プリウス開発秘話 「非常事態宣言とナベさんの思い出」

弊社コーディアのホームページを8年振りにリニューアルするタイミングで昨年末から2度目のお休みをしていたブログを再開することにしました。多くの愛読者のご支援に力を頂いていましたが、度重なる自動車会社不正に、ただでさえ不得意な文章を書く意欲を低下させてしまい、ずるずると休載をつづけていました。しかし、まったナシの筈のクリーン&低カーボン車への転換に、黄信号が灯り、それをリードしてきた日本勢にもマーケットをリードするにはパワー不足、その日本自動車エンジニアの叱咤、激励のつもりでブログを再々開することにいたしました。気が向いた時に、更新するつもりでおりますのでご支援よろしくお願いたします。

再開初回のテーマは、プリウス開発秘話シリーズとしてお伝えしてきた初代プリウス開発時のエピソードにすることにしました。タイトルは「非常事態宣言とナベさんの思い出」としました。 

この「非常事態宣言」とのタイトルのブログは、2011年7月に掲載しており、その第2弾となります。(2011年7月7日 コーディアブログ 第52回)

図 非常事態宣言 平成8年(1996年)7月1日発行
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東日本大震災後4ヶ月がたち、福島第1原発大惨事の冷却システムがやっと安定的に動き出した時期、日本にとっての一大有事への対応との対比で、トヨタにとって、また私にとって有事だったプリウス開発での「非常事態」対応について紹介しました。首都圏含め、日本の半分以上に人が住めなくなる可能性もあった有事と比較するのは不相応ですが、政官財(東電トップ)が機能不全を露呈させたあの有事対応との比較を意識した投稿でした。

このブログで紹介した「非常事態宣言」を書いた時期は、1996年7月1日、丁度トヨタの株主総会直後、新役員体制がスタートしたタイミングです。誰も、どこも量産商品としてはやったことのないフルハイブリッド車をそれも、まともに走ったこともないシステム構成で2年のうちに新型車としての発売することを目標に走りだしたものの、当然のことながら次々と重大不具合が発生し、対応の見通しが全くつかない時期でした。
この時の詳しい状況は、この「非常事態宣言」のブログをお読み下さい。

ブログの抜粋
「山のような不具合報告がでるのは当然で想定内でした。しかし想定内とはいえ、エンジン軸から発電機やモーター、車輪にトルクを伝えるインプットシャフトがぼきぼきと折れ、電池が煙をだし、テストコースや技術部構内道路のいたるところで試作車が故障停止、走行中にエンジンを止めたり、かけたりするたびに大きなショックを発生し、さらに燃費は従来車の2倍の目標にはほど遠い状況と、致命的とも思える深刻な不具合の報告の連続には、やはり無謀なクレージープロジェクトとの部長連の言葉が身に染みる状況に思え、このプロジェクトの幕の引き時とそのディシジョンプロセスを頭に浮かべるようになってきました。」と表現しています。 

そんな状況の中で、このハイブリッド・プロジェクト「BR-VF室」と電気駆動系の設計部隊「EV開発部」担当役員となったのが、クラウンのチーフエンジニアだったナベさんこと、渡邉浩之氏でした。この前回の「非常事態宣言」ブログでは、名前までは紹介しませんでしたが、この「非常事態宣言」とそのアクションプランは、そもそもナベさんへの説明用として作成したものでした。ナベさんが新任役員として担当する部署は、「BR-VF室」、「EV開発部」のほか、東富士のFP部、海外サービス部と結構広く、この「非常事態宣言」を説明し、これからを相談させてもらう時間がなかなかとれませんでした。そこで、目をつけたのが東富士出張の新幹線会議です。秘書から、出張日程を聞き出し、三河安城から三島までのこだま号グリーン車の約1時間40分が格好の報告時間、こだまの号のグリーン車はいつもがらがら、人に聞かれる心配もない独占会議室として、詳しい報告をし、対応策の相談に乗って貰いました。さらに三島から富士の裾野にある東富士研究所までのクルマの中では、さらに進めて具体的なプロジェクトマネージの体制や、人員増強についても相談をすることができました。このこだま号の中の1時間40分の報告で、「状況は分かった。このアクションプランを全面的に支援するから、すぐに具体化しよう」との一言が体制立て直しのスタートでした。Cordia Blog_20160810_2
車両チーフエンジニアを中心とする車両開発がトヨタのDNAとして定着しています。しかし、ハイブリッド車プリウスの開発は従来の遣り方をぶっ壊せとスタートしたプロジェクトで、車両チーフエンジニアも車両開発経験のない内山田さん(現トヨタ会長)が指名されていました。彼と私は同期入社の顔見知り、アクションプランは事前に相談していましたが、従来のやり方をぶっ壊せと言われなくとも従来のやりかたでは出来ないことは明かでした。そこで活用したのが、チーフエンジニアを中核に、重大課題毎にリーダーを決め機能横断タスクフォース活動により開発を進めるやり方です。チーフエンジニア経験の豊富なナベさんの後押しももらい、ハイブリッド・リーダーは黒子としての調整役に徹したことも、目標どおり「21世紀に間に合いました!」のキャッチフレーズで生産・販売に漕ぎ着けることができたポイントと思っています。
ナベさんは、入社年次で2年先輩、ハイブリッド担当から離れた後も、また私のリタイア後も、言いたいことを言い、また言われ、相談にのってもらった、ボスというよりも兄貴分でした。トヨタでは、ハイブリッドやEV、燃料電池車開発担当の他、研究部門や環境部門を担当、専務を務められた後、技監として2009年からITS Japanの会長を務められ、自動車のITS活用による衝突安全予防、交通事故死ゼロをめざす政府プロジェクト「SIP 自動運転システム」のプログラムディレクターとして、自動走行の指針作りに取り組んでおられました。
昨年10月ボルドー(フランス)で開催された、ITS世界大会に出張された折に体調を崩され、入院されたとの話を耳にして心配していました。お元気なイメージだったナベさんのお見舞いに行く踏ん切りがつかずいたところ、3月中頃にナベさんから会いたいとの声をかけていただき初代プリウスチームのメンバーとお見舞いに伺ったのが3月25日(金)でした。エキサイティングな経験出会った初代プリウス開発の話、将来自動車への夢を、声が出せない状態の中でいろいろ話しをされ、さらに1月にディレクターとして指針を纏められた「SIP 自動走行システム 推進委員会」資料のコピーを用意され、その内容を熱心に説明していただきました。許可されていた面会時間を大幅にオーバーし、何度も何度も握手をしてお別れしましたが、そのグリップの強さが忘れられません。それが文字通り、兄貴分であり、お互いにトヨタの有事と意識して開発に取り組んだ、二度と巡り会えない同志とのお別れでした。

その時頂いた資料に纏められていた「SIP-adus (automated driving for universal service)」
の目指してきた自動走行の研究開発の、わが国がイニシャティブをとり、世界に貢献すべきとして述べ、世界が未だ大きくフォーカスしていない課題として次の3つを強調されていました。

課題A 自動走行車は、市民の理解と受容性を超える挙動をしてはならない
課題B 自動走行のクルマはヒトのセンシング能力を超えられるか?
課題C 歩行者事故を低減する抜本的対策を実行に移そう
 ~地球規模の課題解決にスピード感が不足~ 
との追記があり、この課題と追記の表現は何事もスピードを追求したナベさんらしいと感じたところです。

平成28年1月21日「SIP 自動走行システム 推進委員会」(第20回)
拡大推進委員会(臨時)資料
http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/iinkai/jidousoukou_22/sankousiryo3.pdf

生涯自動車エンジニアを貫かれ、常に自動車の将来に夢を託された渡邉 浩之さんに合掌、元気なうちはその夢を引き継ぎたいと、ブログ再々回の第1回目としてことのテーマをとりあげました。

またまたカタログ燃費と実燃費の話

私はビジネス週刊誌「週刊ダイアモンド」をときどき購入しているのですが、先日発刊の1月18日号で『エコカー苛烈競争で浮上する知られざる“燃費偽装”問題』との記事が目に飛び込んできました。

一昨年の現代自動車のクルマの燃費がユーザー報告燃費との差が大きいとの訴訟が米国であり大きな話題となった問題や、カタログ燃費とユーザー燃費とのギャップの存在を問題にした記事かと思い、記事を読んでみましたたがそうでありませんでした。記事は今の日本車のカタログ燃費競争を扱ったもので、これを“燃費偽装”というセンセーショナルな見出しで取り扱っていることに愕然としました。

米国での現代自動車の問題は、現代自動車から意図的では無いもののミスで提出するデータを間違えたとの説明がなされており“燃費偽装”と呼ばれても不思議がないものですが、これと定められたルール通りに行われた中で生じるJC08モードカタログ燃費とユーザー平均燃費とのギャップを取り上げて“燃費偽装”と、あたかも不正をおこなっているとの表現には、こうした低燃費車開発に心血を注いできたエンジニアとして強い怒りを覚えます。

本当に“燃費偽装”しているならそれは不正・違反だ

現代自動車の問題は先ほども触れましたが、公式燃費認証を与えた連邦環境保護局(EPA)が、再現試験やさらに現代自動車が公式燃費申請に使った社内試験ラボへの立ち入り検査を行い、現代自身が社内試験の提出値にミスがあったとして修正申請を行いました、

このケースでは現代が該当車両のユーザーに修正分+αの燃料費用補填を続けることで和解が成立しています。故意ではなかったとしても明らかにこれはルール違反であり、厳密に定められた公式燃費試験の燃費値が誤って認定され間違っていたことから、大きな訴訟問題へと発展しました。ユーザーとの和解が成立はしましたが、巨額のペナルティー負担とイメージ低下の影響は大きいようです。繰り返しになりますが、これは“燃費偽装”と呼ばれても仕方の無い不祥事であり、この米国での事件と記事で挙げられている日本のケースは全く異なります。

