EV/PH(E)Vと充電ステーション

以前にもPHVの説明の時に書きましたが、ハイブリッド車は電気自動車の開発の歴史から生まれ、それの弱点を補う目的で開発が進められてきたクルマです。
プリウスの開発当時も、ハイブリッド自動車は自動車エンジニアの間ではHybrid Electric Vehicle(HEV)、おおざっぱに訳すと混合型電気自動車となるのですがこう省略して呼ぶのが通例でした。しかし当時、ハイブリッド車に先行して世に紹介されていた電気自動車によって、電気自動車(EV)という言葉には値段が高く、車重が重く、航続距離が短く、かつ充電が面倒なクルマとのネガティブなイメージが強く残っており、我々はハイブリッド車の発売にあたり、これを払拭する狙いも込めて、この通例に反してわれわれが勝手にEを外し、HVと呼ぶようにした経緯があります。
同時に、ハイブリッドプリウスの広報用キャラクターとして手塚治虫さんのアトムを使う許諾をいただき、アトムとお茶の水博士のキャラクターで“このクルマは電気自動車のような充電は必要ありません”との広報宣伝も行いました。「21世紀に間に合いました」とのキャッチコピーとともに、このCMを記憶されている方も少なくないかと思います。
「環境性能は高くても使い勝手は従来のクルマと同じで、充電する(プラグインする)必要がありません」というアピールが、当時はハイブリッド普及の第1歩と考えたわけです。いま話題になっているプラグインハイブリッド車PHVも従来はPlug-in Hybrid Electric Vehicle (PHEV)と呼ばれていたのですが、トヨタではこのながれからEをはずしPHVと呼び、例えば経産省が行っているプロジェクトが“eV・PHVタウン構想”と名付けられたように、日本ではPHVが正式名称としても通用しているようです。

「プラグイン」するということ

さて、こんな書き出しをしたのは、今日取り上げるのがEV/PHVに不可欠の充電設備、つまりは「プラグインすること」の現状だからです。EV/PHVの普及を図るためには、このプラグイン操作による外部電力充電を安全に、簡単に、便利に行う、安価な充電設備が必要なことは既に次世代自動車に関わる人には常識になっています。
今年の8月、通産省からEV・PHVタウン構想のプロジェクト進行状況をまとめたベストプラクティス集という資料が発行されました。(資料全体はこちらでダウンロードすることができます。)
その中22ページの「充電インフラ整備の考え方」というページでは、その初頭から「○EVやPHVの充電については自宅(自社)で安価な夜間電力を活用することが基本となるため、プライベート用の充電インフラを整備することが重要。」としており、これは4月に発表された、同じ経産省のレポート“次世代自動車戦略2010”の「インフラ整備戦略」から変わることない結論が取り上げられています。
このどちらのレポートもどちらかというとEV普及を想定して纏められており、民間ベースとして急速充電設備、装置も必要との追記もされていますが、私としては、この最重要として取り上げている自宅(自社)用の100V/200Vの汎用コンセントベースの、現在よりもさらに安全で安価な設備を普及させることは勿論、その上でITネットワークと接続することによって使用充電電力量、ガソリン消費量、CO2排出量を記録し、電池の診断やクルマの故障診断情報メンテナンス情報をクルマや自宅のPCに配信するのなどの今以上の利便性を提供し、お客様がそのメリットをより享受できるよう知恵を絞っていくことが必要だと考えています。

ストラスブールプロジェクトでの充電設備

私が現在関わっている、約100台のプラグインプリウスを使ったフランス・ストラスブールでのプロジェクトの充電設備の設置も、この経産省のまとめにある「自宅(自社)で安価な夜間電力を活用することを基本」と同じ考え方で、市役所や会社での使用と個人のクルマの使い方を想定し、プラグインハイブリッド車1台あたりで3台の個人住宅での低電力充電ステーションの設置と、1台の勤務場所での低電力充電ステーションを設置し、これ全体で30ユーロ/月の使用料としています。
大規模実証試験と謳っているのに使用料を徴収していることに驚かれるかもしれませんが、このプロジェクトの目的はクルマだけではなくその周辺環境も含めて参加者にPHVをビジネスとして提供することにあります。そのような環境を用意することによって、実際に商用化した際の日常のお客様の使い方を見極め、その走行パターン、実際の電力使用量、これによるガソリン消費削減の効果、CO2排出量削減ポテンシャルなど様々なデータ収集と分析を行い、実用に向けたお客様の注文や要望をとりまとめ、普及への課題を明らかにして行くことができるのです。

写真1
写真2
写真3

さて、実際の使用風景ですが、写真1は、1台3カ所として設置した自宅用充電ステーション、写真2は自社駐車場に設置する充電ステーションです。この他に、実証試験用として、カードで電気料金の課金や使用状態の把握を行える、公共充電ステーション写真3を市役所や大学、公共駐車場などに、約18カ所設置して利用状況の検討を行っています。欧州ですので、供給電力は200Vですが、いずれの充電ステーションも低電力タイプであり、急速高出力充電ステーションは用意していません。

PHVと充電

EV/PHVの普及を図るためには、このプラグイン操作による外部電力充電を安全に、簡単に、便利に行う、安価な充電設備が必要です。“充電は必要ありません”から“充電するとお財布にも環境にも優しいクルマです”と言えるクルマにしていくためには、充電時の安全性確保は基本中の基本として、充電することによる経済的なメリットの拡大と、さらに充電設備と充電操作性の向上が不可欠です。この充電に関する諸条件は、私がPHVの推進が、PHVだけではなくEVも含めた次世代車の普及に欠かせないと思っている理由の一つとなります。
PHVの最大の特徴は、「ガソリンがある限りは、電池が充電されていなくとも普通のクルマと同じに走れます」ですが、経済メリットと環境メリットを拡大するためには、EVに比べると遙かに少ない容量の電池を使い、その充電電力をできるだけ走行に活用することがポイントです。さらに、個人用自動車としては、勤務先の駐車場にも低パワー用の充電ポイントがあると、勤務中の低パワー充電で帰宅時の走行にも外部電力を利用することができます。
最近ニュースでは、EV用の急速充電設備の話題が多くみうけられますが、PHVではいざという時にはエンジンで走りますから、電池切れの不安感解消のための、高価な急速充電ステーションの設置拡大は必要ありません。それよりも、ショッピングセンター、集合住宅の駐車場、そして勤務先の駐車場、さらには、ホテルなど、駐車中に簡単に充電できるステーションが広がっていくと、小さく、安価な電池を使っても外部電力エネルギーでの走行(EV走行)割合を増やしていくことができます。PHVであれば、今年の夏のような極暑の日の電力ピーク時には、充電カットされても普通に使うことができるのが特徴です。
“次世代自動車戦略2010”の中にあるとおり、いま優先させるべきは安価で安全なプライベート用の充電インフラを整備することです。私はハイブリッドが“充電が必要のない”電気を駆動に使用するクルマを世の中に紹介したように、PHVが“充電する”行為を世の中に紹介するのに貢献すると確信しています。

充電設備の課題

さてこのように充電ステーションについて述べてきましたが、私としては、今の充電インフラの状態では、100V/200Vであれ、広く個人のお客様に使っていただくには、価格、操作性、利便性ではまだまだ不十分なレベルです。欧米では、60%以上が路上駐車、固定の屋内駐車場を持っているのはほんのわずかです。
日本では路上駐車は許されていませんが、屋外駐車の台数は多く、またマンションなど集合住宅の充電ステーション設置など、EV/PHV普及にとっては課題が山積しています。また、公共充電ステーションでは、破損、電線などの盗難対策まで考えて置く必要があります。
今必要なのは、ムードに流されることなく、着実な普及拡大を図るとのスタンスから、お客様目線、実際のクルマの使い方をしっかり踏まえたクルマを開発していくことです。
かまびすしいEV普及議論の中で、日本だけではなく、欧州勢のなかでも今の高速充電よりもさらに高パワーな超高速充電の議論すら行われているとのことですが、これより先にもっと進んだプライベート充電インフラを開発していくことが重要と私は考えています。

プリウス開発秘話 2 ハイブリッドの始動

今、世界中で150万台近いプリウスが走り回っています。クルマだけに限らないと思いますが、エンジニアにとって自分がその誕生に関わった製品が、世の中に受け入れられ多くの人々に使用していただけるというのは、この上のない喜びです。特にプリウスのように、未踏の領域に挑戦するものであればなおさらです。

