「超小型モビリティ」は次世代モビリティ?

今回は代表が様々な原稿に追われている状況ですので、八重樫尚史が代打で書きます。その中には、このブログを読む皆さまの眼に届く予定のもののあり、遠くない内に詳細については発表できると思います。

さて今回は6/14に神奈川県で初めて車両認定が行われ、昨日公道走行が開始されたと報道された超小型車について書いていこうと思います。

今回登録され使用を開始した超小型車は日産自動車の『ニューモビリティコンセプト』と言う車両で、日産はこれまでも各所でこの車両を使用して実証試験等を行なっており、その際は公道走行のために軽自動車として登録し走行していました。今回のニュースは、国土交通省が今年始めに発表した認定制度を利用した初めての認証が行われ、それに則った公道走行が開始されたということになります。

国土交通省では新しい認証を「超小型モビリティ」と名前をつけています。冒頭に出した報道では「超小型車」と表記しており、またNHKでは「超小型電気自動車」と報じており、少し紛らわしいので、まずはこの辺りの整理をして行きましょう。

超小型モビリティとは

国交省の認定制度の文書を読むと、「超小型モビリティ」の対象車は

  1. 長さ、幅及び高さは軽自動車の規格内
  2. 乗車定員2人以下
  3. 定格出力8kW以下(内燃機関は125cc以下)
  4. 高速道路は走行しない

というもので、これに

  • 車幅1300mm以下のものは、ライト、ブレーキ、キーロックを2輪車基準とできる
  • 車速を30km/hに制限した車両は、衝突安全性能とシートベルトの装備・強度の基準緩和

を受けるとされています。

車幅1300mmという数字は軽自動車の車幅が1480mmですからこれと大差なく、「超小型モビリティ」の認定を求めるほぼ全ての車両がこの条項の適用を受けると思われます。なお、今回認定された日産の『ニューモビリティコンセプト』の車幅は1190mmです。速度の条項については逆にこれより小さな車両として「ミニカー」が存在し、こちらは排気量「50cc」以下で「1人乗り」なものの車検不要となっていますので、30km/hのリミッターを設置するよりもこちらの認定を取得するのに向うのではないでしょうか。

このように「超小型モビリティ」は「軽自動車」をベースに、それに機能制限を加えることで一部の緩和を行ったものです。車両認定についても、車両検査を行うのは「軽自動車検査協会」が行っています。昨年夏に導入計画が報じられてから、これほど迅速に試験導入が行えたのも、「軽自動車」の枠内で行ったからなのでしょう。

さてこの「超小型モビリティ」ですが、これが導入されると日本の小型4輪自動車としては、小さいほうから順に「ミニカー」「超小型モビリティ」「軽自動車」という車両種別が存在するようになります。(これら3つの比較についてはWikipediaの軽自動車の項目に対比表があります。)

この中で「超小型車」と呼ばれているものは「超小型モビリティ」「ミニカー」に相当するもので、実際トヨタ車体が販売する小型EV『コムス』は「ミニカー」として車両登録されています。「超小型車モビリティ」の制度は前提としてEVを置いている記述となってはいますが、内燃機関の場合の排気量も定めているようにEVに限定されたものではなく、「超小型EV」=「超小型モビリティ」ではないという点に注意が必要です。

ざっくり把握する方法としては2輪車の並びと比較して、「原動機付自転車(原付)」と「ミニカー」、「第二種原動機付自転車(原付二種)」と「超小型モビリティ」、「普通自動二輪」と「軽自動車」とすると憶えやすいかもしれません。なお、免許は「ミニカー」からすべて「普通自動車免許」が必要です。

「超小型モビリティ」って必要?

さてそのような「超小型モビリティ」ですが、国交省の導入促進についての資料ではこれを

「超小型モビリティは、交通の省エネルギー化に資するともに、高齢者を含むあらゆる世代に新たな地域の手軽な足を提供し生活・移動の質の向上をもたらす、少子高齢化時代の「新たなカテゴリー」の乗り物。」

と書いています。

私の率直な意見は「「超小型モビリティ」に相当する車両区分はあったほうが良い。ただし、これに期待を寄せるのは危険」というものです。さらに、国交省の書くような「高齢者を含むあらゆる世代に新たな地域の手軽な足を提供し生活・移動の質の向上」については、大きな疑問を持っています。

今月、認定された日産の『ニューモビリティコンセプト』は、昨年フランスをはじめとした欧州で発売されたルノー『Twizy』の兄弟車です。『Twizy』の登場は大きな話題となり、日本を含めた他国でも報じられ、今回の「超小型モビリティ」も車両区分の設置に関しても、1号車が『ニューモビリティコンセプト』となったように大きなインパクトを与えているのは間違いありません。

私は『ニューモビリティコンセプト』も『Twizy』も残念ながら実際に乗ったことがないので、車両としての評価は出来ないのですが、こうした新しいコンセプトの車両が登場している中で、国内でもそれを受容する体制を整えるということは必要なことです。ですので『ニューモビリティコンセプト』が「超小型モビリティ」として車両登録されたというのは、好ましく見ています。「あったほうが良い」というのはこういうことです。

