トヨタハイブリッド車累計販売600万と電動自動車の未来

昨日、私にとってうれしいニュースが飛び込んできました。すでに新聞で報道されているように、トヨタハイブリッド車の世界累計販売台数が昨年の12月末で600万台を突破したとのニュースです。以前のブログで、昨年3月末に達成した累計販売台数500万台記念の現役、OB含めたハイブリッド開発の仲間たちのパーティーを取り上げましたが、次の100万台まで9カ月、ピッチをさらに速めての達成です。正確な数字は掴んでいませんが、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車といった電動自動車の世界累計販売台数もまた1,000万台突破もまもなくと思います。

トヨタのハイブリッド車販売のスタートは1997年12月発売の「プリウス」ではなく、その年8月に発売を開始したミニバス「コースターハイブリッド」ですが、これは少量販売にとどまり短い期間で生産も停止していますので、この600万台のうち半数以上を占める「プリウス」がリードしてきたと言っても良いでしょう。

図1
図は1997年からのトヨタハイブリッド車の販売経過です。

1997年のわずか300台程度からスタートし、100万台までに118カ月、約10年かかりましたが、次の200万台からは各100万台増加に27、18、14、11ヶ月とピッチを速め、昨年3月末に到達した500万台から600万台まではわずか9ヶ月で到達しています。お買い上げいただいた全部のクルマが生き残っている訳ではありませんが、このクルマが自動車低CO2の牽引役を果たしていると思うとエンジニア冥利につきます。

電動化に先行する日本、海外でもやってくる

ただし、日本ではハイブリッドやEVなどの電動自動車販売シェアが20%を越えましたが、アメリカでは今年も昨年に続き販売新記録となったもののまだまだ3.84%のシェアにしかすぎません。

今、デトロイトで北米自動車ショーが開催されていますが、ロイター通信の論調は「エコよりもパワー」に回帰かとの見出しで、フォードF150、GMシルベラードといった販売が好調な大型ピックアップトラックの新型車をとりあげています。

中身をよく見ると、その大型ピックアップトラックもダウンサイジング過給、軽量化、アイドルストップの採用といった低燃費メニューが並び「エコ」はあたりまえになっており、その上でカウボーイハットが似合うアメリカのガラパゴスカーの大型ピックアップですら低燃費が社会のまたユーザーのアピールポイントとなってきており、「エコよりパワー」とは反対に着実に燃費意識が定着してきた証拠のように思います。

中国も新車販売がとうとう2000万台を突破し、世界全体でみると自動車販売はさらに拡大を続け、保有台数が増加しています。

こうした状況では、トヨタハイブリッド車累計販売600万台到達、世界の電動車両累計販売1,000万台到達といって浮かれている訳にはいきません。自動車の走行でのCO2排出にまず歯止めをかけるには、どんなタイプであれ自動車の電動化を加速させる必要があります。

トヨタのハイブリッド車を販売している国は80ヶ国に拡大していますが、国別シェア、台数でみるとまだまだです。さらに新興国では廉価な小型大衆車クラスの電動化もまた求められています。そのためにも、電動化部品および車両の現地化も必要です。

ハイブリッド、EV、燃料自動車はライバルでは無い

昨日、お台場の東京ビッグサイトで開催されている「カーエレクトロニクス技術展」「EV・HEV駆動システム技術展」を見てきました。日本の自動車電動化を支える部品技術、材料技術、計測技術、生産技術各社がブースを出していましたが、その広がりと熱気が大変印象的でした。

一般の見学者が多い、他の環境展やスマート何とやら展とは違い、実際にモノ造り、ビジネスにかかわる専門家が多い印象で、各ブースで熱心な商談、営業活動が行われ、また中国、韓国他、海外の参加者も目につきました。

この17年、トヨタハイブリッド車累計600万台がけん引役を務めました。自動車電動化を支える日本の部品、材料、計測機、開発ツール、生産機械がここまでに広がってきたことに口火を切る役割を務められたことを、少し自慢がしたくなりこのブログに取り上げました。

もちろん、感慨に浸り立ち止まっていてはこの激烈なグローバル次世代自動車競争を日本勢が勝ち抜き、生き抜いていくことはできません。

巷では、その発信源がどこかは判りませんが、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、さらに水素燃料電池自動車をあたかもコンペティター関係にあるかのように対比、オン/オフ比較して語られているように思います。

さらにハイブリッド自動車と昨今の欧州勢のアプローチ、直噴過給ダウンサイジング、デュアルクラッチ多段変速機、アイドルストップ、気筒停止の低燃費車両を、これまたコンペティター関係として対比する論評を見かけます。そのあげくに、ハイブリッドは日本のガラカ―?などとのまで言われたこともあります。これはミスリード、不本意です。

電動化が将来自動車のコアなのは間違いない

クルマを動かすエネルギーの全部か、一部かは別としてエネルギーの貯蔵源を有効につかって高効率、低CO2を目指す目的は、ハイブリッドも、プラグインハイブリッドも、さらに電気自動車も水素燃料電池自動車も変わりはなくクルマの電動化がコア技術です。使われている技術分野も共通分が多く、そのモーター、インバーター、さらに電池の技術進化、低コスト化が進むといずれもさらにCO2排出を減らすことができます。その手段が電動化です。

またハイブリッドの定義はクルマを直接電気モーターで駆動するパスを持つクルマとなっていますが、ナビもオーディオもインパネ表示も、クルマを動かすための様々な制御もエンジン発電発生するか、充電電池から取り出すかは別としてクルマを動かすために消費しているエネルギーです。このすべてのクルマで消費するエネルギーの効率化を図るのが低燃費のアプローチで、これもハイブリッドでもノンハイブリッドであろうが変わりはありません。できる限りの減速エネルギー回生を行い、そのエネルギーを使ってエンジン停止中の補機、制御系を動かし低燃費化を図る部分が、強いて言うとノンプラグイン車とハイブリッドの違いです。

低燃費車の標準メニューとなってきているアイドルストップでは、その領域を拡大していくと軽自動車の低燃費車競争で競いあっているように、クルマが完全停止する前からエンジンを停止し低燃費効果の拡大が図りたくなります。停車中でもエンジン停止を行うようになると、パワステ油圧、ブレーキ油圧など従来はエンジン回転で駆動していた補機類のエネルギー源確保が困難になりパワステも、ブレーキ油圧発生、さらに夏のエアコン運転、冬のヒーター熱源のエンジン冷却水もまた電動化がやりたくなります。

こうした補機類の電気駆動もまたどんどん進んでいます。上級車や重量車ではこうした補機駆動のエネルギーもばかにならず、42V~48Vのマイルドハイブリッドがやりたくなります。マイルドまでいかなくとも、スズキのエネチャージ、日産ノート、マツダスカイアクティブも12V鉛電池の他に小さなリチウムイオン電池、キャパシタ―を使い、エンジンベルト駆動ですが減速時のエネルギー回収を行っています。これまた自動車の電動化です。

展示会でも日本各社の様々なタイプの電動化に向けた部品、材料、開発のためのツール、計測機がこれでもかというほど展示されていました。国内マーケットで低燃費自動車開発を競いあり、その部品、材料、計測ツール、開発ツール、さらにその生産技術開発が活発になり、展示会場で感じた熱気をさらに高め、その熱気のなかで次をになう人材が育っていけば次の700万台、1000万、2000万とさらに電動化車両の普及拡大を日本勢がリードできます。さらに、その低燃費車、部品、材料技術のグローバル展開を進めることが日本自動車産業の生きる道、この分野、この技術、この人材で地球市民として日本が貢献していくことを願っています。

米国トヨタ本社のテキサス移転

少し旧聞となりますが、4月28日(月)にトヨタはこれまでカリフォルニア州(加州)トーランス市においていた米国本社をテキサス州プラノ市に移転すると発表しました。トヨタの発表によると、米国とカナダの企業活動全体を”One Toyota”ビジョンで行うためにプラノ市に移転し機能を集約すると説明しています。

もともとトーランス市に置かれていたのは、米国での販売、マーケッティング拠点であった米国トヨタ自動車販売の本社で、車両開発、生産、渉外機能とは別機能でした。その後、米国での現地生産、現地生産活動が増加するにつれ、米国全体の本社機能と位置づけられました。開発部隊のなかでも、筆者のようなエンジン屋にとっては、デトロイト近郊のアナーバー市にあるテクニカルセンターとともにトーランスの隣、ガーディナ市に置かれたラボが馴染みのある米国の拠点でした。そのガーディナラボは、エンジン評価、車両適合の拠点とともに、世界の自動車環境規制をリードしてきた加州大気資源局(CARB)と将来自動車環境規制のルールメーキング、試験法についての情報収集や、CARBとの認証届け出業務の重要拠点でもありました。プリウスの発売後は、実用的な次世代環境車としてCARBのスタッフ達が実用的なクリーン/グリーンビークルとして高く評価してくれました。それに意を強くして、全米どころか世界へハイブリッド車を広げる戦略の説明、将来ビジョン議論のためガーディナラボのメンバーとともにトーランス本社に何度も足を運んだ記憶があります。

