クリーンならぬ、ダーティ-・ディーゼル:VWディーゼル、米国で大気浄化法違反

昨日、長年の自動車エンジン屋にとって、驚愕し、ガッカリし、さらに怒り心頭のニュースが飛び込んできました。OBとして同業他社の直接の批判は控えてきましたが、今回はそれを破り、まじめにやってきた多くの自動車メーカー、エンジン屋のために厳しく糾弾していきたいと思います。手当たり次第にニュースを拾い読みしてみましたが、東芝の比ではなく、企業姿勢、風土そのものが問われる悪質極まりない環境規制違反と言っても良い事件です。

 

関連記事 

  1. 米国のエコカー関連サイト、Green Car Reportの見出し記事

「VW, Audi TDI Diesel Cars Had ‘Defeat Device’ That Violated EPA Rules, 500K Cars Recalled: BREAKING: VWとAudiのTDIディーゼルは、EPAルール(排ガス規制)を侵害する’Defeat Device:無効化装置’をつけているとして、50万台のリコール、

http://www.greencarreports.com/news/1100101_vw-audi-tdi-diesel-cars-had-defeat-device-that-violated-epa-rules-500k-cars-recalled-breaking

概要

連邦環境保護庁(EPA)は、今週金曜、大手自動車メーカーに関するメディア会見を開催すると通知した。それには、VWとAudiが販売した2009年~2015年までの4気筒TDIディーゼル車約50万台についてのリコール命令についてである。それらのTDI車は、排気テストサイクル走行を検出し、その状況下だけで排気ガスを大幅に減らすようにしていたことが明らかになったとして、EPAはその行動を起こした。EPA担当官の電話会議での発言によると、そのクルマが、通常走行か排気テスト走行かを判別し、通常走行では排気制御をオフにするソフトを持っていることが疑われた。

 

  1. Reutersの報道記事

「Volkswagen could face $18 billion penalties from EPA: VW、米EPAから180億ドルの罰金に直面する可能性」

http://www.reuters.com/article/2015/09/18/us-usa-volkswagen-idUSKCN0RI1VK20150918

概要

金曜日、米EPAは、VWは有害エミッション計測の法規を欺くディーゼル車のソフトを使ったことで告訴された場合、180億ドルの罰金の可能性があると発表した。米大気浄化法不適合の罰則により、罰金は台当たり37,500ドル、総額180億ドルとなることを、担当官は電話会議で確認した。米国VWのスポークスマンは「調査には協力しており、現時点ではコメントはできない」と述べている。VWは、米国で’クリーン・ディーゼル’として強力なマーケッティングを行っており、TVコマーシャルでは「米国でのディーゼルNO1ブランドで、自慢は’クリーン・ディーゼル’」と放映している。

 

この記事は、共同通信が配信し日経、朝日ほか多くの日本紙が掲載しています。目次にある’Defeat Device: 無効化装置’の言葉は、自動車マル排屋にとってはやってはいけないタブーの装置を指す言葉で、すでに死語と思っていました。

今から30年以上も前、タイマー、車速スイッチなど試験モードの特徴に合わせてそれ以外では排気浄化システムや低燃費デバイスの作動を無効化する装置を採用するメーカーが現れ、大きな問題となりました。規制当局と自動車メーカなど関係者で、その定義、判定基準などが規定され、それに該当する場合は大気浄化法違反とされ、罰則規定が制定されました。しかし、基本的には試験モードだけに特定して、排気、燃費デバイスを無効にすること自体が、法規制の目的に反しておりアンフェアな行為であり、’Defeat Device’と疑われることもやってはいけないとのコンセンサスができあがりました。その死語になったはずの’Defeat Device’という言葉が、幽霊のように復活したというのが最初の印象です。

この’Defeat Device’の判断基準と罰則が規定された後も、リアルの大気改善はなかなか進みませんでした。このため、1990年の始め、米国ではそのクリーン度を判定する試験モード以外でエミッション悪化による影響が大きいとして、規制当局の呼びかけにより自動車メーカー各社がクルマを出し合い、米国のアトランタやスポケーンなど何カ所かの都市で走行実態調査を行いました。トヨタもこの調査活動に参加し、試験用のクルマを提供、データ分析にも米国スタッフが付き合いました。その調査結果に基づきリアルワールド走行をカバーするマル排屋にとっては厳しい判定走行モード、オフモード(公式試験モード外:オフ)試験基準を作りあげ、現在も公式試験に追加する判定試験法として使われています。 今回のケースは、このように’Defeat Device’はアンフェアとの判断基準があり、リアルワールドでのエミッション悪化防止を厳しくチェックする米国で明るみにでた不正です。

一部にはアメリカだけの問題で、欧州や日本は関係なく、あってもオフモードの悪化は少ないのではとの意見もあるようですが、そうではないと思います。欧州と日本では、このアメリカのようなオフモード試験法はなく、’Defeat Device’基準も緩いのが現状ですが、EPAが摘発したこのような’Defeat Device’が使われているなら、オフモードでのエミッション悪化は今回のアメリカのケースよりもさらに大きくなる可能性大です。もちろん、基準が緩いとしてもこのような’Defeat Device‘は企業姿勢、環境保全からも許されません。

VWは現時点でコメントを避けていますし、判定ソフトの詳細も判りませんので、この問題の解析は、今後もフォローを続け、もっと情報が集まってから技術判断などお伝えしたいと思います。

ディーゼル車のマル排性能については、以前からオフモードとのギャップ大が問題とされていました。欧州の最新規制ユーロ6規制対応車が、実走行では以前ユーロ4やユーロ5よりも悪いケースがあるとの環境NGOから指摘もされています。また、規制強化にも関わらず大都市のNOxが環境基準を大きく越え、改善に向かわないのはこのリアルワールドでの急増との関連が疑われていました。

現時点で欧州、日本の試験法、判定基準で、このソフトが入っていたとして、米国の’Defeat Device’判定のように不正と判断されるかは判りませんが、規制の主旨を逸脱したアンフェアなやりかたであることは確かでしょう。

リアルワールドでの自動車燃費、クリーン度については、欧米には環境当局OB、技術者、専門家による環境NGOがあり第三者調査が行われています。今回もその環境NGOと大学研究者の合同調査データが摘発のきっかけだったとの報道もあります。クリーン度の調査には計測装置やシャシーダイナモなど高価な設備が必要であり、残念ながら日本にこのような第三者調査機関はありません。公的機関のリアルワールド調査結果や、経年車の追跡調査も公開されておらず、透明性に欠けていることは否めないと思います。

欧州と日本では、実走行に近づける新試験法WLTPの採用が決まり、また欧州ではとうとう、 ‘portable emissions measurement system:車載ポータブル計測システム’を搭載した “real world:実路走行” 排気エミッション試験が義務づけられるようになってしまいました。しかし、クルマの使用条件は千差万別、この新しい“real world:実路走行” 排気エミッション試験でもリアルワールドの一部だけを評価しているに過ぎません。それから先は、フェアネスが問われることになり、不正と判断された場合には厳しいペナルティーを課すことも当然でしょう。今回のケースでは、場合によっては刑事罰の対象にもなる可能性があります。

このような’Defeat Device’に何故、VWは手を染めたのでしようか?排気性能、燃費性能、走行性能はトレードオフ関係、こちらを立てればこちらが立たず強い関係があります。試験モード走行域外でNOx排出を垂れ流し状態にできれば、この排気浄化システムを簡素化し、コストを下げることができます。他社のシステムに比べるとVWのシステムは簡素で、これをEPAが疑ったことが今回の発端との観測記事もありました。また、米国のオフモード走行モードはかなり高負荷、高速域まで走ることになりますので、安いシステムのままで対応すると、燃費悪化、出力低下を招く可能性も強く、排気クリーンの意味、アンフェアかどうかのエンジニアとしての常識に目をつぶれば、やりたくなる誘惑に駆られることは理解できます。しかし、この明らかな不正に歯止めが掛けられなかった会社マネージは厳しく問われることになることは確実でしょう。

以前から、私は欧州勢受け売りの’クリーン・ディーゼル’との表現に違和感を覚えていました。もちろん、アンチ・ディーゼル派としてではなく、中大型トラック、大型バス、重機ではディーゼル以外の実用的な選択肢はないことは十分に理解しています。しかし、これを小型車まで適用し、ガソリンよりも緩い規制を続け、そんな状況で’クリーン・ディーゼル’とキャンペーンを張ってきた一部ドイツ勢のやりかたにもこの不正を招く温床があったように感じます。

このような不正の再発防止はもちろんのこと、この問題を他山の石として、米国だけではなく、世界全体で襟を正しリアルでの’クリーン・ディーゼル’ 、リアルでのクリーン&グリーンカーを目指して欲しいものです。

トヨタ&レクサスハイブリッド車累計800万台突破と4代目プリウス発表

先月21日、トヨタ自動車からトヨタとレクサスのハイブリッド車の世界累計販売台数が7月末で800万台を突破したとの発表がありました。

http://newsroom.toyota.co.jp/en/detail/9152370

図1に1997年からのトヨタ&レクサスハイブリッド車のグローバル累計販売台数推移と年間販売台数推移をしめします。(トヨタ ニュースサイトの年度別販売台数データから作成)

トヨタハイブリッド車販売台数推移

トヨタの公式サイトには、1997年12月「プリウス」の誕生から、7月末にグローバル累計販売台数800万台突破と書かれていましたが、これは正確な表現ではありません。トヨタの市販ハイブリッド車の初号車は、このプリウスの1997年12月発売の前、8月に少量販売を開始した小型バス「コースター ハイブリッドEV」が最初です。クリーンを売りに、ディーゼルエンジンに換えて、当時のサブコン車「ターセル」などに搭載されていた4気筒1.3リッターガソリンエンジンを搭載、そのエンジンで発電機を回し、その電力で最大出力70 kWの駆動モーターで走らせるシリーズハイブリッド方式のハイブリッド車でした。

これが、1997年12月「プリウス」発売を前に数台か十数台が、大都会の幼稚園バスや観光地の送迎バスとして販売されていました。

私自身は、初代「プリウス」搭載のハイブリッドシステム開発がハイブリッドに携わった最初です。この「コースター ハイブリッドEV」にはタッチしていませんので、トヨタの公式サイトの表現を使いたいのですが、個人的には残念ですがトヨタハイブリッドの1号車はこの「コースター ハイブリッドEV」です。