しかしながら一方で「超小型モビリティ」という車両区分の新設に纏わる思惑等を考えると、両手を挙げてという気にはなれません。「期待を寄せるのは危険」という部分ですが、先ほども触れましたが「超小型モビリティ」はEVを想定としているのは明らかで、報道などでもそれを前提としたものが多く見受けられます。ただ私はEVを前提とするのであれば、これは現時点では商業的に成立しないと考えています。

商業的に成立しないと考える理由は単純で、車両価格の高さです。日産の『ニューモビリティコンセプト』は一般販売されている車両ではありませんが、『Twizy』の価格が€6,900~€8,490であることを考えると80万~100万円ということになります、こちらは「ミニカー」ですが『コムス』も70万円弱~ですから、これと比較すると安価に見えますが、この価格は最も安い軽自動車と同等となってしまいます。基本的に「超小型モビリティ」は、軽自動車の機能制限版ともいえますので、この価格帯での普及は難しいと言わざるをえません。

勿論、今後バッテリー価格が下がれば車両価格が安くなるという意見はあるかと思います。ただし、バッテリー価格が下がるという見通しについては、根拠が極めて薄いもしくは極度に楽観的なものが多いのが実態です。普通車EVについては現時点で結論を示す段階ではありませんが、これを支えるとされた自動車駆動用リチウム・イオン電池については、産業として非常に苦しい状況にあります。A123に代表されるアメリカのベンチャーの多くが破産に追い込まれ、全てを確認したわけではありませんが、世界的に見てもこの分野で利益を挙げている企業は現時点ではほぼ皆無なことは間違いありません。

また三菱自動車のEVとPHEVでの不具合などで表面化したような安全性についても課題が残り、自動車駆動用電池については次世代のリチウム・イオン電池開発が急務で、それを見越して多くの電池メーカーがアライアンスの再構築に追われている状況です。こうした中で短期的に、安全で品質の高い駆動用リチウム・イオン電池が安価に供給される見込みは薄いと言わざるをえません。

これはあまりにも穿った見方かもしれませんが、「超小型モビリティ」の素早い導入については、普通車EVの普及策が思ったほど進まない中で、EVに対して行った政策や投資の出先・回収のために「超小型モビリティ」を利用しようとしているように見えます。もし、そうなのだとすると、私にはそれは更に傷を拡げる結果となるようにしか思えません。

なおルノーの『Twizy』も、登場当初はフランスだけで月間販売が1,000台を超えるなど非常に好調な滑り出しを見せましたが、登場後の数ヶ月で販売台数は急激に下落し、今年5月のフランスでの販売台数は64台(年初からは250台)、欧州全域でも5月で376台と、今年に入ってから販売が奮っていない状況です。日本では発売時の好調のみが報じられ、その後の報道がほぼなされていないので、欧州で「大人気」として今でも触れられているのを散見しますが、この現状はしっかりと把握しておきたいものです。(ただし、『Twizy』が発売して1年で10,000台を超える販売をしたということは、このような車種としては非常に大きな成果であり、それは評価されるべきものです。)

アメリカでもゴルフ場等の「電動カート」から派生したような「Neighborhood Electric Vehicle(NEV)」という車両区分がありますが、クリーン自動車の情報サイトですらこれを法整備の不備と公道走行での危険性から「中古で購入してはいけない」とする記事を掲載するなど、シニア・コミュニティが多く普及環境の整っていると考えられているアメリカですらあまり期待はされてはいません。

「モビリティ」って何?

このように「超小型モビリティ」について書いて来ましたが、ぶっちゃけ、このネーミングはなんとかならないのでしょうか?

「お前らも「モビリティ」ってよく使っているじゃないか」と言われるかもしれませんが、一応、言い訳をさせていただくと、私は「モビリティ」を使用する場合には「自動車」「自転車」「徒歩」「公共交通機関」を含めた全体を示す意図で使用しています。「移動手段」「交通手段」としてもいいのですが、少し日本語として別の意味に捉えられそうなので、仕方なく「モビリティ」という言葉を使用しているというのが実状です。(「モビリティ」については昔このブログにも駄文を掲載しています。)

そのような考えの中で「超小型モビリティ」という名前を見ると、やはり変です。上で挙げたように(少なくとも私の定義では)「モビリティ」には、「徒歩」や「自転車」も含まれます。「超小型モビリティ」は「4輪自動車」の中では確かに「超小型」かもしれませんが、「モビリティ」全体でみると流石に「「超」小型」ではないでしょう。

細かい言葉の揚げ足を取っているかのようですが、このネーミングには意外と大きな問題が背後に隠れていると思います。それは私の使用している意味での「モビリティ」の捉え方と、国交省の「モビリティ」の捉え方が大きく違うということです。私の解釈がおかしいというのであれば笑い話ですむので良いのですが、国交省がこれを「超小型」と呼ぶということは「モビリティ」を「自動車」の枠組みの中でのみで考えているということの証明のような気もします。いや、実状としては「超小型車」というネーミングではインパクトにかけるから、横文字の「モビリティ」と付けて格好良くしてみたというのが最もありそうですが、それでもやはり「モビリティ」というものに対するスタンスが見て取れるのには変わりありません。