このテキサス移転を伝える5 月のGreen Car Reportは、「Toyota’s Texas Move: Prius Maker Lands In Highest-Carbon State」との見出しでこのニュースを伝えています。テキサス州は温室効果ガス排出量が全米50州中1位、一州の排出量として、フランス、イギリス、カナダを超えています。これを根拠に、環境自動車プリウスを販売している会社が環境問題を重視していない州に本社を移したことを皮肉った見出しをつてけています。温室効果ガス排出最大州となっている要因としては、19もの火力発電所があること、化学工場が多いこと、都市部でも公共交通機関が少なく、もっぱら自動車、その自動車も大型ピックアップトラックや大型SUVが多いことが上げられています。一方、ハイブリッド車比率は全米平均を大きく下回っており、さらに、ペリー知事は地球温暖化懐疑論者であったことは有名です。

もちろん、様々な法規制や法人税率など企業活動のやり易さ、広い米国全体に散らばる拠点のコントロールセンターとしての地理的な条件からは加州よりもテキサス州が有利のようです。しかし、21世紀の企業ビジョンとして「環境・エネルギー問題へ対応する自動車の変革」を掲げ、ハイブリッドプリウス開発に取り組み、次世代自動車をリードしてきたトヨタが、環境規制をリードしてきた加州から「Highest-Carbon State」に移転したときの影響をどう判断したのか、知りたいところです。

何度かこのブログでも紹介してきたように、筆者自身は現役のクリーンエンジン開発リーダの時から、加州ZEV規制には反対を続けてきました。。大気汚染の深刻さを否定していた訳では決してありませんし、開発を手がけてクリーンエンジン車のクリーン度はCARBも太鼓判を押す経年車クリーン度NO1だったと自負しています。もちろん、排ガスシステムのリコールを命じられてことは一度もありません。クリーン度の改善手段として、まだまだエンジン車でもやれることがあり、やり遂げる自信もありました。さらに走行中ゼロ・エミッションの定義が納得できず、さらに今も基本的には変わっていませんが、短い航続距離ではクルマの機能としてエンジン車に起き買われないことが明かだったからです。。

1990年代の初めに、前述のロス近郊のCARBラボやサクラメントのCARB本部で、ZEV規制ルールメーキングスタッフ達や幹部達と、「走行中のZEVは誤解を招く、発電エミッションも入れて議論すべき」と激論を戦わせたことを思い出します。いわゆるエミッション・エルスオエア・ビークル論を戦わせました。そのときの彼らの反駁は、「カリフォルニア州には石炭火力はなく、クリーンな天然ガス火力と原発、さらにアリゾナ、コロラド州からの水力発電だから電力もクリーン、さらにオゾン濃度の高いロス地区、サクラメントには天然ガス発電所すらないので文字通りZEVだ」との主張でした。トヨタ社内のEV開発リーダーからも、あまりEV開発に水をかけないで欲しいと、クレームを付けられたのもこのころの思い出です。

僅かな台数のZEVを導入するよりも、触媒もついていない古いクルマ、いかにもエンジン失火のまま走っている故障車を減らすほうがよほど大気改善には貢献できるとの主張もしました。「効果が大きいのは判っているが、大気改善が進んでいない現状ではイメージ優先、ZEV規制を引っ込めるわけにはいかない」と言われてしまった。ロス地区のオゾン発生メカニズムや大気環境モデルを勉強をしたのもこの頃です。

その後、加州では、自動車のLEV規制や自動車だけではない様々な規制強化によりロスのオゾン濃度は低下をつづけ、またPMの改善も進んでいます。しかし、この環境改善効果は当時の議論のとおり、ZEV導入の効果はほぼゼロと言ってよいでしょう。自動車排気のクリーン化と古いクルマが新技術のクリーン車に置き換わり、さらに最近のニュースにあった停泊中の大型船舶電源として一般電力(グリッド電力)への切り替え、レジャー用船舶、アウトドア車両の規制強化などによる効果とされています。さらにPM2.5の排出源として、航空機からの排気の寄与率が高いとの調査結果も報告されています。

残念ながらZEV規制を止めることはできませんでしたが、CARBの幹部やスタッフ達とこうしたディベートをフランクにやれたことはアメリカのオープンさの表れとして良い思い出でした。”Prius”発表後は、この実用ハイブリッド車の開発努力とクリーンポテンシャルを高く評価し、新カテゴリーの先進技術パーシャルZEVカテゴリーを新設してくれるなど普及をサポートしてくれまいた。さらに環境保全の”リアルワールド重視”の部分では、技術的に納得できる提案は採用してくれるなど、オープンでフランクな信頼関係の構築ができたと思っています。

いまもZEV規制には、オゾンやPMといった都市部の大気汚染の規制としては”リアルワールド”での改善効果の少なさから賛成できません。特に自動車から排出されるCO2まで温暖化ガスとしてZEVに取り込んだ動きは、加州だけの問題ではなく、グローバルな問題、もう一度ZEVの定義について当時の議論を材料にCARB幹部やスタッフ達に反駁したいところです。CO2はどこで排出しても気候変動に影響を及ぼす温室効果ガスであり、走行中ゼロでも発電所での排出を含めて評価をすべき「エミッション・エルスオエア・ビークル」です。某社がZEVクレジット販売で利益を上げるのは異常、低カーボン車の普及によって環境保全に寄与できるとの主張は当時も今も変わりはありません。

CO2排出量ではあっという間に中国に抜かれてしまったが、アメリカは中国に続く世界二位、さらに一人当たりのCO2排出量では今でも群を抜く化石燃料多消費国、このアメリカがやっと本気で温暖化対策のためのCO2排出削減に舵を切ろうとしています。CAFÉ規制強化は決まりましたが、まだまだ大型ピック、大型SUVが好まれる国です。低CO2次世代車はハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車含めてわずかシェア3.8%と低迷しています。中国とともに、この国が低CO2に動かなければ低カーボンのグローバルな新たな削減活動の枠組み条約は成立しません。その中で、自動車の変革は待ったなしですが、実用技術の裏付けのない規制や、国際政治のパワーゲームで次世代自動車の普及が加速するわけではありません。

規制対応だけではなく、実際にクルマの魅力を高め、この次世代自動車比率を高めることが自動車分野の低カーボン化のポイントです。これをリードしてきたのがトヨタ、ホンダ、日産の日本勢、そのなかで我々は『Prius』で先頭を走ってきたとの強い自負を持っています。この次世代自動車普及の背中を押したのが、私自身、ZEV定義と規制には賛成できませんが、カリフォルニア州ZEV規制であったことは間違いないと思っています。『Prius』を筆頭に次世代自動車普及のアーリーアドプターとしてハリウッドのセレブ達やシリコンバレーなど西海岸の人たちからの強いサポートがあったことを忘れることはできません。

この話題の最中に、ピークオイル論ならぬ、ハイブリッドピーク論が話題になっています。*

*  Could U.S. Hybrid Car Sales Be Peaking Already–And If So, Why?

「アメリカのハイブリッド車販売は既にピークをすぎたのか、それは何故か?」

16 June, 2014 Green Car Report

http://www.greencarreports.com/news/1092736_could-u-s-hybrid-car-sales-be-peaking-already–and-if-so-why

 

ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車含めた次世代自動車の2013年販売シェアは僅か3.8%、このうちプラグインハイブリッド、電気自動車併せて0.6%と比率としては増加していますが、ノーマル・ハイブリッドを押しのけコンベ車に置き換わっていく勢いはありません。

折しもトヨタは年内の水素燃料自動車販売を発表しましたが、電気自動車=ZEVの代替候補として実用化の暁にはクルマの航続距離に優れた水素燃料電池自動車の実用化支援活動をリードしてきたのも加州です。まだ、水素燃料電池自動車普及へのハードルは高く、これが『Prius』を名乗ったり、ポスト『Prius』になるには時間だけではなく、技術ブレークスルーも必要ですが、このアーリーアドプターマーケットも加州が務めてくれることは間違いないと思います。

しかし、いつになるか判らない水素燃料電池車普及の前に、全米で僅か3.8%のシェアの次世代自動車シェアを拡大していくには、やはり加州のユーザーにアピールでき、また環境性能としても電気自動車、水素燃料電池車と競合できる、ハイブリッドピーク論をぶっ飛ばす次の先進『Prius』出現に期待したいところです。

 

 

VVT-iによるプリウスのエンジン起動・停止ショック対策

エンジン起動・停止ショック対策の切り札だったVVT-i
初代プリウスの1.5リッターエンジン、1NZ-FEからハイブリッドエンジンの定番として採用されている可変機構の一つがVVT-i(Variable Valve Timing Intelligent)と呼ぶ、吸気弁のカムタイミング連続可変機構です。VVT-i機構は今では、トヨタのガソリンエンジンのほとんど全てに使われる標準品となっていますが、初代プリウス当時は高級エンジンの一部に採用されている程度でそれほどポピュラーではありませんでした。また、初代プリウスでも最初の計画段階からこのVVT-iの採用を決めていたわけではありません。