さて、前の「プリウス開発秘話」では、カメマークの表示についてお話ししましたが、今回は従来のガソリンエンジン車と大きく変わったプリウスの始動方法と電子式シフトの開発について少しだけ説明したいと思います。

敢えてエンジンをかけた初代プリウス

最初に掲げたとおり、プリウスを含めたハイブリッドが決して珍しいものではなくなり、始動時にエンジンのかからないクルマであることを驚く方も少なくなってきていると思います。ですが、クルマの始動というのはドライバーにとっては非常に大切な所作(儀式?)であり、この一つ一つのシーケンスをどう決めていくのか、その新しい形となるハイブリッドの始動について初代のプリウスの開発設計段階で、様々な議論を喧々諤々と行い、クルマの操作系としての設計指針との整合を取りながら様々な検討をして決めていったことを、今でも鮮明に憶えています。
その結果、初代のプリウスでは、あまり大きく始動・操作系を変更するとドライバーが違和感を受け運転への集中が削がれる可能性があるとの判断のもと、スタートは従来のようにキーを差し込んで、それをひねってエンジンを始動させるという、従来のクルマと同じシーケンスを採用しました。
初代プリウスで搭載していたハイブリッドシステムでも、エンジンを掛けずにモータだけで走らせることが構造上可能でしたが、敢えてスタート時には必ずエンジンを起動させ、システムの正常チェックをし、触媒暖機制御が終了したのちにエンジン停止を行い、モータ走行をさせていました。
その理由は先ほど書いた違和感をドライバーが受けることなくする為であり、というのも当時は、エンジンの始動音とクルマの揺れを、クルマが正常であるかどうかの判断材料の一つにしていた方も多くいたことからでした。また、走行中にエンジンを止めることは燃費向上に寄与するハイブリッドの力を感じることのできる最大の動作のひとつですが、その走行中のエンジン停止ですら「このクルマはエンストするから気持ちが悪い」などとのご意見もいただいたものです。

トヨタ・ハイブリッド・システム(THS)の始動メカニズム

THS
上の図はTHSの構成を示すもので、ご覧いただければ解かるとおり、エンジン軸、発電機、さらにはモータ軸とデファレンシャルギアへ伝達するクルマの駆動力となる出力軸が、遊星ギアの三つの軸に繋がっており、従来のガソリンエンジン車のミッションのようにそれぞれの軸の駆動力を遮断するクラッチはついていません。
THSではギアを介してそれぞれの軸が機械的に繋がっていますので、エンジンを起動させるために発電機をスタータモータとしてエンジンを回転させるときや、エンジンがガソリン蒸気に点火してエンジンパワーを発生したとき、モータでクルマを駆動するとき、さらには減速時にモータを発電機として作動させ回生発電をするときなど、エンジン、発電機、モータ三つの駆動力発生源のどれかを動かす時には、その反作用として他に軸にも反力が伝わる構造となっています。ドライバー操作によらない、エンジン始動や停止による反力によって、クルマが動いたり大きなショックが発生しないように、反力キャンセル制御を行っていますが、最初の始動時や停車中には、安全・安心保証のためドライバーの操作にも制約をつけ、その操作状況を表示し、正規のシーケンスから外れる可能性のあるときには警告音をだしています。
たとえば、スタート時、クルマが停車中であり、スタート操作でクルマが動き出さないことを保証するために、ブレーキを踏んで油圧がでていること、さらにはPレンジに入れてあることをスタート(Ready)条件とし、最初にエンジン始動を行うシーケンスを採用していました。これが成立していないとエンジンが始動せず、またReadyもオンにはなりません。またその状態で、ドライバーがクルマから離れないように、ドアをあけると警告音を出していました。また、停車中のNレンジでは、エンジン始動を行わず、この状態で長時間放置されると、電池の充電ができずにからになってしまうこともあるため、音声により、エンジンを始動し充電ができるように、Pポジションに入れ、Dレンジ操作を行うよう音声ガイダンスを行なうなど、安全、安心保証を考えられる限り考えて設計、評価を行いました。
また、クルマの発進についても様々な検討を行いました。例えば、あまりマナーの良い運転ではありませんが交通量の多い道で、右折時に停車状態から急加速して対面の直進方向から来るクルマを抜けるようにして運転するケースなどは、その運転の是非はあるものの決して見ることの少なくない状況だと思います。ここでクルマに求められるのは、モータ走行からエンジン始動しエンジンパワーを出して急加速することで、もしこのケースでエンジンがかからなければ衝突の危険すらあります。

エンジン起動はクルマの安心の基本中の基本

初代開発当時は、AT車の走行中のエンストは走行安全にも関わる大きな市場問題との認識がある時代でした。その中で、エンジン停止走行をしょっちゅう行うハイブリッド車で、エンジンの確実な始動保証は高いハードルです。強力な電池とスタータ(発電機)によるエンジン高速回転、さらにこの高速回転での確実な燃料噴射と点火、加えて、燃料噴射や点火、さらには発電機や電池など、エンジン起動不良の要因になる故障は、その前兆現象を含め検出感度を高めて検出するなどして、さまざまな意地悪評価を行い、寒冷地、高温地域、山岳路、大都市の渋滞路などを走り回り、耐久走行試験を繰り返し、最後は清水の舞台から飛び降りる覚悟でエンジン始動、停止シーケンスを決めていきました。
ボタン一つで、スタートできるようにしたのは2代目プリウスからですが、今では従来のエンジン車までボタンスタートとなり、またガソリンエンジン車でアイドリングストップ機構を備えるクルマも多くなり、エンジン停止が当たり前の時代になってきたように感じます。
しかし、古いエンジン屋にとっては、長期間使われる自動車エンジンの始動保証は非常にハードルの高い課題との認識でした。エンジン起動技術や故障診断システムの進化、スタータや補機バッテリー品質の向上などにより、エンジン停止システムの実用化が進んできているとは思いますが、エンジン起動はクルマの安心、安全性能保証の基本中の基本であり、信頼性品質のさらなる向上に期待します。

プラグインハイブリッド車の燃費とCO2排出量

プラグインプリウスの燃費および炭酸ガスの排出量は、日本では燃費値として国土交通省から57.0km/l, 炭酸ガスの排出量として41g_CO2/kmと公表されています。(http://www.mlit.go.jp/common/000111207.pdf

プラグインプリウスについての解説記事や試乗レポートなどでもこの数字を大きく打ち出して紹介している事も多いようです。

さて、それでは「今のプリウスが広告では38.0km/lって言っていた記憶があるから、じゃあ1.5倍以上燃費がいいのか。」と言えるかというとそれは間違いで、この数字を読み解くには幾つか前提の知識が必要となります。

燃費測定方法の変遷

もともと永らく、一般的な小型ガソリン自動車の排気ガスのクリーン度と燃費を評価し、排気規制への適合性や燃費基準値への適合性を評価する為には、10-15モードという走行モードで計測された燃費・排気の数値が使用されていました。現行のプリウスの38.0km/lという数字は、この10-15モードで計測されたものです。

しかしハイブリッドの登場等の自動車技術の進展や、自動車による環境負荷を低減する為に様々な規制を行う際に10-15モードが時代に則さなくなっているという事から、数年前にJC08という基準が採用され、今はクルマのパンフレット等にはこの2種類の燃費が併記される形になっています。なお、現行のプリウスのJC08で測定された燃費は32.6km/lとなります。(なお、2012年まで10-15モードを併記することが認められています。)

さて、ではプラグインプリウスの燃費ですが、この数字はJC08をプラグインハイブリッド車用に拡張した測定方法に拠るものです。これはまずは電池の充電電力を使って走行(外部電力使用走行)した走行距離とその時のガソリン消費量を計測し、次に電池の所定の充電電力を使い終わった後の通常のハイブリッド同様の外部電力エネルギーを使わないハイブリッド走行(充電量維持走行)の燃費を計測し、最後に充電電力を使った走行がそのクルマ全体の走行距離のうち何パーセントを占めるのかを統計データから定められた値(ユーティリティファクター)を用いて上記の外部電力使用走行と外部電力使用走行を組み合わせて算出された値です。この試験法は、国土交通省がプラグインハイブリッド車排出ガス・燃費測定方法策定のため有識者を集めた検討会での議論と、そのまとめのパブリックヒアリングでの意見を参考に新たに制定した測定法に沿ったものです。

