自動運転について考える

Hondaセンシング、インテリジェントブレーキアシストプロパイロット、i-ACTIVSENSE、Toyota Safety Sense等々、全て車の先進安全装置と呼ばれるシステムの各社の名称です。
この名称から、各社のシステムがどのような安全装置を装備しているかお分かりになる方は少ないのではないかと思います。現在販売されている装置には、衝突被害軽減ブレーキ、ペダル踏み間違い時加速抑制機能、定速走行・車間距離制御機能
(アダプティブ・クルーズ・コントロール)、車線維持支援制御機能(レーンキープ・アシスト)、駐車支援システム等があり、一つまたは複数を組み合わせて販売されています。

読者の方も事故を起こさないために上記のようなシステムを搭載した車を購入した方も、おられるのではないでしょうか。交通事故の9割は人的なミスによると言われていますので安全システムによって事故が減ることは喜ばしいことです。一方で安全システムが自分の思っていたようには作動しなかった、自分が希望していたシステムが搭載されていなかった等の不満を抱いているユーザーが約25%もいることが国民生活センターの先進安全自動車に関する消費者の使用実態調査で判明しました。

現在国内自動車メーカーが販売している先進安全装置は自動運転の定義としてはレベル1(運転支援)またはレベル2(部分運転自動化)で、いろいろな条件で安全装置が働かないことは自動車メーカー自身が認めていますし、安全装置の機能説明書にも注意事項が記載されています。先進安全装置として最も普及していると思われる衝突被害軽減ブレーキですら、国内自動車メーカ―8社全てが「天候によっては作動しないことがある」、「路面、道路状況によっては作動しないことがある」、「あらゆる状況での衝突を回避するものではない」等と回答している状況です。

自動運転の定義レベル1, レベル2ですら上記の様な状況において、レベル3システムを搭載し運転中に於ける重大事故も報告されているにも関わらず、自社の非を全く認めず、ドライバーにだけ責任を押し付けているメーカーもあります。

IT系企業を中心に自動運転による事故件数の低減、先進技術推進の名目で安全基準の緩和等が行われている状況もあります。

今回は以前に会員様向けに発行したメールニュースと国民消費生活センターが調査した結果を添付しましたので、お読みいただき,今後の自動運転車の方向性について考えて頂くきっかけとなればと思います。

国民消費センターの調査レポートをお読みになる場合は : NCAC Automatic Brake
弊社のメールニュースをお読みになる場合は : NGM 2017_9_05rev
をクリックして下さい

 

NCAC _Automatic Brake-20180118_1 NGM_2017_9_05 rev.NGM_2017_9_05 rev.

特別寄稿 「強い信念とあくなき追求-青色発光ダイオードにノーベル賞をもたらした企業研究支援」 青山 高美氏

2015年2月、弊社会員誌に寄稿いただいたレポートの再録版です。あとがきに述べましたが、日本の研究者3名がノーベル賞を受賞した、青色発光ダイオード研究の経緯、日亜化学、豊田合成との知財権訴訟の経緯について、豊田合成のアドバーザーとしても関与された元トヨタ自動車知財部長、元トヨタテクノサービス(現トヨタテクニカルでベロプメント)代表取締役社長の青山 高美氏に執筆いただいたものです。

タイトルにある、日本人研究者の“強い信念とあくなき追求”の一端を感じ取っていただければ幸いです。 (コーディア代表 八重樫)
 
レポートをお読みになる場合は下記のファイル名をクリック下さい.
マガジン_2015 年2月号_HP再録用2

プリウス開発秘話 「非常事態宣言とナベさんの思い出」

弊社コーディアのホームページを8年振りにリニューアルするタイミングで昨年末から2度目のお休みをしていたブログを再開することにしました。多くの愛読者のご支援に力を頂いていましたが、度重なる自動車会社不正に、ただでさえ不得意な文章を書く意欲を低下させてしまい、ずるずると休載をつづけていました。しかし、まったナシの筈のクリーン&低カーボン車への転換に、黄信号が灯り、それをリードしてきた日本勢にもマーケットをリードするにはパワー不足、その日本自動車エンジニアの叱咤、激励のつもりでブログを再々開することにいたしました。気が向いた時に、更新するつもりでおりますのでご支援よろしくお願いたします。

再開初回のテーマは、プリウス開発秘話シリーズとしてお伝えしてきた初代プリウス開発時のエピソードにすることにしました。タイトルは「非常事態宣言とナベさんの思い出」としました。 

この「非常事態宣言」とのタイトルのブログは、2011年7月に掲載しており、その第2弾となります。(2011年7月7日 コーディアブログ 第52回)

図 非常事態宣言 平成8年(1996年)7月1日発行
Cordia Blog_20160810_1

東日本大震災後4ヶ月がたち、福島第1原発大惨事の冷却システムがやっと安定的に動き出した時期、日本にとっての一大有事への対応との対比で、トヨタにとって、また私にとって有事だったプリウス開発での「非常事態」対応について紹介しました。首都圏含め、日本の半分以上に人が住めなくなる可能性もあった有事と比較するのは不相応ですが、政官財(東電トップ)が機能不全を露呈させたあの有事対応との比較を意識した投稿でした。

このブログで紹介した「非常事態宣言」を書いた時期は、1996年7月1日、丁度トヨタの株主総会直後、新役員体制がスタートしたタイミングです。誰も、どこも量産商品としてはやったことのないフルハイブリッド車をそれも、まともに走ったこともないシステム構成で2年のうちに新型車としての発売することを目標に走りだしたものの、当然のことながら次々と重大不具合が発生し、対応の見通しが全くつかない時期でした。
この時の詳しい状況は、この「非常事態宣言」のブログをお読み下さい。

ブログの抜粋
「山のような不具合報告がでるのは当然で想定内でした。しかし想定内とはいえ、エンジン軸から発電機やモーター、車輪にトルクを伝えるインプットシャフトがぼきぼきと折れ、電池が煙をだし、テストコースや技術部構内道路のいたるところで試作車が故障停止、走行中にエンジンを止めたり、かけたりするたびに大きなショックを発生し、さらに燃費は従来車の2倍の目標にはほど遠い状況と、致命的とも思える深刻な不具合の報告の連続には、やはり無謀なクレージープロジェクトとの部長連の言葉が身に染みる状況に思え、このプロジェクトの幕の引き時とそのディシジョンプロセスを頭に浮かべるようになってきました。」と表現しています。 

そんな状況の中で、このハイブリッド・プロジェクト「BR-VF室」と電気駆動系の設計部隊「EV開発部」担当役員となったのが、クラウンのチーフエンジニアだったナベさんこと、渡邉浩之氏でした。この前回の「非常事態宣言」ブログでは、名前までは紹介しませんでしたが、この「非常事態宣言」とそのアクションプランは、そもそもナベさんへの説明用として作成したものでした。ナベさんが新任役員として担当する部署は、「BR-VF室」、「EV開発部」のほか、東富士のFP部、海外サービス部と結構広く、この「非常事態宣言」を説明し、これからを相談させてもらう時間がなかなかとれませんでした。そこで、目をつけたのが東富士出張の新幹線会議です。秘書から、出張日程を聞き出し、三河安城から三島までのこだま号グリーン車の約1時間40分が格好の報告時間、こだまの号のグリーン車はいつもがらがら、人に聞かれる心配もない独占会議室として、詳しい報告をし、対応策の相談に乗って貰いました。さらに三島から富士の裾野にある東富士研究所までのクルマの中では、さらに進めて具体的なプロジェクトマネージの体制や、人員増強についても相談をすることができました。このこだま号の中の1時間40分の報告で、「状況は分かった。このアクションプランを全面的に支援するから、すぐに具体化しよう」との一言が体制立て直しのスタートでした。Cordia Blog_20160810_2
車両チーフエンジニアを中心とする車両開発がトヨタのDNAとして定着しています。しかし、ハイブリッド車プリウスの開発は従来の遣り方をぶっ壊せとスタートしたプロジェクトで、車両チーフエンジニアも車両開発経験のない内山田さん(現トヨタ会長)が指名されていました。彼と私は同期入社の顔見知り、アクションプランは事前に相談していましたが、従来のやり方をぶっ壊せと言われなくとも従来のやりかたでは出来ないことは明かでした。そこで活用したのが、チーフエンジニアを中核に、重大課題毎にリーダーを決め機能横断タスクフォース活動により開発を進めるやり方です。チーフエンジニア経験の豊富なナベさんの後押しももらい、ハイブリッド・リーダーは黒子としての調整役に徹したことも、目標どおり「21世紀に間に合いました!」のキャッチフレーズで生産・販売に漕ぎ着けることができたポイントと思っています。
ナベさんは、入社年次で2年先輩、ハイブリッド担当から離れた後も、また私のリタイア後も、言いたいことを言い、また言われ、相談にのってもらった、ボスというよりも兄貴分でした。トヨタでは、ハイブリッドやEV、燃料電池車開発担当の他、研究部門や環境部門を担当、専務を務められた後、技監として2009年からITS Japanの会長を務められ、自動車のITS活用による衝突安全予防、交通事故死ゼロをめざす政府プロジェクト「SIP 自動運転システム」のプログラムディレクターとして、自動走行の指針作りに取り組んでおられました。
昨年10月ボルドー(フランス)で開催された、ITS世界大会に出張された折に体調を崩され、入院されたとの話を耳にして心配していました。お元気なイメージだったナベさんのお見舞いに行く踏ん切りがつかずいたところ、3月中頃にナベさんから会いたいとの声をかけていただき初代プリウスチームのメンバーとお見舞いに伺ったのが3月25日(金)でした。エキサイティングな経験出会った初代プリウス開発の話、将来自動車への夢を、声が出せない状態の中でいろいろ話しをされ、さらに1月にディレクターとして指針を纏められた「SIP 自動走行システム 推進委員会」資料のコピーを用意され、その内容を熱心に説明していただきました。許可されていた面会時間を大幅にオーバーし、何度も何度も握手をしてお別れしましたが、そのグリップの強さが忘れられません。それが文字通り、兄貴分であり、お互いにトヨタの有事と意識して開発に取り組んだ、二度と巡り会えない同志とのお別れでした。