初代プリウスの新型車解説書には、VVT-i採用の狙いとして
① 低速トルク向上
② 燃費向上
③ エミッション性能向上
④ 始動時の振動低減
と書かれていますが、急遽採用を検討した決め手は④のエンジン始動時の振動低減でした。
1995年12月にハイブリッド専用車として2年後の1997年12月に販売開始をめざし量産プロジェクトの号令がかかり、エンジン、駆動、制動、シャシーなど様々な設計部隊、また車両性能、機能の評価部署に評価検討用の試作車が配られ始めたのが次の年の4月頃からでした。そうなると、さまざまな大問題が至るところから報告されるようになりお先真っ暗になったのがこの時期です。その大問題の一つが、走行中のエンジン起動、停止の度に大きなショックが発生し、そのつどクルマがゆさゆさと揺れ、とても商品のクルマには程遠い状況でした。さらに、エンジン起動のタイミングが悪い場合には、エンジントルクを遊星ギアに伝えるインプットシャフトがボキッと折れたり、ハイブリッド・トランスミッションを支えているマウント固定部のケーシングの破損まで引き起こす状態でした。この救世主の一つがVVT-iの採用でした。

初代プリウスの最初の広報資料にはVVT-iの項として
『吸気タイミングを、VVT-I (Variable Valve Timing-intelligent)により運転条件に応じて
きめ細かく呼応させることで、常に最大の効率確保を図りました』の記述しかありませんが、決め手はエンジン起動停止のショック対策でした。しかし、当初はタイミング固定の従来方式での高膨張比アトキンソンサイクルエンジンの企画でしたが、その固定タイミングの高膨張比エンジンでは両立が難しかった低温時のエンジン安定性確保やその後のエンジン出力向上にも効果を発揮しました。このVVT-iの採用は、エンジンチームの発想です。ショックの要因解析を行い、さまざまな対策を検討しまくった上ででてきたアイデアでした。その効果が確認されると時を移さず量産設計に入り、このクラスのエンジンでは初、さらにハイブリッド専用の機構を加えて量産化に漕ぎ着けることができました。もちろん、このVVT-iの適合だけで全て解決した訳ではありません。エンジンを回し、止める発電機の制御、トランスミッションの捩りタンパー設計、過大トルクを防ぐストッパー、エンジン、トランスミッションを支えるマウント位置の見直しなど、クルマ全体での対策の集大成でした。

140612Blog図
この中で、項目2番目のエンジン始動時および停止時と1項目と同じ運転状態を示す部分が通常運転時のEV走行からのエンジン起動、エンジン運転中からの停止時のVVT-i制御の説明です。吸気弁を最進角側、図の下にあるバルブタイミングのイメージ図にあるように、排気弁ばまだ開いている状態で吸気弁が開着始めるように、吸排気弁がどちらも開いている状態、所謂バルブオーバーラップ状態が長くなるように制御しています。この状態では、シリンダー内の燃焼ガス圧力はまだ高く、この状態で吸気弁を開くと圧力の高い燃焼ガスは吸気バルブから吸気ポート側に逆流してきます。次にその逆流した燃焼ガスをまたシリンダーに吸い込み、吸気弁をオーバーラップが大きくなるように進角したことにより、吸気弁を閉じるタイミングを早め、新しい空気の吸い込み量を少なくしています。この燃焼ガスを再吸入させ、また新しい吸入空気を減らすことにより、次の圧縮抵抗を小さく抑えることができます。これで圧縮抵抗によるショックを押さえ、ショックが大きくなるエンジン低回転にある共振域を素早く通過させてショックをこの共振によってショックが大きくなることを防ぐことができました。燃料を噴射し、点火させるのはその共振域を通過させてから行います。これ以外にも、冬の低温時の冷間始動性を向上させるタイミング制御、スロットル弁全開条件でエンジン出力を高めるタイミング制御など、当初のショック対策だけではなく、ハイブリッド実用化には欠かせないエンジンデバイスとなってくれました。

10代目クラウンに最初に採用されたVVT-iがプリウスへ
手前味噌ですが、このプリウスハイブリッドの救世主になったVVT-iですが、私のエンジンR&D担当時代に開発をマネージしたテーマの一つです。トヨタは可変動弁系の最後発、トヨタが採用していたエンジンの動弁機構では、三菱自のMIVECやホンダのVTECのようなカムの切り替え方式の採用は非常に困難でした。そこから、いろいろあって1995年にフルモデルチェンジした10代目クラウンの3リッタ直列6気筒エンジンに採用したのが量産のスタートでした。これもまたプリウスハイブリッドを世に送り出すことができたラッキーな巡り合わせであったように思います。現在では、排気バルブもタイミング制御を行う吸排VVT-i、電動VVT-I、さらにVTECなどバルブ機構切り替え方式とタイミング切り替え方式の併用、バルブ作動休止機構との組み合わせなどが実用化され、可変動弁機構は現代エンジンとして欠かせない標準デバイスとなっています。

MIVEC、VTEC、VVT-iなど可変動弁機構は出力競争、低燃費、排気のクリーン化の現代ガソリンエンジン進化を競い合った中でコア分野の一つでしたので、可変動弁機構では当時やや他社に遅れをとったトヨタでどのような議論があり、どのような検討をおこないVVT-iに収斂していったのかなども次の機会にはお話していきたいと思います。

その議論の先、この可変動弁機構の発展に、次のガソリンエンジンの進化も見えてくるように感じています。

プリウスの回生ブレーキ ーその2

本格回生協調ブレーキECB(電子制御ブレーキ)
一週空いてしまいましたが、引き続き、プリウスの回生ブレーキを巡る開発エピソードをお伝えしたいと思います。先回はカックンブレーキと言われてしまった回生協調ブレーキチューニングの顛末を取り上げました。回生量を増やすにはギリギリまで油圧ブレーキ作動への切り替えを遅らせ、回生制動割合を増やすだけではなく、回生の取り代を減らすこととなるブレーキ引きずりの低減にも従来車ブレーキ以上に厳しい目標設定をおいて取り組んでもらいました。このブレーキ屋さんや車両評価の人たちとの共同作業とその時の議論がその後のさまざまな進化に繋がりました。
まず、2000年のマイナーチェンジでカックン感の改善を行い、同時に回生・油圧の切り替え適合で燃費向上を果たしました。次の本格的な進化は2003年二代目プリウスに向け開発した本格ブレーキ・バイ・ワイヤ、文字通りの回生協調ブレーキと言える電子制御ブレーキECBです。中速域からの加速ならば、回生優先、このECBの採用で大幅な燃費向上を果たすことができました。図に初代と二代目での制動力に対する回生・油圧分担割合と、回生効率比較を示します。回生効率とは、空気抵抗やタイヤの転がり抵抗で回収できない減速エネルギーを除き、理論上回収できるエネルギーのどれくらいを実際に回収したかの比率としました。初代の10-15モードでは、38%程度だった回収効率が、二代目では倍近い72%程度にまで向上しています。
140605ブログ図表_ECB回生効率
アメリカ、欧州の最高速度が高く、減速度も10-15モードよりも大きな公式都市走行モードでも大幅な向上を果たしています。初代では強力な電池を搭載していてもエネルギー回生では十分にその容量を生かし切れなかったとも言えます。また、10-15モードぐらいの車速域と減速度なら、回生協調ブレーキを使わなくともアクセルペダルから足を離した状態のエンジンブレーキ相当の回生で十分との意見もありましたが、やってみるとそれでは不十分でした。特に実走行では公式モード通りの運転をしている訳ではありませんので、アクセル全閉、いわゆるエンジンブレーキ相当の減速度を強めると、無意識に車速を落としてしまい、車速維持のためにアクセルまた踏むといったオン/オフ運転を繰り返してしまうことがあります。こうしたオン/オフ運転では燃費を大きく悪化させてしまいます。この状態こそ、回生協調ECBの独断場、ブレーキで車速コントロールしながら広い領域でエネルギー回生を行うハイブリッドのポテンシャルの高さを感じたのも、初代から二代目のECB採用での開発でした。

