アンチ・ディーゼル?

コーディア・ブログを再開し、トヨタとプリウスハイブリッド車累計800万台突破と4代目プリウス発表を取り上げ、17年前、18年前の初代プリウスハイブリッド開発の修羅場に想いを馳せていた矢先、VWスキャンダルが明るみにでました。

このVWスキャンダルは、後ほど述べる私の、将来も夢が持てるクルマをめざし、取り組んできたクリーンエンジンエンジニアとって悪夢、信じがたく、許し難い事件でした。そのため、筆の勢いが止まらず、もう自動車ムラの一員ではありませんが、個別問題で同業他社を非難、攻撃しないとの身についたルールを破ってしまいました。

この心境は今も変わりません。VWが、さらに将来のディーゼルがどうなっていくのか注目しているところです。

また、このブログ「クリーンならぬ、ダーティー・ディーゼル その1、その2」、さらに2013年8月に書いたブログ「クリーン・ディーゼルは本当にクリーン?」*1をお読みいただいた方々から多くの反響をいただきました。またTVにも引っ張りだされてしまいました。

*1:  http://www.cordia.jp/wp/?m=201308 2013年8月15日

このためか、私がガソリンハイブリッドに凝り固まった頑迷なアンチ・ディーゼル派などと言われているとの噂も聞こえています。

しかし、私自身は決してアンチ・ディーゼル派ではありません。以前のブログ「クリーン・ディーゼルは本当にクリーン?」の時は、今回のような世界自動車をリードしてきた欧州トップメーカーが、こんな悪質な詐欺事件を起こすとは夢にも思っていませんでした。

そのブログでは

・ガソリンよりも環境対応が遅れたディーゼル

・クリーン・ディーゼルはまだクリーン化の過渡期

との表現で、欧州、日本でのディーゼルとガソリン排気規制のダブルスタンダードを取り上げ、それほどクリーンではないのに欧州勢のプロパガンダに載せられた”クリーン”・ディーゼルとの表現に噛みつきました。この意味でのアンチクリーン”ディーゼルですが、アンチ・ディーゼルではありません。中型以上のトラック、大型バス、さらには産業車両、船舶などガソリンに置き換えることは困難、また用途が限定された宅配車、都市バスなど一部を除き、電気自動車への転換もさらに困難です。本当のクリーン化が急務、実態とは異なり言葉の上でクリーンを標榜することの付けが回ることの注意を喚起してきたのがこのブログの真意です。この時もアンチ・ディーゼル?とのコメントを頂きました。

今回の事件がアメリカで発覚した理由として、アメリカがいち早くディーゼルとガソリンをほぼ同一規制値レベルとしたこと、保証期間も厳しい規制であることが背景にあると報道されています。私はさらにエミッション・燃費の公式試験モード外、いわゆるオフモードでのエミッション急増が問題とし、1990年代の始めに公式モード外の急増に歯止めをかけるSFTP(Supplemental Federal Test Procedure: 追加連邦試験法)の導入が要因の一つと推測しています。(図1)

この制定では、米国連邦環境保護庁(EPA)、加州大気資源委員会(CARB)の要請で、当時のBig、さらにGMからの要請でトヨタも米国内での走行実態調査に計測装置を搭載した試験車を提供し、データー解析にも協力しました。当時トヨタのクリーンエンジン開発リーダーだった私も、米国スタッフの要請で支援し、ルールメーキング議論にも加わっていました。エンジン出力が非力な小型車には厳しい試験法ですので、これを含めて欧州基準の簡素なディーゼル後処理システムでクリアさせるのが困難で、こうした不正に走ったのではと推測しています。

1025ブログ 図

一部には、米国は特別厳しすぎる、ロスの光化学スモッグは特殊な例と解説するジャーナリスト、メディアもありますが、今回の事件が起こる前から大都市の大気環境悪化が問題となってきたことは、これまでのブログで述べたとおりです。

”Defeat Device”の不正行為と、オフモードエミッション増加の話しは別ですが、この事件が切っ掛けで結局オフモードに目を背け続けるわけにはいかなくなりました。新試験法の採用、さらに車載分析系(PEMS)による実走行エミッションテストの義務づけ、加えてオフモード試験法の追加などが議論されています。

従来システムのままで、この新試験法、オフモード試験をクリアさせることは困難になり、追加コスト増も免れません。実質的な規制強化であることは間違いありません。しかし、各国、各社とも同じ土俵でフェアに技術競争にチャレンジすることにより克服できると思います。

40年以上のクリーン&グリーン(低燃費)ガソリン開発を振り返っても、マスキー当時の触媒貴金属量は規制値がマスキーのさらに1/10にまで厳しくなった現在のシステムのほうが少なくなっていると思います。また、全てのエンジンが4バルブ、気筒別燃料噴射、マイコン制御化されましたが、自動車メーカー、部品メーカーの設計から生産、部品、材料まで血の滲むような努力を続け驚くようなコスト削減を実現し、販売価格を上げずにスタンダードシステムに発展させることができています。フェアな競争による技術進化が自動車の発展を支えてきたと、その開発競争の先頭を走ってきた一人として自負しています。確かに、ディーゼルはその燃焼原理からも、そのクリーン化はガソリンよりもハードルは高く、当初はコスト増を招いたとしても知恵の結集により克服できると信じます。

今こそ、世界のディーゼル屋が、燃焼、後処理システム部品、材料、制御、燃料技術分野との連携と競争により、クリーンガソリン・ハイブリッドと方を並べる正真正銘クリーン・ディーゼルへのチャレンジが必要です。このチャレンジには、電気アシストの活用、すなわちハイブリッド化も有望な手段と思います。もちろん、これも低コストのハードルは低くはありませんが、これまたチャレンジを期待します。

もちろん当事者である、VWはその正真正銘のクリーン・ディーゼルへの技術チェレンジをリードする義務があります。新体制の今後の取り組みとして「脱ディーゼル、電気自動車シフト」とのニュースが聞こえてきます。「脱ディーゼル」はあり得ません。VWこそ、復活のためにもクリーン・ディーゼルの開発に手を抜くことは許されないと思います。