公式燃費値は、それ決める型式認定申請をしてそれに基づいた認定試験車を作り、厳密に定められた試験法で試験が行われ、その試験結果から決められます。その際、日本、米国、欧州ともに、認可機関がすべて認定/認証車の公式試験を行うわけではありません。その一部のクルマを抜き取りで試験をするのが通例です。

それは毎年数多く発売される新車の認可試験をすべて公的機関で行うとなると、膨大な試験費用と人が必要となるからです。そのため、多くの場合では自動車メーカーが実施する試験結果も申請値として使われますが、その公式試験を行う自動車メーカー内の組織・設備は厳しい監査を受け、また立ち入り検査も行われます。

この段階でルールから外れたクルマや試験条件で試験を行っていれば、これはまさに不正、偽装問題となります。このところ新聞を賑わせている、産地偽装・材料偽装と同様で、公式試験に不正・偽装があれば厳しく糾弾されるべきです。もし意図した不正・偽装が発覚すれば、頭を下げる程度で終わる話ではなく、法律的にもさらに半社会的な企業としてその企業姿勢も問われ、イメージ失墜どころの問題では無いでしょう。

燃費ギャップの問題提起はあるが不正とは全く別の議論

地球環境問題やガソリン価格の高騰から低燃費車への関心が高まり、この表示手段としての公式燃費、カタログ燃費競争がエスカレートしているのは誰もが知る事でしょう。その火付け役がハイブリッド車プリウスであったことも事実で、この開発を担当した一人としてそれ自体は誇りに思っています。

一方でこのプリウスが、カタログ燃費と平均ユーザー燃費とのギャップ問題を引き起こしたこともその当事者の一人として、その販売当時から自覚していました。米国では2008年に公式燃費の試験法・算定法が改訂されましたが、この改訂の背景にあったのがプリウスのユーザー燃費とそれまでの公式燃費、いわゆるカタログ燃費とのギャップ問題です。

しかしこの改訂のときも、決してプリウスの公式燃費値が不正・偽装を疑われた訳ではありません。私にはこの問題でEPAに呼び出されたことも、監査をうけたことも、ユーザーから訴えられた記憶もありません。話題の低燃費車であったので、競合メーカーから燃費試験を行う際の設定方法などについての問い合わせも何度か受けましたが、米国、欧州での認可当局、試験機関での試験法、基準を公開しており、公式燃費値について疑われたこともありません。

この記事で取り上げられている、メーカーのドライバーが運転したときの燃費値と認可当局、公式試験機関のドライバーが運転したときの燃費値に差がある話はときどき耳にします。しかし、これまた不正な運転を行うからでは決してなく、日本メーカーの試験ドライバーのスキルの高さを証明する話です。米国、欧州、日本、いずれの公式燃費試験も厳密な実施基準に則って行われており、それから外れるとその試験は無効、再試験となってしまいます。

無効試験となるとまた試験を一からやり直しとなり、その再試験の日程によっては、生産、販売にまで大きな影響を及ぼしかねません。車速一つをとっても、上下狭い車速幅が指定されており、それを超えると無効となってしまいます。

記事には記者がシャシーダイナモ試験をしたような表現がありますが、初めてのドライバーが無効にならないように車速を守って運転することはほぼ不可能です。試験結果は示されていませんでしたが、間違いなく専門ドライバーが同じ試験で出す燃費値よりははるかに悪かったはずです。

日本メーカーには、狭い車速バンドの中を車速維持のための余分な加減速運転は行わず、その車速バンドの中で滑らかな燃費の良い運転をするほれぼれとするような高いスキルを持った専門ドライバーが多いことは事実です。彼らは、経験は当然として、トレーニングにトレーニングを積み、試験に集中する高い専門スキルを持っており、その運転、試験技量には強い誇りを持っています。

アメリカでも昨年、EPAの燃費試験担当官が、このようなメーカードライバーが出す試験燃費がよく出過ぎると嘆いている記事があり、このブログでも取り上げました
http://www.autonews.com/article/20131004/OEM11/131009914/epa-says-automakers-test-drivers-can-be-too-good#axzz2rBe0LDYR

ただしこの記事も不正・偽装を非難している訳ではありません。厳密に決められている試験に沿って、さらにその狭い定められた車速バンドの中でスムースな運転をすることにより良い燃費値を出す、メーカーの専門ドライバーのスキルに驚嘆させられたとの話です。

アメリカでもEPAのラボで抜き取り試験が行われ、その試験結果も公式値として使われます。EPAラボに持ち込まれないことが決まると、エンジニアとしてまずほっとするというのが正直な所で、さらに持ち込みが決まった場合も、デトロイト郊外のアナーバーにあるEPAラボで試験を受けますが、何基かあるどのシャシーダイナモで試験されるのか、担当ドライバーは誰になるのかで一喜一憂したものでした。

経験者として正直にお伝えしますが、割り当てられたドライバーやシャシー台によって結果は確かに異なります。ただし一方で毎年、自動車メーカーが燃費チェック用のクルマを供出して、EPAのシャシーダイナモ・分析計での燃費チェックを行い、各社持ち回りで自分達が公式燃費試験を行うシャシーダイナモ・分析計での燃費値との差をみて調整するというクロスチェックを行い、その精度管理に最新の注意を払っていました。

燃費を「事前に」完璧に測定する事は不可能

こうした厳密に定められた試験法の中ですら、燃費値に違いが出るわけですから、様々な走行条件、環境条件で使われるユーザー燃費に大きな差があることは当たり前です。この記事にあるe-燃費もあくまでもユーザーが報告した平均燃費です。この報告値にも大きなばらつきがあり、燃費チャンピオンのデータと最低燃費のデータには2倍以上の差が出るケースもあります。

ユーザー燃費の観点では大きな違いを見せるのが北米のユーザー燃費で、冬には零下20℃を下回るウイスコンシンやミシガン北部の冬のユーザー燃費とアリゾナ、ハワイのユーザー燃費には当然ですが大きな差が出ます。さらに夏の路上では50℃を超えるネバダやアリゾナと、サンフランシスコ付近のベイエリアでの夏の燃費にも違いがあります。

日本も北海道・沖縄でのユーザー燃費値には大きな差があるのは当然です。さらに、アップダウンの多い地区での運転と、平坦な地区で主に使うケースでも大きな差があり、これに加えてもちろんクルマの走らせ方、タイヤの空気圧、荷物の重量、乗車人数、さらに加速の仕方によっても実走行燃費は様々です。

このブログでもユーザーの燃費をあくまで平均燃費で論じているのも、この燃費の大きなばらつきがあるためです。この大きくばらつくユーザー燃費の平均値を「事前に」どのクルマでも公平に算出する試験法を作りだすことは、科学技術的にも不可能だと思います。

そのユーザー平均燃費に近いと言われる米国EPAの公式燃費は、排ガスのクリーン度が公式試験値よりも厳しい走行で大きく悪化しないことをチェックする急加速・高速モード走行など、もともとは排ガスチェック用に作られたそれまで公式燃費モード以外のオフモードと呼ぶさまざまな限界モードの燃費値を洗いざらい使って補正すると燃費値を低めに補正することができることからこの補正を行っています。

この補正は科学的な根拠があって決めたものではありません。従来ある様々な排気ガスチェックモードの値を使って、無理やり燃費値が悪くなるような補正を行ってユーザー燃費値に近づけていると言ったほうが当たっていると思います。

この記事に書かれている、国連が進めているこの自動車排ガス、燃費試験の国際基準調和、統一試験法作成作業も、その目標をユーザー平均燃費に近づける為に行っているものではありえません。もちろん、日本だけではなく、欧州、米国、アジアと各地域での走行環境調査を行い、その走行実態に合わせた走行パターンとなっていますが、夏、冬、登降坂、カーブなどまで加味したものではありません。

図は米国EPAの燃費サイトにのっていたプリウスとフォード・フュージョンハイブリッドの公式燃費とEPAがアンケート調査しているユーザー燃費データを比較したものです。

図1

カタログ燃費に反映されない低燃費技術もある

私にとって低燃費技術の開発の目標は、環境条件、季節、地域、走行パターン、加減速度などによってさまざまに変わるユーザーに対して改善した実走行燃費を提供する事でした。少なくとも自分は、決してカタログ燃費に特化しての低燃費車は目指してこなかったと胸を張って断言できます。

夏のエアコン運転でもエンジン停止をすること、モーター走行頻度を高めるための電動エアコンの採用、車両の断熱、シートヒーター、三代目プリウスで採用したヒーター用エンジン冷却水の排熱回収器などは、どれもカタログ燃費には反映されないユーザー燃費向上のための技術です。

カタログ燃費と言われるように、どの国どの地域でも公式試験にのっとった試験法で求められた燃費値が公式燃費とされ、この公式燃費のみが正式にクルマの広報・宣伝・販売活動として使用できます。

確かにいかにこのカタログ燃費を高めることができるかを激しい競争を行ってきていることも事実です。しかし、その一方で、各メーカーともユーザー実走行燃費改善にも努力をしています。

最近のニュース等でも紹介されている、エコラン運転中でもエアコンを効かせる蓄冷方式のエアコンなどもその一例です。この部分では、日本の自動車メーカー、部品メーカーが欧米メーカー以上に知恵をだし、新技術を提案しています。これらの努力は燃費値では貢献できないかもしれませんが、最終的にユーザー平均燃費にその実際の効果が問われることになります。

販売後のユーザー燃費の収集・解析は可能

現在、日本、欧州そして米国と自動車による石油燃料消費総量が減少に向かっています。ハイブリッドだけとは言いませんが、着実に低燃費車が普及していることの表れです。

この記事の内容は問題ですが、そろそろカタログ燃費とユーザー平均燃費とのギャップ問題に決着をつける時期に来ているのは確かでしょう。ただし、公式試験をどのようにいじろうが、ギャップ問題は発生します。上に挙げた図のように使い方、走り方によって燃費は大きくばらつきます。さらに、今のkm/Lの表記では、さらに低燃費車になればなるほど燃費値の乖離は大きくなってしまいます。