もちろん、この800万台に至る量産ハイブリッド車のスタートは「プリウス」であることは間違いありません。この「プリウス」に採用し、洒落た名前が思い付かないまま、私が文字通りのトヨタ・ハイブリッド・システム=略してTHSとそのまま名前をつけたハイブリッドが、トラックのハイブリッドなど、ほんの一部のハイブリッド車を除き、同じコンセプトのまま今も使われています。

このTHSコンセプトを、”遊星ギアの三軸に、エンジン、発電機、モーターを接続、このモーター軸からチェーンを介しデフギアへ、デフからドライブシャフトによりタイヤを駆動してクルマを走らせる方式”、”クラッチもトルコンも、変速ギアも、リバースギアすらなくクルマを普通に走らせるユニークなハイブリッド”と説明したことを覚えています。いくつかのバリエーションはありますが、遊星ギアの三軸にエンジン、発電機、モーターを接続するコンセプトは今も変わりはありません。

このプリウスの初号車が、累計販売台数の何台目に当たるか判りませんが、1997年12月10日にトヨタ自動車高岡工場から初代プリウスが車両運搬トレーラーに乗せられて、多分東京か愛知の販売店にむかってからまもなく18年が経過します。国内での正規白ナンバー登録は、国交省から認可をいただき、9月末にライントライ車両の社内評価車両に付いた白ナンバーがプリウス1号車だと思いますが、このトレーラーで運ばれた車のどれかが、お客様の手に渡った第1号車になりました。2000年5月の初代マイナーチェンジを機に、米国と欧州販売を開始し、グローバル市場へと拡げていきました。

車重の思いミニバンや大排気量エンジン搭載の上級車では、すぐにプリウスTHS方式を適用することができず、メカCVT変速機を使ったTHS-CのエスティマHV、エンジン補機ベルト駆動のオルタの変わりにモーター発電機とし12V補機駆動鉛電池とは別に36V鉛電池を搭載したマイルドハイブリッドTHS-Mを使ったクラウンHVも開発しましたが、マーケットから本格ハイブリッドの要望が強く、またMGやそれを駆動するインバーターの高出力コンパクト化が進み、それらも遊星ギア方式のTHSコンセプトに置き換えられていきました。プリウスに続く、THS第2段はハリアーHV、エスティマTHS-Cで開発したリアモーター駆動のAWDを採用したTHSです。これがレクサスHVの始まりで、レクサスブランドのグローバル展開に合わせRX400hとして発売され、トヨタ、レクサスでのハイブリッドラインアップ展開は始まりました。このトヨタ・レクサスハイブリッドが累計800万台を迎えました。

その内の、400万台以上が「プリウス」、またレクサスCT200h、 ノア/ボクシーHV、英国工場で生産しているAuris Hybridなどに使われ、累計800万台の60%以上がこの1.8Lエンジンの同じファミリーのTHSパワートレインを搭載しています。

そのプリウスが、2009年発売を開始した3代目プリウスから6年半ぶり、いろいろ合ったようで少し間があきましたが、今年末にフルモデルチェンジを行い4代目となります。詳細スペックは発表されていませんが、ハイブリッドもこの4代目プリウス用として大きな技術進化が織り込まれているようですので、どこまで進化したのか今から楽しみにしています。日本のJC08燃費 40 km/l 、ユーザー実走行燃費に近いと言われる米国EPA公式燃費では都市とハイウエーのコンバインド燃費で55 mpg(23.38 km/L)、燃費バージョンで60 mpg(25.51 km/L)との噂がニュースに登場しています。

プリウスの使命は、初代から21世紀のグローバルスタンダードカーとして、他の追従を許さない燃費/CO2を目指すクルマでした。3代目の企画まで現役として付き合ってきましたが、もちろんグローバルスタンダードカーとして我慢のエコでは問題外、燃費/ CO2性能の向上はもちろん、クルマとしての走る魅力の向上、さらに世界に拡大していくためのコスト低減が絶え間なく取り組んできた開発課題でした。。

この4代目が、この初代からの志しを継いでくれているか、これも現地、現物、現車で見極めていきたいと思っています。この4代目から新しいプラットフォームTNGA採用第1号となりますので、シャシー系も、欧州Cセグメント系とガチンコ勝負ができるのではと期待しています。(写真1 4代目プリウス ワールドプレミア トヨタサイとより転載)

2016年 4代目プリウス 写真

遠からず、このTNGAでも足りないと言わせるぐらいの、ハイパワーバージョンTHSの登場を期待しています。もちろん、クラスとして燃費チャンピオンが前提です。

 

1年2ヶ月ほど、お休みしていたこのCordia Blogを、このトヨタ&レクサスハイブリッド車グローバル販売800万台突破と4代目プリウス発表を機会に、再開いたしました。

800万台突破といっても、10億台を越える世界の自動車保有台数の1%にも届いていないレベル、ほんの第一歩を歩みだしたに過ぎません。また、このところのエコカー販売停滞も気になるところです。よく言われた、ハイブリッド車はショートリリーフ、電気自動車、水素電池自動車が本命との声も実態は風吹けと、鞭をたたけど(規制)、飴をばらまけど(インセンティブ、補助金)踊らずが現状で、アメリカでは大型車回帰でCO2が増加に転じてしまいました。

昨年のグローバル小型自動車(Light vehicle)販売8,720万台です。このクルマを低燃費、低CO2のクルマに切り替えて行くことが何と行っても最優先です。今の延長線程度の電気自動車や水素燃料電池自動車には、次世代自動車の主役としてのバトンを渡す訳にはいきません。その内燃エンジン車を低燃費、低CO2へと進化させるコア技術はハイブリッドです。軽自動車まで、アイドルストップでは不十分と減速回生、モータアシストとハイブリッド化の道を辿り始めています。内燃エンジン車のハイブリッド化をリードしてきたのは、日本勢です。このアドバンテージをさらに拡げて行って欲しいものです。

このアドバンテージを多くの現場スタッフ、エンジニア達と作りあげてきた、日本のパワートレインエンジニアOBとして、これからも辛口のコメント、叱咤激励を続けていきたいと思っております。 [jwplayer mediaid=”1808″]

 

ブログは、お休みしていましたが、ハイブリッドプリウスの開発、次世代自動車のゆくえなど、今もいろいろな場所でお話をさせていただいております。

また、TEST 2015 第13回総合試験機器展 東京ビッグサイト 西ホール 2015.9.16(水) ~18(木)

の17日(木)13:00~14:10まで、特設会場Aにて「プリウスが切り拓いた低CO2自動車のこれまでと、これから」との題目でお話をさせていただきます。見学、ご視察のご予定がございましたら、お立ちより下さい。

今後とも、よろしくお願いいたします。

 

またまたカタログ燃費と実燃費の話

私はビジネス週刊誌「週刊ダイアモンド」をときどき購入しているのですが、先日発刊の1月18日号で『エコカー苛烈競争で浮上する知られざる“燃費偽装”問題』との記事が目に飛び込んできました。

一昨年の現代自動車のクルマの燃費がユーザー報告燃費との差が大きいとの訴訟が米国であり大きな話題となった問題や、カタログ燃費とユーザー燃費とのギャップの存在を問題にした記事かと思い、記事を読んでみましたたがそうでありませんでした。記事は今の日本車のカタログ燃費競争を扱ったもので、これを“燃費偽装”というセンセーショナルな見出しで取り扱っていることに愕然としました。

米国での現代自動車の問題は、現代自動車から意図的では無いもののミスで提出するデータを間違えたとの説明がなされており“燃費偽装”と呼ばれても不思議がないものですが、これと定められたルール通りに行われた中で生じるJC08モードカタログ燃費とユーザー平均燃費とのギャップを取り上げて“燃費偽装”と、あたかも不正をおこなっているとの表現には、こうした低燃費車開発に心血を注いできたエンジニアとして強い怒りを覚えます。

本当に“燃費偽装”しているならそれは不正・違反だ

現代自動車の問題は先ほども触れましたが、公式燃費認証を与えた連邦環境保護局(EPA)が、再現試験やさらに現代自動車が公式燃費申請に使った社内試験ラボへの立ち入り検査を行い、現代自身が社内試験の提出値にミスがあったとして修正申請を行いました、

このケースでは現代が該当車両のユーザーに修正分+αの燃料費用補填を続けることで和解が成立しています。故意ではなかったとしても明らかにこれはルール違反であり、厳密に定められた公式燃費試験の燃費値が誤って認定され間違っていたことから、大きな訴訟問題へと発展しました。ユーザーとの和解が成立はしましたが、巨額のペナルティー負担とイメージ低下の影響は大きいようです。繰り返しになりますが、これは“燃費偽装”と呼ばれても仕方の無い不祥事であり、この米国での事件と記事で挙げられている日本のケースは全く異なります。

公式燃費値は、それ決める型式認定申請をしてそれに基づいた認定試験車を作り、厳密に定められた試験法で試験が行われ、その試験結果から決められます。その際、日本、米国、欧州ともに、認可機関がすべて認定/認証車の公式試験を行うわけではありません。その一部のクルマを抜き取りで試験をするのが通例です。

それは毎年数多く発売される新車の認可試験をすべて公的機関で行うとなると、膨大な試験費用と人が必要となるからです。そのため、多くの場合では自動車メーカーが実施する試験結果も申請値として使われますが、その公式試験を行う自動車メーカー内の組織・設備は厳しい監査を受け、また立ち入り検査も行われます。

この段階でルールから外れたクルマや試験条件で試験を行っていれば、これはまさに不正、偽装問題となります。このところ新聞を賑わせている、産地偽装・材料偽装と同様で、公式試験に不正・偽装があれば厳しく糾弾されるべきです。もし意図した不正・偽装が発覚すれば、頭を下げる程度で終わる話ではなく、法律的にもさらに半社会的な企業としてその企業姿勢も問われ、イメージ失墜どころの問題では無いでしょう。

燃費ギャップの問題提起はあるが不正とは全く別の議論

地球環境問題やガソリン価格の高騰から低燃費車への関心が高まり、この表示手段としての公式燃費、カタログ燃費競争がエスカレートしているのは誰もが知る事でしょう。その火付け役がハイブリッド車プリウスであったことも事実で、この開発を担当した一人としてそれ自体は誇りに思っています。