Bレンジのエンブレの効き
また、初代ではBレンジに入れてもエンブレの効きが悪いとのお叱りもいただきました。今の設計指針、法規が当時からどう変わってきているのかわかりませんが、初代~二代目ではBレンジの減速度の上限として、長い下り坂などで電池が満充電状態でもエンジン空転で消費できる発電量としました。どんな状態でもエンブレ状態の制動力を変化させないことを指針としたため、Bレンジで電池満充電では、エンジンの許容最高回転数での空転が上限です。このため、満充電となるとエンジン回転数を発電機でつり上げて高めていました。初代ではこのエンジン許容最高回転数も熱効率を高めるため4,000回転/秒と低く設定していましたので、これが上限、このためBレンジでもDレンジとさほど差がつかない減速度しか使えなかったというのがその顛末です。エンジン最高回転数を2000年のマイナーで少しあげ、2003年二代目で5,000回転/秒まで上げた理由が、エンジン最高出力を高める他にこのBレンジでのエンブレの効きを良くしようとの狙いがありました。
エンジンでは、アイドル運転時の発生トルクが駆動トルクの下限、微妙な駆動力コントロールはできません。この点、モーターは出力側から、回生制動力までリニアにさらに精密に駆動/制動力を制御できます、初代ではこのポテンシャルを使い切れませんでしたが、スキッドコントロール、トラクション、オートクルーズなど駆動/制動力をリニアに精密に制御することのポテンシャルの高さを感じたのも、ブレーキ屋、車両屋、エンジン屋、駆動屋と共同開発作業、チューニング作業をおこなった初代~二代目の開発での思い出です。
まだまだ、電気駆動/回生制動のポテンシャルを突き詰めきれてはいなとの感じながら、開発エンジニアをリタイアしました。その後の進化が少ないことが気掛かりです。

日本初の自動車リコールとAT車のエンスト問題

先月の中日新聞に、『トヨタの系譜 時流の先への』第2部 「危機の教訓」が連載されていました。全国版ではありませんので、読まれた方は少ないと思いますが、この第2部は予期せぬ加速問題とプリウスブレーキリコール問題の顛末が主題です。騒ぎが大きくなり章男社長が米国連邦議会の公聴会に呼ばれ証言をし、不具合”がまだ疑いだけの段階でこの公聴会でも取り上げられ、当時の運輸大臣ラソーダ氏のトヨタバッシングとなる「トヨタ車はお勧めしない」とのフライング発言までありました。この電子制御系不具合による暴走問題は、その後の米国ハイウエー運輸安全局(NHTSA)と航空宇宙(NASA)の専門家達による合同調査で疑いが晴れましたが、これがハイブリッド車の普及に大きなマイナスになってしまいました。この記事は、章男社長の公聴会での証言とその後の米国トヨタディーラー激励会での涙、CNNライブでのやりとりから、さらにNHTSAとNASAでの調査結果まで取り上げられていました。この2部の最後、5月1日号に私のコメントが紹介されていました。インタビューを受けたのは、マスキー法からプリウスまでの取り組みで、その中でお話したその後の自動車エンジニアの原体験となった日本初の自動車リコールが取り上げられていました。わずか1行の紹介でしたが、その話を取り上げた記者の方が掲載された一連の新聞を送ってくれました。
今日の話題は、この日本リコール届け出第1号の話題と、自動車の重大不具合として今週メディアで話題となったオートマ車のエンスト問題です。

日本の自動車リコール第1号
日本に自動車リコール制度は、1969年6月に運輸省(現国交省)の通達でスタートしました。第1号がトヨペットコロナRT40のブレーキ配管腐食によるクラックからブレーキフルッドが洩れ、ブレーキ失陥を引き起こす重大不具合でした。丁度その年の4月にトヨタに入社しました。集合教育の後、工場実習を終えると6月から、各地の販売店に派遣されサービス実習・セールス実習が始まります。私も出身地の札幌でサービス・セールス実習を行いました。リコール届け直後のサービス実習では、受け入れ先の販売店さんにとってトヨタ自動車からの実習生は飛んで火に入る夏の虫、1カ月のサービス実習の全てが、市内を歩き回りリコール該当車を探し回る仕事でした。RT40コロナを見つけると、床下を覗きブレーキ配管にブレーキフルードの滲みがないかを確認し、該当車のワイパーにリコール修理呼び込みのパンフレットを挟んで回る仕事です。まだ、学生気分が抜けず、また北海道とはいえ暑い時期、不平たらたらで歩き回った記憶があります。これが、中日新聞で取り上げられたエピソードです。

この実習を終え、トヨタに戻り、2度目の工場実習を終えるといよいよ職場配属です。私の配属先は、駆動ユニットと制動ユニットの設計担当の駆動設計課、ブレーキ・リコールの責任設計部署でした。まだリコール対応のまっただ中、TVコマーシャルでリコール告知と修理持ち込みのお願い、リコールのお詫びが流れていました。そのリコール内容の説明役が直属課長、日頃指導を受けている課長がTVで頭を下げ、技術説明を懇切丁寧にされている姿を見て、自動車会社の責任、設計担当の責任の重さを思い知らされました。駆動設計ではリコールを引き起こすような大チョンボはやらずに済みましたが、単発のチョンボ設計は何度かやりました。上司から叱責を受けた記憶はありませんが、そのちょっとしたチョンボがお客様にご迷惑をおかけし、販売店サービスを苦労させたことに、やった自分自身が一番堪えました。このリコール第1号のサービス現場体験、そのリコールフォローに飛び回る配属先の臨場感、そして自分が引き起こした設計不具合の影響の大きさ、この時期の体験がそれ以降の自動車エンジニアとしてのスタートポイントになったように思います。

排ガスリコールとエンジン適合不良によるエンスト不具合
クリーンエンジン開発担当時も、リコールは身近な話でした。米国で排気規制を管轄する環境保護庁(EPA)は、規制をしっかり守っているかチェックする経年車のエミッションサーベイ試験をやっていました。この成績が悪いとリコールを命じます。1970年代~80年代では、米ビッグ3の成績が悪く、度々排ガスリコール命令が出ていました。排ガスリコールは何年か売り続けた経年車が対象ですから、ビッグ3のメイン車種となると対象台数は半端ではありません。当時のリコールで1回あたり数百億が吹っ飛ぶ規模です。トヨタの米国主力車種、カムリやカローラがリコールを起こすとこれまた半端な台数ではありません。量産設計の担当ではありませんでしたが、1990年からは米国向けの全ての車種のエンジン排気システム諸元を決めるリーダとなり、エンジンの品質問題、排気システム品質確保、重大不具合の未然防止は最優先マネージテーマでした。トヨタはこの排ガス品質では優等生、1990年代まで排ガスリコールはありませんでしたので、開発担当としてはこのリコール・ゼロ継続も大きなプレッシャでした。1980年代から仲間内ではリコール・ゼロの継続が話題で、自分の担当でゼロを打ち止めにはしたくないと我慢競争をしていたように思います。エンジン制御も担当しましたが、これもまたリコールに直結する重大不具合との関わりが大きい分野です。排ガス品質を確保できたとしても、ギリギリのエンジン制御適合でエンスト、ショック、もたつき、サージ振動といったドラビリ不具合を起こしてしまうとこれまたお客様にご迷惑をおかけする市場不具合となります。このドラビリ問題の中で、適合評価で気を遣ったのがオートマ車のD/Rレンジ・エンスト不具合です。これが今日のもう一つの話題です。

今のガソリンエンジンは全て電子制御燃料噴射エンジンです。長い期間使った経年車では、空気を送り込む吸気バルブにカーボンやオイル中の固形分がたまり、噴射した燃料がトラップされ不整燃焼が起きやすくなります。さらにガソリンが揮発性の高い冬用から揮発性の低い夏用に切り替わる時期でマーケット上限の揮発性が低い夏燃料を用い、急なスロットル操作をやると適切な燃料が供給されず、不整燃焼が起きやすくなります。これに、P/Nレンジから急にDレンジに入れ、同時にアクセルのチョイ踏み、さらにDレンジのままアクセルのon/off操作で坂道をずり下がる、途中でDからRに切り替えるなど、不整燃焼、エンストを起こし易い意地悪操作をいやというほど繰り返し、耐エンスト性の確認とエンスト不具合の未然防止適合を行うのが通例でした。いかに経年車とはいえ、マーケットでエンスト不具合を起こすのはエンジン開発屋の恥との感覚だったと思います。

なぜ今頃ガソリンオートマ車のエンスト問題?
最近このガソリンAT車のエンスト不具合問題がメディアで話題となっています。この切掛けは、3月に交通安全環境研究所が国交省の委託調査としておこなった-「エンジン停止走行」に繋がるおそれがある事象に関する調査-なるレポートです。
http://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/common/data/201403_report.pdf
国交省がこのレポート結果を公表し、自動車のリコール・不具合情報サイトで再現ビデオを付けて紹介しています。http://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/carsafety_sub/carsafety027.html
これをメディアが一斉に取り上げたのが今週です。

誤操作による急発進や、逆走を防ぐために、AT車やハイブリッド車では、P/Nレンジ、システムによってはさらにブレーキを踏んでいる状態でのみエンジン始動やモーター駆動力が発生するように設定しています。D/Rレンジではどんな意地悪操作であろうが、エンストは起こさないことが前提で始動シーケンスをを組んでいます。ですから、この状態でエンストが発生すると、P/Nレンジに入れ直し、ブレーキを踏み始動操作をやり直す面倒な操作を要求しています。この状態でエンストが起きると、通常のガソリン車ではパワステの油圧が低下しパワステが効かなくなり、またブレーキ油圧もエンジン回転でポンプを回し発生させていますので、油圧低下をきたしブレーキが効かなくなるケースも発生します。この状況に陥るとドライバーがパニック状態に陥ることも開発では考慮に入れる必要があります。何よりも、エンストさせないことです。