一つの公式試験モード、条件でユーザー平均燃費を近似することは無理があります。あくまでも燃費比較の尺度として国際基準調和の新試験法を使い、そのあとは実際のユーザー燃費値を集めたビッグデータとしての解析を加え、その結果をEPAのように公表していく方向が一つの方向と思います。

また今のクルマでは、エンジン制御からも正確な燃費計測を行っています。初代プリウスを出した際には珍しかった燃費表示はあたりまえの機能となりました。さらにクルマごとに、燃費と様々な走行データ、走行パターン、トリップ解析を車両コンピューターで行うことも難しくはありません。

個々のクルマ、ユーザーごとの燃費診断もやろうとすればやれます。ナビ装着もあたりまえの世の中ですので、GPSデータ付でそのデータを外部に送り解析することは、ITS、スマホ普及を考えるとそれほど先の話ではありません。

ユーザーごとの燃費診断から、クルマの故障把握もできるはずです。排気のクリーン度、燃費を悪化させる故障、整備不良を減らすだけでも環境保全への効果は大きいと思います。

燃費が大切で低CO2を目指すのは社会的要請ではありますが、個人的には低燃費運転だけを推奨するつもりはありません。時には気分よく、思い切った加速をやってみてみたくなるクルマを作るのも我々の役割で、その一回の加速で実燃費がどれくらい悪化するかの見える化も実燃費向上につながるのではと思っています。

私自身も、燃費悪化は判っているものの、ときには思い切った加速、カーブの多い山道でコーナリング減速からのラインに沿った加速などを楽しんでいます。

トヨタハイブリッド車累計販売600万と電動自動車の未来

昨日、私にとってうれしいニュースが飛び込んできました。すでに新聞で報道されているように、トヨタハイブリッド車の世界累計販売台数が昨年の12月末で600万台を突破したとのニュースです。以前のブログで、昨年3月末に達成した累計販売台数500万台記念の現役、OB含めたハイブリッド開発の仲間たちのパーティーを取り上げましたが、次の100万台まで9カ月、ピッチをさらに速めての達成です。正確な数字は掴んでいませんが、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車といった電動自動車の世界累計販売台数もまた1,000万台突破もまもなくと思います。

トヨタのハイブリッド車販売のスタートは1997年12月発売の「プリウス」ではなく、その年8月に発売を開始したミニバス「コースターハイブリッド」ですが、これは少量販売にとどまり短い期間で生産も停止していますので、この600万台のうち半数以上を占める「プリウス」がリードしてきたと言っても良いでしょう。

図1
図は1997年からのトヨタハイブリッド車の販売経過です。

1997年のわずか300台程度からスタートし、100万台までに118カ月、約10年かかりましたが、次の200万台からは各100万台増加に27、18、14、11ヶ月とピッチを速め、昨年3月末に到達した500万台から600万台まではわずか9ヶ月で到達しています。お買い上げいただいた全部のクルマが生き残っている訳ではありませんが、このクルマが自動車低CO2の牽引役を果たしていると思うとエンジニア冥利につきます。

電動化に先行する日本、海外でもやってくる

ただし、日本ではハイブリッドやEVなどの電動自動車販売シェアが20%を越えましたが、アメリカでは今年も昨年に続き販売新記録となったもののまだまだ3.84%のシェアにしかすぎません。

今、デトロイトで北米自動車ショーが開催されていますが、ロイター通信の論調は「エコよりもパワー」に回帰かとの見出しで、フォードF150、GMシルベラードといった販売が好調な大型ピックアップトラックの新型車をとりあげています。

中身をよく見ると、その大型ピックアップトラックもダウンサイジング過給、軽量化、アイドルストップの採用といった低燃費メニューが並び「エコ」はあたりまえになっており、その上でカウボーイハットが似合うアメリカのガラパゴスカーの大型ピックアップですら低燃費が社会のまたユーザーのアピールポイントとなってきており、「エコよりパワー」とは反対に着実に燃費意識が定着してきた証拠のように思います。

中国も新車販売がとうとう2000万台を突破し、世界全体でみると自動車販売はさらに拡大を続け、保有台数が増加しています。

こうした状況では、トヨタハイブリッド車累計販売600万台到達、世界の電動車両累計販売1,000万台到達といって浮かれている訳にはいきません。自動車の走行でのCO2排出にまず歯止めをかけるには、どんなタイプであれ自動車の電動化を加速させる必要があります。

トヨタのハイブリッド車を販売している国は80ヶ国に拡大していますが、国別シェア、台数でみるとまだまだです。さらに新興国では廉価な小型大衆車クラスの電動化もまた求められています。そのためにも、電動化部品および車両の現地化も必要です。

ハイブリッド、EV、燃料自動車はライバルでは無い

昨日、お台場の東京ビッグサイトで開催されている「カーエレクトロニクス技術展」「EV・HEV駆動システム技術展」を見てきました。日本の自動車電動化を支える部品技術、材料技術、計測技術、生産技術各社がブースを出していましたが、その広がりと熱気が大変印象的でした。

一般の見学者が多い、他の環境展やスマート何とやら展とは違い、実際にモノ造り、ビジネスにかかわる専門家が多い印象で、各ブースで熱心な商談、営業活動が行われ、また中国、韓国他、海外の参加者も目につきました。

この17年、トヨタハイブリッド車累計600万台がけん引役を務めました。自動車電動化を支える日本の部品、材料、計測機、開発ツール、生産機械がここまでに広がってきたことに口火を切る役割を務められたことを、少し自慢がしたくなりこのブログに取り上げました。

もちろん、感慨に浸り立ち止まっていてはこの激烈なグローバル次世代自動車競争を日本勢が勝ち抜き、生き抜いていくことはできません。

巷では、その発信源がどこかは判りませんが、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、さらに水素燃料電池自動車をあたかもコンペティター関係にあるかのように対比、オン/オフ比較して語られているように思います。

さらにハイブリッド自動車と昨今の欧州勢のアプローチ、直噴過給ダウンサイジング、デュアルクラッチ多段変速機、アイドルストップ、気筒停止の低燃費車両を、これまたコンペティター関係として対比する論評を見かけます。そのあげくに、ハイブリッドは日本のガラカ―?などとのまで言われたこともあります。これはミスリード、不本意です。

電動化が将来自動車のコアなのは間違いない

クルマを動かすエネルギーの全部か、一部かは別としてエネルギーの貯蔵源を有効につかって高効率、低CO2を目指す目的は、ハイブリッドも、プラグインハイブリッドも、さらに電気自動車も水素燃料電池自動車も変わりはなくクルマの電動化がコア技術です。使われている技術分野も共通分が多く、そのモーター、インバーター、さらに電池の技術進化、低コスト化が進むといずれもさらにCO2排出を減らすことができます。その手段が電動化です。

またハイブリッドの定義はクルマを直接電気モーターで駆動するパスを持つクルマとなっていますが、ナビもオーディオもインパネ表示も、クルマを動かすための様々な制御もエンジン発電発生するか、充電電池から取り出すかは別としてクルマを動かすために消費しているエネルギーです。このすべてのクルマで消費するエネルギーの効率化を図るのが低燃費のアプローチで、これもハイブリッドでもノンハイブリッドであろうが変わりはありません。できる限りの減速エネルギー回生を行い、そのエネルギーを使ってエンジン停止中の補機、制御系を動かし低燃費化を図る部分が、強いて言うとノンプラグイン車とハイブリッドの違いです。

低燃費車の標準メニューとなってきているアイドルストップでは、その領域を拡大していくと軽自動車の低燃費車競争で競いあっているように、クルマが完全停止する前からエンジンを停止し低燃費効果の拡大が図りたくなります。停車中でもエンジン停止を行うようになると、パワステ油圧、ブレーキ油圧など従来はエンジン回転で駆動していた補機類のエネルギー源確保が困難になりパワステも、ブレーキ油圧発生、さらに夏のエアコン運転、冬のヒーター熱源のエンジン冷却水もまた電動化がやりたくなります。

こうした補機類の電気駆動もまたどんどん進んでいます。上級車や重量車ではこうした補機駆動のエネルギーもばかにならず、42V~48Vのマイルドハイブリッドがやりたくなります。マイルドまでいかなくとも、スズキのエネチャージ、日産ノート、マツダスカイアクティブも12V鉛電池の他に小さなリチウムイオン電池、キャパシタ―を使い、エンジンベルト駆動ですが減速時のエネルギー回収を行っています。これまた自動車の電動化です。

展示会でも日本各社の様々なタイプの電動化に向けた部品、材料、開発のためのツール、計測機がこれでもかというほど展示されていました。国内マーケットで低燃費自動車開発を競いあり、その部品、材料、計測ツール、開発ツール、さらにその生産技術開発が活発になり、展示会場で感じた熱気をさらに高め、その熱気のなかで次をになう人材が育っていけば次の700万台、1000万、2000万とさらに電動化車両の普及拡大を日本勢がリードできます。さらに、その低燃費車、部品、材料技術のグローバル展開を進めることが日本自動車産業の生きる道、この分野、この技術、この人材で地球市民として日本が貢献していくことを願っています。

IPCC5次レポートと将来自動車の低CO2

IPCC5次レポートが順次公表中
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、2007年の4次レポートの次として5次レポートのまとめをおこなっています。IPCCには、パネル議長(パチューリ氏:インド)のもと①第1作業部会(自然科学的根拠)②第2作業部会(影響・適応・脆弱性)③第3作業
会(気候変動の緩和)と国別の温暖化ガス排出データーベースの算出方法をまとめ、管理する温暖化ガスインベントリー・タスクフォースの4つの専門家グループが研究のとりまとめをおこなっています。
環境省HP: http://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/index.html
気象庁HP: http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/index.html