一方でこのプリウスが、カタログ燃費と平均ユーザー燃費とのギャップ問題を引き起こしたこともその当事者の一人として、その販売当時から自覚していました。米国では2008年に公式燃費の試験法・算定法が改訂されましたが、この改訂の背景にあったのがプリウスのユーザー燃費とそれまでの公式燃費、いわゆるカタログ燃費とのギャップ問題です。

しかしこの改訂のときも、決してプリウスの公式燃費値が不正・偽装を疑われた訳ではありません。私にはこの問題でEPAに呼び出されたことも、監査をうけたことも、ユーザーから訴えられた記憶もありません。話題の低燃費車であったので、競合メーカーから燃費試験を行う際の設定方法などについての問い合わせも何度か受けましたが、米国、欧州での認可当局、試験機関での試験法、基準を公開しており、公式燃費値について疑われたこともありません。

この記事で取り上げられている、メーカーのドライバーが運転したときの燃費値と認可当局、公式試験機関のドライバーが運転したときの燃費値に差がある話はときどき耳にします。しかし、これまた不正な運転を行うからでは決してなく、日本メーカーの試験ドライバーのスキルの高さを証明する話です。米国、欧州、日本、いずれの公式燃費試験も厳密な実施基準に則って行われており、それから外れるとその試験は無効、再試験となってしまいます。

無効試験となるとまた試験を一からやり直しとなり、その再試験の日程によっては、生産、販売にまで大きな影響を及ぼしかねません。車速一つをとっても、上下狭い車速幅が指定されており、それを超えると無効となってしまいます。

記事には記者がシャシーダイナモ試験をしたような表現がありますが、初めてのドライバーが無効にならないように車速を守って運転することはほぼ不可能です。試験結果は示されていませんでしたが、間違いなく専門ドライバーが同じ試験で出す燃費値よりははるかに悪かったはずです。

日本メーカーには、狭い車速バンドの中を車速維持のための余分な加減速運転は行わず、その車速バンドの中で滑らかな燃費の良い運転をするほれぼれとするような高いスキルを持った専門ドライバーが多いことは事実です。彼らは、経験は当然として、トレーニングにトレーニングを積み、試験に集中する高い専門スキルを持っており、その運転、試験技量には強い誇りを持っています。

アメリカでも昨年、EPAの燃費試験担当官が、このようなメーカードライバーが出す試験燃費がよく出過ぎると嘆いている記事があり、このブログでも取り上げました
http://www.autonews.com/article/20131004/OEM11/131009914/epa-says-automakers-test-drivers-can-be-too-good#axzz2rBe0LDYR

ただしこの記事も不正・偽装を非難している訳ではありません。厳密に決められている試験に沿って、さらにその狭い定められた車速バンドの中でスムースな運転をすることにより良い燃費値を出す、メーカーの専門ドライバーのスキルに驚嘆させられたとの話です。

アメリカでもEPAのラボで抜き取り試験が行われ、その試験結果も公式値として使われます。EPAラボに持ち込まれないことが決まると、エンジニアとしてまずほっとするというのが正直な所で、さらに持ち込みが決まった場合も、デトロイト郊外のアナーバーにあるEPAラボで試験を受けますが、何基かあるどのシャシーダイナモで試験されるのか、担当ドライバーは誰になるのかで一喜一憂したものでした。

経験者として正直にお伝えしますが、割り当てられたドライバーやシャシー台によって結果は確かに異なります。ただし一方で毎年、自動車メーカーが燃費チェック用のクルマを供出して、EPAのシャシーダイナモ・分析計での燃費チェックを行い、各社持ち回りで自分達が公式燃費試験を行うシャシーダイナモ・分析計での燃費値との差をみて調整するというクロスチェックを行い、その精度管理に最新の注意を払っていました。

燃費を「事前に」完璧に測定する事は不可能

こうした厳密に定められた試験法の中ですら、燃費値に違いが出るわけですから、様々な走行条件、環境条件で使われるユーザー燃費に大きな差があることは当たり前です。この記事にあるe-燃費もあくまでもユーザーが報告した平均燃費です。この報告値にも大きなばらつきがあり、燃費チャンピオンのデータと最低燃費のデータには2倍以上の差が出るケースもあります。

ユーザー燃費の観点では大きな違いを見せるのが北米のユーザー燃費で、冬には零下20℃を下回るウイスコンシンやミシガン北部の冬のユーザー燃費とアリゾナ、ハワイのユーザー燃費には当然ですが大きな差が出ます。さらに夏の路上では50℃を超えるネバダやアリゾナと、サンフランシスコ付近のベイエリアでの夏の燃費にも違いがあります。

日本も北海道・沖縄でのユーザー燃費値には大きな差があるのは当然です。さらに、アップダウンの多い地区での運転と、平坦な地区で主に使うケースでも大きな差があり、これに加えてもちろんクルマの走らせ方、タイヤの空気圧、荷物の重量、乗車人数、さらに加速の仕方によっても実走行燃費は様々です。

このブログでもユーザーの燃費をあくまで平均燃費で論じているのも、この燃費の大きなばらつきがあるためです。この大きくばらつくユーザー燃費の平均値を「事前に」どのクルマでも公平に算出する試験法を作りだすことは、科学技術的にも不可能だと思います。

そのユーザー平均燃費に近いと言われる米国EPAの公式燃費は、排ガスのクリーン度が公式試験値よりも厳しい走行で大きく悪化しないことをチェックする急加速・高速モード走行など、もともとは排ガスチェック用に作られたそれまで公式燃費モード以外のオフモードと呼ぶさまざまな限界モードの燃費値を洗いざらい使って補正すると燃費値を低めに補正することができることからこの補正を行っています。

この補正は科学的な根拠があって決めたものではありません。従来ある様々な排気ガスチェックモードの値を使って、無理やり燃費値が悪くなるような補正を行ってユーザー燃費値に近づけていると言ったほうが当たっていると思います。

この記事に書かれている、国連が進めているこの自動車排ガス、燃費試験の国際基準調和、統一試験法作成作業も、その目標をユーザー平均燃費に近づける為に行っているものではありえません。もちろん、日本だけではなく、欧州、米国、アジアと各地域での走行環境調査を行い、その走行実態に合わせた走行パターンとなっていますが、夏、冬、登降坂、カーブなどまで加味したものではありません。

図は米国EPAの燃費サイトにのっていたプリウスとフォード・フュージョンハイブリッドの公式燃費とEPAがアンケート調査しているユーザー燃費データを比較したものです。

図1

カタログ燃費に反映されない低燃費技術もある

私にとって低燃費技術の開発の目標は、環境条件、季節、地域、走行パターン、加減速度などによってさまざまに変わるユーザーに対して改善した実走行燃費を提供する事でした。少なくとも自分は、決してカタログ燃費に特化しての低燃費車は目指してこなかったと胸を張って断言できます。

夏のエアコン運転でもエンジン停止をすること、モーター走行頻度を高めるための電動エアコンの採用、車両の断熱、シートヒーター、三代目プリウスで採用したヒーター用エンジン冷却水の排熱回収器などは、どれもカタログ燃費には反映されないユーザー燃費向上のための技術です。

カタログ燃費と言われるように、どの国どの地域でも公式試験にのっとった試験法で求められた燃費値が公式燃費とされ、この公式燃費のみが正式にクルマの広報・宣伝・販売活動として使用できます。

確かにいかにこのカタログ燃費を高めることができるかを激しい競争を行ってきていることも事実です。しかし、その一方で、各メーカーともユーザー実走行燃費改善にも努力をしています。

最近のニュース等でも紹介されている、エコラン運転中でもエアコンを効かせる蓄冷方式のエアコンなどもその一例です。この部分では、日本の自動車メーカー、部品メーカーが欧米メーカー以上に知恵をだし、新技術を提案しています。これらの努力は燃費値では貢献できないかもしれませんが、最終的にユーザー平均燃費にその実際の効果が問われることになります。

販売後のユーザー燃費の収集・解析は可能

現在、日本、欧州そして米国と自動車による石油燃料消費総量が減少に向かっています。ハイブリッドだけとは言いませんが、着実に低燃費車が普及していることの表れです。

この記事の内容は問題ですが、そろそろカタログ燃費とユーザー平均燃費とのギャップ問題に決着をつける時期に来ているのは確かでしょう。ただし、公式試験をどのようにいじろうが、ギャップ問題は発生します。上に挙げた図のように使い方、走り方によって燃費は大きくばらつきます。さらに、今のkm/Lの表記では、さらに低燃費車になればなるほど燃費値の乖離は大きくなってしまいます。

一つの公式試験モード、条件でユーザー平均燃費を近似することは無理があります。あくまでも燃費比較の尺度として国際基準調和の新試験法を使い、そのあとは実際のユーザー燃費値を集めたビッグデータとしての解析を加え、その結果をEPAのように公表していく方向が一つの方向と思います。

また今のクルマでは、エンジン制御からも正確な燃費計測を行っています。初代プリウスを出した際には珍しかった燃費表示はあたりまえの機能となりました。さらにクルマごとに、燃費と様々な走行データ、走行パターン、トリップ解析を車両コンピューターで行うことも難しくはありません。

個々のクルマ、ユーザーごとの燃費診断もやろうとすればやれます。ナビ装着もあたりまえの世の中ですので、GPSデータ付でそのデータを外部に送り解析することは、ITS、スマホ普及を考えるとそれほど先の話ではありません。

ユーザーごとの燃費診断から、クルマの故障把握もできるはずです。排気のクリーン度、燃費を悪化させる故障、整備不良を減らすだけでも環境保全への効果は大きいと思います。

燃費が大切で低CO2を目指すのは社会的要請ではありますが、個人的には低燃費運転だけを推奨するつもりはありません。時には気分よく、思い切った加速をやってみてみたくなるクルマを作るのも我々の役割で、その一回の加速で実燃費がどれくらい悪化するかの見える化も実燃費向上につながるのではと思っています。