無理な低燃費適合も遠因では?
国交省のリコール・不具合情報サイトでは、ドライバーの操作についての注意喚起になっていますが、低燃費競争のなかで、エンスト防止への適合評価がおろそかになっているのではとの心配をしています。燃費のために、アイドル回転数を下げるとエンストしやすくなります。またATのトルコンも、動力伝達効率を高めるため滑りの少ないタイトなものを採用する方向、これもエンストしやすくなります。カタログ燃費競争が激しくなるなか、AT車でエンストを起こす適合は恥との感覚が薄くなってはいないでしょうか?安全が何よりも最優先です。

プッシュボタンスタートの流行にも?
また、二代目プリウスから採用したプッシュボタンスタートが、コンベ車にもどんどん採用されるようになってきました。この誤操作としてエンジンが起動していない状態で、D/Rレンジに入れるとそれが坂道なら走り出してしまう不具合も報告されています。この状態では、パワステ油圧もブレーキ油圧も発生しておらず、どちらも効かずパニックに陥ってしまうケースが紹介されています。このプッシュボタンスタートの採用も、プリウスが採用してからの流行として安易に採用していないでしょうか?二代目プリウスでスマートスイッチは車両主査グループからの採用要望でしたが、われわれハイブリッドチームも不具合防止、ご誤操作防止、誤操作時のパニック操作、その時の挙動分析を何度も何度も行い、採用を決めてきました。ハイブリッドだから、全くこのようなエンスト、パワーシャットダウン不具合がなかったと言うつもりはありません。部品不具合でのシャットダウン、エンストでお客様にもご迷惑をおかけしました。しかし、適合不良としてのエンスト、シャットダウン不具合は現役時代には起こしませんでした。自分が適合作業をやった訳ではありませんが今でもリーダとしての誇りです。
中日新聞で取り上げていた、プリウスの電子制御が疑われた予期せぬ急加速問題のNHTSAとNASA専門家調査で白となった背景にも、プリウスの途中から入れた簡易ドライブレコーダーのデータ解析が決め手になったと書かれていました。バイ・ワイヤ制御が不可欠のハイブリッドで何か重大不具合が起こった時の原因究明に役立つかもしれないと、修理書にも記載せずこっそりと入れた機能でした。

何度もこのブログで書いているように、安全がなによりも優先、排気クリーンはもちろん低燃費とも、いわんやコストとのトレードはやってはいけないことを肝に銘じて欲しいと思います。知恵を絞ってトレードオフポイントを高い位置に引き上げるのが技術進化です。

章一郎さんの日経”私の履歴書” から その2 初代レクサスの燃費

先週に引き続き、現在日経に連載中のトヨタ自動車名誉会長豊田章一郎さんの“私の履歴書”の話題を今週のブログとして取り上げました。ちょうどこの原稿を書き始めた今日23日(水)の話題が、初代レクサス、日本名セルシオ開発のエピソードです。
ここにも大学の大先輩にあたり公私ともにお世話になり、ご指導いただいた当時の技術担当副社長松本清さんのお名前や、この初代レクサスの車両主査鈴木一郎さんが登場して懐かしく思いました。先回とりあげたマスキー法対応プロジェクトの総責任者が松本さんだったこともあり、エンジンの開発をやりたかった筆者は同窓会の折に直訴し、マスキープロジェクト要員を集めたのを機に、このプロジェクトに加わることができました。その時のエピソードが先週のブログの話題です。

マスキー対策を乗り切り、その後に燃料噴射エンジン、そのマイコン制御、エンジンの4バルブ化、出力競争時代のターボ過給、スーパーチャージ過給などさまざまなエンジンの研究開発を担当しましたが、23日に章一郎さんが取り上げた“レクサス”用エンジンのシステム開発にも私は米国向けエンジンの開発担当として携わりました。マスキープロジェクトの流れで、排気規制対応が技術的にも難しく、また燃費性能目標も高い米国向け車両の排気ガス低減を含めたエンジン・システムとしての先行開発(量産設計を前に基本諸元、排気浄化システム、制御系仕様を決め量産設計チームに提案していく開発チーム)が、私が所属していた東富士のエンジン開発部隊の役割でした。

その開発担当エンジンの一つが、この初代レクサスのエンジン先行開発です。投稿記事に書かれているように、最高速度、燃費、静粛さ、空気抵抗、車両の軽さ、すべてでベンツなど競合車をしのぐことが目標の、トヨタとして初めてのV8エンジン搭載プレミアムカーにチャレンジする気合いの入ったプロジェクトでした。もちろん、当時の厳しい排気規制に対応し、燃費も当然クラスチャンピオン、走りはもちろん、アクセル・オンのショック、もたつき、サージ(微振動)はちょっとでも御法度でした。大きな関門が、米国燃費規制にあった燃費の悪いクルマに課せられていたガス・ガズラータックス(ガソリンガブ呑み税)を課せられないレベルに燃費を向上させるターゲットでした。

先行開発の役割は、本社のエンジン量産設計チームに車両主査が作り上げる車両開発目標達成に必要なエンジン諸元、その基本構成、排気浄化触媒諸元、噴射系や電子制御諸元、さらに目標達成のために新技術採用を提案することです。まだ車両の基本諸元が定まっていない中での先行開発段階では、ガス・ガズラータックスを回避できそうな燃費でしたが絶対安全と言えるレベルではないまま本社の設計チームに提案した記憶があります。そこで大抵のプロジェクトは終了し、次のエンジンの先行開発に移っていくのが普通でしたが、このレクサスだけは特別でした。

ここで少し、当時の認可申請と認可までのプロセスを説明します。米国の環境規制に適応しているかを判断し認可を与える官庁は連邦環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)です。EPAに申請し、認可のための公式試験を受けて認可証(米国では認証:Certification)を取得しなければ、生産・販売はできません。デトロイトの近郊のアナーバー市にEPAの認証試験ラボがあり、最終的にはそこに認証取得申請をしているクルマを持ち込み、排気規制への適合性を判断するエミッション試験とその試験での燃費計測が行われ、それに合格すると合格認定書が発行され、公式燃費もこの試験結果で決まり公表されます。ガス・ガズラー税が課せられるかどうかもこの公式燃費値で決まります。
しかし、認定審査申請を行った全てのクルマがEPAラボで試験を受けるわけではありません。EPAの設備能力に限界があり、大部分の試験は社内でEPAの定めた設備能力をもった試験ラボで行う社内試験値が使われます。もちろんそのクルマが申請諸元値どおりかの厳密なチェックを行い、EPAが定めた設定条件、試験法、判定基準にもとづき厳密な試験を行います。不正行為は行わないことを宣誓し、データ報告にサインをしてEPAに提出します。社内には、われわれ開発チームが社内EPAと呼ぶ、認可申請、社内試験を行う部署があり、厳しく申請内容をチャックし、不正が入り込む余地がないように管理を行っています。もちろん、試験設備、エミッション、燃費を計測する排ガス分析系にはバラツキもあり、毎年アナーバーのEPA試験設備の間の相関精度チェックが行われます。

この認証段階では、もうクルマに燃費向上の手を入れる余地はほとんどなくなるのですが、この初代レクサスでは、車両主査の鈴木一郎さんから私が直接電話をいただき、その余地のないなかでも最後の最後までタックス回避の燃費向上支援をするようにとの要請を受けました。当時はまだ若手の課長、ビッグ車両プロジェクトの大車両主査からの電話に対し、若気の至り、いろいろ注文をつけてお受けしたことを記憶しています。その注文の一つが、立ち上がりまでに重量管理、精度管理をしっかり行い、生産車で新車状態とまでとは言いませんが、すり合わせ走行が済んだ段階で実力燃費としてガス・ガズラー基準をクリアすることが条件と申し上げてお引き受けた記憶があります。その燃費向上にどんな手を打ったかはここでは書きませんが、もちろん昨年あったEPA認定燃費詐称問題のような不正は神に誓ってやっていません。社内EPAがちょっとの間片目をつぶる程度の内容です。

初代レクサスのような注目車は確実にEPAから及びがかかり、アナーバーラボでの試験も何回か実施されました。社内試験とEPAアナーバーラボでの結果を併せて、目標どおりガス・ガズラータックスを余裕でクリアすることができました。

