しく展示するブースが会場のアチラコチラに見受けられました。

BMWブース
BMWブース
アウディブース
アウディブース
フォードブース
フォードブース
フェラーリブース
フェラーリブース

穿った見方でみれば「環境対応車」の開発を「免罪符」にして、大型の高級車を紹介しているようにすら思えるほど、これはセットになっていました。気になったのは日産を除く日本メーカーでこの潮流を読み違えたのか、散漫な展示に留まっていたケースが多かったように思えます。特に大手メーカーに限定すればワーストブースがホンダ・トヨタであったことはプレスデーであったことを差し引いてもそこにいる人の数から明白でした。

日本メーカーはどちらへ向かう?

また、このジュネーブショーで目立っていたのは、近年めざましい成長を見せているヒュンダイやキアといった韓国メーカーのプレゼンスの向上です。環境対応車を複数種用意するなど、体力の向上をみせており、日本メーカーにはない目新しさから少なくない注目を集めていました。

ヒュンダイBlueOn-EV
ヒュンダイBlueOn-EV
キアoptimaハイブリッド
キアoptimaハイブリッド

また、新興国でいえばインドのタタもEVを展示し、かなり注目されようでした。

タタpixel
タタpixel

中国からはBYDが展示を行っていまいましたが、プレスの展示を見る顔がやや苦笑がちだったのは僕の気のせいではないはずです。

BYDブース
BYDブース

さきほど、僕は自動車業界の二極化の話をしました。おそらく、こうした自動車新興国の国々のメーカーはさきほど僕があげた「安価・利便性・小型・キュートさ・環境」の世界の制覇を目指すものだと思います。逆に欧州は自らの強みである「高級・嗜好性・大型・セクシーさ・(環境)」の世界を守ろうとするでしょう。

そろそろ、日本のメーカーもそれぞれがどちらに向かうのか決定しないといけない時期にさしかかっているのではないでしょうか?