私自身も、燃費悪化は判っているものの、ときには思い切った加速、カーブの多い山道でコーナリング減速からのラインに沿った加速などを楽しんでいます。

トヨタハイブリッド車累計販売600万と電動自動車の未来

昨日、私にとってうれしいニュースが飛び込んできました。すでに新聞で報道されているように、トヨタハイブリッド車の世界累計販売台数が昨年の12月末で600万台を突破したとのニュースです。以前のブログで、昨年3月末に達成した累計販売台数500万台記念の現役、OB含めたハイブリッド開発の仲間たちのパーティーを取り上げましたが、次の100万台まで9カ月、ピッチをさらに速めての達成です。正確な数字は掴んでいませんが、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車といった電動自動車の世界累計販売台数もまた1,000万台突破もまもなくと思います。

トヨタのハイブリッド車販売のスタートは1997年12月発売の「プリウス」ではなく、その年8月に発売を開始したミニバス「コースターハイブリッド」ですが、これは少量販売にとどまり短い期間で生産も停止していますので、この600万台のうち半数以上を占める「プリウス」がリードしてきたと言っても良いでしょう。

図1
図は1997年からのトヨタハイブリッド車の販売経過です。

1997年のわずか300台程度からスタートし、100万台までに118カ月、約10年かかりましたが、次の200万台からは各100万台増加に27、18、14、11ヶ月とピッチを速め、昨年3月末に到達した500万台から600万台まではわずか9ヶ月で到達しています。お買い上げいただいた全部のクルマが生き残っている訳ではありませんが、このクルマが自動車低CO2の牽引役を果たしていると思うとエンジニア冥利につきます。

電動化に先行する日本、海外でもやってくる

ただし、日本ではハイブリッドやEVなどの電動自動車販売シェアが20%を越えましたが、アメリカでは今年も昨年に続き販売新記録となったもののまだまだ3.84%のシェアにしかすぎません。

今、デトロイトで北米自動車ショーが開催されていますが、ロイター通信の論調は「エコよりもパワー」に回帰かとの見出しで、フォードF150、GMシルベラードといった販売が好調な大型ピックアップトラックの新型車をとりあげています。

中身をよく見ると、その大型ピックアップトラックもダウンサイジング過給、軽量化、アイドルストップの採用といった低燃費メニューが並び「エコ」はあたりまえになっており、その上でカウボーイハットが似合うアメリカのガラパゴスカーの大型ピックアップですら低燃費が社会のまたユーザーのアピールポイントとなってきており、「エコよりパワー」とは反対に着実に燃費意識が定着してきた証拠のように思います。

中国も新車販売がとうとう2000万台を突破し、世界全体でみると自動車販売はさらに拡大を続け、保有台数が増加しています。

こうした状況では、トヨタハイブリッド車累計販売600万台到達、世界の電動車両累計販売1,000万台到達といって浮かれている訳にはいきません。自動車の走行でのCO2排出にまず歯止めをかけるには、どんなタイプであれ自動車の電動化を加速させる必要があります。

トヨタのハイブリッド車を販売している国は80ヶ国に拡大していますが、国別シェア、台数でみるとまだまだです。さらに新興国では廉価な小型大衆車クラスの電動化もまた求められています。そのためにも、電動化部品および車両の現地化も必要です。

ハイブリッド、EV、燃料自動車はライバルでは無い

昨日、お台場の東京ビッグサイトで開催されている「カーエレクトロニクス技術展」「EV・HEV駆動システム技術展」を見てきました。日本の自動車電動化を支える部品技術、材料技術、計測技術、生産技術各社がブースを出していましたが、その広がりと熱気が大変印象的でした。

一般の見学者が多い、他の環境展やスマート何とやら展とは違い、実際にモノ造り、ビジネスにかかわる専門家が多い印象で、各ブースで熱心な商談、営業活動が行われ、また中国、韓国他、海外の参加者も目につきました。

この17年、トヨタハイブリッド車累計600万台がけん引役を務めました。自動車電動化を支える日本の部品、材料、計測機、開発ツール、生産機械がここまでに広がってきたことに口火を切る役割を務められたことを、少し自慢がしたくなりこのブログに取り上げました。

もちろん、感慨に浸り立ち止まっていてはこの激烈なグローバル次世代自動車競争を日本勢が勝ち抜き、生き抜いていくことはできません。

巷では、その発信源がどこかは判りませんが、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、さらに水素燃料電池自動車をあたかもコンペティター関係にあるかのように対比、オン/オフ比較して語られているように思います。

さらにハイブリッド自動車と昨今の欧州勢のアプローチ、直噴過給ダウンサイジング、デュアルクラッチ多段変速機、アイドルストップ、気筒停止の低燃費車両を、これまたコンペティター関係として対比する論評を見かけます。そのあげくに、ハイブリッドは日本のガラカ―?などとのまで言われたこともあります。これはミスリード、不本意です。

電動化が将来自動車のコアなのは間違いない

クルマを動かすエネルギーの全部か、一部かは別としてエネルギーの貯蔵源を有効につかって高効率、低CO2を目指す目的は、ハイブリッドも、プラグインハイブリッドも、さらに電気自動車も水素燃料電池自動車も変わりはなくクルマの電動化がコア技術です。使われている技術分野も共通分が多く、そのモーター、インバーター、さらに電池の技術進化、低コスト化が進むといずれもさらにCO2排出を減らすことができます。その手段が電動化です。

またハイブリッドの定義はクルマを直接電気モーターで駆動するパスを持つクルマとなっていますが、ナビもオーディオもインパネ表示も、クルマを動かすための様々な制御もエンジン発電発生するか、充電電池から取り出すかは別としてクルマを動かすために消費しているエネルギーです。このすべてのクルマで消費するエネルギーの効率化を図るのが低燃費のアプローチで、これもハイブリッドでもノンハイブリッドであろうが変わりはありません。できる限りの減速エネルギー回生を行い、そのエネルギーを使ってエンジン停止中の補機、制御系を動かし低燃費化を図る部分が、強いて言うとノンプラグイン車とハイブリッドの違いです。

低燃費車の標準メニューとなってきているアイドルストップでは、その領域を拡大していくと軽自動車の低燃費車競争で競いあっているように、クルマが完全停止する前からエンジンを停止し低燃費効果の拡大が図りたくなります。停車中でもエンジン停止を行うようになると、パワステ油圧、ブレーキ油圧など従来はエンジン回転で駆動していた補機類のエネルギー源確保が困難になりパワステも、ブレーキ油圧発生、さらに夏のエアコン運転、冬のヒーター熱源のエンジン冷却水もまた電動化がやりたくなります。

こうした補機類の電気駆動もまたどんどん進んでいます。上級車や重量車ではこうした補機駆動のエネルギーもばかにならず、42V~48Vのマイルドハイブリッドがやりたくなります。マイルドまでいかなくとも、スズキのエネチャージ、日産ノート、マツダスカイアクティブも12V鉛電池の他に小さなリチウムイオン電池、キャパシタ―を使い、エンジンベルト駆動ですが減速時のエネルギー回収を行っています。これまた自動車の電動化です。

展示会でも日本各社の様々なタイプの電動化に向けた部品、材料、開発のためのツール、計測機がこれでもかというほど展示されていました。国内マーケットで低燃費自動車開発を競いあり、その部品、材料、計測ツール、開発ツール、さらにその生産技術開発が活発になり、展示会場で感じた熱気をさらに高め、その熱気のなかで次をになう人材が育っていけば次の700万台、1000万、2000万とさらに電動化車両の普及拡大を日本勢がリードできます。さらに、その低燃費車、部品、材料技術のグローバル展開を進めることが日本自動車産業の生きる道、この分野、この技術、この人材で地球市民として日本が貢献していくことを願っています。

米国トヨタ本社のテキサス移転

少し旧聞となりますが、4月28日(月)にトヨタはこれまでカリフォルニア州(加州)トーランス市においていた米国本社をテキサス州プラノ市に移転すると発表しました。トヨタの発表によると、米国とカナダの企業活動全体を”One Toyota”ビジョンで行うためにプラノ市に移転し機能を集約すると説明しています。

もともとトーランス市に置かれていたのは、米国での販売、マーケッティング拠点であった米国トヨタ自動車販売の本社で、車両開発、生産、渉外機能とは別機能でした。その後、米国での現地生産、現地生産活動が増加するにつれ、米国全体の本社機能と位置づけられました。開発部隊のなかでも、筆者のようなエンジン屋にとっては、デトロイト近郊のアナーバー市にあるテクニカルセンターとともにトーランスの隣、ガーディナ市に置かれたラボが馴染みのある米国の拠点でした。そのガーディナラボは、エンジン評価、車両適合の拠点とともに、世界の自動車環境規制をリードしてきた加州大気資源局(CARB)と将来自動車環境規制のルールメーキング、試験法についての情報収集や、CARBとの認証届け出業務の重要拠点でもありました。プリウスの発売後は、実用的な次世代環境車としてCARBのスタッフ達が実用的なクリーン/グリーンビークルとして高く評価してくれました。それに意を強くして、全米どころか世界へハイブリッド車を広げる戦略の説明、将来ビジョン議論のためガーディナラボのメンバーとともにトーランス本社に何度も足を運んだ記憶があります。

このテキサス移転を伝える5 月のGreen Car Reportは、「Toyota’s Texas Move: Prius Maker Lands In Highest-Carbon State」との見出しでこのニュースを伝えています。テキサス州は温室効果ガス排出量が全米50州中1位、一州の排出量として、フランス、イギリス、カナダを超えています。これを根拠に、環境自動車プリウスを販売している会社が環境問題を重視していない州に本社を移したことを皮肉った見出しをつてけています。温室効果ガス排出最大州となっている要因としては、19もの火力発電所があること、化学工場が多いこと、都市部でも公共交通機関が少なく、もっぱら自動車、その自動車も大型ピックアップトラックや大型SUVが多いことが上げられています。一方、ハイブリッド車比率は全米平均を大きく下回っており、さらに、ペリー知事は地球温暖化懐疑論者であったことは有名です。

もちろん、様々な法規制や法人税率など企業活動のやり易さ、広い米国全体に散らばる拠点のコントロールセンターとしての地理的な条件からは加州よりもテキサス州が有利のようです。しかし、21世紀の企業ビジョンとして「環境・エネルギー問題へ対応する自動車の変革」を掲げ、ハイブリッドプリウス開発に取り組み、次世代自動車をリードしてきたトヨタが、環境規制をリードしてきた加州から「Highest-Carbon State」に移転したときの影響をどう判断したのか、知りたいところです。