(参考:新しい測定法、試験法、さらには新技術の届出

ちなみに、電池に充電された外部電力を使った後の、ハイブリッド走行燃費は、30.6km/lと公表されており、この値は通常プリウスのJC08公表燃費値の32.6km/lに迫る燃費値で、電池の外部電力を使ったあとのハイブリッド走行でもプラグインプリウスは通常の現行プリウスとさほど違いのない燃費性能を持っていることを示しています。

燃費測定方法と燃費性能

さて、燃費測定方法はこのように変化してきましたが、ここからはそれが指し示す「燃費性能、炭酸ガス排出量とは何か」ということについて考えてみたいと思います。

クルマの燃費については、公表されるカタログ燃費と実際の走行燃費にはギャップがあり、また加速の程度、速度、速度の変動、気温、登坂や降坂、さらには標高など多種多様な要因によって変化します。通常の使用状態でのユーザ燃費は、現在ではさまざまなWebサイトで取り上げられており、同じクルマでも大きなばらつきを示すのが通常です。

プリウスの実走燃費グラフ
プリウスの実走燃費グラフ

上の図は数年前に調べた、私が講演等で紹介していたアメリカでの初代プリウス(00年モデル)ユーザ燃費のばらつき程度を示すグラフです。燃費の実態の一例はこのグラフが示す通りとなります。基本的には故障などがないかぎりにおいて、同じ車種のクルマ毎に燃費のばらつきはそれほどありません。しかしながら、そうであるのにこれだけ燃費がばらつくというのは、ユーザの使用実態が大きくばらついているという事を示しています。

メーカがカタログに記載するのは、クルマを販売する国の認可もしくは認定を与える官庁が公式に決めた試験法や測定法に則り、その官庁もしくは官庁公認のラボ、または公式試験実施が許可されたメーカのラボで計測され認可された数値です。上記に書いたような、多種多様なクルマの使用のされ方を前提に行われているものではありません。また、アメリカ、欧州、日本と、試験法および測定法は国・地域によって異なります。ですので、このような公式燃費はあくまで、さまざまなクルマの燃費ポテンシャルを同じ条件下で比較し、アメリカや欧州では燃費規制の適合性判断を行い、日本では燃費基準の適合性判断および今年実施されたような低公害車補助の基準判定として使われる、燃費比較の物差しに過ぎないということは記憶の片隅に置いていただければと思います。

燃費の尺度からCO2排出の尺度へ

また、燃費に加えて最近では、地球温暖化緩和を目指すために、自動車から排出される炭酸ガス(CO2)の値が測定され、燃費とともに公表されるようになってきました。欧州やアメリカのカリフォルニア州では、燃費ではなく、炭酸ガスの排出量が規制対象とされ、また環境自動車の補助金や自動車の税金を決める尺度として使われるようになってきています。

その炭酸ガスの排出量ですが、ガソリン車やディーゼル車であれば、それぞれの国・地域の試験法や測定法で定められた試験燃料のカーボン量から、燃費測定値がでると係数をかけるだけで算出できます。しかし、ここで話題とするプラグインハイブリッドでエンジンを使用せずに電池に充電した外部電力エネルギーを使って走るときや、バッテリーのみで動く電気自動車の場合は、そのような方法で排出CO2を測定することはできません。現時点の日本ではそのような車のCO2排出の算定方法が定まってはおらず、実際に電気で走る場合はCO2排出がゼロと解説する例があるようですが、これは強い誤解を生む表現だと私は思います。それは、バッテリーを充電するために使用される電気を生むのにCO2が排出されているからです。

発電電力のCO2は、水力、石炭、原子力、天然ガスなど使用している方式により、その国・地区の発電Mixで大きく異なります。またミクロで見れば、深夜充電するのか、日中に充電するのか、さらには、夏の電力ピーク時か、冬か、工場が稼働を停止する長期連休かによっても変わってきます。CO2の排出抑制の目的は、地球温暖化緩和というグローバルな要請によるものです。そうなると、クルマの走行中の排出や、発電時の排出だけではなく、クルマの製造過程、使用過程、さらには廃棄過程全体の排出抑制が重要です。

私は今、フランス電力公社のアドバイザーとしてフランスでのプラグイン車の普及支援活動を行っていますが、フランスに注目した大きな理由の一つは、そのずば抜けて低い発電電力のCO2排出量にあります。フランスは原子力発電と水力発電で全体の95%を超える発電Mixをもつため、電力単体ではこれから先進国が目指すべき発電電力のCO2排出削減レベルをすでに実現している国であり、そのような電力を利用できるフランスは先進的なクルマの使い方として炭酸ガス排出量抑制の研究とその実証を進めるには最適な地だとの判断からです。

一方、今後自動車の爆発的な増加が予想されている中国では、炭酸ガス排出抑制との観点から、今プラグインハイブリッド車や電気自動車を導入してもその効果を大きく見積もることはできません。なぜなら、現時点では中国の発電の95%は、ワットあたりのCO2排出が非常に多い石炭火力によって行われているからです。

真の環境自動車の為に

初代プリウスの発売直後には、モータや発電機、さらには電池の製造過程、さらには配車後の電池の廃棄までふくめた炭酸ガス排出では削減効果がないなどとのご批判もいただきました。初代の開発から、われわれはグローバルでの炭酸ガスの排出削減と石油燃料消費を減らすクルマを目指しており、常に実走行燃費、燃料製造、クルマの製造、使用過程、廃棄処理までのクルマの一生、すなわちライフサイクルとしての排出量をチェックし、確認し、比較しながら開発、その技術進化に取り組んできたつもりです。実用燃費の把握、実際の炭酸ガス排出量の把握、さらにライフサイクルでの排出量の算定は、非常に難しいことをつくづく感じています。

しかし、使用状況の把握、製造過程での分析、廃棄過程、リサイクルまで含めて、その排出を掘り下げていくと、さらにその改良の方向、抑制の方向まで見えてくるように感じました。燃費、炭酸ガスの排出量の議論では、この実用燃費、ライフサイクルの観点から次世代自動車のポテンシャルを見ていきたいと思っています。

プリウス開発秘話1:初代プリウスのカメマーク

時の流れは早いもので、初代プリウスを発売してから今年で13年目となります。プリウス開発に関するエピソードなどは、有難いことに発売後にそれを扱った幾つもの本が出版され、私もインタビューや講演などで語る機会を頂いたりしています。しかしながら、そのような場では、文字数や時間の制限などで、漏れてしまうものもがありますし、当時は現役の会社員としてなかなか口にできなかった話もあります。これからプリウス開発秘話として、そのようなエピソードを時々紹介していきたいと思いますので、お付き合いいただければ幸いです。

さてでは初回である今回は、初代プリウスのインパネに表示されていたカメマークの話をしようと思います。

カメマークとは

通称カメマーク、正式には出力制限ウォーニングインジケータランプと呼びます。当時の解説書では「モータ、ジェネレータ、HVバッテリー、インバータの過負荷運転によるHVバッテリー残量の低下防止のため、出力制限運転中であることをランプの点灯により運転者に警告します」と説明しています。この警告灯は初代プリウスの1997年12月の生産車から2000年5月の初代マイナーチェンジまでの期間のクルマだけ採用されたもので、このマイナーチェンジの時に廃止をしましたので、このカメマークのことを記憶にとどめておられる方は少なくなったのではないでしょうか。解説書の説明のように、通常のドライブで発揮できる走行パワーを大幅に下回った場合に、その状態を認識せず追い越しをしてヒヤッとされることや、いつもよりもパワーが足りない時にそれをすぐに故障と判断せれることがないよう、ドライバーにその状態を明確に知って頂くために設定しました。

出力制限を設ける理由

さて、なぜ出力制限を設けるかというと、クルマを電気モータで駆動するクルマは従来のクルマと少し違って長時間運転を続けると過負荷運転となってしまい、それに起因した部品の破損や故障に至らないよう、多くの部位をその出力を絞る行うことを前提として部品設計を行っているからです。