IPCCは国際連合環境計画(UNEP)と国際連合の専門機関である世界気象気候(WMO)が共同で1988年に気候変動とその対策研究の機関として設置した国際機関です。1990年に発行した第1次評価報告書から数えて今回が5回目、昨年9月の第1作業部会の評価報告書を皮切りに、第2作業部会、第3作業部会の評価報告書が発表され、今年の10月にはコペンハーゲンでのIPCC総会で総合レポートは発表される予定です。4月13日ベルリンで開かれたIPCC総会で発表された緩和策をまとめる第3作業部会報告書では、政策決定者向け要約が承認・公表されています。各国の政策執行に強制力をもつものではありませんが、このレポートをベースとして緩和に向けての国際条約がCOP(気候変動枠組み条約締結国会議)で議論されますので、そのとり纏めも政治色が入り紛糾したようです。

IPCC 1次レポートが後押ししたプリウス・ハイブリッドの開発
ハイブリッドプリウスの開発も、この1990年に発行されたIPCC第1次レポートの影響を受けスタートしたと言っても良いと思います。この第1次レポートを受けて1992年6月にブラジル、リオで開催された地球環境サミット(環境と開発に関する国際連合会議:UNCED)で採択したのが地球温暖化問題に対する国際的な取り組みを約束する条約、国連気候変動枠組み条約です。この採択に触発され、低カーボンを目指す21世紀の自動車のスタディープロジェクト、社内コードG21をスタートさせたのがハイブリッド車プリウスにつながりました。

トヨタハイブリッド累計販売600万台は通過点、低CO2車普及が急務
しかし、5次レポートにもあるように、世界全体の気候変動緩和への取り組みは遅々として進まず、当時よりもさらに影響が顕在化し、このままでは今世紀末には平均気温として4度以上の上昇となると予測しています。現在の1度上昇程度でも、大きな気候変動を招いていますので、4度上昇の影響ははかりしれません。もちろん自動車だけの問題ではありませんが、主要な排出源の一つである自動車からの排出低減、すなわち低燃費自動車の普及をさらに加速させる必要があります。トヨタ・ハイブリッド車累計600万台達成と浮かれているわけには行きません。もちろん、ハイブリッドを含め、いずれは化石燃料を使い続けることはできません。しかし、電気自動車も水素燃料電池自動車も、充電電力の発電に、また水素の製造過程では、風力、太陽光、水力などリニューアブル発電を使わない限りはゼロCO2にはなりません。また、自動車部品の材料採掘、生成、製造過程、さらに自動車の生産過程から廃車までのCO2も考慮にいれその削減を計る必要があります。

最初は10-15モード燃費2倍がやっと、いまなら実走行燃費3倍が目標?
もちろん、ゼロCO2自動車を目指して研究開発に力を注ぐことは必要ですが、今の最重要テーマは内燃エンジン車の実用的な低CO2車をさらに進化させ、その普及を加速させることです。ハイブリッドはその実用低燃費技術の一つです。プリウスは当初は10-15モードでの燃費2倍がやっとでしたが、描いていいた目標は当時も実走行燃費2倍でした。いまではそれにあと一歩まで迫っていると思います。ハイブリッド用エンジンの最高熱効率も初代の34%から、3代目プリウスで38%、40%超えは目の前です。モーター発電機の効率も初代プリウスから現在までに大きく向上しています。電池も当時のニッケル水素円筒電池に比べ最新のリチウム電池では、軽量、コンパクトの上に充放電効率が向上し、さらに回生協調ブレーキの進化と合わせ回生エネルギー量を大きく増加させることみ期待できます。エンジン熱効率、モーター発電機効率、電池の充放電効率を高め、伝達効率を改善し、様々な損失を減らし、さらに車両軽量化、空力改善も加えていくと実走行燃費3倍、燃料消費1/3もあながち夢ではないのではと現役の連中をけしかけています。燃費3倍でも、削減率では67%程度、それも走行過程だけの削減率ですが、ここまでくるとクルマの一生で比較しても今の電気自動車よりも低いCO2排出になるはずです。

日本の実用低燃費技術、低CO2技術を世界に
IPCC5次レポートによると、各セクターともこの程度の削減率では足りず、またCO2削減の国際合意が遅れれば遅れるほど、後々の削減率を高める必要があり、場合によっては排出量を上回る削減、大気中のCO2を回収して固定化することまでシナリオに入り初めています。しかし、やれることを着実にやることが肝要、その意味ではクルマの低燃費化は、ハイブリッド技術の採用まで視野に入れて迫ってきたコンベ車(従来エンジン車)を含め、メニューはまだまだあると思います。さらに、モータリゼーションが進んできている発展途上国への低燃費技術の移転もまた、われわれの責務です。

自動車セクター以外では、電力のCO2が気掛かりです。3.11前は、ハイブリッドの先に低CO2電力での夜間充電を前提にプラグインHV普及のシナリオを描いていましたが、このシナリオが崩れてしまいました。IPCC5次レポートへも3.11福島第1事故は影響を及ぼしたようで、原子力のリスクに言及しています。リニューアブルだけで乗り切れないことは明らかで、これまた先が見えないCO2固定、貯蔵(CCS)をプライオリティの高いシナリオに入れてきました。いずれにしても、すこしでも具体的な低CO2に向かって知恵を出すのが日本の役割です。

IPCC第38回総会と自動車の低CO2

横浜でIPCC第38回総会開催中
今週の25日から横浜市パシフィコ横浜会議センターで、気候変動の現状分析と対応策を話し合う、IPCC第38回総会が開催されています。IPCCは国連環境計画(UNEP)、世界気象機関(WMO)により、1988年に世界の気象学者と環境研究者、政府機関の環境政策スタッフを集めて設立した政府間機関です。
人間活動で排出される温暖化ガスにより引き起こされていると言われる地球規模の気候変動に関する科学的な最新情報をまとめ、各国にその実情と将来予測、緩和にむけての政策提言をおこなう役割です。定期的に気候変動に関する多くの専門家の研究と分析をまとめて報告書を発行、今年は2007年の4次報告書に次ぐ第5次「評価報告書」発行を予定しています。
この活動を通じてIPCCは2007年度にアメリカのクリントン政権時代の副大統領ゴア氏とともにノーベル平和賞を受賞しています。代表として賞を受け取ったのが、現IPCC議長のパチューリ氏です。

生態系、経済社会への影響と適応策が提示される?
今回の総会では、温暖化ガスの増加がもたらす生態系、社会、経済社会への影響及び適応策について評価を行う第2作業部会の活動報告を予定しており、最終日にはこれまでの活動を纏めた評価報告書を採択し発表することになっています。
2007年の第4次評価報告書としての提言に基づき、国際社会として温暖化ガスによる地球平均気温の上昇を2℃以下に抑制するとの目標に合意していましたが、温室効果ガス排出削減への取り組み目標を決める国際条約をなかなか纏めあげることができずにいます。
(国際条約を決めるには通称COP:気候変動枠組条約締結国会合)

地球平均気温上昇2℃以内に抑制は絶望的
今回のIPCC総会を前に、パチューリ議長は2℃までの抑制は絶望的であり、このまま増加が続くと今世紀末には平均気温が最大4.8℃上昇するとして、経済損失が大きいだけでなく、人命や生態系への影響が甚大と警告しています。さらに、「何もしないことのつけは非常に大きい」と各国が早急に温室効果ガス排出削減に取り組むことを呼びかけました。
日本では福島第1原発事故の影響で原発がほぼ停止状態に追い込まれ、削減どころか1990年比でも増加する状況に追い込まれています。また、中国、インドなど発展途上国の経済急成長で石炭、石油、天然ガスの消費は急増し、温室効果ガスの代表である二酸化炭素(CO2)の大気中濃度が、産業革命前の280ppmから昨年とうとう400ppmの大台を突破してしまいました。

自動車からのCO2排出
自動車もCO2排出の主役の一つです。ハイブリッド開発に取り組んだのも画期的な低燃費自動車を普及させ、CO2排出の寄与度を下げることでした。日本ではハイブリッド車の比率が17%に達し、従来車の低燃費化も加速、日本の燃料消費総量が減少に転じています。アメリカでのハイブリッド比率はまだ3.8%台とわずかですが、低燃費の流れは強まり石油実需が減少に転じたようです。一方、三度目の正直だったはずの電気自動車は、またもやそのブームは去りかけています。電気自動車の走行中ゼロエミッションには意味はなく、温室効果ガス削減が目的なら発電時のCO2、さらに自動車製造時、電池製造時、配電ロス、充電効率、配車時のCO2を含めて評価すべきです。しかし、この議論の前にクルマとしての基本機能、性能不足で、主役としては役不足、ニッチのマーケットではCO2削減への期待も萎んでしまいそうです。その替わりか、これまた1990年代後半のデジャビュのように、水素燃料電池車(FCEV)がクローズアップしてきました。これまた、世界の自動車から排出するCO2削減の主役となるには克服できるかどうか判らない課題が山積しています。 その将来は水素燃料電池車の実用化に人生をかける気概で取り組んでいるエンジニア達にかかっていますが、簡単ではありません。

実用燃費3倍へのチャレンジに期待
一方、このハイブリッド車、低燃費車の流れにも変化の兆候が現れてきました。エコ、エコのかけ声ばかりで、何かエコ疲れが見えてきたのではと心配しています。エコとエコは気にしない派の二極分化が進み始めているように思います。21世紀はエコカーの時代、その21世紀に間に合わせましたと言い歩いた当事者ですが、未だにカタログ燃費の数字を競い合うエコの押し売りでは、次のステップの普及拡大にはつながらない気がしています。
もちろん、燃費向上、低CO2の足踏みは許されませんし、軽量化、低空力損失などクルマとしての低燃費、エンジンの高効率化、電気駆動系の高効率化、電池の充放電効率向上もまだまだ余地は残っています。以前のブログで紹介したように、ハイブリッド開発の燃費向上目標はプリウス開発ストーリーで紹介されている燃費2倍ではなく燃費3倍でした。
カタログ燃費だけの目標ではしょうがありませんが、今なら当時のカローラ比として実走行燃費3倍は無謀なチャレンジ目標ではないように思います。