何度かこのブログでも紹介してきたように、筆者自身は現役のクリーンエンジン開発リーダの時から、加州ZEV規制には反対を続けてきました。。大気汚染の深刻さを否定していた訳では決してありませんし、開発を手がけてクリーンエンジン車のクリーン度はCARBも太鼓判を押す経年車クリーン度NO1だったと自負しています。もちろん、排ガスシステムのリコールを命じられてことは一度もありません。クリーン度の改善手段として、まだまだエンジン車でもやれることがあり、やり遂げる自信もありました。さらに走行中ゼロ・エミッションの定義が納得できず、さらに今も基本的には変わっていませんが、短い航続距離ではクルマの機能としてエンジン車に起き買われないことが明かだったからです。。

1990年代の初めに、前述のロス近郊のCARBラボやサクラメントのCARB本部で、ZEV規制ルールメーキングスタッフ達や幹部達と、「走行中のZEVは誤解を招く、発電エミッションも入れて議論すべき」と激論を戦わせたことを思い出します。いわゆるエミッション・エルスオエア・ビークル論を戦わせました。そのときの彼らの反駁は、「カリフォルニア州には石炭火力はなく、クリーンな天然ガス火力と原発、さらにアリゾナ、コロラド州からの水力発電だから電力もクリーン、さらにオゾン濃度の高いロス地区、サクラメントには天然ガス発電所すらないので文字通りZEVだ」との主張でした。トヨタ社内のEV開発リーダーからも、あまりEV開発に水をかけないで欲しいと、クレームを付けられたのもこのころの思い出です。

僅かな台数のZEVを導入するよりも、触媒もついていない古いクルマ、いかにもエンジン失火のまま走っている故障車を減らすほうがよほど大気改善には貢献できるとの主張もしました。「効果が大きいのは判っているが、大気改善が進んでいない現状ではイメージ優先、ZEV規制を引っ込めるわけにはいかない」と言われてしまった。ロス地区のオゾン発生メカニズムや大気環境モデルを勉強をしたのもこの頃です。

その後、加州では、自動車のLEV規制や自動車だけではない様々な規制強化によりロスのオゾン濃度は低下をつづけ、またPMの改善も進んでいます。しかし、この環境改善効果は当時の議論のとおり、ZEV導入の効果はほぼゼロと言ってよいでしょう。自動車排気のクリーン化と古いクルマが新技術のクリーン車に置き換わり、さらに最近のニュースにあった停泊中の大型船舶電源として一般電力(グリッド電力)への切り替え、レジャー用船舶、アウトドア車両の規制強化などによる効果とされています。さらにPM2.5の排出源として、航空機からの排気の寄与率が高いとの調査結果も報告されています。

残念ながらZEV規制を止めることはできませんでしたが、CARBの幹部やスタッフ達とこうしたディベートをフランクにやれたことはアメリカのオープンさの表れとして良い思い出でした。”Prius”発表後は、この実用ハイブリッド車の開発努力とクリーンポテンシャルを高く評価し、新カテゴリーの先進技術パーシャルZEVカテゴリーを新設してくれるなど普及をサポートしてくれまいた。さらに環境保全の”リアルワールド重視”の部分では、技術的に納得できる提案は採用してくれるなど、オープンでフランクな信頼関係の構築ができたと思っています。

いまもZEV規制には、オゾンやPMといった都市部の大気汚染の規制としては”リアルワールド”での改善効果の少なさから賛成できません。特に自動車から排出されるCO2まで温暖化ガスとしてZEVに取り込んだ動きは、加州だけの問題ではなく、グローバルな問題、もう一度ZEVの定義について当時の議論を材料にCARB幹部やスタッフ達に反駁したいところです。CO2はどこで排出しても気候変動に影響を及ぼす温室効果ガスであり、走行中ゼロでも発電所での排出を含めて評価をすべき「エミッション・エルスオエア・ビークル」です。某社がZEVクレジット販売で利益を上げるのは異常、低カーボン車の普及によって環境保全に寄与できるとの主張は当時も今も変わりはありません。

CO2排出量ではあっという間に中国に抜かれてしまったが、アメリカは中国に続く世界二位、さらに一人当たりのCO2排出量では今でも群を抜く化石燃料多消費国、このアメリカがやっと本気で温暖化対策のためのCO2排出削減に舵を切ろうとしています。CAFÉ規制強化は決まりましたが、まだまだ大型ピック、大型SUVが好まれる国です。低CO2次世代車はハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車含めてわずかシェア3.8%と低迷しています。中国とともに、この国が低CO2に動かなければ低カーボンのグローバルな新たな削減活動の枠組み条約は成立しません。その中で、自動車の変革は待ったなしですが、実用技術の裏付けのない規制や、国際政治のパワーゲームで次世代自動車の普及が加速するわけではありません。

規制対応だけではなく、実際にクルマの魅力を高め、この次世代自動車比率を高めることが自動車分野の低カーボン化のポイントです。これをリードしてきたのがトヨタ、ホンダ、日産の日本勢、そのなかで我々は『Prius』で先頭を走ってきたとの強い自負を持っています。この次世代自動車普及の背中を押したのが、私自身、ZEV定義と規制には賛成できませんが、カリフォルニア州ZEV規制であったことは間違いないと思っています。『Prius』を筆頭に次世代自動車普及のアーリーアドプターとしてハリウッドのセレブ達やシリコンバレーなど西海岸の人たちからの強いサポートがあったことを忘れることはできません。

この話題の最中に、ピークオイル論ならぬ、ハイブリッドピーク論が話題になっています。*

*  Could U.S. Hybrid Car Sales Be Peaking Already–And If So, Why?

「アメリカのハイブリッド車販売は既にピークをすぎたのか、それは何故か?」

16 June, 2014 Green Car Report

http://www.greencarreports.com/news/1092736_could-u-s-hybrid-car-sales-be-peaking-already–and-if-so-why

 

ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車含めた次世代自動車の2013年販売シェアは僅か3.8%、このうちプラグインハイブリッド、電気自動車併せて0.6%と比率としては増加していますが、ノーマル・ハイブリッドを押しのけコンベ車に置き換わっていく勢いはありません。

折しもトヨタは年内の水素燃料自動車販売を発表しましたが、電気自動車=ZEVの代替候補として実用化の暁にはクルマの航続距離に優れた水素燃料電池自動車の実用化支援活動をリードしてきたのも加州です。まだ、水素燃料電池自動車普及へのハードルは高く、これが『Prius』を名乗ったり、ポスト『Prius』になるには時間だけではなく、技術ブレークスルーも必要ですが、このアーリーアドプターマーケットも加州が務めてくれることは間違いないと思います。

しかし、いつになるか判らない水素燃料電池車普及の前に、全米で僅か3.8%のシェアの次世代自動車シェアを拡大していくには、やはり加州のユーザーにアピールでき、また環境性能としても電気自動車、水素燃料電池車と競合できる、ハイブリッドピーク論をぶっ飛ばす次の先進『Prius』出現に期待したいところです。

 

 

VVT-iによるプリウスのエンジン起動・停止ショック対策

エンジン起動・停止ショック対策の切り札だったVVT-i
初代プリウスの1.5リッターエンジン、1NZ-FEからハイブリッドエンジンの定番として採用されている可変機構の一つがVVT-i(Variable Valve Timing Intelligent)と呼ぶ、吸気弁のカムタイミング連続可変機構です。VVT-i機構は今では、トヨタのガソリンエンジンのほとんど全てに使われる標準品となっていますが、初代プリウス当時は高級エンジンの一部に採用されている程度でそれほどポピュラーではありませんでした。また、初代プリウスでも最初の計画段階からこのVVT-iの採用を決めていたわけではありません。

初代プリウスの新型車解説書には、VVT-i採用の狙いとして
① 低速トルク向上
② 燃費向上
③ エミッション性能向上
④ 始動時の振動低減
と書かれていますが、急遽採用を検討した決め手は④のエンジン始動時の振動低減でした。
1995年12月にハイブリッド専用車として2年後の1997年12月に販売開始をめざし量産プロジェクトの号令がかかり、エンジン、駆動、制動、シャシーなど様々な設計部隊、また車両性能、機能の評価部署に評価検討用の試作車が配られ始めたのが次の年の4月頃からでした。そうなると、さまざまな大問題が至るところから報告されるようになりお先真っ暗になったのがこの時期です。その大問題の一つが、走行中のエンジン起動、停止の度に大きなショックが発生し、そのつどクルマがゆさゆさと揺れ、とても商品のクルマには程遠い状況でした。さらに、エンジン起動のタイミングが悪い場合には、エンジントルクを遊星ギアに伝えるインプットシャフトがボキッと折れたり、ハイブリッド・トランスミッションを支えているマウント固定部のケーシングの破損まで引き起こす状態でした。この救世主の一つがVVT-iの採用でした。

初代プリウスの最初の広報資料にはVVT-iの項として
『吸気タイミングを、VVT-I (Variable Valve Timing-intelligent)により運転条件に応じて
きめ細かく呼応させることで、常に最大の効率確保を図りました』の記述しかありませんが、決め手はエンジン起動停止のショック対策でした。しかし、当初はタイミング固定の従来方式での高膨張比アトキンソンサイクルエンジンの企画でしたが、その固定タイミングの高膨張比エンジンでは両立が難しかった低温時のエンジン安定性確保やその後のエンジン出力向上にも効果を発揮しました。このVVT-iの採用は、エンジンチームの発想です。ショックの要因解析を行い、さまざまな対策を検討しまくった上ででてきたアイデアでした。その効果が確認されると時を移さず量産設計に入り、このクラスのエンジンでは初、さらにハイブリッド専用の機構を加えて量産化に漕ぎ着けることができました。もちろん、このVVT-iの適合だけで全て解決した訳ではありません。エンジンを回し、止める発電機の制御、トランスミッションの捩りタンパー設計、過大トルクを防ぐストッパー、エンジン、トランスミッションを支えるマウント位置の見直しなど、クルマ全体での対策の集大成でした。