もちろん、ガソリンハイブリッドもフェアな競争として、この新クリーンディーゼルと欧州での走り、高速燃費でもさらに高いレベルで競いあって欲しいものです。

排気浄化システムのデフィート・デバイス

VWスキャンダルのポイントは、排気浄化システムへのデフィート・デバイス(Defeat Device)の搭載です。デフィート・デバイス:「無効化装置」と訳して良いでしょう。文字通り、排気ガス浄化システムの正常な作動を無効化する装置です。今回VWがデフィート・デバイスの搭載で侵害したとされる、米国連邦大気浄化法(Clean Air Act)には、デフィート・デバイスの禁止をうたう法文が定められています。

40 CFR 86.1809-10 – Prohibition of defeat devices

http://www.gpo.gov/fdsys/granule/CFR-2014-title40-vol19/CFR-2014-title40-vol19-sec86-1809-10

自動車排気ガス規制の中身、その認可をうけるための申請手続き、試験法、試験車の要件からこのデフィート・デバイスの禁止にいたるまで、法律として定められています。また、時代に合わせた改訂も行われ、その都度、Advisory circularという改訂通知がEPAの公式ページに掲載されます。

米国向けエンジン開発の担当エンジニアが、この条文すべてを理解しながら開発作業をやっているわけではありませんが、試験法、判定基準などの基本部分は頭に入れ、また改訂条項をフォローしながら開発作業を進めています。この基本部分の一つがデフィート・デバイスの禁止で、その定義、事例には常に気を配っていました。細部の法律解釈、ループホール探しをする訳ではありません。先週のブログで述べているように、一番基本の判断基準は、規制の本来の狙いに沿った、fairnessとgood faithです。その上で、ルール変更の狙い知り、それを遵守するために最新のルールを知ることは欠かせない作業です。

その最初の条項にデフィート・デバイスの禁止を謳っています

  • No new light-duty vehicle, light-duty truck, medium-duty passenger vehicle, or complete heavy-duty vehicle shall be equipped with a defeat device.

そして、規制当局は、デフィート・デバイスの疑いのあるクルマについて、そのテストを行うか、テスト実施を要求する権限を有していることを明文化しています。

排気ガス浄化システムのデフィート・デバイス問題は、新しい話しではありません。調べた限りの一番古い事例は、1973年に遡ります。EPAは当時のBig3とトヨタが、エンジンルーム内に温度センサーを設置、それによりエンジン暖機過程で排気浄化デバイスの作動を止めるシステムをデフィートと判定したと記録されています。ただし、システムの改良は命じられましたが、このケースでは既に販売したクルマのリコールは命じられませんでした。また、トヨタがこの時、デフィート・デバイスと疑われた排気浄化システムは、今も使われているEGR(排気ガス再循環)システムで、低温時、冷間時にEGRバルブをカットするもので、寒冷地の暖機運転などで、水分を多量に含む排気ガスを再循環させることによるスロットル弁の氷結や、暖機中にまでシステムを機能させることによるドラビリ不良、また失火によるエミッション悪化を防ぐ手段であると理由とそのデータを示し、デフィート・デバイスではないとの判定をもらったと、当時EPAと交渉にあたった友人から聞いた覚えがあります。

続く1974年、これと違うデフィート・デバイス事件が発生しています。前回に似た案件のようですが、2種類の温度センサーを用い、エミッション性能に影響する制御を行ったとの事例です。この案件の当事者VWは12万ドルの罰金を払い決着しています。

http://autoweek.com/article/car-news/vw-emissions-defeat-device-isnt-first

この学習効果が働いていないのが今回のVW事件です。

1990年代にもいくつかのEPAと自動車メーカーの間で、デフィート・デバイスと判定された事例がEPAの記録として残されています。VWケースのように、判断するまでもない違法事件だったかは不明ですが、意図的に排気浄化システムの機能を停止するか弱めるデフィート・デバイスとの判定を受け、罰金を払ったケースはそれほど少なくはありません。この中に、1990年代後半の日本メーカーも含まれています。また日本でも、2011年6月、東京都環境科学研究所の調査で、最新に最新ディーゼル・トラック車に、排出ガス低減性能の「無効化機能:デフィート・デバイス」を使っていることを発見したとして、国交省に届出、改善命令がでているケースがあり、それも2011年まだ新しい事件です。

http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2011/06/20l63600.htm

先日の、東京モーターショウ開催についての自工会記者発表で、池会長は、このVWスキャンダルについて、私見と断りながらも「一企業の行為が自動車業界全体に対する信頼感を揺るがしていることに困惑し、失望している」「日本メーカーでは、そんなことはあり得ないと思っている」と述べています。ここで紹介したように、ここまで悪質なケースはなかったかもしれませんが、法規違反とされるデフィート・デバイス事件が、米国だけではなく、日本でも発生しています。また、日本のケースではなく、日本メーカーが米国でデフィート・デバイスを使ったとして、罰則を受けているケースもあることは公知の事実です。この問題への勉強不足、対岸の火事視している感度の低さには正直失望させられました。

このところ大きな品質問題の多発、その中ではそれが原因で死者がでているにも拘わらず自動車メーカーとしてのアクションが遅れてしまった問題、これも明かな違法行為であった米国での燃費詐称事件と、自動車企業のガバナンスが問われる事件が多発しています。対岸の火事では全くありません。

これまで、2回のブログで、自動車産業界として襟をただし、法規制の趣旨であるリアルの環境保全のため、fairにgood faithでbest practiceでクリーン&グリーン自動車の開発に取り組んで欲しいと申し上げたのは、日本メーカーを含む世界全体の自動車メーカーに対してのコメントです。

クリーンならぬ、ダーティ-・ディーゼル:その2

先週のブログで取り上げた、VWディーゼル車の米国での不正認定(認可)取得事件は、その後も大きくその波紋を広げています。。さすがに、この影響の広がりに経営責任は免れないとして、ヴィンターコルンCEOが辞任を表明しました。しかし、この辞任発表会見で、自分はこの中身を全く知らなかったこと、会社ぐるみではなく、ほんの数人が関与した問題と釈明しました。先週のブログで述べているように、ここまでの明かな’Defeat Device: 無効化装置を動かすソフトを仕込んであることを、内部で6年間も隠蔽し続けることは極めて困難と思います。もしできたとすると、VWのガバナンス、コンプライアンスマネージ体制とその組織に大きな欠陥があり、それを永年許してきた、企業風土、文化にまで遡る問題として、対応策を迫られるでしょう。