その上で、普通に走ると燃費3倍のエコ、しかし時には郊外で気持ちの良いエンジンサウンドを響かせながら伸びのある加速も両立させたクルマが目指す方向です。セダン、ステーションワゴン、クロスオーバー、ミニバン、スポーツクーペ、カテゴリーもそのデザインも好みは人それぞれ、エコだけではなく、それぞれの好みのジャンルでサプライズを感じ保有したくなるクルマが実質エコ拡大を牽引するように思います。マーケットが盛り上がり、こうしたクルマが古い燃費の悪いクルマに置き換わっていってCO2削減の実効を高めることができます。

販価の制約は大きいですが、発展途上国へもこうしたクルマを普及させていくことがグローバル自動車としてのCO2排出削減への貢献です。

COPでの国際合意に期待するより、技術イノベーション
今回のIPCC 総会での提言が次のCOPにどのように反映するかは判りません。グローバルな温室効果ガス削減への取り組みは待ったなしですが、これは国際政治で決まること、多くを期待してもしょうがないことは過去のCOPの歴史が物語っています。

それでも手を拱いているわけにはいきません。クルマだけではありませんが、研究者、エンジニアがやれることはまだまだあります。日本の環境、省エネ技術をさらに進化させ、エコと商品魅力の両立、販価効果を高めていくことがエコイノベーションです。
45年のクルマ屋の目から見て、今の世界のクルマの中でエコとクルマの魅力を両立させ、サプライズを感じ保有したくなるクルマは残念ながらありません。終の棲家ならぬ、免許証の返上前にこうした終のクルマに巡り会いたいものです。

トヨタ・アクアと東北復興、さらに日本の将来エネルギー

しっかりとオープンに議論してほしい原発再稼働問題

3.11から3年が経過しました。連日取り上げていた、新聞報道やテレビの三年経過した被災地の今に見入っていました。瓦礫の山こそ減ったようですが、なにか復興のスピードが遅いように思えてなりません。さらに、福島第一原発事故が大きく復興に陰をさしているようで、福島第一原発事故の放射能汚染で未だに自宅に戻れず避難している方が10万人強いらっしゃいます、この解決なくして本当の意味での復興はありませんし、日本の次もないと感じました。

原発問題については、何度かこのブログでも取り上げてきました。お亡くなりになった福一の吉田所長を主役とした門田隆将さんの“死の淵を見た男”、当時の原発事故を巡る福一現場、東電本社、イラ管さんが東日本消滅まで頭に浮かべてのイライラぶりから国際的な動きまで取り上げた船橋洋一さんの“カウントダウン・メルトダウン”など、さまざまな著作物、様々な事故調査報告書、さらに原発導入の歴史から原子力むら形成の経緯などの資料もあさりまくって読んでみました。

また機会があり、中電浜岡、東電福島第二も実際に見学させてもらい、東電、中電、関電、北電の方々、さらに何人かの原子力工学の研究者、大学教授の話も聞かせてもらいました。科学技術、工学からは、このブログで紹介した『想定外を想定する未然防止』だと当たり前と考える全電源喪失ケース、地震国日本での津波波高の最悪予測に目、口、耳を閉ざしてしまった『原子力神話』に、大きな怒りを覚えました。変えてはいけない最悪ケース、最悪条件をギブンとして、経済原理にのった対応策を考え出すのがエンジニアの役割です。安全保障条件を経済性とのトレードオフにしてはいけないことは科学技術・工学者としての初歩の初歩と教え込まれ、かつやってきました。今議論されている再稼働議論も、決して以前の『原子力神話』の状況に戻してはなりません。オープン、透明、我慢強く、公正な議論が必要です。

ものづくりの日本の将来は

これまでのブログで自分のポジションを述べているように、現地現物での確認、さまざまな情報の調査、分析を行ったうえでも私自身は原発再稼働は避けて通れない道と考えています。もちろん、日本科学技術、工学の英知を結集した上での安全確保の担保が前提です。その理由は原発なしでの不都合な真実がどんどん明らかになってきていると感ずるからです。まず、気候変動問題です。

環境技術で世界をリードしてきたはずですが、原発停止による化石燃料発電シフトにより日本が排出するCO2は大きく増えています。太陽光発電は急増していますが、それでも役不足であることは明らかで、そのうえ日本の立地条件からも風力発電にも多くは期待できず、地熱、小水力活用を含めても日本の電力供給をリニューアブル発電でまかなうことには無理があります。一方、安全性と経済性をトレードさせてはいけませんが、東日本震災からの復興、日本の成長のためにも国際競争力を維持できる価格のエネルギー供給が必要不可欠です。3.11後、エネルギー供給のほとんどが化石燃料、自動車など製品輸出でカバーできないほど化石燃料輸入が増加し、経常収支すら赤字に転落しかかっています。その電力価格は国際競争力を損なうほど高騰しています。

久しぶりの円安で自動車産業の経営は好転していますが、ここでの稼ぎに陰りがでると一大事、稼ぎ分が目減りし定常的な経常赤字が続くと悪い円安が心配になります。科学技術立国を支える日本の生命線である研究開発活動を活発化させるためにも、経済成長とそのための安いエネルギー供給が不可欠です。さらに現代の農業、漁業も化石エネルギーに大きく依存する現状では、国民生活の安定のためにもエネルギー価格の高騰、悪い円安、さらに日本経済のシュリンクにつながる稼げない状況での最悪の円高は願い下げです。

福島第二原発でほとんど無傷の原発建屋と所内の連日の復旧作業を見学し、さらにアウトライズ地震津波への備えまで、カウントダウン・メルトダウンで3.11当時の福二原発の危機一髪の現場で陣頭指揮を執られたで増田所長に説明いただきました。最後に第二原発再稼働の可能性について質問させてもらいましたが、増田所長からは「復旧工事、安全対策が進んでも避難している方々がすべてお帰りにならない限りは、決して再稼働を口にすることはありません」とのコメントをいただきました。浅はかな質問が恥ずかしくなりましたが、すでに暗くなってからの帰路、避難地区の真っ暗な住宅地、国道脇の無人の駐車場にたむろするイノシシの群れを目にし、この増田所長の言葉の重みを痛感させられました。

原発の再稼働は被災地の復興、所在地のものづくりの発展に

東日本の復興を加速させるには、被災地の景気回復が第一、さらに復旧公共工事だけでなく、継続する産業を誘致して職を増やしていくことが必要です。アベノミクスの次の矢がでてこないことにイライラしていますが、まずは景気回復、その景気回復を大都市圏に集中させず、被災地、さらにサプライチェーンとして地方に拡大させていって欲しいと思います。被災した農業、漁業の復興支援とともに、職を増やしていくには安いエネルギー供給が前提になります。製造業の景気回復だけではなく、農業、漁業もの再建にも安いエネルギー供給が必要不可欠です。

トヨタOB、ハイブリッド屋の私としては、被災地区での製造業の期待の星として、トヨタの東日本地区での取り組みに注目しています。昨年車種別販売台数トップとなったトヨタ・アクアはトヨタ自動車東日本岩手工場、また昨年発売を開始したカローラハイブリッドは宮城大衡工場、このアクア・カローラハイブリッドに搭載する初代プリウス以来改良を続けた1NZ-FXEエンジンは宮城大和工場で生産しています。このハイブリッド車に搭載する電池もまたトヨタとパナソニックのジョイントベンチャー、プライム・アースEVエナジー株式会社の宮城工場で生産しており、昨年12月にはハイブリッド車の生産拡大により宮城工場での電池パック生産台数が累計100万台を突破したとのニュースリリースが発表されています。

さらに、アクアはプリウスCの名がつけられ、復旧なった仙台港からアメリカへと輸出され、またフランス工場で生産するヤリスハイブリッド用に電池パックなど、付加価値を高めた様々なハイブリッド部品がこれも仙台港から積み出されています。これらの構成部品もまた、現地生産比率が増えています。この生産拡大によって、職も増えているはずです。

物作りが日本を支え、すそのの広い自動車製造をコアとして、工場群を増やし、職を増やしていきます。東北地区でこの取り組みが着々と進行していることをトヨタOBとして誇らしく感じています。

この自動車製造、その部品製造には多量のエネルギーを消費します。トヨタ自動車東日本も省エネ、リニューアブルエネルギー利用にも積極的に取り組んでいるようですが、やはり安く、低CO2で、さらに安定したエネルギー供給がその発展を支えます。福島第二を除いても、東北には停止中の多くの原発があります。東日本大震災を乗り越えたこれら原発に、最悪ケース、最悪条件をクリアさせ、この大きな教訓をふまえた安全対策を施すことは可能と考えます。日本に多量の使用済み、使用中の核燃料棒が残っていることも目を反らせてはいけない不都合な真実、それを安定的に維持し、安全な後処理方法を生み出すことは、脱原発でも必要です。まさか、原発電力の一大需要地であった首都圏にその燃料棒を引き取るなどとは誰も言い出さないでしょう。

安全を確保したうえで、安定した稼働を続け、被災地、原発所在地ではこの原発稼働を前提に、原発特区として電力料金を大幅に下げるくらいのことを考えて欲しいと思います。ちなみに我が家は、3.11後の省エネを心がけて追いつかない高い電気料金を払っていますが、都市部に住む割増分のさらなる増加は覚悟しています。

筆者の出身は北海道ですが、ルーツは岩手、祖父は宮古の出身、私の小さいころに亡くなっていますが、祖母からは明治三陸津波の被災者だったと聞かされています。まだ、宮古を訪ねたことはありませんが、岩手各地の被災には胸が痛みます。岩手工場でのアクア生産は私にとっても希望の星、東北復興を加速ためにも安い、低CO2電力を使ったアクアの次なる進化を楽しみにしています。