140612Blog図
この中で、項目2番目のエンジン始動時および停止時と1項目と同じ運転状態を示す部分が通常運転時のEV走行からのエンジン起動、エンジン運転中からの停止時のVVT-i制御の説明です。吸気弁を最進角側、図の下にあるバルブタイミングのイメージ図にあるように、排気弁ばまだ開いている状態で吸気弁が開着始めるように、吸排気弁がどちらも開いている状態、所謂バルブオーバーラップ状態が長くなるように制御しています。この状態では、シリンダー内の燃焼ガス圧力はまだ高く、この状態で吸気弁を開くと圧力の高い燃焼ガスは吸気バルブから吸気ポート側に逆流してきます。次にその逆流した燃焼ガスをまたシリンダーに吸い込み、吸気弁をオーバーラップが大きくなるように進角したことにより、吸気弁を閉じるタイミングを早め、新しい空気の吸い込み量を少なくしています。この燃焼ガスを再吸入させ、また新しい吸入空気を減らすことにより、次の圧縮抵抗を小さく抑えることができます。これで圧縮抵抗によるショックを押さえ、ショックが大きくなるエンジン低回転にある共振域を素早く通過させてショックをこの共振によってショックが大きくなることを防ぐことができました。燃料を噴射し、点火させるのはその共振域を通過させてから行います。これ以外にも、冬の低温時の冷間始動性を向上させるタイミング制御、スロットル弁全開条件でエンジン出力を高めるタイミング制御など、当初のショック対策だけではなく、ハイブリッド実用化には欠かせないエンジンデバイスとなってくれました。

10代目クラウンに最初に採用されたVVT-iがプリウスへ
手前味噌ですが、このプリウスハイブリッドの救世主になったVVT-iですが、私のエンジンR&D担当時代に開発をマネージしたテーマの一つです。トヨタは可変動弁系の最後発、トヨタが採用していたエンジンの動弁機構では、三菱自のMIVECやホンダのVTECのようなカムの切り替え方式の採用は非常に困難でした。そこから、いろいろあって1995年にフルモデルチェンジした10代目クラウンの3リッタ直列6気筒エンジンに採用したのが量産のスタートでした。これもまたプリウスハイブリッドを世に送り出すことができたラッキーな巡り合わせであったように思います。現在では、排気バルブもタイミング制御を行う吸排VVT-i、電動VVT-I、さらにVTECなどバルブ機構切り替え方式とタイミング切り替え方式の併用、バルブ作動休止機構との組み合わせなどが実用化され、可変動弁機構は現代エンジンとして欠かせない標準デバイスとなっています。

MIVEC、VTEC、VVT-iなど可変動弁機構は出力競争、低燃費、排気のクリーン化の現代ガソリンエンジン進化を競い合った中でコア分野の一つでしたので、可変動弁機構では当時やや他社に遅れをとったトヨタでどのような議論があり、どのような検討をおこないVVT-iに収斂していったのかなども次の機会にはお話していきたいと思います。

その議論の先、この可変動弁機構の発展に、次のガソリンエンジンの進化も見えてくるように感じています。

プリウスの回生ブレーキ ーその2

本格回生協調ブレーキECB(電子制御ブレーキ)
一週空いてしまいましたが、引き続き、プリウスの回生ブレーキを巡る開発エピソードをお伝えしたいと思います。先回はカックンブレーキと言われてしまった回生協調ブレーキチューニングの顛末を取り上げました。回生量を増やすにはギリギリまで油圧ブレーキ作動への切り替えを遅らせ、回生制動割合を増やすだけではなく、回生の取り代を減らすこととなるブレーキ引きずりの低減にも従来車ブレーキ以上に厳しい目標設定をおいて取り組んでもらいました。このブレーキ屋さんや車両評価の人たちとの共同作業とその時の議論がその後のさまざまな進化に繋がりました。
まず、2000年のマイナーチェンジでカックン感の改善を行い、同時に回生・油圧の切り替え適合で燃費向上を果たしました。次の本格的な進化は2003年二代目プリウスに向け開発した本格ブレーキ・バイ・ワイヤ、文字通りの回生協調ブレーキと言える電子制御ブレーキECBです。中速域からの加速ならば、回生優先、このECBの採用で大幅な燃費向上を果たすことができました。図に初代と二代目での制動力に対する回生・油圧分担割合と、回生効率比較を示します。回生効率とは、空気抵抗やタイヤの転がり抵抗で回収できない減速エネルギーを除き、理論上回収できるエネルギーのどれくらいを実際に回収したかの比率としました。初代の10-15モードでは、38%程度だった回収効率が、二代目では倍近い72%程度にまで向上しています。
140605ブログ図表_ECB回生効率
アメリカ、欧州の最高速度が高く、減速度も10-15モードよりも大きな公式都市走行モードでも大幅な向上を果たしています。初代では強力な電池を搭載していてもエネルギー回生では十分にその容量を生かし切れなかったとも言えます。また、10-15モードぐらいの車速域と減速度なら、回生協調ブレーキを使わなくともアクセルペダルから足を離した状態のエンジンブレーキ相当の回生で十分との意見もありましたが、やってみるとそれでは不十分でした。特に実走行では公式モード通りの運転をしている訳ではありませんので、アクセル全閉、いわゆるエンジンブレーキ相当の減速度を強めると、無意識に車速を落としてしまい、車速維持のためにアクセルまた踏むといったオン/オフ運転を繰り返してしまうことがあります。こうしたオン/オフ運転では燃費を大きく悪化させてしまいます。この状態こそ、回生協調ECBの独断場、ブレーキで車速コントロールしながら広い領域でエネルギー回生を行うハイブリッドのポテンシャルの高さを感じたのも、初代から二代目のECB採用での開発でした。

Bレンジのエンブレの効き
また、初代ではBレンジに入れてもエンブレの効きが悪いとのお叱りもいただきました。今の設計指針、法規が当時からどう変わってきているのかわかりませんが、初代~二代目ではBレンジの減速度の上限として、長い下り坂などで電池が満充電状態でもエンジン空転で消費できる発電量としました。どんな状態でもエンブレ状態の制動力を変化させないことを指針としたため、Bレンジで電池満充電では、エンジンの許容最高回転数での空転が上限です。このため、満充電となるとエンジン回転数を発電機でつり上げて高めていました。初代ではこのエンジン許容最高回転数も熱効率を高めるため4,000回転/秒と低く設定していましたので、これが上限、このためBレンジでもDレンジとさほど差がつかない減速度しか使えなかったというのがその顛末です。エンジン最高回転数を2000年のマイナーで少しあげ、2003年二代目で5,000回転/秒まで上げた理由が、エンジン最高出力を高める他にこのBレンジでのエンブレの効きを良くしようとの狙いがありました。
エンジンでは、アイドル運転時の発生トルクが駆動トルクの下限、微妙な駆動力コントロールはできません。この点、モーターは出力側から、回生制動力までリニアにさらに精密に駆動/制動力を制御できます、初代ではこのポテンシャルを使い切れませんでしたが、スキッドコントロール、トラクション、オートクルーズなど駆動/制動力をリニアに精密に制御することのポテンシャルの高さを感じたのも、ブレーキ屋、車両屋、エンジン屋、駆動屋と共同開発作業、チューニング作業をおこなった初代~二代目の開発での思い出です。
まだまだ、電気駆動/回生制動のポテンシャルを突き詰めきれてはいなとの感じながら、開発エンジニアをリタイアしました。その後の進化が少ないことが気掛かりです。

プリウスの回生ブレーキ ー その1 

燃費3倍をめざすハイブリッド探索から燃費2倍プリウスの開発へ
何度かこのブログで紹介しましたが、プリウスの前身、21世紀のスタンダードカー・スタディーをスタートさせたのが、1993年秋、社内コードG21です。このときにチームの依頼でエンジンチームが燃費シナリオ検討を行い、コンベ(従来車)技術で10-15モード燃費50%なら達成可能とのスタディ結果だったそうです。G21チームはこの燃費50%向上を車両開発目標として、当時の技術副社長和田さんに提案したところ、「やるなら燃費2倍、それでなければ止めておけ」と言われたエピソードはいくつかのプリウス本で紹介されているとおりです。この目標を達成するには、もうハイブリッドしかありません。急遽ハイブリッド前提での燃費2倍を達成するシステム選定が行われ、その結果選びだしたのが今のトヨタハイブリッド車全車種が採用している、2モーター方式、遊星ギアにエンジン、発電機、駆動モーターをつなげるTHS方式です。
このG21のスタディーとは別に、パワートレーングループが発足させたハイブリッドチーム(BRVF)に和田さんが与えた宿題が燃費3倍を実現するハイブリッドの探索です。この裏話を昨年のブログで紹介しました。
(2013年8月コーディアブログ http://www.cordia.jp/wp/?m=201308)

BRVFチームは、燃費3倍をターゲットに、考えられる限りの様々なハイブリッド構成とアトキンソンサイクルエンジンなど低燃費技術シナリオを入れてスタディーを進めたものの、燃費3倍の実現は困難、車両軽量化や空力改善を入れても燃費2倍強が限界との結果だったようです。BRVFスタッフ達が、和田さんからの爆裂弾破裂を覚悟して恐る恐る「燃費3倍は無理、燃費2倍強が限界」と報告したところ、「よくやった、その目標で次ぎはプロト開発に入るように」と指示をされたとの裏話を聞いています。「燃費50%程度を目標とするならG21は止めてしまえ!」とおっしゃった和田さんの頭の中には、すでに燃費2倍ならハイブリッドでやれるとの報告が入っていたことは間違いありません。このブログで何度もご紹介したトヨタの諸先輩がた、特に今も語り継がれる名車を作り上げられた車両主査のお一人、和田さんらしいエピソードです。

燃費2倍にはフルハイブリッドが不可欠、ブレーキ屋さんには苦労をかけました
この「ハイブリッドなら燃費2倍強はやれるかも?」の根拠の一つが、停車中のアイドルストップどころか、低中速の走行時には運転効率が極端に悪化するエンジンを止め、モーター走行をさせるフルハイブリッド(ストロング)とも呼ばれるハイブリッドと、今日の話題回生ブレーキの採用です。燃費3倍の探索からスタートしたプロジェクトですので、以前に実用化経験のあるエコランでも、また回生の取り分が少ないマイルドハイブリッドは検討対象には入っていませんでした。