その時頂いた資料に纏められていた「SIP-adus (automated driving for universal service)」
の目指してきた自動走行の研究開発の、わが国がイニシャティブをとり、世界に貢献すべきとして述べ、世界が未だ大きくフォーカスしていない課題として次の3つを強調されていました。

課題A 自動走行車は、市民の理解と受容性を超える挙動をしてはならない
課題B 自動走行のクルマはヒトのセンシング能力を超えられるか?
課題C 歩行者事故を低減する抜本的対策を実行に移そう
 ~地球規模の課題解決にスピード感が不足~ 
との追記があり、この課題と追記の表現は何事もスピードを追求したナベさんらしいと感じたところです。

平成28年1月21日「SIP 自動走行システム 推進委員会」(第20回)
拡大推進委員会(臨時)資料
http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/iinkai/jidousoukou_22/sankousiryo3.pdf

生涯自動車エンジニアを貫かれ、常に自動車の将来に夢を託された渡邉 浩之さんに合掌、元気なうちはその夢を引き継ぎたいと、ブログ再々回の第1回目としてことのテーマをとりあげました。

アンチ・ディーゼル?

コーディア・ブログを再開し、トヨタとプリウスハイブリッド車累計800万台突破と4代目プリウス発表を取り上げ、17年前、18年前の初代プリウスハイブリッド開発の修羅場に想いを馳せていた矢先、VWスキャンダルが明るみにでました。

このVWスキャンダルは、後ほど述べる私の、将来も夢が持てるクルマをめざし、取り組んできたクリーンエンジンエンジニアとって悪夢、信じがたく、許し難い事件でした。そのため、筆の勢いが止まらず、もう自動車ムラの一員ではありませんが、個別問題で同業他社を非難、攻撃しないとの身についたルールを破ってしまいました。

この心境は今も変わりません。VWが、さらに将来のディーゼルがどうなっていくのか注目しているところです。

また、このブログ「クリーンならぬ、ダーティー・ディーゼル その1、その2」、さらに2013年8月に書いたブログ「クリーン・ディーゼルは本当にクリーン?」*1をお読みいただいた方々から多くの反響をいただきました。またTVにも引っ張りだされてしまいました。

*1:  http://www.cordia.jp/wp/?m=201308 2013年8月15日

このためか、私がガソリンハイブリッドに凝り固まった頑迷なアンチ・ディーゼル派などと言われているとの噂も聞こえています。

しかし、私自身は決してアンチ・ディーゼル派ではありません。以前のブログ「クリーン・ディーゼルは本当にクリーン?」の時は、今回のような世界自動車をリードしてきた欧州トップメーカーが、こんな悪質な詐欺事件を起こすとは夢にも思っていませんでした。

そのブログでは

・ガソリンよりも環境対応が遅れたディーゼル

・クリーン・ディーゼルはまだクリーン化の過渡期

との表現で、欧州、日本でのディーゼルとガソリン排気規制のダブルスタンダードを取り上げ、それほどクリーンではないのに欧州勢のプロパガンダに載せられた”クリーン”・ディーゼルとの表現に噛みつきました。この意味でのアンチクリーン”ディーゼルですが、アンチ・ディーゼルではありません。中型以上のトラック、大型バス、さらには産業車両、船舶などガソリンに置き換えることは困難、また用途が限定された宅配車、都市バスなど一部を除き、電気自動車への転換もさらに困難です。本当のクリーン化が急務、実態とは異なり言葉の上でクリーンを標榜することの付けが回ることの注意を喚起してきたのがこのブログの真意です。この時もアンチ・ディーゼル?とのコメントを頂きました。

今回の事件がアメリカで発覚した理由として、アメリカがいち早くディーゼルとガソリンをほぼ同一規制値レベルとしたこと、保証期間も厳しい規制であることが背景にあると報道されています。私はさらにエミッション・燃費の公式試験モード外、いわゆるオフモードでのエミッション急増が問題とし、1990年代の始めに公式モード外の急増に歯止めをかけるSFTP(Supplemental Federal Test Procedure: 追加連邦試験法)の導入が要因の一つと推測しています。(図1)

この制定では、米国連邦環境保護庁(EPA)、加州大気資源委員会(CARB)の要請で、当時のBig、さらにGMからの要請でトヨタも米国内での走行実態調査に計測装置を搭載した試験車を提供し、データー解析にも協力しました。当時トヨタのクリーンエンジン開発リーダーだった私も、米国スタッフの要請で支援し、ルールメーキング議論にも加わっていました。エンジン出力が非力な小型車には厳しい試験法ですので、これを含めて欧州基準の簡素なディーゼル後処理システムでクリアさせるのが困難で、こうした不正に走ったのではと推測しています。

1025ブログ 図

一部には、米国は特別厳しすぎる、ロスの光化学スモッグは特殊な例と解説するジャーナリスト、メディアもありますが、今回の事件が起こる前から大都市の大気環境悪化が問題となってきたことは、これまでのブログで述べたとおりです。

”Defeat Device”の不正行為と、オフモードエミッション増加の話しは別ですが、この事件が切っ掛けで結局オフモードに目を背け続けるわけにはいかなくなりました。新試験法の採用、さらに車載分析系(PEMS)による実走行エミッションテストの義務づけ、加えてオフモード試験法の追加などが議論されています。

従来システムのままで、この新試験法、オフモード試験をクリアさせることは困難になり、追加コスト増も免れません。実質的な規制強化であることは間違いありません。しかし、各国、各社とも同じ土俵でフェアに技術競争にチャレンジすることにより克服できると思います。

40年以上のクリーン&グリーン(低燃費)ガソリン開発を振り返っても、マスキー当時の触媒貴金属量は規制値がマスキーのさらに1/10にまで厳しくなった現在のシステムのほうが少なくなっていると思います。また、全てのエンジンが4バルブ、気筒別燃料噴射、マイコン制御化されましたが、自動車メーカー、部品メーカーの設計から生産、部品、材料まで血の滲むような努力を続け驚くようなコスト削減を実現し、販売価格を上げずにスタンダードシステムに発展させることができています。フェアな競争による技術進化が自動車の発展を支えてきたと、その開発競争の先頭を走ってきた一人として自負しています。確かに、ディーゼルはその燃焼原理からも、そのクリーン化はガソリンよりもハードルは高く、当初はコスト増を招いたとしても知恵の結集により克服できると信じます。

今こそ、世界のディーゼル屋が、燃焼、後処理システム部品、材料、制御、燃料技術分野との連携と競争により、クリーンガソリン・ハイブリッドと方を並べる正真正銘クリーン・ディーゼルへのチャレンジが必要です。このチャレンジには、電気アシストの活用、すなわちハイブリッド化も有望な手段と思います。もちろん、これも低コストのハードルは低くはありませんが、これまたチャレンジを期待します。

もちろん当事者である、VWはその正真正銘のクリーン・ディーゼルへの技術チェレンジをリードする義務があります。新体制の今後の取り組みとして「脱ディーゼル、電気自動車シフト」とのニュースが聞こえてきます。「脱ディーゼル」はあり得ません。VWこそ、復活のためにもクリーン・ディーゼルの開発に手を抜くことは許されないと思います。

もちろん、ガソリンハイブリッドもフェアな競争として、この新クリーンディーゼルと欧州での走り、高速燃費でもさらに高いレベルで競いあって欲しいものです。

未来のクルマは自動運転車!?

TVコマーシャル “やっちゃいました!”

最近、気になる自動車のTVコマーシャルが、“やっちゃいました!”とのコマーシャルです。自動運転がほんとうに“やっちゃえる!”技術、になるのでしょうか?トヨタも高速道路限定のようですが、2020年に商品化のアドバルーンをあげ、さらに早いのはテスラが、ドライバー責任を強調したうえでの自動運転ソフトをリリースしました。自動車とは何か、自動車交通の安全性とは何かの掘り下げた議論や、法整備もなしに熱病に浮かされている状況の商品力競争ブームには首をかしげざるを得ません。また、それを煽るメディアの報道、行政の反応に危惧の念を強めています。安全運転の基本は運転に集中すること、この基本が変わるのでしょうか?

安全運転の基本は運転に集中すること!?

現役時代の話しですが、自動車の評価を行うためには、私のようなパワートレイン・エンジニアも試験車運転資格の取得が必要でした。その社内試験車運転資格もクルマ全体の限界走行性能を評価する社内のテストドライバーまで、様々なクラスに分かれていました。限界性能評価を行うエンジニアやクルマの走行性能評価を行うテストドライバー以外の我々が目指すトップランクが上級試験運転資格でした。それがないとテストコース内でも180 km/h超えの高速走行や、欧米一般路での試験走行は許されません。上級資格の取得トレーニングは、スリッピーな路面でのドリフト走行から、サーキット路でのタイムトライアルまで時間と金を掛けて行われます。クルマ屋にとってみると、業務内で行える最も面白いトレーニングですが、徹底的に叩き込まれることがクルマの限界を知り、その範囲で安全に走ることです。最終のサーキット走行では、最低ラップタイムが指定されますが、追い込み過ぎてコースアウトすると、それで即不合格です。兎に角、様々なクルマ、走行環境下での限界を知り、決してそれを越えた運転を行わないためのトレーニングです。そんな運転資格試験の走行トレーニングで教えられる基本の一つに、障害物回避があります。仮にテストコース内に鹿、イノシシ、熊がでてきても、「超高速走行ではぶつかってもしょうがないからハンドル操作で回避しようとするな」です。事実、静岡のコースで鹿、北海道のコースでは鹿や熊が出没することは報告されていました。レアですが衝突例もあったように思います。高速走行では、当たり前ながら急なハンドル操作は禁物、ハンドルを切らずにタイヤロックをさせない最大制動力でのブレーキングがまず運転技能として叩き込まれる基本中の基本です。クルマの限界、自分の運転技能の限界を知り、さらにどんな時にも運転に集中することを徹底させるトレーニングです。運転技能訓練でない一般路の場合でも、安全運転のポイントは運転に集中すること、このパラダイムを変える自動運転は実現できるのでしょうか?