「出力制限などせず、長時間運転ができるような設計を行えばよい」と思われるかもしれません、しかしながら満足な長時間運転に耐える設計を行うとなると、モータ、ジェネレータ、電池、インバータの冷却能力を大幅アップさせ、かつ温度上昇のスピードを抑えるためにそれらやパワー素子のサイズアップなどを行わねばならず、それはクルマの重量増、搭載容積の低下、そしてなによりコスト上昇に直結します。

このため我々は、様々な走行条件、使用環境を想定しながら、ギリギリの厳しい条件では出力制限を行うという判断をし、それによりハイブリッドの実用化にこぎ着けました。

出力制限の具体例を挙げると、夏の山路のアップ・ダウン走行では、登坂時の電池アシストおよび降坂時の大きなパワーの回生充電で電池が高温になることから、この出力制限を設定する必要があります。また、このような走りを続けた場合には、モータも高温になって設計保証温度を超える危険があることから、出力制限を行っています。さらに、モータやジェネレータを動かすパワー素子がつまったインバータは、坂道発進時にアクセルコントロールでクルマを止めている状態では、一瞬に大電流が流れるため出力制限を行っています。なお、この出力制限は、故障の防止、寿命低下の防止、重量増の抑制、部品のコンパクト設計、さらにはコスト増の抑制のため、今も全てのハイブリッド車で実施しています。

カメマーク採用のいきさつ

初代プリウスのケースでは、最初の企画段階では、日本の高速道路での走行を想定して、通常の高速登坂走行で少し余裕を持たせてエンジンの出力やアシストパワー、電池の搭載容量を決めました。ですが、プロトタイプを作って実際にクルマを走らせてみると、様々な状況で出力制限に引っかかること、またそれを引き起こす要因が継続する条件もあることが判ってきました。特に富士や伊吹、さらには六甲、箱根などの登坂では、電池パワーアシストを使い過ぎると当初企画通りのエンジンパワーだけでは、流れにのった走行ができなくなることもあったのです。これは改造申請をした正規の白ナンバー試験車ができ、一般路をいろいろ走ることができるようになってから明かになった問題です。

また、もう一つの電池の出力制限としては、電池の温度が低いときの出力制限があります。寒冷地の冬で、電池温度が低下するにつて急激に出せる出力が低下してしまう特性です。ハイブリッドの特徴ですが、電池からの出力が低下しても、その分をエンジン出力で補うことができればパワーダウンなくクルマを走らせることができます。しかし、初代プリウスの企画段階のエンジン最高出力は40kW、エンジン出力で補うだけの余裕はありませんでした。急遽、設計仕様を大幅に変更しない範囲で出力向上を図り、結局43kWの最高出力まであげましたが、これでも不十分、最後の決断として電池アシストパワーとエンジンパワーを加えた通常の走行可能パワーをある割合低下してしまったときに、出力制限灯を点灯し、運転者に注意を促すことにしました。これが、カメマーク採用のいきさつです。

もちろん、カメマーク点灯は故障ではなく上記の通りクルマを守る為に組み込んだ仕様です、しかし今だから正直に白状しますが、性能不十分の言い訳であることに違いはありません。ただ、可愛らしいカメの表示と、理解のある日本のお客様に恵まれたことから、一種のユーモアとして好意的にお受け取りいただき、大きな苦情を戴かなかったことには、今も大きな感謝の念を忘れてはいません。しかし、クルマの基本特性として不十分であることは明かであり、我々はすぐにこの問題に取り組み、エンジン出力をさらに向上させることによって、電池の出力制限があっても、初代で決めた全体出力低下の割合を下回らないシステムに改良し、最初のマイナーチェンジ後のプリウスでカメマークを廃止することができました。

互いに補えるからこそ「ハイブリッド」

また上記のエンジン出力の強化に加え、電池も冷却性能の改良、電池の充放電効率の改良、低温性能の向上などに取り組み、電池の出力制限頻度そのものも減らすように改良を続けてきました。電気駆動系の出力制限について、世界中の様々な走行条件、使用環境条件の中で色々なことを学びましたが、この中でハイブリッドシステムにおけるエンジンの重要性もいまさらながら思い知らされました。実際のクルマの走行では電池の高低温、エネルギーを使い切った等の状況は決して珍しい事態ではありません。電池の過熱状態、低温状態、または充電量が減った状態で無理矢理出力を出してしまうと、電池の劣化につながり、電池寿命も短くなります。

我々が開発したハイブリッドでは、このような電池の出力を絞る必要がある条件では、エンジンパワーを増やすことによって電池の保護も行っているのです。出力制限というと良くない事に思われるかもしれませんが、ハイブリッドが個人ユーザの通常の使い方では、電池の途中交換を必要としないレベルにまでも進化したのは、きめ細かい電池保護の出力制限制御をしているからこそなのです。

プリウスを発売したとき、ハイブリッドの説明として電気とエンジンの「いいとこどり」をしていると説明しました。いま考えると、すこしこれでは言葉足らずだったかなとも思います。電気とエンジンは、お互いの「いいとこ」だけを使っているのではなく、互いの「いいとこ」を引き出す為にお互いが相手の「欠点」を補いあっている素晴らしいパートナーなのです。

ハイブリッドの開発を行ったというと、クリーンな電気駆動をクルマの世界に取戻して、脱エンジンの道筋を作ったと思われがちです。しかし、実際に開発を行った私が抱いたのは、およそそれとは逆で、実際の様々な走行環境の中で“大事に大事に”使う必要がある電池やモータを補うエンジンの頼もしさ、そしてポテンシャルの大きさでした。エンジンはプラグインを含むハイブリッドに、電池の保護、クルマの走行パワーの確保、心地よいエンジンサウンドとともにFun to Driveな走行の楽しさを今も、これからも与えてくれると私は確信しています。

クルマの基本性能と電気自動車/プラグインハイブリッド

前回は、電子制御とクルマの基本性能についてシニアな自動車エンジニアとしての意見を述べました。電子制御は様々な活用方法があり、走りや燃費などのクルマの売りとなる性能だけでなく安全などに対しても縁の下の力持ち的に使用していくのは大変有用だということ、しかしながら電子制御はあくまでクルマの基本性能が伴ってこそ活かされるもので、電子制御でなにもかもできるかのような「電子制御万能主義」的なアプローチはクルマのエンジニアとして決して選択してはいけない道で、「素顔美人」のクルマを作らねばならないということを感じ取っていただけたら幸いです。
さて今回は、次世代自動車の期待の星としてもてはやされている電気自動車やプラグインハイブリッド車において、このクルマの基本特性、さらにはお客様目線のクルマという観点でお話ししようと思います。結論が先になりますが、私は電気自動車でも、プラグインハイブリッドでも、「素顔美人」のクルマづくりとの視点は全く変わらない、いやもっと強く変わらないし変えてはいけないと思っています。

次世代自動車の基本性能への懸念

前回も述べたように、ハイブリッドプリウスの開発でも、ハイブリッド化による車両重量の増加、特に電池の重量増加、その搭載位置変更による重量バランスの悪化を心配しました。重量とそのバランスは、クルマの基本性能を大きく左右する非常に大きな要因だからです。ですので、その改良を進めるうえでの課題として、軽量化、部品のコンパクト化に取り組みました。これは最大の課題と社内外から言われていたコスト低減に勝るとも劣らない優先度だったのです。
さて、電気自動車やプラグインハイブリッドの話に移りますが、いまの状況を見ていると私は既視感を覚えます。それは、「バッテリーの値段が安くなれば電気自動車やプラグインハイブリッドがすぐに普及する」といわんばかりの報道や社会の動きを見ていてです。
私のエンジニアとしての視点から言えば、先ほども言ったように最も重要なのはトータルで見た場合のクルマの基本性能の部分で、この視点からすれば電気自動車やプラグインハイブリッドを商品として世に送りだして皆様に買っていただけるようにする為には、まだまだ越えなければならない壁が幾つもあり、これはバッテリーのコストの問題だけではありません。
特に私が懸念しているのは、電気自動車やプラグインハイブリッドにおいて、搭載する電池の重量増加とその搭載位置による重量バランスがクルマの特性に与える影響です。クルマの基本性能を考えると、電池の搭載位置は重要でクルマの旋回性能に大きな影響を与え、これを重くかさばる電池をできるだけ車両の中心に近く低い位置に搭載する設計を行う必要があります。もちろん車両重量が増加すれば、クルマを加速させるエネルギーも重量増に比例して増加します。そうなれば、ブレーキやパワーステアリングの能力も上げる必要があり、また変速機のキャパシティ、ドライブシャフト、サスペンションも車両重量増の影響、車両重量バランスの影響を考慮してアップグレードしていく必要があるでしょう。またボディも重量増にともなって車体強度や衝突安全設計の見直し等が必要となります。
つまりは基本性能を考えてクルマを設計するという事は、単にエンジンをモーターとバッテリーに載せ替えるという次元ではなく、複雑に影響しあう様々な要因を纏め上げ、商品として皆様に買っていただけるものとして完成させるという事なのです。そして当然ですが、その上で価格の問題があるのです。