当時の日本10-15モードだけでの「なんちゃって燃費2倍」を目指したわけでもありません。グローバル21、アメリカの公式燃費も欧州の公式燃費も探索の対象に入れると10-15モード領域だけではなく、広い車速域でのエンジン停止EV走行と減速回生ができるシステムを目指しました。

10-15モードの燃費2倍はそれほど難しいターゲットではなかったはずが、最初のプロトでの燃費試験結果は惨憺たるありさま、リッター20キロを切るレベルでした。この理由の一つが、スタディーに使った発電機とモーターの効率マップが僅かの計測点から鉛筆を嘗めて作成した実際とはかけ離れたものであったことがわかりましたが、後の祭りでした。エネルギー回生の取り代を過大に見込んでいたことになり、この回復を図らなければ10-15モードですら燃費2倍は見えてきません。少しマージンがあったはずが、当て外れでした。

燃費シミュレーションで見込んだ回生量を稼ぐことを前提に、ハイブリッド電池が受け入れられ限り目一杯の減速回生、停車の寸前で油圧ブレーキに切り替える油圧ブレーキ屋さんにとっては無理難題のチューニングをお願いしました。それまでの電気自動車ではそこまでの減速回生はやっておらず、エンブレ相当まで、ブレーキを踏むと中速域から油圧ブレーキに切り替える方式だったと思います。それを、アクセルペダルから足を離し、ブレーキペダルを踏み始めても回生を続け、止まる寸前に油圧ブレーキに切り替えないと燃費2倍で見込んだエネルギー回生はできません。いわゆる、高度な電気回生と油圧ブレーキの電気-油圧の回生協調ブレーキシステムを必要とする要求です。ブレーキ設計担当も、初代はそこまでの高度な回生協調ブレーキの経験はなく、油圧ブレーキのチューニングでやれる範囲と考えていたと思います。油圧・回生協調ブレーキの開発の第1歩は、エンジニアの回生協調、油圧ブレーキエンジニアを派遣してもらい、ハイブリッドエンジニアとの共同チームによる制御系の摺り合わせからスタートしました。
油圧ブレーキ系ハードはこの開発日程ではほとんど変更の余地はありません。回生域は拡大、そこから油圧への切り替えを車両のチューニングでやるしかありませんが、その車両とハイブリッドが商品車としてのチューニングに入れる状態になったのは量産トライ寸前の1997年夏の頃です。

その苦労が本格的なブレーキ・バイ・ワイヤECB2の実用化を加速?
燃費2倍実現を目指す公式試験の申請諸元はほぼ決めており、回生領域拡大は必須、あとはブレーキ部隊のチューニングの詰めに期待するしかありません。ギリギリまでがんばってくれましたが、チューニングだけでは十分なレベルにはならなかったようで、初代の立ち上がりではカックンブレーキと言われてしまいました。無理な適合を押しつけ、チューニングの詰めの段階でも、まともなクルマを提供できなかったことなど、今もブレーキ屋さんに申し訳なく思っています。しかし、開き直ると、この「カックンブレーキ」が本格的なブレーキ・バイ・ワイヤのシームレスに回生・油圧切り替えを行う2代目プリウスに採用することになる電子制御ブレーキシステム[ECB2: Electronically Controlled Brake System 2]の開発を加速させることになったと言えるかもしれません。ジャーナリス試乗会でカックン感を指摘されると、「すぐ慣れますよ!」とか「ブレーキ操作が荒いからですよ!」などと嘯いていましたが、ブレーキ担当のメンバー達には口惜しい思いをさせてしまいました。

従来のエンジンと機械変速機の組み合わせでは実現できなかった、クルマを加速させ、巡航運転を行う駆動力から停車させるまでの制動力までモーターとECB2によるシームレスなコントロールの将来性に目を開くことができました。

モータ・発電機のとんでもなく高い効率マップを提出したモーター開発スタッフには大きな貸しを与えましたが、これまた2000年のマイナー、2003年二代目プリウスTHSIIと着実に効率を高め今ではそのとんでもない効率を実現し、ECB2との回生協調の進化によりエネルギー回生効率も当時では考えられなかったレベルを達成しています。このあたりは、次の機会にご紹介したいと思います。

IPCC5次レポートと将来自動車の低CO2

IPCC5次レポートが順次公表中
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、2007年の4次レポートの次として5次レポートのまとめをおこなっています。IPCCには、パネル議長(パチューリ氏:インド)のもと①第1作業部会(自然科学的根拠)②第2作業部会(影響・適応・脆弱性)③第3作業
会(気候変動の緩和)と国別の温暖化ガス排出データーベースの算出方法をまとめ、管理する温暖化ガスインベントリー・タスクフォースの4つの専門家グループが研究のとりまとめをおこなっています。
環境省HP: http://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/index.html
気象庁HP: http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/index.html

IPCCは国際連合環境計画(UNEP)と国際連合の専門機関である世界気象気候(WMO)が共同で1988年に気候変動とその対策研究の機関として設置した国際機関です。1990年に発行した第1次評価報告書から数えて今回が5回目、昨年9月の第1作業部会の評価報告書を皮切りに、第2作業部会、第3作業部会の評価報告書が発表され、今年の10月にはコペンハーゲンでのIPCC総会で総合レポートは発表される予定です。4月13日ベルリンで開かれたIPCC総会で発表された緩和策をまとめる第3作業部会報告書では、政策決定者向け要約が承認・公表されています。各国の政策執行に強制力をもつものではありませんが、このレポートをベースとして緩和に向けての国際条約がCOP(気候変動枠組み条約締結国会議)で議論されますので、そのとり纏めも政治色が入り紛糾したようです。

IPCC 1次レポートが後押ししたプリウス・ハイブリッドの開発
ハイブリッドプリウスの開発も、この1990年に発行されたIPCC第1次レポートの影響を受けスタートしたと言っても良いと思います。この第1次レポートを受けて1992年6月にブラジル、リオで開催された地球環境サミット(環境と開発に関する国際連合会議:UNCED)で採択したのが地球温暖化問題に対する国際的な取り組みを約束する条約、国連気候変動枠組み条約です。この採択に触発され、低カーボンを目指す21世紀の自動車のスタディープロジェクト、社内コードG21をスタートさせたのがハイブリッド車プリウスにつながりました。

トヨタハイブリッド累計販売600万台は通過点、低CO2車普及が急務
しかし、5次レポートにもあるように、世界全体の気候変動緩和への取り組みは遅々として進まず、当時よりもさらに影響が顕在化し、このままでは今世紀末には平均気温として4度以上の上昇となると予測しています。現在の1度上昇程度でも、大きな気候変動を招いていますので、4度上昇の影響ははかりしれません。もちろん自動車だけの問題ではありませんが、主要な排出源の一つである自動車からの排出低減、すなわち低燃費自動車の普及をさらに加速させる必要があります。トヨタ・ハイブリッド車累計600万台達成と浮かれているわけには行きません。もちろん、ハイブリッドを含め、いずれは化石燃料を使い続けることはできません。しかし、電気自動車も水素燃料電池自動車も、充電電力の発電に、また水素の製造過程では、風力、太陽光、水力などリニューアブル発電を使わない限りはゼロCO2にはなりません。また、自動車部品の材料採掘、生成、製造過程、さらに自動車の生産過程から廃車までのCO2も考慮にいれその削減を計る必要があります。

最初は10-15モード燃費2倍がやっと、いまなら実走行燃費3倍が目標?
もちろん、ゼロCO2自動車を目指して研究開発に力を注ぐことは必要ですが、今の最重要テーマは内燃エンジン車の実用的な低CO2車をさらに進化させ、その普及を加速させることです。ハイブリッドはその実用低燃費技術の一つです。プリウスは当初は10-15モードでの燃費2倍がやっとでしたが、描いていいた目標は当時も実走行燃費2倍でした。いまではそれにあと一歩まで迫っていると思います。ハイブリッド用エンジンの最高熱効率も初代の34%から、3代目プリウスで38%、40%超えは目の前です。モーター発電機の効率も初代プリウスから現在までに大きく向上しています。電池も当時のニッケル水素円筒電池に比べ最新のリチウム電池では、軽量、コンパクトの上に充放電効率が向上し、さらに回生協調ブレーキの進化と合わせ回生エネルギー量を大きく増加させることみ期待できます。エンジン熱効率、モーター発電機効率、電池の充放電効率を高め、伝達効率を改善し、様々な損失を減らし、さらに車両軽量化、空力改善も加えていくと実走行燃費3倍、燃料消費1/3もあながち夢ではないのではと現役の連中をけしかけています。燃費3倍でも、削減率では67%程度、それも走行過程だけの削減率ですが、ここまでくるとクルマの一生で比較しても今の電気自動車よりも低いCO2排出になるはずです。

日本の実用低燃費技術、低CO2技術を世界に
IPCC5次レポートによると、各セクターともこの程度の削減率では足りず、またCO2削減の国際合意が遅れれば遅れるほど、後々の削減率を高める必要があり、場合によっては排出量を上回る削減、大気中のCO2を回収して固定化することまでシナリオに入り初めています。しかし、やれることを着実にやることが肝要、その意味ではクルマの低燃費化は、ハイブリッド技術の採用まで視野に入れて迫ってきたコンベ車(従来エンジン車)を含め、メニューはまだまだあると思います。さらに、モータリゼーションが進んできている発展途上国への低燃費技術の移転もまた、われわれの責務です。

自動車セクター以外では、電力のCO2が気掛かりです。3.11前は、ハイブリッドの先に低CO2電力での夜間充電を前提にプラグインHV普及のシナリオを描いていましたが、このシナリオが崩れてしまいました。IPCC5次レポートへも3.11福島第1事故は影響を及ぼしたようで、原子力のリスクに言及しています。リニューアブルだけで乗り切れないことは明らかで、これまた先が見えないCO2固定、貯蔵(CCS)をプライオリティの高いシナリオに入れてきました。いずれにしても、すこしでも具体的な低CO2に向かって知恵を出すのが日本の役割です。