自動運転に求められること

自動操縦に戻ると、このような高速走行中に大型動物が出てくるケース以外にも、前方に落石、道路の陥没、トラックからの落とし物、前方のスリップしたクルマに遭遇するケースはゼロではありません。さらに、操舵輪がバーストしても回避走行ができるか、衝突してでも被害を軽微にとどめるか、回避操作を行うかの判断がドライバーに委ねられているのが今の自動車です。自動運転も走行系に影響を及ぼす部品故障時でも安全に回避、待避走行させる機能を持つことが条件です。暴走運転の割り込み、故意の自爆運転まで考えておく必要があり、そんな様々なケースで勝手に後はトライバーの責任とギブアップするようなクルマならそれは自動運転ではありません。さらに、大雨、大雪、強風、霧、路面状況も水たまり、雪道、氷結路などさまざまです。ひとたび自動運転モードに入ったら、このような条件で勝手にギブアップすることは許されません。技術的にこのような条件を満たせたとしても、性能要件を定義する規格、基準、法的責任所在を定義する法規制、保険制度などなどを整備が不可欠です。

もし、上記の条件を満たし、法整備もでき、完全自動運転のクルマが実用化できるなら、老兵は消えゆくのみ、将来の自動車技術を語る資格はありません。そうでない、中途半端な自動運転もどきのフィーバーなら、自動車に拘わる誰かが止めるべきです。”やっちゃいました!“のTVコマーシャルのクルマも、トヨタの2020年に目指すクルマも、先週テスラが『Model S』制御ソフトVersion7でリリースした自動操縦ソフトも、もちろん完全自動運転ではありません。テスラの例では、自動運転を目指すとしていますが、いざ何かの折にはドライバー責任、ステアリングホイールを従来車どおり手を載せて走ることが”strongly recommended”とされています。結構、システムとしてのギブアップ条件は多いようです。

自動運転車はバイ・ワイヤシステムが前提 その道を拓いたのはプリウス

自動運転車は、当然ならが、ドライバーの操作ではなく車を自動で操りますので、その基本は、クルマの基本要素「走る」「曲がる」「止まる」は、信号仕掛け、バイ・ワイヤー制御が前提です。その意味で、この三要素全てをバイ・ワイヤー制御でやらざるを得なかった、フルハイブリッドのプリウスがこの自動運転への道を拓いたと言っても良いでしょう。バイ・ワイヤー制御でなければ成り立たないフルハイブリッドのプリウス開発では、バイ・ワイヤー制御の安全、安心品質をどうやったら保証できるか、本当に保証できるのか、確認に確認を重ね、無い知恵を絞り、意地悪試験をやりまくり、その上で清水の舞台から飛び降りるような決断でGoを掛けました。「走る」「曲がる」「止まる」の三要素に、ドライバーの操作、意図から外れる安全・安心性能を損なう不具合が発生したら、リコールは当然、生産をストップさせ場合によってはすでに売ったクルマを回収するケースまで想定しました。それくらい、重い決断で踏み切った、ハイブリッドです。

Googleの自動運転開発用試験車の殆どがプリウスとレクサスRXハイブリッド

今の自動運転ブームに火をつけた主役は、Googleですが、遊園地のオモチャのようなハンドルもない自動運転プロトは別として、これまでの検討用車両のほぼその全てが2代目プリウスと、レクサスRXハイブリッド車の改造試験車です。バイ・ワイヤーの信号系だけを操作して、ナビデータと画像認識処理に基づく運転操作信号をハイブリッド車のアクセル信号、ブレーキ信号、ステアリング舵角信号としてECUに送り、ハイブリッドECU、ブレーキECUなどから駆動力、制動力、操舵角信号をアクチュエータに送り自動運転をやっていると思います。ハイブリッドシステム制御をハックして動かしているのでしょう。しかし、制御ソフト全体がその設計思想含め、解読されているとは思いません。

エンジンを含めた、ハイブリッドパワートレイン、パワーステアリング、ブレーキシステムの基本構成、設計要件、設計思想、フェールセーフ設計指針、保証指針、さらにその車両系、シャシー系の設計指針と思想、特性を理解して、設計情報を掴んで改造できる筈はありません。信号系、制御系だけをだまして自動運転と言っているなら、極言するとお遊びのオモチャです。ブレーキ性能一つとっても、タイヤ、ディスク径、パッド特性さらにサスペンション特性など、さまざまな設計要件があり、基準、規格があり、試験法があり、さらにその上で、各社の規格、判定基準に沿ってクルマは作られています。さらに、クルマは個人ユーザでも15年以上、タクシーでは50万キロ以上も使われ、その間の経時変化も考慮に入れた安全・環境品質とその信頼性保証が必要な製品です。

このクルマの基本を性能、品質、信頼性を抜きにしての自動運転車はまだ、遊び、おもちゃと片付けられますが、それを取り上げるメディア、アナリスト達に煽られたのか、自動車メーカーの一部にも、自動運転がブームになってきていることが気になります。このTVコマーシャルだけではなく、ドイツ、スツッツガルトに本社がある老舗高級車メーカーがプレミアムクラスのリムジンコンセプトを展示し、そのCEOが完全無人操縦のそのリムジンを将来リムジンと紹介する姿にがっかりしました。自動車にどんな未来を描いているのか、本当に完全無人運転車が将来自動車としての目指す方向か、どこか、どなたかIT系以外のクルマの専門家、自動車メーカートップが、将来自動車のわくわくする夢、ビジョンを語って欲しいと思います。それは、ドライバーレス自動運転車ではないでしょう。

米国のネットサイトに、Googleのプリウス、レクサスRXハイブリッドを改造した実験車の追突事故率が高いことが何度か取り上げられていました。普通のプリウス、レクサスRXハイブリッドの事故率、米国での追突事故率は掴んでいませんが、ニュースの件数だけからするとgoogle試験車での事故率は高いと思います。その全てが、被害事故と会社側は言っているようですが、法律的な判断は別として、クルマの流れの中での追突事故で100%被害事故は多くはありません。ブレーキのタイミング、操舵のタイミングが一般のドライバー操作との違いがあるとすると、それが追突を誘発する可能性も否定はできません。もちろん、一般車のドライバーも千差万別、力量、判断基準も大きくばらつきます。ニュースで取り上げた中に、そんな千差万別、バラツキが大きく、判断ミスをする人間の運転より、自動運転車のほうが事故確率を低くできるとの意見もありましが、確率論で自動運転の安全性は議論できないと思います。

もう一つ気になることは、今回のテスラ『Model S』自動運転ソフトのリリースですが、このやりかたも大いに疑問です。未熟な状態であることはマスク氏も述べており、その状態で、安全関連リコールでは必ず登場する米国運輸省NTHSAの認可を受けてのリリースでしょうか?安全、環境基準への対応は、どこの国でも認可、認定項目だと思います。日本では道路運送法で定められた保安基準としてソフトだけの変更による操縦アシスト機能提供は認められないのではと考えますが如何でしょうか? とかく、新技術は認可基準が後追いになりますが、環境、安全関連のシステムでは、認可段階でも基準、規格化の議論は必要と思います。

その前に、アクセル・ブレーキ踏み間違防止、衝突回避システムの標準仕様化が先

いまだに、アクセル・ブレーキの踏み間違いによる暴走事故が頻発しています。また、追突事故、バックでの人身事故も後を絶ちません。信号無視、一旦停止無視、高速道路逆走による事故も、無視というよりも運転に集中できずに認知しないで走ってしまったケースが大部分でしょう。自動運転よりも先に、こうした操作ミス、認知ミスを防止するシステムの導入、さらに普及し始めた衝突回避自動ブレーキ、衝突回避操舵アシストをもっとしっかりと安心して使えるものにすることが先決のように思います。これですら、国際基準、規格、システム定義のそのレベリングが、製品よりも後追いになっています。

規制緩和は必要ですが、安全、環境は何らかの規制、基準による誘導は必要です。将来自動車の方向を誤らせるような、中身もレベルも違う状態での宣伝先行の自動運転車競争はやめて欲しいものです。繰り返しですが、安全運転の基本中の基本は運転に集中すること、それを妨げるような自動運転もどきシステムは許されません。

この自動運転車の話題については、清水の舞台から飛び降りる覚悟でバイ・ワイヤーを世に出した当事者の一人として、これからも注目し、このブログで取り上げていきたいと思っています。完全無人自動運転車の時代は、これまで述べてきた成立条件を前提にすると、近未来で実現するとはとても思えません。またドライバレス・モビリティは自由な移動手段、さらにドライブする自由空間としてのモビリティの衰退のイメージであり、個人的にはそんなモビリティは見たくはありません。

されど、まだまだ老兵が消えゆくことにはならないとの強い自信はあります。

排気浄化システムのデフィート・デバイス

VWスキャンダルのポイントは、排気浄化システムへのデフィート・デバイス(Defeat Device)の搭載です。デフィート・デバイス:「無効化装置」と訳して良いでしょう。文字通り、排気ガス浄化システムの正常な作動を無効化する装置です。今回VWがデフィート・デバイスの搭載で侵害したとされる、米国連邦大気浄化法(Clean Air Act)には、デフィート・デバイスの禁止をうたう法文が定められています。

40 CFR 86.1809-10 – Prohibition of defeat devices

http://www.gpo.gov/fdsys/granule/CFR-2014-title40-vol19/CFR-2014-title40-vol19-sec86-1809-10

自動車排気ガス規制の中身、その認可をうけるための申請手続き、試験法、試験車の要件からこのデフィート・デバイスの禁止にいたるまで、法律として定められています。また、時代に合わせた改訂も行われ、その都度、Advisory circularという改訂通知がEPAの公式ページに掲載されます。

米国向けエンジン開発の担当エンジニアが、この条文すべてを理解しながら開発作業をやっているわけではありませんが、試験法、判定基準などの基本部分は頭に入れ、また改訂条項をフォローしながら開発作業を進めています。この基本部分の一つがデフィート・デバイスの禁止で、その定義、事例には常に気を配っていました。細部の法律解釈、ループホール探しをする訳ではありません。先週のブログで述べているように、一番基本の判断基準は、規制の本来の狙いに沿った、fairnessとgood faithです。その上で、ルール変更の狙い知り、それを遵守するために最新のルールを知ることは欠かせない作業です。

その最初の条項にデフィート・デバイスの禁止を謳っています

  • No new light-duty vehicle, light-duty truck, medium-duty passenger vehicle, or complete heavy-duty vehicle shall be equipped with a defeat device.