このような不法ソフトを仕込むことは、今のソフト技術では極めて簡単です。それを使うことを許可し続けてきた、企業としてのコンプライアンスマネージが厳しく問われるべきと思います。欧州でもこのソフトを使っていたことは明か、欧州の’Defeat Device’判断基準は、アメリカに比べ緩いので、欧州は関係ないと言い募るかと危惧しましたが、欧州であろうが、これは明らかに不正ソフト、VWもさすがにごり押しはやれず、欧州車含め対象1,100万台の大規模リコールを余儀なくされました。

この問題は、あくまで悪質な法律違反の事件、米国連邦議会での公聴会が開催されますが、この公聴会にトップ役員として誰が出席するかに注目しています。企業のガバナンスまで問うとすると、辞任したヴィンターコルンCEO、ピエヒ会長を引っ張りださないと会社としてのガバナンス体制、コンプライアンスマネージ体制までの全容は解明できないと思います。ほんの数人の担当者の責任としてのトカゲのしっぽ切りでの決着は許されないでしょう。

この問題の発端となった、欧米の環境NPO ICCTからの委託によるWest Virginia大からのレポートが発行されたのは、昨年の5月です。そこから、この結果がEPA、CARBに伝えられ、(多分EPAも独自の追試をしたのでしょうが)Defeat Device使用の疑いでその後の処置(リコール)についてVWの交渉に入っていたようです。この段階まで、この問題が会社トップに入っていないことは考えにくいと思います。ヴィンターコルンCEOの今回の釈明会見での、「私は最近まで知らなかった」は全く通用する話しではありません。VWからの対応策が、不十分、かつ曖昧、レスポンスが遅れたため、今回のEPAの発表となったことは間違いないと思います。

しかし、この問題を時々話題となるカタログ燃費と「ユーザー実走行平均燃費」いわゆるリアルワールドとのギャップ問題を混同してはなりません。今回のケースは、米国Certification、欧州Homologation、日本型式認定と呼ばれる、法律に定められている、法規制に適合していることを証明し、確認試験をおこなう認可手続きのルールを破った不法行為、法律違反です。公式の定められた試験法、試験走行モード、審査基準で算定する燃費とリアルワールド燃費のユーザーの実感にギャップがあるのは事実です。

このブログで何度も、このギャップ問題をとりあげていますが、長ったらしく「ユーザー実走行平均燃費」との表現を使うのも、認可のために定められた一定基準の試験法、試験モードで全てのユーザーの、それも寒冷地の冬から酷暑の夏、山間地のユーザー、高速道路使用の多いユーザー、ショートトリップしかしないユーザー全ての実燃費をカバーする試験法は不可能です。その大きくばらつくユーザー燃費の感覚的平均を求めることも、発売前の認可段階では困難だからです。カタログ燃費をユーザーの実感に近づける努力は進められていますが、それにも限界があることはご理解していただけるのではないでしょうか。まだ燃費ギャップは、ユーザーの給油量として把握できますが、排気エミッションのギャップはユーザーには把握できませんし、また場合によっては燃費の比ではなくギャップ量が拡大すします。そのため、公式モード外でのエミッション急増を抑制する要求は特に厳しい排気規制を導入してきた米国で強く、また自動車メーカの認可取得の申請には今回のような不法行為はしていないことを前提に試験をし認可を与えます。

それでも、各国、各地域の公式試験法でも、どんな走り方をしても、基準として決めた規制値を満たすことまでは求めていません。クルマの排気ガス性能は、新車の時だけ守れば良い話しではありません。そのクルマが使われる一生の中で、クリーン性能を保証することが求められています。その追跡調査であるin-use emission test(使用過程車のエミッションテスト)も行われます。このin-use性能を保証するために、この公式試験法での走行モードを越えた条件での触媒高温劣化を防ぐプロテクション燃料増量や、世界にまだまだ存在する粗悪燃料使用時などでのノッキング、プレイグニッションによるエンジン破損を防ぐための燃料増量は認められています。世界で一番厳しい、in-useエミッション保証の規定はカリフォルニア州の定めたLEVII規制で、15年-15万マイル(24万キロ)保証です。個人ユーザーならほぼくるまの寿命までクリーン度保証を求める極めて厳しい保証です。このカリフォルニア州の長期in-use保証も日本メーカーが率先して取り組み、その努力によってやれることが確認されbest practiceとして定められました。このように、米国ではいち早く、リアルワールド(実走行)での環境保全重視に力点を置くことになりました。ディーゼル車には詳しくありませんが、システム保護のための何らかのプロテクション制御とディーゼル固有のパティキュレート、NOxをそれぞれを排気にそのまま流さず一度トラップして、あるタイミングでトラップした排気エミッション成分をバッチ浄化モードで処理する方法は公式モード外で認められています。

この自動車環境性能のリアルワールドの話はCordiaブログで過去に取り上げていますので、ご興味のあるかたはご一読願います。

『リアルワールド』と自動車の環境性能(2011年2月24日)

http://www.cordia.jp/wp/?m=201102

今回の事件は、前に述べたようにICCTがディーゼル車のリアルワールドでの実態調査研究による異常値の計測がきっかけでした。ICCTは欧州と米国を二大拠点とする、クリーン自動車の普及啓蒙活動、さらにクリーン自動車のリアルの実力に目を光らせているNPOです。残念ながら、日本にはこのような第三者評価を行う組織はありません。

このICCTのBoard Chairpersonは、このクリーン自動車に携わってきた人間なら知らない人はいない元CARB議長 Dr. Alan Lloydです。Board Directorにも元EPA自動車局長 Ms. Margo Oge、Participant Councilに現在のCARB議長Ms. Mary Nichols、 元CARB長官 Ms. Catherine Witherspoon、永らくCARB副長官を務めたMr. Tomas Cacketteなど、現役時代には何度もお目にかかり、クリーンエンジンの開発状況、ハイブリッドの説明などをさせていただいた方々です。まこの方々が、米国、カリフォルニア州の自動車環境規制制定をリードしてこられました。