日本初の自動車リコールとAT車のエンスト問題

先月の中日新聞に、『トヨタの系譜 時流の先への』第2部 「危機の教訓」が連載されていました。全国版ではありませんので、読まれた方は少ないと思いますが、この第2部は予期せぬ加速問題とプリウスブレーキリコール問題の顛末が主題です。騒ぎが大きくなり章男社長が米国連邦議会の公聴会に呼ばれ証言をし、不具合”がまだ疑いだけの段階でこの公聴会でも取り上げられ、当時の運輸大臣ラソーダ氏のトヨタバッシングとなる「トヨタ車はお勧めしない」とのフライング発言までありました。この電子制御系不具合による暴走問題は、その後の米国ハイウエー運輸安全局(NHTSA)と航空宇宙(NASA)の専門家達による合同調査で疑いが晴れましたが、これがハイブリッド車の普及に大きなマイナスになってしまいました。この記事は、章男社長の公聴会での証言とその後の米国トヨタディーラー激励会での涙、CNNライブでのやりとりから、さらにNHTSAとNASAでの調査結果まで取り上げられていました。この2部の最後、5月1日号に私のコメントが紹介されていました。インタビューを受けたのは、マスキー法からプリウスまでの取り組みで、その中でお話したその後の自動車エンジニアの原体験となった日本初の自動車リコールが取り上げられていました。わずか1行の紹介でしたが、その話を取り上げた記者の方が掲載された一連の新聞を送ってくれました。
今日の話題は、この日本リコール届け出第1号の話題と、自動車の重大不具合として今週メディアで話題となったオートマ車のエンスト問題です。

日本の自動車リコール第1号
日本に自動車リコール制度は、1969年6月に運輸省(現国交省)の通達でスタートしました。第1号がトヨペットコロナRT40のブレーキ配管腐食によるクラックからブレーキフルッドが洩れ、ブレーキ失陥を引き起こす重大不具合でした。丁度その年の4月にトヨタに入社しました。集合教育の後、工場実習を終えると6月から、各地の販売店に派遣されサービス実習・セールス実習が始まります。私も出身地の札幌でサービス・セールス実習を行いました。リコール届け直後のサービス実習では、受け入れ先の販売店さんにとってトヨタ自動車からの実習生は飛んで火に入る夏の虫、1カ月のサービス実習の全てが、市内を歩き回りリコール該当車を探し回る仕事でした。RT40コロナを見つけると、床下を覗きブレーキ配管にブレーキフルードの滲みがないかを確認し、該当車のワイパーにリコール修理呼び込みのパンフレットを挟んで回る仕事です。まだ、学生気分が抜けず、また北海道とはいえ暑い時期、不平たらたらで歩き回った記憶があります。これが、中日新聞で取り上げられたエピソードです。

この実習を終え、トヨタに戻り、2度目の工場実習を終えるといよいよ職場配属です。私の配属先は、駆動ユニットと制動ユニットの設計担当の駆動設計課、ブレーキ・リコールの責任設計部署でした。まだリコール対応のまっただ中、TVコマーシャルでリコール告知と修理持ち込みのお願い、リコールのお詫びが流れていました。そのリコール内容の説明役が直属課長、日頃指導を受けている課長がTVで頭を下げ、技術説明を懇切丁寧にされている姿を見て、自動車会社の責任、設計担当の責任の重さを思い知らされました。駆動設計ではリコールを引き起こすような大チョンボはやらずに済みましたが、単発のチョンボ設計は何度かやりました。上司から叱責を受けた記憶はありませんが、そのちょっとしたチョンボがお客様にご迷惑をおかけし、販売店サービスを苦労させたことに、やった自分自身が一番堪えました。このリコール第1号のサービス現場体験、そのリコールフォローに飛び回る配属先の臨場感、そして自分が引き起こした設計不具合の影響の大きさ、この時期の体験がそれ以降の自動車エンジニアとしてのスタートポイントになったように思います。

排ガスリコールとエンジン適合不良によるエンスト不具合
クリーンエンジン開発担当時も、リコールは身近な話でした。米国で排気規制を管轄する環境保護庁(EPA)は、規制をしっかり守っているかチェックする経年車のエミッションサーベイ試験をやっていました。この成績が悪いとリコールを命じます。1970年代~80年代では、米ビッグ3の成績が悪く、度々排ガスリコール命令が出ていました。排ガスリコールは何年か売り続けた経年車が対象ですから、ビッグ3のメイン車種となると対象台数は半端ではありません。当時のリコールで1回あたり数百億が吹っ飛ぶ規模です。トヨタの米国主力車種、カムリやカローラがリコールを起こすとこれまた半端な台数ではありません。量産設計の担当ではありませんでしたが、1990年からは米国向けの全ての車種のエンジン排気システム諸元を決めるリーダとなり、エンジンの品質問題、排気システム品質確保、重大不具合の未然防止は最優先マネージテーマでした。トヨタはこの排ガス品質では優等生、1990年代まで排ガスリコールはありませんでしたので、開発担当としてはこのリコール・ゼロ継続も大きなプレッシャでした。1980年代から仲間内ではリコール・ゼロの継続が話題で、自分の担当でゼロを打ち止めにはしたくないと我慢競争をしていたように思います。エンジン制御も担当しましたが、これもまたリコールに直結する重大不具合との関わりが大きい分野です。排ガス品質を確保できたとしても、ギリギリのエンジン制御適合でエンスト、ショック、もたつき、サージ振動といったドラビリ不具合を起こしてしまうとこれまたお客様にご迷惑をおかけする市場不具合となります。このドラビリ問題の中で、適合評価で気を遣ったのがオートマ車のD/Rレンジ・エンスト不具合です。これが今日のもう一つの話題です。

今のガソリンエンジンは全て電子制御燃料噴射エンジンです。長い期間使った経年車では、空気を送り込む吸気バルブにカーボンやオイル中の固形分がたまり、噴射した燃料がトラップされ不整燃焼が起きやすくなります。さらにガソリンが揮発性の高い冬用から揮発性の低い夏用に切り替わる時期でマーケット上限の揮発性が低い夏燃料を用い、急なスロットル操作をやると適切な燃料が供給されず、不整燃焼が起きやすくなります。これに、P/Nレンジから急にDレンジに入れ、同時にアクセルのチョイ踏み、さらにDレンジのままアクセルのon/off操作で坂道をずり下がる、途中でDからRに切り替えるなど、不整燃焼、エンストを起こし易い意地悪操作をいやというほど繰り返し、耐エンスト性の確認とエンスト不具合の未然防止適合を行うのが通例でした。いかに経年車とはいえ、マーケットでエンスト不具合を起こすのはエンジン開発屋の恥との感覚だったと思います。

なぜ今頃ガソリンオートマ車のエンスト問題?
最近このガソリンAT車のエンスト不具合問題がメディアで話題となっています。この切掛けは、3月に交通安全環境研究所が国交省の委託調査としておこなった-「エンジン停止走行」に繋がるおそれがある事象に関する調査-なるレポートです。
http://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/common/data/201403_report.pdf
国交省がこのレポート結果を公表し、自動車のリコール・不具合情報サイトで再現ビデオを付けて紹介しています。http://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/carsafety_sub/carsafety027.html
これをメディアが一斉に取り上げたのが今週です。

誤操作による急発進や、逆走を防ぐために、AT車やハイブリッド車では、P/Nレンジ、システムによってはさらにブレーキを踏んでいる状態でのみエンジン始動やモーター駆動力が発生するように設定しています。D/Rレンジではどんな意地悪操作であろうが、エンストは起こさないことが前提で始動シーケンスをを組んでいます。ですから、この状態でエンストが発生すると、P/Nレンジに入れ直し、ブレーキを踏み始動操作をやり直す面倒な操作を要求しています。この状態でエンストが起きると、通常のガソリン車ではパワステの油圧が低下しパワステが効かなくなり、またブレーキ油圧もエンジン回転でポンプを回し発生させていますので、油圧低下をきたしブレーキが効かなくなるケースも発生します。この状況に陥るとドライバーがパニック状態に陥ることも開発では考慮に入れる必要があります。何よりも、エンストさせないことです。

無理な低燃費適合も遠因では?
国交省のリコール・不具合情報サイトでは、ドライバーの操作についての注意喚起になっていますが、低燃費競争のなかで、エンスト防止への適合評価がおろそかになっているのではとの心配をしています。燃費のために、アイドル回転数を下げるとエンストしやすくなります。またATのトルコンも、動力伝達効率を高めるため滑りの少ないタイトなものを採用する方向、これもエンストしやすくなります。カタログ燃費競争が激しくなるなか、AT車でエンストを起こす適合は恥との感覚が薄くなってはいないでしょうか?安全が何よりも最優先です。

プッシュボタンスタートの流行にも?
また、二代目プリウスから採用したプッシュボタンスタートが、コンベ車にもどんどん採用されるようになってきました。この誤操作としてエンジンが起動していない状態で、D/Rレンジに入れるとそれが坂道なら走り出してしまう不具合も報告されています。この状態では、パワステ油圧もブレーキ油圧も発生しておらず、どちらも効かずパニックに陥ってしまうケースが紹介されています。このプッシュボタンスタートの採用も、プリウスが採用してからの流行として安易に採用していないでしょうか?二代目プリウスでスマートスイッチは車両主査グループからの採用要望でしたが、われわれハイブリッドチームも不具合防止、ご誤操作防止、誤操作時のパニック操作、その時の挙動分析を何度も何度も行い、採用を決めてきました。ハイブリッドだから、全くこのようなエンスト、パワーシャットダウン不具合がなかったと言うつもりはありません。部品不具合でのシャットダウン、エンストでお客様にもご迷惑をおかけしました。しかし、適合不良としてのエンスト、シャットダウン不具合は現役時代には起こしませんでした。自分が適合作業をやった訳ではありませんが今でもリーダとしての誇りです。
中日新聞で取り上げていた、プリウスの電子制御が疑われた予期せぬ急加速問題のNHTSAとNASA専門家調査で白となった背景にも、プリウスの途中から入れた簡易ドライブレコーダーのデータ解析が決め手になったと書かれていました。バイ・ワイヤ制御が不可欠のハイブリッドで何か重大不具合が起こった時の原因究明に役立つかもしれないと、修理書にも記載せずこっそりと入れた機能でした。

何度もこのブログで書いているように、安全がなによりも優先、排気クリーンはもちろん低燃費とも、いわんやコストとのトレードはやってはいけないことを肝に銘じて欲しいと思います。知恵を絞ってトレードオフポイントを高い位置に引き上げるのが技術進化です。