そして、規制当局は、デフィート・デバイスの疑いのあるクルマについて、そのテストを行うか、テスト実施を要求する権限を有していることを明文化しています。

排気ガス浄化システムのデフィート・デバイス問題は、新しい話しではありません。調べた限りの一番古い事例は、1973年に遡ります。EPAは当時のBig3とトヨタが、エンジンルーム内に温度センサーを設置、それによりエンジン暖機過程で排気浄化デバイスの作動を止めるシステムをデフィートと判定したと記録されています。ただし、システムの改良は命じられましたが、このケースでは既に販売したクルマのリコールは命じられませんでした。また、トヨタがこの時、デフィート・デバイスと疑われた排気浄化システムは、今も使われているEGR(排気ガス再循環)システムで、低温時、冷間時にEGRバルブをカットするもので、寒冷地の暖機運転などで、水分を多量に含む排気ガスを再循環させることによるスロットル弁の氷結や、暖機中にまでシステムを機能させることによるドラビリ不良、また失火によるエミッション悪化を防ぐ手段であると理由とそのデータを示し、デフィート・デバイスではないとの判定をもらったと、当時EPAと交渉にあたった友人から聞いた覚えがあります。

続く1974年、これと違うデフィート・デバイス事件が発生しています。前回に似た案件のようですが、2種類の温度センサーを用い、エミッション性能に影響する制御を行ったとの事例です。この案件の当事者VWは12万ドルの罰金を払い決着しています。

http://autoweek.com/article/car-news/vw-emissions-defeat-device-isnt-first

この学習効果が働いていないのが今回のVW事件です。

1990年代にもいくつかのEPAと自動車メーカーの間で、デフィート・デバイスと判定された事例がEPAの記録として残されています。VWケースのように、判断するまでもない違法事件だったかは不明ですが、意図的に排気浄化システムの機能を停止するか弱めるデフィート・デバイスとの判定を受け、罰金を払ったケースはそれほど少なくはありません。この中に、1990年代後半の日本メーカーも含まれています。また日本でも、2011年6月、東京都環境科学研究所の調査で、最新に最新ディーゼル・トラック車に、排出ガス低減性能の「無効化機能:デフィート・デバイス」を使っていることを発見したとして、国交省に届出、改善命令がでているケースがあり、それも2011年まだ新しい事件です。

http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2011/06/20l63600.htm

先日の、東京モーターショウ開催についての自工会記者発表で、池会長は、このVWスキャンダルについて、私見と断りながらも「一企業の行為が自動車業界全体に対する信頼感を揺るがしていることに困惑し、失望している」「日本メーカーでは、そんなことはあり得ないと思っている」と述べています。ここで紹介したように、ここまで悪質なケースはなかったかもしれませんが、法規違反とされるデフィート・デバイス事件が、米国だけではなく、日本でも発生しています。また、日本のケースではなく、日本メーカーが米国でデフィート・デバイスを使ったとして、罰則を受けているケースもあることは公知の事実です。この問題への勉強不足、対岸の火事視している感度の低さには正直失望させられました。

このところ大きな品質問題の多発、その中ではそれが原因で死者がでているにも拘わらず自動車メーカーとしてのアクションが遅れてしまった問題、これも明かな違法行為であった米国での燃費詐称事件と、自動車企業のガバナンスが問われる事件が多発しています。対岸の火事では全くありません。

これまで、2回のブログで、自動車産業界として襟をただし、法規制の趣旨であるリアルの環境保全のため、fairにgood faithでbest practiceでクリーン&グリーン自動車の開発に取り組んで欲しいと申し上げたのは、日本メーカーを含む世界全体の自動車メーカーに対してのコメントです。

クリーンならぬ、ダーティ-・ディーゼル:その2

先週のブログで取り上げた、VWディーゼル車の米国での不正認定(認可)取得事件は、その後も大きくその波紋を広げています。。さすがに、この影響の広がりに経営責任は免れないとして、ヴィンターコルンCEOが辞任を表明しました。しかし、この辞任発表会見で、自分はこの中身を全く知らなかったこと、会社ぐるみではなく、ほんの数人が関与した問題と釈明しました。先週のブログで述べているように、ここまでの明かな’Defeat Device: 無効化装置を動かすソフトを仕込んであることを、内部で6年間も隠蔽し続けることは極めて困難と思います。もしできたとすると、VWのガバナンス、コンプライアンスマネージ体制とその組織に大きな欠陥があり、それを永年許してきた、企業風土、文化にまで遡る問題として、対応策を迫られるでしょう。

このような不法ソフトを仕込むことは、今のソフト技術では極めて簡単です。それを使うことを許可し続けてきた、企業としてのコンプライアンスマネージが厳しく問われるべきと思います。欧州でもこのソフトを使っていたことは明か、欧州の’Defeat Device’判断基準は、アメリカに比べ緩いので、欧州は関係ないと言い募るかと危惧しましたが、欧州であろうが、これは明らかに不正ソフト、VWもさすがにごり押しはやれず、欧州車含め対象1,100万台の大規模リコールを余儀なくされました。

この問題は、あくまで悪質な法律違反の事件、米国連邦議会での公聴会が開催されますが、この公聴会にトップ役員として誰が出席するかに注目しています。企業のガバナンスまで問うとすると、辞任したヴィンターコルンCEO、ピエヒ会長を引っ張りださないと会社としてのガバナンス体制、コンプライアンスマネージ体制までの全容は解明できないと思います。ほんの数人の担当者の責任としてのトカゲのしっぽ切りでの決着は許されないでしょう。

この問題の発端となった、欧米の環境NPO ICCTからの委託によるWest Virginia大からのレポートが発行されたのは、昨年の5月です。そこから、この結果がEPA、CARBに伝えられ、(多分EPAも独自の追試をしたのでしょうが)Defeat Device使用の疑いでその後の処置(リコール)についてVWの交渉に入っていたようです。この段階まで、この問題が会社トップに入っていないことは考えにくいと思います。ヴィンターコルンCEOの今回の釈明会見での、「私は最近まで知らなかった」は全く通用する話しではありません。VWからの対応策が、不十分、かつ曖昧、レスポンスが遅れたため、今回のEPAの発表となったことは間違いないと思います。

しかし、この問題を時々話題となるカタログ燃費と「ユーザー実走行平均燃費」いわゆるリアルワールドとのギャップ問題を混同してはなりません。今回のケースは、米国Certification、欧州Homologation、日本型式認定と呼ばれる、法律に定められている、法規制に適合していることを証明し、確認試験をおこなう認可手続きのルールを破った不法行為、法律違反です。公式の定められた試験法、試験走行モード、審査基準で算定する燃費とリアルワールド燃費のユーザーの実感にギャップがあるのは事実です。

このブログで何度も、このギャップ問題をとりあげていますが、長ったらしく「ユーザー実走行平均燃費」との表現を使うのも、認可のために定められた一定基準の試験法、試験モードで全てのユーザーの、それも寒冷地の冬から酷暑の夏、山間地のユーザー、高速道路使用の多いユーザー、ショートトリップしかしないユーザー全ての実燃費をカバーする試験法は不可能です。その大きくばらつくユーザー燃費の感覚的平均を求めることも、発売前の認可段階では困難だからです。カタログ燃費をユーザーの実感に近づける努力は進められていますが、それにも限界があることはご理解していただけるのではないでしょうか。まだ燃費ギャップは、ユーザーの給油量として把握できますが、排気エミッションのギャップはユーザーには把握できませんし、また場合によっては燃費の比ではなくギャップ量が拡大すします。そのため、公式モード外でのエミッション急増を抑制する要求は特に厳しい排気規制を導入してきた米国で強く、また自動車メーカの認可取得の申請には今回のような不法行為はしていないことを前提に試験をし認可を与えます。

それでも、各国、各地域の公式試験法でも、どんな走り方をしても、基準として決めた規制値を満たすことまでは求めていません。クルマの排気ガス性能は、新車の時だけ守れば良い話しではありません。そのクルマが使われる一生の中で、クリーン性能を保証することが求められています。その追跡調査であるin-use emission test(使用過程車のエミッションテスト)も行われます。このin-use性能を保証するために、この公式試験法での走行モードを越えた条件での触媒高温劣化を防ぐプロテクション燃料増量や、世界にまだまだ存在する粗悪燃料使用時などでのノッキング、プレイグニッションによるエンジン破損を防ぐための燃料増量は認められています。世界で一番厳しい、in-useエミッション保証の規定はカリフォルニア州の定めたLEVII規制で、15年-15万マイル(24万キロ)保証です。個人ユーザーならほぼくるまの寿命までクリーン度保証を求める極めて厳しい保証です。このカリフォルニア州の長期in-use保証も日本メーカーが率先して取り組み、その努力によってやれることが確認されbest practiceとして定められました。このように、米国ではいち早く、リアルワールド(実走行)での環境保全重視に力点を置くことになりました。ディーゼル車には詳しくありませんが、システム保護のための何らかのプロテクション制御とディーゼル固有のパティキュレート、NOxをそれぞれを排気にそのまま流さず一度トラップして、あるタイミングでトラップした排気エミッション成分をバッチ浄化モードで処理する方法は公式モード外で認められています。