そのICCTが以前から注目していたのが、リアルワールドでのディーゼル車エミッションの実態です。欧州では、米国、日本に比べ遅れていた(遅らせていた?)ディーゼル車の排気規制強化を2007年からEuro IV、2010年からEuro V、さらに2014年からEuro VIへと強化しました。このEuro IVからVへの規制強化でのエミッション削減効果を実路での効果を検証していたのがICCTのメンバーです。私も、リアルワールドの重要性を訴えていましたので、このICCTの活動をフォローしていました。昨年11月にベルリンのICCTのオフィスを訪ね、燃費とエミッションのリアルワールドと公式試験値のギャップ問題について議論をしてきました。下のグラフはその時に貰った資料の中にあったグラフです。この時は、今回の米国でのVW Defeat Device事件までは明るみにはでていませんでしたが、この欧州での実態調査とWest Virginia大調査の時期は一致しており、ICCTでは米国、欧州ともにこの実態は掴んでいたと思います。

環境保全に熱心で気持ちの良い、優秀なスタッフ達で、日本の状況、中国への進出など様々な話しをしました。彼らは不正なDefeat Deviceを使ったことはまでは明言しませんでしたが、今回の事件に発展しかねない情報はすでに持っていたと思います。かれらとの議論は主に、リアルの実燃費ギャップの議論でしたが、このディーゼルNOx問題も立て続けの強制強化をおこなってきたのに、リアルが改善されていない現状を説明してくれました。図1は、その時説明してくれたデータの代表例、欧州での排ガス規制強化の経緯と、スイス/チューリッヒで実施した路側帯でのNOxエミッション計測値をガソリン車、ディーゼル車で比較したものです。その違いは明かです。

スライド1

図2は、そのさまざまなリアルワールド計測値と規制値の比較をしたデータです。一目瞭然です、規制を強化したにも拘わらず、リアルがほとんど良くなっていないとの実態がつかまれています。この時の議論で示してくれたレポートを読んでも、メーカー、車種は特定されていないものの、高い技術力を売に簡素なシステムで厳しい規制に対応できたとするVWの今回の話しは裏付けられると思います。

スライド2

この夜は、ICCTの若いリサ-チャー3人と、ベルリンの彼らが選んでくれた庶民的なレストランで、ワインとオーストリアの肉料理を堪能し、将来のリアルワールドクリーン自動車の話題で、エキサイティング、楽しい時間を過ごしました。

ドイツ誌”Auto Bild”がこのICCT調査を取り上げてVW以外のエミッション対応にも問題の声を上げていますが、この不正が他へと拡散していかないことを願っています。日本勢有利との記事もありますが、それどころかまだまだ主役の座を続けなければいけない内燃エンジン車全体のバッシングに繋がってくことを一番心配しています。

日本の一部報道、またモータージャーナリストのコメントに、今回の事件に関連し、不正はいけないけれど、影響はそれほど多くない、人が死んでいるわけではないとの論評を読みました。これは、理解不足、ミスリードです。もちろん、ディーゼル排気だけの問題ではありませんが、大気中の放出されるNOx、PMが影響すると見られる死者数は汚染度の酷い中国では、年間160万人に達するとの調査レポートが出されています。(1)この数字は世界保健機関(WHO)の公式数字、中国の年間自動車事故死者数20万人を遙かに上回る数字です。 もちろん、中国で今回のVW車はまだほんの僅かしか売られていませんので、この問題と直接結びつく話しではありませんが、企業スタンスとして問われる問題でしょう。

さらに先々週には、ドイツMax Plank Instituteのレポートとして、このままの状態が続くと、大気汚染による死者数は今の2倍660万人に上るとのレポートがだされています。このところ大きな問題となっている、春先のロンドン、パリの大気汚染警報の発令も、このディーゼル車のエミッションも一因と言われ、都市への乗り入れ禁止など脱内燃自動車の動きが加速しています。

  • バークレー大地球研究所の研究で、中国での大気汚染は年間160万人の死亡者を生み出すことを計算 (UC-Berkely Earth: Journal PLOS ONE)

August 14, 2015 Green Car Congress

http://www.greencarcongress.com/2015/08/20150814-be.html

  • Air pollution could claim 6.6 million lives per year by 2050, double current rate; small domestic fires and ag the worst offenders
  • 大気汚染は2050年までに660万人の命を奪う可能性、現在の2倍の数値(ドイツMax Plank Institute report)

Sep 17, 2015 Green Car Congress

http://www.greencarcongress.com/2015/09/20150917-mpi.html

何度も申し上げますが、VWの今回の件は、あってはならない事件です。どこもこんなことをやっているとは思わないでいただきたいと願っています。しかし、日本でも数年前に大型トラックディーゼルで’Defeat Device’事件が発生しています。日本勢すべてが公明正大とは思いません。そんな背景があり、先週のブログで襟をただして欲しいと書かせてもらいました。また透明性と書いたのも、日本にもICCTのようなNPOの活動余地ができるようなオープンな活動が必要で、こうした第三者機関の公正な情報発信によるユーザへの理解活動も欠かせないと思い筆をとりました。

自動車メーカーも、環境規制など法規制対応の基本、good faith、 fairness、best practiceが原点と他山の石として振り返ってほしいからです。企業風土、文化を守るのは大変です、一度踏み外すと転落はあっと言う間です。全ての自動車メーカー経営者、エンジニアがこの部分では襟を正し、口幅ったいですがこれを守り抜いてきたつもりのOBエンジニアの提言に耳を傾けて欲しいと願います。

公明正大、透明に、米国で法規作りとCertification作成の前提となっている思想のベースは、good faith 、fairness、その規制の趣旨(リアルの大気改善、低カーボン)に対しbest practiceが求められていることを強調しておきます。このfairな土俵での競争にもまれることにより、日本自動車産業は発展をとげることができたと信じています。

今回は私の人生にとっても大きな事件、自動車文化発祥地、欧州でそれもこの自動車文化を牽引してきた、我々にとても尊敬の念を抱いていたVWの不祥事です。厳しい糾弾になってしまいました。

今日のTBSの”ひるおび”でも、私のコメントがとりあげられるかも知れません。あってはならない事件にショックを受けたこうした経験、意見をもっているエンジニアOBのコメントとお受け取りいただければ幸いです。

そんなショックの大きさから長文のブログになってしまったことにもご容赦願います。

これまでも、Cordiaブログに様々なコメントを頂いていますが、基本的に個別のご回答、コメントは差し上げていません。今回も複数のお問い合わせ、コメントをいただきましたが、今回も返事を差し上げませんでした。この場をお借りしてお詫び申し上げます。