プラグインの要望は最初からあった

さて、プリウスを発表した後、アメリカで電気自動車普及を推進していた方々が多数訪ねてきて、ハイブリッド開発を祝福・歓迎して頂いたのですが、中にはもうその当時からハイブリッド電池の容量を増やして外部電力で充電するプラグインハイブリッド化をしようという提案をしてきた方もいらっしゃいました。また今だから話せるのですが、カリフォルニアの環境当局トップの方から「プリウスをプラグインハイブリッド化するならば、補助金の増加や規制上の優遇をしよう」と非公式のオファーを頂いたこともあります。
しかし、我々は当時使用していた電池をプラグインに対応できる容量に増量とすると、その重量でクルマの基本特性を損なってしまうと判断して、そのオファーをお断りしました。当時、トヨタは電気自動車のRAV4EVを日本とアメリカに導入していましたが、このクルマは一回の充電でアメリカのシティモード走行で測定して200kmの走行距離を確保するために実に450kgもの電池を搭載していたのです。運転した経験では、やはりその重さの影響は、航続距離を短くするだけでなく、運動性能にまで大きく及んでいました。そんな状況でしたから、プラグイン化を断るという判断はエンジニアとしては当然のものでした。

次世代車が真に普及するためには

あれから、軽量、コンパクトとの点でも、ハイブリッド技術は進化してきました。Liイオン電池の実用化もこの基本性能を高める上でも期待していますが、プラグインの実用化には更なる電池の技術進化が必要です。今の電池の技術水準でも、電池搭載量をどんどん大きくして電気による航続距離を長くした電気自動車やプラグインハイブリッド車を作り、それを誇ることはできます。ですがクルマの基本性能を維持し、かつ現実的なクルマとして売るとなると話は別です。
またこの基本特性の善し悪しというものは、テストコースでの試乗や、都市内を短時間走るだけではなかなかわかるものではありません。典型的なグローバル商品であるクルマですので、ハイブリッド開発でも世界中の様々な走行環境で、実際の用途に応じた使い方をして、研究室やテストコースといういわば無菌状態の場所ではなく、極めて幅広い日常で使用されて通用する基本性能確保を重視して取り組んできました。日常というと簡単に見えますが、先ほどいった通りグローバルな商品です。プリウスでいえば日米欧で販売していますので、最低限でも北欧、アラスカ、カナダや北海道の冬の寒さ、アメリカのアリゾナ等の灼熱の砂漠も、そこに住んでいる方にとっては「日常」です。あくまで私の主観ですが、プラグインハイブリッドや電気自動車の開発まだそのようなレベルでの「日常の使用」といったフェイズには至っていないように思えます。ですが、本当に普及するクルマを作るというのは、そこまでカバーして責任を持つという事なのです。

これからは、シニアなクルマ屋の視点から、ハイブリッド車もそのプラグインも、さらには電気自動車も、次世代だからと言って甘い目で見ずに、いままでのクルマが努力して獲得してきた基本特性について注文をつけていきたいと思います

クルマと電子制御

先週は、アメリカでのトヨタ車の急加速問題について、「現時点ではトヨタ車の電子制御システムに問題は見あたらない」との発表をとりあげました。そして、電子制御システムの欠陥でない可能性が高まったことに胸をなで下ろし、電子制御システムの発展がハイブリッドを代表とした排ガスのクリーン化や低燃費、それだけではなくスリップやスピンの防止という安全性能など、クルマの進化を支えてきたと説明しました。また、人間の操作系も電子制御系の進化を前提に、より安全、安心なものに、従来の枠にとらわれず再考すべきと述べました。しかし、目指すのはあくまでもクルマとしての進化であり、電子制御はその手段の一つであることを忘れてはいけないと私は考えています。
前回は電子制御の利点を述べ、それの重要性を説明しましたが、今回は逆に電子制御へ極端に頼ってしまう事、突き詰めれば「電子制御万能主義」に至ってしまうような考え方の危険性について触れたいとおもいます。

クルマ開発の基本

さて昔も今も小型車は4つのタイヤで走り、曲がり、止まるように作られ、そして多分これからも長くその時代が続くものと思えます。その際、クルマの中身がいくら進歩してもドライバーの意思―走る、止まる、曲がるという動作を、でこぼこの路面でも、つるつるのアイスバーンでも、ドイツのアウトバーンでの180km/h越えの超高速走行でも、唯一路面と接触している箇所である4つのタイヤで行うことは変化しません。
ということは何を意味しているのでしょうか?それはつまり、クルマの企画・デザイン・設計の基本は何も変わっていないということです。
クルマの設計の基本、まずはドライバーの意思を明確に路面に伝えるための部分、タイヤ・ホイール・車軸・ブレーキ・デフ・サスペンション系の基本設計、クルマのパワーを決定する広い領域でトルク/パワーがく高エンジンと損失の少ない高効率の変速機の開発すること、またドライバーや同乗者がストレス無く座って移動できる車室パッケージデザインと十分な荷物をしっかりと搭載できる荷室スペースのデザインをおこなうこと、そしてこれらを突き詰めたうえで軽量化し4輪のタイヤにかかる重量とそのバランスなどを計算してトータルの完成度を高めていくこと。これらが重要だという所は何一つ変わることがないのです。
電子制御はこうした設計の基本を踏まえて良い基本特性をもったクルマがあってこその技術なのです。構成部品であるエンジンやモータなどパワーユニットの特性を引き出しかつ最適化し、とはいえ限界越えに陥らないようにドライバー操作をサポートするのが電子制御の役割です。

「”花魁のかんざし”と”素顔美人”」―電子制御の使い方

わたしの世代の古いエンジンシステム屋の格言として、「”花魁のかんざし”と”素顔美人”」という言葉があります。それはごてごてと後付で制御デバイス(かんざし)をつけまくって性能目標達成を図るよりも、まず基本性能(素顔)を磨くことが重要との自戒をこめた言葉です。私も初代プリウスのハイブリッド開発で、リーダーの指名を受けた直後、この言葉を胸に、ハイブリッドなるものが“花魁のかんざし”にあたるのではないかとの疑いをもち、その素性を確かめ、磨く方向を見極めるのに全力を注ぎました。それでもよく見ると、ハイブリッドの機構そのものはシンプル、エネルギーの流れ、動力の流れ、電力の流れも正確に、応答性良く検出できる構成となっており、エンジン、モータ、発電機の基本性能をきちっと引き出せば、目標に近い燃費性能が引き出せるとの見通しが得るにはそれほど時間はいりませんでした。ただし、モータと発電機が入ったハイブリッドトランスミッション、その高電圧をコントロールするパワーコントロールユニット、ハイブリッド電池、高電圧電線など、ハイブリッド化による重量増が約150kgにもなっていました。低転がりタイヤの助けも借り、公式燃費2倍の目標には達しましたが、クルマの基本性能、「走る、曲がる、止まる」の限界性能としては不十分だったと思います。つまり、自分を磨くのが不十分で、白粉を多く塗って誤魔化したという、エンジニアにとって決して満足してはいけない状態だったのです。そのようなクルマを、環境性能が高いということ、さらにトヨタが新しい技術にチャレンジした心意気をくみ取りお買いいただいたお客様にプリウスは育てていただいたと思っており、今も初代プリウスが走っているのを見かけると涙がでるほど嬉しくなります。クルマの基本特性でも世界のお客様に満足していただけるレベルをめざそうと、すぐに次の改良プロジェクトをスタートさせました。
ですので、それ以後の改良の取り組みのベクトルはクルマとしての基本性能向上でした。ハイブリッド部品の軽量、コンパクト化、その上での性能向上、2000年の改良、2003年の2代目、そして2009年の3代目とハイブリッドの軽量コンパクト化が進められ、それが環境性能の向上ばかりではなく、アメリカでも欧州でも安心して走れる車に成長させることができたと思っています。プリウスの成功は、かんざしなどのアクセサリーに頼ったものではなく、クルマの基本性能、素顔を磨いたものだったのです。