この自動車環境性能のリアルワールドの話はCordiaブログで過去に取り上げていますので、ご興味のあるかたはご一読願います。

『リアルワールド』と自動車の環境性能(2011年2月24日)

http://www.cordia.jp/wp/?m=201102

今回の事件は、前に述べたようにICCTがディーゼル車のリアルワールドでの実態調査研究による異常値の計測がきっかけでした。ICCTは欧州と米国を二大拠点とする、クリーン自動車の普及啓蒙活動、さらにクリーン自動車のリアルの実力に目を光らせているNPOです。残念ながら、日本にはこのような第三者評価を行う組織はありません。

このICCTのBoard Chairpersonは、このクリーン自動車に携わってきた人間なら知らない人はいない元CARB議長 Dr. Alan Lloydです。Board Directorにも元EPA自動車局長 Ms. Margo Oge、Participant Councilに現在のCARB議長Ms. Mary Nichols、 元CARB長官 Ms. Catherine Witherspoon、永らくCARB副長官を務めたMr. Tomas Cacketteなど、現役時代には何度もお目にかかり、クリーンエンジンの開発状況、ハイブリッドの説明などをさせていただいた方々です。まこの方々が、米国、カリフォルニア州の自動車環境規制制定をリードしてこられました。

そのICCTが以前から注目していたのが、リアルワールドでのディーゼル車エミッションの実態です。欧州では、米国、日本に比べ遅れていた(遅らせていた?)ディーゼル車の排気規制強化を2007年からEuro IV、2010年からEuro V、さらに2014年からEuro VIへと強化しました。このEuro IVからVへの規制強化でのエミッション削減効果を実路での効果を検証していたのがICCTのメンバーです。私も、リアルワールドの重要性を訴えていましたので、このICCTの活動をフォローしていました。昨年11月にベルリンのICCTのオフィスを訪ね、燃費とエミッションのリアルワールドと公式試験値のギャップ問題について議論をしてきました。下のグラフはその時に貰った資料の中にあったグラフです。この時は、今回の米国でのVW Defeat Device事件までは明るみにはでていませんでしたが、この欧州での実態調査とWest Virginia大調査の時期は一致しており、ICCTでは米国、欧州ともにこの実態は掴んでいたと思います。

環境保全に熱心で気持ちの良い、優秀なスタッフ達で、日本の状況、中国への進出など様々な話しをしました。彼らは不正なDefeat Deviceを使ったことはまでは明言しませんでしたが、今回の事件に発展しかねない情報はすでに持っていたと思います。かれらとの議論は主に、リアルの実燃費ギャップの議論でしたが、このディーゼルNOx問題も立て続けの強制強化をおこなってきたのに、リアルが改善されていない現状を説明してくれました。図1は、その時説明してくれたデータの代表例、欧州での排ガス規制強化の経緯と、スイス/チューリッヒで実施した路側帯でのNOxエミッション計測値をガソリン車、ディーゼル車で比較したものです。その違いは明かです。

スライド1

図2は、そのさまざまなリアルワールド計測値と規制値の比較をしたデータです。一目瞭然です、規制を強化したにも拘わらず、リアルがほとんど良くなっていないとの実態がつかまれています。この時の議論で示してくれたレポートを読んでも、メーカー、車種は特定されていないものの、高い技術力を売に簡素なシステムで厳しい規制に対応できたとするVWの今回の話しは裏付けられると思います。

スライド2

この夜は、ICCTの若いリサ-チャー3人と、ベルリンの彼らが選んでくれた庶民的なレストランで、ワインとオーストリアの肉料理を堪能し、将来のリアルワールドクリーン自動車の話題で、エキサイティング、楽しい時間を過ごしました。

ドイツ誌”Auto Bild”がこのICCT調査を取り上げてVW以外のエミッション対応にも問題の声を上げていますが、この不正が他へと拡散していかないことを願っています。日本勢有利との記事もありますが、それどころかまだまだ主役の座を続けなければいけない内燃エンジン車全体のバッシングに繋がってくことを一番心配しています。

日本の一部報道、またモータージャーナリストのコメントに、今回の事件に関連し、不正はいけないけれど、影響はそれほど多くない、人が死んでいるわけではないとの論評を読みました。これは、理解不足、ミスリードです。もちろん、ディーゼル排気だけの問題ではありませんが、大気中の放出されるNOx、PMが影響すると見られる死者数は汚染度の酷い中国では、年間160万人に達するとの調査レポートが出されています。(1)この数字は世界保健機関(WHO)の公式数字、中国の年間自動車事故死者数20万人を遙かに上回る数字です。 もちろん、中国で今回のVW車はまだほんの僅かしか売られていませんので、この問題と直接結びつく話しではありませんが、企業スタンスとして問われる問題でしょう。

さらに先々週には、ドイツMax Plank Instituteのレポートとして、このままの状態が続くと、大気汚染による死者数は今の2倍660万人に上るとのレポートがだされています。このところ大きな問題となっている、春先のロンドン、パリの大気汚染警報の発令も、このディーゼル車のエミッションも一因と言われ、都市への乗り入れ禁止など脱内燃自動車の動きが加速しています。

  • バークレー大地球研究所の研究で、中国での大気汚染は年間160万人の死亡者を生み出すことを計算 (UC-Berkely Earth: Journal PLOS ONE)

August 14, 2015 Green Car Congress

http://www.greencarcongress.com/2015/08/20150814-be.html

  • Air pollution could claim 6.6 million lives per year by 2050, double current rate; small domestic fires and ag the worst offenders
  • 大気汚染は2050年までに660万人の命を奪う可能性、現在の2倍の数値(ドイツMax Plank Institute report)

Sep 17, 2015 Green Car Congress

http://www.greencarcongress.com/2015/09/20150917-mpi.html

何度も申し上げますが、VWの今回の件は、あってはならない事件です。どこもこんなことをやっているとは思わないでいただきたいと願っています。しかし、日本でも数年前に大型トラックディーゼルで’Defeat Device’事件が発生しています。日本勢すべてが公明正大とは思いません。そんな背景があり、先週のブログで襟をただして欲しいと書かせてもらいました。また透明性と書いたのも、日本にもICCTのようなNPOの活動余地ができるようなオープンな活動が必要で、こうした第三者機関の公正な情報発信によるユーザへの理解活動も欠かせないと思い筆をとりました。

自動車メーカーも、環境規制など法規制対応の基本、good faith、 fairness、best practiceが原点と他山の石として振り返ってほしいからです。企業風土、文化を守るのは大変です、一度踏み外すと転落はあっと言う間です。全ての自動車メーカー経営者、エンジニアがこの部分では襟を正し、口幅ったいですがこれを守り抜いてきたつもりのOBエンジニアの提言に耳を傾けて欲しいと願います。

公明正大、透明に、米国で法規作りとCertification作成の前提となっている思想のベースは、good faith 、fairness、その規制の趣旨(リアルの大気改善、低カーボン)に対しbest practiceが求められていることを強調しておきます。このfairな土俵での競争にもまれることにより、日本自動車産業は発展をとげることができたと信じています。

今回は私の人生にとっても大きな事件、自動車文化発祥地、欧州でそれもこの自動車文化を牽引してきた、我々にとても尊敬の念を抱いていたVWの不祥事です。厳しい糾弾になってしまいました。

今日のTBSの”ひるおび”でも、私のコメントがとりあげられるかも知れません。あってはならない事件にショックを受けたこうした経験、意見をもっているエンジニアOBのコメントとお受け取りいただければ幸いです。

そんなショックの大きさから長文のブログになってしまったことにもご容赦願います。

これまでも、Cordiaブログに様々なコメントを頂いていますが、基本的に個別のご回答、コメントは差し上げていません。今回も複数のお問い合わせ、コメントをいただきましたが、今回も返事を差し上げませんでした。この場をお借りしてお詫び申し上げます。

クリーンならぬ、ダーティ-・ディーゼル:VWディーゼル、米国で大気浄化法違反

昨日、長年の自動車エンジン屋にとって、驚愕し、ガッカリし、さらに怒り心頭のニュースが飛び込んできました。OBとして同業他社の直接の批判は控えてきましたが、今回はそれを破り、まじめにやってきた多くの自動車メーカー、エンジン屋のために厳しく糾弾していきたいと思います。手当たり次第にニュースを拾い読みしてみましたが、東芝の比ではなく、企業姿勢、風土そのものが問われる悪質極まりない環境規制違反と言っても良い事件です。

 

関連記事 

  1. 米国のエコカー関連サイト、Green Car Reportの見出し記事

「VW, Audi TDI Diesel Cars Had ‘Defeat Device’ That Violated EPA Rules, 500K Cars Recalled: BREAKING: VWとAudiのTDIディーゼルは、EPAルール(排ガス規制)を侵害する’Defeat Device:無効化装置’をつけているとして、50万台のリコール、

http://www.greencarreports.com/news/1100101_vw-audi-tdi-diesel-cars-had-defeat-device-that-violated-epa-rules-500k-cars-recalled-breaking