パリでの大気汚染警報発令と自動車通行規制

中国からのPM2.5越境汚染の季節到来
これからが本格的は黄砂の季節、この黄砂に混じり飛んでくる中国のPM2.5が今日のテレビでも話題になっていました。PM2.5を代表とする大気汚染により、北京、天津、上海など中国の大都市部は、過去の日本も経験したことのないようなひどい状況が続いています。健康被害も広がっているようで、産業発展を優先させてきた中国政府もさすがに深刻な問題として対策を急いでいます。大気汚染では、過去のロンドンスモッグ、ロス光化学スモッグ、日本の四日市公害など、欧米の大気汚染の歴史から学ばず、今を招いてしまったことが残念です。私も何度か、中央政府や北京市の環境担当者と話をしましたが、クリーン燃料の導入とセットでの規制強化の話などには聞く耳を持たなかった印象です。

しかし、中国の大気汚染など、発展途上国の大気汚染が話題になっていますが、欧米、日本の大気汚染問題がすっかり解決したわけではありません。

パリの大気汚染警報発令、主犯はPM2.5、罰金ありの自動車通行規制を実施
最近パリ首都圏(イルドフランス地域圏)では、好天で風が弱い状況が続いたため、5日連続で警報発令の大気汚染レベルとなり、自動車通行規制が実施されました。3月17日、フランスのフィガロ誌によると、大気中のPM2.5が環境基準を大きく超えたための措置で、中国都市部よりはましですが、一時は1立方メートルあたり80マイクログラム以上の警報レベルに達し、連日50マイクログラムの注意報レベルを上回っていると伝えています。
この対策として、パリとその周辺22町村を対象にした自動車通行規制を3月17日から導入することを決め、奇数日にはナンバープレート末尾の数字が奇数の車両(二輪車含む)のみが通行を認められ、偶数日は末尾偶数の車両のみの走行が可能の自動車通行規制が実施されました。この間、トラックの通行は禁止されます。この規制は1997年に1日だけ実施されたことがあったようですが、連続して実施されるのは今回が初めてです。緊急車両やタクシーなどは規制対象外で、電気自動車やハイブリッド車はクリーン自動車の扱いで適応除外となります。
違反者には22ユーロの罰金(即時払いの場合、3日以内に支払われなかった場合は35ユーロ)が課され、違反状態にある限り日に何度でも課せられる規定になっています。この取り締まりのため、700人の警官が動員され、60ヶ所で検査を行う予定と伝えられています。公共交通機関(メトロ、郊外鉄道RER,ローカル線、バス)の利用を無料としたためか、17日は交通量が通常の25%減となり、混乱は避けられたとのことです。18日にはこの交通規制は解除されています。

欧州大都市のPM2.5悪化はディーゼル優遇政策のつけ?
このような通行規制にまで至った例は多くはありませんが、欧州の大都市ではディーゼル車規制強化と燃料の低硫黄化が日本や米国加州に比べ遅れ、さらにディーゼル燃料への優遇税制などでディーゼル車比率が増加したこともあり(フランス車のディーゼル比率61.3%、うちクリーンディーゼル(Euro4以降)は25%)、PM2.5による大気汚染はまだまだ問題となるレベルです。政治のパワーバランスで規制が決まっていくのは何も欧州だけではありませんが、欧州では低カーボン政策と欧州ディーゼル技術をサポートするために、ディーゼル規制がガソリン規制より緩いダブルスタンダードが永らくまかり通ってきたことも今の大気汚染問題の背景にあると思います。今年から実施されるEURO6規制からPM規制値はガソリン並みとなりますが、まだまだ2005年までのPMフィルターや触媒が装着されていない古いクルマが多くその改善は容易ではありません。19日のルモンド誌によるとフランスでは、この自動車通行規制が実施されたことを受けて、連立与党に加わる環境政党EELV(欧州エコロジー・緑の党)は、抜本的な対策としてガソリンに比べ課税水準が低いディーゼル燃料への課税強化を要求したとのことです。

直噴ガソリン車のPMと実走行のエミッションも問題
PM2.5では、ガソリン車も問題がないわけではありません。昨年12月に発表された日本の国立環境研の調査によると、低燃費技術として採用が増加している直噴ガソリン車から排出されるPM2.5がこれまでのポート噴射エンジン車の数倍となり、さらに欧州メーカーの過給直噴ガソリン車ではそれを上回る排出とのレポートが発表されました。この調査は欧州モードや米国モードに比べると比較的走行時のエンジン負荷が低い、日本の燃費・エミッション評価モードのJC08での結果ですので、大きなエンジン負荷を使う連続登坂、高速登坂、追い越しなど、実走行、いわゆるオフモードではさらに排出量が増えることが懸念されます。欧州でもこの直噴ガソリン車のPM排出増が問題となり、直噴ガソリン車にはディーゼルEURO6と同じPM2.5規制が適用されます。燃費ではカタログ燃費と実走行平均燃費のギャップが問題となっていますが、大気汚染物質、エミッションでもこの公式試験のエミッションと実走行でのエミッションのギャップは大きな問題です。エミッションは燃費以上にモード外での排出感度が高いため、米国ではこのギャップを問題にしてオフモード試験なる新たな試験モードが設定された経緯があります。当然ながら、環境改善には実走行、すなわちリアルワールドでの排出削減が重要です。日本では、中国からのPM2.5越境汚染が問題にされていますが、ベースとなる日本の自動車、工場、さらには農機や船舶から排出されるPM2.5もリアルワールドでもっと低減する必要があります。
アメリカからの最近のニュースとして、西海岸のロングビーチ港に停泊する船に外部給電を義務づけ、停泊中のディーゼル発電をやめることにより、周辺の大気環境が大きく改善したと報道されていました。自動車以外でもリアルワールドで大気汚染物質削減の取り組みが重要、その対策により効果を上げた例です。

1990年代の初めのカリフォルニア州(加州)のゼロエミッション車(ZEV)&低エミッション車(Low Emission Vehicle: LEV)規制議論の時に、規制スタッフ達と新車規制強化だけではなく古いクルマのスクラップ促進やレジャーボート、大型船舶、アウトドアバギーなどのクリーン規制も併せて実施すべきと議論をしたことを思い出します。また、このタイミングで加州はガソリン中の硫黄分を大きく減らすクリーン燃料導入を決めました。われわれ、自動車メーカー側もこれをサポートし、自動車メーカーが団結して燃料中の硫黄分削減を規制当局、石油メーカーに働きかけるように欧州自動車メーカー各社を回り多くの賛同をえたのもこの時代の話です。

先進国では、大気汚染問題は過ぎ去った問題、気候変動対策、すなわち低燃費が重要とのイメージがありましたが、このパリの大気汚染警報発令のニュースは大気汚染が現在の問題であることを我々に突きつけました。

低燃費と低エミッションの実走行、リアルワールドでの両立を目指そう
低燃費と低エミッションは、こちらをとればこちらが立たずのトレードオフ関係にあります。低燃費のための直噴エンジンがPM2.5を増やしてしまうように、低燃費技術によるエミッション悪化を見極めその両立点を高める技術開発が必要です。それも実走行、リアルワールドでの低燃費と低エミッションが求められています。これもまた、日本勢が経験してきた道、間違ってもオフモードがダーティーと言われないようにリアルワールドセンスで取り組んで欲しいものです。

クリーン・ディーゼルは本当にクリーン?