これからのクルマ作り

クルマは、安全に、安心して、快適に、その上にある状況では気持ちよく、さらに格好よく、さらにいつでも、どこへでも自由に、個人で、家族で移動するモビリティとして発展してきました。この観点からすると、クルマの基本特性として、プリウスも3代目でやっとそのスタート点にたどり着いたと感じます。
クルマとしての軽量化、魅力あるデザイン、パッケージ、基本特性の進化、さらにハイブリッド用エンジンとしての高効率、コンパクト、軽量化、モータの軽量、コンパクト、高効率化などの取り組みもまだまだ手を緩めることはできません。このクルマ、ユニットの基本特性を磨き、進化させ、その特性を理解した上での電子制御の活用、最適化が重要です。一部にEVになれば、クルマ屋のプロがいなくてもクルマが作れるとの声が聞こえますが、わたしはそのようクルマならば、クルマ屋のプロが作る車の競争相手にはならないと思っています。そのようなクルマなら、お客様の実際の様々な使い方の中で、遠からず馬脚を現すでしょう。しかし、ゲーム感覚でクルマを作らないこと、“花魁のかんざし”のクルマづくり、システム作りに走らず、クルマ屋のプロならではのクルマ全体の最適企画、設計を進化させ、環境性能の高さはあたりまえとして、多くの人がクルマとして買いたく、乗りたく、自慢したくなるクルマの出現に期待します。
その時の電子制御はそのクルマの基本性能を光らせる黒子役をしっかりと果すイメージを持っています。

アメリカでのトヨタ車の電子制御問題に関して 

http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2010081100052

「急加速事故、大半は運転ミス=電子系統の欠陥判明せず-米運輸省」…時事通信

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20100811-OYT1T00397.htm?from=y24h

「トヨタ車、ペダル以外欠陥見つからず…中間報告」…読売新聞

先日、アメリカ運輸省がトヨタ自動車のクルマの急加速問題に関して、「現時点ではトヨタ車の電子制御システムに問題は見当たらない」とする中間報告を発表したというニュースが報道各社、新聞各社から報じられました。

私もトヨタ自動車のOBとして、フロアマットにひっかかる問題や戻りの不良の問題を端緒として、今回の報告の主題となった電子制御システムの欠陥疑惑に発展したことも、これが走行・停止というクルマの基本中の基本である安全・安心に関わる信頼性品質であることから、忸怩たる思いで推移を見守ってきました。

エンジニアとして最優先すべきは安全

第1世代のマイクロコンピュータエンジン制御からハイブリッドシステム開発に到るまで、私はエンジニアの矜持として安全・安心に関わる信頼性品質の確保が、何よりも優先されるべきと考えて携わってきました。こうした電子制御の道筋を作ってきた立場の一人として、今回の急加速問題が電子制御の不良であってはいけないし、そうであるはずがないと思っていました。ですので、今回の報道は最終結果ではない中間報告とはいえ、少しだけ胸をなで下ろすことができました。

しかし、最終的に電子制御の問題ではないとなっても、私には今回の問題はカー・エンジニアにとって重要な課題を提示しているものだと考えています。それは、この中間報告で主要因として挙げられている「運転操作ミス」の問題です。

今回の報道はAT車のシェアが高く、ブレーキとアクセルの2ペダルで操作するクルマに慣れているはずのアメリカでさえ、ブレーキペダルと思ってアクセルペダルを踏み間違えてしまう「運転操作ミス」がかなり発生していることを示していると思います。日本でも、報道されることがないために見過ごされがちですが、この種の事故は後を絶たないのが現状です。

ハイブリッドを開発する際にも、このような新機構のクルマでは、少しの挙動の変化でドライバーの精神状態が揺らぎやすく、少しの「操作ミス」でパニックを起こしてしまう可能性があるという視点で、ドライバーとクルマの間のマン・マシン(人間操作系-機械作動系)インタフェース、表示系、警告音の設計を進めました。

また、今回の調査で重要なデータとして使用されたイベントドライブレコーダ(EDR)も、トヨタ車で最初に全車搭載したクルマはプリウスでした。これはハイブリッドシステムを市場に投入するにあたって、もし不具合が発生したとしても、しっかりとした原因究明と、迅速な品質向上へのフィードバックを行うことが、全く新しい機構を持つクルマを皆様に受け入れてもらうために必要だと考え採用を決めたものです。今回の問題ではEDRがトヨタの主張を裏付けるものとして取り上げられましたが、お客様の操作ミスの証拠データを集めるのが目的ではなく、上記のようにそもそもお客様にご迷惑をおかけしない為に採用したものでしたので、このEDRの活躍について、私は非常に複雑な心境をいだいています。

クルマの制御のこれから

これまでの報道などでは、急加速問題と電子システムの欠陥を関連づけて議論されてきました。私見ですが、急加速問題が電子制御システムの問題まで拡大したのは、電子制御という複雑で擬似的な仕組みに対するアレルギーがこれを呼び水に噴出したものにも思えます。しかし、電子制御が貢献してきたのはハイブリッドを代表とする排ガスや燃費だけではなく、スリップやスピンの防止という安全の部分に対するものも非常に大きなものです。

もちろん電子システムの信頼性確保は最優先なのは間違いないことですが、「操作ミス」の存在などを含めてより安全なクルマを作るためには、私は電子システムをさらに追求していくことが大切だと考えています。何にも代えがたい安全のためには、人の勘違いや認識間違いなどすらもカバーし、操作リカバーや危険回避を行うような自動車側のアシストを、それこそ2ペダルなどの従来の常識すらも再考をするほど徹底的に追求していく必要があるのではないかとも私には思えてなりません。

次世代車解説 プラグインハイブリッド車(PHV) 第3回

さてようやく話が現在にまで辿り着いてきました。今回はプラグインハイブリッド、特にプラグイン・プリウスハイブリッドの特徴についてお話します。

プラグインハイブリットとは「電池を外部電力で充電できるようにしたハイブリッド」です。前々回にも書いた一文ですが、そもそもプラグインハイブリッドの説明は細かい技術的な事柄を除けばこれで十分はずでした。ここですこしだけ言い訳というか、なぜこのような文章を書き連ねたのか説明をさせていただければと思います。

ハイブリッドが受け入れられた理由

私がこのような意見を言える立場となったのはプリウスに搭載されたトヨタ・ハイブリッド・システム(THS)の開発リーダーとなったからなのですが、私のエンジニアとしてのルーツはクリーンエンジン屋としてのものでした。そのエンジン屋出身の私にとって、今の状況…PHVが語られる際に、電池や電気駆動の話題のみが取り沙汰されて、エンジンについて語るものが非常に少ない状況は、大きな不満を抱かせるものです。

今現在、街中でハイブリッド車が走っていて驚く方は極めてまれなことだと思います。そしてこのハイブリッド車のほぼ全てが、前回説明しましたパラレルもしくはシリーズ・パラレルの機構を持ったものです。具体的には特に日本においては、トヨタのTHSかホンダのIMAを搭載したクルマですね。どちらもその特徴はエネルギー密度が電池や水素にくらべ圧倒的に大きいガソリンを燃料とし、その燃焼で大きなトルク、パワーを発揮する内燃エンジンを効率的に有効活用していることにあります。

また、外部電力を使わなくても、内燃エンジンハイブリッドでは、1チャージの航続距離は、電気自動車のEV航続距離の尺度を使うと1000kmを遙かに超えるレベルになります。実際お使いいただく実用燃費でもそれほどのエコ運転に気を遣わなくても1000kmぐらいは走ることができます。我々は走りにおいてはできる限りお客さまが違和感を受けることがなく(正直言いますと、初代のプリウスはお客さまに少し「我慢」していただく走りではありましたが)、かつ給油回数が少ないなどといった今まで以上の利便性を持ったクルマとしてハイブリッドを送り出しました。いまの自動車販売台数の上位にハイブリッド車が並ぶ状況は、我々のこのような姿勢をお客様が受け入れてくださったからだと私は確信しています。