概要

連邦環境保護庁(EPA)は、今週金曜、大手自動車メーカーに関するメディア会見を開催すると通知した。それには、VWとAudiが販売した2009年~2015年までの4気筒TDIディーゼル車約50万台についてのリコール命令についてである。それらのTDI車は、排気テストサイクル走行を検出し、その状況下だけで排気ガスを大幅に減らすようにしていたことが明らかになったとして、EPAはその行動を起こした。EPA担当官の電話会議での発言によると、そのクルマが、通常走行か排気テスト走行かを判別し、通常走行では排気制御をオフにするソフトを持っていることが疑われた。

 

  1. Reutersの報道記事

「Volkswagen could face $18 billion penalties from EPA: VW、米EPAから180億ドルの罰金に直面する可能性」

http://www.reuters.com/article/2015/09/18/us-usa-volkswagen-idUSKCN0RI1VK20150918

概要

金曜日、米EPAは、VWは有害エミッション計測の法規を欺くディーゼル車のソフトを使ったことで告訴された場合、180億ドルの罰金の可能性があると発表した。米大気浄化法不適合の罰則により、罰金は台当たり37,500ドル、総額180億ドルとなることを、担当官は電話会議で確認した。米国VWのスポークスマンは「調査には協力しており、現時点ではコメントはできない」と述べている。VWは、米国で’クリーン・ディーゼル’として強力なマーケッティングを行っており、TVコマーシャルでは「米国でのディーゼルNO1ブランドで、自慢は’クリーン・ディーゼル’」と放映している。

 

この記事は、共同通信が配信し日経、朝日ほか多くの日本紙が掲載しています。目次にある’Defeat Device: 無効化装置’の言葉は、自動車マル排屋にとってはやってはいけないタブーの装置を指す言葉で、すでに死語と思っていました。

今から30年以上も前、タイマー、車速スイッチなど試験モードの特徴に合わせてそれ以外では排気浄化システムや低燃費デバイスの作動を無効化する装置を採用するメーカーが現れ、大きな問題となりました。規制当局と自動車メーカなど関係者で、その定義、判定基準などが規定され、それに該当する場合は大気浄化法違反とされ、罰則規定が制定されました。しかし、基本的には試験モードだけに特定して、排気、燃費デバイスを無効にすること自体が、法規制の目的に反しておりアンフェアな行為であり、’Defeat Device’と疑われることもやってはいけないとのコンセンサスができあがりました。その死語になったはずの’Defeat Device’という言葉が、幽霊のように復活したというのが最初の印象です。

この’Defeat Device’の判断基準と罰則が規定された後も、リアルの大気改善はなかなか進みませんでした。このため、1990年の始め、米国ではそのクリーン度を判定する試験モード以外でエミッション悪化による影響が大きいとして、規制当局の呼びかけにより自動車メーカー各社がクルマを出し合い、米国のアトランタやスポケーンなど何カ所かの都市で走行実態調査を行いました。トヨタもこの調査活動に参加し、試験用のクルマを提供、データ分析にも米国スタッフが付き合いました。その調査結果に基づきリアルワールド走行をカバーするマル排屋にとっては厳しい判定走行モード、オフモード(公式試験モード外:オフ)試験基準を作りあげ、現在も公式試験に追加する判定試験法として使われています。 今回のケースは、このように’Defeat Device’はアンフェアとの判断基準があり、リアルワールドでのエミッション悪化防止を厳しくチェックする米国で明るみにでた不正です。

一部にはアメリカだけの問題で、欧州や日本は関係なく、あってもオフモードの悪化は少ないのではとの意見もあるようですが、そうではないと思います。欧州と日本では、このアメリカのようなオフモード試験法はなく、’Defeat Device’基準も緩いのが現状ですが、EPAが摘発したこのような’Defeat Device’が使われているなら、オフモードでのエミッション悪化は今回のアメリカのケースよりもさらに大きくなる可能性大です。もちろん、基準が緩いとしてもこのような’Defeat Device‘は企業姿勢、環境保全からも許されません。

VWは現時点でコメントを避けていますし、判定ソフトの詳細も判りませんので、この問題の解析は、今後もフォローを続け、もっと情報が集まってから技術判断などお伝えしたいと思います。

ディーゼル車のマル排性能については、以前からオフモードとのギャップ大が問題とされていました。欧州の最新規制ユーロ6規制対応車が、実走行では以前ユーロ4やユーロ5よりも悪いケースがあるとの環境NGOから指摘もされています。また、規制強化にも関わらず大都市のNOxが環境基準を大きく越え、改善に向かわないのはこのリアルワールドでの急増との関連が疑われていました。

現時点で欧州、日本の試験法、判定基準で、このソフトが入っていたとして、米国の’Defeat Device’判定のように不正と判断されるかは判りませんが、規制の主旨を逸脱したアンフェアなやりかたであることは確かでしょう。

リアルワールドでの自動車燃費、クリーン度については、欧米には環境当局OB、技術者、専門家による環境NGOがあり第三者調査が行われています。今回もその環境NGOと大学研究者の合同調査データが摘発のきっかけだったとの報道もあります。クリーン度の調査には計測装置やシャシーダイナモなど高価な設備が必要であり、残念ながら日本にこのような第三者調査機関はありません。公的機関のリアルワールド調査結果や、経年車の追跡調査も公開されておらず、透明性に欠けていることは否めないと思います。

欧州と日本では、実走行に近づける新試験法WLTPの採用が決まり、また欧州ではとうとう、 ‘portable emissions measurement system:車載ポータブル計測システム’を搭載した “real world:実路走行” 排気エミッション試験が義務づけられるようになってしまいました。しかし、クルマの使用条件は千差万別、この新しい“real world:実路走行” 排気エミッション試験でもリアルワールドの一部だけを評価しているに過ぎません。それから先は、フェアネスが問われることになり、不正と判断された場合には厳しいペナルティーを課すことも当然でしょう。今回のケースでは、場合によっては刑事罰の対象にもなる可能性があります。

このような’Defeat Device’に何故、VWは手を染めたのでしようか?排気性能、燃費性能、走行性能はトレードオフ関係、こちらを立てればこちらが立たず強い関係があります。試験モード走行域外でNOx排出を垂れ流し状態にできれば、この排気浄化システムを簡素化し、コストを下げることができます。他社のシステムに比べるとVWのシステムは簡素で、これをEPAが疑ったことが今回の発端との観測記事もありました。また、米国のオフモード走行モードはかなり高負荷、高速域まで走ることになりますので、安いシステムのままで対応すると、燃費悪化、出力低下を招く可能性も強く、排気クリーンの意味、アンフェアかどうかのエンジニアとしての常識に目をつぶれば、やりたくなる誘惑に駆られることは理解できます。しかし、この明らかな不正に歯止めが掛けられなかった会社マネージは厳しく問われることになることは確実でしょう。

以前から、私は欧州勢受け売りの’クリーン・ディーゼル’との表現に違和感を覚えていました。もちろん、アンチ・ディーゼル派としてではなく、中大型トラック、大型バス、重機ではディーゼル以外の実用的な選択肢はないことは十分に理解しています。しかし、これを小型車まで適用し、ガソリンよりも緩い規制を続け、そんな状況で’クリーン・ディーゼル’とキャンペーンを張ってきた一部ドイツ勢のやりかたにもこの不正を招く温床があったように感じます。

このような不正の再発防止はもちろんのこと、この問題を他山の石として、米国だけではなく、世界全体で襟を正しリアルでの’クリーン・ディーゼル’ 、リアルでのクリーン&グリーンカーを目指して欲しいものです。

トヨタ&レクサスハイブリッド車累計800万台突破と4代目プリウス発表

先月21日、トヨタ自動車からトヨタとレクサスのハイブリッド車の世界累計販売台数が7月末で800万台を突破したとの発表がありました。

http://newsroom.toyota.co.jp/en/detail/9152370

図1に1997年からのトヨタ&レクサスハイブリッド車のグローバル累計販売台数推移と年間販売台数推移をしめします。(トヨタ ニュースサイトの年度別販売台数データから作成)

トヨタハイブリッド車販売台数推移

トヨタの公式サイトには、1997年12月「プリウス」の誕生から、7月末にグローバル累計販売台数800万台突破と書かれていましたが、これは正確な表現ではありません。トヨタの市販ハイブリッド車の初号車は、このプリウスの1997年12月発売の前、8月に少量販売を開始した小型バス「コースター ハイブリッドEV」が最初です。クリーンを売りに、ディーゼルエンジンに換えて、当時のサブコン車「ターセル」などに搭載されていた4気筒1.3リッターガソリンエンジンを搭載、そのエンジンで発電機を回し、その電力で最大出力70 kWの駆動モーターで走らせるシリーズハイブリッド方式のハイブリッド車でした。

これが、1997年12月「プリウス」発売を前に数台か十数台が、大都会の幼稚園バスや観光地の送迎バスとして販売されていました。

私自身は、初代「プリウス」搭載のハイブリッドシステム開発がハイブリッドに携わった最初です。この「コースター ハイブリッドEV」にはタッチしていませんので、トヨタの公式サイトの表現を使いたいのですが、個人的には残念ですがトヨタハイブリッドの1号車はこの「コースター ハイブリッドEV」です。

もちろん、この800万台に至る量産ハイブリッド車のスタートは「プリウス」であることは間違いありません。この「プリウス」に採用し、洒落た名前が思い付かないまま、私が文字通りのトヨタ・ハイブリッド・システム=略してTHSとそのまま名前をつけたハイブリッドが、トラックのハイブリッドなど、ほんの一部のハイブリッド車を除き、同じコンセプトのまま今も使われています。

このTHSコンセプトを、”遊星ギアの三軸に、エンジン、発電機、モーターを接続、このモーター軸からチェーンを介しデフギアへ、デフからドライブシャフトによりタイヤを駆動してクルマを走らせる方式”、”クラッチもトルコンも、変速ギアも、リバースギアすらなくクルマを普通に走らせるユニークなハイブリッド”と説明したことを覚えています。いくつかのバリエーションはありますが、遊星ギアの三軸にエンジン、発電機、モーターを接続するコンセプトは今も変わりはありません。