この後日談ですが、この若手の注文に対し、鈴木一郎主査は生産開始のギリギリまで開発の陣頭指揮をとられ、静粛性も売りのクルマに対し遮音シートの厚みのコンマ台の削減、最終段階での部品重量の削減、ブレーキ引きずり量の低減、ペラシャフトの組み付け角度精度の維持により転がり抵抗を減らすなど、この段階でやれる限りの手たれました。われわれも、生産開始とともに生産ラインからでてきた生産車の耐久走行試験を行い、新車状態からガス・ガズラータックス基準をクリアし、5万マイル走行後では開発の当初目標を上回る非常に良い燃費実力を持っていることを確認させてもらいました。

最後の最後まで手を抜かず、やり抜くことの重要性を鈴木一郎主査とのこの仕事からも学ばせてもらいました。初代プリウスのハイブリッド車開発では、今度は当事者として、公式燃費目標達成に取り組みましたが、生産ラインに入り込んで、目標達成余地を探りまわるこのレクサスのやり方を車両主査チームにもお願いしギリギリではありましたが、私自身が技術発表会で宣言させられた?、燃費2倍を達成することができました。もちろん、初代プリウスでも、しっかり生産車の走行試験、モニター試験を行い、生産車も目標通りの燃費、走行性能がだせていることを何度も確認しました。

章一郎さんの日経“私の履歴書“とマスキープロジェクト

入社当時の仰ぎみたトヨタの先人たち
われわれの世代のトヨタOBは豊田姓のトップの方々を、内輪では姓を省略して英二さん、章一郎さんとお呼びしていました。4月から日経紙の“私の履歴書“欄にちょうど章一郎さんが寄稿されており、今日(17日)掲載16回のテーマが1970年米国大気浄化法(マスキー法)への対応をスタートとする、排ガス対策の話題でした。これまでも、噂に聞いていた芝浦の特殊研究室の話、入社当時遠くに垣間見た石田退三さん、昨年お亡くなりになった英二さんの話題、工場実習や生産管理部での実習でお見かけした大野耐一さん、静岡の研究所の私の席の近くでガスタービン車の開発を熱く語っておられた初代クラウンの車両主査中村健也さんなど、トヨタを築き上げた先達の方々が登場するたびに懐かしく読ませていただいていました。

今日の話題、マスキー法対応プロジェクト
今日(17日)掲載16回のテーマが1970年米国大気浄化法(マスキー法)への対応プロジェクトからスタートした排ガス対策の話題でした。このマスキープロジェクトに加わりクリーンエンジン開発に取り組んでいたのが、まさに私の青春時代、自動車エンジニアとして鍛えられた時期でした。最後の部分で“当時の技術陣の努力に感謝した”と書いていただいたことに、技術陣のはしくれにいた一人として嬉しくなりました。
ここで書かれているように、確かにこの時期、英二さんも、章一郎さんも静岡の研究所にしょっちゅう立ち寄られ、われわれマスキープロジェクトの実験室を視察され、激励をしていただいたことを思い出します。この排ガス規制を乗り切ったことが、ここまでのトヨタの発展、さらに日本自動車産業の発展の大きなマイルストーンだったことは間違いないと思います。

三元触媒に出会ってその初期性能の高さに目が点
自動車用エンジンで触媒を使いこなす方法、技術を見つけ出すことが、私の最初のテーマでした。その触媒の一つが、文中にもあった排ガス中の主要規制成分の一酸化炭素(CO)、ガソリンの燃え残り成分の未燃炭化水素(HC)、高温の燃焼で空気中の酸素と窒素が結びついて発生する窒素酸化物(NOX)の三成分を同時に一気に浄化する三元触媒でした。この三元触媒を使いこなすテーマが私の担当となり、英国Johnson Matthey社の試作品が手に入りトヨタの中で最初にエンジン実験をやったのが私だったと思います。エンジン排気管に入手した触媒を溶接してとりつけ、エンジンを一定回転、一定負荷(空気量を調整するスロットル弁を一定開度)に保ち、燃料を供給するキャブレターの燃料調整部を自分で調整して触媒の性能を見る味見試験が最初でした。この時の感激は今も忘れません。ぴたっと合わせると、CO、HC、NOXの三成分が、同時に一気に90%以上も浄化されてしまいました。まさに目が点状態、しかし10分もすると調整をしたはずのキャブの燃料供給状態が微妙に変わり浄化率がガタ落ちになることもすぐ経験しました。

三元触媒を使うために酸素センサーによる電子燃料制御エンジンへ
それを使いこなすために提案されていたのが、エンジンの排気管に燃焼ガス中の燃え残った酸素濃度を検出する酸素センサーをつけ、その信号によって三元触媒が最適な燃焼状態を制御する方式です。その酸素センサーを使って、シリンダーに供給する燃料を制御する方式に、キャブレターの燃料通路を制御する方式と当時としては高価な高級エンジンに使われ始めたシリンダー毎の吸気管にガソリンを噴射する電磁噴射弁をつけ燃料を制御する電子制御燃料噴射弁エンジン、トヨタの呼び方としてのEFI方式の二つがありました。このEFI方式はさらに噴射弁まで燃料を送るポンプまで別に持つため非常に高価な方式で、またドイツ・ロバート・ボッシュ社の特許でがんじがらめ、当時トヨタの開発陣の中でこれがどんなクルマにも使われるポピュラーな方式になると考えていたエンジニアはほとんどいませんでした。キャブレター方式もその燃料量を安定して制御することが難しく、どちらの方式でも三元触媒方式はすぐにはものにならないとの意見が主流だったと記憶しています。触媒だけではなく、酸素センサーも数時間の試験で検出特性が使い物にならないぐらいずれてしまう代物でした。マスキー規制にホンダCVCC方式がクリアできたとの報道もありましたが、広く様々なエンジン、車種に展開できる触媒方式を主力においていた米国Big3とトヨタ、日産勢はなかなか見通しをつけることができないでいました。燃料無鉛かの遅れや触媒を安定して使いこなす点火系の信頼性確保などの見通しがつかなかったためです。ひとまずはマスキー規制を緩和した暫定規制となり、この暫定規制と日本の50年規制に対応するCOとHCの二成分を触媒で除去する酸化触媒方式が本命となりました。章一郎さんの文章にある、英二さんが国会喚問で排気規制への対応遅れを追求され、実際にその開発の前線にいるエンジニアとして触媒方式の商品化見通しをつけることができず、悔しく、情けない思いをしたのもこの頃の話です。

EFI電子制御エンジン研究開発の担当がエンジン・システム・エンジニアの原点
ちょうどそうした時期に係長に昇格し、新米係長なら当分ものになりそうもない三元触媒を使うEFI電子制御エンジンの研究開発担当なら失敗してもダメ元、時間もあるからと私の担当になりました。この三元触媒をエンジンとして使いこなすテーマから、その手段としてEFI電子制御エンジン、そのデジタル制御化の開発に取り組めたのが、私のエンジン・システム・エンジニアとしての原点だったと思います。
その頃はがむしゃらに、夜昼なしに実験室にこもり、またクルマを使った試験で走り回りました。この三元触媒EFI電子制御エンジンの実用化を突き詰めるなかで、排気ガスのクリーン化だけではなく、クリーン度が上がるとそのポテンシャルを低燃費やエンジンのパワーアップにも振り向けることができることも解ってきました。エンジン、触媒、制御といった機能、部品単体としての開発だけではなく、エンジン・システム、車両システムとして開発に取り組むことの重要性を実感したのがこの時期の体験です。この流れのなかで、このEFI方式が6気筒エンジンや4気筒スポーツエンジン搭載車に使われるようになり、さらに4気筒の排気量の大きい一般車用エンジンから排気量の小さいエンジンまで広がっていきました。達成困難と思っていたマスキー規制もクリアでき、一時廃止していたスポーツエンジンも復活、さらに4弁エンジンやいままた低燃費エンジンとして大流行になったターボ過給エンジン、スーパーチャージャーエンジンが出せるようになったのもこのEFIエンジンのデジタル電子制御があっての話です。

システムとしての全体最適をハイブリッド開発マネージの最重点
このシステムエンジニアとしての体験と自覚が、ハイブリッドプリウスの開発リーダーとして生かせたと思っています。エンジン、駆動、その駆動系に入り込む発電機とモーター、エンジンの動力に加える電池電力、それぞれの個別最適化の組み合わせではハイブリッドシステムは開発できません。エンジン、駆動、発電機、モーター、電池、さらにはブレーキ、車両全体の電源供給までのハイブリッド全体システムとして、さらにクルマ全体としての最適化とその不具合未然防止に取り組むことができたことがハイブリッドプリウスの立ち上げに結びついたと確信しています。
目が点になる高い三成分浄化率をもった触媒があっというまに性能低下を起こし、また数時間の耐久試験で劣化し、そのさなかにエンジンが失火すると場合によってはメルトダウンしてしまう触媒をどのようにシステムとして使いこなし、これまた数時間の耐久試験で検出特性が変わってしまう酸素センサーをどのように使いこなしシステムとして商品化にこぎ着けたかは、次の機会にご紹介したいと思います。

欧州での「プリウス」

 