欧州でハイブリッドについての講演や、次世代自動車についてのパネル討議などに出席した際、同席者の方よりハイブリッドの競争相手としてディーゼルについてどうだという話題を振られることが多くありました。一時期は電気自動車(EV)ブームによってEVがその立場となっていましたが、そのブームに翳りが見え始めた昨今、またぞろディーゼルをハイブリッドの対抗馬として取り上げる動きが出ているようにも思えます。

特に欧州ではEU連合として地球温暖化緩和に非常に積極的な反面で、自動車の低燃費・CO2削減の方策として短期的にはディーゼルをコアとし、中長期にはEV・水素燃料電池自動車(FCEV)へのシフトをシナリオとしていた節があります。その為か当初のコスト増を嫌いハイブリッドには消極的だった印象です。ここで短期的な方策として脚光を浴びたのがいわゆるクリーン・ディーゼルです。

ガソリンより環境対応が遅れたディーゼル

排出ガスのクリーン化について、ガソリン車は排気ガス中の三大汚染成分、未燃炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物を同時にほぼ100%浄化させる三元触媒を使い、排気中の残存酸素量をセンサーで検出し、エンジンに供給する燃料を100%浄化できる極めて狭い領域にフィードバック制御する燃料噴射電子制御との組み合わせで一気にクリーン化を果たし、いまでは世界のガソリン車のほぼ100%がこのクリーン技術を採用しています。

一方、ディーゼルはその燃焼方式の違いからこの三元触媒は使えず、永らく触媒のような後処理システムを必要としない規制レベルに留められていました。また、ガソリン車に比べてもディーゼル車の後処理技術が難しくコスト増を招くこともありました。しかし、私の私見では、これは単に技術的課題であっただけではなく、日本だけではなく欧州でも、ディーゼルエンジン技術者に「後付デバイスは使わずに燃焼技術でこれを解決したい」との変な拘りがあったようにも感じます。

加えてもう一つ、ディーゼル車の後処理デバイス採用を遅らせた因子が、ガソリンに比べ多量に含まれるディーゼル燃料中の硫黄成分(S)です。欧米とも石油メジャーの力が強く、製油所での硫黄成分を除去する脱硫装置導入による設備投資を嫌い、低硫黄(S)燃料の導入が遅れたことも一因です。

ガソリン車の排気クリーン化では、クルマの排気浄化システムの進化とともに、燃料やオイルから触媒や酸素センサーを劣化させる成分、当初は鉛、続いてリン、硫黄(S)を除去していくクリーン燃料・クリーンオイルの導入とセットで効果を上げていきました。以前のブログでも紹介しましたが、リアル・ワールドのクリーン車普及のため、発展途上国を巡り歩き無鉛ガソリン導入を訴えて回ったGMのエンジニアに我々も触発され、当時ガソリン中のSが多かった欧州ではそれによる触媒や酸素センサーの劣化を防ぐために、私自身も欧州環境規制スタッフや自動車エンジニアを訪ね、ガソリンの低S化を訴え同時にディーゼル油の低S化の議論を進めました。

この燃料中の低S化が進展したことと、都市の環境悪化の深刻化により、欧州でもディーゼル車の規制強化が急ピッチで進められ、ガソリン車同様の後処理システム搭載され今に至っています。今ではこの後処理システム導入前にくらべると格段にクリーンなレベルを実現しており、ガソリン車なみと言っても良いレベルを達成しています。

クリーン・ディーゼルはまだクリーン化の過渡期

しかし、それでもガソリン車なみのクリーン度、さらにPM2.5ともかかわるPMでは通常ガソリン車がほぼゼロと言えるレベルに対し、ディーゼル車はNOx強化やPM規制強化など、この先もガソリン車並みレベルへの規制強化が進められています。図に日米欧のディーゼル乗用車のNOxとPM規制値推移を示します。

図

排出ガスについても国ごとに試験法が違いますので、この数値の比較だけでクリーン度の比較はできませんが、欧州ディーゼル乗用車規制が1999年から急ピッチで厳しくなっていることは読み取れます。同じ日本の規制値でガソリン車とディーゼル車の規制レベルを比較しても、図に示すようにNOxでまだ大きな差がつけられており、現在主流になってきている現在の四つ星平成17年基準75%削減車と比較するとまだまだとも言えるレベルです。

私は決してアンチ・ディーゼルではありません。大型・中型トラック、大型バス、さらに産業車両や船舶、非電化区間の鉄道車両のような大パワーエンジンが必要な用途では、ディーゼルエンジンが不可欠、このすべてをクリーンだからと言ってガソリンに、また電気に置き換えることは非現実的であることは言うまでもありません。NOx、PMの削減、それも実走行、さらに走行距離、使用期間が長い営業用のクルマのライフサイクルでの低減を進めながらディーゼルを活用していくことが必要です。

欧州でのハイブリッド対クリーン・ディーゼル議論では、私は「欧州CO2削減の切り札がディーゼルと言うなら、100%ディーゼルへの転換がやれるのか?」と反論をすることにしていました。「欧州の製油所で余ったガソリンをアメリカに輸出して、それで100%ディーゼルとは言うのはナシですよ」と念を押すコメント付きです。アメリカのシェールオイルでは、揮発性が高いガソリン成分の割合が多いようですが、このように原油成分によって生成比率は変わりますが、ナフサ、ガソリン、軽油、ケロシン(灯油成分)、ジェット燃料、重油、残りのアスファルトなど流出温度により様々な製品が作り出されます。