プリウスの前身、G21プロジェクトとその次のG30活動

G21という符牒は、このブログの読者、またプリウス本をお読みのかた、トヨタの関係者や私の講演をお聞きの方なら記憶されているかもしれません。石油資源、地球温暖化問題が騒がれはじめた1992年ごろ、世界ではハイブリッド車プリウスの開発につながるいくつかの動きがありました

世の中では、地球温暖化を筆頭とする環境問題の深刻化が顕在化、この地球環境問題を議論する国連主催の第1回世界環境サミットがリオ(ブラジル)で開催されたのが1992年6月です。持続可能な開発、サステーナブルデベロプメントがキーワードでした。一方、米国カリフォルニアではロススモッグ解決のため、究極の自動車環境規制、LEV/ZEVを議論していた時期です。排気ガスを出さない自動車ZEV(ゼロエミッション自動車)の販売義務付けが議論されていました。

21世紀を間近にし、ちょうどトヨタの将来ビジョンが社内の各部署で議論されている最中でした。1993年春にこの議論をもとにまとめられた中長期ビジョンのタイトルが『調和ある成長:Harmonious Growth』 、その中核の一つが持続可能な自動車を目指すことを宣言した『トヨタ地球環境憲章』です。この中長期ビジョン、その中核となる地球環境宣言に沿い、トップからその実現に向かう業務改革、組織改革、さらに具体化のためのアクションが社内各部門への宿題として示されました。

 

ハイブリッド普及プロジェクト「G30」

われわれ技術開発部門が、この宿題としてスタートさせた研究プロジェクトの一つが、この社内コードG21、持続可能な自動車社会への一歩となるグローバル・セダンの探索プロジェクトです。1993年秋に少人数でスタートしたG21が周囲のあれよあれよとの間にハイブリッドを搭載するプリウスとなり、“21世紀に間に合いました”のキャッチコピーで1997年12月に発売を開始しました。この経緯は、いろいろなプリウス本に紹介されている通りです。

それから16年、昨年末にそのトヨタハイブリッド車累計販売台数が600万台を突破、持続可能な自動車への大きな一歩を踏み出すことができました。今日の話題は、このG21から今日の600万台への道のりの中にあったもう一つのマイルストーンG30を紹介したいと思います。

このG30は社内だけで通用するプロジェクトコードですが、当時ではプリウスにつながる車両開発プロジェクトのコードではありません。量産のスタートを切ったハイブリッド車の普及をめざすシナリオ策定と、それに対応する開発企画、車両企画、開発体制を提案する活動です。

初代の発売から2年半、モーター、発電機、電池、ハイブリッドシステム部品のほとんどを作り替えるシステムとしての大改良を行い、欧米での発売をスタートさせたのが2000年マイナーチェンジプロジェクトでした。そんな時期、これもトップ役員からハイブリッド車普及として次ぎは2005年30万台/年のシナリオ策定とその具体化プラン提案を指示されました。このシナリオ策定とその開発体制の仕組みを作り上げるのがG30 プロジェクトの役割でした。

プリウスのモデルチェンジ、さらにエスティマ、クラウンとそれぞれプリウスとは機構が違うハイブリッド開発をやりながら、普及戦略をたて具体化するのもお前の役割と事務リーダーを仰せつかりました。G21もプリウス本にあるようにとんでもない超短期開発、社内でもクレージー扱いもされましたが、技術を見極め、チャレンジし、安全に関わる品質に抜けがないようスタッフ一丸で必死に取り組んだ先にゴールがありました。

 

利益を出せるハイブリッドに

開発マネージャー、ビッグプロジェクトのリーダーだからといって、技術開発だけに集中していれば良いわけではありません。しかし、このG30はG21のようにハイブリッドの量産化に集中すれば良い話ではありませんでした。G21はあっという間でしたが、その最中は無我夢中で産みの苦しみのプロジェクト、そこから何度かとりあげたマーケットでの品質向上への取り組みで育ての苦しみも味わいましたが、このG30は世間の冷たい風にも当たりながらハイブリッドを大きく成長させるきっかけとなるステップでした。

当然ながら、まずは収益問題、欧米メーカートップが言った一台ごと、札束を付けて売っているとの状況からは脱出していましたが、初代、マイナーチェンジまでに使った先行開発投資、設備投資の回収まで入れた収益計画の具体化を求められたのもこのG30です。このプロセスでもいろいろなことを学びました。普及拡大には、先行投資分の回収を進めながら、さらに先の開発に投入する原資を確保していく必要があります。ハイブリッド車を増やすにはハイブリッド採用車種の拡大が必要、さらに開発要員の確保、人材育成、開発設備の増強などなどの手当も同時にやる必要がありました。一車種あたりの生産台数が増やせれば、コスト的には楽になりますが、営業部門がそれほど楽観的な台数を提示することはありません。当時、現在進行形だったまだまだ不良発生のおおかったマーケット不具合も、この高い不良率で算定した故障対策費が次ぎのコスト目標に上乗せさせられます。生産予定台数を多くすればするほどコストが下がる訳ではありませんが、少なすぎては開発投資分、設備投資分の回収分が積み上がり、台当たりのコスト増がどんどん大きくなってしまいます。

さらに、営業サイドからはハイブリッド分のコスト増に対し、厳しい販価査定が提示されました。そのギャップを埋めるのがコスト低減活動ですが、知恵を絞り、汗を流してギリギリ届きそうなチャレンジ目標を決めていくのもG30活動の重要部分でした。

普及に伴いハイブリッドにも様々な軋轢が生じてきた

途中経過をパスしてG30活動の顛末を述べると、2005年の30万台/年販売の目標達成はできませんでした。クラウンで採用したマイルドハイブリッドはもちろん、今はポピュラーになってきているアイドルストップまでハイブリッドの範疇に入れて達成シナリオを検討しましたがさすがにそのシナリオは取り下げました。当時、ハイブリッド路線と収益性に疑問を投げ抱えるような、コンペティターやメディアからの弾丸、矢もいっぱい飛んできていましたが、後ろからの弾丸、矢も降ってきたのがこのG30活動でした。

この活動をやりとげたから今の600万台があると思っています。遮二無二、勢いをつけたからやり遂げることができたと信じています。後ろからの弾丸や矢も、前に進むスピードを上げれば勢いが弱まり、さらに時代を切り拓くのは自分達と信じて開発に取り組んでいたスタッフ達の熱気もこれをはじき返す力になったと今になり懐かしく振り返っています。

結局は、G30活動で作り上げたシナリオではなく、この熱意ある開発スタッフ達が取り組んだ、次のプリウス、ハリアーハイブリッド、そしてアクアと続く、ハイブリッド車がこのシナリオを飛び越して、600万台へと発展させた原動力となりました。このG30とそのときの後ろからの弾丸や矢が降ってきた話は自分の墓石の中まで持ち込むつもりでいましたが、バブル崩壊からやっと次の成長へと舵をきった日本再生、アベノミクスの具体化はきれい事だけでは済みません。人間ドラマ、アゲンストであった当時の振り返りも必要と思いました。今が日本再生の21世紀全般の最後のチャンス、このチャンスを失した先に次のチャンスが巡ってくるかは解りません。このチャンスの後ろ髪を追っかけることにならないよう、このG30で学んだ教訓をお伝えしていきたいと思っています。乞うご期待ください。

制御系リコール多発

プリウス、フィットハイブリッド、その姉妹車ヴェゼルハイブリッドのパワートレーン制御系リコールの発表が相次いでいます。プリウスではアクセルペダル戻り不良による暴走問題と同時期におきたブレーキ効き不良を引き起こすABS制御系のリコールがまだ記憶に新しいところですが、またの大規模リコールとなってしまいました。フィット、ヴェゼルHVでは新開発7速 DCT(Dual Clutch Transmission)のクラッチ制御系不具合とのことで、昨年9月の販売開始から、この部分だけで3度目となるリコール発表です。

ハイブリッド以外の低燃費新技術リコール問題としては、VW、AUDI車が広く採用している7速DCTのクラッチ制御の不具合として、中国、日本で大規模なリコールを発表しています。タイプこそ違いますが、多段DCTクラッチ制御系不具合はフィット、ヴェゼルHVリコールと同じくクラッチ制御系の不具合です。

低燃費新技術ではありませんが、衝突防止自動ブレーキでも制御系リコールなど制御系不具合、リコールが発表されています。

また米国の様々な事業、商品の顧客満足度調査、コンサルティング会社J.D.パワー社が発表した2014年度の経年車信頼性調査レポート(2014 Vehicle Dependability Study)の中で、全体のスコアは15年ぶりとなる低いスコアを記録、その要因として、エンジンとトランスミッションの不具合が増加していることも要因と解説しています。

その中で、低燃費のためにおこなった4気筒ダウンサイジングエンジン車のスコアが低く、もたつき、加速不良、変速不良の指摘が増加しており、自動車メーカーは低燃費のためにこうした品質との妥協をしないように注意を払うべきと述べています。

J.D.POWERニュースリリースhttp://autos.jdpower.com/ratings/2014-Vehicle-Dependability-Study-Press-Release.htm

J.D.POWER社の信頼性調査レポートが指摘している、4気筒エンジン車の不具合では、リコール対象の不具合ばかりではなく、もたつき、加速不良、変速不良などドラビリ不具合の増加が指摘されていますが、これもその大部分は制御系の適合不良、制御ソフトの不具合と推察されます。低燃費技術としては、他に直噴、可変動弁系、弁停止、CVT、多段AT、多段DCT、アイドルストップ、回生など、いずれもコンピュータ制御とその適合が不可欠、自動低燃費運転をさせるために、ハイブリッドでなくとも信号仕掛けでクルマを走らせるアクセル・バイ・ワイヤ、ブレーキ・バイ・ワイヤ、ステア・バイ・ワイヤと制御系が果たす役割が急増し、さらにその適合作業で負われるようになってきていることも間違いありません。