スライド1

欧州でも「プリウス」はごく普通のクルマ

先週のブログでロンドンのPM2.5を取り上げましたが、久しぶりにロンドンに滞在し、これまた数年前にロンドンの新駅、新線が開通し、英国内のスピードがやや速くなったユーロスターにのってパリに移り、パリ経由で帰国しました。この数年で何度目かの欧州ですが、今回のロンドン含め、パリ、バルセロナ、ブリュッセル、ウイーン、ストックホルム、ストラスブールと、ドイツを除き訪れる都市で目につくのがプリウスです。リーマンショック、さらにトヨタ車の予期せぬ加速問題で欧州でのトヨタ車販売が落ち込み、加えて欧州ソブリン危機で欧州全体での新車販売が低迷していましたが、2012年、2013年とマーケット全体が落ち込むなかでトヨタ車の販売が回復し、その牽引役を果たしてきたのが「プリウス」を筆頭とするトヨタハイブリッド群です。その走り回っている 「プリウス」は日本からの輸入車ですが、プリウス用のハイブリッドシステム、電池パックを日本からもっていき、英国工場で現地生産を行っているのが「オーリスハイブリッド」、さらに「アクア」のハイブリッドシステム、電池パックを使いフランス工場で現地生産を行っているのが「ヤリスハイブリッド」です。これにレクサスハイブリッドを加え、欧州での販売を牽引しています。もちろん、ロンドンでの市内乗り入れ税免除など、日本同様、各国、各都市のインセンティブ、補助金の後押しもありますが、ハイブリッド車が市民権を得てきたことが町を歩き回ると実感します。その中で、ひときわ目立つのがプリウスです。日本では一時、ハイブリッドはガラパゴスカー?との記事もありましたが、日本同様に欧州でも「プリウス」がごく普通のクルマとして走り回っています。

 

初代プリウスのアメリカ導入でつくづく感じましたが、トップの英断でハイブリッド専用モデルとして出したのが効果的でした。自動車変革の先駆けとしてプリウスのネーミングが付けられ、われわれ開発陣も清水の舞台から飛び降りるようなチャレンジをしてしゃにむに生産、販売にこぎ着け、当初はなにかあれば目立ち過ぎで引くに引けないとの思いがありましたが、これが今に思うと大正解でした。クルマを見て、一目でわかることがエコカー普及の先駆けとして重要でした。日本では、あまりにも普通になりましが、アメリカ、欧州ではまだワン・オブ・ゼム、現地生産の「オーリスハイブリッド」、「ヤリスハイブリッド」の販売も伸びてきていますが、やはり存在感が大きいのが「プリウス」です。さらに最近では、日本名「プリウスα」、欧州では「プリウスv」と読んでいますがこのワゴンタイプの「プリウスv」が目立つようになってきました。

 

「プリウス」タクシーのプレゼンス大と心配事

このプリウスファミリーが目立つもう一つの理由がプリウスタクシーの存在です。さすがにロンドンではロンドンタクシーの独壇場ですが、パリを筆頭に他の都市ではプリウスタクシーが欧州車を押しのけて幅をきかせています。数年前にストックホルムではその時のタクシー登録台数NO1が二代目「プリウス」、昨年訪問したベルギーブリュッセル、スペインバルセロナでも「プリウス」タクシーの多さにびっくりさせられました。パリでも二代目「プリウス」からタクシーで使われるようになり、三代目で飛躍的に増加、最近では大きなラゲージスペースから「プリウスv」のタクシーが増加しています。今回パリのホテルから空港までのタクシーとして、ベルボーイにお願いして「プリウスV」タクシーを止めてもらいましが、客待ち行列の中にも複数台の「プリウス」を見かけるのが普通になってきました。実は、欧州大都市での「プリウス」のプレゼンスが大きくなってくるのを喜びながら、一方「プリウス」タクシーの拡大は少し心配しながら見ていました。もちろんその一つの理由は、プリウス搭載のハイブリッドシステムをタクシー用途の年十万キロ以上が当たり前の長距離走行寿命までは考えてはいなかったこと、またこれまでのタクシー用途ではとかく売れ行きの思わしくないクルマの値引きをしての販売台数稼ぎの話もないわけではなく、正直その心配をしていたことも事実です。二代目プリウスがタクシーシェアNO1を占めたストックホルムでは、インセンティブがついていること、エコイメージとランニング費用が安く商売上もメリットがあるからと聞いていましたが、三代目プリウスでここまで台数が増える背景には、台数稼ぎもあるのではと心配していました。今回また、トヨタの関係者から状況を聞きましたが、その心配は当たっておらず、インセンティブ、ガソリン代の節約以外にもブレーキパッドの減りが少なく、オイルの交換スパンも長くなる上に、故障が少ないため稼働率が高く、商売上もメリットが大きいことが拡大の理由と聞かされました。確かに、初代から回生ブレーキの採用でメカブレーキの仕様頻度は大きく下がり、通常の使い方ではほとんどブレーキパッド交換が不要になったと聞いていました。

このような声は、「プリウス」が経年車品質NO1を連続、また各地域で獲得するなど、故障が少ないことからも裏付けられています。最近では、消費者レポートのベスト・バイ中古車として「プリウス」が選ばれたのもこうした信頼性品質の高さです。

Green Car Report 2014/03/19

http://www.greencarreports.com/news/1090956_used-toyota-ford-hybrids-score-well-in-consumerreports-best-used-car-list

パリ市内からシャルル・ドゴール空港までの「プリウスv」タクシーに乗って、三代目マイナーチェンジ後であることもあってか、室内音も良く乗るコンベディーゼルタクシーよりも遙かに静か、さらに変速ショックのないなめらかでモーターアシストも加わったトルクフルな加速に、手前味噌ながらこらならプリウスが欧州で良い次世代車として認められるようになったことを実感しました。

 

普通になったプリウスの次に期待

しかし、ここまで普通になった次への期待はさらに高くなります。商売上もメリットのでるタクシー用途はいまだけの役割でしょう。昨年の東京モーターショーで展示されたように、いずれはタクシー専用のハイブリッド車が今の「プリウス」タクシーに切り替わっていくでしょう。またここまで普通になってきたら、パーソナルカーとしては次の飛躍にむかいこれまでのユーザーを引きつける何かが必要になってきます。ともするとエコ疲れを感じ始め、普通=陳腐化の道を歩みはじめた「プリウス」を、やはり先駆け「プリウス」とサプライズを与える4代目の出現を期待しています。

今回の欧州出張のさなかに、ホンダから「インサイト」に続き、「CR-Z」の欧州販売打ち切りのニュースが流れてきました。欧州でときどき「CR-Z」を見かけるだけに、販売打ち切りは残念です。ここまで普通になってきた次世代自動車としての日本ハイブリッド車の次の飛躍には、さらなるマーケットには良きライバルとの競いあいが必要です。欧州勢は、どうも政治的にも、規制対応としてもノーマル・ハイブリッドをスキップしてプラグインハイブリッドを優先させてくるようです。しかし、タクシーがエコだけではなく、経済原理から「プリウス」が増えたように、政治的、規制対応だけではユーザーの賛同は得られません。普及が遅れると低カーボンを目指した次世代車への変革が遅れることになります。

良きライバルも参入し、クリーン&グリーン(低カーボン)は当たり前の上に、クルマとしての魅力アップも果たし、ハイブリッドがさらにごくごく普通のクルマになり、そのなかでクルマそのもの商品魅力を競い合う時代になることを見届けたいと思っています。

ロンドンにて ロンドンの大気汚染

先週の土曜日からロンドンに滞在しています。4年ぶりのロンドンです。ホテルは中心部のトラファルガー広場やピカデリーサーカスへ歩いて5分ほどで行けるロンドン観光にはうってつけの場所にあります。しかし、残念ながら観光ではなく仕事の出張です。

渋滞税で市内の大渋滞は解消

ヒースロー空港からそのホテルまでの道、さらに市内を歩き、走り、シティー地区への行き来では10年ほど前の絶望的な渋滞はなくなったと感じました。これは、間違いなくあるConjestion Charge, いわゆる渋滞税が実施された効果です。歴史的建造物が多く市内は車を走らせるような道路整備がやれないまま自動車普及が進み、ビクトリア朝時代の馬車での速度の変わらないくらいの大渋滞が日常茶飯事でした。この状況の打破のため2003年当時の市長が強引に導入したのがConjection Chargeです。当時は市内に乗り入れるのに一日3ポンド、いまでは10ポンド(今のレートなら約1,700円)も取られ、いたるところ取り付けられた監視カメラでしっかり監視され、違反は反則金が徴収されます。

これが功を奏して、市内の馬車どころか歩行者よりも遅いといわれた大渋滞が緩和されています。これと、市内の人、自転車、車が入り乱れて通る狭い道の速度規制で人身事故も減っているようです。電気自動車やハイブリッド車は この規定から除外され、そのためか、パリやストックホルム同様やたらとプリウスやこの英国で現地生産しているオーリスハイブリッドが目につきます。この自動車先進国の英国でしっかりと次世代エコカーとしての市民権を得ていることを目にするとうれしくなります。こうした中、パリに続きロンドンでも電気自動車のカーシェアサービスロンドン版Autolib がスタートするようですが、もしかするとロンドンなら二匹めの泥鰌はいるかもしれません。