このプリウスの初号車が、累計販売台数の何台目に当たるか判りませんが、1997年12月10日にトヨタ自動車高岡工場から初代プリウスが車両運搬トレーラーに乗せられて、多分東京か愛知の販売店にむかってからまもなく18年が経過します。国内での正規白ナンバー登録は、国交省から認可をいただき、9月末にライントライ車両の社内評価車両に付いた白ナンバーがプリウス1号車だと思いますが、このトレーラーで運ばれた車のどれかが、お客様の手に渡った第1号車になりました。2000年5月の初代マイナーチェンジを機に、米国と欧州販売を開始し、グローバル市場へと拡げていきました。

車重の思いミニバンや大排気量エンジン搭載の上級車では、すぐにプリウスTHS方式を適用することができず、メカCVT変速機を使ったTHS-CのエスティマHV、エンジン補機ベルト駆動のオルタの変わりにモーター発電機とし12V補機駆動鉛電池とは別に36V鉛電池を搭載したマイルドハイブリッドTHS-Mを使ったクラウンHVも開発しましたが、マーケットから本格ハイブリッドの要望が強く、またMGやそれを駆動するインバーターの高出力コンパクト化が進み、それらも遊星ギア方式のTHSコンセプトに置き換えられていきました。プリウスに続く、THS第2段はハリアーHV、エスティマTHS-Cで開発したリアモーター駆動のAWDを採用したTHSです。これがレクサスHVの始まりで、レクサスブランドのグローバル展開に合わせRX400hとして発売され、トヨタ、レクサスでのハイブリッドラインアップ展開は始まりました。このトヨタ・レクサスハイブリッドが累計800万台を迎えました。

その内の、400万台以上が「プリウス」、またレクサスCT200h、 ノア/ボクシーHV、英国工場で生産しているAuris Hybridなどに使われ、累計800万台の60%以上がこの1.8Lエンジンの同じファミリーのTHSパワートレインを搭載しています。

そのプリウスが、2009年発売を開始した3代目プリウスから6年半ぶり、いろいろ合ったようで少し間があきましたが、今年末にフルモデルチェンジを行い4代目となります。詳細スペックは発表されていませんが、ハイブリッドもこの4代目プリウス用として大きな技術進化が織り込まれているようですので、どこまで進化したのか今から楽しみにしています。日本のJC08燃費 40 km/l 、ユーザー実走行燃費に近いと言われる米国EPA公式燃費では都市とハイウエーのコンバインド燃費で55 mpg(23.38 km/L)、燃費バージョンで60 mpg(25.51 km/L)との噂がニュースに登場しています。

プリウスの使命は、初代から21世紀のグローバルスタンダードカーとして、他の追従を許さない燃費/CO2を目指すクルマでした。3代目の企画まで現役として付き合ってきましたが、もちろんグローバルスタンダードカーとして我慢のエコでは問題外、燃費/ CO2性能の向上はもちろん、クルマとしての走る魅力の向上、さらに世界に拡大していくためのコスト低減が絶え間なく取り組んできた開発課題でした。。

この4代目が、この初代からの志しを継いでくれているか、これも現地、現物、現車で見極めていきたいと思っています。この4代目から新しいプラットフォームTNGA採用第1号となりますので、シャシー系も、欧州Cセグメント系とガチンコ勝負ができるのではと期待しています。(写真1 4代目プリウス ワールドプレミア トヨタサイとより転載)

2016年 4代目プリウス 写真

遠からず、このTNGAでも足りないと言わせるぐらいの、ハイパワーバージョンTHSの登場を期待しています。もちろん、クラスとして燃費チャンピオンが前提です。

 

1年2ヶ月ほど、お休みしていたこのCordia Blogを、このトヨタ&レクサスハイブリッド車グローバル販売800万台突破と4代目プリウス発表を機会に、再開いたしました。

800万台突破といっても、10億台を越える世界の自動車保有台数の1%にも届いていないレベル、ほんの第一歩を歩みだしたに過ぎません。また、このところのエコカー販売停滞も気になるところです。よく言われた、ハイブリッド車はショートリリーフ、電気自動車、水素電池自動車が本命との声も実態は風吹けと、鞭をたたけど(規制)、飴をばらまけど(インセンティブ、補助金)踊らずが現状で、アメリカでは大型車回帰でCO2が増加に転じてしまいました。

昨年のグローバル小型自動車(Light vehicle)販売8,720万台です。このクルマを低燃費、低CO2のクルマに切り替えて行くことが何と行っても最優先です。今の延長線程度の電気自動車や水素燃料電池自動車には、次世代自動車の主役としてのバトンを渡す訳にはいきません。その内燃エンジン車を低燃費、低CO2へと進化させるコア技術はハイブリッドです。軽自動車まで、アイドルストップでは不十分と減速回生、モータアシストとハイブリッド化の道を辿り始めています。内燃エンジン車のハイブリッド化をリードしてきたのは、日本勢です。このアドバンテージをさらに拡げて行って欲しいものです。

このアドバンテージを多くの現場スタッフ、エンジニア達と作りあげてきた、日本のパワートレインエンジニアOBとして、これからも辛口のコメント、叱咤激励を続けていきたいと思っております。 [jwplayer mediaid=”1808″]

 

ブログは、お休みしていましたが、ハイブリッドプリウスの開発、次世代自動車のゆくえなど、今もいろいろな場所でお話をさせていただいております。

また、TEST 2015 第13回総合試験機器展 東京ビッグサイト 西ホール 2015.9.16(水) ~18(木)

の17日(木)13:00~14:10まで、特設会場Aにて「プリウスが切り拓いた低CO2自動車のこれまでと、これから」との題目でお話をさせていただきます。見学、ご視察のご予定がございましたら、お立ちより下さい。

今後とも、よろしくお願いいたします。

 

またまたカタログ燃費と実燃費の話

私はビジネス週刊誌「週刊ダイアモンド」をときどき購入しているのですが、先日発刊の1月18日号で『エコカー苛烈競争で浮上する知られざる“燃費偽装”問題』との記事が目に飛び込んできました。

一昨年の現代自動車のクルマの燃費がユーザー報告燃費との差が大きいとの訴訟が米国であり大きな話題となった問題や、カタログ燃費とユーザー燃費とのギャップの存在を問題にした記事かと思い、記事を読んでみましたたがそうでありませんでした。記事は今の日本車のカタログ燃費競争を扱ったもので、これを“燃費偽装”というセンセーショナルな見出しで取り扱っていることに愕然としました。

米国での現代自動車の問題は、現代自動車から意図的では無いもののミスで提出するデータを間違えたとの説明がなされており“燃費偽装”と呼ばれても不思議がないものですが、これと定められたルール通りに行われた中で生じるJC08モードカタログ燃費とユーザー平均燃費とのギャップを取り上げて“燃費偽装”と、あたかも不正をおこなっているとの表現には、こうした低燃費車開発に心血を注いできたエンジニアとして強い怒りを覚えます。

本当に“燃費偽装”しているならそれは不正・違反だ

現代自動車の問題は先ほども触れましたが、公式燃費認証を与えた連邦環境保護局(EPA)が、再現試験やさらに現代自動車が公式燃費申請に使った社内試験ラボへの立ち入り検査を行い、現代自身が社内試験の提出値にミスがあったとして修正申請を行いました、

このケースでは現代が該当車両のユーザーに修正分+αの燃料費用補填を続けることで和解が成立しています。故意ではなかったとしても明らかにこれはルール違反であり、厳密に定められた公式燃費試験の燃費値が誤って認定され間違っていたことから、大きな訴訟問題へと発展しました。ユーザーとの和解が成立はしましたが、巨額のペナルティー負担とイメージ低下の影響は大きいようです。繰り返しになりますが、これは“燃費偽装”と呼ばれても仕方の無い不祥事であり、この米国での事件と記事で挙げられている日本のケースは全く異なります。

公式燃費値は、それ決める型式認定申請をしてそれに基づいた認定試験車を作り、厳密に定められた試験法で試験が行われ、その試験結果から決められます。その際、日本、米国、欧州ともに、認可機関がすべて認定/認証車の公式試験を行うわけではありません。その一部のクルマを抜き取りで試験をするのが通例です。

それは毎年数多く発売される新車の認可試験をすべて公的機関で行うとなると、膨大な試験費用と人が必要となるからです。そのため、多くの場合では自動車メーカーが実施する試験結果も申請値として使われますが、その公式試験を行う自動車メーカー内の組織・設備は厳しい監査を受け、また立ち入り検査も行われます。

この段階でルールから外れたクルマや試験条件で試験を行っていれば、これはまさに不正、偽装問題となります。このところ新聞を賑わせている、産地偽装・材料偽装と同様で、公式試験に不正・偽装があれば厳しく糾弾されるべきです。もし意図した不正・偽装が発覚すれば、頭を下げる程度で終わる話ではなく、法律的にもさらに半社会的な企業としてその企業姿勢も問われ、イメージ失墜どころの問題では無いでしょう。

燃費ギャップの問題提起はあるが不正とは全く別の議論

地球環境問題やガソリン価格の高騰から低燃費車への関心が高まり、この表示手段としての公式燃費、カタログ燃費競争がエスカレートしているのは誰もが知る事でしょう。その火付け役がハイブリッド車プリウスであったことも事実で、この開発を担当した一人としてそれ自体は誇りに思っています。

一方でこのプリウスが、カタログ燃費と平均ユーザー燃費とのギャップ問題を引き起こしたこともその当事者の一人として、その販売当時から自覚していました。米国では2008年に公式燃費の試験法・算定法が改訂されましたが、この改訂の背景にあったのがプリウスのユーザー燃費とそれまでの公式燃費、いわゆるカタログ燃費とのギャップ問題です。