リコールの多発には、以前に比べリコールとしての判定基準が厳しくなり、公表件数として増加していることもあるようですが、制御系が大規模化し開発段階での不具合摘出に抜けが多くない、また販売後の不具合についてもマーケットでの原因究明が難しくなりそのため対策スピードも遅れてしまい対象台数が拡大しているのではと推測しています。

私の現役時代にも適合不良、制御プログラムバグに起因する不具合は多く、適合の標準化、制御プログラムの構造化、標準化が何度も進められ、膨大なチェックリストが作られ、さらにエンジン、トランスミッション、ハイブリッド制御、モーター制御、電池制御といった機能別サブシステムごとにこれまたきめ細かいプログラム変更情報、仕様変更情報の連絡網がつくられ品質向上、不具合撲滅に取り組んでいました。

こうした取り組みは今でも、またトヨタだけではなく、各社とも進めており、不具合摘出、デバッギング用のツールも当時よりはもっともっと進化していると思いますが、それでも制御系不具合が多発しています。システム規模の拡大、その制御系の大規模化に、制御系ハード、ソフトの専門家が不足し、その人材育成が追いついていないことが不具合多発の背景にあるとの声も聞こえてきます。この意見も一理あるとは思いますが、ちょっと違う方向から不具合多発の背景にある懸念点に触れてみたいと思います。

この制御システ系、そのソフトウエア不具合は自動車だけではなく、飛行機、家電さらには鉄道、電力から銀行の電算システムにまで及んでいます。その不具合の拡大を招いているのは、制御システム、そのソフトウエアのジャンルを見えない、解らないと、理解する努力も近づくことすら敬遠してきた役員、マネージャー層にもあるように思います。トヨタだけとは思いませんが、解らないから制御系専門部署に任せっきりにし、そこはそこで手に負えなくなってから大手部品会社やアウトソーシング会社に丸投げとなり、制御がクルマ屋にとってブラックボックスとなっているのではと気になっています。

自動車会社の商品はクルマ、トヨタでは何度かこのブログで取り上げた車両主査制度が社長の代行役として商品機能、収益性からこうした信頼性品質など不具合の未然防止にいたるまで仕切って商品としてのクルマ開発を行ってきました。さらにその主査のクルマ作りを支えてきたのがエンジン、駆動、制動、シャシーといった専門機能部隊とは別にクルマ全体の商品性、走行機能、さらには信頼性、安全性を評価してきた、車両評価、走行評価スタッフ達です。車両主査自身が制御システムは解らないとして、専門部署に任せきりになり、車両主査からの制御系評価に対するフォロー、注文もないから車両評価のスタッフ達も見えない、解らないで評価の深入できない、やらないにこの問題の根があるのではと心配しています。制御系、そのソフトウエアが大規模、複雑になってきても、クルマの基本要素である『走る』『曲がる』『止まる』の安心、安全を、使用環境こそ世界では半端ではありませんが、クルマの、もちろん制御系の専門家でもない多くの人たちに提供する自動車メーカーの役割は20世紀の初めからこの21世紀の現在まで変わりはありません。

制御系の介在が多くなったとは言えクルマの走り、ドラビリ、さらには世界中のクルマの使い方、使われ方などの経験を駆使して、なにかしらわずかの車両挙動、反応、変化から適合不良、ソフトのバグなど制御システム不具合の兆候を検出できる高い能力を持った車両評価のプロ達は残っているはずです。

プリウスのハイブリッド開発では、制御システムやそのソフトウエア設計、さらに適合のエンジニア達が見つけ出せなかった不具合を見つけ出した車両評価のプロ達が活躍してくれました。その不具合兆候を見つけ出し、その再現方法を見つけ出せれば制御システムやソフト不具合の解決は簡単です。制御系の専門家、制御系適合のスタッフ達からは思いもよらない使い方、使われ方の中で見逃していた不具合が結構ありました。『走る』『曲がる』『止まる』に関わる異常挙動不具合は制御系にかかわらず即リコールですが、初代プリウスの開発では、制御システムの専門家達の不具合評価、デバッギング作業と並行してこうした車両評価のプロ達による意地悪に意地悪を重ねた評価、限界条件での評価を行うことによりマーケットに出してから不意打ちをくらった制御系不具合はおこさないですみました。それでも、ソフトウエアバグがゼロだった訳ではありません。何万台かの販売で、たった1台、それも1回だけのバグ不具合を発生させてしまい、人間がやる作業でバグゼロはこの規模になると実現はほぼ不可能、安全が確保できているならばマーケットで起こさないバグはバグではないと開き直っていました。リコール判断が厳しくなってきている現在、このような開き直りは見習って欲しくはありませんが、クルマ評価での意地悪試験、限界試験、ばらつき試験、その評価プロ達と制御システムスタッフとのデザインレビューによる未然防止の重要性も強調しておきたいと思います。

レジェンド葛西選手の銀メダル、スキージャンプとプリウスの思い出

葛西選手の銀メダルに感動

7度目の冬季オリンピックを41才で迎えた葛西選手が、ラージヒルジャンプでついに宣言通りの個人のメダルを獲得しました。わずかの差の銀は少し残念ですが、まさに有言実行、ジャンプ競技のどころかトップアスリートとしてのレジェンドと言ってもいいでしょう。

見ての通り、一つ間違えば大きな怪我を負いかねない競技を30年以上、それも世界の一線級として続けてきたことには敬服以外のなにものでもありません。私自身、札幌で生まれ育ち、実家から札幌オリンピックのラージヒルジャンプ台、大倉シャンツェまで歩いて30分、小さいころはそのままスキーで飛ばすと10分たらずで家までたどりつくことができました。

小学生の冬の遊びはまずジャンプ、近くの丘にスコップで雪を積み上げた小さなジャンプ台を仲間と作りその台を飛ぶところがスタート、徐々に大きな台に移っていき、その最後がラージヒルジャンプ台になります。隣の家のお兄さんが複合のオリンピック選手、近所から世界選手権、オリンピックで活躍したジャンプ選手がでるような地域です。

私自身、彼らと同じように小学生の低学年からジャンプをやり始めましたが、20メータクラスで頭から突っ込む大転倒をしてジャンプが怖くなり飛べなくなってしまい、その先には進めませんでした。とはいえ、近くの大倉シャンツェへは、度々ジャンプ競技会を見にいきました。

容易に想像がつくとは思いますがやはり危険な競技で、常に救急車が待機しており、風に煽られ転倒して救急車で運ばれる選手を何度も見ました。高校生の時、競技の整備を手伝わされ、大倉シャンツェ踏切台(カンテ部)の下から普通のスキーで滑り降りたことがありますが、その急斜度のランディングバーンを滑り降りるだけで足がすくむ恐怖の体験でした

プリウスの冬道テストコースはジャンプ場巡り

前置きが長くなってしまいましたが、今日のブログはレジェンド葛西選手とプリウスにあわせたタイトルにしましたが、プリウスをジャンプ台から飛ばせる話でも、またプリウスをレジェンドと図々しく対抗しようとする話でもありません。

札幌の中心街から西に見える大倉シャンツェは、中心部のテレビ塔から約6.5キロ、ちょっとした坂道を上がって競技場までむかう雪道はクルマの格好の試乗コースです。その周辺の住宅地は、私が暮らしていた当時からすっかり変わってしまいましたが、土地勘はある地域で、北海道に行くたびにプリウスの試乗コースとして走り回っていました。

ノーマルヒルジャンプ台の宮ノ森シャンツェにも近く、そこから市民スキー場がある藻岩山山麓へ抜けていく山道の登り降りもまた良い試乗コースです。今ではジャンプ台付近まで住宅地が広がっており、冬の雪道では4WDがほしくなる地域ですがFF、FRの2輪駆動車も使われています。プリウスがそのような走行環境でどうかを自分で試してみたくなり、何度かその周辺を走り回りました。

トヨタには北海道士別市の郊外に大きなテストコースがあり、寒冷地試験、整備された雪道の走行路もいろいろありますが、私自身は開発スタッフたちに頼んでもっぱら一般路の試乗ツアーでチューニング状況や問題点の説明を受けながら確認させてもらっていました。

初代プリウスでは、北海道の販売店からトラクション制御が効き過ぎて雪道のでこぼこにはまると脱出できないとの指摘があり、その確認や改良の相談が冬の試乗をやるようになったきっかけです。

時間がなかなかとれないので、スタッフたちにわがままを言い千歳空港や旭川空港まで試乗するプリウスで迎えにきてもらい、そこで合流。大抵は一泊二日で雪道を走り回り、スタッフたちと開発状況や試験状況の話も聞き、夜は海鮮料理とビールで懇親を深める冬の楽しみな出張でした。

こういった試乗も先輩たちに叩き込まれたトヨタウェイの現地、現物、現車主義、テストコースだけではなく、生活道路のクルマの使い方をお客様の目線で確認する方針を貫かせてもらいました。

もちろん、私自身は開発エンジニアであり、クルマ評価のプロではありません。我々の試乗と併せて、クルマ評価のプロの目で、現地、現物、現車での評価をしっかりやってもらい、このような機会にシステム制御スタッフと一緒に評価状況、課題を聞かせてもらう企画です。

試乗コースとして、大倉シャンツェ、宮ノ森シャンツェ周辺とともに、ロングツアーでは、札幌オリンピックアルペンの会場である手稲山、小樽の住宅地にある天狗山周辺、小樽から札幌郊外の定山渓に抜ける途中にある札幌国際スキー場、旭川拠点では旭岳の麓、勇駒別、十勝岳を望む美瑛、富良野から狩勝峠を抜け新得と、どういう訳かスキー場巡りといったコースが多かった印象です。

冬道からS-VSCが生まれた

もちろん業務出張ですからスキーをやったことは一度もありませんが、スキー場への登り、その下りは、絶好の試乗コースです。こうした試乗の中で、ハイブリッドシステムが担う駆動力のトラクションコントロールと回生制動とブレーキの協調制御の確認を通して、二代目プリウスに採用することになったS-VSC(Steering-Assisting Vehicle Stability Control)の開発につながっていきました。