しかし、ロンドンもパリ同様PM2.5の大気汚染が深刻

また、高速道路でロンドン市のエリアに近づくとLow Emission Car Onlyの標識が立っています。これは今年の2月4日から実施されることになった、市が設定した厳しい排気規制をクリアしたLow Emission Carだけに乗り入れを認める条例による標識のようです。これまたカメラで厳しくチェックされ、規定を超える車を識別すると日当たり200ポンド、今のレートなら44,000円の罰金がとられます。これは大型ディーゼルトラックの市内乗り入れ規制が狙いで、いまだにPM2.5、NOxの大気環境基準が達成できないことが理由です。

欧州大都市での大気汚染は3月20日のブログでパリの汚染警報発令と交通規制を紹介しましたが、このロンドンでも同様です。今週は急に気温が上がったこともあり、市内全域に大気汚染注意報が発令、PM2.5濃度が高まりできるだけ室内に留まるようにとの注意喚起があったそうです。この主因が長らくガソリン車よりも緩いディーゼル規制を続けてきた付けが回ったことと述べましたが、もう一つは地中海を越えてやってくるサハラ砂漠からの塵も原因とのことです。
欧州大陸を超え、英国まで飛んでくるとは驚きです。このサハラ砂漠の塵も原因かもしれませんがやはり有害成分はSO4、NOxといった工場からの排気やディーゼルからの排気成分で、ディーゼル車の規制強化、特に大型ディーゼルの規制強化、大都市部の自動車の利入れ規制などは必要なのかもしれません。

クリーンな自動車を提供するのは、自動車エンジニアの役割です。さらに、このPM発生源のもとになる、燃料中のサルファー(硫黄分)の低減もあと一息のところにきています。最近では、エンジン潤滑油がガソリンでもディーゼルでもPMの発生源との説も発表されています。これまた、それが原因なら、自動車エンジン屋、石油メーカー、オイルメーカーが協力すれば大幅低減を目指せると思います。それも、規制モードのクリーンではなく、なんども申し上げているリアルワールドでの大幅低減を目指してほしいものです。
ロンドンの空をみながら、自動車エンジンやとしてまだまだやることは残っていると感じました。

IPCC第38回総会と自動車の低CO2

横浜でIPCC第38回総会開催中
今週の25日から横浜市パシフィコ横浜会議センターで、気候変動の現状分析と対応策を話し合う、IPCC第38回総会が開催されています。IPCCは国連環境計画(UNEP)、世界気象機関(WMO)により、1988年に世界の気象学者と環境研究者、政府機関の環境政策スタッフを集めて設立した政府間機関です。
人間活動で排出される温暖化ガスにより引き起こされていると言われる地球規模の気候変動に関する科学的な最新情報をまとめ、各国にその実情と将来予測、緩和にむけての政策提言をおこなう役割です。定期的に気候変動に関する多くの専門家の研究と分析をまとめて報告書を発行、今年は2007年の4次報告書に次ぐ第5次「評価報告書」発行を予定しています。
この活動を通じてIPCCは2007年度にアメリカのクリントン政権時代の副大統領ゴア氏とともにノーベル平和賞を受賞しています。代表として賞を受け取ったのが、現IPCC議長のパチューリ氏です。

生態系、経済社会への影響と適応策が提示される?
今回の総会では、温暖化ガスの増加がもたらす生態系、社会、経済社会への影響及び適応策について評価を行う第2作業部会の活動報告を予定しており、最終日にはこれまでの活動を纏めた評価報告書を採択し発表することになっています。
2007年の第4次評価報告書としての提言に基づき、国際社会として温暖化ガスによる地球平均気温の上昇を2℃以下に抑制するとの目標に合意していましたが、温室効果ガス排出削減への取り組み目標を決める国際条約をなかなか纏めあげることができずにいます。
(国際条約を決めるには通称COP:気候変動枠組条約締結国会合)

地球平均気温上昇2℃以内に抑制は絶望的
今回のIPCC総会を前に、パチューリ議長は2℃までの抑制は絶望的であり、このまま増加が続くと今世紀末には平均気温が最大4.8℃上昇するとして、経済損失が大きいだけでなく、人命や生態系への影響が甚大と警告しています。さらに、「何もしないことのつけは非常に大きい」と各国が早急に温室効果ガス排出削減に取り組むことを呼びかけました。
日本では福島第1原発事故の影響で原発がほぼ停止状態に追い込まれ、削減どころか1990年比でも増加する状況に追い込まれています。また、中国、インドなど発展途上国の経済急成長で石炭、石油、天然ガスの消費は急増し、温室効果ガスの代表である二酸化炭素(CO2)の大気中濃度が、産業革命前の280ppmから昨年とうとう400ppmの大台を突破してしまいました。

自動車からのCO2排出
自動車もCO2排出の主役の一つです。ハイブリッド開発に取り組んだのも画期的な低燃費自動車を普及させ、CO2排出の寄与度を下げることでした。日本ではハイブリッド車の比率が17%に達し、従来車の低燃費化も加速、日本の燃料消費総量が減少に転じています。アメリカでのハイブリッド比率はまだ3.8%台とわずかですが、低燃費の流れは強まり石油実需が減少に転じたようです。一方、三度目の正直だったはずの電気自動車は、またもやそのブームは去りかけています。電気自動車の走行中ゼロエミッションには意味はなく、温室効果ガス削減が目的なら発電時のCO2、さらに自動車製造時、電池製造時、配電ロス、充電効率、配車時のCO2を含めて評価すべきです。しかし、この議論の前にクルマとしての基本機能、性能不足で、主役としては役不足、ニッチのマーケットではCO2削減への期待も萎んでしまいそうです。その替わりか、これまた1990年代後半のデジャビュのように、水素燃料電池車(FCEV)がクローズアップしてきました。これまた、世界の自動車から排出するCO2削減の主役となるには克服できるかどうか判らない課題が山積しています。 その将来は水素燃料電池車の実用化に人生をかける気概で取り組んでいるエンジニア達にかかっていますが、簡単ではありません。

実用燃費3倍へのチャレンジに期待
一方、このハイブリッド車、低燃費車の流れにも変化の兆候が現れてきました。エコ、エコのかけ声ばかりで、何かエコ疲れが見えてきたのではと心配しています。エコとエコは気にしない派の二極分化が進み始めているように思います。21世紀はエコカーの時代、その21世紀に間に合わせましたと言い歩いた当事者ですが、未だにカタログ燃費の数字を競い合うエコの押し売りでは、次のステップの普及拡大にはつながらない気がしています。
もちろん、燃費向上、低CO2の足踏みは許されませんし、軽量化、低空力損失などクルマとしての低燃費、エンジンの高効率化、電気駆動系の高効率化、電池の充放電効率向上もまだまだ余地は残っています。以前のブログで紹介したように、ハイブリッド開発の燃費向上目標はプリウス開発ストーリーで紹介されている燃費2倍ではなく燃費3倍でした。
カタログ燃費だけの目標ではしょうがありませんが、今なら当時のカローラ比として実走行燃費3倍は無謀なチャレンジ目標ではないように思います。

その上で、普通に走ると燃費3倍のエコ、しかし時には郊外で気持ちの良いエンジンサウンドを響かせながら伸びのある加速も両立させたクルマが目指す方向です。セダン、ステーションワゴン、クロスオーバー、ミニバン、スポーツクーペ、カテゴリーもそのデザインも好みは人それぞれ、エコだけではなく、それぞれの好みのジャンルでサプライズを感じ保有したくなるクルマが実質エコ拡大を牽引するように思います。マーケットが盛り上がり、こうしたクルマが古い燃費の悪いクルマに置き換わっていってCO2削減の実効を高めることができます。

販価の制約は大きいですが、発展途上国へもこうしたクルマを普及させていくことがグローバル自動車としてのCO2排出削減への貢献です。

COPでの国際合意に期待するより、技術イノベーション
今回のIPCC 総会での提言が次のCOPにどのように反映するかは判りません。グローバルな温室効果ガス削減への取り組みは待ったなしですが、これは国際政治で決まること、多くを期待してもしょうがないことは過去のCOPの歴史が物語っています。

それでも手を拱いているわけにはいきません。クルマだけではありませんが、研究者、エンジニアがやれることはまだまだあります。日本の環境、省エネ技術をさらに進化させ、エコと商品魅力の両立、販価効果を高めていくことがエコイノベーションです。
45年のクルマ屋の目から見て、今の世界のクルマの中でエコとクルマの魅力を両立させ、サプライズを感じ保有したくなるクルマは残念ながらありません。終の棲家ならぬ、免許証の返上前にこうした終のクルマに巡り会いたいものです。