「モビリティ」を「自動車」の中だけで考えているのであれば、これは問題です。「自動車」には「2輪車」も含まれるかもしれませんが、それでも日常にあふれている「徒歩」「自転車」「車椅子」「シニアカー」等が抜け落ちているということだからです。

代表も先週のブログで「超小型EVだけではなく、ママチャリ、自転車、電動アシスト自転車、原付バイク、電動クルマ椅子、シニアカー含めた軽モビリティとして、道路環境整備を含めて取り組むべきものです。」と書いているように、今回の「超小型モビリティ」を考える際には、これらとの住み分けと共生をどのように図っていくのかというのが、最も議論しなければいけない部分です。特に「歩道」を何がどのように使用し、「車道」を何がどのように使用するのかという原則を確立しなければ、将来の道路がどのようにあるべきかを具体的に考えることもできなくなります。

ここで再確認をしますが国交省は「超小型モビリティ」を、「超小型モビリティは、交通の省エネルギー化に資するともに、高齢者を含むあらゆる世代に新たな地域の手軽な足を提供し生活・移動の質の向上をもたらす、少子高齢化時代の「新たなカテゴリー」の乗り物。」と書いています。

特に「高齢者を含むあらゆる世代」という箇所は下線を加えて強調しています。高齢者のモビリティということですと「シニアカー」がありますが、「シニアカー」には現状では多くの問題があることは議論の余地はないでしょう。「シニアカー」は「電動車いす」の一種とされ、基本的には歩道を走行するということになっていますが、歩道の整備がしっかりなされていない道では路肩を走らざるを得ず、一方歩道で使用していても衝突で損害賠償を請求された事例もあるなど、周辺の整備が進んでいません。個人的な体験でも、私の住んでいるマンションで、駐輪場で「シニアカー」を置けないかという申し出があったものの、スペースの問題で結局認められず、申し込みをされた方が購入を見送ったという事もありました。

一方で今回の「超小型モビリティ」は、高速道路を使用できないとはいえ速度は通常の自動車と同じで、「シニアカー」とは全く別のモビリティです。車道を走る既存の自動車との比較でも、地方などでは高齢者の方が軽自動車にもみじマークを付けて走ってらっしゃるのをみかけますが、「超小型モビリティ」の衝突安全性等は軽自動車かそれに劣るもので、どの点で「高齢者を含むあらゆる世代」に「適している」のか、全くわかりません。

本当に少子高齢化時代のモビリティを考えるのであれば、私は「シニアカー」について再検討する方がより建設的なのではないかと考えています。またそれをしっかりと行うことは、障害を負った方の「電動車いす」等の環境を整える事にも繋がりますし、一方では日本では公道での使用が全く出来ない「セグウェイ」等の個人向けモビリティを再検討することにもなる筈です。

超小型モビリティ」はEVに固執するな!

最後にまとめますと、「超小型モビリティ」について、私は(そのネーミングは別として)こうした車両区分を設置することには賛成です。しかし、これを導入・促進しようとする政策については異論を多く持っています。

まず次世代モビリティの中で、こうした車両が重要かというとそうは思えません。必要なのはモビリティ全体を根本的に再構築することです。今回は「シニアカー」のみを取り上げましたが、「自転車」や「2輪車」を含めて再構築が必要です。また更にその上に、日本の交通インフラそのものをどのようにしていくのかが最も重要です。

産業政策だとしても、EVに固執するのであればそれも上に挙げたように成功するとはとても思えません。また、これを推進することで技術育成が図れるかというと、マクロ的に見てそれを期待することは酷でしょう。(モーターやバッテリーの等の技術は、別に「超小型モビリティ」があるから促進されるというものではないでしょう。)

ただし何度も繰り返しますが、車両区分の設置には賛成です。期待したいのは車両価格を抑えた車両の登場です。125cc以下ということで運動性能は限られたものになりますが、大型スクーターの新車価格が60万円台なのを考えても、30~50万円で優れた車両が登場すれば、小さいながらもニーズはあるかもしれません。勿論、そうなるためにはEVに固執しては作れません、おそらくは2輪車から派生したような車両になるでしょう。

省エネやエコを考えるとEVというのは間違いです。例えばそうした車両が登場して普通車や軽自動車をある程度置き換えたのであれば、それは十分エコで省エネです。勿論EVでそれを達成できるのであれば、それは歓迎すべきことで、その時は見解の誤ちを認めて称賛させて頂きます。どんな形であれ、国交省・業界の思惑、メディア等の観測を超え、また私の想像すらを超えた車両が出てくることを心より期待しています。また、そうした「元気で」「生きのいい」製品でなければ、「クルマ離れ」しているとされる若者(私もまだ若いつもりですが)の心は捉えられないでしょう。

“「超小型モビリティ」は次世代モビリティ?” への 1 件のフィードバック

コメントは受け付けていません。