しかしこの改訂のときも、決してプリウスの公式燃費値が不正・偽装を疑われた訳ではありません。私にはこの問題でEPAに呼び出されたことも、監査をうけたことも、ユーザーから訴えられた記憶もありません。話題の低燃費車であったので、競合メーカーから燃費試験を行う際の設定方法などについての問い合わせも何度か受けましたが、米国、欧州での認可当局、試験機関での試験法、基準を公開しており、公式燃費値について疑われたこともありません。

この記事で取り上げられている、メーカーのドライバーが運転したときの燃費値と認可当局、公式試験機関のドライバーが運転したときの燃費値に差がある話はときどき耳にします。しかし、これまた不正な運転を行うからでは決してなく、日本メーカーの試験ドライバーのスキルの高さを証明する話です。米国、欧州、日本、いずれの公式燃費試験も厳密な実施基準に則って行われており、それから外れるとその試験は無効、再試験となってしまいます。

無効試験となるとまた試験を一からやり直しとなり、その再試験の日程によっては、生産、販売にまで大きな影響を及ぼしかねません。車速一つをとっても、上下狭い車速幅が指定されており、それを超えると無効となってしまいます。

記事には記者がシャシーダイナモ試験をしたような表現がありますが、初めてのドライバーが無効にならないように車速を守って運転することはほぼ不可能です。試験結果は示されていませんでしたが、間違いなく専門ドライバーが同じ試験で出す燃費値よりははるかに悪かったはずです。

日本メーカーには、狭い車速バンドの中を車速維持のための余分な加減速運転は行わず、その車速バンドの中で滑らかな燃費の良い運転をするほれぼれとするような高いスキルを持った専門ドライバーが多いことは事実です。彼らは、経験は当然として、トレーニングにトレーニングを積み、試験に集中する高い専門スキルを持っており、その運転、試験技量には強い誇りを持っています。

アメリカでも昨年、EPAの燃費試験担当官が、このようなメーカードライバーが出す試験燃費がよく出過ぎると嘆いている記事があり、このブログでも取り上げました
http://www.autonews.com/article/20131004/OEM11/131009914/epa-says-automakers-test-drivers-can-be-too-good#axzz2rBe0LDYR

ただしこの記事も不正・偽装を非難している訳ではありません。厳密に決められている試験に沿って、さらにその狭い定められた車速バンドの中でスムースな運転をすることにより良い燃費値を出す、メーカーの専門ドライバーのスキルに驚嘆させられたとの話です。

アメリカでもEPAのラボで抜き取り試験が行われ、その試験結果も公式値として使われます。EPAラボに持ち込まれないことが決まると、エンジニアとしてまずほっとするというのが正直な所で、さらに持ち込みが決まった場合も、デトロイト郊外のアナーバーにあるEPAラボで試験を受けますが、何基かあるどのシャシーダイナモで試験されるのか、担当ドライバーは誰になるのかで一喜一憂したものでした。

経験者として正直にお伝えしますが、割り当てられたドライバーやシャシー台によって結果は確かに異なります。ただし一方で毎年、自動車メーカーが燃費チェック用のクルマを供出して、EPAのシャシーダイナモ・分析計での燃費チェックを行い、各社持ち回りで自分達が公式燃費試験を行うシャシーダイナモ・分析計での燃費値との差をみて調整するというクロスチェックを行い、その精度管理に最新の注意を払っていました。

燃費を「事前に」完璧に測定する事は不可能

こうした厳密に定められた試験法の中ですら、燃費値に違いが出るわけですから、様々な走行条件、環境条件で使われるユーザー燃費に大きな差があることは当たり前です。この記事にあるe-燃費もあくまでもユーザーが報告した平均燃費です。この報告値にも大きなばらつきがあり、燃費チャンピオンのデータと最低燃費のデータには2倍以上の差が出るケースもあります。

ユーザー燃費の観点では大きな違いを見せるのが北米のユーザー燃費で、冬には零下20℃を下回るウイスコンシンやミシガン北部の冬のユーザー燃費とアリゾナ、ハワイのユーザー燃費には当然ですが大きな差が出ます。さらに夏の路上では50℃を超えるネバダやアリゾナと、サンフランシスコ付近のベイエリアでの夏の燃費にも違いがあります。

日本も北海道・沖縄でのユーザー燃費値には大きな差があるのは当然です。さらに、アップダウンの多い地区での運転と、平坦な地区で主に使うケースでも大きな差があり、これに加えてもちろんクルマの走らせ方、タイヤの空気圧、荷物の重量、乗車人数、さらに加速の仕方によっても実走行燃費は様々です。

このブログでもユーザーの燃費をあくまで平均燃費で論じているのも、この燃費の大きなばらつきがあるためです。この大きくばらつくユーザー燃費の平均値を「事前に」どのクルマでも公平に算出する試験法を作りだすことは、科学技術的にも不可能だと思います。

そのユーザー平均燃費に近いと言われる米国EPAの公式燃費は、排ガスのクリーン度が公式試験値よりも厳しい走行で大きく悪化しないことをチェックする急加速・高速モード走行など、もともとは排ガスチェック用に作られたそれまで公式燃費モード以外のオフモードと呼ぶさまざまな限界モードの燃費値を洗いざらい使って補正すると燃費値を低めに補正することができることからこの補正を行っています。

この補正は科学的な根拠があって決めたものではありません。従来ある様々な排気ガスチェックモードの値を使って、無理やり燃費値が悪くなるような補正を行ってユーザー燃費値に近づけていると言ったほうが当たっていると思います。

この記事に書かれている、国連が進めているこの自動車排ガス、燃費試験の国際基準調和、統一試験法作成作業も、その目標をユーザー平均燃費に近づける為に行っているものではありえません。もちろん、日本だけではなく、欧州、米国、アジアと各地域での走行環境調査を行い、その走行実態に合わせた走行パターンとなっていますが、夏、冬、登降坂、カーブなどまで加味したものではありません。

図は米国EPAの燃費サイトにのっていたプリウスとフォード・フュージョンハイブリッドの公式燃費とEPAがアンケート調査しているユーザー燃費データを比較したものです。

図1

カタログ燃費に反映されない低燃費技術もある

私にとって低燃費技術の開発の目標は、環境条件、季節、地域、走行パターン、加減速度などによってさまざまに変わるユーザーに対して改善した実走行燃費を提供する事でした。少なくとも自分は、決してカタログ燃費に特化しての低燃費車は目指してこなかったと胸を張って断言できます。

夏のエアコン運転でもエンジン停止をすること、モーター走行頻度を高めるための電動エアコンの採用、車両の断熱、シートヒーター、三代目プリウスで採用したヒーター用エンジン冷却水の排熱回収器などは、どれもカタログ燃費には反映されないユーザー燃費向上のための技術です。

カタログ燃費と言われるように、どの国どの地域でも公式試験にのっとった試験法で求められた燃費値が公式燃費とされ、この公式燃費のみが正式にクルマの広報・宣伝・販売活動として使用できます。

確かにいかにこのカタログ燃費を高めることができるかを激しい競争を行ってきていることも事実です。しかし、その一方で、各メーカーともユーザー実走行燃費改善にも努力をしています。

最近のニュース等でも紹介されている、エコラン運転中でもエアコンを効かせる蓄冷方式のエアコンなどもその一例です。この部分では、日本の自動車メーカー、部品メーカーが欧米メーカー以上に知恵をだし、新技術を提案しています。これらの努力は燃費値では貢献できないかもしれませんが、最終的にユーザー平均燃費にその実際の効果が問われることになります。

販売後のユーザー燃費の収集・解析は可能

現在、日本、欧州そして米国と自動車による石油燃料消費総量が減少に向かっています。ハイブリッドだけとは言いませんが、着実に低燃費車が普及していることの表れです。

この記事の内容は問題ですが、そろそろカタログ燃費とユーザー平均燃費とのギャップ問題に決着をつける時期に来ているのは確かでしょう。ただし、公式試験をどのようにいじろうが、ギャップ問題は発生します。上に挙げた図のように使い方、走り方によって燃費は大きくばらつきます。さらに、今のkm/Lの表記では、さらに低燃費車になればなるほど燃費値の乖離は大きくなってしまいます。

一つの公式試験モード、条件でユーザー平均燃費を近似することは無理があります。あくまでも燃費比較の尺度として国際基準調和の新試験法を使い、そのあとは実際のユーザー燃費値を集めたビッグデータとしての解析を加え、その結果をEPAのように公表していく方向が一つの方向と思います。

また今のクルマでは、エンジン制御からも正確な燃費計測を行っています。初代プリウスを出した際には珍しかった燃費表示はあたりまえの機能となりました。さらにクルマごとに、燃費と様々な走行データ、走行パターン、トリップ解析を車両コンピューターで行うことも難しくはありません。

個々のクルマ、ユーザーごとの燃費診断もやろうとすればやれます。ナビ装着もあたりまえの世の中ですので、GPSデータ付でそのデータを外部に送り解析することは、ITS、スマホ普及を考えるとそれほど先の話ではありません。

ユーザーごとの燃費診断から、クルマの故障把握もできるはずです。排気のクリーン度、燃費を悪化させる故障、整備不良を減らすだけでも環境保全への効果は大きいと思います。

燃費が大切で低CO2を目指すのは社会的要請ではありますが、個人的には低燃費運転だけを推奨するつもりはありません。時には気分よく、思い切った加速をやってみてみたくなるクルマを作るのも我々の役割で、その一回の加速で実燃費がどれくらい悪化するかの見える化も実燃費向上につながるのではと思っています。

私自身も、燃費悪化は判っているものの、ときには思い切った加速、カーブの多い山道でコーナリング減速からのラインに沿った加速などを楽しんでいます。