プラグイン・プリウスハイブリットの特徴

では、今日の主題のプラグイン・プリウスハイブリッドについてお話します。プラグイン・プリウスも通常のプリウスのように、エンジンと電気を効率よく利用しているシリーズ・パラレルハイブリッドの特徴を引き継いでいます。下の図は、私が講演等で用いているスライドの1ページを抜き出したものです。

プラグイン・プリウスは電気自動車とは違い、内燃エンジンがあるからこそ、仮に電池の充電ができず空の状態でも、通常のプリウス同様にガソリンを使って走り続けることができます。この特徴は4月に、フランスのストラスブールでの高速道路を使ったロングドライブでも体験・確認しました。

プラグイン・プリウスのコンセプトはその上で、電池をコンセントにつなぎ充電しておけば、その充電エネルギーをクルマの走行に使った量に応じ、ガソリンの消費を削減することができることにあります。日常の買い物などの近場での利用であれば、ガソリンを全く使用せずに利用することもできます。

一方、高速道路を使った長距離走行、登坂時のトラックの追い越し、山道のドライブなど大きなパワーを使う時にはエンジンを起動し、心地よいエンジンサウンドをともなった快適な加速を行うことができます。このケースでは電池パワーアシストが使えますから、エンジン出力を無理矢理挙げる必要はなく、音のレベルを押さえた心地の良いエンジン音の作り込みも期待できます。エンジンと電気駆動の“いいとこ取り”、高く、重く、かさばる電池を少量クールに使うのが我々が目指し皆様に受け入れて頂いたハイブリッドです。エンジンを賢くクールに使うことが、ハイブリッド進化のポイントの一つでした。このクリーンで高効率のエンジンを賢く使う上で、トヨタが選んだTHSハイブリッドは優れた方式との確信を今になって深めています。つまりこれは、先ほど書きました通り、初代プリウスから続く、今までのクルマ以上の利便性を持ったプラスアルファのクルマになっていると確信したからにほかなりません。

未来のクルマ=電気駆動??

いま自動車業界やその周辺はクルマの電気駆動化に向け突き進んでいる、もしくはそのように見受けられるかのように報道されています。それだけがクルマひいては自動車業界が生き残る術なのだといわんばかりです。電気駆動化自体は第一回にも書いた通り、決して新しい考え方ではないのですが、今回は自動車技術者の枠を大きく超えた所で取り沙汰されているのが今までと大きな違いのように感じています。

私が初代プリウス搭載のハイブリッド開発リーダーを拝命したとき、EV担当のある役員から「エンジン屋は間もなく失職するのだから、ハイブリッド開発を担当するようになったのはラッキーと思え」と言われて、私にはカチンときた記憶があります。そんな私がハイブリッドの一般化とクルマの電気駆動化へ期待が高まった現在の道筋をつくることになったのは皮肉なのですが、今思い返すと、そんな人間にハイブリッドが託されたからこそ、今までの先入観を乗り越えて初めての量産化へ進んで行けたのではとも思っています。

エンジンにはまだまだ効率・性能進化の余地があります。ハイブリッドも、またその応用であるプラグインハイブリッドも、内燃エンジンの終焉をもたらすものではありませんし、ましてや内燃エンジンが消え去るまでのショートリリーフではありません。クルマの効率を高める手段がハイブリッドによる電動化であり、またクルマの使用頻度の高い都市内や一般道路でのショートトリップで、外部電力をクールに使おうとの狙いがプラグインハイブリッドです。

どちらのハイブリッドもその用途に応じ、クルマのカテゴリーに応じて並立し、高速長距離など自由な個人、家族の快適な移動、さらには個人の現代人のストレスを発散させるドライブ(もちろん周囲に迷惑をかけない範囲で、安全に)の自由を確保するクルマとして、内燃エンジンも消え去ることなく進化しつづける可能性は極めて高いと予測しています。

エンジン技術とともに電池技術が進化すれば、さらに外部電力エネルギーの利用率を高めて液体燃料の利用比率を下げる、もしくはバイオ燃料利用比率を高める等といった、お客様に負担をかけずにスムーズに実用的な低カーボン化のクルマへの乗り換えをしていただくことができます。このように電気駆動やバッテリーだけではなく、エンジンやその組み合わせであるハイブリッドにも技術革新の余地があるいま、私には将来のサステーナブル自動車技術が絞り込まれなければいけないという段階だとは到底思えません。

お客様目線、マーケット目線、商品としてのあるべき姿を追求し、その上で将来の社会や人類そのものに貢献する実用的な回答を、安易に狭視野ではない広い視点での研究開発を進めていくことによって追い求めていくことを私は期待しています。

次世代車解説 プラグインハイブリッド車(PHV) 第2回

前回はハイブリッド車のざっくりとした歴史を紹介したところで終わってしまいました。今回は、ハイブリッドの機構を簡単にご説明します。プラグインの話だというのにハイブリッドの話が続きますが、これをしっかりと踏まえないと、「プラグイン」という事が何を意味しているかが曖昧になり、EV等も含めた次世代自動車技術を見極める目が霞んでしまうと思いますのでお付き合いください。

ハイブリッドの分類

歴史に触れる中でも一部紹介しましたが、ひとくちにハイブリッドといっても様々なアプローチによるシステムが開発されています。そもそもハイブリッド車というものの定義も、複数のエネルギーを利用して動く車というものですから、エネルギーの発生のさせ方によって無数の種類がありますし、現在乗用車用として実用化されているガソリン・電気のハイブリッドに中でもその動力の合わせ方によって大きく分けて3つのハイブリッドシステムがあります。

ハイブリッドシステムの種類

上の図にある3つが、現在実用化されているハイブリッドです。

シリーズハイブリッド

それぞれを簡単に説明しますと、一番左のシリーズハイブリッドというのは、エンジンで生んだ動力がすべて発電機を通して電気に変換され、充電池を電力の調整に使用して、車の駆動はすべて電気モーターで行うものです。前回私がハイブリッド車の歴史の中で書いた、過去の多くのハイブリッド構想の多くはこのようなものでした。なお北米での販売が間近に迫っている、GMのChevrolet Voltはこのタイプのハイブリッドで、電気自動車の拡張としてのアプローチから生まれたものです。実際にGMもVoltをハイブリッドとは呼ばすにEnlarged Range Electric Vehicle(EREV)つまり走行距離拡張版電気自動車と呼称して、電気自動車の1ジャンルであると説明しています。

また、電気自動車からのアプローチですので、古い時代からシリーズハイブリッドはプラグインであることを前提に開発されてきました。

パラレルハイブリッド

次のパラレルハイブリッドは、シリーズハイブリッドとは逆に従来のエンジンからアプローチしたハイブリッドです。このタイプのハイブリッドは、従来のクルマと同じく基本的にはエンジンの動力がトランスミッションを介してタイヤに機械の動力として伝えられ、それに並列に電気モーターによる駆動が付加されたものとなります。一般販売されたものですと、本田技研のインサイト等に搭載されているHonda Integrated Motor Assist System(IMA)やベンツのSクラスに搭載されているブルーハイブリッドなどがあります。

パラレルハイブリッドは小型でコストが安く済むことが長所であると言われることが多いのですが、エンジンの駆動をダイレクトに利用しますので、従来のクルマとの違和感が少ないなどの長所もあります。

シリーズ・パラレルハイブリッド

最後が私が開発に携わったプリウス等に搭載されているトヨタのTHSを代表とするシリーズ・パラレルハイブリッドです。トヨタの他にはFordのEscape等に搭載されているハイブリッドがこのタイプに分類されます。シリーズタイプのようにエンジンの動力を電力に替える発電機と車を駆動する電気モーターをそれぞれ持ちながら、エンジン動力の一部をクルマの駆動にも使用する上記2つの特性を合わせたタイプとなります。

充電状態やクルマの速度などにあわせて、エンジンを発電機として充電しながら電気自動車として走る、エンジンとモーターをどちらも利用して加速するなど最適なモードをクルマが判断してモードを切り替えて利用できるのが特徴です。