アメリカでは、ガソリン需要が多く製油所で水素を添加するなど、より多くのガソリン成分を製造するように製油所のプロセスを変更しています。しかし、欧州の製油所で少し効率を落としたとしても軽油比率を高めることはガソリン比率を高めるようには簡単ではありません。ガソリン・軽油を良いバランスで製造することが、経済的にもエネルギー効率的にも、さらに製造過程のCO2を減らすためにも望ましいと言われています。この良いバランスで、全体CO2を下げながら賢く使い分けようというのが私の持論です。

ディーゼルとハイブリッドは対立軸にはならない

しかしはっきり言うと、それほどクリーンでもないのに、クリーン・ディーゼルを標榜する欧州勢に載せられ、日本勢ならまだしも、高価な欧州上級車にノーマル・ハイブリッド以上の高額な補助金を出すことには賛成できません。日本には向いているとは思いませんが、個人的には大型SUV、大型ピックアップトラックにはディーゼルが適しており、無理やり大排気量のガソリンがぶ飲みのV8やV10エンジンを載せるよりもディーゼルは魅力的だと思いますが、このような趣味のクルマはクリーン・インセンティブの対象外で良いでしょう。

さらに、日本の場合、産業政策からも軽油の税負担はガソリンに比べ低く、この面のインセンティブもありますので、これ以外にクリーン・ディーゼルを謳うクルマへのインセンティブはアンフェアというのが私の正直な意見です。

ハイブリッドはあくまでも低燃費・効率向上の手段です。宅配車などで、ディーゼルハイブリッドトラックが増えているように、ディーゼルのハイブリッド車も増加しています。欧州勢もCO2規制強化対応として、ディーゼルのエコラン、回生などハイブリッドとは呼びたくないようですが、間違いなくハイブリッド化を進めてきています。しかし、過給、高圧コモンレール噴射、電子制御、ガソリン車以上に重装備が必要な後処理システムとコスト増に頭を痛めているようで、電池容量の大きなフルハイブリッド化にはなかなか踏み込めないことも理解できます。

石油輸入量の削減、排出CO2削減の観点からも、石油資源の賢い使い分けがこれからも必要であり、ディーゼルの進化も不可欠、もちろんさらなる排気のクリーン化とハイブリッド技術の応用が広まっていくと思いますが、コスト増をどのように吸収し、低燃費、低CO2とクルマの商品魅力を競い合っていくことを期待します。

私は国粋主義者ではありませんが、報道などで報じられるほど欧州ディーゼル技術が日本を圧倒しているとは思ってはいません。クリーン・ディーゼルに欠かせない高圧コモンレール噴射法式も日本スタートの技術、後処理システムも日本勢がリードしてきた分野です。この高機能化を進めながらのコスト低減活動も日本の得意分野です。今後、欧州ディーゼルを上回る正真正銘の日本発クリーン・ディーゼル出現を楽しみにしています。小型クラスでは、ガソリンハイブリッドをギャフンと言わせるレベルへチャレンジしてみてはどうでしょうか?

クリーンディーゼルとプリウス「ガラカー」?

またかの『ガラパゴス論』

私は新聞、雑誌、インターネットで「プリウス」との記事、特に批判めいた記事を見つけるとじっくりと読み込むことにしています。トヨタのDNAの一つとして、大先輩から叩き込まれたのが、良いニュースはあとでいいから、悪いニュース、心配、批判に目を向けからの反応です。

最近では日経ビジネスの最新号の時事深層欄に“プリウスは『ガラカー』か?”との記事を見かけました。今年3月7日の日経新聞にも「ハイブリッドに死角、車もガラパゴス化の懸念」という記事が掲載され、このブログでも取り上げたことがあります。同じ記者の執筆された記事かどうはわかりませんが、日経の方々はこのテーマがお好きなような印象です。

記事の中身をみると、エコカー補助金の後押しで日本のハイブリッド車特にプリウスと弟分のアクアが大幅に販売台数をのばし、新車販売に占めるハイブリッド車の台数が20%を超えたことを取り上げ、昨年ハイブリッド車が1万台も売れなかった中国市場、および以前からなんども言われてきた欧州ディーゼルとの対比で、日本のハイブリッド「ガラカー」論を展開している記事です。初代プリウス発売以来、何度も繰り返し蒸し返されている話題で、またかといった印象で、いまさらこの記事に直接に反論するつもりはありません。もっとも、日本の小型自動車用ディーゼル屋さんがもっと頑張らなければいけないことは確かですし、欧州勢にかまされていることはエンジン屋の端くれとして残念なことです。

ただし、ハイブリッドはあくまでも内燃エンジン車の燃費効率を高める手段であり、組み合わせるエンジンはガソリンでもディーゼルでも問いません。ハイブリッド機能のどこまで使うかは別として、もっと低カーボンが求められるか、こちらのほうが心配ですが燃料価格がさらに高騰するとガソリン、ディーゼル問わず、ハイブリッド化が進むものと考えています。

このハイブリッドメニューの中には、外部電力充電を使い、この外部電気エネルギーを走行に使いその分石油燃料消費を減らすプラグインハイブリッドも含まれ、ガソリン、ディーゼル問わず、ハイブリッドの有効な使い方です。

欧州で「独自進化」するディーゼル

10年ほどまえにも、欧州でハイブリッドの講演やメディア・インタビューでは、たびたびディーゼルが本命で、システムが大規模で販価アップが大きいガソリンハイブリッドはニッチに留まるとの議論をふっかけられました。その時の答えは上述の説明と「世界中でガソリンエンジンは廃止して全部ディーゼルにしてその燃料を供給できると言うならこの議論の意味があるが、そうでないのであれば欧州だけのエゴだ」と言っておきました。

効率と経済性を持って原油から液体燃料を精製しようとすると、原油成分によっても違ってきますが、ある比率のガソリンとディーゼル油が同時に生産されることになります。

アメリカでは、小型自動車ではほとんどがガソリン車ですので、精製効率(Well to Tank)の効率を落としながらもガソリン比率を高めています。欧州では逆で、今はどうかわかりませんが、足りなくなったディーゼル油を輸入し、余っているガソリンを輸出しているとの話を聞いたこともあります。