低燃費、低カーボンで夏も、冬も安心、安全に、またストレスを感ずることなく運転そのものも楽しめるクルマをめざし続けてきました。初代、二代目、三代目プリウスと少しはこの目標に近づいていると思いますが、まだまだクルマとしてのレジェンドには程遠いと思い続けてきました。

次なる四代目は、エコ金メダルは当たり前、エコの看板を外したところでクルマの基本性能、その魅力を高めてくれると、これまで350万人のお客様の後押しもいただいてクルマとしてのレジェンドに一歩でも近づくことを期待しています。

2000年マイナーチェンジでのビッグチェンジ

今日は2000年5月に発売を開始した初代プリウスのマイナーチェンジのエピソードをご紹介します。車両としてはマイナーチェンジ、外形デザインに大きな変更はなく、初代初期型についていた車両前後バンパーの防振ゴム、通称カツブシがなくなり、これで見分けることができます。いまでもこの黒いカツブシバンパーの初代初期型プリウスとマイナーモデルを見かけるとその健気さと、大切に使っていただいているお客様への感謝で胸一杯になります。

1997年12月、なんとか『21世紀に間に合いました』とのキャッチコピーで国内販売に漕ぎ着けることができましたが、正直言ってすぐに欧米導入をする自信はありませんでした。米国、欧州での販売スタートはこの2000年のマイナーチェンジからでした。初代の発売時にもトップや広報サイドから欧米導入を検討するようにとの話がありましたが、国内で経験を積み、それをフィードバックするためにマイナーまで見送ってもらいました。
しかしこの合間をついたホンダの初代インサイトに北米初の量産ハイブリッド車の座を明け渡してしまったことは今も癪の種ですが、こうした新技術一番のり競争が技術進化を加速させることも確かです。

マイナーチェンジ

実質的にはフルモデルチェンジだった2000年マイナーチェンジ

北米、北欧の氷点下40℃からアリゾナ、ネバダの50℃近い気温、コロラド州コロラドスプリングスから登っていく標高4301メートルのパイクスピークは特別としても、デンバー付近では標高2500mを超える峠道はざらで、加えて通常の小型車でも時速150キロ程度で流れているドイツアウトバーン走行で危険を感じないで走るには力不足であることは明らかでした。アウトバーンももちろん平たん路だけではありません。時速150キロで流れる3%を超える坂道もあります。それすら世界の走行環境からはほんの一部、その普及への次のマイルストーンとしたのが、北米、欧州導入を目指すこのマイナーチェンジでした。

さらに信頼性、耐久性品質の確保には万全を期したつもりですが、クルマからハイブリッド、その構成部品のエンジンまですべて新規開発、これまで作ったこともない部品のオンパレードです。17年たった後に開き直ると新技術、新システム、新部品に故障はつきもの、路上故障で走れなくなるとお客様へとんでもないご迷惑をおかけしてしまいます。国内海外を問わずお客様にご迷惑をおかけすることには変わりはありませんが、国内ならば故障時の処置をスピードアップさせ、御免なさいで乗り切ろうと覚悟を決めました。

これも以前のブログで紹介しましたが、初代発売と同時にシステム開発評価のスタッフ達が、故障修理支援、原因究明、対策の特別チームを結成し、24時間以内の処置完了、不具合再発ゼロを合言葉に国内販売店からの連絡に即応し飛び回ってくれました。初期不具合の多発で多くのお客様にご迷惑をおかけしましたが、その後のスピーディーな対応でご迷惑をおかけしたお客様からも声援の声をいただき、日本ユーザーの暖かさをしみじみ感じた二年間でした。

欧米で通用する基本性能の確保と日本での経験、信頼性品質向上への取り組みのフィードバック、欧米のクルマの使い方を想定した設計見直しが必要と判断しました。クルマはマイナーチェンジですが、モーター、発電機、インバータ、電池などハイブリッド構成部品の90%以上をすべて作り直すハイブリッドシステムとしてはほぼフルモデルチェンジ規模の大変更を行ったのがこの2000年のマイナーチェンジです。

生産販売を行っている初代プリウスの少なくはない不具合調査と修理支援、さらに不具合原因の対策とその効果の確認をやりながら、同時にシステムとしてのビッグチェンジを行う作業を同じスタッフ達にやってもらいました。初代と同様の超短期、息のつけない、これもまた誰も過去に経験したことのない苦しい開発だった筈です。多くの専門スタッフがいたわけではありません。初代プリウス開発の途中から加わった若手が戦力になり、初代をやり遂げたスタッフ達とこれまた少数精鋭、やり遂げたことが、さらにその先の二代目プリウス、ハリアーハイブリッド、エスティマへとトヨタ・ハイブリッド・システム(THS)が発展していきました。その意味でも、このマイナーチェンジがそれからのTHS拡大のエポックであったように思います。

白紙で見なおしたフェールセーフ制御

この、マイナーでのビッグチェンジで今のTHSの発展につながる、ハイブリッドシステム制御系変更のトピックスをいくつか紹介したいと思います。

その一つが、システム故障時にクルマを安全に退避させ、他の部品への不具合の波及を防ぐ、フェールセーフ制御の見直しです。エンジンと電気モーターを使い分けて走らせるのがハイブリッドです。走る、止まる、曲がる、クルマの基本機能を動かすエネルギー、電力をマネージするのがハイブリッド制御系、マイナーでこれを全く白紙から作り直す作業を行いました。

この基本部分が、フェールセーフ系の再構築と故障診断判定制御です。初代の立ち上がりでは、ハイブリッドシステム故障、部品故障を検出し、それぞれのコンピューターから故障信号が送られてくると、エネルギー、駆動力、電力供給を止めるシステムシャットダウンを基本としていました。制動力、操舵力維持の最低限の電力供給を行い、惰行で回避してもらいクルマを止めるやりかたです。

走行駆動力、制動力、操舵力を保障できない故障の最後の手段がシステムダウンです。開発段階でトンネルを出た直後のシャットダウンで生きた心地がしなかったとのスタッフからの報告も受けていました。車線の多い道路の右折待機中のシャットダウンなどなど、走行中のシステムシャットダウン制御が決して安心、安全なやりかたではないことはもちろん判っていました。しかし、当初は正常、故障判定をしっかり行って残りの走行機能でできる限りの退避走行をさせるだけのシステム設計の詰めまではできず、電池が使える時のモーター走行以外はシャットダウンを基本とせざるを得ませんでした。

エンジン、電気モーターの二系統の駆動源を持つのがハイブリッドですので、故障判定さえしっかりやれれば故障していていない動力源を使って退避走行させる機能は従来車以上にやれます。しかし、故障か正常か、仮に正常と判定したとしてもどこまでそれを使って良いか、その判定は簡単ではありません。飛行機は二重系が原則、場合によっては三重系での多数決で判定することも重要部分ではやっていると聞かされました。

二重系ではどちらが正常かの判定はできません。また三重系や故障検出センサーを増やしては、部品点数を増やし複雑にした分、故障確率が増え信頼性はかえって低下してしまいかねません。さらに自動車ではそこまでのコストを掛けた設計では実用化は難しくなってしまうことも開発屋の本音です。初代は止む無く、最後の歯止めがシャットダウンでした。

ハイブリッドではサービスの見直しが必要だった

マイナーでは、このシャットダウン制御の根本からの見直しを行いました。様々な故障モードでクルマの挙動としてどうなるか、その挙動と退避走行制御への切り替えでドライバーのパニック操作を引き起こしてしまわないか、制御プログラムだけの変更と疑似信号でのシミュレーション実験やデバッギングで済ませる訳にはいきません。構成部品一点一点の故障モード解析とクルマでの挙動解析とその確認実験、エンジンやトランスミッション、モーター設計スタッフ達、それぞれの制御設計スタッフ達とのデザインレビューの繰り返し、殴り合いまではいかないまでもその故障判定条件、設計判定条件のレビューでは喧々諤々の論争と、実際のクルマを使った故障再現とその確認の繰り返し作業でした。

この作業を通し作り上げたのが、その後のTHSの基本となる、故障診断、フェールセーフ制御系です。車両、システム挙動からの故障判定、部品信号モニターからの故障判定、さらにこのシステムレビューとクルマ、システム、部品レベルまでの正常挙動、異常挙動分析と故障診断を行い、このマイナーチェンジからシステム故障時もすぐにシャットダウンではなく、駆動力を出せるかぎりは走らせる方式へと切り替えていくことができました。

このシステム挙動分析、確認試験の繰り返しにより作り上げたもう一つの機能が、故障修理、整備の時に使う故障診断、修理サービスツール、システムの構築です。初代の立ち上がりに故障修理支援の特別活動を行った理由の一つが、この新しいハイブリッドシステムの修理書、サービスツール開発まで手が回らず、さらに販売店サービスマンの故障診断、修理トレーニングも十分に行えなかったこともあります。欧米展開を見送った理由の一つもこの故障診断、サービスツールの整備をやってからとの判断がありました。

初代立ち上がりでは、販売店トップから販売店での修理、サービスが難しいとのお叱りもいただきましたが、何とか特別活動チームの頑張りと、こうした特別チームの支援により乗り切りました。マイナーでの故障現象の判定ばかりではなく、故障部位、故障部品まで特定する新しい故障診断システムを整備し、さらに日本だけではなく、欧米拠点でのサービスマントレーニングも充実させたことが、振り返るとTHS発展のもう一つのターニングポイントだったと思います。

このブログを書いている最中に三代目プリウスのモーター制御系リコールのニュースが飛び込んできました。非常に残念なことですが、初代、マイナー、二代目、三代目とここで取り上げたシステム制御の信頼性、品質向上に取り組んだ蓄積がまだまだ有る筈、190万台ものお客様にご迷惑をおかけしてしまったことを肝に銘じ、迅速、確実な対応を進めてくれるものと信じています。