さて、ではプラグインでこれらのハイブリッドがどう変わるのでしょうか?プラグインハイブリッドとは「外部から充電できる」ハイブリッドです。なお、電気自動車についても一部の記事などで「プラグインタイプ」の電気自動車という表現が散見されることがありますが、これは技術的に見ればおかしな表現で、水素燃料電池等の電気を発生させる機構をクルマに積んでいない充電池のみで走る電気自動車(専門的にはバッテリー駆動の電気自動車を意味するBattery Electric Vehicleの頭文字を取ってBEVと呼びます)は、自分で電気を生むことがないので「プラグイン」して外部から電力を貯めなければ動くことはありません。つまりいま電気自動車と呼ばれているクルマは原則「プラグイン」ですし、同じく上にも書きましたがそれの派生形という出自を持つシリーズハイブリッドも基本的に「プラグイン」を前提としたクルマです。

今回はここまで。

次回はプラグインも含めたハイブリッドの今後の可能性、そして私の思いなどを書きたいと思います。

次世代車解説 プラグインハイブリッド車(PHV) 第1回

プラグインハイブリッド車(英語表記であるPlugin Hybrid Vehicle の頭文字を取ってPHVと略されます)は、電池を外部電力で充電できるようにしたハイブリッド車です。

ハイブリッド車の電池を、外部電力で充電するという考え自体は決して新しいものではありません。いや、そもそも多くの技術者にとってハイブリッド車というのは、充電するのが前提の車だったのです。ちょっとその辺を、ハイブリッド車の歴史を紐解きながら、お話していきます。

ハイブリッド・・・電気自動車の代替

ハイブリッド車は過去に電気自動車に注目が集まった時期―内燃機関がその地位を確立する20世紀初頭や、1970年代以降の光化学スモッグに代表される公害を軽減するためのクリーン自動車、またはオイルショック等の受けて高まった石油依存への危機感を緩和する代替エネルギー自動車として期待を集めた時期-に、それと同時に研究開発されていたものでした。

なぜその都度ハイブリッド車も開発されてきたかというと、電気自動車の実用化にむけて何度もその前を立ちはだかってきた壁「電池の性能」を乗り越える技術としてハイブリッド車が捉えられてきたからです。20世紀初頭は言わずもがな、70年代以降もその当時の電池技術では、重くかさばりしかも高価な電池を使用しても、電気自動車に許されたのは非常に短い航続距離でしかありませんでした。

その電池の壁を乗り越えるために考えられたのがハイブリッド技術であり、その発想というのは、電気自動車の電池の搭載量を減らし、それに伴って減少する航続距離を、搭載したエンジン発電機によって充電しながら走ることによって補うという、電気自動車の代替としてのものだったのです。

さて、電気自動車が更なる脚光を浴びたのが、1990年代の初め、アメリカのカリフォルニア州(加州)でZEV(Zero Emission Vehicle)規制という自動車に対する規制が施行されたときでした。これは加州でその当時販売シェアの高かった7社(GM/Ford/Chrysler/Toyota/Nissan/Honda/Mazda)にZEVすなわち電気自動車の販売を義務付けたものです。

トヨタも電気自動車の実用化に必死に取り組んでいましたが、お客様に受け入れていただける性能、価格、信頼性を持ち、継続的に販売していけるだけの収益が挙げられる実用電気自動車開発の見通しは全くありませんでした。そこで、その代替として開発していたのが先ほど上に書いた通りの伝統的なハイブリッド車、つまり電池搭載量を減らし、エンジン発電期を搭載したシリーズタイプ、レンジエクステンダー(航続距離伸張式)ハイブリッドです。

GMなどいくつかのメーカーもトヨタ同様にZEV代替として、このタイプのハイブリッド開発を進めていました。しかし、加州は1993年に、エンジンのついたハイブリッドはZEVとして認めないとの決定を下し、多くの自動車メーカーはこの決定を受けてこのタイプのハイブリッド開発を中止してしまいました。

しかしトヨタはここで、エンジンを使用したハイブリッドがZEVとしては認められなくとも、ハイブリッドの開発を継続する決断をしました。それは、ハイブリッド技術をZEVに対応する為の技術、つまりは電気自動車を補助する為の技術として考えるのではなく、燃費を画期的に改善する為の技術、つまりは将来の石油資源枯渇や地球温暖化問題に取り組むのに必須となる高燃費かつ低CO2排出の車を開発する為の技術として考えたからでした。

プリウス発売・・・充電のいらないハイブリッド

この電気自動車の代替ではないハイブリッドというコンセプト、これこそ当時のZEV代替にこり固まっていた多くのエンジニアにとって発想の転換でした。どの自動車メーカーも取り組まなかった低燃費かつ低CO2で充電の必要のないハイブリッド、この商品化プロジェクトが1997年のプリウスです。

1996proto
プリウス_1996プロトタイプ

しかし、新しいコンセプトというのはなかなかすぐに理解されるものではありません。当時の電気自動車のネガティブなイメージ、つまりは航続距離が短く長く面倒な充電が必要とイメージが全く別のコンセプトで開発されたプリウスにもまとわりついていました。これを払拭するため、プリウスは既存のインフラ(給油スタンド)ですむ、面倒な充電がいらないハイブリッド電気自動車だということを、私も様々な場で説明を行ったものです。

プリウス発売後から現在まで・・・プラグインへの回帰?

ただし、プリウスタイプのハイブリッド(THS)は、電気自動車の代替では無いといっても、その利点を大いに取り入れたものにしましたので、走行中常にエンジンが掛かっているのではなく、回生エネルギーなどによって十分に充電が行われるとエンジンを停止して、その間は電気自動車のように電池からの電気のみで走って無駄なガソリン消費を抑えるよう設計されています。このような電気のみで走るエリアは、電池に蓄えられている電力を監視し、それが多いと自動的に拡大するようになっていますので、仮に外部より充電したりしたばあいには、制御プログラムを全く変更しなくても、最適な走行モードを取るようになっています。なお、アメリカではこの機能を見抜いて、一般のプリウスをプラグインに改造するベンチャービジネスまであらわれています。

プリウスが商品化され世の中に受け入れられていった大きな理由の一つに、電気自動車の幻影から脱した充電の必要のない車としたことが間違いなく寄与しているわけですが、皮肉なことにこのような電気走行モードを備えたプリウスが登場したことで、まずアメリカでプラグインハイブリッドに対する大いなる期待が生まれ、さらにそこから発展して現状のEVブームが巻き起こったよう私は感じています。

しかしながら、搭載する電池を抑えることのできるプラグインハイブリッドですら、電池の容量拡大や高性能化による車両単体のコスト上昇の問題だけでなく、充電ステーションの配備等の社会インフラ整備のコスト負担や必要性などいった、プラグイン化のコストと価格の問題を抱えており。かつ技術的にも、フル充電に近い状態から通常ハイブリッド走行に切り替える電池が少ない状態まで、大量の電気エネルギーを頻繁に出し入れするという過酷な使用法での電池寿命の問題など克服すべき課題は山積しています。

また日本と違い欧州やアメリカでは、その半数以上のクルマが屋外さらには路上に普段の駐車場所を有していますし、固定の駐車場所が確保されていないクルマも多くあります。このようなクルマの現実の使用実態を考慮すれば、もし電気自動車やプラグインハイブリッドが使用する充電ステーションを屋外や路上に設置したとしても、そのステーションの破損や充電ケーブル等の盗難対策なども対策を立てねばなりません。一方比較的駐車環境が整備されている日本でも、マンションなどの集合住宅での受電設備をどのように整備をするか、その負担をどうするかなども普及に向けての大きな課題です。充電施設やインフラの話題が多く新聞紙面を賑わせていますが、さらに安価かつ安全な充電施設の開発が待たれます。

たとえ完全にクリーンな一台のクルマを作り出したとしても、石油資源の枯渇や地球温暖化の問題に寄与することはできません。そのクルマが今のクルマに置き換わり、使われ、普及していってこそ、真の次世代車として諸問題に対して資することができるのです。

ハイブリッド車を世に送り出した一人として、いま自動車開発の最前線に立っている方々には、ブームなどの周囲の声に惑わされる事などなく、いまのクルマの利便性や楽しさを奪うような次世代車ではなく、お客様自らが望んで手にされ、かつポスト石油・温暖化緩和などの大きな要請にも応えられるクルマを、汗と知恵を絞って開発されることを望んでいます。もちろん大変難しい課題ですが、それこそ本当の技術が試される、誇るべきものづくりのチャレンジなのは間違いありません。

少し筆が滑ってしまいましたが、次回はプラグインハイブリッドのもう少し技術的な説明をします。