さらに、車両重量が重く、大出力とトルクが必要な大型トラック、大型バス、さらには建設機械などの大型産業機械はもちろんディーゼルの独壇場です。シェールガスブームに沸くアメリカでは大型車両への天然ガスエンジン適用の動きもありますが、基本はディーゼル、さらに船舶用エンジンでは小型船外機エンジンを除くとこれもほぼ100%ディーゼルエンジンの世界です。このように、世界全体としては、ガソリン、ディーゼルを用途によって使い分けているのが実情です。

日本では、もう少しディーゼル油比率を高めた方が精製効率、経済性が有利との話がありますが、これも将来の石油需給シナリオの中で考えるべきで、ほんの一部の小型自動車のディーゼルシフトではCO2削減効果も微々たるものです。ですから、ディーゼル対ガソリンハイブリッド、どちらが本命などの議論はあまり意味がありません。

確かに欧州、特にフランスではこのところ小型自動車のディーゼル比率が急激に高まっており全体の60%、今年年初来の新車販売に占める割合は83.5%に達したとの報道もあります。この流れは、欧州の自動車CO2規制の影響によるものと見え、欧州自動車メーカー各社が速効性のあるCO2削減手段として、小型ダウンサイジングとディーゼル比率アップを選んだとも言えると思います。

欧州環境庁は今月暫定統計値として、昨年販売登録された新車の平均CO2排出量は135.7g/kmで、前年に比べ4.6g(3.3%)減少したと発表しました。欧州では、新車のCO2排出規制強化として、2015年130g/km、2020年95g/kmがすでに決定済み、ガソリンでもディーゼルでも、従来技術の延長では乗り切れないことは明かで、ハイブリッド化、プラグイン化、電動化合わせて大幅なCO2削減を進めていくことが求められています。

ディーゼルとガソリンの環境特性の違い

ここで、ガソリンエンジン車とディーゼルエンジン車での燃費とCO2性能を比べるときの留意点についても少し述べたいと思います。ディーゼルエンジン用燃料の軽油は、比重がガソリンより少し重く、また発熱量も少し多いので、同じ1リッターでも発生する熱量が多くそれだけでも体積当たりの燃費は良くなります。しかし、その燃費値が良くなった分だけCO2排出量が減る訳ではありません。ご存じのように、石油燃料はカーボンCと水素Hが合成された炭化水素燃料です、ガソリンと軽油では、含まれるCとHの比率がことなり、軽油がガソリンに比べすこしCの比率が多い燃料です。このため、同じ重量の燃料を燃やする、軽油を燃やした時のほうがCO2の排出量が多くなってしまします。

もちろん、燃料代は単位体積あたりですから、日本では燃料のリッター単価がやすく、比重の重い軽油を用いるディーゼルエンジン車は実走行時の効率が高いだけではなく、比重分も消費体積量が少なくなり、燃料代の観点からは有利になります。しかし、CO2排出量に関して言うと、リッター燃費の差ほど効果は持ちません。

ガソリンエンジン車では1980年代にはほぼ全ての車が触媒を採用し厳しくなる排気規制を乗り切ったのに対し、ディーゼルエンジン車排気のクリーン化はディーゼルの燃焼特性や燃料の成分の違い、さらにこれらも影響してガソリンエンジンのような触媒など後処理システムを有効に使えませんでした。

1990年代に入り、後処理システムの性能を劣化させる燃料中の硫黄分の除去などが進められいわゆるクリーンディーゼルと呼ばれるものが登場したものの、永らく微粒粒子成分(パティキュレート)の規制をガソリンエンジンのレベルから緩めるダブルスタンダードが採用されてきました。

これも、2014年には欧州でも新たなディーゼル規制ユーロ6が導入され、ほぼガソリン、ディーゼル同じレベルのクリーン度が要求されるようになります。これに対応できてからが、ガソリン・ディーゼルそしてハイブリッドの本当の勝負の時で。欧州基準であれば、2020年総平均CO2排出量95g/kmを2020年よりも早く達成するように、経済性、燃費性能、CO2排出性能を競いながら技術を進化させて欲しいものです。

ハイブリッド、プラグインの拡大がすすめば、この早期達成も十分可能、またCO2削減は2020年が打ち止めではありませんので、この先の次世代自動車を視野にいれると、ハイブリッド「ガラカー」などとはとても言える状況にはありません。

様々な技術を組み合わせて新たな自動車を

余談ですが、私の大学時代はボイラー燃焼も内燃エンジンを含む、燃焼全般の研究室に所属し、卒業論文は石炭ボイラーの燃焼というよりも燃焼したあとの残骸をボイラーに滓をのこさず融かして排出させる研究でした。このときから将来は自動車会社でエンジン開発が希望し、大学院に入った時に担当の先生に泣きついてエンジン燃焼のテーマに変更してもらった記憶があります。このエンジン燃焼のテーマが、ディーゼルの低温始動時の燃焼でした。

トヨタに入ってからは、ディーゼルエンジンの担当になったことはありませんが、クリーンエンジンの開発リーダーをやっていた92~94年頃には欧州自動車メーカーを回り、ガソリンエンジン用の触媒の活性低下をふせぐクリーンガソリン成分の採用や、ディーゼル用軽油から後処理触媒の活性低下をもたらす硫黄成分の除去などの働き掛けを行いましたので、いまのディーゼルの進化にも影ながら寄与してきたと自負しています。 

2週間ほどまえのブログで取り上げた、豊田佐吉翁が懸賞をだした電池まではいかなくとも、今のリチウム電池の一桁エネルギー量の多い電池が見いだされない限り、また今の3分の1以下のコストが実現できた上で、低CO2/エネルギー効率の高い水素製造、充填インフラ事業採算性がとれる水素燃料電池自動車の実用化に見通しがつけられない限り、重量を増やさず、余分なスペースをつぶさない範囲で電池を賢くつかい、ハイブリッド、プラグインハイブリッドを使って2020年以降もCO2 95g/kmからさらなる低減に取り組んでいくことが求められます。ディーゼルエンジンもガソリンエンジンもさらに高効率化が進むと、そのハイブリッド車の効率はさらに進化します。

もちろん、エコ性能だけではなく、走りの性能、自分が走りをあやつるトラクション性能、操舵性能、音、乗り心地といった感性性能、当然ながらぶつけない、ぶつけられない安全性能も進化した次世代ハイブリッド車へのチャレンジを期待します。進化へ努力を怠れば、もちろん、あっという間にそのハイブリッドシステムは「ガラハイ」になってしまうことを銘記すべきでしょう。